説明

無動力無電源排水処理槽

【課題】トイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、電源が必要な空気供給装置を使用せず、無動力・無電源で、浄化し放流する排水処理槽を提供する。
【解決手段】嫌気槽2を有し、これを点検するための点検口11を備えた構造の排水処理槽で、嫌気槽2の内部には、網状骨格体のろ材で代表的なものであるドーナツ円筒状の大きいもの3aと、小さいもの3bが充填されており、このろ材に繁殖した嫌気性微生物により、し尿や雑排水中のBODを除去することができる。また、この網状骨格体のろ材で代表的なものである3a・3bは、網のように編みこまれた構造をしており、この構造が、し尿や雑排水中に含まれる浮遊物質を捕捉し、除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、浄化して放流する排水処理槽として用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
従来のトイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、浄化して放流するためのものは、このし尿や雑排水を一時的に溜めておくだけの化糞池であった。
【0003】
この化糞池は、このし尿や雑排水を一時的に溜めておくだけのもので、このし尿や雑排水は浄化されることなく放流されるため、川や池、湖沼、海の環境汚染の原因となっていた。
【0004】
また、このし尿や雑排水には、病原性大腸菌などの環境や人体にとって有害な微生物が含まれており、この化糞池では、この微生物を滅菌することができず、これが川や池、湖沼、海などへ放流されることで、環境や人体に悪影響を及ぼしていた。
【0005】
また、このし尿や雑排水は、この化糞池で一時的に溜められている間、このし尿や雑排水の全部、又は一部が腐敗し、異臭を放ち、不快な臭いを周囲に漂わせていた。
【0006】
また、この化糞池は、FRPやコンクリート製のものが多く、熟練した製造技術者でしか製造することができず、大量に製造することができなかった。また、熟練した製造技術者が製造した製品であっても、穴ができたり、亀裂が生じたりするため、水漏れを起こす原因となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のトイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、一時的に溜めておくだけの化糞池は、このし尿や雑排水を浄化する機能を持っておらず、そのまま放流されるため、川や池、湖沼、海の環境汚染の原因となっていた。
【0008】
また、このし尿や雑排水には、病原性大腸菌などの環境や人体にとって有害な微生物が存在しており、これが川や池、湖沼、海などへ放流されることで、環境や人体に悪影響を及ぼす懸念があった。
【0009】
また、このし尿や雑排水は、この化糞池で一時的に溜められている間、このし尿や雑排水全部、又は一部が腐敗し、異臭を放ち、不快な臭いを周囲に漂わせていた。
【0010】
また、この化糞池は、FRPやコンクリート製のものが多く、熟練した製造技術者でしか製造することができず、大量に製造することができなかった。また、熟練した製造技術者が製造した製品であっても、穴ができたり、亀裂が生じたりするため、これらが水漏れを起こす原因となり、このし尿や雑排水を貯留できず、化糞池としての機能を損なっていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題を解決するための手段は次の通りである。
トイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、電源が必要な空気供給装置を使用せず、無動力・無電源で、浄化し放流することができ、嫌気槽を有し、これを点検するための点検口を備えた構造の排水処理槽であって、この嫌気槽の内部に、網状骨格体のろ材を充填し、し尿や雑排水中のBODを50〜80%除去、浮遊物質を50〜80%除去することができる排水処理槽を提案する。
【0012】
この排水処理槽の嫌気槽の内部に充填した網状骨格体のろ材は、嫌気性微生物の棲み処に適しており、嫌気性微生物の繁殖を活発にする。この増殖した嫌気性微生物は、し尿や雑排水中に含まれる、川や池、湖沼、海の環境汚染の原因となる有機物質を分解し、し尿や雑排水中のBODを除去する。
