説明

無機フィラーを偏在させる方法

【課題】ミクロ相分離構造を有するポリマーブレンドに無機フィラーを分散したときに、特定のポリマー成分に無機フィラーを偏在させる方法を提供する。
【解決手段】二成分以上のポリマー成分と、無機フィラーとを含むポリマーブレンド中の無機フィラーを、特定のポリマー成分に偏在させる方法であって、前記ポリマー成分のうち少なくとも一つが熱硬化性ポリマーであり、前記ポリマーブレンドが加熱硬化を経てミクロ相分離構造を形成するものであり、前記ポリマーブレンドの示差走査熱量(DSC)測定時における、熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの温度範囲で、10分から360分間加熱処理を行い無機フィラーの流動を促進することにより、無機フィラーを偏在させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は相分離構造を有するポリマーブレンド内部における無機フィラーを偏在させる方法に関する。本発明によりポリマーブレンド製造プロセスや材料そのものを変えずにポリマーブレンドの特性を変えることが可能である。
【背景技術】
【0002】
ポリマーブレンドの特性を制御するための手法として、従来から化学構造や分子量、架橋度の異なるポリマーが用いられてきたが、近年では電子顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いた観察技術の発達によりミクロ相分離構造や樹脂中での無機フィラーの分散性なども議論されてきた。しかし高分子中で無機フィラーの分散性や無機フィラー/ポリマー界面を制御する手法は限られていた。
【0003】
前述したとおり、ポリマーブレンドの特性は構成材料のガラス転移点や分子量、架橋度といった物性を変えることにより制御することが一般的であった。高分子の相分離構造や、その制御手法については従来から研究がなされてきた。共連続構造や海島構造を有するポリマーブレンドにおいて、その構造を制御するには、せん断応力の利用、プロセスを変えること、樹脂組成を変える、などの方法がとられてきたが、プロセスや高分子材料を構成する材料を大幅に変えるとポリマーブレンドそのものの物性が大きく変わるため、無機フィラーの特定ポリマー相への偏在による特性への効果や無機フィラー/樹脂界面の違いによる効果以上に、それ以外のファクターによる物性変化が大きくなってしまう。特開2005−162822号公報では無機フィラー成分を加える順番を変えることによって、これを制御するとある。しかし、実際にはプロセスで制御するのは樹脂系によっては困難であると考えられる。
エポキシ樹脂とアクリル樹脂のミクロ相分離構造については、特開2001−220571号公報にも記載されており、例えば、熱硬化成分の硬化時にミクロ相分離構造を形成することで、熱硬化による応力の発生を抑制することができ、そして、電子材料用途などへの応用がこれまで行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−162822号公報
【特許文献2】特開2001−220571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、二成分以上のポリマーブレンド中に形成された相分離構造における無機フィラーの分散性や偏在性、無機フィラーと樹脂界面を制御する手法に関するものである。樹脂や製品製造プロセスに大きな変化を加えずにポリマーブレンドの流動性や弾性率、ガラス転移点といった物理的な特性、または耐熱性といった諸特性を制御することを課題とする。
本発明の目的は、ミクロ相分離構造を有するポリマーブレンドに無機フィラーを分散したときに、特定のポリマー成分に無機フィラーを偏在させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
(1) 二成分以上のポリマー成分と、無機フィラーとを含むポリマーブレンド中の無機フィラーを、特定のポリマー成分に偏在させる方法であって、前記ポリマー成分のうち少なくとも一つが熱硬化性ポリマーであり、前記ポリマーブレンドが加熱硬化を経てミクロ相分離構造を形成するものであり、前記ポリマーブレンドの示差走査熱量(DSC)測定時における、熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの温度範囲で、10分から360分間加熱処理を行い無機フィラーの流動を促進することにより、無機フィラーを偏在させる方法。
(2) 無機フィラーが、表面処理剤にて、少なくとも一つのポリマー成分に対して親和性の高い表面修飾されたものである、前記(1)に記載の無機フィラーを偏在させる方法。
(3) 熱硬化性ポリマーがエポキシ樹脂であり、ポリマー成分のうち少なくとも一つがアクリル樹脂である、前記(1)または(2)に記載の無機フィラーを偏在させる方法。
