説明

無方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】酸洗性の劣化を抑制することが可能な、無方向性電磁鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、C≦0.006%、Cr:0.3〜5%、Si:1〜4%、Al:0.4〜3%、Mn≦1.5%、S≦0.003%、N≦0.003%を含み、残部が不可避的不純物およびFeからなる熱延板を連続焼鈍する工程と、焼鈍された熱延板を酸洗する工程と、酸洗された熱延板を冷間圧延して冷延板とする工程と、冷延板を再結晶焼鈍する工程と、を含み、熱延板を焼鈍する工程では、焼鈍温度を900〜1150℃とし、雰囲気をN主体とし、露点を50℃以下とし、O量を容積%で1%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保全という観点から、近年におけるエネルギー多消費文明の弊害が問題視されている。無方向性電磁鋼板の使用される電気機器の分野でいえば、冷暖房機器のモータ、電気自動車用の駆動モータなどに、更なる消費電力の低減が求められている。また、モータ駆動の制御方式は、従来の電流ON−OFF制御でなく、インバータによる高調波が重畳されたPWM波形制御になってきている。このため、高周波特性に優れた電磁鋼板が求められるようになってきた。
【0003】
無方向性電磁鋼板の高級品の製造方法は、一般的に、成分を調整した連続鋳造スラブを熱間圧延して熱延板焼鈍し、焼鈍後の熱延板の表面スケールを除去する酸洗を行い、酸洗後の熱延板を冷間圧延して冷延板とし、この冷延板を再結晶焼鈍する工程からなる。従来、無方向性電磁鋼板の製造技術としては、高周波鉄損を改善する目的で、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)などを増加させて固有抵抗を増やすこと、また、製品板厚を極力薄くすることが行われてきた。特に、Crについては、鋼を脆化させることなく固有抵抗を増加させるため、高周波用途には極めて有効な成分であることが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−229095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Cr添加鋼の問題点の一つとして、酸洗性の劣化という問題がある。酸洗性が劣化することで、酸洗後の鋼板表面に残存するスケールの削減を目的とする酸洗工程における通板速度の大幅な低下が求められたり、酸洗後に鋼板表面に残存するスケールによる次工程(冷間圧延)でのロールの異常磨耗による鋼板の破断や鋼板形状不良が生じたりといった、製造上の障害があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、酸洗性の劣化を抑制することが可能な、無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、質量%で、C≦0.006%、Cr:0.3〜5%、Si:1〜4%、Al:0.4〜3%、Mn≦1.5%、S≦0.003%、N≦0.003%を含み、残部が不可避的不純物およびFeからなる熱延板を焼鈍する工程と、焼鈍された前記熱延板を酸洗する工程と、酸洗された前記熱延板を冷間圧延して冷延板とする工程と、前記冷延板を再結晶焼鈍する工程と、を含み、前記熱延板を焼鈍する工程では、焼鈍温度を900〜1150℃とし、雰囲気をN主体とし、露点を50℃以下とし、O量を容積%で1%以下とする、無方向性電磁鋼板の製造方法が提供される。
【0008】
前記熱延板を焼鈍する工程では、前記露点を30℃以下としてもよい。
【0009】
また、前記熱延板を焼鈍する工程では、前記O量を容積%で0.5%以下としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、熱延板を焼鈍する際に焼鈍温度および雰囲気を適切に制御することで、酸洗性の劣化を抑制できる無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る連続焼鈍後の熱延板の構造を説明するための説明図である。
