説明

無機ナノ粒子複合体

【課題】 有機溶媒中で、一次元配列構造と、良好な分散性を示すとともに、有機溶媒をゲル化させ、また溶媒中で加熱すると溶媒中でランダムに分散するが、冷却すると再びナノ粒子の一次元配列構造の再構築を示すため、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、導電性接着材料、薄型液晶素子用の材料、ゲルアクチュエーター用材料、非線形光学材料、磁性材料、触媒材料、センサー材料や単一電子トランジスタ用材料として優れた特性を有する無機ナノ粒子複合体を提供する。
【解決手段】 無機ナノ粒子と、有機溶媒中において自発集合する有機化合物とからなる無機ナノ粒子複合体;その集合体、それを含むゲル状物、該無機ナノ粒子複合体の製造方法、これを含む硬化樹脂、該硬化樹脂の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ナノ粒子の技術分野に属し、特に金属イオンや金属錯体などのイオン性無機化合物に対する親和性基と自己集合性を有する有機化合物と複合化された無機ナノ粒子である無機ナノ粒子複合体、その製法、ならびに該複合体を含むゲル状物、該複合体を含む硬化樹脂およびその製法、そして線状の状態に融合した無機ナノ粒子を含む硬化樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートル領域の直径を有する無機ナノ粒子は、バルク状態にある金属、半導体とは異なる性質を示す。このようなナノ粒子は、非線形光学特性などの特異な性質を示すことから、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、磁性材料やセンサー材料として優れた機能を提供できる。また電子一個で動作する単一電子トランジスタの候補として、物理および材料分野において注目されている。
【0003】
無機ナノ粒子をナノ材料の分野で利用するためには、これらのナノ粒子を精密に配列させた構造体を、容易に調製する方法の開発が不可欠である。しかしながら、従来の半導体微細加工技術であるフォトリソグラフィー法をナノメートルサイズの超微細加工へ適用することには限界があり、ナノ粒子を自己組織的に配列化させるための新しい原理が望まれている。
【0004】
ナノ粒子を自己組織的に配列化させるための方法としては、一次元構造を有する鋳型物質に沿ってナノ粒子を配列化させる方法が開示されている。この一次元鋳型としては、陽極酸化ポーラスアルミナ薄膜中に形成される、膜面に対して垂直に配向したナノ細孔や、DNAなどの核酸、タバコモザイクウィルスなどのたんぱく質―核酸複合体や、カーボンナノチューブなどが用いられている。しかしながら、いずれの場合もナノ粒子が数個から数十個程度、局所的に配列している構造が得られているに過ぎず、長距離にわたって一次元配列したナノ粒子の規則配列構造は得られていない。
【0005】
一方、固体表面へ無機ナノ粒子を集積・固定化する研究は、多くなされてきている。ナノ粒子を固体表面に固定化するための手法として、スピンキャスト法や、静電的相互作用を利用した吸着法が広く用いられている。また、気液界面に二次元的に集積化されたナノ粒子集合体については、ラングミュアブロジェット法による固体基板への累積薄膜化が行われている。これらの二次元基板に固定化する手法においては、ナノ粒子を一次元的に配列させることは困難である。一方、アモルファスカーボンをNaClの(110)面に蒸着した表面のくぼみや、電子顕微鏡測定用カーボン膜のステップ部位に金ナノ粒子を一次元状に配列する例が開示されている。しかしながらこれらの場合、粒子間の間隔は不揃いであり、またその配列も連続的あるいは規則的なものではない。
【0006】
無機ナノ粒子の表面にDNA、抗体やビオチン基を固定化することにより、溶液中において無機ナノ粒子の集合構造を得る方法については近年報告があるが、いずれも3次元的な凝集構造が得られているに過ぎず、溶液中においてナノ粒子が自発的に一次元配列する現象は実現されていない。
【0007】
従来、有機溶媒に可溶な無機ナノ粒子を得るためには、その表面を保護剤で被覆化する手法が一般的である。しかしながら、例えばアルキル基を導入したナノ粒子の構造は等方的であり、溶液中で一次元あるいは二次元的な自己組織化を示すことはない。また、ナノ粒子に溶解性を与えるために導入した有機保護剤は、ナノ粒子間の距離を近づけることを困難にし、ナノ粒子間の電子電導や電子的相互作用の発現に制約を与える。このように、溶液中にナノ粒子を分散させることと、ナノ粒子を規則配列化することの双方を満足する方法論は現時点では得られていない。またナノ粒子の一次元配列構造を基本とするゲルの形成は実現されていない。
【0008】
さらに、鋳型に依存した無機ナノ粒子の配列構造は、一旦構造が破壊されると自発的に修復することは不可能であり、一次元配列構造を熱処理等により破壊した後、冷却することによってその構造が可逆的に形成する、“自己修復性”を示す無機ナノ粒子の集合体は知られていない。
【0009】
本願発明者らは、上記のような無機ナノ粒子の不都合を解消すべく、溶液中、特に有機溶媒中において自発的にナノ粒子の一次元配列構造を与える無機ナノ粒子複合体を得ることに成功した(特許文献1)。このナノ粒子複合体は、2nm以下の分子長の有機保護剤と無機ナノ粒子と、両親媒性有機化合物の3成分からなるものであり、無機ナノ粒子を溶液中において一次元配列させ、有機媒体中での分散性を向上させる目的で、無機ナノ粒子を有機保護剤で保護することを構成要素とするものであった。
