説明

無機含有有機膜の製造方法及び無機含有有機膜

【課題】有機成分に無機成分を混合することによって、薄くても機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造できる方法、及び薄くて、機械的強度の高い無機含有有機膜を提供すること。
【解決手段】(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、塗工液を調製する工程、(3)前記塗工液を基材に塗布し、形態を固定した後に基材をとり除いて、無機系ゲルと有機ポリマーとからなる無機含有有機膜を形成する工程、を含む無機含有有機膜の製造方法である。また、この製造方法により製造した無機含有有機膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機含有有機膜の製造方法及び無機含有有機膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサーや電子デバイス、分離膜、支持膜等への利用を目的とした有機−無機複合膜(フィルム)が知られている。これら各種用途に使用する膜は機械的強度に優れているのが好ましいが、機械的強度を向上させるために膜厚を厚くすると、透明性や柔軟性など、膜の物性が低下する場合があるため、膜厚は薄いのが好ましい。
【0003】
このような、薄くかつ機械的強度の優れる有機−無機複合膜として、無機微粒子を分散させた有機−無機複合膜(フィルム)が提案されている(特許文献1)。より具体的には、「有機高分子材料の表面近傍であって、表面から100nmの深さまでの部分に無機物質の微粒子が注入、分散されていることを特徴とする無機微粒子複合化有機高分子材料」が提案されている。しかしながら、このような無機微粒子複合化有機高分子材料は無機微粒子同士の繋がりがないため、硬度を高めることはできても、引張強さなどの機械的強度の点では弱いものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−131658号公報(請求項1など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、有機成分に無機成分を混合することによって、薄くても機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造できる方法、及び薄くて、機械的強度の高い無機含有有機膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、塗工液を調製する工程、(3)前記塗工液を基材に塗布し、形態を固定した後に基材を取り除いて、無機系ゲルと有機ポリマーとからなる無機含有有機膜を形成する工程、を含む無機含有有機膜の製造方法。」である。
【0007】
本発明の請求項2にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量が10000以上であることを特徴とする、請求項1記載の無機含有有機膜の製造方法。」である。
【0008】
本発明の請求項3にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の無機含有有機膜の製造方法。」である。
【0009】
本発明の請求項4にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液の固形分量が有機ポリマー重量に対して10wt%以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無機含有有機膜の製造方法。」である。
【0010】
本発明の請求項5にかかる発明は、「請求項1〜請求項4に記載の製造方法により製造された無機含有有機膜。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1にかかる発明は、有機ポリマーに対して曳糸性の無機系ゾル溶液を混合することにより、無機含有有機膜中、連続して伸びる無機成分が多数分散した状態にできる。したがって、有機ポリマーのみからなる有機膜よりも、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造できる。
【0012】
本発明の請求項2にかかる発明は、無機系曳糸性ゾル溶液の分子量が大きいため、無機含有有機膜中、より連続して伸びる無機成分が多数分散した状態にできる。そのため、有機ポリマーのみからなる有機膜よりも、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすい。
【0013】
本発明の請求項3にかかる発明は、無機系曳糸性ゾル溶液が有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであり、有機置換基を有する無機成分は有機ポリマーとの親和性が良いため、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすい。
【0014】
本発明の請求項4にかかる発明は、有機ポリマーに対する無機系曳糸性ゾル溶液の混合割合が少ないため、有機ポリマーの特性を損なうことなく、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすい。
【0015】
本発明の請求項5にかかる発明は、前記製造方法により製造された無機含有有機膜からなるため、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明においては、まず、(1)無機系曳糸性ゾル溶液(以下、単に「ゾル溶液」又は「曳糸性ゾル溶液」と表記することがある)を調製する工程を実施する。本発明においては、無機含有有機膜中、連続的に伸びる無機成分が多数分散した状態となり、無機含有有機膜の機械的強度が向上するように、無機系曳糸性ゾル溶液を調製する。無機系ゾル溶液が「曳糸性」であると、成膜後の無機含有有機膜中において、連続的に伸びる無機成分が多数分散した状態になり、結果として機械的強度が向上する、という相関関係を見出し、本発明を完成させたものである。
【0017】
本明細書において「無機系」とは、無機成分が50質量%以上を占めていることを意味する。前記ゾル溶液の無機成分含有量は、60質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。なお、この無機成分の質量比率(Mr)は、無機系曳糸性ゾル溶液質量(Ms)の、そのゾル溶液のみを紡糸して得られるゲル繊維の質量(Mg)に対する比をいう。つまり、次の式から算出される値をいう。
Mr=(Mg/Ms)×100
【0018】
本明細書において「曳糸性」の判定は、以下に示す条件で静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定する。