【図2】同実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法を説明するための流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
<連続焼鈍後の熱延板の構造>
まず、図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る連続焼鈍後の熱延板の構造について説明する。図1は、本実施形態に係る連続焼鈍後の熱延板の構造を説明するための説明図であり、連続焼鈍後の熱延板の構造を、模式的に表したものである。
【0014】
連続焼鈍後の熱延板1は、例えば図1に示したように、母材である鋼板10と、鋼板10上に形成された酸化物層20と、を主に有する。
【0015】
[熱延板について]
母材である鋼板10は、鋼板に含まれる各成分が所定の範囲となるように調製された熱延板を用いて製造される。なお、鋼板10の板厚は、高周波(400Hz〜1kHz程度の周波数)での磁気特性を改善するために、薄いほうが好ましく、例えば、0.8mm〜3.0mm程度であることが好ましい。
【0016】
ここで、本実施形態に係る熱延板は、質量%で、C≦0.006%、Cr:0.3〜5%、Si:1〜4%、Al:0.4〜3%、Mn≦1.5%、S≦0.003%、N≦0.003%を少なくとも含み、残部は、不可避的不純物およびFeからなる鋼板である。
【0017】
本実施形態に係る鋼板10として用いられる熱延板に含まれる炭素量(C量)は、質量%で0.006%以下である。また、熱延板に含まれる炭素量は、質量%で0.003%以下であることが好ましい。無方向性電磁鋼板(以下、電磁鋼板と略記する。)の母材となる熱延板中の炭素量が0.006%超過である場合には、電磁鋼板の磁気時効に問題が生じる可能性がある。また、熱延板中の炭素量が0.003%以下である場合には、特に歪取焼鈍後に優れた磁気特性が得られるので、より好ましい。
【0018】
熱延板に含まれるクロム量(Cr量)は、質量%で、0.3%以上5%以下である。鋼板中にCrが含有されることで、電磁鋼板を脆化させることなく、固有抵抗を増大させることが可能となる。また、熱延板中のCr量を上述の範囲とすることで、熱延板に添加するSiおよびAlの含有量を、上述のような範囲に抑制することが可能となる。なお、熱延板中のCr量が上述の範囲外である場合には、鋼板10の表面が酸化しなくなるため、好ましくない。
【0019】
熱延板に含まれるケイ素量(Si量)は、質量%で1%以上4%以下である。熱延板中にSiが含有されることで、電磁鋼板の鉄損を改善することが可能となる。熱延板中のSi量を上述の範囲とすることで、鉄損を改善しつつ、かつ、連続焼鈍後に行われる酸洗工程での酸洗性を向上させることが可能となる。熱延板中のSi量が1%未満である場合には、以下で説明するような内部酸化層が形成されないため、好ましくない。また、電磁鋼板中のSi量が4%超過である場合には、脆化が大きくなるため、好ましくない。
【0020】
熱延板に含まれるアルミニウム量(Al量)は、質量%で0.4%以上3%以下である。熱延板中にAlが含有されることで、電磁鋼板の鉄損を改善することが可能となる。熱延板中のAl量を上述の範囲とすることで、鉄損を改善しつつ、かつ、連続焼鈍後に行われる酸洗工程での酸洗性を向上させることが可能となる。熱延板中のAl量が0.4%未満である場合には、以下で説明するような内部酸化層が形成されないため、好ましくない。また、熱延板中のAl量が3%超過である場合には、脆化が大きくなるため、好ましくない。
【0021】
熱延板に含まれるマンガン量(Mn量)は、質量%で1.5%以下である。熱延板中にMnが上述の含有量で含有されることで、電磁鋼板の固有抵抗を増大させ、鉄損を改善することが可能となる。なお、熱延板中のMn量が1.5%超過である場合には、電磁鋼板に脆性の問題が生じるため、好ましくない。
【0022】
熱延板に含まれる硫黄量(S量)は、質量%で0.003%以下である。また、熱延板に含まれる硫黄量は、質量%で0.002%以下であることが好ましい。熱延板中のS量が0.003%超過である場合には、電磁鋼板中にMnS等の硫化物が増加し、電磁鋼板における磁壁の移動が阻害されることとなって電磁鋼板の磁気特性が劣化するため、好ましくない。0.002%以下であれば、硫化物がさらに減少するので鉄損が改善され、より好ましい。
【0023】