【特許文献1】特開2004−91328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、有機溶媒中において自発集合する有機化合物、例えば複数のアミド基を含むグルタミン酸長鎖誘導体と、無機ナノ粒子との2成分からなる無機ナノ粒子複合体が、一次元配列構造を示すばかりでなく、有機溶媒中で良好な分散性を示すことを見出し、更には該有機化合物が有するグルタミン酸長鎖などの側鎖の構造に応じて、無機ナノ粒子複合体の一次元配列構造が非共有結合的な架橋結合を含む3次元的な広がりを形成し、有機溶媒をゲル化させうること、そして本無機ナノ粒子複合体を溶媒中で加熱するとナノ粒子複合体が溶媒中にランダムに分散するが、冷却すると再びナノ粒子の一次元配列構造が再構築されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、無機ナノ粒子と、有機溶媒中において自発集合する有機化合物とからなる無機ナノ粒子複合体に関する。本発明は、またその製造方法であって、無機ナノ粒子の原料となる金属イオン含有化合物を、有機溶媒中において自発集合する有機化合物と、溶媒中で混合し、加熱還流下、還元剤を添加して無機ナノ粒子複合体を作成する工程を含む方法にも関する。
【0012】
本発明は更にまた、有機溶媒中に本発明の無機ナノ粒子複合体を含む、ゲル状物;本発明の無機ナノ粒子複合体を含む硬化樹脂;該硬化樹脂の製造方法であって、本発明の無機ナノ粒子複合体を含む重合性ポリマーを重合させる工程を含む方法;線状の状態に融合した無機ナノ粒子を含む硬化樹脂にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無機ナノ粒子複合体は、該複合体を構成する有機化合物が有する有機溶媒中で自発集合する特性のため、有機溶媒中で一次元配列構造を示すとともに、有機溶媒中での高濃度溶液中では、該有機化合物の分子構造、温度や濃度に依存して、有機溶媒をゲル化させる。また有機溶媒中で加熱すると、無機ナノ粒子複合体が有機溶媒中にランダムに分散するが、冷却すると再び無機ナノ粒子複合体の一次元配列構造が再構築されるという可逆的な性質も示す。また、本発明の無機ナノ粒子複合体が有機溶媒中で形成するゲルにおいては、一次元配列した無機ナノ粒子間に有機物が存在しないため、効率の良い電子電導を可能とする。このため、本発明の無機ナノ粒子複合体は、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、導電性接着材料、薄型液晶素子用の材料、ゲルアクチュエーター用材料、非線形光学材料、磁性材料、触媒材料、センサー材料や単一電子トランジスタ用材料として優れた特性を有する。特に、超微細配線の作成材料としては、薄型表示素子などの作製、電池分野への応用も期待できる。また、本発明の無機ナノ粒子複合体は、電極基材上にキャストフィルムを作製することができるため、金属電極の中間層用材料、薄型表示素子用の材料等への応用の可能性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書においては、無機ナノ粒子とは、金属含有化合物からなる粒径0.5〜50nm、好ましくは1.0〜10nmの微粒子をいう。ここで、無機ナノ粒子とは、無機核部分のナノ粒子を指し、有機化合物を含まないものとする。
【0015】
本明細書においては、有機溶媒中で自発集合する有機化合物とは、有機溶媒中で、一次元的に集合する特性(自己組織性)を有する有機化合物をいう。この特性のため、該有機化合物と結合した複合体もまた、有機溶媒中で一次元的、つまり直線的に配列する。
【0016】
本明細書においては、無機ナノ粒子複合体とは、上記の自発集合する有機化合物が無機ナノ粒子表面と弱く相互作用することにより形成される複合体をいう。
【0017】
本明細書においては、飽和炭化水素基とは、記載の炭素原子数を有する、飽和した、直鎖もしくは分岐鎖状、または環状の炭化水素基をいう。また不飽和炭化水素基とは、所定の炭素原子数を有する、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合および/または三重結合を有する、直鎖もしくは分岐鎖状、または環状の炭化水素基(芳香族または非芳香族のいずれであることもできる)をいう。
【0018】
アルキル基とは、記載の炭素原子数を有する、直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基をいう。
【0019】
アルケニル基とは、記載の炭素原子数を有する、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を有する、直鎖もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基をいう。
【0020】
エーテル結合を含むアルキル基とは、酸素原子で中断された上記アルキル基をいう。
【0021】
脂環式炭化水素基とは、上記の飽和または不飽和炭化水素基のうち環状の基であって芳香属性を有しない基をいう。
【0022】
芳香族基とは、窒素原子、イオウ原子および酸素原子から選択されるヘテロ原子を環原子として含有していてもよい芳香族性を有する炭素環基をいう。
【0023】
以下に、本発明について説明する。
本発明の無機ナノ粒子複合体は、無機ナノ粒子と、有機溶媒中において自発集合する有機化合物とからなる。無機ナノ粒子は、任意の金属含有化合物の粒子であることができるが、具体的には金属ナノ粒子、金属イオウ化物ナノ粒子、または金属酸化物ナノ粒子であることができる。金属ナノ粒子を構成する金属種としては、好ましくはAu、Ag、Pd、Pt、Rh、Cu、Ni、Co、Fe、Mnを挙げることができ、特に好ましくはAu、Ag、Pd、Pt、Rhなどを挙げることができる。金属イオウ化物ナノ粒子を構成する金属イオウ化物としては、CdS、HgS、PbS、Cu2S、In23などの金属イオウ化物(金属カルコゲナイド)を挙げることができる。金属酸化物ナノ粒子を構成する金属酸化物としては、Fe23、Ag2Oなどを挙げることができる。無機ナノ粒子は、これらのいずれかまたはその複合化物であることができる。
