無効電力補償装置
【課題】ハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置において、追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなく稼働することができるようにする。
【解決手段】三相交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う三相交流の各相に対応するクラスター1u,1v,1wを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、クラスター1u,1v,1wからの出力電圧の波形の制御のための高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの出力電圧モードの切り替えの境界値に電圧偏差ΔVHL'及びΔVML'を加算することによって高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間で電力のやり取りを行って各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにした。
【解決手段】三相交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う三相交流の各相に対応するクラスター1u,1v,1wを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、クラスター1u,1v,1wからの出力電圧の波形の制御のための高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの出力電圧モードの切り替えの境界値に電圧偏差ΔVHL'及びΔVML'を加算することによって高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間で電力のやり取りを行って各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無効電力補償装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、電力系統用の自励式無効電力補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自励式無効電力補償装置は、電力系統に接続され、無効電力を発生又は消費することによって系統電圧の調整や安定度の向上のために用いられる。
【0003】
従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置としては例えば、図19に示すように、カスケード変換器を用いたものがある。この自励式無効電力補償装置は、セルと呼ばれる単相フルブリッジコンバータモジュール(図19中では「 con. 」と表記)を一要素とし、複数のセルの交流端子を直列接続(これをカスケード接続と呼ぶ)することによって高い電圧を出力可能とするものである。例えば、各セルの直流コンデンサの電圧(以下、直流電圧ともいう)を1〔kV〕に設定したセル(符号con.1 〜 con.6)を6段直列接続すると、線間25レベル,7〔kV〕(=1〔kV〕×6段×√(3/2))の交流電圧波形を出力することができ、6.6〔kV〕の三相高圧配電系統に変圧器を用いることなく連系することができる(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1の自励式無効電力補償装置では、全てのセルは同一の構成で良いものの、出力電圧の波形のレベル数を増加させるにはレベル数に比例した段数のセルを接続する必要がある。なお、上述の変換器の出力電圧は離散的な値をとって階段状の波形になるところ、この階段状波形の段数のことをレベル数という。
【0005】
そこで、カスケード変換器において少ない直列数で出力電圧の波形のレベル数を増加させる方法としてハイブリッド形構成が提案されている。これを適用したハイブリッド形カスケード変換器は、直流電圧を異なる値に設定したセルを直列接続し、それらの直流電圧を予め定めた論理に従って合成することで必要な出力電圧を得るものである。セルを構成する単相フルブリッジコンバータは、−1,0,1の三つの出力電圧を選択することができるので、直流電圧を1:3:9:…:3nという比に設定すると最大の出力レベル数を得ることができる。また、スイッチング回数の低減や、スイッチングに冗長性を持たせて電圧制御を行うために他の電圧比を利用する場合もある。
【0006】
そして、上述のハイブリッド形カスケード変換器を用いた従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置としては例えば、図20に示すように、直流電圧をそれぞれ3.2〔kV〕,1.6〔kV〕,0.8〔kV〕に設定したセルをカスケード接続することによって3直列で線間29レベルの電圧を出力することができ、6.6kV配電系統への直接連系を行うことができるものがある(非特許文献2)。
【0007】
具体的には、交流端子を直列接続した3台の単相フルブリッジコンバータがリアクトルを介して三相交流配電系統に連系される。そして、ハイブリッド形カスケード変換器システムとしては、直流電圧の基準値が4VcN〔V〕,2VcN〔V〕,VcN〔V〕のように電圧比が4:2:1の単相コンバータが直列に接続されたものが用いられる。なお、基準直流電圧VcNは出力電圧の階段状波形における1ステップの電圧幅であり、当該基準直流電圧VcN〔V〕の大きさはアプリケーションに応じて適宜決定される。例えば三相6.6kV系統にトランスレスで適用される場合には基準直流電圧VcNを0.8〔kV〕程度とし、直流コンデンサ電圧の基準値がVcH=3.2〔kV〕,VcM=1.6〔kV〕,VcL=0.8〔kV〕程度になるように設定する。
【0008】
そして、非特許文献2の装置では、直流電圧の基準値が4VcN〔V〕,2VcN〔V〕の単相コンバータのコンデンサ電圧VcH,VcMの比率を常に4:2に維持する方法として、2台の単相コンバータの出力電圧の合計(=VsH+VsM)が±2VcN〔V〕のタイミングでのスイッチングパターンを二通り設定し、それぞれのパターンで充電されるコンデンサと放電されるコンデンサとが異なるようにしている。一方で、直流電圧の基準値がVcN〔V〕の単相コンバータは、基準値が4VcN〔V〕の単相コンバータ及び2VcN〔V〕の単相コンバータの出力電圧の合計と目標電圧との差分を出力するようにするため、出力電圧に対してスイッチングパターンが一意に定まる。したがって、基準値が4VcN〔V〕,2VcN〔V〕の単相コンバータのコンデンサのような充放電の調整をすることができない。このため、基準値がVcN〔V〕の単相コンバータには、直流コンデンサではなく、AC−DCコンバータ等の補助電源が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】吉井剣・井上重徳・赤木泰文「6.6kV トランスレス・カスケードPWM STATCOM -三相200V 10kVAミニモデルによる動作検証-」,電気学会論文誌D,Vol.127,No.8,pp.781−788,2007年
【非特許文献2】羽田野伸彦・岸田行盛・岩田明彦「階調制御型変換器を用いた自励式無効電力補償装置」,電気学会論文誌D,Vol.127,No.8,pp.789−795,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、非特許文献2の自励式無効電力補償装置では、最低電圧を出力するセル(即ち、直流電圧の基準値がVcN〔V〕の単相コンバータ)は直流部の電圧を制御することができないので、直流電圧を所定の値に保つために直流部に電力を供給する必要があり追加的な補助電源としての絶縁型直流電源を別途必要とする。このため、i)直流電源のコストがかかってしまう,ii)装置構成が複雑になってしまう,iii)入出力間に配電線電圧(即ち6.6〔kV〕)相当の高電圧が印加されるので高い絶縁性能を必要とするために装置全体の体積が大きくなってしまうと共にコストがかかる、という問題があり、結果的にこれらの問題が設置上の制約となることもあるという点において汎用性が高いとは言い難い。
【0011】
そこで、本発明は、追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなく稼働することができるハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記高圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めると共に前記中圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めることによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0013】
この無効電力補償装置によると、ハイブリッド形カスケード変換器において各セルの出力電圧パルスを調整することによって同一相を構成する(言い換えると、同一クラスターの)セル間の電力融通を可能にしているので、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなる。
【0014】
また、請求項2記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHLy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHLy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0015】
また、請求項3記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVHLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVHLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0016】
また、請求項4記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0017】
また、請求項5記載の無効電力補償装置は、前記三相毎に請求項2から4に記載のエネルギー移動の方法のうちのいずれか一つが用いられ、前記三相のうちの全て若しくは少なくとも一部においてエネルギー移動の方法が他の相と異なるようにしている。
【0018】
これらの無効電力補償装置によると、ハイブリッド形カスケード変換器において最低電圧を出力するセルの電圧を基準直流電圧よりも少し増加させ、同時に各セルの出力電圧パルスを調整することによって同一相を構成する(言い換えると、同一クラスターの)セル間の電力融通を可能にしているので、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなる。
【0019】
また、請求項6記載の発明は、請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置において、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=6:2:k(ただし、1<k<2)であるようにしている。また、請求項7記載の発明は、請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置において、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=4:2:k(ただし、1<k<2)であるようにしている。これらの場合には、各セルの出力電圧の比率が適切なものになり、三相交流の各相に対応するクラスターからの出力電圧の波形が良好なものになる。
【0020】
また、請求項8記載の発明は、請求項6または7記載の無効電力補償装置において、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyの比kの値が1.01〜1.3であるようにしている。この場合には、低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyの大きさが基準直流電圧Vdcとの関係において適切なものになり、三相交流の各相に対応するクラスターからの出力電圧の波形がより一層良好なものになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無効電力補償装置によれば、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなるので、従来と比べて装置構成が簡便で小型,低コストの無効電力補償装置を構成することができ、無効電力補償装置としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の無効電力補償装置の実施形態の一例のシステム構成を示す図である。
【図2】本発明の無効電力補償装置の実施形態の一例の制御システムブロック図である。
【図3】電圧比6:2:kの場合に表1の条件を適用した際の各セルの出力電圧の波形を示す図である。
【図4】表1の条件を用いた制御を自励式無効電力補償装置に適用した場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図5】実施形態の無効電力補償装置における高圧セルから低圧セルへとエネルギーを移動させる場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図6】実施形態の無効電力補償装置における中圧セルから低圧セルへとエネルギーを移動させる場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図7】実施形態の無効電力補償装置における高圧セルから中圧セルへとエネルギーを移動させる場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図8】実施形態の無効電力補償装置における段間直流電圧比制御のイメージ図である。(A)は電圧偏差ΔVHLy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する場合のイメージ図である。(B)は電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVHLy'とを同時に加算する場合のイメージ図である。(C)は電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する場合のイメージ図である。
【図9】実施形態の無効電力補償装置における有効・無効電力制御のブロック図である。
【図10】実施形態の無効電力補償装置における相間直流電圧バランス制御のブロック図である。
【図11】実施形態の無効電力補償装置における段間直流電圧比制御のブロック図である。
【図12】本発明の無効電力補償装置における段間直流電圧比制御のその他のパターンの一例を示す図である。
【図13】実施例1におけるセル間のエネルギー制御がない場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図14】実施例1における高圧セルのエネルギー制御をした場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図15】実施例1における中圧セルのエネルギー制御をした場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図16】実施例1における高圧セルと中圧セルとのエネルギー制御を併用した場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図17】実施例1におけるハイブリッド形カスケード変換器の始動時のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】実施例1における定常動作中に電圧制御を無効にした場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図19】カスケード変換器を用いた従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置のシステム構成を示す図である。
【図20】ハイブリッド形カスケード変換器を用いた従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置のシステム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1から図11に、本発明の無効電力補償装置の実施形態の一例を示す。この無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う三相交流の各相に対応するクラスター1u,1v,1wを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、高圧セル1Hyの直流コンデンサの電圧VCHy,中圧セル1Myの直流コンデンサの電圧VCMy,低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、クラスター1u,1v,1wからの出力電圧の波形の制御のための高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの出力電圧モードの切り替えの境界値に、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、クラスター1u,1v,1wからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHLy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHLy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間で電力のやり取りを行って各セル1Hy,1My,1Lyの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。そして、本実施形態では、高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間での電力のやり取りによる各セル1Hy,1My,1Lyの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyの制御は、具体的には、高圧セル1Hy及び中圧セル1Myから電力を流出(言い換えると、放電)若しくは流入(言い換えると、充電)させて低圧セル1Lyに電力を流入若しくは流出させるようにしている。
