説明

無タンパク質での配偶子および胚の取扱培地製品ならびに培養培地製品

本願発明は生殖補助医療のための実質的に無タンパク質の細胞培養溶液およびそれらの使用方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ヒトの生殖と受精プログラムに特別化および至適化した無タンパク質培地(PFM)に関する。本明細書に記載の実質的に無タンパク質の培地製品は、特にヒトARTの適用に関係して、とりわけおよび特にプリオンを含む、タンパク質に結合する病原体の、不妊治療を受けている患者、生殖補助医療(ART)により受胎した新生児、およびこれら分野で勤める従事者への感染防止に有用である。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
従来の市販されているヒトのART手順のための胚培養培地は、ヒトの血液および組織源から得られたヒト血清アルブミン(HSA)を含む。いくつかの研究室では、同様に雌ウシの血液および組織源から得られたウシ血清アルブミン(BSA)もヒト胚培養手順のタンパク質源として使用されている(Loutradis et al., 1992; Quinn, 1994)。HSAを含む培地およびBSAを含む培地の効率は同様であると報告された(Staessen et al., 1998)。ドナー(ヒトまたはウシ)から得られたタンパク質の培養培地での使用は、受胎補助治療を受けている患者へ病気を伝染する可能性を有する。マウス、ウサギ、および霊長類用の合成培地が近年報告されたが(Spindle, 1995; Li et al., 1996; Schramm and Bavister, 1996)、卵母細胞の収集から始まり、続いて精子洗浄、媒精、卵割胚期までの受精、および最終的な胚移植までの(添加したタンパク質もしくはアルブミン、または動物もしくはヒト由来のタンパク質抽出物を欠く)既知組成培養系での、生存可能なヒト胚の産生は記載されていない。受精用の精子は、依然として血清タンパク質を含む培地で調製されていたため、ヒトへの適用のための既知組成無タンパク質培地(PFM)の以前の主張(previous claims)は、実際には本当の無タンパク質ではなかった(Mohr & Trounson, 1986; Serta and Kiessling 1997 (Abst); Parinaud et al. 1999)。したがって、完全に無タンパク質であるART手順のための培地は、今までに記載されていない。
【0003】
潜在的に有害なドナータンパク質の使用を避けることで生殖補助治療を受けている患者の安全を保証するために、生存可能なヒトの初期卵割期胚の産生に使用する合成培地を利用可能にすることが、当該技術分野で必要とされている。特にヒトの後天性免疫不全症候群(AIDS)および肝炎などのウイルス性疾患、あるいはプリオンによって感染するクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、あるいは血液由来産物中の他の病原性疾患の感染可能性に関する懸念は、世界的なARTの分野における多くの医療サービスの提供者を、胚の培養および取り扱い手順のためのドナータンパク質の代替物の探求へと導いた。
【0004】
致死性のウイルス性疾患(AIDS)の血液由来産物を介する血友病患者への感染は、十分に実証されている(例えば Craven et al., 1997, Med. Sci. Law 37: 215-227; Keshavjee et al., 2001, Soc. Sci. Med. 53: 1081-1094; Weinberg et al., 2002, Ann. Intern. Med. 136: 312-319; Evatt, 2006, Semin. Hematol. 43: S4-9参照)。下垂体から抽出されたヒト成長ホルモンは、ヒトへCJDを感染させる能力があり(Esmonde et al., 1994)、ヒトゴナドトロピンの注入も、人から人へCJDを感染させることが可能であることがわかった(CDC, 1985)。(CJDプリオンの力価は血液中では低いが、)CJDは血液を介して感染可能である(Heye et al., 1994)。過去に、B型肝炎ウイルスで汚染された貯蔵血清を含む培地で培養した胚を受け取り、B型肝炎の蔓延が約200人の体外受精(IVF)患者で起きた(van Os et al., 1991)。近年、科学界は胚の培養および取り扱いで使用した培養培地の市販製剤が、後にCJDで死亡した人間によって提供されたアルブミンで汚染されているかもしれないことを、患者に知らせることのジレンマに直面した(Kemmann, 1998)。
【0005】
無タンパク質培地で、接合子期および卵割期からのマウス胚盤胞発生の報告が多数ある。最も初期の報告には、高分子量コロイドであるポリビニルピロリドン(PVP)を潤滑剤および培地の粘性を増加させる目的で使用したBrinster (1965)およびCholewaとWhitten (1970)の報告が含まれる。この研究に続いて、他の多くの研究者がマウスと同様に他の哺乳類の胚を、無タンパク質培地で培養することに成功した(Dandekar and Glass, 1990; Spindle, 1995; Li et al., 1996; Schramm and Bavister, 1996)。近年、PVPに加えて、ポリビニルアルコール(PVA)(Bavister, 1995)もまた培養培地中の血清タンパク質との置き換えに使用された。例えば、Biggers et al. (1997)は、ウシ血清アルブミン(BSA)をポリビニルアルコール(PVA)および/またはアミノ酸で置き換え、そのマウス受精卵の発生への効果について検討した。彼らは、PVAはマウス胚培養培地では完全にはBSAと置換できないことを観察した。PVAの効果は、胚盤胞発生率においてはBSAより少しだけ小さかったが、部分的な孵化率(rate of partial hatching)では著しく小さかった。PVAでのBSAの置き換えは全体の応答を低下させたが、大きな攪乱は生じなかった。
【0006】
多くの生物学的役割に加えて、血清タンパク質は培養培地での潤滑特性および粘性などの有用な物理的特質を与える。培養培地の増加した粘性および潤滑特性は、胚の取り扱いおよび操作を容易にし、培養ディッシュの壁や胚移植カテーテルへの胚の付着防止に必要である。PVPおよびPVAを組み込むことは、単に血清タンパク質の物理的特質を複製するのに役立つだけである。しかしながら、PVPおよびPVAは固定された窒素の供給源ではなく、タンパク質の様々な生物学的役割は果たさない。加えて、PVPおよびPVAの催奇形性は十分に調べられてなく、ヒトの治療的生殖補助での使用に問題がある(Gardner and Lane, 1998a)。
【0007】
最も最近ではSerta et al. (1997) およびParinaud et al. (1998a)などの複数の研究者が、生存可能なヒト胚を無タンパク質培養系で産生することを試みた。しかしながら、Sertaと共同研究者ら(1997)は、(後の培養は無タンパク質培地で行われたが、)媒精用の精子をBSAのカラムを通してスイムダウンによって調製した。これら研究者は、31%(n=45)の妊娠率を達成し、そのうち数名は正常の出生児を満期出産するまでになった。Parinaud et al. (1998a)は、媒精を無タンパク質培地で行い、無タンパク質培地で調製した精子での受精を達成した。しかしながら、得られた接合体はBM1培地で培養され、この引用文献はBM1培地がタンパク質を含有しているかどうか特定していなかったが、同グループの以前の出版物ではBM1培地は1%のHSAを含んでいることを提示していた(Parinaud et al., 1998b)。
【0008】
幾人かの研究者は、単一の抗酸化物質およびEDTAなどのキレーター(Mehta and Kiessling, 1990; Serta et al., 1997)での血清タンパク質の置換は、マウスおよびヒトでの受精および生存可能な胚の卵割を損なわないことを示した。しかしながら、Serta et al. (1997)は、胚移植カテーテルは無タンパク質培地で大規模にすすがれることを提示し、これは胚が胚移植カテーテルの内壁に付着する傾向にあることを暗示している。血清タンパク質は、培養培地中のpHを維持する役割も持っている(Moessner et al., 1993)。生物システムでの栄養素としての役割に加えて、タンパク質は連鎖破壊型抗酸化物質および金属イオンのキレーターなどの他の多くの役割を有している(Barber, 1961; Vidlakova et al., 1972; Wayner et al., 1987)。
【0009】
アルブミンおよび血漿タンパク質の生理学的機能は一般的に十分に実証されている。膜の過酸化を防止するアルブミンの役割は、膜の安定性における直接的な役割を示している。それはキャピラリー膜透過性および浸透圧調整に関与している。アルブミンは、血漿中の全コロイド浸透圧の80%を供給する。アルブミンは二酸化炭素の輸送に関与し、pHバッファーとして作用する。アルブミンは、血漿の非炭酸水素バッファー値の最も大きな部分(95%)を占める。タンパク質はまた、エネルギー源としての役割も持っている。脱アミノ化アラニンはピルビン酸であり、アセチルCoAまたはグルコースやグリコーゲンのいずれかに変換可能である。アルブミンは脂質の可溶化を補助し得、ホルモン、ビタミンおよび金属を輸送する。それは、これら成分の放出および利用のためのリザーバーとして役立っている。
【0010】
したがって、培養培地の血清アルブミンを置換する試みは、これらのインビボでの役割と、インビトロでの胚の取り扱いおよび操作に有用な物理的特質とを考慮に入れるべきである。単一の成分では血清タンパク質のすべての機能は満たさないであろう。
多くの動物種の発生を補助する無タンパク質培地が以前に記載されたが、かかる無タンパク質培地がヒトで成功裡に使用されたことはない。また、かかる培地がヒトの胚発生を補助する、または至適であるとも推定できなかった。したがって、特にヒトのARTおよびIVFに適応する、定義された無タンパク質成育培地についての明確な必要性が存在する。
【0011】
[関連技術の背景]
特にげっ歯類(マウス、ラット、モルモットなど)由来の細胞である哺乳動物細胞の治療および培養用であるが、ヒトの体外受精用の受精、胚発生、および妊娠用でもある既知の推定的な「無タンパク質」培地が存在する。Caro et al.はヒトへの適用のためのかかる「無タンパク質培地」の一つを記載した。しかしながらタンパク質は、それなくしては精子が卵子を貫通および/または受精する能力を獲得しない受精能獲得の誘導に必要であるので、彼らは精子調製培地中のタンパク質の必要性を克服することはできなかった。したがって、Caroと共同研究者らの培地系は、完全に無タンパク質ではない。同様に、Serta et al. (1997; abstract)およびParinaud et al. (1998a, abstract; 1999)もまた、ヒトのART用の「無タンパク質」培地を記載したが、彼ら以前のCaro et al. (1986)のように、培養系の少なくとも1つの段階でタンパク質を使用した。
【0012】
これら引用文献に記載のように、添加したタンパク質を含有する培地で事前に調製された精子を洗浄することは、特にウイルスおよびプリオンの感染体を完全な確実性をもって除去しない。加えて、このことは精子を不必要なストレス性の洗浄条件に曝し、マンパワーおよび資源の過剰な要求を課すことになり得るため、不利益でもある。
【0013】
IVFと関連せず、哺乳類細胞、特にヒト細胞の成育用「無タンパク質」培地が、とりわけKovar et al., 1987, Biotechnology Letters, vol. 9 no. 4, p. 259-264 “Iron Compounds at high Concentrations Enable Hybridoma Growth in a Protein-free Medium”、Keen, 1995, Cytotechnology, vol. 17: 193-202 “The culture of rat myeloma and rat hybridoma cells in a protein-free medium”、Stoll et al., 1996, J. Biotechnology, vol. 45, p. 111-123 “Systematic improvement of a chemically defined protein-free medium for hybridoma growth and monoclonal antibody production.”で開示された。この研究は、特にモノクローナル抗体生産に関し、かかる培地をIVFまたはART使用に適応することを開示していない。ヒトのIVF手順に適応または適合しないが、無タンパク質成育培地を開示する他の出版物は、Zang et al., 1995, Biotechnology, vol. 13, p. 389-392, “Production of Recombinant Proteins in Chinese Hamster Ovary Cells Using A Protein-Free Cell Culture Medium”; and International patent application Publication no. WO 2005/120576 A2である。
【発明の概要】
【0014】
[発明の概要]
本願発明は、ART手順を用いた低妊孕性(sub-fertility)および不妊性の治療および緩和における、ヒト卵子の回収(i.洗浄培地)、精子の取り扱いおよび貯蔵(ii.配偶子取り扱い培地)、ヒト卵子の受精(iii.胚培養培地)、配偶子および胚の取り扱い(iv.配偶子および胚取り扱い培地)、および同様に、ヒトへの適用のための、得られた接合体の培養液(v.胚培養培地)での1〜2の卵割周期を通じた発生のための、新規の無タンパク質胚培養培地調合物に関する。本願発明は、上記すべての新規培地溶液をその代替物/培地として置き換えおよび/または使用することができる単一培地溶液の処方を含む。本発明の実質的に無タンパク質の培地は、同発明者によって以前に報告された(そこではART−7およびART−7bシリーズで呼ばれる)無タンパク質培地とは異なる(Ali, 1997; Ali et al., 2000)。以前の報告では、発明者は3つの前駆培地、すなわちART−1、ART−2およびART−3の処方に至った系統的な研究を記載した。同報告で、発明者は実質的に無タンパク質の培地シリーズであるART−7およびART−7bが、ART−1からどのように発展したかを記載した。臨床妊娠を達成するために、実質的に無タンパク質のART−7およびART−7b培地シリーズ中で卵細胞質内精子注入法(ICSI)によって産生した胚が、39歳以下の女性21人中11人(52.4%)の治療に成功裡に使用された。ART−1、ART−7およびART−7b培地シリーズの処方は、開示されていない。本願発明はART−3前駆培地とは異なるが、それから調合された実質的に無タンパク質の培地を提供する。組成ではなく、ART−3前駆培地の開発が発明者によって記載されている(Ali,1997; Ali et al., 2000)。
【0015】
本願発明の例示的な態様では、一連の実質的に無タンパク質の培地が特別に開示され、本明細書ではPFM−11シリーズと名付けられている。これら培地は、配偶子および胚を害し得、ART治療を受けている患者、かかる治療によって受胎した新生児およびART治療手順に関与する医療従事者へ、現在知られているおよびこれまでに知られていない致命的な病気を潜在的に感染する可能性がある潜在的に有害な不均一の生物学的成分を欠く、均一の組成であるということだけでなく、体外受精技術および方法を管理する厳密な新基準および新規制に適合するという特別な利点を有する。
【0016】