無機ナノ粒子の粒径は、0.5〜50nm、好ましくは1.0〜10nmである。
【0024】
有機溶媒中において自発集合する有機化合物とは、上述したように有機溶媒中で、一次元的に集合する特性(自己組織性)を有する有機化合物をいう。本発明の無機ナノ粒子複合体を構成するこのような有機化合物としては、具体的には、式(I):
【化3】


で示される化合物を挙げることができる。
【0025】
式(I)において、R1は、炭素原子数2以上の飽和炭化水素基、炭素原子数2以上の不飽和炭化水素基、またはエーテル結合を含むアルキル基もしくは脂環式炭化水素基を表し、これらの基は、芳香族基によって置換もしくは中断されていてもよい。R1が表す炭素原子数2以上の飽和炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数6〜18の直鎖状のアルキル基、および炭素原子数3〜8、より好ましくは炭素原子数5〜6のシクロアルキル基を挙げることができ、具体的には、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−ドデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−オクタデシルなどの直鎖状のアルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基を挙げることができる。R1が表す炭素原子数2以上の不飽和炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数6〜18の直鎖状のアルケニル基またはアルキニル基、そして炭素原子数4〜8のシクロアルケニル基またはシクロアルキニル基を挙げることができ、具体的には、9−オクタデセニルなどの直鎖状のアルケニル基を挙げることができる。R1が表すエーテル結合を含むアルキル基としては、好ましくは炭素数6〜18の、エーテル結合を含む直鎖状アルキル基を挙げることができ、具体的にはラウリルオキシプロピルなどの基を挙げることができる。R1が表すエーテル結合を含む脂環式炭化水素基としては、好ましくは炭素数4〜6の、エーテル結合を含むシクロアルキル基、炭素数4〜6の、エーテル結合を含むシクロアルケニル基などを、具体的にはテトラヒドロフリルなどの基を挙げることができる。上記の基を置換または中断していることができる芳香族基としては、具体的にはフェニル、ナフチルなどの基を挙げることができる。
【0026】
1としては、具体的には、n−ヘキサデシル、9−オクタデセニルなどの基を挙げることができる。
【0027】
式(I)において、R2は、金属錯体もしくは金属塩と親和性を有する極性基、特にカチオン性官能基またはアニオン性官能基を表す。R2が表すカチオン性官能基は、カチオン性を有する基であれば任意の基であることができるが、好ましくはアンモニウム基(ヒドロキシ基によって置換されていてもよい炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖状アルキル基によって置換されていてもよい)、ピリジニウム基およびホスホニウム基を挙げることができる。置換されていてもよいアンモニウム基としては、具体的にはジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム、トリヒドロキシエチルアンモニウムなどの基を挙げることができる。ホスホニウム基としては、例えばトリフェニルホスホウニウム基、トリエチルホスホニウム基などを挙げることができる。また、R2が表すアニオン性官能基は、アニオン性を有する基であれば任意の基であることができるが、好ましくはカルボキシル基(−COOHまたはその塩)、−OSO3Hまたはその塩、スルホン酸基(−SO3Hまたはその塩)、リン酸基(−O−P(=O)(OH)(OH)またはそのモノもしくはジ塩)、およびホスホン酸基(−P(=O)(OH)(OH)またはその塩)を挙げることができる。
【0028】
これらのカチオン性官能基およびアニオン性官能基は、−(CH2p−と、フェニレン基もしくはフェニレンオキシ基を介して結合していてもよい。
【0029】
pは、1〜20の整数を表すが、好ましくは1〜15、より好ましくは5〜11の整数である。
【0030】
このような式(I)の化合物としては、以下の化合物を好ましく挙げることができる。
【化4】

【0031】
本発明の無機ナノ粒子複合体は、上記の無機ナノ粒子と上記の有機化合物の複合体であり、ナノ粒子表面に自発集合する有機化合物が可逆的な比較的弱い相互作用により結合している複合体である。上記の有機化合物は、極性基を無機ナノ粒子表面に向けて表面を覆うような形で結合している。
【0032】
無機ナノ粒子複合体がとりうる形態の一例を図1に示す。図1に示すように本複合体は、有機溶媒中、加熱状態では、複合体粒子のそれぞれが集合せずに分散した状態で存在するが、室温程度まで温度が下がると、自発集合する有機化合物の性質により、複合体が一次元的に集合して、比較的独立した状態で直鎖状に配列した形態(直鎖状物)をとる。また更に温度を下げることで、独立していた直鎖状に配列した形態のナノ粒子の直鎖状配列部分がアルキル鎖間の非共有結合相互作用により束状化し(図2)、さらに網目状に絡みあうことによって、全体としてゲル状物として存在することもできる。これらは、有機化合物の構造や、複合体の製造に用いる還元剤の種類、あるいは無機ナノ粒子のサイズや、金属種によって連続性(一次元配列の持続長)や束状化現象の程度が異なってくる。