【0013】
また、この網状骨格体のろ材は、網のように編みこまれた構造をしており、この構造が、し尿や雑排水中に含まれる浮遊物質を捕捉する。これにより、し尿や雑排水中の浮遊物質は網状骨格体のろ材に捕捉され、除去される。
【0014】
また、この排水処理槽の嫌気槽の後にろ過槽を設け、このろ過槽の内部に充填した、ゼオライトなどの細孔を有する鉱物、砂(軽石含む)、活性炭、プラスチック、ゴムなどを混入したろ過材もまた、し尿や雑排水中に含まれる浮遊物質を捕捉する。これにより、嫌気槽で捕捉しきれなかったし尿や雑排水中の浮遊物質は、ろ過槽のろ過材により捕捉され、除去される。
【0015】
ここで、このろ過槽のろ過材は、捕捉した浮遊物質が多くなるほど、ろ過材が目詰まりし、水が流れにくくなるか、もしくは、全く流れなくなるが、無動力・無電源のサイフォン洗浄方式、ロータンク洗浄方式、オーバーフロー洗浄方式、エアー洗浄方式のいずれかによる自動洗浄機構により、ろ過材に目詰まりが発生したとき、自動的にろ過材の洗浄が行われ、このろ過材の目詰まりが解消される。
【0016】
また、このろ過槽の後に処理水槽を設け、ろ過槽のろ過材の目詰まりを自動洗浄機構により解消した際に、万一、ろ過槽から浮遊物質が流れ出た場合でも、この処理水槽で沈降・貯留する。
【0017】
また、排水処理槽から外部へ放流する直前に消毒槽を設け、消毒槽の内部に備えた筒に充填している塩素系の薬剤により、病原性大腸菌などの微生物を滅菌する。
【0018】
また、この排水処理槽はポリプロピレンやポリエチレン、ポリアセタール、ナイロン、ジシクロペンタジエンなどの樹脂原料を用いて作られた射出成型品を排水処理槽の全体槽として使用し、さらに、この排水処理槽内部の各槽を仕切るための仕切り板や、各槽に付随する部品にも、同様の樹脂原料を用いて作られた射出成型品を使用する。
【0019】
また、この排水処理槽の上部に、土壌の層を設け、排水処理槽の内部で発生した臭気が、この土壌を通過する際、この土壌に生息する微生物が、臭気の原因となる成分を分解する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の排水処理槽を用いることで、トイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水に含まれる有機物質を嫌気性微生物が分解し、BODを50〜80%除去できる。これにより、川や池、湖沼、海の環境汚染を防止することができる。
【0021】
また、このし尿や雑排水中に含まれる浮遊物質を嫌気槽の内部に充填された網状骨格体のろ材や、ろ過槽の内部に充填されたゼオライトなどの細孔を有する鉱物、砂(軽石含む)、活性炭、プラスチック、ゴムなどを混入したろ過材によって捕捉し、この浮遊物質を50〜80%除去できる。これによっても、川や池、湖沼、海の環境汚染を防止することができる。
【0022】
さらに、このろ過槽のろ過材が捕捉した浮遊物質により、目詰まりが起きた場合でも、無動力・無電源のサイフォン洗浄方式、ロータンク洗浄方式、オーバーフロー洗浄方式、エアー洗浄方式のいずれかによる自動洗浄機構により、目詰まりが自動的に解消され、安定して浮遊物質を捕捉することができる。これにより、浮遊物質は継続して50〜80%除去することができ、川や池、湖沼、海の環境汚染も継続して防止することができる。
【0023】
また、このろ過槽の後に処理水槽を設けることで、ろ過槽のろ過材の目詰まりを自動洗浄機能により解消した際に、万一、ろ過槽から流出した浮遊物質も沈降・貯留することができる。これにより、さらに浮遊物質を除去し、川や池、湖沼、海の環境汚染を防止することができる。
【0024】
また、排水処理槽から外部へ放流する直前に塩素系の薬剤を充填した筒を消毒槽の内部に設けることで、この薬剤により病原性大腸菌などの微生物を滅菌する。これにより、これらの微生物が排水処理槽の外部へ放流されることを抑制し、環境及び人体への悪影響を防ぐことができる。
【0025】