本願発明による実質的に無タンパク質の培地調合物の完全に定義された性質は、従前は現在利用可能な胚培養培地調合物の未定義な性質および不均一な組成のために阻まれていた着床前胚の代謝の研究を促進するのにも有用である。継続的超微小滴(continuous ultramicrodroplet、cUMD)培養法を用いて、これら実質的無タンパク質培地(PFM)シリーズで産生したヒト2日胚の品質は、血清タンパク質を含有する市販のコントロール培地調合物で発生した胚に対し統計学的に遜色がないか、またはより優れていた。PFM培地のヒト精子に対する毒性はなかった。通常のIVFおよび卵細胞質内精子注入法(ICSI)によるヒト胚の受精および続く発生は、コントロールと比較して遜色がなかった。
【0017】
本発明の実質的に無タンパク質の培地は、実質的に無タンパク質のヒト胚培養および取り扱い培地としての使用にも適しており、タンパク質結合性の疾患(protein-bound diseases)が患者および新生児に感染しないことを保証する。本発明の実質的に無タンパク質の培地は、有効性を失うことなく2年間まで−20℃で冷凍保存可能である。
【0018】
本願発明は、培養系において添加ドナータンパク質の必要性を成功裡に克服し、卵子回収から始まり、精子調製、媒精、受精、得られた胚の培養および胚移植までの、実質的に無タンパク質の培地製品を利用するヒトのART適用のための、実質的に無タンパク質の培地系を提供する。この特徴は、手順中のいくつかのところでタンパク質を含有する培地製品を利用したために完全に無タンパク質ではない以前に記載の「無タンパク質」培養系から、本発明の培地を有利に区別する。それゆえに、これら従来の培養培地は感染病原体に汚染される可能性があり、何らかの規制上の制約に直面し得る。本願発明の多様な成分の組成、範囲、好ましい範囲および特定の仕様が、本明細書に開示される。
【0019】
本願発明は、インビボおよびインビトロにおけるタンパク質の多様な役割を部分的に置換できるアミノ酸、抗酸化物質およびキレーター、オスモライト、ビタミン、栄養素ならびに代替エネルギー源などの個々の成分の効果、耐性および至適レベルの決定に関する研究の産物であり、ドナー血清タンパク質を含まない本発明の多様な無タンパク質の取り扱い培地(例えば、精子および卵母細胞取り扱い培地ならびにICSI培地)および胚培養培地中のタンパク質の機能を例証する。記述成分の至適濃度は、多くの胚培養培地を調合するのに利用された。続いて、至適な胚発生および著しく高い胚盤胞の孵化率を示したこれら培地の最高のものが同定され、さらに添加血清タンパク質の非存在下でヒト胚発生を補助するために洗練された。本発明の実質的に無タンパク質の培地は、同培地で調製した精子でヒト卵母細胞の受精を補助することが可能である。得られた接合体は、発生可能な初期卵割期ヒト胚を形成するように、引き続き実質的に無タンパク質の培地で発生させた。これら胚の移植は、正常な妊娠および出生をもたらした。
【0020】
したがって、本願発明はIVF/ART手順の全過程(卵子回収、精子調製、媒精、受精、得られた胚の培養および胚移植)において有用で、培養系において添加タンパク質の必要性を克服する培地を成功裡に提供する。
【0021】
[発明のある態様の詳細な記載]
本願発明は、タンパク質またはタンパク質様成分を欠く、胚の取り扱いおよび培養培地と一般的に呼ばれる一連の栄養溶液を提供する。これら培地は、ヒト卵子の受精および続く2〜6日までの体外インビトロでの受精卵の発生に有用である。これら栄養溶液は、「胚培養培地」と呼ばれる。IVFおよびARTに加えて、実質的に無タンパク質である栄養分の成育培地の使用が有利であると思われる他の方法論および技術には、幹細胞の技術および治療、細胞/組織再生および移植治療手順が含まれる。当業者は、かかる使用のために本明細書に係る培地の適応方法を理解するだろう。
【0022】
以下のさらなる詳細に開示するように、本発明の実質的に無タンパク質の培地のヒト配偶子および胚についての使用は、IVFおよびARTの有効性を増加した。例えば、現在利用可能なタンパク質含有の胚培地と比較した場合(全年齢群を合わせて33%の妊娠、Ali, 2004で引用)、実質的に無タンパク質の(PFM−11)培地で、通常のIVFの使用により得られた臨床妊娠率は、全年齢群では50%(28人中14人)にまで、そして40歳未満の女性では53.8%(26人中14人)にまで増加する。本発明の実質的に無タンパク質の培地でのICSI臨床妊娠率は、同様に全年齢群では46.2%(26人中12人)にまで、そして40歳未満の女性では54.5%(22人中12人)にまで増加する。この差は、本発明の実質的に無タンパク質の培地にとって良い方向に統計学的に有意であり、本発明の実質的に無タンパク質の培地は、現在市場で入手可能な市販のタンパク質含有培地と少なくとも同等である(および優位になり得る)ことを示している。PFM−11培地で、通常のIVFで産生した胚由来の出生児数は12であり、ICSIでは12であった。本発明のPFM−11で産生した胚由来の出生児は、明らかに正常で、知的で、口数が多くおよび活発である(親の報告による)。これら統計学的データは、かかる出生をした子供の少なくとも24のサンプルから作成された。
【0023】
本明細書で使用されるように、「無タンパク質」、「本質的に無タンパク質」および「実質的に無タンパク質」の用語は、培地が非タンパク質含有成分を使用して調製されたこと(本明細書中さらに詳細に記載される)、およびタンパク質またはタンパク質含有成分が培地に添加されなかったことを意味するように意図している。
本願発明の例示的な態様には、PFM−11シリーズと名付けられた一連の実質的に無タンパク質の培地が含まれる。これら培地シリーズは、すなわち、
1.実質的に無タンパク質の洗浄培地(Substantially Protein-Free Flushing Medium)
2.実質的に無タンパク質の配偶子(精子)取り扱い培地(Substantially Protein-Free Gamete (Sperm) Handling Medium)
3.実質的に無タンパク質の配偶子(卵母細胞/胚)取り扱い培地(Substantially Protein-Free Gamete (Oocyte/Embryo) Handling medium)
4.実質的に無タンパク質の胚培養培地(Substantially Protein-Free Embryo Culture Medium)
の特別な培地製品の範囲を有する。
【0024】
これら培地は以下に説明される方法に従って使用され、これら培地の使用を例証することを目的とするが、とりわけ当業者に知られているIVFまたはARTの方法での培地の付加的使用に限定するものではない。本明細書に説明された実験での本発明の培地の開発において、各手順は通常のタンパク質含有培地および本発明の例示的なPFMを使用して、平行して行われた。
【0025】
ヒト精子調製
男性患者は自慰行為によってヒト精液を産生した。精子は標準的なスイムアップ技法によって、および時に密度勾配遠心で調製した。密度勾配手順では、回収したペレットは2度洗浄し、培養培地に再懸濁した。精子調製物は、適当な試験またはコントロール培地を使用して作製した。具体的には、ICSIまたはIVF用の精子は、タンパク質欠乏の胚発生への効果実験のために、実質的に無タンパク質の(PFM−11)培地で調製した。収集した精子は使用まで、37℃、気体COが5%の気相下でインキュベートした。
【0026】
卵巣刺激および卵母細胞回収
卵巣刺激は、中黄体期から始まり、月経または下方制御が達成されるまで、ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(Buserelin; Suprefact; Hoescht, Frankfurt, Germany)を皮下注入して誘導した。下方制御は子宮内膜厚が4mmまたはそれ以下になった場合、および血中のエストラジオール、プロゲステロンおよびLHレベルがベースライン値に達した場合に達成されたとみなした。卵胞刺激ホルモン(FSH; Metrodin; Serono, Rome, Italy)は、卵胞の発育(recruitment)が開始するように3日間注入投与した。その後、ヒト閉経期ゴナドトロピン(Pergonal 500; Serono, Rome, Italy)を、卵胞発生を刺激する患者の応答に従って投与した。排卵は、卵胞の大きさが16mmまたはそれ以上に達した後、10,000IUのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG; Pregnyl; Organon, Oss, Holland)の注入によって誘導した。卵母細胞回収(OR)は、超音波ガイドの膣吸引により36時間後に行った。
【0027】
媒精および培養技法
体外受精(IVF)
卵母細胞は、平衡化および胚試験したミネラルオイル(M8410, Sigma Chemicals, and USA)下、平衡化した培養培地の微小滴中100,000/mL濃度の運動性のある精子で個別に授精した。授精した卵母細胞は、37℃、気体COが5%の空気のもとで培養した。 翌朝、卵母細胞は裸化ピペット(Stripper(登録商標), MidAtlantic Diagnostics, USA)で裸化した。
【0028】
卵細胞質内精子注入法(ICSI)
代替手順(例えば、ヒトの男性要因の低妊孕率の克服に使用される)において、ICSIが行われる。卵母細胞は、ヒアルロニダーゼ溶液(80 IU/mL; Cat No. 10110010, Medi-Cult A/S, Lerso Parkalle 42, 2100 Copenhagen, Denmark)に30秒間曝してICSI用に調製し、それから平衡化したMedi-CultTMまたは本発明の実質的に無タンパク質の培地中に移した。ヒト卵母細胞は、37℃、気体COが5%の気相下で、培養培地中において5〜7分間インキュベートし、それから裸化ピペット(ART No.1670, International Medical Products BV, Zutphen, Holland)で裸化した。裸化したヒト卵母細胞は洗浄し、最終的にはさらに30〜60分間培養培地中でインキュベートした。
【0029】
顕微操作には市販のICSIピペットを使用した(Injection Needles, Cat No.130340B; Holding pipette, Cat No. 13030013; Laboratoire CCD, 60 Rue Pierre Charron, 75008 Paris, France or Injection needle, Cat. No.10-MIC; holding pipette, Cat. No. l0-MPH-120; Humagen, Charlottesville, Virginia 22911, USA)。PVP(Cat No. 1089001, Medi-Cult A/S, Denmark)の超微小滴5μLを、ペトリディッシュ(Cat No. 1006, Falcon Plastics, Becton Dickinson, Rutherford, New Jersey, 07070, USA)の中心に薄く広げた。広げたPVPは最大で5つまでの、HEPES緩衝のIVF培地(Gamete-1009 Scandinavian IVF Sciences AB, Gothenberg, Sweden) 10μLの微小滴で取り囲んだ。微小滴は、平衡化および胚試験したミネラルオイル(M8410, Sigma Chemicals, USA)で覆った。(1〜2μLの)精子調製物は、広げたPVPの中心に導入した。成熟した卵母細胞のICSIは、(例えばPalermo et al., 1992に係る)従来法で行った。
【0030】
超微小滴培養
培養培地の超微小滴(UMD、3〜7のヒト胚培養には1.5〜2μL)は、平衡化したミネラルオイルをあらかじめ入れた4ウェルディッシュ中で作った。ディッシュは、37℃、気体COが5%の気相下でインキュベートした。予備実験では、培地は平衡化した培養培地を用いて、精密に引き延ばされたパスツールピペットで毎日交換したが(UMD技法)、後の実験では3日培養まで交換しなかった(cUMDまたは継続的UMD)。
【0031】
受精の判定
受精はICSIまたはIVF後、18時間〜20時間で判定した。卵母細胞は、2つの異なる前核が見えたときに受精したとみなされた。受精した卵母細胞は、37℃、気体COが5%の空気のもとで、平衡化した培地の微小滴または超微小滴中で培養した。卵割および胚の品質は、24時間後評価した。
【0032】
接合体停止率
このパラメーターは、本発明による培養培地が1細胞期で発生阻止を起こすかどうかを判定するのに利用した。培地の有効性は、このアッセイを使用して判定できる。1細胞期での発生阻止の割合がより高いことは、培地が欠乏しているまたは有効性がより低いことを示唆するだろう。
【0033】
2日卵割胚の品質判定
2日胚の胚品質を判定するために、2つのパラメーター、すなわち平均卵割球スコアおよび平均胚グレードを使用した。これらは、以下のように決定される。
(i)平均卵割球スコア=卵割球の合計数/胚の合計数
(ii)平均胚グレード=胚グレードの合計/胚の合計数
【0034】
ほとんどの健康なヒト2日胚は、一般的に4細胞期を達成することから、平均卵割球スコア(2〜6の範囲)が4およびそれ以上が良好とみなされた。胚は数字1が低品質を示して4が高品質を示す、1〜4のスケールに従ってグレードした。最低3人(しかし好ましくは4人)の研究室の職員によって、胚をまとめてグレードした。加えて、卵割期胚の発生率における差を確証するために、他の2つのパラメーターを含めた。これらは、ヒトの研究における2日培養での、(i)4細胞期またはそれ以上の胚の割合、および(ii)グレード3およびそれ以上の胚の割合である。
【0035】
培地処方
本願発明の例示的な実質的に無タンパク質の培地の処方は、以下の通りである。アルブミンは、固定された窒素および栄養素の供給源、抗酸化物質および膜安定性を含む他の多くの役割を持つことで知られている。したがって、本発明の実質的に無タンパク質の培地は、アルブミンを培養物中でアルブミンの機能を個々にまたは集団的に行う他の培地成分で置換した。これら目的で使用される個々の胚培養培地の成分は、アミノ酸(アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、シスチン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、タウリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、セリンを限定することなく含む)、抗酸化物質およびキレーター(例えば、EDTA、還元型グルタチオン、トコフェロールなど)、代替エネルギー源(フルクトース、グルタミン、ピルビン酸ナトリウムなど)、オスモライト(マンニトールおよびミオイノシトールを含む)、ビタミン(アスコルビン酸、シアノコバラミン、葉酸、トコフェロールなど)、および元素鉄を含む。
【0036】
最も高い胚盤胞発生を支持する個々の成分の濃度が、至適とみなされた。本願発明の開発において、3つの培地(ART−1、ART−2およびART−3)が調合された。以前に発明者は、培養培地ART−1から(Ali, 1997; Ali et al., 2000)、実質的に無タンパク質の培地ART−7およびART−7bシリーズを調合するために着手した多様な実験を記載した。本発明のPFM−11無タンパク質培地シリーズは、培養培地ART−3(Ali, 1997; Ali et al., 2000)から調合された。
PFM−11シリーズの多様な培地製品の最終調合物を、以下に記載の表に示す。本明細書に記載するように、これら培地調製物のHEPESおよび炭酸水素塩の濃度は変動する。
【0037】
本発明の実質的無タンパク質培地は、ミネラル塩、アミノ酸、抗酸化物質、抗体、エネルギー成分、およびバッファー成分(CO補充条件下での培養のためのHEPESおよび炭酸水素塩)を含み、市販のタンパク質含有培地と似ているがその詳細において異なる。本発明の実質的に無タンパク質の培地は、独自に巨大分子種(メチルセルロースおよび関連するポリマー)、および任意に代謝されない糖アルコール(D−マンニトール)を含む。
【0038】
本発明の実質的に無タンパク質の培地に含まれる巨大分子は式I:
【化1】

