無機イオン交換体の製造方法
【課題】水熱処理により、Caのほか、AlやSi成分を含む廃棄物を有用な無機イオン交換体に転換させる際、不用成分(特にCa成分)の阻害反応を容易に抑制して効率的に転換反応を行うことができ、且つ、得られた無機イオン交換体から容易に不用成分を除去することができる、無機イオン交換体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料に、マスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法とする。
【解決手段】少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料に、マスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物等から有価な無機イオン交換体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物である製紙スラッジ焼却灰や鉄鋼精製副産物である鉄鋼スラグは、従来、一部はコンクリート添加剤や路盤材等として利用されてきた。しかし、これら需要は近年減少しつつあり、且つ、廃棄した場合の埋め立て処分場も不足しており、当該廃棄物の他の利用法が求められている。
【0003】
上記廃棄物には、Ca、Si、Al等の成分が多量に含まれており、当該元素成分を利用して、所定の組成を有する有用な化合物が製造可能と考えられる。例えば、廃棄物を水熱処理に供することで、ゼオライトやトバモライト等の無機イオン交換体に転換させる方法が提案されている(特許文献1〜9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−259221号公報
【特許文献2】特開2007−222713号公報
【特許文献3】特開平7−232913号公報
【特許文献4】特開2003−145092号公報
【特許文献5】特開2007−137716号公報
【特許文献6】特開2004−224687号公報
【特許文献7】特開2005−231906号公報
【特許文献8】特開2005−239459号公報
【特許文献9】特開2007−131502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜9に記載されたような従来技術にあっては、水熱合成において、廃棄物中に含まれるCa成分の影響により、ゼオライトやトバモライトへの転換が困難となるため、廃棄物原料の組成比等をあらかじめ調整している。すなわち、廃棄物原料の酸処理、アルカリ処理、水洗、或いは、別途用意したSiやAl成分の添加等によって廃棄物原料を調整した後、水熱処理に供する必要がある。しかしながら、このような方法では、転換反応時のCa成分の影響をある程度弱めることはできるものの、廃棄物原料の調整のため前処理が煩雑であることや、水熱処理後のCa成分の除去が容易でないこと等の問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、水熱処理により、Caのほか、AlやSi成分を含む廃棄物を有用な無機イオン交換体に転換させる際、不用成分(特にCa成分)の阻害反応を容易に抑制して効率的に転換反応を行うことができ、且つ、得られた無機イオン交換体から容易に不用成分を除去することができる、無機イオン交換体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Ca成分、AlやSi成分を含む廃棄物の水熱処理条件につき鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(1)水熱処理において、Ca成分を転換反応に寄与しないような形態として溶液中に抽出・残存させることで、廃棄物から無機イオン交換体への転換反応を効率的に行うことができる。
(2)水熱処理に供する廃棄物を含む溶液に、マスキング剤を添加することで、廃棄物成分中からCaを主体的に捕捉・抽出することができ、Ca成分が無機イオン交換体への転換反応を阻害することを抑えることができる。
(3)マスキング剤によるCa成分の捕捉は、水熱処理条件下においても有効に機能し、Ca成分を溶液中に残存させたまま、水熱合成反応を進行させることができる。
(4)用いる原料によっては、溶液中のマスキング剤濃度に適正値が存在し、濃度が一定の範囲において、得られる無機イオン交換体のイオン交換容量が増大する。
(5)水熱処理後の溶液成分には、マスキング剤により捕捉されたCa成分が残存しており、当該溶液を除去することで、廃棄物からCa成分を効率的に除去・回収することができるとともに、より純度の高い無機イオン交換体を得ることができる。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明は、少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料に、マスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法である。ここに、「少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料」とは、Ca及びAlを含有する原料、Ca及びSiを含有する原料、さらには、Ca、Al及びSiを含有する原料も含まれる概念である。
【0009】
本発明において、原料中のCa成分がマスキング剤により捕捉されることで、溶液中にCa成分を残存させた状態で無機イオン交換体の転換反応を行うことができる。
【0010】
本発明において、マスキング剤としてEDTAを用いることが好ましい。これにより、Ca成分のみを効果的に捕捉することができる。
【0011】