また、この排水処理槽はポリプロピレンやポリエチレン、ポリアセタール、ナイロン、ジシクロペンタジエンなどの樹脂原料を用いて作られた射出成型品を排水処理槽の全体槽として使用し、さらに、この排水処理槽内部の各槽を仕切るための仕切り板や、各槽に付随する部品にも、同様の樹脂原料を用いて作られた射出成型品を使用することで、水漏れの原因となるような穴や亀裂が生じることがなく、大量に、誰にでも、この排水処理槽を製造することができ、安定的に供給することができる。
【0026】
また、この排水処理槽の上部に、土壌の層を設けていることで、排水処理槽の内部から発生した臭気が、この土壌を通過する際、土壌に生息する微生物が、臭気の原因となる成分を分解し、この排水処理槽の周囲には、不快な臭いが漂わなくなり、安心してこの排水処理槽を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の排水処理槽で嫌気槽を有する構造のもの
【図2】本発明の排水処理槽で嫌気槽の後にろ過槽を有する構造のもの
【図3】本発明の排水処理槽で嫌気槽の後にろ過槽を有し、ろ過槽の後に処理水槽を有する構造のもの
【図4】本発明の排水処理槽で嫌気槽の後にろ過槽を有し、ろ過槽の後に処理水槽を有し、処理水槽の後に消毒槽を有する構造のもの
【図5】本発明の排水処理槽で嫌気槽に充填した網状骨格体のろ材の大と小
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、トイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、浄化して放流する排水処理槽として実施する。
【0029】
図1は、本発明の排水処理槽で嫌気槽2を有し、これを点検するための点検口11を備えた構造のものを示す。嫌気槽2の内部には、網状骨格体のろ材で代表的なものであるドーナツ円筒状の大きいもの3aと、小さいもの3bが充填されており、嫌気性微生物がこれらのろ材を棲み処とし、この嫌気性微生物は活発に繁殖する。この嫌気性微生物により、し尿や雑排水中に含まれる、川や池、湖沼、海の環境汚染の原因となる有機物質を分解し、し尿や雑排水中のBODを除去することができる。
【0030】
また、この網状骨格体のろ材で代表的なものである3a・3bは、図5に示すように網のように編みこまれた構造をしており、この構造が、し尿や雑排水中に含まれる浮遊物質を捕捉する。これにより、し尿や雑排水中の浮遊物質を、除去することができる。
【0031】
図2は、本発明の排水処理槽で嫌気槽2の後にろ過槽4を有し、これを点検するための点検口11を備えた構造のものを示す。嫌気槽2の構造は、図1で示したものと同じ構造のもので、ろ過槽4の内部には、ゼオライトなどの細孔を有する鉱物、砂(軽石含む)、活性炭、プラスチック、ゴムなどを混入したろ過材5が充填されており、このろ過材がし尿や雑排水中に含まれる浮遊物質を捕捉する。これにより、嫌気槽で捕捉しきれなかったし尿や雑排水中の浮遊物質を、除去することができる。
【0032】
ここで、このろ過槽4の内部に充填されたろ過材5は、捕捉した浮遊物質が多くなるほど、ろ過材5が目詰まりし、水が流れにくくなるか、もしくは、全く流れなくなる。これを無動力・無電源の自動洗浄機構6により、ろ過材5に目詰まりが発生したとき、自動的にろ過材5の洗浄が行われ、このろ過材5の目詰まりが解消される。これにより、ろ過槽4の内部に充填されたろ過材5が、安定してし尿や雑排水中の浮遊物質を除去することができる。
【0033】
図3は、本発明の排水処理槽で嫌気槽2の後にろ過槽4を有し、ろ過槽4の後に処理水槽7を有し、これを点検するための点検口11を備えた構造のものを示す。嫌気槽2の構造は、図1で示したものと同じ構造のもので、ろ過槽4の構造は、図2で示したものと同じ構造のものである。処理水槽7は、ろ過槽4のろ過材5の目詰まりを無動力・無電源の自動洗浄機構6により解消した際に、万一、ろ過槽4から浮遊物質が流れ出た場合でも、この処理水槽7で沈降・貯留する。これにより、ろ過槽4のろ過材5の目詰まりの原因となった浮遊物質は、万一、ろ過槽4から流れ出た場合でも処理水槽7により除去されたこととなる。
【0034】
