説明

無機リン酸塩耐食コーティング

本開示は、金属の腐食を抑制するリン酸塩コーティング、特に酸性リン酸塩およびアルカリ金属酸化物/水酸化物成分を含むコーティングに関する。詳細な一実施の形態において、鋼鉄および他の金属の腐食を低減または排除するリン酸塩ベースコーティング調合物が開示される。他の実施形態において、金属表面の腐食を低減または排除するために鋼鉄表面を酸性リン酸塩およびアルカリ金属酸化物/水酸化物成分によってコーティングする方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属の腐食を抑制する酸性リン酸塩およびアルカリ金属酸化物/水酸化物成分を含むコーティング、ならびに特に金属へのコーティングの製造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造用鋼および他の金属の腐食は、建設およびユーティリティ業界において深刻な問題である。湿潤および食塩水環境にとりわけ高温で曝露されたときに、鋼鉄は劣化する。この腐食の程度を最小化または低減するために、鋼鉄の合金、たとえば亜鉛めっき(亜鉛コーティング)組成物、またはクロムめっき組成物が使用される。この手法は短期的には問題を解決することができるが、鋼鉄が上記の環境に長期間にわたって曝露されるときには、上記問題は依然として残る。本発明は、鋼鉄または他の金属の腐食を最小化または低減して、鋼鉄の合金、たとえば亜鉛めっき(亜鉛コーティング)組成物またはクロムめっき組成物の使用を不要とする、比類なく適合するリン酸塩ベースの複合コーティングを開示する。
【0003】
鋼鉄表面を不動態化するためのリン酸化は概して、鉄鋼業界で公知である。通例、十分に研磨した鋼鉄を、緩衝剤としての2−3g/Lリン酸、2−3g/L水素リン酸二水素アンモニウムまたは亜鉛、および少量の(<0.5g/L)酸化剤を含有するpH4−4.5のリン酸塩浴に浸漬して、リン酸鉄塩不動態化層を形成する。しかし前記工程において、きわめて酸性の環境で水素ガスが元素鉄と水との反応によって遊離される。これにより多孔性であり、耐摩耗性ではない非常に薄い不動態化層が形成され、結果としてさらなるコーティングは、受動態化鋼の表面を大気中の酸素に接触できないようにすることが要求される。本工程はしたがって、少なくとも以下の欠点を有する。(i)酸浸漬浴/槽が、反応生成物を蓄積することによって形成されるようなスラッジを形成して、スラッジが浴の有効性を低下させて、スラッジおよび酸性溶液の環境廃棄問題を生じさせる、(ii)不動態化工程で使用される酸化剤が毒性ガスを形成する。たとえば塩素酸塩が塩素を形成し、メタニトロベンゼンスルホン酸が亜酸化窒素を形成し、過マンガン酸カリウムが労働衛生上のリスクを呈する、(iii)生じた不動態化層は耐摩耗性ではなく、したがって、さらなるコーティングによって耐摩耗性を補強しなければならない。
【発明の概要】
【0004】
第1の実施形態において、腐食性金属表面の腐食を防止または低減する方法が提供される。前記方法は、腐食性金属表面を酸性リン酸塩成分および金属酸化物、塩基性金属水酸化物、または塩基性無機物の少なくとも1つを含む塩基性成分の混合物と接触させることを含む。本明細書で開示する組成物および方法を使用すると、耐食性に加えて、耐摩耗性の改善も得られる。
【0005】
第1の実施形態の第1の態様において、酸性リン酸塩成分は、リン酸、アルカリ金属リン酸二水素塩MHPO、アルカリ土類リン酸二水素塩M(HPOもしくはこれの水和物、遷移金属リン酸3水素塩MH(POもしくはこれの水和物、またはこれの混合物である。
【0006】
第2の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、酸性リン酸塩成分はリン酸モノカリウムまたはこれの水和物である。
【0007】
第3の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、塩基性成分は、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化銅、酸化鉄およびこれらの水酸化物、または水酸化マグネシウムを有効量で含有するマグネシウム塩水(brine)の少なくとも1つである。
【0008】
第4の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、塩基性成分は、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムの少なくとも1つである。
【0009】
第5の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、酸性リン酸塩成分はリン酸モノカリウムまたはこれの水和物であり、塩基性成分は約9から約11のpHを有するマグネシウム塩水であり、マグネシウム塩水は水酸化マグネシウムの有効量を含有する。
【0010】
第6の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、酸性リン酸塩成分および塩基性成分の混合物は、リン酸マグネシウムカリウム、リン酸マグネシウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素銅、リン酸水素亜鉛、リン酸水素バリウム、またはリン酸水素鉄の少なくとも1つを形成する。
【0011】
第7の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、表面は鋼鉄またはアルミニウムである。
【0012】
第8の態様は、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、接触された腐食性表面上にマグネシウム−ガラス−リン酸塩光沢コーティングを形成することをさらに含む。
【0013】
第9の態様において、単独でまたは第1の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、接触は、独立して酸性リン酸塩成分のスラリ、ペースト、スプレー、もしくはこれの蒸気、または塩基性金属酸化物もしくは塩基性金属水酸化物成分の少なくとも1つとの接触である。
【0014】
第2の実施形態において、腐食抑制コーティング組成物が提供される。コーティング組成物は、1つ又は複数の酸化鉄とリン酸二水素マグネシウムとの組合せのスラリを含む。
