説明

無励磁作動ブレーキを備えた巻上機

【課題】ボルト、支点軸等の操作手段の取着手段を設けず、極めて簡単な構成のブレーキ解放装置を提供する。
【解決手段】電磁ブレーキを包囲する電磁ブレーキカバー18のブレーキ板20の上部及び下部に対応する位置に、電磁ブレーキのアーマチュア22と受圧板21間に上下方向から差込まれる第1及び第2操作レバー26,27の差込口18a、18bをそれぞれ設け、前記第2操作レバー27は、前記差込口18bに下方から挿嵌され、アーマチュア22と受圧板21間に差込まれる差込部27aと、前記差込部27aから水平方向に折曲する操作部27bを有する無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気チェーンブロック等の巻上機に関するもので、詳しくは停電時等において、手動によって荷の巻降しを可能とする無励磁作動ブレーキ付き巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、停電時に手動で巻降しを可能とした電気チェーンブロックとして、電磁ブレーキ部のブレーキ台とアーマチュアとの間隙部に打込まれるブレーキ開放くさび用部材を設け、上記電磁ブレーキ部が取付けられたブレーキケーシングの周囲壁部に、上記くさび用部材を挿入する打込用孔を設け、停電時等において、ブレーキ開放くさび用部材をブレーキ台とアーマチュア間の間隙部に打込み電磁ブレーキを開放し、手動により巻降しを行うようにした電気チェーンブロックは公知である。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−85397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来技術は、ブレーキ開放くさび用部材をブレーキケーシングの壁部に設けた打込用径方向孔に挿入し、ハンマー等の打撃具により、ブレーキ台とアーマチュアとの間隙部に該くさび用部材を打込み、ブレーキ台とアーマチュアとの間隙部を拡大し、電磁ブレーキ部を開放し、ブレーキ板とアーマチュアとが非接触となった状態で、モータ回転軸の端部に取着したハンドルで、手動にて巻降しを行う構成のものであり、くさび用部材をブレーキ台とアーマチュアとの間隙部に打ち込んだ後は、ブレーキは解放されたままであるため、荷の降下時においてブレーキ力の調整ができないため、荷の降下速度を調整することができず、また、くさび用部材はブレーキケーシングに設けた打込用孔に挿入し、ハンマー等の打撃具によりブレーキ台とアーマチュア間に打込まれているため、くさび用部材が緩むと、ブレーキが掛かり、荷の降下動作をスムースに行うことが困難になり、また、くさび用部材が打込用孔から外れて落下するという課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するもので、無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機であって、前記電磁ブレーキを包囲する電磁ブレーキカバーのブレーキ板の上部及び下部に対応する位置に、前記電磁ブレーキのアーマチュアと受圧板間に上下方向から差込まれる第1及び第2操作レバーの上部及び下部差込口をそれぞれ設け、前記第1操作レバーは、前記上部差込口に上方から挿嵌され、アーマチュアと受圧板間に差込まれる差込部と、前記差込部から水平方向に折曲するレバー部と、前記レバー部から下方に折曲し、第2操作レバーと連結する連結部を有し、前記第2操作レバーは、前記下部差込口に下方から挿嵌され、アーマチュアと受圧板間に差込まれる差込部と、前記差込部から水平方向に折曲する操作部を有することを特徴とする。
【0006】
また、前記第2操作レバーの操作部端部に第1操作レバーとの連結を維持する抜け防止部材を設けたことを特徴とする。
【0007】
また、前記電磁ブレーキカバーの差込口に取り外し可能な封止部材を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、前記電磁ブレーキカバーの外周に電磁ブレーキカバーを包囲するファンカバーを設け、前記ファンカバーの前記ブレーキカバーの上部差込口の上方及び前記ブレーキカバーの下部差込口の下方位置に、それぞれ差込口を設け、前記差込口にシールを貼着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のブレーキ解放装置は、第1操作レバーと第2操作レバーを連結し、第1操作レバーを電磁ブレーキカバーの上方からブレーキ板に挿入する構成としたため、ボルト、支点軸等の操作手段の取着手段を設ける必要がなく、極めて簡単な構成のブレーキ解放装置を提供することができる。
【0010】
また、操作レバーに掛かる力を作業者が調整することでブレーキの制動力を可変でき、任意の降下速度で荷を降下することができる。
【0011】
また、降下速度が速くしすぎた場合は、第2操作レバーを手から離すことで、ブレーキが作動するので、荷の落下を防止することができる安全な巻上機を提供することができる。
【0012】
また、作業者が操作レバーを離した場合でも、コの字形の第1操作レバーの差込部はブレーキ装置本体に引っ掛かった状態であり、更に第2操作レバーは第1操作レバーの連結部から抜けないように抜け防止部材を有するので、電磁ブレーキカバーに下方から挿嵌される第2操作レバーの脱落を防止でき、安全なブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電気チェーンブロックの全体構成図。