熱延板に含まれる窒素量(N量)は、質量%で0.003%以下である。熱延板中のN量が0.003%超過である場合には、電磁鋼板に、ブリスターと称されるフクレ状の表面欠陥が生じるため、好ましくない。
【0024】
また、熱延板中には、工業的にはゼロppmとはできない不可避的不純物が含有されていてもよい。かかる不可避的不純物として、例えば、銅(Cu)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、リン(P)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、酸素(O)等の元素を挙げることができる。これらの不可避的不純物のうち、特にTi、Nb、V、Zr、Mg、O等は、含有量が微量であっても、微細な析出物を形成して鋼板の鉄損を劣化させるため、かかる元素の含有量は、0.005%以下であることが好ましい。
【0025】
以上、本実施形態に係る鋼板10と、この鋼板10を製造する際に用いられる熱延板について説明した。次に、本実施形態に係る酸化物層20について説明する。
【0026】
[酸化物層について]
酸化物層20は、例えば図1に示したように、鋼板10上に形成されている、酸化物を含む層である。この酸化物層20に含まれる酸化物として、例えば、酸化鉄(FeO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)等がある。また、これらの酸化物以外にも、例えば、Crの酸化物等が含まれている場合もある。
【0027】
スケールが付着したままの連続焼鈍後の熱延板の鋼板表面を、最表面からスパッタしながらグロー放電発光分光分析(Glow Discharge Spectroscopy:GDS)により分析した。これにより、本実施形態に係る酸化物層20について、どの厚みの部分にどのような成分を含有しているか、という状態を把握することができる。
【0028】
分析の結果、本実施形態に係る連続焼鈍後の熱延板には、鋼板最表面から母材に向かって、FeOを主体とする酸化物層、SiOを主体とする酸化物層、Alを主体とする酸化物層という3種類の酸化物層を有していることが判明した。そこで、以下の説明では、FeOを主体とする酸化物層を外部酸化層と称することとし、SiOを主体とする酸化物層およびAlを主体とする酸化物層をまとめて、内部酸化層と称することとする。
【0029】
この結果を模式的に図示すると、図1に示したようになる。すなわち、本実施形態に係る連続焼鈍後の熱延板には、母材となる鋼板10上に内部酸化層21が形成され、内部酸化層21上に外部酸化層23が形成されている。
【0030】
<酸化物層と酸洗性との関係について>
上述のGDSを用いた分析の結果、いわゆるCr添加鋼においてCr成分、Si成分およびAl成分の成分バランスが上述のような範囲となった場合に、SiOやAlの残存が多いことが分かった。特に、Al量が多くなると、熱延板焼鈍後にAlを主体とする酸化物層の膜厚が厚くなり、濃い濃度のAlが非常に深く鋼板内部に侵入していることが判明した。
【0031】
得られたこれらの知見に基づいて本件発明者が酸洗性との関係について検討した結果、酸洗性の劣化は、熱延板の焼鈍時に生じる異常な酸化によってAlが異常に発達したためであるとの結論が得られた。
【0032】
すなわち、焼鈍により発達したAlを主体とする酸化物層の膜厚が厚くなることで、酸洗工程において酸化物層の除去が困難となるとともに、Al自体が硬い酸化物であるため、圧延ロールが著しく摩耗する。
【0033】
このような異常酸化が発生する理由については、現時点では定かではないが、以下のような理由が考えられる。すなわち、Cr−Si−Alの成分バランスが上述のような特定の範囲となる場合、Cr濃度の高い最表層酸化物がまだらに(アイランド状に)分布した構造となっている。その結果、鋼板表面に、Cr濃度の高い最表層酸化物によって覆われている部分と覆われていない部分とが存在することとなり、雰囲気中の酸素の鋼板内部への拡散が容易となってしまうものと考えられる。
【0034】
このようにして発生したスケールを除去するために、酸洗工程に先立ち通常実施されるレベラーやショットブラストによるスケール破壊を強化するとともに、酸洗工程後の通常のワイヤーブラシによる表面研削を強く実施した。しかしながら、かかる処理を行った場合であっても、脱スケールには大きな効果はなかった。