本発明において、原料及びマスキング剤が水酸化ナトリウム水溶液に添加されて、水熱処理に供されることが好ましい。これにより、マスキング剤による捕捉と、無機イオン交換体の転換反応とを効率的に行うことができる。
【0012】
本発明において、原料として、鉄鋼スラグ又は製紙スラッジ焼却灰を用いることができる。このような原料を用いても、適切に無機イオン交換体へと転換することができる。
【0013】
特に、本発明において、原料に、Ca成分がCaO換算で20質量%以上80質量%以下含有されていてもよい。Ca成分が多量に含まれていたとしても、マスキング剤の添加により、Ca成分が効率的に捕捉され、水熱処理時、転換反応への阻害を抑制することができる。
【0014】
また、本発明において、マスキング剤は、Ca/マスキング剤が、モル比で、0.5以上1.5以下となるように、原料に添加されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、廃棄物の水熱処理時、不用成分(特に、Ca成分)の阻害反応を容易に抑制しつつ効率的に無機イオン交換体に転換することができ、且つ、捕捉された不用成分は溶液中に残存しているので、得られた無機イオン交換体から容易に不用成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法を説明するための図である。
【図2】水砕スラグを用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各生成物にかかる、XRDパターンである。
【図3】水砕スラグを用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各溶液中のCa、Al及びSi濃度にかかる分析結果である。
【図4】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各生成物にかかる、XRDパターンである。
【図5】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各生成物にかかる、陽イオン交換容量を示す図である。
【図6】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各溶液中のCa、Al及びSi濃度にかかる分析結果である。
【図7】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合の、反応溶液中における生成物の経時変化を示す図である。
【図8】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTAを添加した場合の、反応溶液中における生成物の経時変化を示す図である。
【図9】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合とEDTAを添加した場合とについて、得られる生成物の陽イオン交換容量の加熱時間依存性を示す図である。
【図10】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合(A)とEDTAを添加した場合(B)とについて、加熱時間を変化させた場合、得られる溶液のCa、Al及びSi濃度の変化を示す図である。
【図11】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合(A)とEDTAを添加した場合(B)とについて、得られた生成物の形態を示す、SEM写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、図1に示すように、少なくともCaを含有するとともに、さらにAl又はSiを含有する原料にマスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法である。以下、詳述する。
【0018】
(原料)
本発明においては、無機イオン交換体の原料として、少なくともCaを含むとともに、さらにAl又はSiを含有するものを用いる。特に、新たな利用法が模索されている、鉄鋼スラグや製紙スラッジ焼却灰等、Ca、Al及びSiを含有する廃棄物を好適に用いることができる。当該原料は、水熱処理の際、微細に粉砕しておくことが好ましい。
【0019】
用いる原料中には、Ca成分がCaO換算で20質量%以上80質量%以下含有されていてもよく、40質量%以上含有されていてもよい。本発明にかかる製造方法によれば、このようにCaを多量に含む原料を用いたとしても、後述するマスキング剤として適切なものを用いることで、Ca成分を容易に捕捉し、Ca成分による阻害反応を適切に抑制しつつ、水熱処理を行うことができる。
【0020】
原料中には、組成比調整のため、適宜元素成分(Al、Si等)を添加してもよい。これによれば、さらに純度の高い無機イオン交換体を製造することが可能となる。ただし、本発明にかかる製造方法にあっては、下記マスキング剤を添加して原料中の所定成分(Ca成分)を捕捉しておくことで、原料中の組成比が自ずと調整されて無機イオン交換体の転換反応に供されるので、元素成分を別途添加して組成比を調整せずとも、純度の高い無機イオン交換体を製造することができる。
【0021】
(マスキング剤)
本発明においては、上記原料を水熱処理に供するにあたって、マスキング剤を添加する。マスキング剤としては、Caを捕捉可能なものが好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やエチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、ニトリロ三酢酸(NTA)が特に好ましい。マスキング剤の添加量は、用いる原料中のCa含有量や目的とする無機イオン交換体の種類によって適宜変更することができる。例えば、原料からCa成分を完全に除去し、Al及びSi成分のみ含むゼオライト等を製造する場合、原料中のCa/マスキング剤が、モル比で0.5以上1.5以下となるように、マスキング剤を添加することが好ましい。