【0025】
ここで、以下の説明においては、添字yは三相交流の三相u,v,wのうちのいずれかを意味するものとして用い、添字xは高圧H,中圧M,低圧Lのうちのいずれかを意味するものとして用いる。また、記号*は指令値であることを意味するものとして用いる。
【0026】
(1)回路構成
ハイブリッド形カスケード変換器を用いた本発明の自励式無効電力補償装置の実施形態の構成を図1に示す。具体的には、単相フルブリッジコンバータで構成されるセル(高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Ly)を三つ直列接続することで1相分を構成(以下、三相のu相に対応するものをクラスター1u,v相に対応するものをクラスター1v,w相に対応するものをクラスター1wという)する。そして、本実施形態では、三つのセル1Hy,1My,1Lyは、直流コンデンサ(容量Cx)の電圧(即ち、直流電圧)の比がVCHy:VCMy:VCLy=6:2:k(ただし、1<k<2)になるように制御される。そして、同一クラスターを構成する三つのセル1Hy,1My,1Lyの出力電圧の波形を合成することで各クラスター1u,1v,1wとして正弦波状の出力電圧波形が得られるようにする。
【0027】
高圧配電系統に連系する場合には、電源の線間電圧Vsは6.6〔kV〕であり、各セル1Hy,1My,1Lyの直流電圧は、本実施形態ではk=1.2の場合として、電圧が最も高い高圧セル1HyでVCHy=3.6〔kV〕,電圧が次に高い中圧セル1MyでVCMy=1.2〔kV〕,電圧が最も低い低圧セル1LyでVCLy=0.72〔kV〕にされている。なお、低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyの比kの値は、各セル1xyの出力電圧VCxyの比率を適切なものにするためには1<k<2であれば良いが、三相交流の各相に対応するクラスター1u,1v,1wからの出力電圧の波形を高調波の少ない良好なものにするために、できる限り小さな値とするのが好ましい。具体的には例えば、本発明の効果を発現させると共に出力電圧の波形を良好なものにするためにkの値を1.01〜1.3程度の範囲とすることが好ましいと考えられる。
【0028】
(2)制御システム
全て同一電圧のセルで構成する従来型のカスケード変換器の制御法としては、有効・無効電力制御,相間直流電圧バランス制御,段間直流電圧バランス制御の三つの階層で構成する方式が提案されている(例えば、前出の非特許文献1や、井上重徳 他「カスケードPWM変換器と二次電池を使用した6.6kVトランスレス電力貯蔵システム -200V,10kW,3.6kWhミニモデルによる実験検証-」,電気学会論文誌D,Vol.129,No.1,pp.67−76,2009年(以下、非特許文献3という)を参照)。
【0029】
有効・無効電力制御は、三相を構成する三つのクラスター1u,1v,1wをまとめて一つの三相変換器とみなし、変換器全体に流入する有効電力・無効電力を制御する。
【0030】
相間直流電圧バランス制御では、クラスター1u,1v,1wの各々を一つの単相変換器とみなし、三相のクラスター1u,1v,1w間において電力を調整することでクラスター1u,1v,1w間の蓄積エネルギーを均等化する。
【0031】
段間直流電圧バランス制御では、同一クラスターを構成するセル1Hy,1My,1Ly間で電力を調整することにより各セル1Hy,1My,1Lyの蓄積エネルギーを所定の値に制御する。
【0032】
ハイブリッド形カスケード変換器では、従来のカスケード変換器と比較して、クラスター内部の構成は異なる一方で、クラスターから上位の構成は同一とみなすことができる。よって、有効・無効電力制御,相間直流電圧バランス制御は従来と同様の手法を適用できる。一方で、同一クラスター内の電圧制御には従来の段間直流電圧バランス制御を適用することができない。このため、本発明では、これを実施するために新たに開発した段間直流電圧比制御を用いる。
【0033】
ハイブリッド形カスケード変換器を用いた本発明の自励式無効電力補償装置の制御ブロック図を図2に示す。
【0034】
有効・無効電力制御は、電源電圧vSyと出力電流iyとから自励式無効電力補償装置の動作に必要な電圧指令値vy*を生成する(図2中の符号2;図9を用いて後に詳述する)。この際、無効電力を指令値q*に追従させると同時に、変換器全体の蓄積エネルギーの総和ECを指令値EC*に一致させるように制御する。なお、無効電力指令値q*は、電力系統の電圧を適切に制御するように、上位の制御システム若しくは作業者によって与えられる。
【0035】
相間直流電圧バランス制御は、各相を構成するクラスター1u,1v,1w間において蓄積エネルギーECyが均一となるように、変換器の電圧指令値vy*に零相電圧v0*を重畳し、出力電圧指令値vout-y*を生成する(同符号3;図10を用いて後に詳述する)。
【0036】
段間直流電圧比制御は、同一クラスターを構成する各セルの蓄積エネルギーECxyを指令値に一致させるように電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLy,ΔVHMyを生成する(同符号4;図11を用いて後に詳述する)。
【0037】
ここで、本発明における電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLy,ΔVHMyについては、基準直流電圧Vdcと、前述の低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyの比kとに基づいて、(k−1)×Vdc〔V〕以下であることが必要とされる。
【0038】
最後に、上記の出力電圧指令値vout-y*と電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLy,ΔVHMy(極性を考慮した電圧偏差ΔVHLy',ΔVMLy',ΔVHMy')とから、表2に示す電圧分配ルールに基づいて各セル1xyの出力電圧指令値vxy*が決定される。
【0039】
そして、各セル1xyの直流電圧の制御では、検出した直流コンデンサの電圧vCxyにローパスフィルタ(図2中の符号LPF)を施して求めた平均値VCxyと既知のコンデンサ容量Cxとから直流コンデンサの蓄積エネルギーECxyを数式1によって算出し(図2中の符号5)、これを指令値に追従させるようにフィードバック制御を構成する。
【数1】
【0040】
ハイブリッド形カスケード変換器のように各セル1xyの直流電圧VCxyとコンデンサ静電容量Cxとが異なる場合でも、蓄積エネルギーの和であれば容易に計算することができ、複数のセルをまとめて制御するようなシステムの構成が容易になる。
【0041】
相間直流電圧バランス制御では各クラスター1u,1v,1w内の蓄積エネルギーの総和ECyを高圧・中圧・低圧の各セルの蓄積エネルギーECHy,ECMy,ECLyより数式2によって求め、この蓄積エネルギーECyを三相u,v,w間で均一化するように制御する。
(数2) ECy=ECHy+ECMy+ECLy
【0042】
また、有効・無効電力制御では、変換器の蓄積エネルギーの総和ECを数式3によって求め、この総和ECが変換器全体の蓄積エネルギー指令値EC*と一致するように制御する。
(数3) EC=ECu+ECv+ECw
【0043】
ここで、各セル1xyの蓄積エネルギー指令値ECx*は、高圧・中圧・低圧の各セルの電圧指令値VCx*から数式4によって定められる。なお、各セル1xyの電圧指令値VCx*は、交流系統の電源線間電圧Vsを変換器が出力可能なように、変換器の設計者若しくは運転者によって決定されて与えられる。具体的には例えば、はじめに基準直流電圧Vdcと直流電圧比(本実施形態の場合は6:2:k)を回路設計者が決定し、次いでVCH*=6Vdc,VCM*=2Vdc,VCL*=kVdcになるように各セルの電圧指令値VCx*が決定されて与えられる。
【数4】
【0044】
そして、変換器全体の蓄積エネルギー指令値EC*は数式5によって定められる。
(数5) EC*=3(ECH*+ECM*+ECL*)
【0045】
(3)ハイブリッド形カスケード変換器の各セルの出力電圧
表1に、従来のハイブリッド形カスケード変換器による直流電圧比VCH*:VCM*:VCL*=6:2:k(1≦k<2)の場合の各セルの出力電圧の関係を示す。基準直流電圧Vdcを用い、VCH*=6Vdc,VCM*=2Vdc,VCL*=kVdcと表す。なお、基準直流電圧Vdc〔V〕の大きさはアプリケーションに応じて適宜決定される。
【表1】
【0046】
出力電圧指令値vout*が与えられると、表1に示す条件(言い換えると、動作規則)によって高圧セル1Hyの出力電圧vH(各相別に考えるとvHy),中圧セル1Myの出力電圧vM(各相別に考えるとvMy)が一意に定められる。そして、低圧セル1Lyの出力電圧vL(各相別に考えるとvLy)は数式6によって与えられ、これをパルス幅変調によって出力する。
(数6) vL=vout*−vH−vM
【0047】
このとき、数式6で与えられる出力電圧vLは数式7を満たす波形となり、低圧セル1Lyの直流電圧は基準直流電圧Vdc以上、すなわち1≦kであれば良い。
(数7) −Vdc ≦ vL ≦ Vdc
【0048】
出力電圧指令値vout*として振幅9Vdcの正弦波を与えた場合の出力電圧波形を図3に示す。この例では、高圧セル1Hyは電源1周期に正負一つずつパルスを出力し、中圧セル1Myは電源1周期に正負各5パルスを出力する。出力電圧voutから,高圧セルの出力電圧vHと中圧セルの出力電圧vMとを差し引いた偏差を計算し,低圧セル1Lyが当該偏差分の電圧を出力する。
【0049】
そして、図4に、表1に示す動作規則を用いたハイブリッド形カスケード変換器を自励式無効電力補償装置に適用した場合の各セル1xyの電圧波形vxと流入電力vx・iとを示す。
【0050】
自励式無効電力補償装置として動作する場合、出力電圧voutと出力電流iとは90度の位相角をなす。また、高圧セル1Hy・中圧セル1My・低圧セル1Lyの交流側は直列接続されるため、いずれのセルも交流端子電流はi(各相別に考えるとiy)に等しい。したがって、各セルに流入する電力は、各セルの出力電圧vH,vM,vLとiとの積になる。
【0051】
この電力は電源周期で平均すると原理的には零になり、平均値としては各セルに有効電力は流入せず直流電圧は変化しない。しかしながら、過渡時の非周期的な電流や素子のスイッチング特性のばらつきなどによって実際には各セルに有効電力が流入することがあり、各セルの直流電圧比が6:2:kから逸脱することがある。直流電圧比が既定値から逸脱すると出力電圧の波形に歪みを生じるため、何らかの方法によって直流電圧比を保つ必要がある。
【0052】
一般に、クラスター1u,1v,1w毎に三つのセル1Hy,1My,1Lyの直流電圧の比を制御する場合、制御に二つの自由度が必要とされる。本発明では、各セルの出力電圧位相を調整することにより、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間の蓄積エネルギーのやり取りと、中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間の蓄積エネルギーのやり取りとを同時に実現する。これにより、二つの制御自由度が得られ、直流電圧比を一定に保つことを可能にする。このようにすることにより、本発明においては、三つのセル1Hy,1My,1Lyの直流部のいずれにも電源を接続する必要が一切なくなる。
【0053】
セル間のエネルギー移動を可能にするための本発明におけるハイブリッド形カスケード変換器における各セルの出力電圧を表2に示す。
【表2】
【0054】
各セルの出力電圧モードを切り替える境界値に、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHL'(各相別に考えるとΔVHLy'),中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVML'(各相別に考えるとΔVMLy'),高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHM'(各相別に考えるとΔVHMy')を所定の組み合わせで加算することにより、出力電圧モードが切り替わるタイミングが変更され、各セル間のエネルギー移動が生じる。なお、ΔVHL'及びΔVML'及びΔVHM'を0に設定すると、表2は表1と一致し、各セル間のエネルギー移動は生じない。
【0055】
そして、本発明においては、三つのセルの直流部への電源の接続を省くため、例えば、i)高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動及びii)中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用する、或いは、iii)高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及びi)高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用する、或いは、iii)高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及びii)中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用する。ここで、以下の処理は三相交流の三相u,v,w別に行うことが基本であり、以下の説明においては三相u,v,w別(言い換えると、クラスター1u,1v,1w毎)に考えることが基本であるので、当該三相u,v,wのうちのいずれかを意味する添字yを適宜省略する。
【0056】
以下では、まず、上述のi)高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動,ii)中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動,iii)高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動のそれぞれについて説明する。その後、三つのセルの直流部への電源の接続を省くための本発明の、i)及びii)を利用する方法,iii)及びi)を利用する方法,iii)及びii)を利用する方法のそれぞれについて説明する。
【0057】
i)高圧セルと低圧セルとの間でのエネルギー移動
まず、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動について説明する。高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間で電力のやり取りを行うことを可能にするため、電圧レベル偏差ΔVHLを操作することにより、各セルの出力電圧を変化させる。この電圧レベル偏差ΔVHLと出力電流iとによって数式8のようにΔVHL'の極性を選択する。そして、電圧レベル偏差ΔVHLを増加させる(零より大きくする)と、高圧セル1Hyから低圧セル1Lyへと移動する電力を増加させることができる。
【数8】
【0058】
電圧レベル偏差ΔVHLを増加させた場合の各セルの電圧・電力波形を図5に示す。図5においては、細線はΔVHL=0として制御を行わない場合の波形であり、太線はΔVHL>0として制御を行った場合の波形である。なお、いずれの場合においてもΔVML=ΔVHM=0に設定している。
【0059】
制御適用時は高圧セル1Hyの出力電圧vHは位相が遅れる。これにより、高圧セル1Hyの流入電力PH(=vH・i)が変化する。制御適用前後での流入電力PHの差ΔPHは当該ΔPHの波形の4箇所において全て負の極性で発生する。したがって、高圧セル1Hyから電力が流出する。
【0060】
一方、中圧セル1Myの出力電圧vMは、高圧セル1Hyのスイッチング時及びその直前直後のスイッチングにおいてタイミングが遅れる。これにより、中圧セル1Myの流入電力PM(=vM・i)の制御適用前後での差ΔPMは、当該ΔPMの波形において正の極性で4回及び負の極性で8回の振幅半分のパルスが発生するが、電源1周期で平均するとほぼ零になる。したがって、中圧セル1Myへの電力流入は殆ど発生しない。
【0061】
また、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて決定される。このとき、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式9によって表される範囲を取り得る。
(数9) −Vdc−|ΔVHL|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHL|
【0062】