【0035】
そこで、本件発明者が、かかる酸洗性の劣化を抑制するために鋭意研究を行った結果、以下で説明するように、熱延板の焼鈍時に焼鈍雰囲気を制御することで、内部酸化層中のAlを抑制し、酸洗性を改善可能であることに想到した。以下では、酸洗性の劣化を抑制することが可能な無方向性電磁鋼板の製造方法について、詳細に説明する。
【0036】
<無方向性電磁鋼板の製造方法について>
[製造方法の全体的な流れについて]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、例えば図2に示したように、製鋼工程S11と、熱間圧延工程S13と、熱延板の焼鈍工程S15と、酸洗工程S17と、冷間圧延工程S19と、再結晶焼鈍工程S21と、を主に含む。
【0037】
製鋼工程S11は、所望の成分を含む鋼材を製造する工程である。この製鋼工程を経ることで、質量%で、C≦0.006%、Cr:0.3〜5%、Si:1〜4%、Al:0.4〜3%、Mn≦1.5%、S≦0.003%、N≦0.003%を少なくとも含み、残部は、不可避的不純物およびFeからなる鋼材が製造される。
【0038】
製鋼工程S11後に実施される熱間圧延工程S13は、成分調整後の鋼材を熱間圧延し、熱延材とする工程である。熱間圧延に際し、鋼材(例えばスラブ)の加熱については特に制限するものではないが、微細な析出物の発生を防止するために、950〜1200℃程度の低温とすることが好ましい。また、製造される熱延板の板厚は、特に制限するものではないが、0.8〜3.0mm程度とする。
【0039】
熱間圧延工程S13後に実施される熱延板の焼鈍工程S15は、熱間圧延工程において製造された熱延板を焼鈍する工程である。熱延板を焼鈍することで、鋼板の磁束密度を向上させ、ヒステリシス損の低減を図ることが可能となる。
【0040】
熱延板の焼鈍工程S15の実施後には、酸を用いて熱延板に生成した酸化物スケールを洗い流す酸洗工程S17が行われる。
【0041】
なお、上述の焼鈍工程および酸洗工程については、以下で改めて詳細に説明する。
【0042】
酸洗工程S17後に実施される冷間圧延工程S19は、熱延板を冷間圧延して、所望の板厚の冷延板を製造する工程である。冷間圧延は、通常のリバース圧延またはタンデム圧延により行うことが可能であるが、ゼンジマーミル等を用いるリバース圧延の方が、高い磁束密度の冷延板を製造することができるため、好ましい。また、脆性破断を防止するために、40〜200℃で温間圧延することも好ましい。冷延板の板厚は、高周波磁気特性を改善するために薄い方がよく、例えば、0.1〜0.5mmとすることが好ましい。
【0043】
冷間圧延工程S19後に実施される再結晶焼鈍工程S21は、焼鈍により結晶組織を再結晶させることで、圧延時に鋼板に生じた加工歪みを取り除く工程である。
【0044】
かかる手順を経ることで、無方向性電磁鋼板が製造される。なお、再結晶焼鈍工程S21の後には、通常、絶縁被膜の塗布および焼付け処理が行われる。この絶縁被膜は、有機物であってもよく、無機物であってもよく、有機物と無機物との混合物であってもよい。
【0045】
このようにして製造された無方向性電磁鋼板は、所望の形状に打ち抜かれた後に積層され、モータコアとして利用されたり、積層されたモータコアを700〜800℃程度で歪取焼鈍した後に使用したりする。
【0046】
[焼鈍工程について]
続いて、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の焼鈍工程について、詳細に説明する。
【0047】
焼鈍工程は、先に説明したように、磁束密度の向上およびヒステリシス損の低減を図ることを目的とした工程である。鋼板を焼鈍する方法には、コイル状の鋼材を焼鈍炉に入れるバッチ焼鈍と、コイル状の鋼材を巻き戻しながら焼鈍を行う連続焼鈍とがあるが、コイルの均熱性の点から、連続焼鈍により熱延板を焼鈍することが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る焼鈍工程では、熱延板を焼鈍する温度(以下、焼鈍温度と称する。)を、900℃〜1150℃とする。焼鈍温度を900℃〜1150℃とすることで、無方向性電磁鋼板に求められる磁束密度を、焼鈍工程に用いられる各種の設備を傷めることなく実現することができる。