【図2】操作レバーを差込んだ状態を示す電磁ブレーキの断面図。
【図3】操作レバーで電磁ブレーキを解放する状態を示す電磁ブレーキの断面図。
【図4】(a)電磁ブレーキ部の全体構成図、(b)ファンカバー部の平面図。
【図5】電磁ブレーキの構成説明図。
【図6】(a)本発明の操作レバーの全体構成図、(b)他の実施の形態の操作レバーの全体構成図。
【図7】操作レバーの取設説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は電気チェーンブロックの全体構成図で、電気チェーンブロックは、本体フレーム1を備え、本体フレーム1の一端に制御ボックス4が連結され、本体フレーム1の他端には、モータフレーム2の一端が連結され、モータフレーム2の他端にはファンカバー3が連結されている。本体フレーム1内にはチェーンブロック本体7が、モータフレーム2内にはモータ13が、ファンカバー3内には、巻上機制動用であって吊り荷の落下を防止する無励磁作動電磁ブレーキ16とモータ13と電磁ブレーキ16を冷却する冷却ファン17がそれぞれ収容されている。
【0015】
チェーンブロック本体7は図示しない周知のロードシーブと該ロードシーブを貫通する駆動軸を有し、駆動軸の一端は前記モータ13のモータ軸5に連結され、他端はロードシーブを貫通し延び、その端部外周は減速歯車機構6の大径従動歯車と噛合している。大径従動歯車は小径従動歯車及び前記歯車と噛合するロードギアを介してロードシーブを駆動し、ロードチェーン8を巻き上げ下げする。
【0016】
モータ13は、ステータ14とロータ15を備え、ステータ14はモータフレーム2内に嵌合固定されている。ロータ15は軸受31を介して回転自在に支持されたモータ軸5に固定され、ステータ14の中心部を貫通して配置されている。
【0017】
上記した通り電気チェーンブロックにおいて、ロータ15が回転し、モータ軸5が回転するとモータ軸5の回転はチェーンブロック本体7の駆動軸に伝達され、該駆動軸の端部に形成された歯車に噛合する前記減速歯車機構6を介してロードシーブに伝達され、ロードチェーン10を巻上げ、巻下ろすように構成されている。図において、9は上フック、10は下フックである。
【0018】
次に図2〜7を参照して本発明の実施の形態の電磁ブレーキ装置について説明する。
【0019】
電磁ブレーキ16は、電磁石19、ブレーキ板ボス23でモータ軸5に連結されたブレーキ板20、ブレーキ板20の両面に固着された摩擦部材20a、20b、一方の摩擦部材20aが圧接する受圧板21、他方の摩擦部材20bに圧接するアーマチュア22から構成されている。アーマチュア22は、常に図5に示すブレーキバネ24によってブレーキ板20側に付勢されており、停電等のトラブルにより電源が遮断されると、電磁石19の吸引力は解消され、アーマチュア22はブレーキバネ24の付勢力によって電磁石19から釈放され、ブレーキ板20の摩擦部材20bを押圧し、ブレーキ板20の摩擦板20aを受圧板21に押圧し、ブレーキ板ボス23を介してモータ軸5を拘束することでモータ軸5の回転を停止するため、停電時における吊り荷の落下を防止する。電磁石19の電磁コイル19aに通電されると、電磁石19によりアーマチュア22をブレーキバネ24に抗してブレーキ板20から離間させ、モータ軸5の回転拘束を開放する。図において、19aは電磁石19の電磁コイル、32は受圧板21を電磁石19に取設するボルト、33はボルト32とともに受圧板21を電磁石19に所定間隔で固定するためのスペーサである。ボルト32とスペーサ33の組みは、ブレーキ板の外周に3ヶ所以上配置されている。
【0020】
次に本実施の形態の操作レバーについて説明する。25は操作レバーで、第1操作レバー26と第2操作レバー27からなり、第1操作レバー26は、電磁ブレーキのブレーキカバー18の上方から受圧板21とアーマチュア22間に差込まれる差込部26aと、差込部26aからL字形に水平方向に折曲されるレバー部26bと、レバー部26bからL字形に垂直方向に折曲され、後記する第2操作レバー27が連結する連結部26cを有する。26dは第2操作レバー27が嵌挿される連結孔である。第2操作レバー27は、電磁ブレーキのブレーキカバー18の下方から受圧板21とアーマチュア22間に差込まれる差込部27aと、差込部27aからL字形に水平方向に折曲され、前記第1操作レバー26の連結孔26dに嵌挿され、ブレーキの解放を操作する操作部27bを有する。28は第2操作レバー27の端部に設けた抜け防止部材で操作部27が連結孔26dから抜け落ちるのを防止する。
【0021】
本実施の形態では、電磁ブレーキカバー18のブレーキ板20の上部及び下部に対応する位置に、第1操作レバー26及び第2操作レバー27の差込用差込口18a、18bがブレーキ板20の回転軸(モータ軸と同軸心)を挟んで互いに対称位置にそれぞれ設けられており、さらに、ファンカバー3には、前記電磁ブレーキカバー18の上下差込口18a、18bに対応する位置に、それぞれ第1操作レバー26及び第2操作レバー27の差込口3a、3bがそれぞれ設けられている。29は電磁ブレーキカバー18の差込口18a、18bを塞さぐゴム栓、30はファンカバー3の差込口3a、3bを塞さぐシールまたはプレートである。
【0022】