そして、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式9によって表される全領域の電圧を出力することができるように、低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式10を満たすように設定する必要がある。したがって、直流電圧VCLは基準直流電圧Vdcよりも高く設定される。
(数10) VCL ≧ Vdc+|ΔVHL|
【0063】
そして、低圧セル1Lyの流入電力PL(=vL・i)の制御適用前後での差ΔPLは、当該ΔPLの波形において正のパルスが12回発生し、その平均値は正になる。つまり、低圧セル1Lyには電力が流入する。これにより、高圧セル1Hyから低圧セル1Lyへのエネルギーの移動を生じさせることができる。
【0064】
ii)中圧セルと低圧セルとの間でのエネルギー移動
次に、中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動について説明する。中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間で電力のやり取りを行うことを可能にするため、電圧レベル偏差ΔVMLを操作することにより、各セルの出力電圧を変化させる。この場合も、出力電流iによって数式11に示すようにΔVML'の極性を選択する。そして、電圧レベル偏差ΔVMLを増加させる(零より大きくする)と、中圧セル1Myから低圧セル1Lyへと移動する電力を増加させることができる。
【数11】
【0065】
電圧レベル偏差ΔVMLを増加させた場合の各セルの電圧・電力波形を図6に示す。図6においては、細線はΔVML=0として制御を行わない場合の波形であり、太線はΔVML>0として制御を行った場合の波形である。なお、いずれの場合においてもΔVHL=ΔVHM=0に設定している。
【0066】
この制御では、高圧セル1Hyの出力電圧vHは変化せず、高圧セル1Hyに電力の流入は生じない。一方で、中圧セル1Myは出力電圧vMの位相が遅れる動作となり、中圧セル1Myから電力が流出する。
【0067】
そして、低圧セル1Lyは中圧セル1Myに連動して出力電圧vLを変更するため、低圧セル1Lyに電力が流入する。これにより、中圧セル1Myから低圧セル1Lyへのエネルギーの移動を生じさせることができる。
【0068】
また、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて決定される。このとき、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式12によって表される範囲を取り得る。
(数12) −Vdc−|ΔVML|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVML|
【0069】
そして、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式12によって表される全領域の電圧を出力することができるように、低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式13を満たすように設定する必要がある。したがって、直流電圧VCLは基準直流電圧Vdcよりも高く設定される。
(数13) VCL ≧ Vdc+|ΔVML|
【0070】
iii)高圧セルと中圧セルとの間でのエネルギー移動
次に、高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動について説明する。高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間で電力のやり取りを行うことを可能にするため、電圧レベル偏差ΔVHMを操作することにより、各セルの出力電圧を変化させる。この場合も、出力電流iによって数式14に示すようにΔVHM'の極性を選択する。そして、電圧レベル偏差ΔVHMを増加させる(零より大きくする)と、高圧セル1Hyから中圧セル1Myへと移動する電力を増加させることができる。
【数14】
【0071】
電圧レベル偏差ΔVHMを増加させた場合の各セルの電圧・電力波形を図7に示す。図7においては、細線はΔVHM=0として制御を行わない場合の波形であり、太線はΔVHM>0として制御を行った場合の波形である。なお、いずれの場合においてもΔVHL=ΔVML=0に設定している。
【0072】
制御適用時は高圧セル1Hyの出力電圧vHは位相が遅れ、高圧セル1Hyから電力が流出する。また、中圧セル1Myの出力電圧vMも変化し、中圧セル1Myの流入電力PM(=vM・i)が変化する。制御適用前後での流入電力PMの差ΔPMは正の極性で4回発生する。したがって、中圧セル1Myに電力が流入する。これにより、高圧セル1Hyから中圧セル1Myへのエネルギーの移動を生じさせることができる。
【0073】
なお、低圧セル1Lyは中圧セル1Myに連動して出力電圧vLを変更するが、低圧セル1Lyの流入電力PL(=vL・i)の制御適用前後での差ΔPLは、当該ΔPLの波形において正の極性で4回及び負の極性で4回発生し、平均すると電力のやり取りは発生しない。
【0074】
また、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて決定される。このとき、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式15によって表される範囲を取り得る。
(数15) −Vdc−|ΔVHM|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHM|
【0075】
そして、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式15によって表される全領域の電圧を出力することができるように、低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式16を満たすように設定する必要がある。したがって、直流電圧VCLは基準直流電圧Vdcよりも高く設定される。
(数16) VCL ≧ Vdc+|ΔVHM|
【0076】
A)上記i及びiiを利用する方法
この場合は、高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの両方の電圧制御を同時に行うために電圧偏差ΔVHLy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する。この場合の段間直流電圧比制御のイメージ図を図8(A)に示す。なお、図8においては、図中の矢印が、セル間でのエネルギーのやり取りの状況、言い換えると、セル間でのエネルギーのやり取りの有無を表している。また、本明細書の説明では、特定する必要がある場合には、以下に述べる方法Bや方法Cではなく当該方法Aを前提としている。
【0077】
そして、この場合は、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式9及び数式12に加えて数式17の範囲を取り得る。さらに、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式9,数式12,数式17の三つの全領域の電圧を出力することができるように低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式18−1,18−2,18−3の三つの方程式を満たすように設定する必要がある。
(数17) −Vdc−|ΔVHLy+ΔVMLy|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHLy+ΔVMLy|
(数18−1) VCL ≧ Vdc+|ΔVHLy|
(数18−2) VCL ≧ Vdc+|ΔVMLy|
(数18−3) VCL ≧ Vdc+|ΔVHLy+ΔVMLy|
B)上記iii及びiを利用する方法
この場合は、電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVHLy'とを同時に加算する。この場合の段間直流電圧比制御のイメージ図を図8(B)に示す。
【0078】
そして、この場合は、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式15及び数式9に加えて数式19の範囲を取り得る。さらに、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式9,数式15,数式19の三つの全領域の電圧を出力することができるように低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式20−1,20−2,20−3の三つの方程式を満たすように設定する必要がある。
(数19) −Vdc−|ΔVHMy+ΔVHLy|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHMy+ΔVHLy|
(数20−1) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy|
(数20−2) VCL ≧ Vdc+|ΔVHLy|
(数20−3) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy+ΔVHLy|
C)上記iii及びiiを利用する方法
この場合は、高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの両方の電圧制御を同時に行うために電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する。この場合の段間直流電圧比制御のイメージ図を図8(C)に示す。
【0079】
そして、この場合は、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式15及び数式12に加えて数式21の範囲を取り得る。さらに、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式12,数式15,数式21の三つの全領域の電圧を出力することができるように低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式22−1,22−2,22−3の三つの方程式を満たすように設定する必要がある。
(数21) −Vdc−|ΔVHMy+ΔVMLy|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHMy+ΔVMLy|
(数22−1) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy|
(数22−2) VCL ≧ Vdc+|ΔVMLy|
(数22−3) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy+ΔVMLy|
【0080】
なお、本発明においては、各セル1xyの検出された直流コンデンサの電圧vCxyにより、低圧セル1Lyに電力が流入する場合も低圧セル1Lyから電力が流出する場合もあり得る。すなわち、クラスター1u,1v,1w毎に各セル1xy間の特性の微小なばらつきに起因して一部のセルの直流電圧vCxyが上昇すると共に一部のセルの直流電圧vCxyが低下して既定値から乖離していくという状況が発生し得るところ、本発明では、低圧セル1Lyの直流電圧vCLyが既定値よりも低い状況では低圧セル1Lyに電力が流入するように制御が働き、一方、低圧セル1Lyの直流電圧VCLyが既定値よりも高い状況では低圧セル1Lyから電力が流出するように制御が働く。そして、高圧セル1Hy及び中圧セル1Myにおいても同様に電力が流入する場合と流出する場合とがあり得る。
【0081】
(4)自励式無効電力補償装置の制御法
以下に、本発明の自励式無効電力補償装置の制御方法について説明する。
【0082】
(4−1)有効・無効電力制御
本発明における有効・無効電力制御の方法としては従来の方法を用いることができる(図9参照;例えば、前出の非特許文献1を参照)。
【0083】
具体的には、三相を構成するクラスター1u,1v,1wを1台の三相系統連系変換器と考えて制御を行う。出力電流iyと電源電圧vSyを、それぞれdq変換(図9中の符号9a,9b)により出力電流のd軸成分id、q軸成分iq、及び電源電圧のd軸成分vSd、q軸成分vSqに分離して、dq座標上で非干渉電流制御を適用する。
【0084】
三相カスケード変換器の蓄積エネルギーの総和ECと指令値EC*との偏差を取り(同符号10)、これらを一致させるようにフィードバック制御器(同符号11;なお、KCは制御器の比例ゲインを表す)により変換器全体に流入する瞬時有効電力p*を算出する。当該瞬時有効電力p*と瞬時無効電力指令値q*とを用い、変換器がこれらを出力するように電流指令値id*とiq*とを求める(同符号12a,12b)。
【0085】
そして、電流指令値id*,iq*と、実際の出力電流id,iqの偏差を取り(同符号13a,13b)、比例積分制御器を用いて電流フィードバック制御を構成する(同符号14a,14b;なお、K1は電流制御器の比例ゲイン,sはラプラス演算子(微分演算子),T1は電流制御器の積分時定数をそれぞれ表す)。交流リアクトルにおける電圧降下を打ち消すための項と電源電圧のフィードフォワード項との和を取り(同符号15a,15b)、逆dq変換を施して三相電圧指令値vu*,vv*,vw*を出力する(同符号16)。なお、図9においてωは電源電圧の角周波数を表し、図9及び図1においてLACは交流リアクトルのインダクタンスをそれぞれ表す。
【0086】
(4−2)相間直流電圧バランス制御
また、本発明における相間直流電圧バランス制御の方法としても従来の方法を用いることができる(図10参照;例えば、前出の非特許文献3を参照)。
【0087】
一般に、三相平衡な電流を出力する三相電力変換器において、その三相電圧指令値vu*,vv*,vw*に基本波零相電圧v0*を重畳すると、相間で電力の受け渡しが行われる。重畳する零相電圧v0*の振幅によって相間で受け渡しを行う電力の大きさが決定し、その電力は位相φ0と同位相の電圧を出力するクラスターへと流入する。
【0088】
相間直流電圧バランス制御では、三相を構成するクラスター1u,1v,1w間の電力が均一となるようにフィードバック制御を用いて基本波零相電圧v0*を算出する(図10中の符号20から符号21まで)。なお、図10において、ΔECα,ΔECβは、各クラスターのエネルギー偏差ΔECu,ΔECv,ΔECwに対して三相二相変換を施したα軸,β軸成分,K0は相間エネルギー制御器の比例ゲイン,φ0は零相電圧v0*の位相,ωは電源電圧の角周波数,tは時刻をそれぞれ表す。
【0089】
そして、基本波零相電圧v0*を前述の有効・無効電力制御で決定される三相電圧指令値vu*,vv*,vw*に重畳することにより(図2参照)、各クラスター1u,1v,1w間の電力が調整されて各クラスターの蓄積エネルギーECyが均一に保たれる。
【0090】
(4−3)段間直流電圧比制御
一方で、段間直流電圧比制御については本発明特有の方法を用いる。まず、表2に示した電圧分配条件を適用すると、電圧偏差ΔVHLy',ΔVMLy',ΔVHMy'を与えることで各セルの蓄積エネルギーを調整することができる。本発明では、これを利用し、クラスター1u,1v,1w内の各セル1xu,1xv,1xwの蓄積エネルギーECxu,ECxv,ECxwにフィードバック制御を適用することで直流電圧比を制御する。
【0091】
本発明における段間直流電圧比制御では、図11(A)に示すように、クラスター全体の蓄積エネルギーECyから、高圧セル1Hyが分担すべき蓄積エネルギーの指令値ECHy*を数式23によって算出する(図11(A)中の符号30a)。
【数23】
【0092】
そして、蓄積エネルギーの指令値ECHy*と、電圧を検出して計算した実際の蓄積エネルギーECHyとの偏差を取り(同符号31a)、当該偏差にゲインKCHを乗じて電圧レベル偏差ΔVHLyを求める(同符号32a)。中圧セル1Myについても同様の手順で電圧レベル偏差ΔVMLyを求める(同符号30b,31b,32b)。
【0093】
本実施形態の場合には、上述により求めた電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLyに基づく電圧偏差ΔVHLy',ΔVMLy'を表2に示す電圧分配条件に反映させることにより、高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの間の蓄積エネルギーECHy,ECMy,ECLyが所定の値に制御され、同一クラスターを構成するセルの直流電圧比を6:2:kに保つことができる。
【0094】
なお、本実施形態のように図8(A)に示すセル間のエネルギーのやり取りによる段間直流電圧比制御を行う場合には図11(A)に示す変数及び手順によって電圧レベル偏差ΔVHLy及び電圧レベル偏差ΔVMLyが求められ、図8(B)に示すセル間のエネルギーのやり取りによる段間直流電圧比制御を行う場合には図11(B)に示す変数及び手順によって電圧レベル偏差ΔVHMy及び電圧レベル偏差ΔVHLyが求められ、図8(C)に示すセル間のエネルギーのやり取りによる段間直流電圧比制御を行う場合には図11(C)に示す変数及び手順によって電圧レベル偏差ΔVHMy及び電圧レベル偏差ΔVMLyが求められる。
【0095】