【0033】
本発明の無機ナノ粒子複合体の製造方法について、以下に記載する。
本発明の無機ナノ粒子複合体は、無機ナノ粒子の原料となる金属イオン含有化合物(具体的には、金属塩、金属錯体(無機錯体および有機錯体を含む)などの金属イオン含有化合物)を、有機溶媒中において自発集合する有機化合物と、溶媒中で混合し、加熱還流下、還元剤を添加して無機ナノ粒子複合体を作成することによって、製造することができる。
【0034】
具体的には、まず所望の金属イオン含有化合物、例えばAu、Ag、Pd、Pt、Rh、Cu、Ni、Co、Fe、Mnなどの金属の塩;CdS、HgS、PbS、Cu2S、In23などの金属イオウ化物;Fe23、Ag2Oなどの金属酸化物の原料となる金属イオン含有化合物を水などの溶媒に溶解する。このような金属イオン含有化合物は、用途に応じて適宜選択することができるが、例えば金属の塩のうち金の塩としては、塩化金酸四水和物(HAuCl4・(H2O)4)、塩化金酸三水和物(HAuCl4・(H2O)3)、銀の塩としては、酢酸銀(AgCOCH3)、硝酸銀(AgNO3)、パラジウムの塩としては、塩化パラジウム酸誘導体(H2PdCl6、H2PdCl4およびそれらの塩化合物)、ロジウムの塩としては塩化ロジウム(III)ナトリウム二水和物(Na3[RhCl6]・2H2O)、白金の塩としては、塩化白金酸誘導体(H2PtCl4、H2PtCl6およびそれらの塩化合物)などを用いることができる。
【0035】
金属イオン含有化合物を溶解する溶媒としては、金属イオン含有化合物を溶解することができる溶媒であれば任意の溶媒を用いることができるが、具体的には、メタノール、エタノールなどの有機溶媒、および水などの極性溶媒を挙げることができる。好ましくは、低極性有機溶媒と混合しない水などの極性溶媒を用いることができる。溶液中の金属イオン含有化合物の濃度は、溶媒に対する金属イオン含有化合物の溶解性によって異なるが、例えば0.01〜50mMの濃度の溶液とすることができる。この濃度は、自発集合する有機化合物の濃度に適宜合わせることができる。
【0036】
ついで有機溶媒中において自発集合する有機化合物を、溶媒に溶解する。溶媒としては、低極性溶媒、例えばトルエン、メチルシクロヘキサンなどを用いることができる。溶媒中の該有機化合物の濃度は、溶媒に対する有機化合物の溶解性によって異なるが、例えば0.1〜50mMの濃度の溶液とすることができる。
【0037】
ついで両方の溶液を混合することにより、金属塩、金属錯体などの金属イオンを、該有機化合物を溶解させた低極性溶媒中に相転移させ、約60〜120℃の温度で、還流下で加熱撹拌するなか、還元剤を添加して還元する。金属イオン含有化合物に対する該有機化合物の添加量を調整することにより、得られる無機ナノ粒子複合体の無機ナノ粒子部分の粒径を調節することができる。金属イオン含有化合物に対する上記有機化合物の当量比(有機化合物に含まれるカチオン性官能基またはアニオン性官能基などの極性基の数で換算)が大きいほど、得られる複合体の無機ナノ粒子部分の粒径が小さくなり、単分散性も高くなる。したがって、上記有機化合物の添加量を調整することによって、無機ナノ粒子部分の粒径を、例えば0.5〜50nm、好ましくは1.0〜10nmに制御することができる。
【0038】
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウムなどのアルカリ金属水素化ホウ素酸塩類;アンモニウム水素化ホウ素酸塩類、ヒドラジン系化合物、ジメチルアミノエタノール、ジメチルエチルアミンなどの2級、3級アミン化合物などを用いることができる。また水素、またはジボランなどのガスを用いることもできる。還元剤の添加量は、特に規定されず、金属イオン含有化合物の金属イオンを還元する量が最低限あればよい。
【0039】
上記の方法により、金属イオン含有化合物の金属イオンが還元されて無機ナノ粒子を形成するとともに、その表面に自発集合する有機化合物が結合して、本発明の無機ナノ粒子複合体が形成される。無機ナノ粒子複合体の調製後、トルエン、メチルシクロヘキサンのような低極性溶媒中では温度が下がると、混合物がゲル化する。金属イオン含有化合物を溶解させる溶媒として水を用いる場合は、調製後、温度が低下する前に、無機ナノ粒子複合体を含む有機溶媒層を分取しておく必要がある。
【0040】
上記の方法で得られた本発明の無機ナノ粒子複合体は、これを含む低極性溶媒層を分取し、一旦乾燥させて固体とした後、再度別の有機溶媒中に加熱分散させることができる。このような有機溶媒としては、トルエン、メチルシクロヘキサン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン、テトラヒドロフランなどを好ましく挙げることができる。このようにして得られた有機溶媒中の無機ナノ粒子複合体は、例えば50〜140℃、好ましくは80〜120℃に加熱することにより、有機溶媒中にそれぞれの複合体ごとに分散させることができる。一方、有機溶媒中の無機ナノ粒子複合体を冷却する、例えば室温に冷却することで、無機ナノ粒子複合体は、自己組織的に一次元構造体を形成して、有機溶媒中で直鎖状に配列する。また、この有機溶媒中の無機ナノ粒子複合体は、直鎖状に配列した状態で複数集合して束状物を形成することもできる。さらにまた、この有機溶媒中の無機ナノ粒子複合体は、その濃度により異なるが、高濃度では、直鎖状に配列した形態で互いに束となり、網目状に絡みあうことによって、全体としてゲル状物を形成することもできる。
【0041】