式中、
各Rは独立してCHまたはHであり、nは約34〜約43の間である、のメチルセルロースである。
【0039】
上記メチルセルロースの式中、RはHまたはCHのいずれかになり得る。メトキシ置換の範囲は、重量で27.5〜31.5%の間に及ぶ。置換の程度(DS、環のヒドロキシル基へ結合した置換基の平均数)は、1.5〜1.9である。この範囲は、最大の水溶性を示す。より低いメトキシ置換は、より高い水溶性が得られ、好まれる。符号「n」は重合のレベルを意味し、20℃、2%水溶液における概算粘度指数15cPSに関連する、14,000ダルトンの分子量に至適に対応する(これら特性を有するメチルセルロースは、Sigma Chemical Co., St. Louis, MO USA; www.sigmaaldrich.comから市販されている)。これは、約34〜約43の間、好ましくは36〜39の「n」の値に対応する。PFM中におけるこの成分の範囲は、0.01〜0.15g/Lであり、最も好ましい範囲は0.09〜0.1g/Lである。至適濃度は、0.1g/Lである。
【0040】
メチルセルロースは抗酸化物質およびオスモライトとして作用することが可能で、無毒性、酵素耐性および細胞不透過性である(Stewart et al., 1995)。環境性の傷害、特にフリーラジカルおよび浸透圧変化による攻撃に対しての配偶子および胚の保護を助ける。それは細胞膜を損傷から保護し、恒常性の維持を助ける。それはまた、界面活性剤および潤滑剤でもある。培地の粘性増加に貢献するため、配偶子および胚は、ディッシュの側面ならびにピペットおよびカテーテルの内側に固着しない。これら物理的特質は、それら機能を通常行う血清タンパク質の非存在下で供給される。この物質は不活性で、ヒトへの適用には安全である。
【0041】
メチルセルロースは他に、ヒトの医薬品および食品産業で25年間を優に超えて、副作用なしにヒトまたは動物の研究で使用されてきた。FAO/WHOおよびEUの勧告はメチルセルロースの摂取を許容し、非発癌性であることが知られていることから、癌研究のネガティブコントロールとして使用されてきた。
【0042】
メチルセルロースは多様な食品および化粧製品において、増粘剤および乳化剤としても使用され、便秘の治療などの医療用途を有する。それは非消化性、無毒性および非アレルゲン性である。その薬理的/臨床的用途は、賦形剤および担体材料である。それは点眼薬での使用、充填剤および緩下剤としての使用、機能性腸疾患の下痢のための使用、回腸瘻排出の調製のための使用および感染性の下痢を生じる毒性物質の吸収剤としての使用がされる。それは抗酸化物質でもある。
【0043】
本発明の実質的に無タンパク質の培地は、D−マンニトールもまた含む。この化合物は、吸収されにくく、ほとんど変化せずに尿中に排出される。抗酸化物質およびオスモライトとして、この物質は有害な環境的影響から胚を保護できる。したがって、悪条件に対して胚を保護するために、部分的に、さらに血清タンパク質と置換することができる。D−マンニトールが培地中のタンパク質存在下においてさえも、マウス胚盤胞のインビトロでの発生にポジティブな効果を及ぼすことに注目することは興味深い。
【0044】
本願発明の例示的な実質的に無タンパク質の培地(PFM−11)では、D−マンニトールは0.056〜6.9μMの範囲内で、2.8μM(最も好ましい濃度)の好ましい濃度で存在する。より好ましい範囲は、1.4〜5.5μMの濃度で、2.5〜3.0μMの濃度の範囲がさらにより好ましい。最も好ましい濃度は、約2.7μMの濃度である。D−マンニトールの実験式は、C14であり、次の構造式を有する。
【化2】