以上の構成を有する本発明の無効電力補償装置によれば、ハイブリッド形カスケード変換器において最低電圧を出力するセルの電圧を基準直流電圧よりも少し増加させ、同時に各セルの出力電圧パルスを調整することによって同一相を構成する(言い換えると、同一クラスターの)セル間の電力融通を可能にしているので、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなり、従来と比べて装置構成が簡便で小型,低コストの無効電力補償装置を構成することができ、無効電力補償装置としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0096】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では図8に示すようにu,v,w相のいずれの相も同じ方法によって段間直流電圧比制御を行うようにしているが、これに限られず、u,v,w相で異なる方法によって段間直流電圧比制御を行うようにしても良い。一例として具体的には例えば、図12(A)に示すように、クラスター1u(即ちu相)においては高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用し、クラスター1v(即ちv相)においては高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及び高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用し、クラスター1w(即ちw相)においては高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用するようにしたり、同図(B)に示すように、クラスター1uにおいては高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用し、クラスター1v及びクラスター1wにおいては高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及び高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用するようにしたりしても良い。このように、u,v,w相で異なる方法によって段間直流電圧比制御を行うようにしても、当該制御は相毎に独立して作動するので所定の動作が行われ、本発明の作用効果が発揮される。なお、図12においては、図中の矢印が、セル間でのエネルギーのやり取りの状況、言い換えると、セル間でのエネルギーのやり取りの有無を表している。
【0097】
また、上述の実施形態では高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧比がVCHy:VCMy:VCLy=6Vdc:2Vdc:kVdc(ただし、1<k<2;Vdcは基準直流電圧)であるように構成されているが、直流コンデンサの電圧比はこれに限られるものではない。具体的には例えばVCHy:VCMy:VCLy=4Vdc:2Vdc:kVdc(ただし、1<k<2)でも良いし、さらに言えば、3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMyという関係が成り立てばVCHy:VCMy:VCLyはどのような値であっても良い。
【0098】
さらに、上述の実施形態では表2に示すように出力電圧モードの切り替えの境界値に電圧偏差ΔVHMy',ΔVMLy'を加算することによって各セル1xyの出力電圧パルスの位相を変化させてセル間のエネルギー移動を可能にしているが、本発明の要点である追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなくハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置を稼働させるための方法は上記電圧偏差を加算する方法に限られるものではない。すなわち、電圧偏差を加算する方法でなくても、図5,図6,図7に示すような電圧位相を変えたパルス列を出力するようにすれば本発明の要点は実現される。
【0099】
具体的には、まず、高圧・中圧・低圧の各セル1xyの直流電圧vCxyを検出して各セル1xyの蓄積エネルギーECxyを数式1によって求め、数式4によって求められる蓄積エネルギー指令値ECx*と大小比較を行う。そして、例えば、高圧セルの実測の蓄積エネルギーECHyが蓄積エネルギー指令値ECH*よりも大きい場合には、高圧セル1Hyからエネルギーを放出するために図5に示すように当該図5と同じ部分の出力電圧パルスのみ変化するようにパルス列を遅らせれば良い。また、高圧セルの実測の蓄積エネルギーECHyが蓄積エネルギー指令値ECH*よりも小さい場合には、高圧セル1Hyにエネルギーを流入させるために図5とは逆向きにパルス列を進めれば良い。また、中圧セルの実測の蓄積エネルギーECMyが蓄積エネルギー指令値ECM*よりも大きい場合には、中圧セル1Myからエネルギーを放出するために図6に示すように当該図6と同じ部分の出力電圧パルスのみ変化するようにパルス列を遅らせれば良い。また、中圧セルの実測の蓄積エネルギーECMyが蓄積エネルギー指令値ECM*よりも小さい場合には、中圧セル1Myにエネルギーを流入させるために図6とは逆向きにパルス列を進めれば良い。なお、パルス列を進める若しくはパルス列を遅らせる大きさは、実測の蓄積エネルギーECxyと蓄積エネルギー指令値ECx*との差分に比例させるようにしても良いし、予め設定された固定値とするようにしても良い。
【0100】
上記の考え方を用いる場合には、全体としては、高圧セルの実測の蓄積エネルギーECHyと蓄積エネルギー指令値ECH*とについてECH*≧ECHy及びECH*<ECHyの2通りと、中圧セルの実測の蓄積エネルギーECMyと蓄積エネルギー指令値ECM*とについてECM*≧ECmy及びECM*<ECMyの2通りと、低圧セルの実測の蓄積エネルギーECLyと蓄積エネルギー指令値ECL*とについてECL*≧ECly及びECL*<ECLyの2通りとの組み合わせとして考えられる8通りの全てについて上述の実施形態における方法A,B,Cなどを用いて出力電圧パルスのどの部分をシフトさせれば良いのかを事前に調べておき、当該出力電圧パルスのシフトのさせ方を記憶装置に保存しておけば、各セルの蓄積エネルギーの実測値と指令値とがどのような関係になっている場合でも各セル間の電力のやり取りが行われる。
【0101】
そして、上述の考え方に従って出力電圧パルスの位相を変えることによって、高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間で電力のやり取りを行って直流コンデンサの電圧を制御するようにしても良い。具体的には例えば、高圧セル1Hy及び中圧セル1Myから電力を流出させて低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしたり、高圧セル1Hyから電力を流出させて中圧セル1My及び低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしたり、高圧セル1Hyから電力を流出させて中圧セル1Myに電力を流入させると共に中圧セル1Myから電力を流出させて低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしたりすることによって、低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしても良い。なお、この場合には、高圧セルの直流電圧VCHy,中圧セルの直流電圧VCMy,低圧セルの直流電圧VCLyがVCHy>VCMy>VCLyであると共に、低圧セルの直流電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きい。
【0102】
すなわち、本発明において追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなくハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置を稼働させるという要点を実現するための図2における「電圧分配」を行う方法は、上述の実施形態で説明した表2に示すような出力電圧モードの切り替えの境界値に電圧偏差ΔVHMy',ΔVMLy'を加算する方法には限られるものではなく、電圧位相を変えたパルス列を出力する方法であればどのようなものであっても良い。
【0103】
ここで、本発明において各セルからの出力電圧の波形のパルス列を部分的に遅らせる若しくは進めるための電圧位相を変えたパルス列を出力する方法は特定の方法に限定されるものではない。また、電圧位相を変えたパルス列を出力する方法については周知のものが存在するので詳細については省略する。なお、あくまで一例としては具体的には例えば、i)パルス列を操作しない場合,ii)パルス列を遅らせた場合,iii)パルス列を進めた場合の三つの場合について高圧セル1Hy及び中圧セル1Myの出力電圧波形を例えば半導体メモリ等の読取高速の記憶装置に保存しておき、電源の周期に同期して切り替えるようにすることが考えられる。なお、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて随時計算され決定される。
【0104】
また、上述の実施形態では高圧,中圧,低圧の三つのセルを用いて一つのクラスターを三段構成のセルによって構成するようにしているが、クラスターの構成はこれに限られるものではなく、例えば、上述の実施形態の高圧セルの3倍の電圧を有するセルを更に一段追加して四段構成としたり(この場合、直流コンデンサの電圧比は例えば18:6:2:kとする)、高圧セルを四段として全六段構成としたり(この場合、直流コンデンサの電圧比は例えば6:6:6:6:2:kとする)しても良い。
【0105】
なお、本発明の無効電力補償装置は、配電系統に接続して用いることに限られるものではなく、例えば変圧器を合わせて用いるようにすることによって送電系統に接続して用いることも可能である。
【実施例1】
【0106】
本発明の無効電力補償装置の構成を適用したハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式無効電力補償装置の動作適正性を検証するために行ったシミュレーション結果を図13から図18を用いて説明する。なお、以下の説明においては、三相u,v,wのうちのいずれかを意味する添字yを適宜省略する。
【0107】
本実施例では、図1に示す回路モデルを構築し、計算機シミュレーションによって動作適正性の検証を行った。本実施例のシミュレーションに用いた回路定数を表3に示す。
【表3】
【0108】
本実施例では、段間直流電圧比制御を適用するため、各セル1H,1M,1Lの直流電圧比をVCH*:VCM*:VCL* =6:2:1.2に設定した。これにより、低圧セル1Lの直流電圧は基準直流電圧Vdcよりも4〔V〕だけ高くなるため、|ΔVHL|,|ΔVML|,|ΔVHL +ΔVML|は4〔V〕以下の範囲で設定した。
【0109】
(1)同相セル間のエネルギー制御の検証
表2に示した電圧分配条件を用いた種々の動作シミュレーションを行い、各セル1H,1M,1Lの出力電圧を合成することによって図13〜図16に示す結果が得られた。図13〜図16には、具体的には、u相クラスターの出力電圧vout-u,出力電流iu,高圧セル出力電圧vHu,中圧セル出力電圧vMu,低圧セル出力電圧vLu,高圧セル直流電圧vCHu,中圧セル直流電圧vCMu,低圧セル直流電圧vCLuの波形を示す。
【0110】
まず、ΔVHLu=ΔVMLu=0〔V〕と設定してセル間のエネルギー制御を行わない場合のシミュレーションを行い、図13に示す結果が得られた。この結果から、各セル1Hu,1Mu,1Luが電圧vHu,vMu,vLuを出力するのに伴い、各セル1Hu,1Mu,1Luの直流電圧vCHu,vCMu,vCLuにはリプルを発生するものの、電源1周期(=20〔ms〕)後には元の電圧まで戻り、電圧偏差は発生しないことが確認された。これより、電源1周期の間で各セル1Hu,1Mu,1Lu間におけるエネルギーの移動は発生していないことが確認された。
【0111】
次に、ΔVHLu=4〔V〕且つΔVMLu=0〔V〕と設定して高圧セル1Huから電力を流出させるように制御した場合のシミュレーションを行い、図14に示す結果が得られた。この結果から、電源1周期後に高圧セル1Huの直流電圧vCHuは低下する一方で低圧セル1Luの直流電圧vCLuは上昇していることが確認された。一方で、中圧セル1Muの直流電圧vCMuは変化していないことが確認された。これらより、高圧セル1Huと低圧セル1Luとの間でエネルギーのやり取りが行われていることが確認された。
【0112】
また、ΔVHLu=0〔V〕且つΔVMLu=4〔V〕と設定して中圧セル1Muから電力を流出させるように制御した場合のシミュレーションを行い、図15に示す結果が得られた。この結果から、電源1周期後に中圧セル1Muの直流電圧vCMuは低下する一方で低圧セル1Luの直流電圧vCLuは上昇していることが確認された。一方で、高圧セル1Huの直流電圧vCHuは変化していないことが確認された。これらより、中圧セル1Muと低圧セル1Luとの間でエネルギーのやり取りが行われていることが確認された。
【0113】
さらに、ΔVHLu=−4〔V〕且つΔVMLu=4〔V〕と設定して高圧セル1Huに電力が流入すると共に中圧セル1Muから電力が流出するように制御した場合のシミュレーションを行い、図16に示す結果が得られた。この結果から、高圧セル1Huと中圧セル1Muとを同時に調整した場合においても、高圧セル1Huの直流電圧vCHuを増加させると共に中圧セル1Muの直流電圧vCMuを減少させることができることが確認された。
【0114】
以上の結果から、ハイブリッド形カスケード変換器の電圧分配にセル間のエネルギー制御を適用することで各セル1H,1M,1L間で蓄積エネルギーのやり取りが実現できることが確認された。
【0115】
(2)自励式無効電力補償装置動作の検証
次に、ハイブリッド形カスケード変換器を始動する際のシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、各セル1H,1M,1Lの直流コンデンサは初期充電回路によって定格時の90%まで充電した状態で始動を行い、始動と同時に5〔kVA〕の無効電力指令を与えた。
【0116】
上述の条件でハイブリッド形カスケード変換器を始動する際のシミュレーションを行い、図17に示す結果が得られた。この結果から、始動から50〔ms〕後に各セル1xyの直流電圧vCxyは所定の電圧指令値(表3参照)に一致することが確認された。また、電源電圧から90度位相が遅れた電流が流れており、無効電力の補償を実現できることが確認された。
【0117】
次に、定常動作中に段間直流電圧比制御を無効にした場合のシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、各セル1xyの直流コンデンサと並列に、電圧不均一要因を模擬するための抵抗を接続した。
【0118】
上述の条件で定常動作中に段間直流電圧比制御を無効にした場合のシミュレーションを行い、図18に示す結果が得られた。この結果から、段間直流電圧比制御を適用している間は各セル1xyの直流電圧vCxyは所定の電圧指令値(表3参照)に一致して動作を行っている一方で、段間直流電圧比制御を無効にすると各セル1xyの直流電圧vCxyが不均一になることが確認された。
【0119】
以上の結果から、段間直流電圧比制御はハイブリッド形カスケード変換器の直流電圧を所定の値に保つことに寄与していることが確認され、自励式無効電力補償装置として適正に動作することが確認された。
【符号の説明】
【0120】
1Hy 高圧セル(y相)
1My 中圧セル(y相)
1Ly 低圧セル(y相)
【技術分野】
【0001】
本発明は、無効電力補償装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、電力系統用の自励式無効電力補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自励式無効電力補償装置は、電力系統に接続され、無効電力を発生又は消費することによって系統電圧の調整や安定度の向上のために用いられる。
【0003】
従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置としては例えば、図19に示すように、カスケード変換器を用いたものがある。この自励式無効電力補償装置は、セルと呼ばれる単相フルブリッジコンバータモジュール(図19中では「 con. 」と表記)を一要素とし、複数のセルの交流端子を直列接続(これをカスケード接続と呼ぶ)することによって高い電圧を出力可能とするものである。例えば、各セルの直流コンデンサの電圧(以下、直流電圧ともいう)を1〔kV〕に設定したセル(符号con.1 〜 con.6)を6段直列接続すると、線間25レベル,7〔kV〕(=1〔kV〕×6段×√(3/2))の交流電圧波形を出力することができ、6.6〔kV〕の三相高圧配電系統に変圧器を用いることなく連系することができる(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1の自励式無効電力補償装置では、全てのセルは同一の構成で良いものの、出力電圧の波形のレベル数を増加させるにはレベル数に比例した段数のセルを接続する必要がある。なお、上述の変換器の出力電圧は離散的な値をとって階段状の波形になるところ、この階段状波形の段数のことをレベル数という。
【0005】
そこで、カスケード変換器において少ない直列数で出力電圧の波形のレベル数を増加させる方法としてハイブリッド形構成が提案されている。これを適用したハイブリッド形カスケード変換器は、直流電圧を異なる値に設定したセルを直列接続し、それらの直流電圧を予め定めた論理に従って合成することで必要な出力電圧を得るものである。セルを構成する単相フルブリッジコンバータは、−1,0,1の三つの出力電圧を選択することができるので、直流電圧を1:3:9:…:3nという比に設定すると最大の出力レベル数を得ることができる。また、スイッチング回数の低減や、スイッチングに冗長性を持たせて電圧制御を行うために他の電圧比を利用する場合もある。