(4) 熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの温度範囲で、10分から360分間加熱処理を行い、ポリマーブレンド中の無機フィラーを流動させ、さらに、ポリマーブレンドを加熱硬化し、ミクロ相分離構造を形成する、前記(3)に記載の無機フィラーを偏在させる方法であって、ミクロ相分離構造において、アクリル樹脂が海相、エポキシ樹脂が島相であり、70質量%以上の無機フィラーが、アクリル樹脂側又はエポキシ樹脂側に取り込まれている、無機フィラーを偏在させる方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明を用いることによる第一の効果は、無機フィラーを特定の樹脂相に偏在させることにより、ポリマーブレンド/無機フィラー間の界面を形成する樹脂を制御することができ、それにより無機フィラーが接触しているポリマー相に与える樹脂を拘束する力を変化させることが可能である。また、それによりポリマーブレンドの物理的な特性を変化させることが可能である。
【0008】
本発明を用いることによる第二の効果は、相分離構造を有するポリマーブレンド中でのポリマー相に無機フィラーを偏在させることで、マトリックスポリマーの流動性や弾性率、破断強度といった物理的な性質を制御することが可能である。
【0009】
本発明を用いることによる第三の効果は、相分離構造を有するポリマーブレンド中で特定のポリマー相に無機フィラーを偏在させることで、そのポリマー相の耐熱性を向上させることが可能である。また、本発明により、材料やプロセスの大幅な変更をせずにポリマー特性を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ポリマーブレンド成分(試料)をシリコンウエハに貼り付けた後に、ホットプレート上で、加熱処理をしている状態を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、シリカフィラーが、ポリマーブレンド成分である、エポキシ樹脂相やアクリル樹脂相の界面や内部に存在している状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の無機フィラーを偏在させる方法においては、二成分以上のポリマー成分から成り、うち少なくとも一つが熱硬化性ポリマーであり、かつ、加熱硬化を経てミクロ相分離構造を形成するポリマーブレンドを用いる。ミクロ相分離構造とは二種類以上のポリマーブレンドにおいて、樹脂同士が完全に相溶しきらずに海島や共連続構造といった特異的な構造を形成している状態のことである。
このミクロ相分離構造を形成するポリマーブレンドに対して、例えば、平均粒径が5nm〜2000nm程度の無機フィラーを添加し、その混合物をフィルムなどの特定の形状に成形した後に、DSC測定時に見られる熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下(それ以上の温度では樹脂が流動する前に硬化が進行してしまうため)となる温度からその40℃程度低温までの温度範囲において、10分から360分間加熱処理を通して、ポリマーブレンドの樹脂中での無機フィラーの流動を促進することで、無機フィラーを特定の相に偏在させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の無機フィラーを偏在させる方法においては、前記のポリマーブレンドでは、ポリマー相に対して親和性の高い表面修飾をされた無機フィラーは、表面修飾によるポリマー相との親和性を利用することで特定のポリマー相により効果的に偏在させることが出来る。
【0013】
また、ポリマーブレンドが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から構成され、熱硬化後にアクリル樹脂が海相、エポキシ樹脂が島相となるポリマーブレンドにおいて、ポリマーブレンドのDSC測定時に見られる熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの温度範囲で10分から360分間加熱処理を行い、その後に加熱硬化させることで、エポキシ樹脂の相、あるいは、アクリル樹脂の相に無機フィラーを偏在させる。
なお、ポリマーブレンド中に存在する無機フィラーの全量を100質量%とした場合において、偏在するとは、通常、一つのポリマー成分の相に、70質量%以上の無機フィラーが存在していることであり、他の成分の相には、30質量%未満の無機フィラーが存在していることである。さらに、一つのポリマー成分の相に、無機フィラーが偏在している割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