このようにして製造された無機ナノ粒子複合体を、熱または光により重合する重合性ポリマー溶媒に分散させ、重合させることにより、本発明の無機ナノ粒子複合体を含む硬化樹脂を得ることができる。本発明の無機ナノ粒子複合体を重合性溶媒に分散させた後、加熱または冷却状態のいずれかで重合させることにより、無機ナノ粒子複合体をそれぞれ独立して分散させた硬化樹脂、または無機ナノ粒子複合体が直鎖状に配列した状態の硬化樹脂を得ることができる。さらにまた、無機ナノ粒子複合体が直鎖状に配列した状態の硬化樹脂を、無機ナノ粒子が融合する温度で加熱することにより、直鎖状に配列した状態の無機ナノ粒子を融合させて、線状の状態に融合した無機ナノ粒子を含む硬化樹脂を得ることもできる。この状態の模式図を図3に示す。このようにして融合させた無機ナノ粒子の半径は、材料として用いた金属イオン含有化合物の種類および自発集合する化合物の種類およびその量に応じて異なるが、従来得られていた線状の金属よりもはるかに小さい半径(例えば5〜500nm、好ましくは10〜100nm)を有する。
【0042】
本発明の無機ナノ粒子複合体は、高温および低温状態で上述したような可逆的に変化する集合状態を示すため、これを含むゲル状物、硬化樹脂は、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、導電性接着材料、薄型液晶素子用の材料、磁性材料やセンサー材料として優れた特性を有する。更には、触媒としての高い活性も期待される
【実施例】
【0043】
本発明の無機ナノ粒子複合体について、以下の実施例により詳細に説明する。
製造例1
N−(11―ブロモウンデカノイル)−L−グルタミン酸ジヘキサデシルジアミド化合物の合成
<操作>
1000ml容の三角フラスコにN−(11―ブロモウンデカノイル)−L−グルタミン酸(Mw:394.30)6g(15.22mmol)、N,N−ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド[東京化成Mw:254.57]7.75g(15.22mmol)を入れ、ジクロロメタン75mlを加え、さらにトリエチルアミン[関東化学Mw:101.19]3.08g(30.44mmol)を加え氷冷下で1時間攪拌した。次に、ジクロロメタン100mlにトリエチルアミン3.10g(30.60mmol)、ヘキサデシルアミン[東京化成Mw:129.24]7.39g(30.6mmol)を加えたものを滴下ロートにより90分かけて滴下した。その後、5時間攪拌し、イオン交換水100mlを加え、HCl水溶液によりpH5程度にし、過剰のトリエチルアミンを水相に移した。分液漏斗により有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。溶媒のジクロロメタンを減圧留去し、アセトン、メタノール混合溶媒により再結晶を行い、標記の化合物を得た。また得られた生成物を同定するためFT−IR測定ならびにH−NMR、元素分析測定を行い、N−(11―ブロモウンデカノイル)−L−グルタミン酸ジヘキサデシルジアミドが合成されていることを確認した。
【0044】
製造例2
N−(11―ジメチルヒドロキシエチルアンモニオウンデカノイル)−L−グルタミン酸ジヘキサデシルジアミド(II)の合成
【化5】


製造例1で合成した化合物(Mw:893.13)4g(4.5mmol)とジメチルエタノールアミン(Mw:89.14)4g(45mmol)をアセトニトリル50mlに入れ、90℃で、加熱還流を行った。加熱とともに溶液は懸濁状態から均一溶液になった。24時間後に反応の進行に伴って析出した無色の固体を吸引ろ過により集め、アセトニトリルで繰り返し洗浄した。アセトニトリル80mlで再結晶して、無色の粉末を得た。また得られた生成物を同定するためFT−IR測定ならびに1H−NMR測定を行った。
【0045】
製造例3
N−(11―スルホン酸ウンデカノイル)−L−グルタミン酸ジヘキサデシルジアミドナトリウム塩(V)の合成
【化6】


製造例1で合成した化合物(Mw:893.13)1.0gと亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液5mlを15mlのエタノールに入れ、80℃で168時間、加熱還流を行った。終始懸濁状態であった。42時間後に析出した無色の固体を吸引ろ過により集め、大量の水で繰り返し洗浄した。さらにクロロホルムにより抽出して、溶媒を留去した後の残渣をメタノール60mlで再結晶して、無色の粉末を得た。また得られた生成物を同定するためFT−IR測定ならびにH−NMR測定を行った。
【0046】
製造例4
N−(11―ジメチルヒドロキシエチルアンモニオウンデカノイル)−L−グルタミン酸ジ(9−シス−オクタデセニル)ジアミド(III)の合成
製造例1において、ヘキサデシルアミンに代えて9−シス−オクタデセニルアミンを用いたほか、製造例1と同様の操作を行って、N−(11−ブロモウンデカノイル)−L−グルタミン酸ジ(9−シス−オクタデセニル)ジアミドを合成した。次いで、得られた化合物を用いて、製造例2と同様の操作をおこなって、標記の化合物(III)を得た。
以下の実施例では、種々の金属ナノ粒子と、有機溶媒中において自発集合する有機化合物からなる無機ナノ粒子複合体を調製した。
【0047】
実施例1
製造例2で調製した、一分子中に3つの水素結合帯を有する自発集合性有機化合物(II)を用いて無機ナノ粒子複合体を調製した。