【0006】
そして、上述のハイブリッド形カスケード変換器を用いた従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置としては例えば、図20に示すように、直流電圧をそれぞれ3.2〔kV〕,1.6〔kV〕,0.8〔kV〕に設定したセルをカスケード接続することによって3直列で線間29レベルの電圧を出力することができ、6.6kV配電系統への直接連系を行うことができるものがある(非特許文献2)。
【0007】
具体的には、交流端子を直列接続した3台の単相フルブリッジコンバータがリアクトルを介して三相交流配電系統に連系される。そして、ハイブリッド形カスケード変換器システムとしては、直流電圧の基準値が4VcN〔V〕,2VcN〔V〕,VcN〔V〕のように電圧比が4:2:1の単相コンバータが直列に接続されたものが用いられる。なお、基準直流電圧VcNは出力電圧の階段状波形における1ステップの電圧幅であり、当該基準直流電圧VcN〔V〕の大きさはアプリケーションに応じて適宜決定される。例えば三相6.6kV系統にトランスレスで適用される場合には基準直流電圧VcNを0.8〔kV〕程度とし、直流コンデンサ電圧の基準値がVcH=3.2〔kV〕,VcM=1.6〔kV〕,VcL=0.8〔kV〕程度になるように設定する。
【0008】
そして、非特許文献2の装置では、直流電圧の基準値が4VcN〔V〕,2VcN〔V〕の単相コンバータのコンデンサ電圧VcH,VcMの比率を常に4:2に維持する方法として、2台の単相コンバータの出力電圧の合計(=VsH+VsM)が±2VcN〔V〕のタイミングでのスイッチングパターンを二通り設定し、それぞれのパターンで充電されるコンデンサと放電されるコンデンサとが異なるようにしている。一方で、直流電圧の基準値がVcN〔V〕の単相コンバータは、基準値が4VcN〔V〕の単相コンバータ及び2VcN〔V〕の単相コンバータの出力電圧の合計と目標電圧との差分を出力するようにするため、出力電圧に対してスイッチングパターンが一意に定まる。したがって、基準値が4VcN〔V〕,2VcN〔V〕の単相コンバータのコンデンサのような充放電の調整をすることができない。このため、基準値がVcN〔V〕の単相コンバータには、直流コンデンサではなく、AC−DCコンバータ等の補助電源が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】吉井剣・井上重徳・赤木泰文「6.6kV トランスレス・カスケードPWM STATCOM -三相200V 10kVAミニモデルによる動作検証-」,電気学会論文誌D,Vol.127,No.8,pp.781−788,2007年
【非特許文献2】羽田野伸彦・岸田行盛・岩田明彦「階調制御型変換器を用いた自励式無効電力補償装置」,電気学会論文誌D,Vol.127,No.8,pp.789−795,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、非特許文献2の自励式無効電力補償装置では、最低電圧を出力するセル(即ち、直流電圧の基準値がVcN〔V〕の単相コンバータ)は直流部の電圧を制御することができないので、直流電圧を所定の値に保つために直流部に電力を供給する必要があり追加的な補助電源としての絶縁型直流電源を別途必要とする。このため、i)直流電源のコストがかかってしまう,ii)装置構成が複雑になってしまう,iii)入出力間に配電線電圧(即ち6.6〔kV〕)相当の高電圧が印加されるので高い絶縁性能を必要とするために装置全体の体積が大きくなってしまうと共にコストがかかる、という問題があり、結果的にこれらの問題が設置上の制約となることもあるという点において汎用性が高いとは言い難い。
【0011】
そこで、本発明は、追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなく稼働することができるハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記高圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めると共に前記中圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めることによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0013】
この無効電力補償装置によると、ハイブリッド形カスケード変換器において各セルの出力電圧パルスを調整することによって同一相を構成する(言い換えると、同一クラスターの)セル間の電力融通を可能にしているので、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなる。
【0014】
また、請求項2記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHLy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHLy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0015】
また、請求項3記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVHLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVHLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0016】
また、請求項4記載の無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。
【0017】
また、請求項5記載の無効電力補償装置は、前記三相毎に請求項2から4に記載のエネルギー移動の方法のうちのいずれか一つが用いられ、前記三相のうちの全て若しくは少なくとも一部においてエネルギー移動の方法が他の相と異なるようにしている。
【0018】
これらの無効電力補償装置によると、ハイブリッド形カスケード変換器において最低電圧を出力するセルの電圧を基準直流電圧よりも少し増加させ、同時に各セルの出力電圧パルスを調整することによって同一相を構成する(言い換えると、同一クラスターの)セル間の電力融通を可能にしているので、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなる。
【0019】
また、請求項6記載の発明は、請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置において、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=6:2:k(ただし、1<k<2)であるようにしている。また、請求項7記載の発明は、請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置において、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=4:2:k(ただし、1<k<2)であるようにしている。これらの場合には、各セルの出力電圧の比率が適切なものになり、三相交流の各相に対応するクラスターからの出力電圧の波形が良好なものになる。
【0020】
また、請求項8記載の発明は、請求項6または7記載の無効電力補償装置において、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyの比kの値が1.01〜1.3であるようにしている。この場合には、低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyの大きさが基準直流電圧Vdcとの関係において適切なものになり、三相交流の各相に対応するクラスターからの出力電圧の波形がより一層良好なものになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無効電力補償装置によれば、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなるので、従来と比べて装置構成が簡便で小型,低コストの無効電力補償装置を構成することができ、無効電力補償装置としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の無効電力補償装置の実施形態の一例のシステム構成を示す図である。
【図2】本発明の無効電力補償装置の実施形態の一例の制御システムブロック図である。
【図3】電圧比6:2:kの場合に表1の条件を適用した際の各セルの出力電圧の波形を示す図である。
【図4】表1の条件を用いた制御を自励式無効電力補償装置に適用した場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図5】実施形態の無効電力補償装置における高圧セルから低圧セルへとエネルギーを移動させる場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図6】実施形態の無効電力補償装置における中圧セルから低圧セルへとエネルギーを移動させる場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図7】実施形態の無効電力補償装置における高圧セルから中圧セルへとエネルギーを移動させる場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図8】実施形態の無効電力補償装置における段間直流電圧比制御のイメージ図である。(A)は電圧偏差ΔVHLy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する場合のイメージ図である。(B)は電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVHLy'とを同時に加算する場合のイメージ図である。(C)は電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する場合のイメージ図である。
【図9】実施形態の無効電力補償装置における有効・無効電力制御のブロック図である。
【図10】実施形態の無効電力補償装置における相間直流電圧バランス制御のブロック図である。
【図11】実施形態の無効電力補償装置における段間直流電圧比制御のブロック図である。
【図12】本発明の無効電力補償装置における段間直流電圧比制御のその他のパターンの一例を示す図である。
【図13】実施例1におけるセル間のエネルギー制御がない場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図14】実施例1における高圧セルのエネルギー制御をした場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図15】実施例1における中圧セルのエネルギー制御をした場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図16】実施例1における高圧セルと中圧セルとのエネルギー制御を併用した場合の各セルの流入電力等の波形を示す図である。
【図17】実施例1におけるハイブリッド形カスケード変換器の始動時のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】実施例1における定常動作中に電圧制御を無効にした場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図19】カスケード変換器を用いた従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置のシステム構成を示す図である。
【図20】ハイブリッド形カスケード変換器を用いた従来の配電系統用の自励式無効電力補償装置のシステム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1から図11に、本発明の無効電力補償装置の実施形態の一例を示す。この無効電力補償装置は、三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う三相交流の各相に対応するクラスター1u,1v,1wを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、高圧セル1Hyの直流コンデンサの電圧VCHy,中圧セル1Myの直流コンデンサの電圧VCMy,低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、クラスター1u,1v,1wからの出力電圧の波形の制御のための高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの出力電圧モードの切り替えの境界値に、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、クラスター1u,1v,1wからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHLy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHLy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間で電力のやり取りを行って各セル1Hy,1My,1Lyの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御するようにしている。そして、本実施形態では、高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間での電力のやり取りによる各セル1Hy,1My,1Lyの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyの制御は、具体的には、高圧セル1Hy及び中圧セル1Myから電力を流出(言い換えると、放電)若しくは流入(言い換えると、充電)させて低圧セル1Lyに電力を流入若しくは流出させるようにしている。
【0025】
ここで、以下の説明においては、添字yは三相交流の三相u,v,wのうちのいずれかを意味するものとして用い、添字xは高圧H,中圧M,低圧Lのうちのいずれかを意味するものとして用いる。また、記号*は指令値であることを意味するものとして用いる。
【0026】
(1)回路構成
ハイブリッド形カスケード変換器を用いた本発明の自励式無効電力補償装置の実施形態の構成を図1に示す。具体的には、単相フルブリッジコンバータで構成されるセル(高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Ly)を三つ直列接続することで1相分を構成(以下、三相のu相に対応するものをクラスター1u,v相に対応するものをクラスター1v,w相に対応するものをクラスター1wという)する。そして、本実施形態では、三つのセル1Hy,1My,1Lyは、直流コンデンサ(容量Cx)の電圧(即ち、直流電圧)の比がVCHy:VCMy:VCLy=6:2:k(ただし、1<k<2)になるように制御される。そして、同一クラスターを構成する三つのセル1Hy,1My,1Lyの出力電圧の波形を合成することで各クラスター1u,1v,1wとして正弦波状の出力電圧波形が得られるようにする。
【0027】
高圧配電系統に連系する場合には、電源の線間電圧Vsは6.6〔kV〕であり、各セル1Hy,1My,1Lyの直流電圧は、本実施形態ではk=1.2の場合として、電圧が最も高い高圧セル1HyでVCHy=3.6〔kV〕,電圧が次に高い中圧セル1MyでVCMy=1.2〔kV〕,電圧が最も低い低圧セル1LyでVCLy=0.72〔kV〕にされている。なお、低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyの比kの値は、各セル1xyの出力電圧VCxyの比率を適切なものにするためには1<k<2であれば良いが、三相交流の各相に対応するクラスター1u,1v,1wからの出力電圧の波形を高調波の少ない良好なものにするために、できる限り小さな値とするのが好ましい。具体的には例えば、本発明の効果を発現させると共に出力電圧の波形を良好なものにするためにkの値を1.01〜1.3程度の範囲とすることが好ましいと考えられる。
【0028】
(2)制御システム
全て同一電圧のセルで構成する従来型のカスケード変換器の制御法としては、有効・無効電力制御,相間直流電圧バランス制御,段間直流電圧バランス制御の三つの階層で構成する方式が提案されている(例えば、前出の非特許文献1や、井上重徳 他「カスケードPWM変換器と二次電池を使用した6.6kVトランスレス電力貯蔵システム -200V,10kW,3.6kWhミニモデルによる実験検証-」,電気学会論文誌D,Vol.129,No.1,pp.67−76,2009年(以下、非特許文献3という)を参照)。
【0029】
有効・無効電力制御は、三相を構成する三つのクラスター1u,1v,1wをまとめて一つの三相変換器とみなし、変換器全体に流入する有効電力・無効電力を制御する。
【0030】
相間直流電圧バランス制御では、クラスター1u,1v,1wの各々を一つの単相変換器とみなし、三相のクラスター1u,1v,1w間において電力を調整することでクラスター1u,1v,1w間の蓄積エネルギーを均等化する。
【0031】