【0022】
(溶液)
本発明においては、所定量の上記原料とマスキング剤とを水溶液に添加して、水熱処理を行う。水溶液としては、水熱処理時、マスキング剤による元素成分の捕捉と上記原料の転換反応とを適切に行うことができるものであれば特に限定されるものではないが、NaOH水溶液やKOH水溶液を用いることが特に好ましい。これによれば、原料を適切に溶解可能であり、且つ、無機イオン交換体を効率的に製造できる。例えば、NaOH水溶液を用いる場合、水溶液中のNaOH濃度は、合成条件に応じて適宜調整することができる。
【0023】
溶液中の上記原料の添加量は特に限定されるものではない。例えば、溶液全体の質量の1/30〜1/4程度となるように添加することができる。また、溶液中の上記マスキング剤の濃度については、原料や目的の無機イオン交換体の種類に応じて適宜調整すればよい。例えば、原料として製紙スラッジ焼却灰を用いる場合は、水溶液中のマスキング剤の濃度が、0.5mol/L以上1.5mol/L以下となるように添加することが好ましく、0.8mol/L以上1.1mol/L以下となるように添加することがより好ましい。このような濃度とすれば、高い陽イオン交換容量を備えた無機イオン交換体を製造することができる。
【0024】
(無機イオン交換体)
本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法においては、マスキング剤の添加量を変化させることで、種々の無機イオン交換体を製造することができる。例えば、鉄鋼スラグや製紙スラッジ焼却灰等、Ca、Al及びSi成分を含む廃棄物を原料とした場合、得られる無機イオン交換体としては、A型ゼオライトやP型ゼオライト、トバモライト、ヒドロキシソーダライト、ゼオライトF、ハイドロガーネット等を例示することができる。この中でも、特に、A型ゼオライト、P型ゼオライト、トバモライト、ヒドロキシソーダライト、ゼオライトFを好適に製造することができる。
【0025】
(水熱処理)
本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法においては、上述した原料及びマスキング剤を含む水溶液を、水熱処理に供する。水熱処理方法としては、従来公知の水熱処理方法を特に限定されることなく適用できる。例えば、オートクレーブ等の密閉容器中に原料及びマスキング剤を含む水溶液を入れ、容器を密閉したまま加熱すること等により水熱処理をすることができる。加熱温度や加熱時間については、製造する無機イオン交換体の種類によって適宜調整される。例えば、加熱温度を25℃以上200℃以下とすることが好ましく、80℃以上200℃以下とすることがより好ましい。このようにすれば、高いイオン交換容量を有する無機イオン交換体を製造することができる。また、加熱時間を3時間以上とすることが好ましく、6時間以上48時間以下とすることが好ましい。このようにすれば、得られる無機イオン交換体の結晶性を高めることができる。尚、本発明が適用される水熱処理は、上記のような密閉系の水熱処理に限らず、開放系の水熱処理であってもよい。
【0026】
本発明によれば、廃棄物等の原料を水熱処理する際、マスキング剤を添加することにより、原料中の所定成分が捕捉されて原料の組成が自ずと適切に調整され、阻害反応を抑制しつつ廃棄物から無機イオン交換体を製造することができる。例えば、マスキング剤としてEDTA等のCa成分を捕捉可能なものを用いれば、廃棄物のCa成分のみを効率的に捕捉でき、Ca成分が無機イオン交換体への転換反応を阻害することを抑制することができる。さらに、マスキング剤により捕捉されたCa成分は、水熱処理終了後においても、溶液中に残存し続けるので、当該溶液を除去するのみで、容易にCa成分を除去することができる。従って、得られる無機イオン交換体の純度を向上させることが可能となる。以下、本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法について、実施例に基づいてさらに詳述する。下記実施例にて例示したように、溶液中の原料添加量やマスキング剤濃度、アルカリ溶液を用いた場合の溶液中のアルカリ濃度等を適切に調整することで、原料を水熱固化する際、水酸化カルシウムやハイドロガーネットの生成による阻害を抑制でき、強度の低下を抑えることができるものと考えられる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
表1に示すようなCa、Si及びAlを主成分とする組成の水砕スラグを粉砕機により250μm以下まで粉砕した。こうして得られた粉末2.5gを3M NaOH溶液とともに50mLの耐圧容器に入れ、水熱処理用の溶液を複数用意した。それぞれの容器に濃度が0−1mol/LになるようにEDTAを添加した。添加後、耐圧容器を密封し、電気炉により180℃で24時間加熱した後、耐圧容器を電気炉から取り出し、水道水にて急冷した。急冷後、濾過して得られた生成物のXRDパターンを図2に示す。図2からわかるように、EDTA無添加ではCaからなるPortlanditeが生成しているが、EDTAを添加するにつれてCa及びSiからなるTobermorite、さらに、Si及びAlからなるHydroxysodaliteが生成している。EDTA添加により、Caの影響が弱まりこれらの生成物が得られたと考えられる。
【0028】
【表1】
【0029】