焼鈍温度が900℃未満である場合には、無方向性電磁鋼板に求められる磁束密度を得ることができない。また、焼鈍温度が900℃未満である場合には、Alの発達も少ないため、酸洗性が劣化するという問題も少ない。他方、焼鈍温度が1150℃超過である場合には、炉内に設けられたハースロールや炉壁の傷み等が大きくなるため、好ましくない。また、本実施形態に係る焼鈍工程での均熱時間は、10秒〜5分程度とすることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係る焼鈍工程では、炉内の雰囲気を、窒素(N)を主体とする雰囲気とし、露点を50℃以下とし、かつ、酸素(O)量を容積%で1%以下の弱酸化性雰囲気とする。なお、露点50℃は、容積%で約19.4%である。例えば、露点が50℃であり、酸素量が1容積%である場合、残部が窒素であるとすると、窒素の容積%は、約80%となる。なお、炉内には、窒素および酸素以外にも、CO、CO、H等が含まれていても良いが、窒素の容積は、60%以上であることがコストの面からも好ましい。
【0050】
窒素主体の雰囲気とし、露点を50℃以下、かつ、酸素量を1容積%以下とすることで、Alの異常成長を防止することが可能となり、酸洗性が向上した熱延板を製造することができる。露点が50℃超過である場合、または、酸素量が1容積%超過となる場合には、内部酸化層が爆発的に成長してしまい、焼鈍後に行われる酸洗工程での酸洗性が著しく劣化するため、好ましくない。
【0051】
また、露点が30℃以下、または、酸素量を0.5容積%以下とすることで、Alの異常成長を更に防止することが可能となり、ひいては、更なる酸洗性の向上を図ることが可能となるため、より好ましい。
【0052】
なお、本実施形態に係る焼鈍工程では、炉内雰囲気として、先に挙げたガス成分に加え、CO、CO、H等が含まれていてもよい。
【0053】
[酸洗工程について]
続いて、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の酸洗工程について、詳細に説明する。
【0054】
酸洗工程は、先に説明したように、酸を用いて熱延板に生成した酸化物スケールを洗い流す工程である。酸洗工程において用いられる酸としては、酸化物スケールと反応して熱延板の鋼板表面から当該酸化物スケールを除去可能な酸であれば任意の酸を利用することが可能であるが、かかる酸の例として、例えば、硝酸、フッ酸、塩酸等を挙げることができる。また、タンクや配管等の設備のメンテナンス管理等を考慮すると、上に例示した酸の中でも塩酸を用いることが好ましい。
【0055】
また、かかる酸洗工程に先立ち、レベラーやショットブラストによってスケールを破壊する工程を行ってもよい。また、酸洗工程後に、ワイヤーブラシ等を用いて熱延板の表面を研削する工程を行ってもよい。これらの機械的処理は、熱延板表面に存在するスケールの除去に有効である。
【0056】
なお、ワイヤーブラシ等を用いた機械研削において研削量を多く設定し、内部酸化層23の深部に位置するAlを削り取ってしまう方法を用いることで、Alをより確実に除去することも可能である。しかしながら、酸化物層を深く研削しようとした場合、ワイヤーブラシの先端部の磨耗が激しくなり、コスト面での問題が多くなるため、現実的ではない。したがって、実際的な研削量としては、例えば、2〜15g/m程度とすることが好ましい。
【0057】
(実施例)
以下では、実施例を示しながら、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について、詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の一例であって、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法が、以下の例に限定されるわけではない。
【0058】
<実施例1>
実験室での真空溶解試験により、表1に示す成分を溶解鋳造し、3mm厚まで熱間圧延した。次いで熱延板焼鈍を、焼鈍温度1120℃で実施した。均熱時間は、2分とした。焼鈍後、0.5mmφの鋼球によるショットブラスト処理を15秒間行い、25%HCl、85℃溶液中に40秒間浸漬してから、ワイヤーブラシで表面を7g/m研削した。
【0059】