また、偏在するとは、無機フィラーが一つのポリマー成分に取り込まれた状態を指し、二つ以上のポリマー成分の界面に存在した場合は、偏在するとは、見なされない。但し、ポリマーブレンド中のポリマー成分が三成分以上であり、特定のポリマー成分が、二成分の場合は、その二成分の界面に存在した場合は、偏在していると、見なされる。
また、ポリマー成分の相に、無機フィラーが偏在している割合は、例えば、クライオ・ウルトラミクロトームを用いて、ポリマーブレンドの断面試料を作製し、さらに、原子間力顕微鏡(SPI4000:SIIナノテクノロジー社製、タッピングモード、探針:Si−DF−20エポリードサービス社製)を用いて、前記の断面試料を解析することにより、求めることが可能である。
【0014】
本手法を実施するための形態として、二成分以上のポリマー成分から成り、少なくとも一つが熱硬化性ポリマーであり、熱硬化前は相分離せずに相容した状態にあり、かつ、加熱硬化を経てミクロ相分離構造を形成するポリマーブレンドが使用される。
【0015】
熱硬化性ポリマーとしては、エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック変性エポキシ樹脂などが挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂は平均分子量5000未満のものが好ましく、平均分子量3000以下であるとさらに好ましい。
【0016】
前記エポキシ樹脂を熱硬化する際には、通常、硬化剤を用いる。代表的な硬化剤としてフェノールノボラック型樹脂やフェノールアラルキル樹脂が挙げられる。
【0017】
前記熱硬化性ポリマーを分散する分散相としてはアクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂の主成分としては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、アクリロニトリルを主成分とした共重合体が好ましい。熱硬化後の相分離構造形成を促進するにはグリシジルメタクリレート1〜10質量%を共重合成分として含むものが好ましい。
【0018】
ポリマーブレンド中に分散させる無機フィラーとしては、シリカフィラー、水酸化アルミニウムフィラー、アルミナフィラー、カーボン粒子などが好ましい。これらの無機フィラーにおいては平均粒径5〜2000nmのものが好ましい。平均粒径800nm以下のものがさらに好ましい。また、無機フィラーの配合量はポリマーブレンド中60質量%以下であることが望ましい。
【0019】
無機フィラーが、少なくとも一つのポリマー成分に対して親和性の高い表面修飾されたものであることが好ましく、一般的に、表面処理剤にて、表面修飾される。無機フィラーの表面処理剤としては、任意のポリマー成分の高分子骨格と同一の官能基を有するシランカップリング剤、または、一方のポリマー成分に対して高い親和性を示すシランカップリング剤が良い。
【0020】
例えば、エポキシ樹脂とアクリル樹脂相からなる成分中でアクリル樹脂相に無機フィラーを偏在させるには、アクリル基またはメタクリル基、もしくはメチル基を有する表面処理剤が良い。また、エポキシ樹脂相に無機フィラーを偏在させるには、エポキシ基または水酸基を有する表面処理剤を用いることが良い。シリカフィラーや水酸化アルミニウムは、表面処理を加えなくとも水酸基を有しているため、600℃〜1000℃の高温で2時間以上加熱することで、疎水処理することが可能である。これによりエポキシ樹脂との親和性を下げ、もう一方の樹脂相に偏在させることも可能である。
無機フィラーの表面処理の方法としては気相処理または溶剤を用いた液相処理が挙げられ、気相処理された無機フィラーが好ましい。
【0021】
これらの無機フィラーを含むポリマーブレンドにおいて、無機フィラー表面の官能基と特定の樹脂相との親和性を利用して無機フィラーを特定の相に偏在させることを目的として特定温度で加熱処理を行なう。これによりポリマーブレンド中の無機フィラー表面官能基が、それと親和性の高い樹脂に置換される。この時の熱処理温度は、通常、DSC曲線に見られる熱硬化性ポリマーが熱硬化する際の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの間であり、この温度にて10分から360分間加熱処理する。さらに好ましくは、発熱ピーク面積が5%以下となる温度から20℃程度低い温度までの間の温度にて30分から360分間の加熱処理が良い。室温(25℃)から段階的に加熱硬化を行なう場合は前述した温度条件を加えても良い。
【0022】
前記した温度にて、加熱処理を行なった後に、ポリマーブレンドに含まれる熱硬化性ポリマー成分を、より高温にて発熱ピーク面積の60%以上加熱硬化させることが好ましい。この時、例えば、ATR(全反射)−FT−IR法にて熱硬化成分の硬化率が進行したことを確認する。DSC曲線の解析によっても未硬化の試料と硬化させた試料を同一条件にて測定することで、その硬化によるピークの解析から硬化率の解析を行なうことが出来る。