さらに、得られた各反応液中の、Ca、Si、及びAl濃度を図3に示す。EDTAの添加とともに反応液中のCa濃度が増加していることが確認された。EDTAによりCa成分が適切にマスキングされ、他の成分と反応せずに溶液中に残ったものと考えられる。
【0030】
(実施例2)
製紙スラッジ焼却灰10gを3M NaOH溶液100mLに入れ、EDTAを0−2mol/Lになるように添加し、80℃で24時間加熱した。加熱後、溶液を濾過し得られた生成物のXRDパターンを図4に示す。無添加の際は、HydroxysodaliteとZeolite-Pが生成していたが、添加量が増加するにつれてZeolite-Aが生成しHydroxysodaliteのピーク強度も高くなることが確認された。
【0031】
得られた生成物の陽イオン交換容量(CEC)を図5に示す。Zeolite-AとHydroxysodaliteの高いピークが確認された1M EDTAを添加した生成物において、最も高いCECが得られた。
【0032】
濾過により得られた反応液中のCa、Si、及びAl濃度を図6に示す。無添加の際は、Al濃度が高くSi、 Ca濃度が低いが、EDTA濃度が増加するにつれて、Ca及びSiが増加しAlが減少することが確認された。また、最も生成物のCECが高かった1M付近でCa濃度は最も高くなり、その後、減少することが確認された。生成物のCECと反応液中のCa濃度は同様の傾向を示しており、EDTAによりCaを抽出・マスキングすることでCECの高い生成物を得られることが確認された。
【0033】
製紙スラッジ焼却灰100gを、EDTA無添加の3M NaOH溶液1Lと、EDTAが1mol/Lになるように添加した3M NaOH溶液1Lと、にそれぞれ添加し、80℃で加熱し反応させた。反応中、溶液の一部を採取・濾過し得られた生成物のXRDパターンを図7及び図8示す。図7に示すように無添加の際は、0−12時間まで変化はないが24時間後にHydroxysodaliteとZeolite-Pの生成が確認されるのに対し、図8に示すようにEDTAを添加した場合は、6時間でZeolite-Aが、8時間でHydroxysodaliteの生成が確認され、その後、ピーク強度が増加する傾向が確認された。
【0034】
得られたそれぞれの生成物のCECを図9に示す。無添加の場合、加熱によりCECが増加するものの加熱時間による変化はほとんど確認されなかった。一方、EDTA添加の場合、6時間加熱後からCECが急激に増加し、その後、ほぼ一定になっており、生成物中のゼオライトの生成挙動と一致した。
【0035】
反応溶液中のCa、Si、及びAl濃度変化を図10に示す。図10(A)に示すように、無添加の場合、反応中にCaは溶液中に確認されず、常にAlがSiより多く含まれているのに対し、図10(B)に示すように、EDTA添加の場合、Caが溶液中に多く確認され、6時間後からSi濃度がAl濃度を上回った。これにより、生成物がZeolite-Aになると考えられる。
【0036】
表2に製紙スラッジ焼却灰と無添加および1M EDTA添加溶液で24時間加熱後に得られた生成物の化学組成を示す。製紙スラッジ焼却灰はCaを多く含む物質であり、EDTA無添加の場合、生成物中にその多くが残るのに対し、EDTA添加の場合、Caを多く含まず、ゼオライトの骨格であるSi及びAlと交換性のNaを多く含む生成物が得られていることが確認される。
【0037】
【表2】
【0038】
EDTA無添加と添加で得られた生成物の電子顕微鏡写真を図10に示す。無添加の場合はHydroxysodaliteと思われる丸い塊が多く見られるのに対し、EDTA添加の場合、Zeolite-Aと思われるCubicの結晶化が見られ、全く異なった様子が観察された。
【0039】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う無機イオン交換体の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、カルシウムを多く含む原料、例えば、鉄鋼スラグや製紙スラッジ焼却灰等の廃棄物から、複雑な処理工程を必要とせずに、ゼオライトやトバモライト等の無機イオン交換体を製造することができる。また、得られた無機イオン交換体から不用成分(Ca成分)を容易に抽出・回収することができる。従って、廃棄物の新規用途、新規処理方法として有用であるとともに、当該方法によりゼロエミッションプロセスとすることができるので、循環型社会に大きく貢献し得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物等から有価な無機イオン交換体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物である製紙スラッジ焼却灰や鉄鋼精製副産物である鉄鋼スラグは、従来、一部はコンクリート添加剤や路盤材等として利用されてきた。しかし、これら需要は近年減少しつつあり、且つ、廃棄した場合の埋め立て処分場も不足しており、当該廃棄物の他の利用法が求められている。
【0003】
上記廃棄物には、Ca、Si、Al等の成分が多量に含まれており、当該元素成分を利用して、所定の組成を有する有用な化合物が製造可能と考えられる。例えば、廃棄物を水熱処理に供することで、ゼオライトやトバモライト等の無機イオン交換体に転換させる方法が提案されている(特許文献1〜9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−259221号公報
【特許文献2】特開2007−222713号公報
【特許文献3】特開平7−232913号公報
【特許文献4】特開2003−145092号公報
【特許文献5】特開2007−137716号公報
【特許文献6】特開2004−224687号公報
【特許文献7】特開2005−231906号公報