【0045】
D−マンニトールは、食品添加物であり、ケーキ、製菓および甘味物に使用され、スクロースより甘く、糖尿病患者のための代替甘味料と考えられている。それは、オスモライトおよび抗酸化物質である。それは30年間を優に超えて、急性脳卒中の治療に高濃度で使用されてきた。この化合物の過剰モル濃度が、深刻な脳損傷および頭蓋内圧上昇の治療に使用される。それは利尿剤であり、中毒の場合の利尿、または細胞外液コンパートメントの測定に使用される。それはまた、ヒトを含む哺乳類において、緩下剤の効果も有する。治療薬としてのD−マンニトールの臨床適用での結果としては、ヒトにおける悪影響は報告されていない。複数の種においては、非細胞毒性および非変異原性でもある。D−マンニトールは吸収されにくく、排泄される(Milde, 1965; Widdowson and Dickerson, 1965)。培養培地中にこの物質を含有させることにより、血清タンパク質の存在下でさえマウスの胚盤胞発生を増加させたことから、抗酸化物質およびオスモライトとしての胚培養でのポジティブな役割が示唆される(Ali, unpublished observations)。その使用はFDAおよびEUに許可され、FAO/WHOは食用として安全であると結論付けた。
【0046】
本発明の溶液および調合物には、式IIのD−マンニトールが約0.05マイクロモーラーから約6.9マイクロモーラーの濃度で存在する。より好ましい範囲は、1.4〜5.5マイクロモーラーである。最も好ましい濃度は、約2.8マイクロモーラーである。
【0047】
当業者は、血清タンパク質の役割は多数であり、その非存在下において、培地中のタンパク質の完全置換は、1または2の成分自体では提供できないことを理解するだろう。したがって当業者は、本発明はメチルセルロースおよびD−マンニトールを補充した培地を単に提供するものではないことを認識するだろう。むしろ本発明は、併せて追加成分の複合混合物を、好ましくは至適濃度で、含む培地、および培養液中の胚に有害と判明した一般に使用される培地成分の選択的除外を提供する。そのうちいくつかは、以下を含む。
【0048】
(i)栄養および浸透圧バランスの主要なプロバイダーである2種のアミノ酸(L−タウリンおよびグルタミン酸)の独自の濃度を含む。これらアミノ酸は、1mM〜30mMのL−タウリンおよび1mM〜50mMのL−グルタミンの濃度の範囲内で提供され、より好ましくは10mM〜30mMのL−タウリンおよび10mM〜30mMのL−グルタミン、ならびに最も好ましくはそれぞれ20mMのL−タウリンおよびL−グルタミンである。
【0049】
(ii)エネルギー源として、ヒト胚の発生阻止を起こしにくい化合物(D−グルコース、フルクトースまたはピルビン酸を含む)のいずれか1つまたは複数を含む。フルクトースの至適濃度は、約0.5mM〜6.0mMのフルクトースで、より好ましい濃度は約1mM〜5.6mMであり、最も好ましい濃度は約5.1mMである。残りの2種のエネルギー源の至適濃度は、本書中の他の場所に示される。
【0050】
(iii)以下の特定のアミノ酸濃度を含む。
【表1】

【0051】
(iv)以下の水溶性ビタミン濃度を含む。
【表2】

【0052】
(v)5マイクロモーラー〜20マイクロモーラー、より好ましくは8マイクロモーラー〜12マイクロモーラー、さらにより好ましくは10マイクロモーラーのビタミンE(Vitamin E Type 6, Sigma Chemical Co.)を含む。
(vi)接合体および初期卵割期胚の発生に有害となり得るL−アスパラギン、L−アスパラギン酸およびL−セリンを除外する。
(vii)胚発生に有害となり得る元素鉄を除外する。
(viii)60マイクロモーラー〜500マイクロモーラーおよびより好ましくは250マイクロモーラー〜350マイクロモーラー、さらにより好ましくは300モーラーの還元型グルタチオン(GSH)を含む。
【0053】
他の化合物
【表3】