化合物(II)の5mMトルエン溶液10mlと、各種金属塩の水溶液(金属塩と化合物(II)との電荷比が1:1となるように調製した)5mlとを混合し、これを120℃で加熱攪拌還流しながら、トルエン相へと金属塩を相転移させた。金属塩水溶液の色がトルエン層に移り、水溶液の色が完全に消失するのを確認した後、水素化ホウ素ナトリウム0.2M水溶液5mlを添加し、金属塩を還元して本発明の無機ナノ粒子複合体を調製した。金属塩としては、塩化金酸四水和物(HAuCl4・(H2O)4)、硝酸銀(AgNO3)、塩化パラジウム酸カリウム(K2PdCl6)、塩化ロジウム(III)ナトリウム二水和物(Na〔RhCl〕)、塩化白金酸カリウム(K2PtCl4)を用いた。(下表)
【表1】


熱時にトルエン相のみを分取した。調製後、トルエン相の温度を室温まで下げるといずれの金属種においてもゲル化した。調製した無機金属ナノ粒子を適切な分散媒中に分散・ゲル化させ、その構造やゲル化挙動を紫外可視吸収スペクトルや透過型電子顕微鏡などによって調べた。
上述したように、製造した無機ナノ粒子複合体を含む分散液(トルエン相)は、室温に戻すと、いずれの金属種においてもゲル化した。本発明の無機ナノ粒子複合体が形成したゲルは、サンプル瓶をひっくり返しても溶液が流れないほど硬いゲルであった。これらのゲルは、トルエンによる希釈を行ったところ、有機化合物として0.1mMの濃度までゲル化することが分かった。また、用いた有機化合物のみを同じ0.5mMの濃度でトルエンに分散してもゲル化は起こらないことから、有機化合物とナノ粒子が複合体を形成することによって、ゲルを形成する高次構造が得られたものと解される。得られたゲルを加熱すると、100℃付近で完全に溶解し、再び粘性のないゾル(溶液)となった。これを再び室温まで放冷すると、元の硬いゲルが得られたことから、このゲルは可逆的なゾル−ゲル転移特性を有することが判った。例として金ナノ粒子のトルエンゾルおよびゲルの概観を図4に示す。また、ゲルを加熱して溶解し始める温度は80℃付近であるのに対し、いったん溶液となった試料を冷却してゲルが形成される温度は室温付近であった。このように、ゲルの溶解とゲル化の温度に大きな履歴を伴うことから、ゲル状態における複合体の高次(会合)構造と溶液状態におけるそれは大きく異なることが示唆された。また熱可逆的にゾル状態とゲル状態を何度も繰り返し再現できることが分かった。
また、さらにこれらの複合体は、一旦トルエンを乾燥させることにより、固体として取り扱うことができる。このように粉末化したものをテトラヒドロフランなどの有機溶媒に再加熱分散させることもでき、同様にゲルを形成させることができた。
一例として、白金ナノ粒子複合体のテトラヒドロフランゲルの写真を示す。(図5)
【0048】
実施例2
実施例1で調製した本発明の無機ナノ粒子複合体について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察をおこなった。例として金ナノ粒子の場合について示す。
実施例1にて作成した金ナノ粒子複合体のトルエン溶液を110℃で加熱溶解した(0.5mM)。この試料を恒温漕で100℃に保ち、パスツールピペットでカーボン蒸着した電子顕微鏡測定用の銅グリッド(TEMグリッド)上に溶液を一滴滴下して、デシケーター中で減圧乾燥させた。このときTEMグリッドおよびピペットは、あらかじめ乾燥器内で溶液と同じ温度に加熱しておいた。さらに、この溶液を25℃まで冷却してゆき、それぞれの温度で同様にしてTEM観察試料を作製した。これらを透過型電子顕微鏡(加速電圧:100kV)で観察した。得られた観察結果を図6(110℃)、図7(25℃)に示す。
トルエン中、110℃の温度領域におけるTEM写真(図6)では、複合体ナノ粒子が個々に分散していた。一方、この溶液を25℃に冷却してゲル化した試料においては、金ナノ粒子が一次元状に配列し、その一次元配列構造が束なって、網目状に絡まり合っている様子が観察された(図7)。裸状態の金属核が有機化合物にくるまれながら一次元的に組織化し、隣接する粒子と融合することなく安定に存在していた。各々の束状構造(バンドル)は、2本から6本のナノ粒子細線(ファイバー)の束を形成していた。バンドルの末端ではファイバーが一本だけ伸びている構造も観察された。このような網目構造の形成により、溶媒であるトルエンのゲル化がもたらされたものと考えられる。アルキル鎖の熱揺らぎが減少する20℃付近では、このアルキル鎖で覆われた単粒子細線間にファンデルワールス力が働き、単粒子細線が束なる。このバンドルが網目状に絡み合うことにより、ゲルが形成されたものと解される(図7下)。
【0049】
実施例3
実施例1にて作成した本発明の無機ナノ粒子複合体のうち金ナノ粒子複合体のトルエン溶液を110℃で加熱溶解した(0.5mM)。これをあらかじめ110℃で加熱しておいた紫外可視吸収(UV−Vis)スペクトル用のセル(光路長1mm)に移し、25℃まで冷却して溶液をゲル化させた。この試料を110℃に加熱して溶液状態にした後、25℃まで冷却してゲル化させる操作を1サイクルとして、計10サイクル繰り返した。各段階のUV−Visスペクトル測定を行い、複合体の熱安定性を評価した。複合体、複合体ゲルについて昇温―降温のサイクルで得られたUV−Visスペクトルをそれぞれ図8および図9に示した。
本発明の無機ナノ粒子複合体の場合、少なくとも10サイクルまでは、金ナノ粒子のプラズモン吸収に変化は認められなかった。このことは、加熱と冷却を繰り返しても、無機ナノ粒子の金属核部分の変質が起きていないことを示し、本複合体の熱安定性が極めて高いことが示された。
【0050】
実施例4
化合物(II)の代わりに、製造例4で合成した化合物(III)を用いて実施例1と同様の方法により、本発明の無機ナノ粒子複合体の調製を行った。その結果を下表に示す。
【表2】