【0023】
ポリマーブレンドに含まれる材料(無機フィラー、ポリマー成分)を均一に混合する際に使用される溶剤としては、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。前記溶剤を乾燥させ、ポリマーブレンドからなるフィルム状の成形物を作製する際には、例えば、ポリマーブレンドを、ポリエチレンテレフタレート上に5〜50μm厚み程度に塗工した後に加熱乾燥を行なう。フィルム上のポリマーブレンド内の溶剤を乾燥させるため、80〜150℃、10〜40分間の加熱乾燥が好ましい。なお、乾燥温度は、ポリマーブレンドの示差走査熱量(DSC)測定時における、熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度より、低いことが望ましい。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
フェノール変性ノボラック型エポキシ樹脂(水酸基当量198−218g/eq.、Nv25%、EPICLON N−865、大日本インキ化学工業株式会社製)29質量部、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック型樹脂(エポキシ当量106g/eq.、Nv25%、HP−850N、日立化成工業株式会社製)14質量部、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(2PZ−CN:四国化成工業株式会社製)0.5重量部からなるエポキシ樹脂硬化系材料を配合し、攪拌した後にエポキシ基を修飾したシリカフィラー(SC2050−HLG、表面処理剤:グリシドキシプロピルトリアルコキシシランを使用、平均粒径620nm、株式会社アドマテックス製)93質量部を加えた。得られた混合物にグリシジルメタクリレート2〜6質量%を含むアクリルゴム(重量平均分子量:85万、Tg:−7℃、HTR−860−P3、ナガセケムテックス株式会社製)56質量部を加えて攪拌し、ポリマーブレンドを作製した。
前記ポリマーブレンドを、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、80℃で40分間加熱乾燥して、20μm厚みのフィルム試料を作製した。
得られたフィルム試料をDSC(示差走査型熱量計、DSC7、株式会社PERKIN−ELMER製)で測定し、エポキシ樹脂硬化時の発熱ピーク面積の解析から、エポキシ樹脂硬化開始温度(発熱ピーク面積が5%以下となる温度)を、130℃付近と見積もった。
フィルム試料をシリコンウエハに貼り付けた後にホットプレート上で、前記のエポキシ樹脂硬化開始温度より20℃低い、110℃で、1時間加熱し(図1参照)、その後クリーンオーブンにて200℃で2時間加熱硬化させ、フィルム状の樹脂硬化物を作製した。クライオウルトラミクロトームを用いて断面試料を作製し、原子間力顕微鏡(SPI4000:SIIナノテクノロジー株式会社製、タッピングモード、探針:Si−DF−20 株式会社エポリードサービス製)を用いて断面を解析すると、相分離により形成したエポキシ樹脂相の内部に90質量%以上のシリカフィラーが取り込まれている(偏在している)ことがわかった(図2(a)参照)。
【0025】
(実施例2)
フェノール変性ノボラック型エポキシ樹脂(水酸基当量198〜218g/eq.、Nv25%、EPICLON N−865、大日本インキ化学工業株式会社製)29質量部、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック型樹脂(エポキシ当量106g/eq.、Nv25%、HP−850N、日立化成工業株式会社製)14質量部、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(2PZ−CN:四国化成工業株式会社製)0.5重量部からなるエポキシ樹脂硬化系材料を配合し、攪拌した後にアクリル基を修飾したシリカフィラー(SE2050−SYJ、表面処理剤:アクリル酸プロピルトリアルコキシシランを使用)93質量部加えた。得られた混合物にグリシジルメタクリレート2〜6質量%を含むアクリルゴム(重量平均分子量:85万、Tg:−7℃、HTR−860−P3、ナガセケムテックス株式会社製)56質量部を加えて攪拌し、ポリマーブレンドを作製した。
前記ポリマーブレンドを、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、80℃で40分間加熱乾燥して20μm厚みのフィルム試料を作製した。
得られたフィルム試料のDSC曲線を測定し、エポキシ樹脂硬化時の発熱ピーク面積の解析から、エポキシ樹脂硬化開始温度(発熱ピーク面積が5%以下となる温度)を130℃付近と見積もった。
