説明

無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物及び絶縁電線

【課題】高難燃、高強度の無リンタイプのノンハロゲン樹脂組成物及び絶縁電線を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1,3,5トリアジン誘導体を5〜100重量部混和してなる組成物において、該ポリエステル系樹脂が、ポリブチレンテレフタレート60〜95重量%、ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体5〜40重量%の混合樹脂を用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、特に垂直難燃レベルに優れた無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物及び絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリ塩化ビニルやハロゲン系難燃剤を使用しない環境負荷の小さなノンハロゲン難燃性電線・ケーブルは、いわゆるエコ電線・ケーブルとして急速に普及している。これらのノンハロゲン難燃電線・ケーブルでは、電線の絶縁体としてポリオレフィンに水酸化マグネシクムをはじめとするノンハロゲン難燃剤を多量に混和した樹脂組成物が用いられているのが一般的である。
【0003】
【特許文献1】特開平8−48812号公報
【特許文献2】特許第2681051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水酸化マグネシウムをはじめとするノンハロゲン難燃剤で難燃化した電線は、例えばUL規格におけるVW−1のような垂直難燃試験に合格するためには、極めて多量のノンハロゲン難燃剤を混和する必要があり、このため、機械的強度が大幅に低下する問題がある。一方、赤リンなどの難燃助剤を加え、ノンハロゲン難燃剤を減量する方法もあるが、赤リンは燃焼時に有害なホスフィンを発生したり、廃却時にはリン酸を生成し地下水脈を汚染する懸念が指摘されることから、最近では使用を控える傾向にある。
【0005】
これらのことから、難燃性に優れた無リンノンハロゲン難燃電線の開発が要求されていた。
そこで、本発明の目的は、高難燃、高強度の無リンタイプのノンハロゲン樹脂組成物及び絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1,3,5トリアジン誘導体を5〜100重量部混和してなる組成物において、該ポリエステル系樹脂が、ポリブチレンテレフタレート60〜95重量%、ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体5〜40重量%の混合樹脂であることを特徴とする無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物である。
【0007】
請求項2の発明は、ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体が、化1
【0008】
【化1】

【0009】
からなる請求項1記載の無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物である。
【0010】
請求項3の発明は、ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体が、化2
【0011】
【化2】