【0015】
第2の実施形態の第1の態様において、酸化鉄は、マグネタイト(Fe)またはウスタイトFeO、およびヘマタイト(Fe)の混合物である。別の態様において、使用したヘマタイトの総量は、マグネタイトまたはウスタイトの量よりも多い。
【0016】
第3の実施形態において、方法が提供され、この方法は、本質的にプライマ層を有さない腐食性表面を、マグネタイトまたはウスタイト、およびヘマタイトと、リン酸またはリン酸二水素マグネシウムの溶液との混合物より本質的に成るコーティングと接触させること、ならびにリン酸水素鉄を含む腐食抑制コーティングを提供することを含む。
【0017】
第4の実施形態において、腐食抑制を提供する方法が提供される。この方法は、以下の少なくとも1つの組合せ:(i)酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸モノカリウム(KHPO)、(ii)酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸溶液(HPO溶液)、(iii)酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸二水素マグネシウム、(iv)酸化第二鉄(Fe)およびリン酸(HPO)、(v)水酸化マグネシウムの有効量を含有するマグネシウム塩水およびリン酸モノカリウム(KHPO)、(vi)水酸化マグネシウムの有効量を含有するマグネシウム塩水およびリン酸(HPO)、または(vii)水酸化マグネシウムの有効量を含有するマグネシウム塩水およびリン酸二水素マグネシウムを提供すること、ならびに腐食性金属の表面を組合せ(i)−(vii)の少なくとも1つと接触させることを含む。
【0018】
第4の実施形態の第1の態様において、組合せはスラリ、ペースト、スプレー、または蒸気として与えられる。
【0019】
第5の実施形態において、酸性リン酸塩と塩基性金属酸化物または塩基性金属水酸化物との組合せによって形成された腐食抑制コーティングを含む物品が提供される。
【0020】
第5の実施形態の第1の態様において、コーティングは、リン酸マグネシウムカリウム、リン酸マグネシウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素バリウム、リン酸水素銅、リン酸水素亜鉛、またはリン酸水素鉄の少なくとも1つである。
【0021】
第2の態様において、単独でまたは第5の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、ポリリン酸塩は、物品表面と腐食抑制コーティングとの境界面に存在する。
【0022】
第3の態様において、単独でまたは第5の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、クロム酸マグネシウムは、物品表面と腐食抑制コーティングとの境界面に存在する。
【0023】
第6の実施形態において、X線回折によって検出可能なベルリナイト相(AlPO)を含むコーティングを有する鋼鉄または鉄ベースの物品が提供される。
【0024】
第7の実施形態において、方法が提供され、この方法は、金属を被覆する先に腐食された表面を、酸性リン酸塩および塩基性金属酸化物または塩基性金属水酸化物の混合物を含む組成物と接触させることを備え、過剰の組成物および先に腐食された表面の一部は、ただちに除去可能とされる、および/または表面から排除される。
【0025】
第7の実施形態の第1の態様は、薄い防食層を表面に形成することをさらに含む。
【0026】
第2の態様において、単独でまたは第7の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、混合物は、リン酸マグネシウムカリウム、リン酸マグネシウムナトリウム、リン酸水素マグネシウムまたはリン酸水素鉄の少なくとも1つを金属表面に提供する。
【0027】
第2の態様において、単独でまたは第7の実施形態の先の態様のいずれか1つと組み合わされて、防食層は、防食層に形成された欠陥から防食層を自己再生することができる。
【0028】
第1の、第2の、第3の、第4の、第5の、第6のまたは第7の実施形態のいずれかにおいて、単独でまたはこれの各態様のいずれかと組み合わされて、改良された耐摩耗性の、または改善された耐食性および耐摩耗性を兼ね備えた方法および物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】不動態化領域および腐食領域を示し、従来のリン酸塩コーティングと本明細書に開示および記載する方法を比較する、鋼鉄の酸化還元電位対pHの図の表示である。
【図2】本明細書に開示および記載するコーティング組成物の防食層を示すX線回折パターン図である。
【図3】本明細書に開示および記載するコーティング組成物を示すX線回折パターン図である。
【図4】本明細書に開示および記載するコーティング組成物を示すX線回折パターン図である。
【図5】本明細書に開示および記載するコーティング組成物を示すSEM画像である。
【図6】本明細書に開示および記載するコーティング組成物を示すSEM画像である。
【図7】本明細書に開示および記載するコーティング組成物を示すSEM画像である。
【図8】本明細書に開示および記載するコーティング組成物を示すSEM画像である。
【図9】本明細書に開示および記載する自己再生コーティングを示す図である。
【図10】本明細書に開示および記載するコーティングのラマンスペクトログラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書に開示および記載する比類なく適合する調合物および方法は、酸塩基無機リン酸塩組成物に基づいている。本明細書で提供するコーティングの例は、リン酸マグネシウムカリウムコーティング、およびリン酸水素鉄コーティングである。このような組成物は、コーティングとして鋼鉄および他の金属に腐食抑制剤として使用される。金属表面にコーティングとして利用されるとき、これらの組成物のいずれかによって形成されたペーストは金属と反応し、金属と結合して、金属表面に薄層/コーティングを形成する。結合した層は硬質で、金属表面の腐食を抑制する。一連のリン酸塩ベース調合物を使用して、金属表面をコーティングして、金属表面の腐食を防止または最小化することができる。