【特許文献8】特開2005−239459号公報
【特許文献9】特開2007−131502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜9に記載されたような従来技術にあっては、水熱合成において、廃棄物中に含まれるCa成分の影響により、ゼオライトやトバモライトへの転換が困難となるため、廃棄物原料の組成比等をあらかじめ調整している。すなわち、廃棄物原料の酸処理、アルカリ処理、水洗、或いは、別途用意したSiやAl成分の添加等によって廃棄物原料を調整した後、水熱処理に供する必要がある。しかしながら、このような方法では、転換反応時のCa成分の影響をある程度弱めることはできるものの、廃棄物原料の調整のため前処理が煩雑であることや、水熱処理後のCa成分の除去が容易でないこと等の問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、水熱処理により、Caのほか、AlやSi成分を含む廃棄物を有用な無機イオン交換体に転換させる際、不用成分(特にCa成分)の阻害反応を容易に抑制して効率的に転換反応を行うことができ、且つ、得られた無機イオン交換体から容易に不用成分を除去することができる、無機イオン交換体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Ca成分、AlやSi成分を含む廃棄物の水熱処理条件につき鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(1)水熱処理において、Ca成分を転換反応に寄与しないような形態として溶液中に抽出・残存させることで、廃棄物から無機イオン交換体への転換反応を効率的に行うことができる。
(2)水熱処理に供する廃棄物を含む溶液に、マスキング剤を添加することで、廃棄物成分中からCaを主体的に捕捉・抽出することができ、Ca成分が無機イオン交換体への転換反応を阻害することを抑えることができる。
(3)マスキング剤によるCa成分の捕捉は、水熱処理条件下においても有効に機能し、Ca成分を溶液中に残存させたまま、水熱合成反応を進行させることができる。
(4)用いる原料によっては、溶液中のマスキング剤濃度に適正値が存在し、濃度が一定の範囲において、得られる無機イオン交換体のイオン交換容量が増大する。
(5)水熱処理後の溶液成分には、マスキング剤により捕捉されたCa成分が残存しており、当該溶液を除去することで、廃棄物からCa成分を効率的に除去・回収することができるとともに、より純度の高い無機イオン交換体を得ることができる。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明は、少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料に、マスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法である。ここに、「少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料」とは、Ca及びAlを含有する原料、Ca及びSiを含有する原料、さらには、Ca、Al及びSiを含有する原料も含まれる概念である。
【0009】
本発明において、原料中のCa成分がマスキング剤により捕捉されることで、溶液中にCa成分を残存させた状態で無機イオン交換体の転換反応を行うことができる。
【0010】
本発明において、マスキング剤としてEDTAを用いることが好ましい。これにより、Ca成分のみを効果的に捕捉することができる。
【0011】
本発明において、原料及びマスキング剤が水酸化ナトリウム水溶液に添加されて、水熱処理に供されることが好ましい。これにより、マスキング剤による捕捉と、無機イオン交換体の転換反応とを効率的に行うことができる。
【0012】
本発明において、原料として、鉄鋼スラグ又は製紙スラッジ焼却灰を用いることができる。このような原料を用いても、適切に無機イオン交換体へと転換することができる。
【0013】
特に、本発明において、原料に、Ca成分がCaO換算で20質量%以上80質量%以下含有されていてもよい。Ca成分が多量に含まれていたとしても、マスキング剤の添加により、Ca成分が効率的に捕捉され、水熱処理時、転換反応への阻害を抑制することができる。
【0014】
また、本発明において、マスキング剤は、Ca/マスキング剤が、モル比で、0.5以上1.5以下となるように、原料に添加されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、廃棄物の水熱処理時、不用成分(特に、Ca成分)の阻害反応を容易に抑制しつつ効率的に無機イオン交換体に転換することができ、且つ、捕捉された不用成分は溶液中に残存しているので、得られた無機イオン交換体から容易に不用成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法を説明するための図である。
【図2】水砕スラグを用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各生成物にかかる、XRDパターンである。
【図3】水砕スラグを用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各溶液中のCa、Al及びSi濃度にかかる分析結果である。
【図4】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各生成物にかかる、XRDパターンである。
【図5】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各生成物にかかる、陽イオン交換容量を示す図である。