段間直流電圧バランス制御では、同一クラスターを構成するセル1Hy,1My,1Ly間で電力を調整することにより各セル1Hy,1My,1Lyの蓄積エネルギーを所定の値に制御する。
【0032】
ハイブリッド形カスケード変換器では、従来のカスケード変換器と比較して、クラスター内部の構成は異なる一方で、クラスターから上位の構成は同一とみなすことができる。よって、有効・無効電力制御,相間直流電圧バランス制御は従来と同様の手法を適用できる。一方で、同一クラスター内の電圧制御には従来の段間直流電圧バランス制御を適用することができない。このため、本発明では、これを実施するために新たに開発した段間直流電圧比制御を用いる。
【0033】
ハイブリッド形カスケード変換器を用いた本発明の自励式無効電力補償装置の制御ブロック図を図2に示す。
【0034】
有効・無効電力制御は、電源電圧vSyと出力電流iyとから自励式無効電力補償装置の動作に必要な電圧指令値vy*を生成する(図2中の符号2;図9を用いて後に詳述する)。この際、無効電力を指令値q*に追従させると同時に、変換器全体の蓄積エネルギーの総和ECを指令値EC*に一致させるように制御する。なお、無効電力指令値q*は、電力系統の電圧を適切に制御するように、上位の制御システム若しくは作業者によって与えられる。
【0035】
相間直流電圧バランス制御は、各相を構成するクラスター1u,1v,1w間において蓄積エネルギーECyが均一となるように、変換器の電圧指令値vy*に零相電圧v0*を重畳し、出力電圧指令値vout-y*を生成する(同符号3;図10を用いて後に詳述する)。
【0036】
段間直流電圧比制御は、同一クラスターを構成する各セルの蓄積エネルギーECxyを指令値に一致させるように電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLy,ΔVHMyを生成する(同符号4;図11を用いて後に詳述する)。
【0037】
ここで、本発明における電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLy,ΔVHMyについては、基準直流電圧Vdcと、前述の低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧VCLyの比kとに基づいて、(k−1)×Vdc〔V〕以下であることが必要とされる。
【0038】
最後に、上記の出力電圧指令値vout-y*と電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLy,ΔVHMy(極性を考慮した電圧偏差ΔVHLy',ΔVMLy',ΔVHMy')とから、表2に示す電圧分配ルールに基づいて各セル1xyの出力電圧指令値vxy*が決定される。
【0039】
そして、各セル1xyの直流電圧の制御では、検出した直流コンデンサの電圧vCxyにローパスフィルタ(図2中の符号LPF)を施して求めた平均値VCxyと既知のコンデンサ容量Cxとから直流コンデンサの蓄積エネルギーECxyを数式1によって算出し(図2中の符号5)、これを指令値に追従させるようにフィードバック制御を構成する。
【数1】
【0040】
ハイブリッド形カスケード変換器のように各セル1xyの直流電圧VCxyとコンデンサ静電容量Cxとが異なる場合でも、蓄積エネルギーの和であれば容易に計算することができ、複数のセルをまとめて制御するようなシステムの構成が容易になる。
【0041】
相間直流電圧バランス制御では各クラスター1u,1v,1w内の蓄積エネルギーの総和ECyを高圧・中圧・低圧の各セルの蓄積エネルギーECHy,ECMy,ECLyより数式2によって求め、この蓄積エネルギーECyを三相u,v,w間で均一化するように制御する。
(数2) ECy=ECHy+ECMy+ECLy
【0042】
また、有効・無効電力制御では、変換器の蓄積エネルギーの総和ECを数式3によって求め、この総和ECが変換器全体の蓄積エネルギー指令値EC*と一致するように制御する。
(数3) EC=ECu+ECv+ECw
【0043】
ここで、各セル1xyの蓄積エネルギー指令値ECx*は、高圧・中圧・低圧の各セルの電圧指令値VCx*から数式4によって定められる。なお、各セル1xyの電圧指令値VCx*は、交流系統の電源線間電圧Vsを変換器が出力可能なように、変換器の設計者若しくは運転者によって決定されて与えられる。具体的には例えば、はじめに基準直流電圧Vdcと直流電圧比(本実施形態の場合は6:2:k)を回路設計者が決定し、次いでVCH*=6Vdc,VCM*=2Vdc,VCL*=kVdcになるように各セルの電圧指令値VCx*が決定されて与えられる。
【数4】
【0044】
そして、変換器全体の蓄積エネルギー指令値EC*は数式5によって定められる。
(数5) EC*=3(ECH*+ECM*+ECL*)
【0045】
(3)ハイブリッド形カスケード変換器の各セルの出力電圧
表1に、従来のハイブリッド形カスケード変換器による直流電圧比VCH*:VCM*:VCL*=6:2:k(1≦k<2)の場合の各セルの出力電圧の関係を示す。基準直流電圧Vdcを用い、VCH*=6Vdc,VCM*=2Vdc,VCL*=kVdcと表す。なお、基準直流電圧Vdc〔V〕の大きさはアプリケーションに応じて適宜決定される。
【表1】
【0046】
出力電圧指令値vout*が与えられると、表1に示す条件(言い換えると、動作規則)によって高圧セル1Hyの出力電圧vH(各相別に考えるとvHy),中圧セル1Myの出力電圧vM(各相別に考えるとvMy)が一意に定められる。そして、低圧セル1Lyの出力電圧vL(各相別に考えるとvLy)は数式6によって与えられ、これをパルス幅変調によって出力する。
(数6) vL=vout*−vH−vM
【0047】
このとき、数式6で与えられる出力電圧vLは数式7を満たす波形となり、低圧セル1Lyの直流電圧は基準直流電圧Vdc以上、すなわち1≦kであれば良い。
(数7) −Vdc ≦ vL ≦ Vdc
【0048】
出力電圧指令値vout*として振幅9Vdcの正弦波を与えた場合の出力電圧波形を図3に示す。この例では、高圧セル1Hyは電源1周期に正負一つずつパルスを出力し、中圧セル1Myは電源1周期に正負各5パルスを出力する。出力電圧voutから,高圧セルの出力電圧vHと中圧セルの出力電圧vMとを差し引いた偏差を計算し,低圧セル1Lyが当該偏差分の電圧を出力する。
【0049】
そして、図4に、表1に示す動作規則を用いたハイブリッド形カスケード変換器を自励式無効電力補償装置に適用した場合の各セル1xyの電圧波形vxと流入電力vx・iとを示す。
【0050】
自励式無効電力補償装置として動作する場合、出力電圧voutと出力電流iとは90度の位相角をなす。また、高圧セル1Hy・中圧セル1My・低圧セル1Lyの交流側は直列接続されるため、いずれのセルも交流端子電流はi(各相別に考えるとiy)に等しい。したがって、各セルに流入する電力は、各セルの出力電圧vH,vM,vLとiとの積になる。
【0051】
この電力は電源周期で平均すると原理的には零になり、平均値としては各セルに有効電力は流入せず直流電圧は変化しない。しかしながら、過渡時の非周期的な電流や素子のスイッチング特性のばらつきなどによって実際には各セルに有効電力が流入することがあり、各セルの直流電圧比が6:2:kから逸脱することがある。直流電圧比が既定値から逸脱すると出力電圧の波形に歪みを生じるため、何らかの方法によって直流電圧比を保つ必要がある。
【0052】
一般に、クラスター1u,1v,1w毎に三つのセル1Hy,1My,1Lyの直流電圧の比を制御する場合、制御に二つの自由度が必要とされる。本発明では、各セルの出力電圧位相を調整することにより、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間の蓄積エネルギーのやり取りと、中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間の蓄積エネルギーのやり取りとを同時に実現する。これにより、二つの制御自由度が得られ、直流電圧比を一定に保つことを可能にする。このようにすることにより、本発明においては、三つのセル1Hy,1My,1Lyの直流部のいずれにも電源を接続する必要が一切なくなる。
【0053】
セル間のエネルギー移動を可能にするための本発明におけるハイブリッド形カスケード変換器における各セルの出力電圧を表2に示す。
【表2】
【0054】
各セルの出力電圧モードを切り替える境界値に、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHL'(各相別に考えるとΔVHLy'),中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVML'(各相別に考えるとΔVMLy'),高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHM'(各相別に考えるとΔVHMy')を所定の組み合わせで加算することにより、出力電圧モードが切り替わるタイミングが変更され、各セル間のエネルギー移動が生じる。なお、ΔVHL'及びΔVML'及びΔVHM'を0に設定すると、表2は表1と一致し、各セル間のエネルギー移動は生じない。
【0055】
そして、本発明においては、三つのセルの直流部への電源の接続を省くため、例えば、i)高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動及びii)中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用する、或いは、iii)高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及びi)高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用する、或いは、iii)高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及びii)中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用する。ここで、以下の処理は三相交流の三相u,v,w別に行うことが基本であり、以下の説明においては三相u,v,w別(言い換えると、クラスター1u,1v,1w毎)に考えることが基本であるので、当該三相u,v,wのうちのいずれかを意味する添字yを適宜省略する。
【0056】
以下では、まず、上述のi)高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動,ii)中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動,iii)高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動のそれぞれについて説明する。その後、三つのセルの直流部への電源の接続を省くための本発明の、i)及びii)を利用する方法,iii)及びi)を利用する方法,iii)及びii)を利用する方法のそれぞれについて説明する。
【0057】
i)高圧セルと低圧セルとの間でのエネルギー移動
まず、高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動について説明する。高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間で電力のやり取りを行うことを可能にするため、電圧レベル偏差ΔVHLを操作することにより、各セルの出力電圧を変化させる。この電圧レベル偏差ΔVHLと出力電流iとによって数式8のようにΔVHL'の極性を選択する。そして、電圧レベル偏差ΔVHLを増加させる(零より大きくする)と、高圧セル1Hyから低圧セル1Lyへと移動する電力を増加させることができる。
【数8】
【0058】
電圧レベル偏差ΔVHLを増加させた場合の各セルの電圧・電力波形を図5に示す。図5においては、細線はΔVHL=0として制御を行わない場合の波形であり、太線はΔVHL>0として制御を行った場合の波形である。なお、いずれの場合においてもΔVML=ΔVHM=0に設定している。
【0059】
制御適用時は高圧セル1Hyの出力電圧vHは位相が遅れる。これにより、高圧セル1Hyの流入電力PH(=vH・i)が変化する。制御適用前後での流入電力PHの差ΔPHは当該ΔPHの波形の4箇所において全て負の極性で発生する。したがって、高圧セル1Hyから電力が流出する。
【0060】
一方、中圧セル1Myの出力電圧vMは、高圧セル1Hyのスイッチング時及びその直前直後のスイッチングにおいてタイミングが遅れる。これにより、中圧セル1Myの流入電力PM(=vM・i)の制御適用前後での差ΔPMは、当該ΔPMの波形において正の極性で4回及び負の極性で8回の振幅半分のパルスが発生するが、電源1周期で平均するとほぼ零になる。したがって、中圧セル1Myへの電力流入は殆ど発生しない。
【0061】
また、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて決定される。このとき、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式9によって表される範囲を取り得る。
(数9) −Vdc−|ΔVHL|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHL|
【0062】
そして、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式9によって表される全領域の電圧を出力することができるように、低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式10を満たすように設定する必要がある。したがって、直流電圧VCLは基準直流電圧Vdcよりも高く設定される。
(数10) VCL ≧ Vdc+|ΔVHL|
【0063】
そして、低圧セル1Lyの流入電力PL(=vL・i)の制御適用前後での差ΔPLは、当該ΔPLの波形において正のパルスが12回発生し、その平均値は正になる。つまり、低圧セル1Lyには電力が流入する。これにより、高圧セル1Hyから低圧セル1Lyへのエネルギーの移動を生じさせることができる。
【0064】
ii)中圧セルと低圧セルとの間でのエネルギー移動
次に、中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動について説明する。中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間で電力のやり取りを行うことを可能にするため、電圧レベル偏差ΔVMLを操作することにより、各セルの出力電圧を変化させる。この場合も、出力電流iによって数式11に示すようにΔVML'の極性を選択する。そして、電圧レベル偏差ΔVMLを増加させる(零より大きくする)と、中圧セル1Myから低圧セル1Lyへと移動する電力を増加させることができる。
【数11】
【0065】
電圧レベル偏差ΔVMLを増加させた場合の各セルの電圧・電力波形を図6に示す。図6においては、細線はΔVML=0として制御を行わない場合の波形であり、太線はΔVML>0として制御を行った場合の波形である。なお、いずれの場合においてもΔVHL=ΔVHM=0に設定している。
【0066】
この制御では、高圧セル1Hyの出力電圧vHは変化せず、高圧セル1Hyに電力の流入は生じない。一方で、中圧セル1Myは出力電圧vMの位相が遅れる動作となり、中圧セル1Myから電力が流出する。
【0067】
そして、低圧セル1Lyは中圧セル1Myに連動して出力電圧vLを変更するため、低圧セル1Lyに電力が流入する。これにより、中圧セル1Myから低圧セル1Lyへのエネルギーの移動を生じさせることができる。
【0068】
また、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて決定される。このとき、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式12によって表される範囲を取り得る。
(数12) −Vdc−|ΔVML|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVML|
【0069】
そして、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式12によって表される全領域の電圧を出力することができるように、低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式13を満たすように設定する必要がある。したがって、直流電圧VCLは基準直流電圧Vdcよりも高く設定される。
(数13) VCL ≧ Vdc+|ΔVML|
【0070】
iii)高圧セルと中圧セルとの間でのエネルギー移動
次に、高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動について説明する。高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間で電力のやり取りを行うことを可能にするため、電圧レベル偏差ΔVHMを操作することにより、各セルの出力電圧を変化させる。この場合も、出力電流iによって数式14に示すようにΔVHM'の極性を選択する。そして、電圧レベル偏差ΔVHMを増加させる(零より大きくする)と、高圧セル1Hyから中圧セル1Myへと移動する電力を増加させることができる。
【数14】
【0071】
電圧レベル偏差ΔVHMを増加させた場合の各セルの電圧・電力波形を図7に示す。図7においては、細線はΔVHM=0として制御を行わない場合の波形であり、太線はΔVHM>0として制御を行った場合の波形である。なお、いずれの場合においてもΔVHL=ΔVML=0に設定している。