【0031】
本明細書に開示および記載する工程および製造される物品は、鋼鉄および他の腐食性金属の従来の不動態化工程に関連する問題の、全部ではないにしても、多くを克服する。本工程は、1ステップで層を不動態化するだけでなく、優れた外観と共に耐摩耗性も提供する酸塩基無機リン酸塩ベースコーティングによって鋼鉄および他の金属表面をコーティングする、より経済的で環境に優しい方法も提供する。
【0032】
pHおよび酸化還元電位Ehの関数として鉄の各種の相の安定性領域を示す図である、図1をここで参照する。黒の太い曲線が鋼鉄の不感域、腐食域および不動態域を隔て、下部領域は鉄が金属形のままである不感域を表し、本領域の左側がFe2+(aq)イオンに解離している腐食域であり、不動態域を示す右側では鉄が3水酸化鉄Fe(OH)となる。
【0033】
リン酸(または酸性リン酸塩)および酸化剤の浴中で鋼鉄成分を浸漬コーティングする従来の工程に従ってリン酸塩処理を行うとき、鋼鉄表面は非常に低いpHからやや高いpHに移動して、同時に、酸化剤が存在するために、より高いEh点に移動もする(ライン1を参照)。前記工程において、鋼鉄表面は腐食域から不動態域を通過して、表面は腐食性層から不動態化層に変換される。本不動態化層は本質的に、リン酸鉄(FePO)、マグネタイトおよび水酸化物鉄(Fe(OH))の不動態化層である。表面は概して多孔性および平滑であり、したがって周囲の腐食から不動態化表面を完全に保護するために孔を埋めるコーティングを必要とする。これは過マンガン酸カリウムなどの酸化剤が使用される工程にも相当する。従来のポリマーコーティングは、鋼鉄表面を酸化してFe(OH)にすることによる、鋼鉄表面の腐食域から不動態域への移動により特徴付けられる。しかし、本工程から形成された不動態化層は鋼鉄の腐食域にかなり近く、そのため少なくとも一部は、本方法の劣っている特徴のいくつかを説明する。
【0034】
対照的に、本明細書に開示および記載する工程は、酸性リン酸塩および金属酸化物もしくは金属水酸化物、または酸化物無機物の酸塩基反応によって形成された無機リン酸塩コーティングに基づいている。本工程は本質的に酸塩基反応に基づくため、最終反応生成物は中性付近であり、これから調製したコーティングのpHは、さらに図1に示す不動態域に位置する8と9の間であると考えられる。ある態様において、コーティング中に反応していない過剰のアルカリ性前駆体(たとえば水酸化マグネシウム)分布が存在し、これは7を超えるコーティングのpHを上昇させて、さらにコーティングを図1に示すような不動態域に位置付けるのに有益であると考えられる。
【0035】
本コーティング調合物のpHが十分に高いために、鋼鉄表面は不動態域の(pH=6をかなり上回る)pH範囲に残存すると思われる。このため本コーティングは、少なくとも一部は、鋼鉄を腐食から保護する緩衝剤として機能することができる過剰なMg(OH)が存在するために、酸性溶液の浸入から保護することができる。水酸化亜鉛が5未満のpHでは不安定なために、本コーティングは、水酸化亜鉛を含有する現在市販されているコーティングよりも緩衝能力が優れている。このため酸化亜鉛コーティングは、酸性環境における腐食域の鋼鉄基材に取って代わることができる。加えて、低pH環境または還元環境のどちらかにおける、亜鉛(EoZn+2=−0.7V)に対するマグネシウム(EoMg+2=−2.37V)のより低い電極電位に基づいて、マグネシウムベースのコーティングは本明細書で開示するように、亜鉛ベースのコーティングよりも良好な保護を提供する。本コーティングを使用する還元環境での鋼鉄の保護は、高温を必要とする用途、たとえば廃棄物のエネルギー転換焼却炉、タービンに、いずれかの炭化水素燃焼環境で、およびいくつかの化学工程で有益である。
【0036】
本明細書で開示する本コーティングは、一部が、ポリリン酸塩、および特に、本コーティング中の基材表面の界面領域にて亜リン酸塩によって形成されたポリリン酸塩の形成を含むことができる。ポリリン酸塩は耐摩耗性ならびに水および湿気に対する不浸透性を提供することができ、このため耐摩耗性を改善するのはもちろんのこと、基材表面の耐食性も改善する。
【0037】
一態様において、酸リン酸塩組成物は、一方が約3と約4.5の間のpHを有する酸性成分であり、他方は約10と約11の間のpHを有するアルカリ性成分である。この2つの成分が基材表面と接触して、ここでこれらがコーティングを形成する。たとえば充填剤、たとえば珪灰石(CaSiO)またはフライアッシュを含む、または含まないリン酸モノカリウム(KHPO)および水酸化マグネシウム(Mg(OH)、またはこれの塩水)組成物を組み合せて、腐食性金属表面(たとえば鋼鉄)に接触させることができる。組成物が表面に接触すると、コーティングが形成されて瞬時に基材に結合する。いずれの特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、酸性リン酸塩およびアルカリ性酸化物もしくは水酸化物、または酸化無機成分による接触により初期不動態化層(サブ、プライマ、または下部層)ならびに防食層が提供されると考えられる。
【0038】
図1のライン2は、少なくとも一部は、本明細書に開示および記載する工程の代表的な結果を示す。本工程の第1のステップにおいて、酸および塩基の混合物が基材に吹付けられ、酸溶液が基材のpHを低下させる。本時点で、商業的な浸漬コーティングの化学反応のすべてではないにしても大半が、本工程においても第1のステップとして起こる。しかし次の酸塩基反応では、反応生成物、たとえばマグネタイト、または水酸化鉄がリン酸塩と反応して、リン酸鉄を形成する。本工程の酸塩基化学作用は、pHをおよそ8まで上昇させ、次に鋼鉄基材のpHに腐食域を超えて不動態域まで到達させる。加えて本工程は、このため腐食および摩耗の両方に耐性であるリン酸塩ベース耐摩耗性コーティングも形成する。したがって本方法によって、酸溶液の浴、廃棄されるスラッジ、浸漬および乾燥のための厳格な時間枠、ならびに鋼鉄の後コーティングの必要がなくなる。
【0039】
(第1の成分−酸性リン酸塩前駆体材料)
(酸性リン酸塩成分)