図4は、本発明の排水処理槽で嫌気槽2の後にろ過槽4を有し、ろ過槽4の後に処理水槽7を有し、処理水槽7の後に消毒槽8を有し、これを点検するための点検口11を備えた構造のものを示す。嫌気槽2の構造は、図1で示したものと同じ構造のもので、ろ過槽4の構造は、図2で示したものと同じ構造のもので、処理水槽7の構造は、図3で示したものと同じ構造である。消毒槽8の内部には、塩素系薬剤10を充填した筒9を備え、この塩素系薬剤10が処理水槽7から流れてきたし尿や雑排水と接触することで溶解し、このし尿や雑排水中に含まれる病原性大腸菌などの微生物を滅菌する。これにより、これらの微生物が排水処理槽の外部へ放流されることを抑制し、環境及び人体への悪影響を防ぐことができる。
【0035】
図1、図2、図3、図4に示された排水処理槽本体1、嫌気槽2、ろ過槽4、処理水槽7、消毒槽8、汚泥引抜口付仕切板12は、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリアセタール、ナイロン、ジシクロペンタジエンなどの樹脂原料を用いて作られた射出成型品で、水漏れの原因となるような穴や亀裂が生じることがなく、大量に、誰にでも、この排水処理槽を製造することができ、安定的に供給することができる。
【0036】
図1、図2、図3、図4に示された排水処理槽上部の土壌の層13は、排水処理槽本体1の内部から発生した臭気が、この土壌の層13を通過する際、この土壌の層13に生息する微生物によって、臭気の原因となる成分が分解される。これにより、周囲に不快な臭いが漂わなくなる。
【符号の説明】
【0037】
1:排水処理槽本体
2:嫌気槽
3a:嫌気槽に充填した網状骨格体のろ材でドーナツ円筒状のもの大
3b:嫌気槽に充填した網状骨格体のろ材でドーナツ円筒状のもの小
4:ろ過槽
5:ろ過槽に充填したろ過材
6:ろ過材が目詰まりした時の自動洗浄機構
7:処理水槽
8:消毒槽
9:薬剤を充填した筒
10:塩素系薬剤
11:点検口
12:汚泥引抜口付仕切板
13:土壌の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレから排出されるし尿や、台所・浴室・洗面所・洗濯機から排出される雑排水を、電源が必要な空気供給装置を使用せず、無動力・無電源で、浄化し放流することができ、嫌気槽を有し、これを点検するための点検口を備えた構造の排水処理槽であって、この嫌気槽の内部に、網状骨格体のろ材を充填し、し尿や雑排水中のBODを50〜80%除去、浮遊物質を50〜80%除去することができる排水処理槽。
【請求項2】
前記嫌気槽の後にろ過槽を有した構造の排水処理槽であって、このろ過槽の内部に、ゼオライトなどの細孔を有する鉱物、軽石、砂、活性炭、プラスチック、ゴムなどを原料として作られたろ過材を充填し、無動力・無電源のサイフォン洗浄方式、ロータンク洗浄方式、オーバーフロー洗浄方式、エアー洗浄方式のいずれかによる自動洗浄機構を備え、このろ過材が目詰まりした場合でも、この目詰まりを解消することができる請求項1に記載の排水処理槽。
【請求項3】
前記ろ過槽の後に、処理水槽を有した構造の排水処理槽であって、ろ過槽の自動洗浄の際に流れ出た処理水槽中の浮遊物質を沈降・貯留することができる請求項2に記載の排水処理槽。
【請求項4】
前記嫌気槽の後、もしくは前記ろ過槽の後、もしくは前記処理水槽の後に、消毒槽を有した構造の排水処理槽であって、この消毒槽には、塩素系の薬剤を充填した筒を備え、消毒槽中の大腸菌を滅菌することができる請求項1、または2、または3に記載の排水処理槽。
【請求項5】
ポリプロピレンやポリエチレン、ポリアセタール、ナイロン、ジシクロペンタジエンなどの樹脂原料を用いて作られた射出成型品を排水処理槽の全体槽として使用し、さらに、この排水処理槽内部の各槽を仕切るための仕切り板や、各槽に付随する部品にも、同様の樹脂原料を用いて作られた射出成型品を使用した請求項1〜4のいずれかに記載の排水処理槽。
【請求項6】
排水処理槽の上部に土壌の層を設け、臭いの原因となる臭気成分を分解し、不快な臭いがしない請求項1〜5のいずれかに記載の排水処理槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75283(P2013−75283A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229253(P2011−229253)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(591254729)関西化工株式会社 (13)
【Fターム(参考)】