【0054】
**HEPES
受精および胚培養培地中 0mM
配偶子取り扱い培地中 15mM
洗浄培地中 25mM
本明細書中に説明されているPFM−11培地シリーズは、少なくとも以下の側面で通常の胚培養培地と異なる。
1.培地へドナー血清タンパク質を添加することがない−これは病気感染の可能性を排除し、本願発明によるPFM−11培地シリーズを危険のないものにする。
2.メチルセルロースおよびD−マンニトールの存在
3.アミノ酸、抗酸化物質、ビタミン、エネルギー源およびミネラル塩の、すべてが胚培養に至適化した、種類および濃度に関しての培地組成の変更
【0055】
本発明の培地の利点には、患者/医療従事者に対するリスクの低減がある。本発明の実質的に無タンパク質の培地は、患者、患者の新生児および培地に曝された医療従事者に対するリスクを低減する理由でも有利である。特定のリスクは残るが、それらは本発明の実質的に無タンパク質の培地を使用して避けられる感染のリスクと比較して、小さなものである。 それらリスクには、使用される成分に対するアレルギーが含まれる。抗生物質以外の原料成分は、主に不活性および非反応性であるため、これが起こる可能性はとても考えにくい。すべての原料成分は、アレルギー応答を誘発する可能性の低い微量濃度である。
【0056】
臨床試験
PFM−11培地シリーズの最終調合物で産生した胚の移植に、臨床試験が認可された。臨床試験は、通常のIVFまたはICSIのいずれかで受精が行われたときの、PFM−11培地シリーズの有効性の違いについても調査した。
【0057】
統計解析
統計学的比較は、2標本t検定または2×2テーブルで行われた。p<0.05またはそれ以下の値を、統計学的に有意と考えた。
【0058】
[結果]
通常のIVFによる授精の場合でのPFM−11無タンパク質培地およびMediCultTM胚培養培地中のヒト同胞卵母細胞の培養特性
通常のIVF後の同胞卵母細胞の受精率は、MediCultTMコントロールおよびPFM−11培地中で同様であった(表A)。PFMと比較して(2.2%)、より高い割合の接合体がMediCultTMコントロール培地中で停止していたが(8.1%)、統計学的に有意ではなかった。超微小滴培養において、PFM−11中で産生した2日ヒトcIVF同胞卵割胚の品質は、コントロール培地で産生したものと比較して、卵割球数およびグレードの面で有意に優れていた。PFM−11培地中では、平均卵割球数は3.4であり、平均胚グレードは3.1であった(n=116)。コントロール培地(MediCultTM)中では、平均卵割球数は3.4と同様であり(p=0.865)、平均胚グレードは2.7とより有意に低くなっていた(p=0.001、n=118)。4期以上を達成した胚の割合は両集団で同様であったが、3以上のグレードの胚の割合は、PFM−11無タンパク質集団でより有意に高くなっていた。
【0059】
【表4】

【0060】
通常IVFによる授精の場合でのPFM−11無タンパク質培地およびMediCultTM胚培養培地中のヒト同胞卵母細胞の培養特性
ICSI後の同胞卵母細胞の受精率は、MediCultTMコントロールと比較して、無タンパク質PFM−11培地でより優位に高かった(77.8%に対して69.4%、p=0.0043;表B)。MediCultTM培地と比較して、接合子期での発生停止がPFM−11培地でより低下したが、この違いは統計学的に有意ではなかった(それぞれ2.8に対して6.3%、p=0.0088)。超微小滴中での培養において、PFM−11培地中で産生した2日ヒトICSI同胞卵割胚の品質は、コントロール培地で産生したものと比較して、卵割球スコアの面で有意に優れていた(それぞれ3.8に対して3.3、p=0.001)。PFM−11培地中で産生した胚の平均胚グレードは、コントロール培地中で産生した胚のものと同様であった(2.9に対して2.8、p=0.080)。4期以上を達成した胚の割合は、両集団において同様であったが、グレード3以上の胚の割合は、PFM−11無タンパク質集団でより有意に高かった。
【0061】
【表5】

【0062】
臨床試験
現在利用可能なタンパク質を含有する胚培地と比較した場合(全年齢集団合わせて33%の妊娠、Ali, 2004から引用)、実質的に無タンパク質のPFM−11培地での通常IVF臨床妊娠率は、全年齢集団では50%(28人中14人)に、40歳未満の女性では53.8%(26人中14人)にまで増加する。実質的に無タンパク質のPFM−11培地でのICSI臨床妊娠率は、同様に全年齢集団では46.2%(26人中12人)に、40歳未満の女性では54.5%(22人中12人)にまで増加する。この差は本願の実質的に無タンパク質のPFM−11培地にとって良い方向に統計学的に有意であり、本願発明の実質的に無タンパク質の培地は、現在市場で入手可能な市販のタンパク質を含有する培地に少なくとも相当すること(およびより優れている可能性)を示している。通常のIVFによって、PFM−11培地中で産生した胚由来の出生児数は、12人(出産の治療をした女性26人中8人の30.8%、または出産した妊娠女性13人中8人の61.5%、一人の妊娠を経過観察で失った)、およびICSIでもまた、12人(出産の治療をした女性22人中8人の36%または出産した妊娠女性の66.7%(12人中8人))であった。本発明のPFM−11で産生した胚由来の出生児は、明らかに正常で、知的で、口数が多く、および活発である(親の報告による)。これら統計学的データは、かかる出生をした子供の少なくとも24のサンプルから作成された。
【0063】
結果の有意性
生存可能な初期卵割期ヒト胚産生用の合成培地の利用可能性は、とりわけ、潜在的に危険なドナータンパク質を培地から排除することができるので、生殖補助治療(ART)を受けている患者の安全性を改善する。これは、特にヒトの後天性免疫不全症候群(AIDS)および肝炎などのウイルス性疾患、あるいはプリオンによって感染するクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、あるいは血液由来産物中の他の病原性疾患の伝染に関しての特別な懸念であり、世界中多くの発生学者が胚の培養および取り扱い手順用のドナータンパク質の代替となるものを(不成功だが)探すように仕向けた。危険は確実に現実のものである。過去に、B型肝炎ウイルスで汚染された貯蔵血清を含む培地で培養した胚を受け取り、B型肝炎の蔓延が約200人の体外受精(IVF)患者で起きた(van Os et al., 1991)。より最近、科学界は胚の培養および取り扱いで使用した培養培地の市販製剤が、後にCJDで死亡した人間によって提供されたアルブミンで汚染されているかもしれないことを、患者に知らせることのジレンマに直面した(Kemmann, 1998)。
【0064】
病原体およびプリオンに加えて、血清およびアルブミンなどの血清由来のタンパク質は、子宮内膜症患者、反復流産患者および未解明の不妊症を被る患者にみられるような、胎児毒性因子を含んでいるかもしれない(Miller et al., 1995)。これら胎児毒性因子は、その性質はいまだ解明されていないが、インビトロにおいて胚に有害であることが示された(Miller et al., 1995; Fein et al., 1995)。さらに、血清またはアルブミンのバッチ間変動はよく認識されているので、血清またはアルブミンの使用は再現性の問題を生じる。異なるバッチの血清品質を調節できないことは、産生する胚の品質にも影響する可能性がある。胎児毒性および/または血清タンパク質品質の非再現性に関連する問題は、ドナータンパク質を含有する培養培地の代わりに合成培地を使用した場合には当然避けられる。
【0065】
超微小滴培養条件下のPFM−11培養培地中で産生した胚の品質は、同様の培養条件下で行った場合、タンパク質を含有するコントロール培地で産生したものと同様、またはそれらよりいくらか優れていた。より重要なことに、新規の実質的に無タンパク質の培地PFM−11培地中で産生した胚の受精率、接合体停止率および品質は、試験したどのパラメーターに対しても、タンパク質を含有するコントロール培地で観察されたものより劣ってはいない。一方でコントロール培地は、試験したいくつかのパラメーターで劣っていることが判明した。臨床試験は、PFM−11培地は2日胚について、タンパク質を含有するコントロール胚培養培地と同様に効果的またはより優れていることを示した。さらに、生物起源の危険なドナータンパク質を欠いているので、完全に安全である。
【0066】
微小滴中で産生した胚の品質改善は、胚によって培地中へ放出された特定の成長因子のオートクリンおよびパラクリン効果が原因であることが早くに示された(Paria and Dey, 1990; Paria et al., 1991; Canesco et al, 1992)。実際にhIGF−1の培養培地への添加は、ヒトの着床前発生を増強し、特に胚盤胞形成を著しく改善した(Lighten et al., 1998)。近年、ヒト胚の共同培養はヒトの生殖補助において、より高い着床および妊娠率を生じることが報告された(Almagor et al., 1996)。着床前発生における成長因子の効果は、Kane et al. (1997)によって広く概説された。成長因子の効果に関する以前の研究からの証拠は、インビトロにおける胚発生の明らかな成長パターンの欠如を示している。オートクリン成長因子は、ストレス性の培養条件下では胚発生には不可欠かもしれない。胚の着床前発生にポジティブな効果を示し得る成長因子には、CSF−1;IGF−I;IGF−II;TGF−αおよびおそらくはLIFが含まれる。
【0067】
PFM−11培地で調製された精子で、PFM−11培地中にてヒト卵母細胞の受精が起こることが見出された。受精能獲得には影響はなかった。本明細書中において、PFM−11は、培地中の血清タンパク質の非存在下で受精を促進するのに効果的であることが示された。PFM−11を用いる通常のIVFの間の高い受精率は、培地中のタンパク質の欠如が精子の受精能獲得、受精ならびにインビトロにおける胚発生および続く子宮内での生存率を損なわなかったことを示していた。培地中のタンパク質欠乏にもかかわらず、精子の受精能獲得、卵母細胞への精子の侵入および受精が生じた。
【0068】
臨床妊娠率、出産率および妊娠中断率は、コントロールと比較して(通常のタンパク質含有培地を使用)、被検集団でより有意に優れていた(本発明の実質的に無タンパク質の培地を使用)。また、被検集団中の出産した妊娠女性の割合は、卵割期胚移植において報告された世界平均と同様であった(DeMouzon and Lancaster, 1997)。
【0069】
本明細書で開示された実験結果は、以下を明らかにした。(i)本発明の実質的に無タンパク質の培地PFM−11を使用して、通常のIVFの間の精子の卵細胞への侵入、配偶子相互作用、および続く通常のIVFまたはICSI後のヒトでの受精はどちらも損なわれず、(ii)得られた初期卵割期胚は、生存可能および臨床妊娠の誘発が可能であり、(iii)PFM−11で産生した初期卵割期胚の品質は、一般的に、血清タンパク質培地を含有するコントロール培地で産生したものと同様またはいくらか優れていた。
【0070】
動物起源の調製物のために採用されるストリンジェントな精製および滅菌処置では、絶対的な確実性をもって未知の病原体感染の可能性を除外できない(Truyen et al., 1995)。実質的に無タンパク質の培地の処方およびCumulase(登録商標)などの組み換えヒアルロニダーゼによるヒアルロニダーゼの置換とともに、現在ではIVF患者への病気感染の明白なリスクのない、完全に研究室での生殖補助手順を行うことが可能である。
【0071】
結論として、本願発明の実質的に無タンパク質のPFM−11培地は、通常のIVFの間の精子の卵母細胞への侵入、およびICSIまたは通常のIVF後の受精を損なわずに効果的であることが実証された。PFM培地で産生した胚が移植された場合、39歳以下の女性において50%の臨床妊娠率があり、妊娠も損なわれなかった。全体として、PFM−11培地は、生存可能なヒト胚の産生において血清タンパク質を含有する培地より優れていない場合は、同等に効果的であった。ヒトの受胎補助手順におけるPFMの日常的な使用は、タンパク質に結合する病原体または危険なプリオンを介しての病気感染の潜在的リスクを排除できる。本研究は、添加タンパク質を欠いた培地中において、無細胞培養系で生存可能なヒト胚の産生が可能であることを示した。
【0072】
[本発明のPFM−11の調製]
基礎塩類溶液(BSS)ストック溶液1:
使用される基礎塩類のストック溶液(基礎塩類溶液−BSS)の調製は、PFM培養培地、胚取り扱い培地、および洗浄培地の最終的な処方である。
【表6】