酸性リン酸塩成分は式A(HPO・nHOのリン酸および/または酸リン酸塩から成り、式中、Aはm価の元素、たとえばナトリウム(Na、m=1)、カリウム(K、m=1)、マグネシウム(Mg、m=2)、カルシウム(Ca、m=2)、アルミニウム(Al、m=3)などである。より高い価の酸化物が使用されるときには、Aは還元された酸化物相であることもできる。たとえば+2および+3の原子価状態(酸化物としてのFeOおよびFe)で存在する鉄の場合、Aはより低い酸化状態の金属であることができる。Aは、ZrOなどの4価酸化金属の酸化物のカチオンであることもでき、この場合、m=2である。上の式中のnHOは単に結合水であり、nはいずれの数でもよく、通常は0から25の範囲にある。
【0040】
式AH(PO.nHOによって表される、3価金属、たとえばアルミニウム、鉄およびマンガンのヒドロリン酸塩を使用することが可能であり、式中、Aは、アルミニウム、鉄、マンガン、イットリウム、スカンジウムおよびすべてのランタニド、たとえばランタン、セリウムなどを含む遷移金属である。
【0041】
酸性前駆体のpHが本反応で必要以上に高い場合、pHを低下させるために、リン酸を添加することができ、pHを調整することができる。選択された好ましいpHは3と4の間であり、最も好ましいpHは3と3.5の間であり、アルカリ性酸化物、水酸化物、もしくは無機物を使用して部分的に中和することによって、または少量であるが、適切な量のリン酸もしくは低pH酸性リン酸塩、たとえばMg(HPOもしくはリン酸三水素アルミニウムAlH(POを添加することによりpH>3.5を有するリン酸二水素、たとえばリン酸モノカリウム(KHPO)を酸性化することによって、リン酸のpHまたは酸リン酸塩、たとえばリン酸二水素マグネシウム(Mg(HPO)またはリン酸三水素アルミニウム(AlH(PO)のpHのどちらかを上昇させる。本文書で後述する実施例は、本pHを調整する技法を提供する。
【0042】
前駆体で使用される酸リン酸塩は、部分的にのみ可溶性であることが多い。このような場合、平均粒径が230メッシュふるい(70ミクロン未満)を通過するように、前駆体を湿式粉砕する。
【0043】
オキシ塩化物およびオキシ硫酸塩組成物では、酸性成分は、pHを低下させるために塩酸または硫酸のどちらかにより適切に酸化されたオキシ塩化マグネシウム、およびオキシ硫酸マグネシウムから成る。
【0044】
前駆体成分にこれの粘度を低下させるために水を添加することができるか、または他の種類の粘度低下剤を使用することができる。本前駆体の貯蔵中に藻類の増殖が起こらないようにするために、藻類の増殖を防止する市販の添加剤を本前駆体に添加することもできる。
【0045】
(第2の成分−塩基性成分)
(塩基性酸化物、水酸化物および塩基性無機物)
塩基性前駆体は概して、難溶性酸化物、または好ましくは粒径が230ミクロン未満の水酸化物から成る。前記酸化物は、式B2mまたはB(OH)2mによって表すことができ、式中、Bは2m価金属である。すべての2価金属酸化物(m=1)、および還元状態のいくつかの3価金属酸化物は、この種の難溶性酸化物に含まれる。2価酸化物の例は、これに限定されるわけではないが、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウムおよび酸化銅を含む。還元状態の3価酸化物の例は、酸化鉄(FeO)および酸化マンガン(MnO)である。
【0046】
(無機リン酸塩コーティング組成物)
一連のリン酸塩組成物は、本明細書に開示および記載するコーティングの精神および範囲に相応する腐食抑制剤コーティングとして使用することができ、以下の4つの例示的で非制限的な例が提供される。
1.水の存在下で化合して、MgKPO4.6H2Oを含むリン酸マグネシウムカリウムセメントを形成する、酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸モノカリウム(KH2PO4)の化合および/または反応によって形成されたリン酸マグネシウムカリウムコーティング。リン酸マグネシウムカリウムは以下、「MKP」とも呼ばれる。
2.十分に混合して乾燥させたときに化合してMgHPO4.3H2Oを備えたリン酸水素マグネシウムコーティングを形成する、酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸溶液(H3PO4溶液)の化合および/または反応によって形成されたリン酸水素マグネシウム(ニューベリーアイト)コーティング。
3.リン酸二水素マグネシウム組成物の化合および/または反応によって形成されたリン酸水素マグネシウム(ニューベリーアイト)コーティングは通常、約2.5と約5.0の間の水性pHを有する。約3のまたは3よりやや高いpHを有するMHP溶液は概して、耐食生成物の形成により有効であると考えられ、少なくともこの理由で好ましい傾向がある。リン酸水素マグネシウムは以下、「MHP」とも呼ばれる。
4.十分に混合して乾燥させたときに化合してFeHPOを備えたリン酸水素鉄コーティングを形成する、ウスタイト(FeO)またはマグネタイト(Fe3O4)およびリン酸(H3PO4)の化合および/または反応によって形成されたリン酸水素鉄コーティング。リン酸水素鉄は以下、「リン酸モノ鉄」、または「MIP」とも呼ばれる。
【0047】
リン酸マグネシウムカリウム組成物、リン酸水素マグネシウム組成物およびリン酸水素鉄組成物は、周囲条件下でペースト様軟度を呈する。これらの組成物を表面、たとえば鋼鉄にコーティングとして塗布するとき、反応が起こって、上の組成物の薄層が金属表面に結合すると考えられる。コーティングの残りの部分は緩やかに結合され、容易にこすり落とすことができるが、薄層コーティングは非常に硬質であり、摩耗に耐性であり、表面の腐食を抑制する。このため本薄層はプライマのように作用して、金属表面を腐食から保護する。これらの組成物を鋼鉄以外の他の金属、たとえばアルミニウムの表面に塗布したときに、同様の結果が観察される。
【0048】
本開示のマグネシウム含有コーティングの詳細なX線回折による調査(たとえば図2を参照)は、金属表面からのクロムおよび本マグネシウム含有コーティングからの酸化マグネシウム/水酸化物の反応の結果として形成されたと考えられる、クロム酸マグネシウムの薄層を含むと思われる。反応は、
MgO+CrO→MgCrO
によって表すことができる。
【0049】
酸性リン酸塩/アルカリ性酸化物の過剰な被覆層はアルカリ性酸化物含有量が多少不十分であるため、本界面では硬化せずに、容易に除去することができ、表面上に十分に結合している薄いプライマを残す。