フィルム試料をシリコンウエハに貼り付けた後にホットプレート上で、前記のエポキシ樹脂硬化開始温度より20℃低い、110℃で、1時間加熱した後にクリーンオーブンにて200℃で2時間加熱硬化させ、フィルム状の樹脂硬化物を作製した。クライオ・ウルトラミクロトームを用いて断面試料を作製し、実施例1と同様に原子間力顕微鏡により断面を解析すると、アクリル樹脂相側に約80質量%のシリカフィラーが取り込まれている(偏在している)ことがわかった(図2(b)参照)。
【0026】
(比較例1)
フェノール変性ノボラック型エポキシ樹脂(水酸基当量198〜218g/eq.、Nv25%、EPICLON N−865、大日本インキ化学工業株式会社製)29質量部、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック型樹脂(エポキシ当量106g/eq.、Nv25%、HP−850N、日立化成工業株式会社製)14質量部、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(2PZ−CN:四国化成工業株式会社製)0.5重量部からなるエポキシ樹脂硬化系材料を配合し、攪拌した後にシリカフィラー(SE2050−SYJ、表面処理剤:アクリル酸プロピルトリアルコキシシランを使用、平均粒径620nm、株式会社アドマテックス製)93質量部加えた。得られた混合物にグリシジルメタクリレート2〜6質量%を含むアクリルゴム(重量平均分子量:85万、Tg:−7℃、HTR−860−P3、ナガセケムテックス株式会社製)56質量部を加えて攪拌し、ポリマーブレンドを作製した。
前記ポリマーブレンドを、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、80℃で40分間加熱乾燥して、20μm厚みのフィルム試料を作製した。
得られたフィルム試料のDSC曲線を測定し、エポキシ樹脂硬化時の発熱ピーク面積の解析から、エポキシ樹脂硬化開始温度(発熱ピーク面積が5%以下となる温度)を130℃付近と見積もった。
フィルム試料をシリコンウエハに貼り付けた後にホットプレート上で、前記のエポキシ樹脂硬化開始温度より20℃高い、150℃で、1時間加熱し、その後クリーンオーブンにて200℃で2時間加熱硬化させ、フィルム状の樹脂硬化物を作製した。クライオ・ウルトラミクロトームを用いて断面試料を作製し、実施例1同様に原子間力顕微鏡を用いて断面を解析すると、50質量%以上のシリカフィラーが、エポキシ樹脂相とアクリル樹脂相の界面にとどまっていることがわかった(図2(c)参照)。
【符号の説明】
【0027】
1:シリカフィラー
2:エポキシ樹脂の相(エポキシ樹脂相)
3:アクリル樹脂の相(アクリル樹脂相)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二成分以上のポリマー成分と、無機フィラーとを含むポリマーブレンド中の無機フィラーを、特定のポリマー成分に偏在させる方法であって、前記ポリマー成分のうち少なくとも一つが熱硬化性ポリマーであり、前記ポリマーブレンドが加熱硬化を経てミクロ相分離構造を形成するものであり、前記ポリマーブレンドの示差走査熱量(DSC)測定時における、熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの温度範囲で、10分から360分間加熱処理を行い無機フィラーの流動を促進することにより、無機フィラーを偏在させる方法。
【請求項2】
無機フィラーが、表面処理剤にて、少なくとも一つのポリマー成分に対して親和性の高い表面修飾されたものである、請求項1に記載の無機フィラーを偏在させる方法。
【請求項3】
熱硬化性ポリマーが、エポキシ樹脂であり、ポリマー成分のうち少なくとも一つがアクリル樹脂である、請求項1または2に記載の無機フィラーを偏在させる方法。
【請求項4】
熱硬化時の発熱ピーク面積が5%以下となる温度から40℃低い温度までの温度範囲で、10分から360分間加熱処理を行い、ポリマーブレンド中の無機フィラーを流動させ、さらに、ポリマーブレンドを加熱硬化し、ミクロ相分離構造を形成する、請求項3に記載の無機フィラーを偏在させる方法であって、ミクロ相分離構造において、アクリル樹脂が海相、エポキシ樹脂が島相であり、70質量%以上の無機フィラーが、アクリル樹脂側又はエポキシ樹脂側に取り込まれている、無機フィラーを偏在させる方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77233(P2012−77233A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225571(P2010−225571)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】