【0072】
制御適用時は高圧セル1Hyの出力電圧vHは位相が遅れ、高圧セル1Hyから電力が流出する。また、中圧セル1Myの出力電圧vMも変化し、中圧セル1Myの流入電力PM(=vM・i)が変化する。制御適用前後での流入電力PMの差ΔPMは正の極性で4回発生する。したがって、中圧セル1Myに電力が流入する。これにより、高圧セル1Hyから中圧セル1Myへのエネルギーの移動を生じさせることができる。
【0073】
なお、低圧セル1Lyは中圧セル1Myに連動して出力電圧vLを変更するが、低圧セル1Lyの流入電力PL(=vL・i)の制御適用前後での差ΔPLは、当該ΔPLの波形において正の極性で4回及び負の極性で4回発生し、平均すると電力のやり取りは発生しない。
【0074】
また、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて決定される。このとき、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式15によって表される範囲を取り得る。
(数15) −Vdc−|ΔVHM|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHM|
【0075】
そして、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式15によって表される全領域の電圧を出力することができるように、低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式16を満たすように設定する必要がある。したがって、直流電圧VCLは基準直流電圧Vdcよりも高く設定される。
(数16) VCL ≧ Vdc+|ΔVHM|
【0076】
A)上記i及びiiを利用する方法
この場合は、高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの両方の電圧制御を同時に行うために電圧偏差ΔVHLy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する。この場合の段間直流電圧比制御のイメージ図を図8(A)に示す。なお、図8においては、図中の矢印が、セル間でのエネルギーのやり取りの状況、言い換えると、セル間でのエネルギーのやり取りの有無を表している。また、本明細書の説明では、特定する必要がある場合には、以下に述べる方法Bや方法Cではなく当該方法Aを前提としている。
【0077】
そして、この場合は、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式9及び数式12に加えて数式17の範囲を取り得る。さらに、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式9,数式12,数式17の三つの全領域の電圧を出力することができるように低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式18−1,18−2,18−3の三つの方程式を満たすように設定する必要がある。
(数17) −Vdc−|ΔVHLy+ΔVMLy|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHLy+ΔVMLy|
(数18−1) VCL ≧ Vdc+|ΔVHLy|
(数18−2) VCL ≧ Vdc+|ΔVMLy|
(数18−3) VCL ≧ Vdc+|ΔVHLy+ΔVMLy|
B)上記iii及びiを利用する方法
この場合は、電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVHLy'とを同時に加算する。この場合の段間直流電圧比制御のイメージ図を図8(B)に示す。
【0078】
そして、この場合は、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式15及び数式9に加えて数式19の範囲を取り得る。さらに、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式9,数式15,数式19の三つの全領域の電圧を出力することができるように低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式20−1,20−2,20−3の三つの方程式を満たすように設定する必要がある。
(数19) −Vdc−|ΔVHMy+ΔVHLy|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHMy+ΔVHLy|
(数20−1) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy|
(数20−2) VCL ≧ Vdc+|ΔVHLy|
(数20−3) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy+ΔVHLy|
C)上記iii及びiiを利用する方法
この場合は、高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの両方の電圧制御を同時に行うために電圧偏差ΔVHMy'と電圧偏差ΔVMLy'とを同時に加算する。この場合の段間直流電圧比制御のイメージ図を図8(C)に示す。
【0079】
そして、この場合は、低圧セル1Lyの出力電圧vLは数式15及び数式12に加えて数式21の範囲を取り得る。さらに、低圧セル1Lyの出力電圧vLが数式12,数式15,数式21の三つの全領域の電圧を出力することができるように低圧セル1Lyの直流電圧(即ち、直流コンデンサの電圧)VCLは数式22−1,22−2,22−3の三つの方程式を満たすように設定する必要がある。
(数21) −Vdc−|ΔVHMy+ΔVMLy|≦ vL ≦ Vdc+|ΔVHMy+ΔVMLy|
(数22−1) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy|
(数22−2) VCL ≧ Vdc+|ΔVMLy|
(数22−3) VCL ≧ Vdc+|ΔVHMy+ΔVMLy|
【0080】
なお、本発明においては、各セル1xyの検出された直流コンデンサの電圧vCxyにより、低圧セル1Lyに電力が流入する場合も低圧セル1Lyから電力が流出する場合もあり得る。すなわち、クラスター1u,1v,1w毎に各セル1xy間の特性の微小なばらつきに起因して一部のセルの直流電圧vCxyが上昇すると共に一部のセルの直流電圧vCxyが低下して既定値から乖離していくという状況が発生し得るところ、本発明では、低圧セル1Lyの直流電圧vCLyが既定値よりも低い状況では低圧セル1Lyに電力が流入するように制御が働き、一方、低圧セル1Lyの直流電圧VCLyが既定値よりも高い状況では低圧セル1Lyから電力が流出するように制御が働く。そして、高圧セル1Hy及び中圧セル1Myにおいても同様に電力が流入する場合と流出する場合とがあり得る。
【0081】
(4)自励式無効電力補償装置の制御法
以下に、本発明の自励式無効電力補償装置の制御方法について説明する。
【0082】
(4−1)有効・無効電力制御
本発明における有効・無効電力制御の方法としては従来の方法を用いることができる(図9参照;例えば、前出の非特許文献1を参照)。
【0083】
具体的には、三相を構成するクラスター1u,1v,1wを1台の三相系統連系変換器と考えて制御を行う。出力電流iyと電源電圧vSyを、それぞれdq変換(図9中の符号9a,9b)により出力電流のd軸成分id、q軸成分iq、及び電源電圧のd軸成分vSd、q軸成分vSqに分離して、dq座標上で非干渉電流制御を適用する。
【0084】
三相カスケード変換器の蓄積エネルギーの総和ECと指令値EC*との偏差を取り(同符号10)、これらを一致させるようにフィードバック制御器(同符号11;なお、KCは制御器の比例ゲインを表す)により変換器全体に流入する瞬時有効電力p*を算出する。当該瞬時有効電力p*と瞬時無効電力指令値q*とを用い、変換器がこれらを出力するように電流指令値id*とiq*とを求める(同符号12a,12b)。
【0085】
そして、電流指令値id*,iq*と、実際の出力電流id,iqの偏差を取り(同符号13a,13b)、比例積分制御器を用いて電流フィードバック制御を構成する(同符号14a,14b;なお、K1は電流制御器の比例ゲイン,sはラプラス演算子(微分演算子),T1は電流制御器の積分時定数をそれぞれ表す)。交流リアクトルにおける電圧降下を打ち消すための項と電源電圧のフィードフォワード項との和を取り(同符号15a,15b)、逆dq変換を施して三相電圧指令値vu*,vv*,vw*を出力する(同符号16)。なお、図9においてωは電源電圧の角周波数を表し、図9及び図1においてLACは交流リアクトルのインダクタンスをそれぞれ表す。
【0086】
(4−2)相間直流電圧バランス制御
また、本発明における相間直流電圧バランス制御の方法としても従来の方法を用いることができる(図10参照;例えば、前出の非特許文献3を参照)。
【0087】
一般に、三相平衡な電流を出力する三相電力変換器において、その三相電圧指令値vu*,vv*,vw*に基本波零相電圧v0*を重畳すると、相間で電力の受け渡しが行われる。重畳する零相電圧v0*の振幅によって相間で受け渡しを行う電力の大きさが決定し、その電力は位相φ0と同位相の電圧を出力するクラスターへと流入する。
【0088】
相間直流電圧バランス制御では、三相を構成するクラスター1u,1v,1w間の電力が均一となるようにフィードバック制御を用いて基本波零相電圧v0*を算出する(図10中の符号20から符号21まで)。なお、図10において、ΔECα,ΔECβは、各クラスターのエネルギー偏差ΔECu,ΔECv,ΔECwに対して三相二相変換を施したα軸,β軸成分,K0は相間エネルギー制御器の比例ゲイン,φ0は零相電圧v0*の位相,ωは電源電圧の角周波数,tは時刻をそれぞれ表す。
【0089】
そして、基本波零相電圧v0*を前述の有効・無効電力制御で決定される三相電圧指令値vu*,vv*,vw*に重畳することにより(図2参照)、各クラスター1u,1v,1w間の電力が調整されて各クラスターの蓄積エネルギーECyが均一に保たれる。
【0090】
(4−3)段間直流電圧比制御
一方で、段間直流電圧比制御については本発明特有の方法を用いる。まず、表2に示した電圧分配条件を適用すると、電圧偏差ΔVHLy',ΔVMLy',ΔVHMy'を与えることで各セルの蓄積エネルギーを調整することができる。本発明では、これを利用し、クラスター1u,1v,1w内の各セル1xu,1xv,1xwの蓄積エネルギーECxu,ECxv,ECxwにフィードバック制御を適用することで直流電圧比を制御する。
【0091】
本発明における段間直流電圧比制御では、図11(A)に示すように、クラスター全体の蓄積エネルギーECyから、高圧セル1Hyが分担すべき蓄積エネルギーの指令値ECHy*を数式23によって算出する(図11(A)中の符号30a)。
【数23】
【0092】
そして、蓄積エネルギーの指令値ECHy*と、電圧を検出して計算した実際の蓄積エネルギーECHyとの偏差を取り(同符号31a)、当該偏差にゲインKCHを乗じて電圧レベル偏差ΔVHLyを求める(同符号32a)。中圧セル1Myについても同様の手順で電圧レベル偏差ΔVMLyを求める(同符号30b,31b,32b)。
【0093】
本実施形態の場合には、上述により求めた電圧レベル偏差ΔVHLy,ΔVMLyに基づく電圧偏差ΔVHLy',ΔVMLy'を表2に示す電圧分配条件に反映させることにより、高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの間の蓄積エネルギーECHy,ECMy,ECLyが所定の値に制御され、同一クラスターを構成するセルの直流電圧比を6:2:kに保つことができる。
【0094】
なお、本実施形態のように図8(A)に示すセル間のエネルギーのやり取りによる段間直流電圧比制御を行う場合には図11(A)に示す変数及び手順によって電圧レベル偏差ΔVHLy及び電圧レベル偏差ΔVMLyが求められ、図8(B)に示すセル間のエネルギーのやり取りによる段間直流電圧比制御を行う場合には図11(B)に示す変数及び手順によって電圧レベル偏差ΔVHMy及び電圧レベル偏差ΔVHLyが求められ、図8(C)に示すセル間のエネルギーのやり取りによる段間直流電圧比制御を行う場合には図11(C)に示す変数及び手順によって電圧レベル偏差ΔVHMy及び電圧レベル偏差ΔVMLyが求められる。
【0095】
以上の構成を有する本発明の無効電力補償装置によれば、ハイブリッド形カスケード変換器において最低電圧を出力するセルの電圧を基準直流電圧よりも少し増加させ、同時に各セルの出力電圧パルスを調整することによって同一相を構成する(言い換えると、同一クラスターの)セル間の電力融通を可能にしているので、各セルに追加的な補助電源としての直流電源を接続する必要が一切なくなり、従来と比べて装置構成が簡便で小型,低コストの無効電力補償装置を構成することができ、無効電力補償装置としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0096】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では図8に示すようにu,v,w相のいずれの相も同じ方法によって段間直流電圧比制御を行うようにしているが、これに限られず、u,v,w相で異なる方法によって段間直流電圧比制御を行うようにしても良い。一例として具体的には例えば、図12(A)に示すように、クラスター1u(即ちu相)においては高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用し、クラスター1v(即ちv相)においては高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及び高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用し、クラスター1w(即ちw相)においては高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用するようにしたり、同図(B)に示すように、クラスター1uにおいては高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動及び中圧セル1Myと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用し、クラスター1v及びクラスター1wにおいては高圧セル1Hyと中圧セル1Myとの間でのエネルギー移動及び高圧セル1Hyと低圧セル1Lyとの間でのエネルギー移動を利用するようにしたりしても良い。このように、u,v,w相で異なる方法によって段間直流電圧比制御を行うようにしても、当該制御は相毎に独立して作動するので所定の動作が行われ、本発明の作用効果が発揮される。なお、図12においては、図中の矢印が、セル間でのエネルギーのやり取りの状況、言い換えると、セル間でのエネルギーのやり取りの有無を表している。
【0097】
また、上述の実施形態では高圧セル1Hy,中圧セル1My,低圧セル1Lyの直流コンデンサの電圧比がVCHy:VCMy:VCLy=6Vdc:2Vdc:kVdc(ただし、1<k<2;Vdcは基準直流電圧)であるように構成されているが、直流コンデンサの電圧比はこれに限られるものではない。具体的には例えばVCHy:VCMy:VCLy=4Vdc:2Vdc:kVdc(ただし、1<k<2)でも良いし、さらに言えば、3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMyという関係が成り立てばVCHy:VCMy:VCLyはどのような値であっても良い。
【0098】
さらに、上述の実施形態では表2に示すように出力電圧モードの切り替えの境界値に電圧偏差ΔVHMy',ΔVMLy'を加算することによって各セル1xyの出力電圧パルスの位相を変化させてセル間のエネルギー移動を可能にしているが、本発明の要点である追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなくハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置を稼働させるための方法は上記電圧偏差を加算する方法に限られるものではない。すなわち、電圧偏差を加算する方法でなくても、図5,図6,図7に示すような電圧位相を変えたパルス列を出力するようにすれば本発明の要点は実現される。
【0099】
具体的には、まず、高圧・中圧・低圧の各セル1xyの直流電圧vCxyを検出して各セル1xyの蓄積エネルギーECxyを数式1によって求め、数式4によって求められる蓄積エネルギー指令値ECx*と大小比較を行う。そして、例えば、高圧セルの実測の蓄積エネルギーECHyが蓄積エネルギー指令値ECH*よりも大きい場合には、高圧セル1Hyからエネルギーを放出するために図5に示すように当該図5と同じ部分の出力電圧パルスのみ変化するようにパルス列を遅らせれば良い。また、高圧セルの実測の蓄積エネルギーECHyが蓄積エネルギー指令値ECH*よりも小さい場合には、高圧セル1Hyにエネルギーを流入させるために図5とは逆向きにパルス列を進めれば良い。また、中圧セルの実測の蓄積エネルギーECMyが蓄積エネルギー指令値ECM*よりも大きい場合には、中圧セル1Myからエネルギーを放出するために図6に示すように当該図6と同じ部分の出力電圧パルスのみ変化するようにパルス列を遅らせれば良い。また、中圧セルの実測の蓄積エネルギーECMyが蓄積エネルギー指令値ECM*よりも小さい場合には、中圧セル1Myにエネルギーを流入させるために図6とは逆向きにパルス列を進めれば良い。なお、パルス列を進める若しくはパルス列を遅らせる大きさは、実測の蓄積エネルギーECxyと蓄積エネルギー指令値ECx*との差分に比例させるようにしても良いし、予め設定された固定値とするようにしても良い。