【0050】
酸性リン酸塩/アルカリ性酸化物、材料を希釈することによって本プライマを独立して形成して、次に希釈されたコーティングを表面に塗布することも可能である。鋼鉄処置の場合、薄層はたいてい透明であり、処置された鋼鉄のつやのある表面および質感を保持している。
MKP、MHPまたはMIPのコーティング
【0051】
別の態様において、鋼鉄の錆びた(腐食された)表面を酸性リン酸塩およびアルカリ金属酸化物/水酸化物を含む組成物と接触させる方法が本明細書に開示および記載され、ここで過剰の組成物および錆の一部がただちに除去可能とされ、および/または表面から排除され、薄い硬質防食層が鋼鉄表面に提供される。このため本明細書に開示および記載する本コーティングによって、本質的に同時に、錆びた鋼鉄の表面を「掃除」して防食層を塗布することが可能となる。
【0052】
上で議論したように、本工程を使用する鋼鉄のコーティングの間に、プライマが鋼鉄表面からのクロムおよびコーティングからの酸化物の反応によって形成されることが考えられる。したがって一態様において、酸化物が豊富なコーティングが提供され、これにより酸化物の一部がプライマの形成に使用され、残りが酸塩基リン酸塩コーティング、保護(耐食/耐摩耗性)コーティングを形成する反応に使用される。このため「プライマおよび塗料」の塗布を1ステップ(または1回のコート)のみで達成することができ、ここでプライマおよび/または塗料は腐食性表面に耐食性を提供する。
【0053】
別の態様において、本耐食コーティングは、美的特性、たとえば適正なつやおよび質感を鋼鉄に提供するように調合することができる。本効果は、たとえば破砕ガラスまたはこの他の高い溶解度ガラスを本酸性リン酸塩/アルカリ金属酸化物/水酸化物調合物に添加することによって達成することができる。本明細書で開示する工程によって調製された破砕ガラスを含む得られたコーティングは、非常に高密度のガラス状表面である。追加の好適なセラミック顔料をさらに添加して、着色塗料を形成することができる。上の本組成物と組合せた可溶性ガラスを固形物のコーティングの調合物にも使用して、耐食性を有する非常に高密度のガラス状固体コーティングを提供することができる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は、現在開示している実施形態を例証するものであり、制限的または限定的であるとして解釈されるべきではない。本明細書で使用する成分の量、反応条件などを表すすべての数字は、「約」という用語によってすべての例で修正されると理解することができる。したがって逆に指摘されていない限り、本明細書で説明する数値パラメータは、得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値であることができる。最低限でも、および本発明に対して優先権を請求する任意の出願における任意の請求項の範囲への均等論の適用を制限しようとする試みとしてではなく、各数値パラメータは有効桁の数および普通の丸め手法を考慮して解釈されるべきである。本明細書で開示する本組成物を調合、コーティングして、本組成物の属性を実証するために、下に示す複数の実験の実施例を実施した。
【0055】
[実施例1]
(MHPベース防食層)
本実施例において、MHP(Mg(HPO2HO)を最初に水で希釈し、ケイ酸カルシウムおよび酸化アルミニウムを充填剤として添加して希薄なペーストを形成した。MHPベース材料の希釈に使用する水の量は、開始材料に含有される水の量に応じて変化させることができる(大半のMHPベース材料は作製時に乾燥させることが困難であり、したがって通常、多少の水を含有する)。好ましくは、希釈水はMHPの約20重量%に相当する量で添加すべきである。希薄なペーストを形成するために充填剤として添加したケイ酸カルシウムおよび酸化アルミニウムの量も変化させることができる。本例において、ケイ酸カルシウム80グラムおよび酸化アルミニウム60グラムをMHP100グラムそれぞれについて添加した。本混合物にMgO 96グラムを、MHP 100グラムそれぞれについて添加した。ケイ酸カルシウムおよび酸化アルミニウムをそれぞれ10分間にわたって混合した。MgOを添加したときに、ペーストの温度を監視して、ペーストが約85°Fの温度に達するまで混合した。ペーストを次に十分に研磨した鋼板表面に塗布して、プレートを周囲にて数日間硬化させた。1週間後、コートの上部の(過剰な)乾燥層を容易に除去することができたが、薄層コーティングが鋼鉄表面上に存在して、表面にきわめて良好に付着していた。ペーストの一部は板の反対側まで流れて、プレートの縁に結合していた。板の未コーティング側は縁に沿った結合部分から離れた中心が腐食していたが、非腐食領域の輪郭が結合部分と中心の間に残存することが観察された。ペーストが反対側で分離して、希薄なペーストが反対側でコートの可視部分を超えて浸透したことが推測される。図2は、クロム酸マグネシウムの明確なピークが観察される、鋼鉄上の本層のX線回折パターンを示す。上で議論したように、鋼鉄からのクロムが酸環境で酸化マグネシウムと反応して、化学的に非常に安定なクロム酸マグネシウム生成物を提供し、これがコーティングによって与えられる防食に一部は寄与できることが考えられる。
【0056】
[実施例2]
(錆びた鋼鉄表面上の防食層)
本実施例において、ケイ酸カルシウムを含むペーストとして調製されたMKPベース調合物を鋼鉄の錆びた表面に塗布した。MKPペーストは、死焼酸化マグネシウム(約1,300℃超の温度にて焼成)1部、リン酸モノカリウム3部およびケイ酸カルシウム6部を混合することによって形成された。本粉末混合物に水2部を添加してペーストを提供した。混合を続けると、ペーストは最初に2、3度冷却され、リン酸モノカリウムの溶解を示した、しかし酸化マグネシウムが反応を開始すると、温度は上昇を始めた。ペーストの温度が約85°Fに上昇するまで混合を続け、この温度にてペーストを鋼鉄の錆びた表面に塗布した。硬化したときに、コートの上部の(過剰な)部分を容易に除去することができた。しかし本硬化層は、板から腐食(錆)層も除去した。驚くべきことに、ペーストの一部が錆に浸透して、下にある鋼鉄表面に結合していた。図3は、本防食層に含有される各種のリン酸塩相を示す。注目に値するのは、湿潤高温雰囲気中で保管されたときに鋼鉄表面が腐食しなかったことであり、酸塩基リン酸塩調合物が防食層を提供したことが示されている。