cis二重結合を有するオレイル鎖型化合物(III)と各金属種との複合体は、トルエン中室温では脆いゲル状態を示し、非常に流動性の高いものであった。本複合体は、0℃に冷却してはじめてゲル化した。また0℃においては、1mMの濃度では流動性のないゲルを形成したが、0.5mMでは流動性のあるゲルを形成した。このことは、cis二重結合を含むオレイル鎖の分子配向性が低く、トルエンと相溶しやすい性質を有しているためと解される。不飽和炭化水素型の有機化合物に代えることによって、親媒性(溶媒への親和性)が高まり、同時に単粒子細線間の相互作用(凝集力)が低下したことが示された。0℃まで温度を下げると、単粒子細線は50nm前後の幅を有するバンドル構造となり、それらが絡み合ってゲルを与えるものと解される。
このように、本発明の無機ナノ粒子複合体は、有機溶媒に分散してゲル化性を示し、またゲルを加熱すると溶液となる。ゲル状態では、ナノ粒子の一次元配列した単粒子細線が束と成った構造を与えている。溶液状態ではナノ粒子が単粒子細線として分散するが、より高温(〜110℃程度)では個々の粒子として分散する。このように、本発明によると、無機ナノ粒子の配列した溶液やゲルを簡便に作製できることから、本発明の無機ナノ粒子複合体は、多様な分野へ利用展開できる可能性を有している。
【0051】
実施例5
実施例1で調製した本発明の無機ナノ粒子複合体を乾燥させることにより一旦固体として採取した後、エーテル結合を含む3-6員環の分子構造を有する、具体的にはエポキシドやテトラヒドロフラン、ジオキサンなどの媒体中に分散させた(濃度:使用した化合物(II)に換算して1mM)ところ、本複合体は、媒体中に極めてよく再分散し、収縮等のない一次元配列構造、およびゲル化を示した。特にエポキシドなどの重合性液体を媒体として用いた場合、適切な硬化剤や開始剤と組み合わせ、媒体部分を光または熱により硬化させることができた。この結果、無機ナノ粒子複合体の一次元構造が保たれたまま固体材料として取り扱うことができることが示された。
各種エポキシおよびアクリルモノマーの重合性媒体に対する分散性を以下の表に示す。
【表3】


媒体として用いたオキセタン化合物OXT−221、OXT−211、OXT−212、OXT−101、CEL−2021P、CEL−2000、CEL−3000(東亞合成)の分子構造を以下に示す。
【化7】


上記の結果より、本発明の無機ナノ粒子複合体では、エポキシモノマーに対する分散性がアクリルモノマーに比べ、はるかに高いことが示された。さらに重合性媒体に分散後、光および熱により重合性媒体を硬化させることが可能であり、媒体中で一次元配列を形成していた無機ナノ粒子複合体は、ヨードニウム塩を用いたカチオン重合による光硬化後においても、樹脂中で一次元配列を示していた。なお、重合、硬化は、各重合性媒体に応じて、当業者に公知の方法でおこなった。また硬化後に樹脂を200℃以上に加熱することで、一次元配列した状態の無機ナノ粒子を融合させることもできた(図3のTEM像)。
【0052】
実施例6
実施例1で作成された化合物(II)−Pdおよび化合物(II)−Auからなる無機ナノ粒子複合体のトルエン溶液ゲル(1mM)をそれぞれ加熱し、液状に溶解させた。それぞれ1mlをサンプル瓶に取り、加熱乾燥させた。これにテトラヒドロフラン各1mlを加えて加熱し、溶解させた。これら化合物(II)−Pdおよび化合物(II)−Auのテトラヒドロフラン溶液を混合し、自然冷却して化合物(II)−Pd/Auのテトラヒドロフラン溶液ゲルを得た。得られたゲルの色は暗赤色透明であった。
このようにゲルを形成する単独の無機ナノ粒子複合体は、容易に混合して、図10に示すように、2種以上の異種無機ナノ粒子で構成された複合体とすることができる。
【0053】
実施例7
実施例1で作成された化合物(II)−Auトルエン溶液に再度塩化金酸(HAuCl4)水溶液を接触させることにより、金属塩をさらに化合物(II)の作る電荷表面内に導入した。
実施例1で調製し、乾燥して固体状にした化合物(II)−Au複合体(0.0384g)をサンプル瓶にとり、トルエン10mlを加えて溶解させた。これをホットスターラーにより加熱攪拌しながら、塩化金酸水溶液(5mM)を1mlずつ添加した。水相の着色(黄色)が消失せず残るまで添加した。飽和するまでに化合物(II)−Au複合体0.0384gに対して塩化金酸水溶液9mlを要した。この繰り返し操作により化合物(II)の電荷に対し、約1.8倍の電荷の金属塩を導入することができた。
またこの手法により新たに導入した金属塩をその後還元することも可能であり、異種金属によるコアシェル型ナノ粒子やアスペクト比の大きな異方性ナノ粒子の作成も可能であることが示された。そのスキームを図11に示す。
以上、本発明をその好適な実施形態例及び実施例に基づいて説明したが、本発明の無機ナノ粒子複合体及びその製造方法は、上記実施形態例及び実施例の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態例の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の無機ナノ粒子複合体は、該複合体を構成する有機化合物が有する有機溶媒中で自発集合する特性のため、有機溶媒中で一次元配列構造を示すとともに、有機溶媒中での高濃度溶液中では、該有機化合物の分子構造、温度や濃度に依存して、有機溶媒をゲル化させる。また有機溶媒中で加熱するとナノ粒子複合体が溶媒中にランダムに分散するが、冷却すると再びナノ粒子の一次元配列構造が再構築されるという可逆的な性質も示す。また、本発明の金属ナノ粒子複合体が有機溶媒中で形成するゲルにおいては、一次元配列した無機ナノ粒子間に有機物が存在しないために、効率の良い電子電導を可能とする。このため、本発明の無機ナノ粒子複合体は、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、導電性接着材料、薄型液晶素子用の材料、ゲルアクチュエーター用材料、非線形光学材料、磁性材料、触媒材料、センサー材料や単一電子トランジスタ用材料として優れた特性を有する。特に、超微細配線の作成材料としては、薄型表示素子などの作製、電池分野への応用も期待できる。また、本発明の無機ナノ粒子複合体は、電極基材上にキャストフィルムを作製することができるため、金属電極の中間層用材料、薄型表示素子用の材料等への応用の可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】無機ナノ粒子複合体がとりうる形態の一例である。