【0073】
調製手順:
1.ストック溶液の調製前に、混合容器をWFI(注射用水、18.2メガオームの抵抗)ですすぐ。
2.成分1は非常に吸湿性があるため、1000mLのWFIに加える。
3.絶えず混ぜながら成分2〜7を順に加え、WFIを用いて最終容量を1000mLにする。
4.すべての溶質が完全に溶解した後、すぐに滅菌濾過を行う。溶質が残っている場合、濾過をしないこと。0.1ミクロンフィルターが使用可能であるが、濾過時の過剰な圧力を避ける。ストック1溶液は0.2ミクロンフィルターで前濾過し、続いて0.1ミクロンフィルターで濾過できる。
【0074】
5.濾過後の沈殿物または濁りはないはずである。
6.適した容量の容器に入れる(例えば、ボトル)。
7.ボトルのふたをする(好ましくは、開封明示シールのある(tamper-evident seal)ボトル)。
8.2〜6℃の間で暗所に保管する。
【0075】
保管および保存期間
基礎塩類溶液(BSS)ストックは、2〜6℃の間で保管した場合、2ヶ月間安定していた。使用前には、沈殿物または濁りについて、保管しているBSSストックを常に注意深く点検する。保管の間に、沈殿物が発生または溶液が濁った場合には捨てる。
【0076】
最終製品中のBSSストック1の含有容量:
炭酸水素ナトリウムが調合物(培養培地製品)中の主に有効なバッファー成分であるところ、調製した最終調合物1000mL毎に70mL**のBSSが存在しなければならない。
【0077】
HEPESが調合物(精子/洗浄培地製品)中の主に有効なバッファー成分であるところ、調製した最終調合物1000mL毎に50mLのBSSを加える。
【0078】
培地のオスモル濃度を(それぞれ)増加または減少させるBSSまたはWFI水での最終培地のオスモル濃度調整:
最終容量(すなわち、BSS、BAASおよびBVSを加えた後)が1000mL以下である場合、最終培地のオスモル濃度は285ミリオスモルであるべきで、その後別に少量のBSSをWFIで希釈する。作業BSS(WBSS)を得るために、1容量のBSSと9容量のWFI水とを使用する。WBSSのオスモル濃度を285ミリオスモルに調整する。調整したWBSSで、最終培地の最終容量を1000mLにする。
全ストック溶液由来の最終調合物の組成については、ストック4のインストラクションを参照。
【0079】
基礎アミノ酸溶液(BAAS)ストック溶液2:
この手順はPFM培養培地、配偶子取り扱い培地、および洗浄培地の最終調合物中に含有する、溶液中の基礎アミノ酸(基礎5アミノ酸溶液−BAAS)の1リットルストック溶液の調製に使用した。
【0080】
試薬
【表7】

【0081】
ストック2BAAS調製のインストラクション
1.WFI(注射用水、18.2メガオームの抵抗)で混合容器をすすぐ。
2.成分1、2および4〜11を400mLのWFI中に溶解する。
至適条件以下で溶解が困難になるかもしれないので、供給元の保管推奨条件を遵守することが必要である。沈殿物が発生した場合、廃棄して、25mLの0.11N NaOHおよび275mLのWFIを用いて再開する。水酸化ナトリウムは、最後の選択肢としてのみ用いられる。
【0082】
3.L−ヒスチジン・HCl・HOおよびL−バリンは溶解が難しくなる可能性があり、かかる状況においては、溶解は1N HClを用いることによって達成することができる。成分3および12は、別々の300mL容量のWFIに溶解すべきである。可溶化達成のためには、可能な限り最小容量の1N HClのみを使用する。使用すべき1N HCl(胚試験済)の最大量は、300mLのWFI中25mLである。全成分を溶解するのに、水、アルカリおよび酸の37℃以上での加熱は避ける。
4.成分3および12が完全に溶解したら、ステップ2で作製した水溶性アミノ酸の一部200mLを、(a)全容量が500mLとなるようにL−ヒスチジン・HCl・HOの溶液300mLに、(b)全容量が500mLとなるようにL−バリンの溶液300mLに、段階的な方法で徐々に加えることにより、1000mLの最終容量にする。
【0083】
5.沈殿を避けるために一定に混合しながら、段階的な方法で徐々に2つの500mL容量を合わせる。
6.すぐに0.2ミクロンフィルターで、溶液を滅菌濾過する。
7.適当な容量の容器(例えば、ボトル)に入れる。
8.ボトルのふたをする(好ましくは、開封明示シールのあるボトル)。
9.2〜6℃の間で暗所に保管する。
【0084】
保管および保存期間
基礎アミノ酸溶液(BAAS)ストックは、2〜6℃の間で保管した場合に2ヶ月間維持する。使用前には、沈殿物または濁りについて、保管しているBAASストックを常に注意深く点検する。保管の間に、沈殿物または濁りが発生した場合には捨てる。
【0085】
最終製品中のBAAストックの含有容量:
すべての最終調合物の調製物に、1000mLあたり10mLのBAAストック溶液を使用するべきである。
遊離型のL−チロシンおよびL−シスチンが市販されていないため、L−チロシン・2Na・2HOおよびL−シスチン・2HClを使用した。
【0086】
基礎ビタミン溶液(BVS)ストック溶液3
本実施例によるプロトコルでは、PFM培養培地、配偶子取り扱い培地、および洗浄培地の最終調合物に含有する、溶液中の基礎ビタミン(基礎ビタミン溶液−BVS)の1リットルストック溶液を調製する。
【0087】
試薬
【表8】