【0100】
上記の考え方を用いる場合には、全体としては、高圧セルの実測の蓄積エネルギーECHyと蓄積エネルギー指令値ECH*とについてECH*≧ECHy及びECH*<ECHyの2通りと、中圧セルの実測の蓄積エネルギーECMyと蓄積エネルギー指令値ECM*とについてECM*≧ECmy及びECM*<ECMyの2通りと、低圧セルの実測の蓄積エネルギーECLyと蓄積エネルギー指令値ECL*とについてECL*≧ECly及びECL*<ECLyの2通りとの組み合わせとして考えられる8通りの全てについて上述の実施形態における方法A,B,Cなどを用いて出力電圧パルスのどの部分をシフトさせれば良いのかを事前に調べておき、当該出力電圧パルスのシフトのさせ方を記憶装置に保存しておけば、各セルの蓄積エネルギーの実測値と指令値とがどのような関係になっている場合でも各セル間の電力のやり取りが行われる。
【0101】
そして、上述の考え方に従って出力電圧パルスの位相を変えることによって、高圧セル1Hy及び中圧セル1My及び低圧セル1Lyの間で電力のやり取りを行って直流コンデンサの電圧を制御するようにしても良い。具体的には例えば、高圧セル1Hy及び中圧セル1Myから電力を流出させて低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしたり、高圧セル1Hyから電力を流出させて中圧セル1My及び低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしたり、高圧セル1Hyから電力を流出させて中圧セル1Myに電力を流入させると共に中圧セル1Myから電力を流出させて低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしたりすることによって、低圧セル1Lyに電力を流入させるようにしても良い。なお、この場合には、高圧セルの直流電圧VCHy,中圧セルの直流電圧VCMy,低圧セルの直流電圧VCLyがVCHy>VCMy>VCLyであると共に、低圧セルの直流電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きい。
【0102】
すなわち、本発明において追加的な補助電源としての直流電源を必要とすることなくハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式の無効電力補償装置を稼働させるという要点を実現するための図2における「電圧分配」を行う方法は、上述の実施形態で説明した表2に示すような出力電圧モードの切り替えの境界値に電圧偏差ΔVHMy',ΔVMLy'を加算する方法には限られるものではなく、電圧位相を変えたパルス列を出力する方法であればどのようなものであっても良い。
【0103】
ここで、本発明において各セルからの出力電圧の波形のパルス列を部分的に遅らせる若しくは進めるための電圧位相を変えたパルス列を出力する方法は特定の方法に限定されるものではない。また、電圧位相を変えたパルス列を出力する方法については周知のものが存在するので詳細については省略する。なお、あくまで一例としては具体的には例えば、i)パルス列を操作しない場合,ii)パルス列を遅らせた場合,iii)パルス列を進めた場合の三つの場合について高圧セル1Hy及び中圧セル1Myの出力電圧波形を例えば半導体メモリ等の読取高速の記憶装置に保存しておき、電源の周期に同期して切り替えるようにすることが考えられる。なお、低圧セル1Lyの出力電圧vLは、高圧セル1Hyの出力電圧vHと中圧セル1Myの出力電圧vMとに連動し、前掲の数式6に基づいて随時計算され決定される。
【0104】
また、上述の実施形態では高圧,中圧,低圧の三つのセルを用いて一つのクラスターを三段構成のセルによって構成するようにしているが、クラスターの構成はこれに限られるものではなく、例えば、上述の実施形態の高圧セルの3倍の電圧を有するセルを更に一段追加して四段構成としたり(この場合、直流コンデンサの電圧比は例えば18:6:2:kとする)、高圧セルを四段として全六段構成としたり(この場合、直流コンデンサの電圧比は例えば6:6:6:6:2:kとする)しても良い。
【0105】
なお、本発明の無効電力補償装置は、配電系統に接続して用いることに限られるものではなく、例えば変圧器を合わせて用いるようにすることによって送電系統に接続して用いることも可能である。
【実施例1】
【0106】
本発明の無効電力補償装置の構成を適用したハイブリッド形カスケード変換器を用いた自励式無効電力補償装置の動作適正性を検証するために行ったシミュレーション結果を図13から図18を用いて説明する。なお、以下の説明においては、三相u,v,wのうちのいずれかを意味する添字yを適宜省略する。
【0107】
本実施例では、図1に示す回路モデルを構築し、計算機シミュレーションによって動作適正性の検証を行った。本実施例のシミュレーションに用いた回路定数を表3に示す。
【表3】
【0108】
本実施例では、段間直流電圧比制御を適用するため、各セル1H,1M,1Lの直流電圧比をVCH*:VCM*:VCL* =6:2:1.2に設定した。これにより、低圧セル1Lの直流電圧は基準直流電圧Vdcよりも4〔V〕だけ高くなるため、|ΔVHL|,|ΔVML|,|ΔVHL +ΔVML|は4〔V〕以下の範囲で設定した。
【0109】
(1)同相セル間のエネルギー制御の検証
表2に示した電圧分配条件を用いた種々の動作シミュレーションを行い、各セル1H,1M,1Lの出力電圧を合成することによって図13〜図16に示す結果が得られた。図13〜図16には、具体的には、u相クラスターの出力電圧vout-u,出力電流iu,高圧セル出力電圧vHu,中圧セル出力電圧vMu,低圧セル出力電圧vLu,高圧セル直流電圧vCHu,中圧セル直流電圧vCMu,低圧セル直流電圧vCLuの波形を示す。
【0110】
まず、ΔVHLu=ΔVMLu=0〔V〕と設定してセル間のエネルギー制御を行わない場合のシミュレーションを行い、図13に示す結果が得られた。この結果から、各セル1Hu,1Mu,1Luが電圧vHu,vMu,vLuを出力するのに伴い、各セル1Hu,1Mu,1Luの直流電圧vCHu,vCMu,vCLuにはリプルを発生するものの、電源1周期(=20〔ms〕)後には元の電圧まで戻り、電圧偏差は発生しないことが確認された。これより、電源1周期の間で各セル1Hu,1Mu,1Lu間におけるエネルギーの移動は発生していないことが確認された。
【0111】
次に、ΔVHLu=4〔V〕且つΔVMLu=0〔V〕と設定して高圧セル1Huから電力を流出させるように制御した場合のシミュレーションを行い、図14に示す結果が得られた。この結果から、電源1周期後に高圧セル1Huの直流電圧vCHuは低下する一方で低圧セル1Luの直流電圧vCLuは上昇していることが確認された。一方で、中圧セル1Muの直流電圧vCMuは変化していないことが確認された。これらより、高圧セル1Huと低圧セル1Luとの間でエネルギーのやり取りが行われていることが確認された。
【0112】
また、ΔVHLu=0〔V〕且つΔVMLu=4〔V〕と設定して中圧セル1Muから電力を流出させるように制御した場合のシミュレーションを行い、図15に示す結果が得られた。この結果から、電源1周期後に中圧セル1Muの直流電圧vCMuは低下する一方で低圧セル1Luの直流電圧vCLuは上昇していることが確認された。一方で、高圧セル1Huの直流電圧vCHuは変化していないことが確認された。これらより、中圧セル1Muと低圧セル1Luとの間でエネルギーのやり取りが行われていることが確認された。
【0113】
さらに、ΔVHLu=−4〔V〕且つΔVMLu=4〔V〕と設定して高圧セル1Huに電力が流入すると共に中圧セル1Muから電力が流出するように制御した場合のシミュレーションを行い、図16に示す結果が得られた。この結果から、高圧セル1Huと中圧セル1Muとを同時に調整した場合においても、高圧セル1Huの直流電圧vCHuを増加させると共に中圧セル1Muの直流電圧vCMuを減少させることができることが確認された。
【0114】
以上の結果から、ハイブリッド形カスケード変換器の電圧分配にセル間のエネルギー制御を適用することで各セル1H,1M,1L間で蓄積エネルギーのやり取りが実現できることが確認された。
【0115】
(2)自励式無効電力補償装置動作の検証
次に、ハイブリッド形カスケード変換器を始動する際のシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、各セル1H,1M,1Lの直流コンデンサは初期充電回路によって定格時の90%まで充電した状態で始動を行い、始動と同時に5〔kVA〕の無効電力指令を与えた。
【0116】
上述の条件でハイブリッド形カスケード変換器を始動する際のシミュレーションを行い、図17に示す結果が得られた。この結果から、始動から50〔ms〕後に各セル1xyの直流電圧vCxyは所定の電圧指令値(表3参照)に一致することが確認された。また、電源電圧から90度位相が遅れた電流が流れており、無効電力の補償を実現できることが確認された。
【0117】
次に、定常動作中に段間直流電圧比制御を無効にした場合のシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、各セル1xyの直流コンデンサと並列に、電圧不均一要因を模擬するための抵抗を接続した。
【0118】
上述の条件で定常動作中に段間直流電圧比制御を無効にした場合のシミュレーションを行い、図18に示す結果が得られた。この結果から、段間直流電圧比制御を適用している間は各セル1xyの直流電圧vCxyは所定の電圧指令値(表3参照)に一致して動作を行っている一方で、段間直流電圧比制御を無効にすると各セル1xyの直流電圧vCxyが不均一になることが確認された。
【0119】
以上の結果から、段間直流電圧比制御はハイブリッド形カスケード変換器の直流電圧を所定の値に保つことに寄与していることが確認され、自励式無効電力補償装置として適正に動作することが確認された。
【符号の説明】
【0120】
1Hy 高圧セル(y相)
1My 中圧セル(y相)
1Ly 低圧セル(y相)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記高圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めると共に前記中圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めることによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項2】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHLy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHLy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項3】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVHLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVHLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項4】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項5】
前記三相毎に請求項2から4に記載のエネルギー移動の方法のうちのいずれか一つが用いられ、前記三相のうちの全て若しくは少なくとも一部においてエネルギー移動の方法が他の相と異なることを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項6】
前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=6:2:k(ただし、1<k<2)であることを特徴とする請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置。
【請求項7】
前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=4:2:k(ただし、1<k<2)であることを特徴とする請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置。
【請求項8】
前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyの比kの値が1.01〜1.3であることを特徴とする請求項6または7記載の無効電力補償装置。
【請求項1】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記高圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めると共に前記中圧セルの出力電圧の波形のパルスを部分的に遅らせる若しくは進めることによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項2】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHLy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHLy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項3】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記高圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVHLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVHLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項4】
三相(u,v,w相とする)交流の電力系統に連系される自励式の無効電力補償装置であって、各々が単相フルブリッジコンバータで構成される高圧セル,中圧セル,低圧セルが直列に接続されて構成されて出力電圧の波形の制御を行う前記三相交流の各相に対応するクラスターを有するハイブリッド形カスケード変換器を備え、前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが3VCMy≧VCHy>VCMy>VCLy>0.5VCMy(ただし、添字yは前記三相u,v,wのうちのいずれかを表す)であると共に、前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが基準直流電圧Vdcよりも大きく、前記クラスターからの出力電圧の波形の制御のための前記高圧セル,前記中圧セル,前記低圧セルの出力電圧モードの切り替えの境界値に、前記高圧セルと前記中圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVHMy'及び前記中圧セルと前記低圧セルとの間でのエネルギー移動を行わせるための電圧偏差ΔVMLy'(ただし、前記クラスターからの出力電流をiyとして、iy≧0のときはΔVHMy'>0且つΔVMLy'>0,iy<0のときはΔVHMy'<0且つΔVMLy'<0)を加算することによって前記高圧セル及び前記中圧セル及び前記低圧セルの間で電力のやり取りを行って前記各セルの直流コンデンサの電圧VCHy,VCMy,VCLyを制御することを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項5】
前記三相毎に請求項2から4に記載のエネルギー移動の方法のうちのいずれか一つが用いられ、前記三相のうちの全て若しくは少なくとも一部においてエネルギー移動の方法が他の相と異なることを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項6】
前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=6:2:k(ただし、1<k<2)であることを特徴とする請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置。
【請求項7】
前記高圧セルの直流コンデンサの電圧VCHy,前記中圧セルの直流コンデンサの電圧VCMy,前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyが、VCHy:VCMy:VCLy=4:2:k(ただし、1<k<2)であることを特徴とする請求項2から5のいずれか一つに記載の無効電力補償装置。
【請求項8】
前記低圧セルの直流コンデンサの電圧VCLyの比kの値が1.01〜1.3であることを特徴とする請求項6または7記載の無効電力補償装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−175848(P2012−175848A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36829(P2011−36829)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]