次に、操作レバー25を電磁ブレーキに装着する手順について説明する。図7(a)に示すように、電磁ブレーキカバー18の差込口18a、18bを閉塞しているゴム栓29とファカバー3の差込口3a、3bを閉塞しているシール30を取り外し、図7(b)に示すようにファンカバー3の上方差込口3aから第1操作レバー26の差込部26aを差し込み、図2に示すように、差込部26aを受圧板21とアーマチュア22間に差し込む。次に、図7(c)に示すように、第2操作レバー27の操作部27bの端部を第1操作レバー26の連結孔26dに挿通し、差込部27(a)をファンカバー3の下方差込口3bから差し込み、図2に示すように、差込部27aを受圧板21とアーマチュア22間に差し込み、図7(d)に示すように、第1操作レバー26と第2操作レバー27が連結された操作レバー25を電磁ブレーキに装着する。予め第1、第2操作レバー26、27を連結し抜け防止部材28を取り付けた後で、装着出来るようにすることが好ましい。
【0023】
操作レバー25を用いた電磁ブレーキの操作について説明する。電磁ブレーキの制動力を解除する時は、図3に示すように、第2操作レバー27の操作部27bを下方に押すことで、第2操作レバー27の差込部27aはアーマチュア22と受圧板21に当接し、差込部27aは受圧板21との当接点を支点として回動し、アーマチュア22をブレーキバネ24に抗してブレーキ板20から離間させる。同様に、第2操作レバー27を下方に押すことで、第1操作レバー26の差込部26aは受圧板21とアーマチュア22に当接し、差込部26aは受圧板21の当接点を支点として回動し、アーマチュア22をブレーキバネ24に抗してブレーキ板20から離間させる。
【0024】
本実施の形態では、ブレーキ解放操作時に、アーマチュア22は第1操作レバー26により上方から、第2操作レバー27により下方から同時にブレーキ板20から離間することで、ブレーキ板20はフリーになりモータ軸5は解放される。また、第2操作レバー27による押し下げ力を調整することで、ブレーキの制動力を調節でき、荷を安全に降下することができる。また、操作者が第2操作レバー27から誤って手を放しても、ブレーキは瞬時に作動し吊り荷を保持する。また、第2操作レバー27は第1操作レバー26に連結保持されており、第1操作レバー26の差込部26aの先端は受圧板21とアーマチュア22間に差し込まれ、差込部26aは電磁ブレーキカバー18の差し込み口18a、ファンカバー3の差し込み口3aの側壁に保持され、保持部26bはファンカバー3の上面に当接して傾きが規制されるため、操作者が第2操作レバー27から手を放しても、操作レバー25の落下は防止される。
【0025】
図6(b)には第1操作レバー26の差込部26aの先端に切り欠き部26eを設けた形態を示す。電気チェーンブロックを吊り下げ設置した状態でブレーキ板の上部に、ボルト32及びスペーサ33が配置されている場合に、それらを回避するために切り欠き部26eが設けられている。切り欠き部26eは差込部26aの幅中央に設けても良い。第1操作レバー26、第2操作レバー27は上記実施の形態で示した形状に限定されない。
【符号の説明】
【0026】
3 ファンカバー
5 モータ軸
16 電磁ブレーキ
18 ブレーキカバー
19 電磁石
20 ブレーキ板
20a、20b 摩擦部材
21 受圧板
22 アーマチュア
24 ブレーキバネ
26 第1操作レバー
27 第2操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機であって、前記電磁ブレーキを包囲する電磁ブレーキカバーのブレーキ板の上部及び下部に対応する位置に、前記電磁ブレーキのアーマチュアと受圧板間に上下方向から差込まれる第1及び第2操作レバーの上部及び下部差込口をそれぞれ設け、前記第1操作レバーは、前記上部差込口に上方から挿嵌され、アーマチュアと受圧板間に差込まれる差込部と、前記差込部から水平方向に折曲するレバー部と、前記レバー部から下方に折曲し、第2操作レバーと連結する連結部を有し、前記第2操作レバーは、前記下部差込口に下方から挿嵌され、アーマチュアと受圧板間に差込まれる差込部と、前記差込部から水平方向に折曲する操作部を有することを特徴とする無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機。
【請求項2】
前記第2操作レバーの操作部端部に第1操作レバーとの連結を維持する抜け防止部材を設けたことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機。
【請求項3】
前記電磁ブレーキカバーの差込口に取り外し可能な封止部材を設けたことを特徴とする請求項1記載の無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機。
【請求項4】
前記電磁ブレーキカバーの外周に電磁ブレーキカバーを包囲するファンカバーを設け、前記ファンカバーの前記ブレーキカバーの上部差込口の上方及び前記ブレーキカバーの下部差込口の下方位置に、それぞれ差込口を設け、前記差込口にシールを貼着したことを特徴とする請求項3記載の無励磁作動電磁ブレーキを備えた巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−201440(P2012−201440A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65930(P2011−65930)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)