【0057】
[実施例3]
(酸化鉄ベース防食塗料)
本例において、MHP材料165グラムを水168グラムに、約1時間の混合および撹拌により溶解させた。得られた溶液に珪灰石(CaSiO)16.5グラムを200メッシュに通過させて添加した。得られたペーストを約35分間撹拌および混合して、この後にヘマタイト(Fe)200グラムを添加し、ペーストをさらに約15分間撹拌および混合した。次にマグネタイト(Fe)5グラムを添加して、ペーストをさらに約10分間撹拌および混合した。次に得られたペーストを、研磨した軟鋼板表面に塗装した。固化は非常に低速であった。硬化中に加熱は検出できなかったが、いったん固化すると、コーティングは鋼鉄表面に付着して、容易に除去できなかった。コーティングは鋼鉄に優れた耐食性を提供した。本表面上に、下の実施例4に記載するようにリン酸塩セメントの第2の層を場合により添加することができる。
【0058】
[実施例4]
(マグネシウムガラスリン酸塩複合調合物)
リン酸モノカリウム300グラム、砂軟度の破砕窓ガラス100グラム(平均粒径70マイクロメートル)および水200グラムを約90分間混合した。本混合物に死焼酸化マグネシウム100グラムを添加した。ペーストを約20分間混合すると、濃縮された。次に濃縮されたペーストを実施例3に記載したコーティング上にブラシで塗布して、残りのペーストをプラスチックトレーに流し入れた。どちらの試料も翌日までには固まった。コーティングは実施例3のプライマに良好に結合して、魅力的な、見た目に美しい、つやのある(または光沢のある)コーティングを形成した。トレーに流し入れたペーストも非常に硬質のセラミック様材料であった。本セラミック試料をさらに1週間硬化させて、X線回折による調査を行った。図4は、MgKPO.6HOならびに水和物シリコ−リン酸塩無機物の複数の相が形成されたことを明らかに示している、X線回折パターンの一部を示す。これらはHSi、HSiOならびに非水和相SiPおよびSiOを含む。本組成物は無類であり、1つ又は複数のの用途、たとえば電気絶縁体、光沢塗料および/または耐食塗料に使用することができる。
【0059】
[実施例5]
(防食層としてのMHPの使用)
本実施例では、リン酸二水素マグネシウム材料(MHP)の溶液を使用した。MgOを絶えず混合しながら徐々に水に添加すると、全体が湿った状態になった。MgOの化学量論的量の約20%を調合物から取り、組成物を希薄なペーストとして調製した。本ペーストを50℃にて乾燥させ、次に加熱した。結果として、化学量論的量未満のMgOおよび多少の熱処置を用いて、固化したMHP材料(Mg(HPO2HO「s−MHP」)が製造された。s−MHP材料を十分に研磨した軟鋼上に塗布して、コートした鋼板を湿潤条件下で日光に当てた。s−MHP材料層と接触した鋼鉄表面は腐食しないままであったが、未被覆表面はひどく腐食した。s−MHP材料は表面上で十分に固化したが、容易に排除できなかった。
【0060】
別の試験では、鋼板を[s−MHP??]材料と追加のMgO(化学量論的過剰)によって形成されたペーストでコートした。コーティングは硬質で高密度であった。本組成物によって作製した固体試料のX線回折分析により、コーティングがニューベリーアイト(MgHPO.3HO)および多少の未反応酸化マグネシウムを含有することが示された。ペーストの一部は縁に沿って板の底部まで浸透した。板を湿潤環境下で日光に当てた。板の底側は中心が腐食していたが、中心の腐食部分と浸透した層との間に、腐食部分が塗布領域から後退したかのように輪郭のギャップがあった。これはおそらく、湿潤材料が固化層を超えて浸透して、輪郭で示された部分を腐食から保護したと思われる。このためMgOを添加したs−MHP材料は、硬質の耐摩耗性および耐食コーティングを鋼鉄に提供した。
【0061】
[実施例6]
(鋼鉄上にベルリナイトコーティングを形成する方法)
熱力学原理に基づく理論分析によって、リン酸三水素アルミニウムは酸化アルミニウム(コランダム、Al)と反応すると、約150℃にてリン酸アルミニウム(AlPO)(ベルリナイト)を形成することが示されている。1,500℃まで安定であるベルリナイト無機相は高温コーティングを提供し、鋼鉄および他の鉄ベース構造成分に耐食性および耐摩耗性も提供する。このため実施例2に開示するようなリン酸三水素アルミニウム(AlH(PO・5HO)粘性ペースト100グラムをアルミニウム酸化物微粉末50グラムと混合し、完全に混合して高密度ペーストを形成した。好ましい態様において、ペーストのpHを3から4の間に調整して、コーティングの有効性を低下することができる酸化第二鉄のスケール層の形成を低減または防止することが可能である。本ペーストを175℃で予熱した軟鋼基材にブラシで塗布した。最初に一部の水分がペーストから蒸発したが、続いてのコーティングは鋼鉄に良好に結合した。集合体全体を175℃にて約3時間維持した。脱気および蒸発がすべて起こったら、第2のコートを塗布して、175℃にて約3時間硬化させた。鋼鉄表面上の形成された得られた高密度コーティングは硬質、高密度であり、鋼鉄にきわめて良好に結合した。形成されたコーティングのX線回折分析によって、コーティングが本質的にベルリナイトであることが示された。このため本明細書に開示および記載する方法は、ベルリナイト前駆体調合物を調製して、この後に高温保護を提供するまたは物品、たとえば鋼鉄および他の鉄ベース建築材料の高温での使用を改善するために有用なベルリナイトコーティングを形成する、比較的簡単な手段を提供する。
【0062】
[実施例7]
珪灰石および水を塩水と混合して、第1流を形成する。リン酸モノカリウムを水と混合して第2流を形成する。どちらも複式スプレーガンの2個のカートリッジに装荷して、混合流をサンドブラスト標準鋼板にスプレーした。本コーティングの測定密度は1.4g/cmであった。本試料の測定した耐摩耗性は500サイクル/ミルであり、市販の有機コーティングの耐摩耗性の4倍超であった。コーティングの測定結合強度は300psiであり、市販の有機コーティングの3倍超であった。
【0063】
[実施例8]