雰囲気は、以下に示す2水準とした。
(1)N主体で65℃露点の水蒸気と、容積%で1.5%のOとを含む混合気流
(2)ドライ100%Nからなる気流
【0060】
焼鈍後のショットブラスト前に、生成された酸化物層の膜厚を鋼板断面の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)観察により測定した。FeO主体の外部酸化層、ならびに、SiOおよびAl主体の内部酸化層の平均厚みを求めた。外部酸化層と内部酸化層とは、主体となる化合物の違いに起因して色調が異なるため、容易に識別可能である。
【0061】
酸洗、ワイヤーブラシ処理後の鋼板表面を肉眼で観察し、スケールが残存しているか否かを判定した。残存しているスケールの量は、鋼板表面を占めるスケールの面積の割合として表した。全面銀色の金属光沢であればスケールの残存0%であり、例えば、鋼板表面の半分の面積に焦げ茶色のスケールが残存していれば、残存率は50%とした。
【0062】
また、酸洗、ワイヤーブラシ処理後のAlの厚みも測定した。Alの厚みは、鋼板表面のGDSにより把握可能である。GDSの測定結果の深さ方向のプロファイルから、最表層の最大濃化したAl量の半分のAl値を示す点までの深さをAlの厚みとした。ここで、GDSの照射面積は4mmφであり、分析に用いたGDS装置は、ジョバン・イボン社製JY5000RF−PSS型である。
【0063】
得られた結果を、表2に示す。なお、表2において、雰囲気(1)における結果をwetと表示し、雰囲気(2)における結果をdryと表示している。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1および表2に示した結果から明らかなように、本発明に係る熱延板の成分範囲ではスケール落ちが劣化すること、しかしながら、熱延板焼鈍雰囲気制御によってスケール残存という問題が解消されることが分かる。
【0067】
なお、内部酸化層の厚みに着目すると、dry雰囲気における内部酸化層の厚みは、wet雰囲気における厚みに比べて薄くはなるが、wet同士で比較した場合にはスケールの残存が必ずしも内部酸化層の厚みと比例しているわけではないことが分かる。スケールの残存は、残存Alの量と比例していることから、内部酸化層におけるAlの深さだけでなく濃縮度合いも、スケール残存に関連していると考えられる。
【0068】
また、残存スケール面積%としては、5%未満が工業的には問題がないレベルであり、対応する残存Alの厚みは、0.2μm以下である。したがって、表2においては、残存スケールおよび残存Al厚の合格レベルを、それぞれ5%未満、0.2μm以下とした。表2から明らかなように、本発明に係る熱延板は、この合格レベルを満たしていることが分かる。なお、dry雰囲気では、外部酸化層の厚みがむしろ増加していることから、酸化過程がかなり複雑な過程となっていることが想像される。
【0069】
<実施例2>
質量%で、C:0.001%、Cr:0.8%、Si:2.5%、Al:1.4%、Mn:0.2%、S:0.002%、N:0.001%を含む溶鋼を連続鋳造し、1150℃で加熱して1.8mm厚の熱延コイルとした。次いで、熱延板焼鈍を実験室で行い、焼鈍温度を930℃とし、均熱時間を100秒とした。この際、焼鈍雰囲気の主体をNとし、水蒸気の露点およびO量を、表3に示したように各種変更した。
【0070】
焼鈍後、0.5mmφの鋼球によるショットブラスト処理を40秒間行い、18%HCl、95℃溶液中に20秒間浸漬してから、ワイヤーブラシで表面を8g/m研削した。実施例1と同様に、スケール残りの調査を実施し、結果を表3にあわせて示した。
【0071】
【表3】

【0072】
表3の結果から明らかなように、本発明に係る水蒸気露点および酸素量とすることで、酸洗後のスケール残存が少ない鋼板を得ることができた。この結果は、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法により焼鈍温度および雰囲気を制御することで、焼鈍後の熱延板の酸洗性の劣化を抑制できたことを示している。
【0073】
なお、表3に示した実験No.9と同一の条件で、実際の操業で用いられる設備を用いて熱延板の製造を行った。その結果、残存スケール5%、残存Al厚が0.05μmの結果となった。これは、表3で得られた結果と同一であった。この結果から明らかなように、実際の操業に用いられる設備を利用して熱延板を製造した場合にも、実験室で熱延板を製造した場合と同様の結果が得られた。