【図6】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA添加量を変化させた場合に得られる各溶液中のCa、Al及びSi濃度にかかる分析結果である。
【図7】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合の、反応溶液中における生成物の経時変化を示す図である。
【図8】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTAを添加した場合の、反応溶液中における生成物の経時変化を示す図である。
【図9】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合とEDTAを添加した場合とについて、得られる生成物の陽イオン交換容量の加熱時間依存性を示す図である。
【図10】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合(A)とEDTAを添加した場合(B)とについて、加熱時間を変化させた場合、得られる溶液のCa、Al及びSi濃度の変化を示す図である。
【図11】製紙スラッジ焼却灰を用いた水熱処理において、EDTA無添加の場合(A)とEDTAを添加した場合(B)とについて、得られた生成物の形態を示す、SEM写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、図1に示すように、少なくともCaを含有するとともに、さらにAl又はSiを含有する原料にマスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法である。以下、詳述する。
【0018】
(原料)
本発明においては、無機イオン交換体の原料として、少なくともCaを含むとともに、さらにAl又はSiを含有するものを用いる。特に、新たな利用法が模索されている、鉄鋼スラグや製紙スラッジ焼却灰等、Ca、Al及びSiを含有する廃棄物を好適に用いることができる。当該原料は、水熱処理の際、微細に粉砕しておくことが好ましい。
【0019】
用いる原料中には、Ca成分がCaO換算で20質量%以上80質量%以下含有されていてもよく、40質量%以上含有されていてもよい。本発明にかかる製造方法によれば、このようにCaを多量に含む原料を用いたとしても、後述するマスキング剤として適切なものを用いることで、Ca成分を容易に捕捉し、Ca成分による阻害反応を適切に抑制しつつ、水熱処理を行うことができる。
【0020】
原料中には、組成比調整のため、適宜元素成分(Al、Si等)を添加してもよい。これによれば、さらに純度の高い無機イオン交換体を製造することが可能となる。ただし、本発明にかかる製造方法にあっては、下記マスキング剤を添加して原料中の所定成分(Ca成分)を捕捉しておくことで、原料中の組成比が自ずと調整されて無機イオン交換体の転換反応に供されるので、元素成分を別途添加して組成比を調整せずとも、純度の高い無機イオン交換体を製造することができる。
【0021】
(マスキング剤)
本発明においては、上記原料を水熱処理に供するにあたって、マスキング剤を添加する。マスキング剤としては、Caを捕捉可能なものが好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やエチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、ニトリロ三酢酸(NTA)が特に好ましい。マスキング剤の添加量は、用いる原料中のCa含有量や目的とする無機イオン交換体の種類によって適宜変更することができる。例えば、原料からCa成分を完全に除去し、Al及びSi成分のみ含むゼオライト等を製造する場合、原料中のCa/マスキング剤が、モル比で0.5以上1.5以下となるように、マスキング剤を添加することが好ましい。
【0022】
(溶液)
本発明においては、所定量の上記原料とマスキング剤とを水溶液に添加して、水熱処理を行う。水溶液としては、水熱処理時、マスキング剤による元素成分の捕捉と上記原料の転換反応とを適切に行うことができるものであれば特に限定されるものではないが、NaOH水溶液やKOH水溶液を用いることが特に好ましい。これによれば、原料を適切に溶解可能であり、且つ、無機イオン交換体を効率的に製造できる。例えば、NaOH水溶液を用いる場合、水溶液中のNaOH濃度は、合成条件に応じて適宜調整することができる。
【0023】
溶液中の上記原料の添加量は特に限定されるものではない。例えば、溶液全体の質量の1/30〜1/4程度となるように添加することができる。また、溶液中の上記マスキング剤の濃度については、原料や目的の無機イオン交換体の種類に応じて適宜調整すればよい。例えば、原料として製紙スラッジ焼却灰を用いる場合は、水溶液中のマスキング剤の濃度が、0.5mol/L以上1.5mol/L以下となるように添加することが好ましく、0.8mol/L以上1.1mol/L以下となるように添加することがより好ましい。このような濃度とすれば、高い陽イオン交換容量を備えた無機イオン交換体を製造することができる。
【0024】
(無機イオン交換体)
本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法においては、マスキング剤の添加量を変化させることで、種々の無機イオン交換体を製造することができる。例えば、鉄鋼スラグや製紙スラッジ焼却灰等、Ca、Al及びSi成分を含む廃棄物を原料とした場合、得られる無機イオン交換体としては、A型ゼオライトやP型ゼオライト、トバモライト、ヒドロキシソーダライト、ゼオライトF、ハイドロガーネット等を例示することができる。この中でも、特に、A型ゼオライト、P型ゼオライト、トバモライト、ヒドロキシソーダライト、ゼオライトFを好適に製造することができる。