【0088】
ストック3(BVS)調製のインストラクション
1.800mLのWFI水(注射用水、18.2メガオーム抵抗)中に成分1〜7を溶解する。成分が溶解しない場合、最後の選択肢として少量の0.1Nまたは1N NaOHを溶媒和を達成するために使用することができる。
2.成分8を0.1N NaOH2.5mL中に溶解し、一定に混合しながら成分1〜7を含む800mLに段階的な方法で注意深く加える。
3.一定に混合しながら、WFI水を用いて容量を1000mLにし、すぐに0.2ミクロンフィルターで適した容器中に滅菌濾過する(例えば、60mL Nalgeneボトル、開封明示機構のあるボトル)。
4.ボトルのふたをする。
5.−20℃で暗所に保管する。
【0089】
保管および保存期間
基礎ビタミン溶液(BVS)ストックは、60mLのアリコートで−20℃に保管した場合、2ヶ月間保管できる。使用前には、沈殿物または濁りについて、解凍したBVSストック3を常に注意深く点検する。沈殿物が現れた場合、または解凍した溶液が濁ってみえる場合は捨てる。
最終製品中のBVSストックの含有容量:
調製したすべての最終調合物の調製物に、1000mLあたり6.0mLのBVSストック溶液を使用するべきである。ストック4参照。
【0090】
ストック4溶液および最終調合組合物
ストック4の調製は、本願処方の独自の化学物質の最終添加およびストック1基礎塩類溶液(BSS)、ストック2基礎アミノ酸溶液(BAAS)およびストック3基礎ビタミン溶液(BVS)の特定容量を添加することを可能にする。プロトコルは調製される培地調合物に、すなわち培養培地、配偶子取り扱い培地、および洗浄培地に特定のバッファーおよび抗生物質を記載する。
以下のプロトコルは、培養培地、配偶子取り扱い培地、または洗浄培地の最終調合物1リットルを調製する。より大きなバッチが、適切に量をスケールアップして調製されてもよい。
【0091】
試薬
【表9】

【0092】
【表10】

【0093】
ストック4の調製および最終調合組合物のインストラクション
1.混合容器をWFI(注射用水、18.2メガオームの抵抗)ですすぐ。
2.添加する間、継続的に混合して、700mLのWFI中に成分1〜11を溶解する。
3.成分12〜15を加え、WFIで900mLにして混合し続ける。
4.基本処方タイプ、すなわちPFM培養培地、PFM配偶子取り扱い培地およびPFM洗浄培地、の調製に依存して、成分16〜21を加える。
5.3種類すべての培地のオスモル濃度を調製し、0.2ミクロンの孔径フィルターを用いて別々に濾過滅菌する。0.1ミクロンフィルターも使用できるが、圧力を避ける。溶液の濾過に高圧が必要であった場合には、0.1ミクロンフィルターは使用しない。
【0094】
6.すぐに最終包装(Nalgeneボトル)中へ滅菌濾過する。
PFM培養培地は60mLボトル中に入れる。
PFM配偶子取り扱い培地は60mLボトル中に入れる。
PFM洗浄培地は125mLボトル中に入れる。
(使用するボトルは、好ましくは開封明示機構のあるボトルである。)
7.ボトルのふたをする。
8.ボトルをラベルする。
9.2〜6℃の間で暗所に保管する。
【0095】
ストック4および最終調合組合物についての脚注
オスモル濃度を確認する。オスモル濃度が高い場合、WFI純水を添加して285ミリオスモルに調整する。添加する量は以下のように計算する。
[培地のオスモル濃度−所望のオスモル濃度(すなわち285)/培地のオスモル濃度]×培地容量
【0096】
例:上記のように培地のオスモル濃度が300で培地容量が900mLの場合、以下に示すように計算する。
[300−285/300]×900=15/300×900=45
【0097】
したがって、培地へ45mLの水を加え、その後再びオスモル濃度を測定した場合、理論的には約285+/−2または3ユニットのオスモル濃度が得られるはずである。たとえストック1BSS溶液をさらに添加して培地のオスモル濃度を戻しても、培地中の重要な成分が希釈され、培地の有効性に影響するので、水を大量に加えすぎないように大いに注意する。
しかしながら、モル浸透圧濃度が285ミリオスモル以下の場合、ストック1BSSのみを培地に加える。1ミリリットルあたりのストック1BSSで約2〜3ミリオスモル増加するが、常に予測可能ではないかもしれない。したがって、添加しすぎないように大いに注意する。一度に少量添加し、オスモル濃度を測定する。
【0098】
参照

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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト生殖細胞のための実質的に無タンパク質の細胞培養培地であって、体外受精および他の生殖補助医療で使用されるヒト生殖細胞のインビトロの処置の全過程での使用に適しており、無機塩、アミノ酸、抗酸化物質、ビタミン、栄養素、抗生物質、D−マンニトールおよび分子量14,000ダルトンのメチルセルロースを含む、前記培地。
【請求項2】
メチルセルロースが、その2%溶液が25℃で15センチポアズの粘度を有することを特徴とする、請求項1に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項3】
請求項1に記載の実質的に無タンパク質の培地であって、メチルセルロースが、
式I:
【化1】