水酸化アルミニウムを50%希釈リン酸溶液に溶解させることによって、ヒドロリン酸アルミニウムを形成した。酸溶液の酸化アルミニウムの3倍過剰の酸化アルミニウムを次に本流に添加して、得られたペースト標準鋼鉄パネルにスプレーした。乾燥パネルを徐々に加熱して、水をすべて除去した。これを次に350°Fまで加熱した。乾燥コーティングは鋼鉄に結合したが、多くの亀裂があった。同じ第2のコートを第1のコート上にスプレーし、再度乾燥させて、次に再度加熱した。第2のコートは第1のコートに結合し、亀裂を生じず、得られたコートは高密度で平滑であった。測定した耐摩耗性:1000サイクル/ミルは、市販の有機コーティングの耐摩耗性の8倍超であった。
【0064】
[実施例9]
非常に高い温度に耐える材料の概念を証明するために、焼成酸化マグネシウムおよびリン酸モノカリウムを粉末として等モル比で混合して、次に水と混合した。得られたペーストは固化して硬質セラミックとなった。次にこれを3000°Fまで3時間加熱した。これは10体積%収縮したが、高密度で硬質のセラミックであった。本試料の測定密度は2.1g/cmであった。
【0065】
(コーティングのエネルギー分散型X線分析)
本試験において、複式スプレーガンの第1部のリン酸モノカリウムおよび水の混合物(重量比で2:1)、ならびにガンの第2部の61重量%の水酸化マグネシウムおよび39重量%の水によるマグネシア塩水をサンドブラスト鋼鉄パネルに1流としてスプレーした。2つの成分の混合物により形成されたペーストは、鋼鉄表面上でコーティングとして固化した。板を垂直に切断して、コーティング断面を露出させた。図5および6の写真は、基材から離れた層および基材付近の層をそれぞれ示す。これらの写真では、十字が分析箇所を示す。表1および2に、コーティング−表面界面から離れた位置および界面付近の位置の図5および6それぞれの分析、たとえばコーティングの検出された元素、重量%および原子%をまとめる。基材に接した本コーティングの組成は、鉄が豊富であることが観察され、これが鉄およびリンの化合物であることが示されている。本層ではカリウムおよびカルシウム含有率が低く、マグネシウムおよびケイ素層が高いことが観察され、ケイ酸マグネシウムの存在が示されている。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
図7および8、ならびに表3を参照すると、上と同じコート試料のSEM/EDXデータは、傾斜および研磨されて、他端で異なる厚さのコーティングおよび鋼鉄を露出している。画像は、コーティングが表面層の下の多数の層から構成されることを示している。比較のために、上層の分析を表3の最後の列に示す。上層でMg、KおよびPがほぼ等モル含有率であることは、これが主にMgKPO4.6HOより成ることを示している。しかしMgおよびKの分布は、各種の深さで同じではない。これらの層でMgの量がより多いことは、Mg(OH)の存在を示す。同様にCaおよびSiの含有率も変化し、CaSiOの分布が均一でないことを示す。右側の顕微鏡写真の棒状構造は珪灰石の存在を示している。
【0069】
【表3】

【0070】
(耐食コーティングの蒸着)
酸性リン酸塩または塩基性成分の一方または両方を、たとえば水溶液から蒸着することができる。本蒸着方法は、ナノメートルまたはマイクロメートルの厚さのコートを提供することができる。このため各成分は個別に加熱されて、蒸気を形成する。これらの蒸気は次に共通管に注入されるので、蒸気は混合されて、次に基材上に蒸着される。本コーティングは反応後に基材上に形成されるはずであり、プライムコートに類似している。
【0071】
蒸着方法の利点は、a)薄い不動態化層、b)最小限の材料の使用、c)コートの均質性、d)組み立てラインコーティング、e)工程の自動化である。
【0072】
(自己再生コーティング工程)
図9を参照すると、腐食抑制層の自己再生の概略図が鉄の表面(10)上に示されている。MgKPO.6HOからのリン酸イオンはリン酸鉄からのリン酸イオンと比べて溶解度が高く、リン酸鉄プライマコーティング(40)に発生した(ステップ100によって示すように)いずれの欠陥(20)も、リン酸イオンおよび鉄が欠陥に移動して(ステップ200によって示すように)、リン酸鉄プライマコーティング(40)を修正する(50)(ステップ300によって示すように)ので、MgKPO.6HOのトップコート(30)によって修復可能である。このため本MgKPO.6HOトップコートは、所定の時間の後に、基材上の薄いプライムコートの欠陥を本質的に修復する。
【0073】
(コーティングのラマンスペクトル)
図11を参照すると、トップコートのスペクトルである最も下のものを除いて、基材に近接したコーティングのスペクトルがすべて示されている。1000cm−1付近のピークは、MgKPO.6HOを表す。1618cm−1のピークは、Fe−P=O結合によって形成されたポリリン酸塩として同定される。これらのポリリン酸塩は、実際のコーティングと基材との間に化学結合を有することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食性金属表面の腐食を防止または低減する方法であって、酸性リン酸塩成分と、金属酸化物、塩基性金属水酸化物、または塩基性無機物の少なくとも1つを含む塩基性成分との混合物を前記腐食性金属表面に接触させるステップを含む方法。
【請求項2】
前記酸性リン酸塩成分が、リン酸、アルカリ金属リン酸二水素塩MHPO、アルカリ土類リン酸二水素塩M(HPOもしくはこれの水和物、遷移金属リン酸3水素塩MH(POもしくはこれの水和物、またはこれの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸性リン酸塩成分がリン酸モノカリウムまたはこれの水和物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基性成分が、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化銅、酸化鉄およびこれらの水酸化物、または水酸化マグネシウムを有効量で含有するマグネシウム塩水のうちの少なくとも1つである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基性成分が酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうちの少なくとも1つである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸性リン酸塩成分がリン酸モノカリウムまたはこれの水和物であり、ならびに前記塩基性成分が約9から約11のpHを有するマグネシウム塩水であり、前記マグネシウム塩水が水酸化マグネシウムの有効量を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性リン酸塩成分と塩基性成分の混合物が、リン酸マグネシウムカリウム、リン酸マグネシウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素銅、リン酸水素亜鉛、またはリン酸水素鉄の少なくとも1つを形成する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記腐食性金属表面が鋼鉄またはアルミニウムである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記接触させた腐食性金属表面に、マグネシウム−ガラス−リン酸塩ペーストを塗布し、硬質セラミック光沢コーティングを形成するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記接触ステップが、前記酸性リン酸塩成分と前記少なくとも1つの塩基性成分を、それぞれ独立して、そのスラリ、ペースト、スプレーまたは蒸気として接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
腐食を抑制するためのコーティング組成物であって、1つまたは複数の酸化鉄と、リン酸二水素マグネシウムとの組合せのスラリを含有する腐食抑制コーティング組成物。
【請求項12】
前記酸化鉄がマグネタイト(Fe)またはウスタイトFeOと、ヘマタイト(Fe)との混合物である請求項11に記載の腐食抑制コーティング。
【請求項13】
前記使用したヘマタイトの総量がマグネタイトまたはウスタイトの量よりも多い請求項12に記載の腐食抑制コーティング。
【請求項14】
マグネタイトまたはウスタイトとヘマタイトとの混合物から本質的になるコーティングを有し、本質的にプライマ層を有さない腐食性表面を、リン酸またはリン酸二水素マグネシウムの溶液と接触させるステップと、
リン酸水素鉄を含む腐食抑制コーティングを形成するステップと
を含む方法。
【請求項15】
腐食抑制を行う方法であって、
以下の少なくとも1つを組み合わせたものを準備するステップと、
(i)酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸モノカリウム(KHPO)、
(ii)酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸溶液(HPO溶液)、
(iii)酸化マグネシウム(MgO)およびリン酸二水素マグネシウム、
(iv)酸化第二鉄(Fe)およびリン酸(HPO)、
(v)有効量の水酸化マグネシウムを含有するマグネシウム塩水およびリン酸モノカリウム(KHPO)、
(vi)有効量の水酸化マグネシウムを含有するマグネシウム塩水およびリン酸(HPO)、または
(vii)有効量の水酸化マグネシウムを含有するマグネシウム塩水およびリン酸二水素マグネシウム、
腐食性金属の表面を前記(i)から(vii)の少なくとも1つを組み合せたものと接触させるステップと
を含む方法。
【請求項16】
前記組み合せたものが、スラリ、ペースト、スプレーまたは蒸気として与えられる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
酸性リン酸塩と塩基性金属酸化物または塩基性金属水酸化物との組み合せによって形成される腐食抑制コーティングを備える物品。
【請求項18】
前記コーティングが、リン酸マグネシウムカリウム、リン酸マグネシウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素バリウム、リン酸水素銅、リン酸水素亜鉛、またはリン酸水素鉄のうちの少なくとも1つである請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記物品の表面と前記腐食抑制コーティングとの境界面に、ポリリン酸塩が存在する請求項17に記載の物品。
【請求項20】
前記物品の表面と前記腐食抑制コーティングとの境界面に、クロム酸マグネシウムが存在する請求項17に記載の物品。
【請求項21】
X線回折によって検出可能なベルリナイト相(AlPO)を含むコーティングを有する請求項17に記載の物品。
【請求項22】
金属を被覆する表面であって既に腐食している表面を、酸性リン酸塩成分と、金属酸化物、金属水酸化物または塩基性無機物のうちの少なくとも1つの塩基性成分との混合物を含有する組成物と接触させるステップを含む方法であって、前記既に腐食している表面の一部が容易に除去可能とされるおよび/または前記組成物の過剰分が前記表面から排除される方法。
【請求項23】
薄い防食層が表面に形成されるステップをさらに含む請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記混合物によって、リン酸マグネシウムカリウム、リン酸マグネシウムナトリウム、リン酸水素マグネシウムまたはリン酸水素鉄のうちの少なくとも1つが金属表面に形成される請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記防食層は、当該防食層に形成される欠陥から前記防食層を自己再生することができるものである請求項22に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2013−513729(P2013−513729A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543092(P2012−543092)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/046126
【国際公開番号】WO2011/071569
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512152732)ラティテュード・18,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】