【0025】
(水熱処理)
本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法においては、上述した原料及びマスキング剤を含む水溶液を、水熱処理に供する。水熱処理方法としては、従来公知の水熱処理方法を特に限定されることなく適用できる。例えば、オートクレーブ等の密閉容器中に原料及びマスキング剤を含む水溶液を入れ、容器を密閉したまま加熱すること等により水熱処理をすることができる。加熱温度や加熱時間については、製造する無機イオン交換体の種類によって適宜調整される。例えば、加熱温度を25℃以上200℃以下とすることが好ましく、80℃以上200℃以下とすることがより好ましい。このようにすれば、高いイオン交換容量を有する無機イオン交換体を製造することができる。また、加熱時間を3時間以上とすることが好ましく、6時間以上48時間以下とすることが好ましい。このようにすれば、得られる無機イオン交換体の結晶性を高めることができる。尚、本発明が適用される水熱処理は、上記のような密閉系の水熱処理に限らず、開放系の水熱処理であってもよい。
【0026】
本発明によれば、廃棄物等の原料を水熱処理する際、マスキング剤を添加することにより、原料中の所定成分が捕捉されて原料の組成が自ずと適切に調整され、阻害反応を抑制しつつ廃棄物から無機イオン交換体を製造することができる。例えば、マスキング剤としてEDTA等のCa成分を捕捉可能なものを用いれば、廃棄物のCa成分のみを効率的に捕捉でき、Ca成分が無機イオン交換体への転換反応を阻害することを抑制することができる。さらに、マスキング剤により捕捉されたCa成分は、水熱処理終了後においても、溶液中に残存し続けるので、当該溶液を除去するのみで、容易にCa成分を除去することができる。従って、得られる無機イオン交換体の純度を向上させることが可能となる。以下、本発明にかかる無機イオン交換体の製造方法について、実施例に基づいてさらに詳述する。下記実施例にて例示したように、溶液中の原料添加量やマスキング剤濃度、アルカリ溶液を用いた場合の溶液中のアルカリ濃度等を適切に調整することで、原料を水熱固化する際、水酸化カルシウムやハイドロガーネットの生成による阻害を抑制でき、強度の低下を抑えることができるものと考えられる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
表1に示すようなCa、Si及びAlを主成分とする組成の水砕スラグを粉砕機により250μm以下まで粉砕した。こうして得られた粉末2.5gを3M NaOH溶液とともに50mLの耐圧容器に入れ、水熱処理用の溶液を複数用意した。それぞれの容器に濃度が0−1mol/LになるようにEDTAを添加した。添加後、耐圧容器を密封し、電気炉により180℃で24時間加熱した後、耐圧容器を電気炉から取り出し、水道水にて急冷した。急冷後、濾過して得られた生成物のXRDパターンを図2に示す。図2からわかるように、EDTA無添加ではCaからなるPortlanditeが生成しているが、EDTAを添加するにつれてCa及びSiからなるTobermorite、さらに、Si及びAlからなるHydroxysodaliteが生成している。EDTA添加により、Caの影響が弱まりこれらの生成物が得られたと考えられる。
【0028】
【表1】
【0029】
さらに、得られた各反応液中の、Ca、Si、及びAl濃度を図3に示す。EDTAの添加とともに反応液中のCa濃度が増加していることが確認された。EDTAによりCa成分が適切にマスキングされ、他の成分と反応せずに溶液中に残ったものと考えられる。
【0030】
(実施例2)
製紙スラッジ焼却灰10gを3M NaOH溶液100mLに入れ、EDTAを0−2mol/Lになるように添加し、80℃で24時間加熱した。加熱後、溶液を濾過し得られた生成物のXRDパターンを図4に示す。無添加の際は、HydroxysodaliteとZeolite-Pが生成していたが、添加量が増加するにつれてZeolite-Aが生成しHydroxysodaliteのピーク強度も高くなることが確認された。
【0031】
得られた生成物の陽イオン交換容量(CEC)を図5に示す。Zeolite-AとHydroxysodaliteの高いピークが確認された1M EDTAを添加した生成物において、最も高いCECが得られた。
【0032】
濾過により得られた反応液中のCa、Si、及びAl濃度を図6に示す。無添加の際は、Al濃度が高くSi、 Ca濃度が低いが、EDTA濃度が増加するにつれて、Ca及びSiが増加しAlが減少することが確認された。また、最も生成物のCECが高かった1M付近でCa濃度は最も高くなり、その後、減少することが確認された。生成物のCECと反応液中のCa濃度は同様の傾向を示しており、EDTAによりCaを抽出・マスキングすることでCECの高い生成物を得られることが確認された。
【0033】
製紙スラッジ焼却灰100gを、EDTA無添加の3M NaOH溶液1Lと、EDTAが1mol/Lになるように添加した3M NaOH溶液1Lと、にそれぞれ添加し、80℃で加熱し反応させた。反応中、溶液の一部を採取・濾過し得られた生成物のXRDパターンを図7及び図8示す。図7に示すように無添加の際は、0−12時間まで変化はないが24時間後にHydroxysodaliteとZeolite-Pの生成が確認されるのに対し、図8に示すようにEDTAを添加した場合は、6時間でZeolite-Aが、8時間でHydroxysodaliteの生成が確認され、その後、ピーク強度が増加する傾向が確認された。
【0034】