【図2】無機ナノ粒子複合体の直鎖状物の束状化を示す。
【図3】左および中央の図は、線状の無機ナノ粒子融合体を含む硬化樹脂の製造スキームである。右の図は、加熱によって得られた線状の無機ナノ粒子融合体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】無機ナノ粒子複合体が形成するゾルおよびゲルの概観の一例である。
【図5】白金ナノ粒子複合体のゲルの写真である。
【図6】無機ナノ粒子複合体の透過型電子顕微鏡像(TEM)である。
【図7】無機ナノ粒子複合体の透過型電子顕微鏡像(TEM)である。
【図8】無機ナノ粒子複合体について昇温―降温のサイクルで得られたUV−Visスペクトルである。
【図9】無機ナノ粒子複合体について昇温―降温のサイクルで得られたUV−Visスペクトルにおけるプラズモン吸収の変化を表したグラフである。
【図10】2種以上の異種無機ナノ粒子で構成された複合体を示すスキームである。
【図11】無機ナノ粒子複合体への逐次的金属塩の導入と、それによるコアシェル型ナノ粒子および異方性ナノ粒子の形態を示すスキームである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ナノ粒子と、有機溶媒中において自発集合する有機化合物とからなる無機ナノ粒子複合体。
【請求項2】
有機溶媒中において自発集合する有機化合物が、式(I):
【化1】


[式中、R1は、炭素原子数2以上の飽和炭化水素基、炭素原子数2以上の不飽和炭化水素基、またはエーテル結合を含むアルキル基もしくは脂環式炭化水素基を表し、これらの基は、芳香族基によって置換もしくは中断されていてもよく、
2は、金属錯体もしくは金属塩と親和性を有する極性基を表し、
pは、1〜20の整数を表す]
で示される化合物である、請求項1記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項3】
1が、炭素数2〜30の直鎖状のアルキル基または炭素数2〜30の直鎖状のアルケニル基である、請求項2記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項4】
2が、アンモニウム基(ヒドロキシ基によって置換されていてもよい炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖状アルキル基によって置換されていてもよい)、ピリジニウム基およびホスホニウム基から選択されるカチオン性官能基、あるいはカルボキシル基、スルホン酸エステル基、スルホン酸基、リン酸基、およびホスホン酸基から選択されるアニオン性官能基である、請求項2または3記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項5】
式(I)の化合物が、式:
【化2】


の化合物である、請求項2〜4のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項6】
無機ナノ粒子が、金属ナノ粒子、金属イオウ化物ナノ粒子、または金属酸化物ナノ粒子である、請求項1〜5のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項7】
無機ナノ粒子が直鎖状に配列した形態の、請求項1〜6のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項8】
無機ナノ粒子が直鎖状に配列した状態で複数集合して束状物を形成している、請求項1〜6のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体。
【請求項9】
有機溶媒中に請求項1〜8のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体を含む、ゲル状物。
【請求項10】
請求項1記載の無機ナノ粒子複合体の製造方法であって、無機ナノ粒子の原料となる金属イオン含有化合物を、有機溶媒中において自発集合する有機化合物と、溶媒中で混合し、加熱還流下、還元剤を添加して無機ナノ粒子複合体を作成する工程を含む方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体を含む硬化樹脂。
【請求項12】
請求項11記載の硬化樹脂の製造方法であって、請求項1〜7のいずれか1項記載の無機ナノ粒子複合体を含む重合性ポリマーを重合させる工程を含む方法。
【請求項13】
線状の状態に融合した無機ナノ粒子を含む、硬化樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−63232(P2007−63232A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254647(P2005−254647)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000162434)協立化学産業株式会社 (73)
【出願人】(500241479)
【Fターム(参考)】