【0074】
<実施例3>
実施例1の実験No.1と実験No.12の熱間圧延板とを用いて、熱延板焼鈍を表4の温度で行い、均熱時間を140秒とした。ショットブラスト処理、酸洗およびワイヤーブラシは、実施例1と同じ条件とした。0.25mm厚まで冷間圧延し、鋼板表面を脱脂してから、30%H+70%N雰囲気中で1000℃×3秒の焼鈍を実施した。磁気特性を、100mm角の単板磁気測定装置(JIS C 2550に準拠)で測定して、以下の表4に示した。
【0075】
【表4】

【0076】
表4に示すように、本発明範囲のものは、優れた高周波鉄損W10/800(W/kg)を示した。なお、低周波と高周波の鉄損で比較すると、本発明範囲外の表1実験No.1の素材と本発明範囲の表1実験No.12の素材とは、W15/50の差がほとんど見られないものの、800Hzの高周波では鉄損に大きな有意差が認められた。また、本発明の900℃以上の高温熱延板焼鈍により、優れた磁束密度と鉄損特性が得られた。
【0077】
以上、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の実施例について説明した。
【0078】
なお、熱延板焼鈍雰囲気に対する従来の考えでは、水蒸気やO等による酸化が考慮されたことはなかった。なぜならば、通常の熱延板焼鈍では、雰囲気に関わらず熱延板スケールが鋼板表面についたままで焼鈍が行われるため、非酸化性雰囲気にしようとする考えが起こらなかったためである。換言すれば、多少焼鈍において追加酸化されたとしても、焼鈍後に酸洗工程が行われるため問題はないと考えられていた。そのため、従来では、今まで説明したような、特定のCr−Si−Al成分系におけるAl酸化物の異常発達という現象は看過されており、このAl酸化物によって酸洗性が損なわれるという知見は得られていなかった。
【0079】
しかしながら、本件発明者は、特定のCr−Si−Al成分系におけるAl酸化物の異常発達という現象が酸洗性の劣化に影響を与えていることに想到しただけでなく、かかるAl酸化物の異常発達が、焼鈍工程における雰囲気を制御することで抑制可能である点に想到して、本発明に至ったものである。
【0080】
本発明に係る製造方法により製造された無方向性電磁鋼板は、優れた固有抵抗を有しており、所望の形状に打ち抜かれた後に積層されることで、高周波で用いられるモータコア用素材として利用可能である。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0082】
1 焼鈍後の熱延板
10 鋼板
20 酸化物層
21 内部酸化層
23 外部酸化層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C≦0.006%、Cr:0.3〜5%、Si:1〜4%、Al:0.4〜3%、Mn≦1.5%、S≦0.003%、N≦0.003%を含み、残部が不可避的不純物およびFeからなる熱延板を連続焼鈍する工程と、
焼鈍された前記熱延板を酸洗する工程と、
酸洗された前記熱延板を冷間圧延して冷延板とする工程と、
前記冷延板を再結晶焼鈍する工程と、
を含み、
前記熱延板を焼鈍する工程では、焼鈍温度を900〜1150℃とし、雰囲気をN主体とし、露点を50℃以下とし、O量を容積%で1%以下とする
ことを特徴とする、無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記熱延板を焼鈍する工程では、前記露点を30℃以下とすることを特徴とする、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延板を焼鈍する工程では、前記O量を容積%で0.5%以下とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168824(P2011−168824A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32542(P2010−32542)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】