得られたそれぞれの生成物のCECを図9に示す。無添加の場合、加熱によりCECが増加するものの加熱時間による変化はほとんど確認されなかった。一方、EDTA添加の場合、6時間加熱後からCECが急激に増加し、その後、ほぼ一定になっており、生成物中のゼオライトの生成挙動と一致した。
【0035】
反応溶液中のCa、Si、及びAl濃度変化を図10に示す。図10(A)に示すように、無添加の場合、反応中にCaは溶液中に確認されず、常にAlがSiより多く含まれているのに対し、図10(B)に示すように、EDTA添加の場合、Caが溶液中に多く確認され、6時間後からSi濃度がAl濃度を上回った。これにより、生成物がZeolite-Aになると考えられる。
【0036】
表2に製紙スラッジ焼却灰と無添加および1M EDTA添加溶液で24時間加熱後に得られた生成物の化学組成を示す。製紙スラッジ焼却灰はCaを多く含む物質であり、EDTA無添加の場合、生成物中にその多くが残るのに対し、EDTA添加の場合、Caを多く含まず、ゼオライトの骨格であるSi及びAlと交換性のNaを多く含む生成物が得られていることが確認される。
【0037】
【表2】
【0038】
EDTA無添加と添加で得られた生成物の電子顕微鏡写真を図10に示す。無添加の場合はHydroxysodaliteと思われる丸い塊が多く見られるのに対し、EDTA添加の場合、Zeolite-Aと思われるCubicの結晶化が見られ、全く異なった様子が観察された。
【0039】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う無機イオン交換体の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、カルシウムを多く含む原料、例えば、鉄鋼スラグや製紙スラッジ焼却灰等の廃棄物から、複雑な処理工程を必要とせずに、ゼオライトやトバモライト等の無機イオン交換体を製造することができる。また、得られた無機イオン交換体から不用成分(Ca成分)を容易に抽出・回収することができる。従って、廃棄物の新規用途、新規処理方法として有用であるとともに、当該方法によりゼロエミッションプロセスとすることができるので、循環型社会に大きく貢献し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料に、マスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法。
【請求項2】
前記原料中のCa成分が前記マスキング剤により捕捉される、請求項1に記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項3】
前記マスキング剤が、EDTAである、請求項1または2に記載の機能性物質の製造方法。
【請求項4】
前記原料及び前記マスキング剤が水酸化ナトリウム水溶液に添加されて前記水熱処理に供される、請求項1〜3のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項5】
前記原料が、鉄鋼スラグ又は製紙スラッジ焼却灰を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項6】
前記原料には、Ca成分がCaO換算で20質量%以上80質量%以下含有される、請求項1〜5のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項7】
前記マスキング剤は、Ca/マスキング剤が、モル比で、0.5以上1.5以下となるように、原料に添加される、請求項1〜6のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項1】
少なくともCaを含有するとともに、Al及び/又はSiを含有する原料に、マスキング剤を添加し、水熱処理に供する、無機イオン交換体の製造方法。
【請求項2】
前記原料中のCa成分が前記マスキング剤により捕捉される、請求項1に記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項3】
前記マスキング剤が、EDTAである、請求項1または2に記載の機能性物質の製造方法。
【請求項4】
前記原料及び前記マスキング剤が水酸化ナトリウム水溶液に添加されて前記水熱処理に供される、請求項1〜3のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項5】
前記原料が、鉄鋼スラグ又は製紙スラッジ焼却灰を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項6】
前記原料には、Ca成分がCaO換算で20質量%以上80質量%以下含有される、請求項1〜5のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項7】
前記マスキング剤は、Ca/マスキング剤が、モル比で、0.5以上1.5以下となるように、原料に添加される、請求項1〜6のいずれかに記載の無機イオン交換体の製造方法。
【図1】
【図3】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【図3】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2011−11955(P2011−11955A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158802(P2009−158802)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
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