式中、
それぞれのRは独立してHまたはCHであり、
nは約34から約43の値を有する整数であり、
ここでメトキシ置換が27.5重量%から31.5重量%までである、
で表される、前記培地。
【請求項4】
式Iの化合物のそれぞれの糖部分に付属するCH置換基の平均数が、1.5から1.9である、請求項4に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項5】
メチルセルロースが、0.01g/L(0.71μM)から0.5g/L(0.036mM)の濃度で溶液中に存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項6】
メチルセルロースが、0.01g/L(0.71μM)から0.15g/L(0.00011mM)の濃度で溶液中に存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項7】
メチルセルロースが、約0.1g/L(0.0071mM)の濃度で溶液中に存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項8】
アミノ酸が、L−アルギニン、L−シスチン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、L−アラニン、L−タウリン、L−グルタミン酸、L−グルタミンまたはグリシン、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項9】
請求項8に記載の実質的に無タンパク質の培地であって、アミノ酸が、L−アルギニン・HClについては約0.018mM〜約0.18mM;L−シスチン・2HClについては約0.0025mM〜約0.025mM;L−ヒスチジン・HCl・HOについては約0.005mM〜約0.05mM;L−イソロイシンについては約0.01mM〜約0.1mM;L−ロイシンについては約0.01mM〜約0.1mM;L−リジン・HClについては約0.0125mM〜約0.125mM;L−メチオニンについては約0.0025mM〜約0.025mM;L−フェニルアラニンについては約0.005mM〜約0.05mM;L−スレオニンについては約0.01mM〜約0.1mM;L−トリプトファンについては約0.00125mM〜約0.0125mM;L−チロシン・2Na・2HOについては約0.005mM〜約0.05mM;L−バリンについては約0.01mM〜約0.1mM;L−アラニンについては約1.0mM〜約10mM;L−タウリンについては約1.0mM〜約30mM;グルタミン酸については約0.01mM〜約1.0mM;L−グルタミンについては約1.0mM〜約50mM;L−グリシンについては約0.1〜約1.0mMの間の濃度で存在する、前記培地。
【請求項10】
請求項9に記載の実質的に無タンパク質の培地であって、アミノ酸が、0.5mM L−アルギニン;0.01mM L−シスチン・2HCl;0.02mM L−ヒスチジン;0.04mM L−イソロイシン;0.04mM L−ロイシン;0.05mM L−リジン・HCl;0.01mM L−メチオニン;0.02mM L−フェニルアラニン;0.04mM L−スレオニン;0.005mM L−トリプトファン;0.02mM L−チロシン・2Na・2HO;0.04mM L−バリン;0.5mM L−アラニン;20mM L−タウリン;0.5mM グルタミン酸;および20mM L−グルタミンまたは0.25mM L−グリシンの濃度で存在する、前記培地。
【請求項11】
培地に含まれる無機塩が、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよびリン酸ナトリウムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項12】
請求項11に記載の実質的に無タンパク質の培地であって、培地に含まれる無機塩が、塩化カルシウムについては約3.0mM(0.23g/L)〜3.6mM(0.27g/L);硫酸マグネシウムについては約0.7mM(0.086g/L)〜約0.81mM(0.098g/L);塩化カリウムについては約4.7mM(0.35g/L)〜約5.4mM(0.4g/L);塩化ナトリウムについては約0.1M(6.12g/L)〜約0.12M(6.95g/L);およびリン酸二水素ナトリウムについては約0.89mM(0.107g/L)〜約1.0mM(0.122g/L)の間の濃度で存在する、前記培地。
【請求項13】
請求項12に記載の実質的に無タンパク質の培地であって、培地に含まれる無機塩が塩化カルシウムについては3.1mM(0.235g/L);硫酸マグネシウムについては0.72mM(0.087g/L);塩化カリウムについては4.8mM(0.355g/L);塩化ナトリウムについては0.11M(6.171g/L);およびリン酸二水素ナトリウムについては0.88mM(0.108g/L)の濃度で存在する、前記培地。
【請求項14】
培地に含まれるビタミンが、塩化コリン、ミオイノシトール、ナイアシンアミド、D−パントテン酸、ピリドキシン・HCl、リボフラビン、チアミン・HCl、葉酸、ビタミンB12、ビタミンE、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項15】
請求項14に記載の実質的無タンパク質培地であって、培地に含まれるビタミンが、塩化コリンについては約0.004mM(0.0005g/L)〜0.005mM(0.0007g/L);D−ビオチンについては約0.0024mM(0.0006g/L)〜0.0028mM(0.0007g/L);ミオイノシトールについては約0.0067mM(0.0012g/L)〜0.0078mM(0.0014g/L);ナイアシンアミドについては約0.005mM(0.0006g/L)〜0.0057mM(0.0007g/L);D−パントテン酸については約0.0025mM(0.0005g/L)〜0.003mM(0.0007g/L);ピリドキシン・HClについては約0.003mM(0.0006g/L)〜0.0034mM(0.0007g/L);リボフラビンについては約0.00016mM(0.00006g/L)〜0.00019mM(0.00007g/L);チアミン・HClについては約0.0018mM(0.0005g/L)〜0.0021mM(0.0006g/L);葉酸については約0.0014mM(0.006g/L)〜0.0016mM(0.0007g/L);ビタミンB12については約443pM(600ng/L)〜885pM(1.2mg/L);およびビタミンEについては0.008mM(0.003g/L)〜0.012mM(0.005g/L)の間の濃度で存在する、前記培地。
【請求項16】
請求項15に記載の実質的無タンパク質培地であって、培地を構成するビタミンが、塩化コリンについては0.004mM(0.0005g/L);D−ビオチンについては0.0024mM(0.0006g/L);ミオイノシトールについては0.0067mM(0.0012g/L);ナイアシンアミドについては0.005mM(0.0006g/L);D−パントテン酸については0.0025mM(0.0005g/L);ピリドキシン・HClについては0.003mM(0.0006g/L);リボフラビンについては0.00016mM(0.00006g/L);チアミン・HClについては0.0018mM(0.0005g/L);葉酸については0.0014mM(0.006g/L);ビタミンB12については616pM(800ng/L);およびビタミンEについては0.010mM(0.004g/L)の濃度で存在する、前記培地。
【請求項17】
培地に含まれる栄養素が、D−グルコース、ピルビン酸、フルクトース、乳酸、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項18】
請求項17に記載の実質的に無タンパク質の培地であって、溶液に含まれる栄養素が、D−グルコースについては4.3mM(0.78g/L);ピルビン酸ナトリウムについては0.3mM(0.02975g/L);フルクトースについては5.1mM(0.92g/L);および乳酸ナトリウムについては10mM(1.13g/L)の濃度で存在する、前記培地。
【請求項19】
D−グルコースが、3.0mM(0.75g/L)〜5.6mM(1.0g/L)の濃度で存在する、請求項18に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項20】
フルクトースが、1mM(0.18g/L)〜5.6mM(1.01g/L)の濃度で存在する、請求項19に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項21】
溶液中の抗酸化物質が、グルタチオンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項22】
グルタチオン濃度が、約0.25mM(0.077g/L)〜0.35mM(0.11g/L)の間である、請求項21に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項23】
グルタチオン濃度が、0.3mM(0.092g/L)である、請求項22に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項24】
EDTAをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項25】
EDTA濃度が、約0.1mM(0.0416g/L)〜0.103mM(0.043g/L)の間である、請求項24に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項26】
EDTA濃度が、0.1mM(0.0418g/L)である、請求項25に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項27】
HEPESをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項28】
HEPES濃度が、15mM(3.6g/L)または25mM(5.96g/L)であり、D−グルコース濃度が、約3.3mM(0.59g/L)〜約3.6mM(0.65g/L)の間である、請求項27に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項29】
フェノールレッドまたは他のpH指示薬をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項30】
フェノールレッド濃度が、0.031mM(0.011g/L)である、請求項29に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項31】
ゲンタマイシン硫酸塩が、約1.5mg/L〜約4mg/Lの濃度で溶液中に存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項32】
ペニシリンGが、75mg/Lの濃度で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項33】
D−マンニトールが、約0.056μMから約6.9μMの濃度で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項34】
D−マンニトールが、2.8μMの濃度で存在する、請求項33に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項35】
炭酸水素ナトリウムをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項36】
炭酸水素ナトリウムが、26.2mM(2.2g/L)の濃度で存在する、請求項35に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項37】
炭酸水素ナトリウムが、4.0mM(0.336g/L)〜26.2mM(2.2g/L)の濃度で存在する、請求項36に記載の実質的に無タンパク質の培地。
【請求項38】
請求項36の実質的に無タンパク質の培地とともにヒト生殖細胞取り扱いのステップを含む、生殖補助医療のための培地の使用。
【請求項39】
実質的に無タンパク質の培地が、請求項36の培地である、請求項38に記載の生殖補助医療のための培地の使用。
【請求項40】
ヒト生殖細胞が、未受精の卵細胞である、請求項38に記載の生殖補助医療のための培地の使用。
【請求項41】
ヒト生殖細胞が、多数の精子である、請求項38に記載の生殖補助医療のための培地の使用。
【請求項42】
ヒト生殖細胞が、受精卵である、請求項38に記載の生殖補助医療のための培地の使用。
【請求項43】
培地が、子宮間授精に特異的である、請求項38に記載の生殖補助医療のための培地使用。
【請求項44】
請求項1に記載のヒト生殖細胞のための実質的に無タンパク質の細胞培養培地であって、無機塩、アミノ酸、抗酸化物質、ビタミン、栄養素、抗生物質、D−マンニトールおよび分子量14,000ダルトンを有するメチルセルロースのストック溶液の少なくとも1または多数から調製され、ここで該ストック溶液が水で希釈されて、実質的に無タンパク質の細胞培養培地が作られる、前記培地。
【請求項45】
ヒト生殖細胞のための実質的に無タンパク質の細胞培養培地であって、体外受精および他の生殖補助医療で使用されるヒト生殖細胞のインビトロの治療の全過程での使用に適しており、0.5mM L−アルギニン;0.01mM L−シスチン・2HCl;0.02mM(L−ヒスチジン;0.04mM L−イソロイシン;0.04mM L−ロイシン;0.05mM L−リジン・HCl;0.01mM L−メチオニン;0.02mM L−フェニルアラニン;0.04mM L−スレオニン;0.005mM L−トリプトファン;0.02mM L−チロシン・2Na・2HO;0.04mM L−バリン;0.5mM L−アラニン;20mM L−タウリン;0.5mM グルタミン酸(0.39mM);20mM L−グルタミンまたは0.25mM L−グリシン;3.1mM(0.235g/L)塩化カルシウム;0.72mM(0.087g/L)硫酸マグネシウム;4.8mM(0.355g/L)塩化カリウム;0.11M(6.171g/L)塩化ナトリウム;0.88mM(0.108g/L)リン酸二水素ナトリウム;0.004mM(0.0005g/L)塩化コリン;0.0024mM(0.0006g/L)D−ビオチン;0.0067mM(0.0012g/L)ミオイノシトール;0.005mM(0.0006g/L)ナイアシンアミド;0.0025mM(0.0005g/L)D−パントテン酸;0.003mM(0.0006g/L)ピリドキシン・HCl;0.00016mM(0.00006g/L)リボフラビン;0.0018mM(0.0005g/L)チアミン・HCl;0.0014mM(0.006g/L)葉酸;616pM(800ng/L)ビタミンB12;0.010mM(0.004g/L)ビタミンE;4.3mM(0.78g/L)D−グルコース;0.3mM(0.02975g/L)ピルビン酸ナトリウム;5.1mM(0.92g/L)フルクトース;10mM(1.13g/L)乳酸ナトリウム;0.3mM(0.092g/L)グルタチオン;0.1mM(0.0418g/L)EDTA;0.031mM(0.011g/L)フェノールレッド;2.8μM D−マンニトール;26.2mM(2.2g/L)炭酸水素ナトリウム;75mg/L ペニシリンG;および1.5mg/L ゲンタマイシン硫酸塩を含む、前記培地。
【請求項46】
ゲンタマイシン硫酸塩濃度が4mg/Lである、請求項45に記載の実質的無タンパク質の細胞培養培地。
【請求項47】
D−グルコース濃度が3.3mM(0.59g/L)〜約3.6mM(0.65g/L)の間であり、さらに15mM(3.6g/L)HEPESを含む、請求項45に記載の実質的に無タンパク質の細胞培養培地。
【請求項48】
D−グルコース濃度が3.3mM(0.59g/L)〜約3.6mM(0.65g/L)の間であり、さらに25mM(5.96g/L)HEPESを含む、請求項45に記載の実質的に無タンパク質の細胞培養培地。
【請求項49】
D−グルコース濃度が3.3mM(0.59g/L)〜約3.6mM(0.65g/L)の間であり、さらに15mM(3.6g/L)HEPESを含む、請求項46に記載の実質的に無タンパク質の細胞培養培地。
【請求項50】
D−グルコース濃度が3.3mM(0.59g/L)〜約3.6mM(0.65g/L)の間であり、さらに25mM(5.96g/L)HEPESを含む、請求項46に記載の実質的に無タンパク質の細胞培養培地。

【公表番号】特表2011−507530(P2011−507530A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539908(P2010−539908)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/087818
【国際公開番号】WO2009/086191
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(510170899)
【Fターム(参考)】