【0012】
からなる請求項1記載の無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物である。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3いずれかに記載の組成物を、導体上に被覆して成ることを特徴とする無リン高難燃高強度ノンハロゲン絶縁電線である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、VW−1レベルの高難燃性を有する無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物及び絶縁電線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0016】
本発明は、ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1,3,5トリアジン誘導体を5〜100重量部混和してなる組成物において、該ポリエステル系樹脂が、ポリブチレンテレフタレート60〜95重量%、ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体5〜40重量%の混合樹脂を用いたものである。
【0017】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称する)は、ガラス繊維やグラファイトなどにより強化されていないものが好ましい。強化グレードは伸びがないからである。
【0018】
また、PBT−ポリエーテルブロック共重合体は、化1に示すようにハードセグメント(結晶相)がPBT、化2に示すように、ソフトセグメント(非晶相)がポリエーテルからなる熱可塑性エラストマーである。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
PBT−ポリエーテルブロック共重合体は、エンジニアリングプラスチックとしては難燃剤などの充填剤を比較的多量に混和しても伸びが低下しにくい特長をもっている。
【0022】
PBTを60〜95重量%、PBT−ポリエーテルブロック共重合体を5〜40重量%に規定したのは、PBTが60重量%未満では耐摩耗性が低下するからであり、また、95重量%を超えると、トリアジン誘導体を混和することにより伸びが大幅に低下するからである。
【0023】
本発明に用いる1,3,5−トリアジン誘導体としては、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン等が挙げられる。より好適には、メラミンシアヌレートである。これらは、非イオン性表面活性剤や各種カップリング剤により表面処理されていても良い。これらの混和量を5〜100重量部に制限したのは、5重量部未満では難燃性に効果がなく、また、100重量部を超えると伸びや耐摩耗性が著しく低下するからである。
【0024】
本発明に、金属水酸化物、例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2 )、水酸化アルミニウム(Al(OH)3 ),ハイドロタルサイト,カルシウムアルミネート水和物,水酸化カルシウム,水酸化バリウム等を加えることが出来る。水酸化マグネシウムとしては、合成水酸化マグネシウム、天然鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、Niなど他の元素との固溶体となったものなどが挙げられる。
【0025】
また、これら金属水酸化物の表面を、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、脂肪酸、脂肪酸金属塩等を用い、これらを周知の手法により表面処理して使用してもよい。
【0026】
本発明の組成物を、例えば電子線やγ線などを照射して架橋したり、パーオキサイドを用いて化学的に架橋することもできる。
【0027】
また、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化アルミニウム等の酸化金属化合物や、シリコーンガム、シリコーンパウダー、シリコーンオイル、シリコーングラフトポリオレフィン、ポリオルガノシロキサンとアクリルゴムの複合ゴムなどのシリコーン化合物、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウムなどのホウ酸化合物あるいは、スルファミン酸グアニジンなどの窒素系難燃剤を添加してもよい。
【0028】
さらに、燃焼時に発泡する成分と固化する成分の混合物からなる難燃剤であるインテュメッセント系難燃剤、例えば発泡成分として窒素系発泡剤が挙げられ、テトラゾール化合物などの分解温度の高い(300℃以上)のものを適宜使用してもかまわない。
【0029】
なお、これらの樹脂組成物には必要に応じて酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤の添加物を加えることができる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例および比較例を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明に係る電線10は以下の要領で作製した。
【0033】
図1に示すように、1.25mm2 の銅撚り線導体11に、表1に示す樹脂組成物を、絶縁体12として40mm押出機を用いて220〜250℃で押し出し被覆した。この絶縁体12の厚さを0.3mmとした。
【0034】
電線の評価は以下に示す方法で行った。
【0035】
(1)引張特性:
作製した電線から、芯線を抜き取り、JISC3005に従い、ショッパー型引張試験機を用いて速度200mm/minで引張り、引張強さと伸びを評価し、引張強さが30MPa以上、伸び200%以上を目標とした。
【0036】
(2)難燃性:
作製した電線をULsubject758に従い、VW−1燃焼試験を行った。15秒間炎をあて、取り去った後の延焼時間を測定した。5回の試験のうち延焼時間が最大のものを測定値とし、60秒未満で消火したものを合格、60秒以上延焼したものを不合格とした。
【0037】
(3)耐摩耗性:
UL摩耗試験機(90°シャープエッジ3枚刃)を用い、荷重を200gとしたときの往復回数を評価、100回以上を目標とした。
【0038】
表1から明らかな様に、本発明の実施例1〜5はいずれも引張特性及び難燃性、耐摩耗性に優れていることがわかる。
【0039】
一方、PBTが規定より少ない比較例1は引張強さと耐摩耗性が不十分であり、規定より多い比較例2は伸びが目標に達しない。さらにメラミンシアヌレートが少ない比較例3は難燃性が不合格となり、メラミンシアヌレートが多い比較例4は引張強さ、伸び、耐摩耗性が不合格となった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明における組成物を用いた絶縁電線の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 電線
11 導体
12 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1,3,5トリアジン誘導体を5〜100重量部混和してなる組成物において、該ポリエステル系樹脂が、ポリブチレンテレフタレート60〜95重量%、ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体5〜40重量%の混合樹脂であることを特徴とする無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体が、化1
【化1】

からなる請求項1記載の無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート−ポリエーテルブロック共重合体が、化2
【化2】

からなる請求項1記載の無リン高難燃高強度ノンハロゲン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の組成物を、導体上に被覆して成ることを特徴とする無リン高難燃高強度ノンハロゲン絶縁電線。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−254536(P2007−254536A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78829(P2006−78829)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】