(判定法)
アースした金属板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から曳糸性を判断するゾル溶液(固形分濃度:20〜50wt%)を吐出する(吐出畳:0.5〜1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1〜3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加)し、ノズルの先端にゾル溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸し、金属坂上にゲル繊維を集積させる。
この集積したゲル繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、ゲル繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上のゲル繊維を製造できる条件が存在する場合、そのゾル溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記ゲル繊維を製造できる条件が存在しない場合、その溶液は「曳糸性なし」と判断する。
【0019】
このようなゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機含有有機膜の無機成分を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、約100℃以下の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えば、アルコール)又は水である。
【0020】
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0021】
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物としては、例えば、前記元素の金属有機化合物、あるいは、金属無機化合物を挙げることができる。前記金属有機化合物としては、例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、酢酸塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。金属アルコキシドの場合、金属元素として、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、亜鉛等を挙げることができ、これらのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等を使用することができる。例えば、金属元素がケイ素の場合、原料にアルコキシドを使用し、酸触媒を用いて加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
【0022】
なお、有機置換基(例えば、メチル基、プロピル基、フェニル基等)を有する金属アルコキシドを無機系曳糸性ゾル溶液の原料として含む、特には、金属骨格と2個以上の加水分解基及び1〜2個の有機置換基からなる金属アルコキシドを無機系曳糸性ゾル溶液の原料として含んでいると、有機ポリマーとの親和性が良い無機成分とすることができ、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすいため好適である。前記金属アルコキシドとして、メチルトリエトキシシラン(MTES)、プロピルトリエトキシシラン(PTES)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTES)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)などを例示できる。
【0023】
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物が金属アルコキシドからなる場合、前述のような有機置換基を有する金属アルコキシドのみを原料とすることができるし、有機置換基をもたない金属アルコキシドのみを原料とすることができるし、或いは有機置換基を有する金属アルコキシドと有機置換基をもたない金属アルコキシドとを混合して原料とすることもできる。なお、混合する場合、その混合比率は特に限定するものではない。
【0024】
他方、金属無機化合物としては、例えば、塩化物、硝酸塩等を挙げることができる。例えば、酸化スズの場合、塩化スズを原料に使用し、アルコール溶媒に溶解させて加熱により加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。金属元素がチタンやジルコニアの場合、原料にアルコキシドを用いると、水との反応性が高いため、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルエステル等の配位子を使用し、アルコール溶媒、酸触媒を適宜選択することにより加水分解縮重合反応を進行させて、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
【0025】
これらの曳糸性ゾル溶液は、2種類以上の曳糸性ゾル溶液を混合して使用することができるし、2種類以上の金属化合物から曳糸性ゾル溶液を調製することもできる。
【0026】
曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量は、曳糸性に優れているように10000以上であるのが好ましい。このような分子量であると、無機含有有機膜中、連続的に伸びる無機成分が多数分散した状態となり、薄く、かつ機械的強度が向上した無機含有有機膜を製造しやすいためである。より好ましい重量平均分子量は15000以上であり、更に好ましくは20000以上である。
【0027】
この「重量平均分子量」はゲル浸透クロマトグラフィーにより得ることができる。加水分解縮重合反応途上の無機系ゾル溶液は、化学的に活性な未反応のOR基あるいはOH基を有しており、これら官能基は構造解析測定に付随する操作中に更に重合する可能性があるため、トリメチルシリル化(以下、TMS化)によってOR基、OH基をトリメチルシリル基で保護し、無機系曳糸性ゾルを安定化させた後にゲル浸透クロマトグラフィーにより測定できる(参考:窯業協会誌 92 [5] 1984,神谷ら)。つまり、TMS化は、トリメチルクロロシラン(以下、TMCS)などのシリル化剤の加水分解によって生成するSi(CHOHと、加水分解縮重合反応途上の無機系曳糸性ゾル溶液との反応によって、OR基あるいはOH基をトリメチルシリル基で保護する。この安定化された無機系曳糸性ゾル溶液は、元の重合体の形態を80から90%維持されることが知られている(参考:C.W.Lentz,Long.Chem.,3,574−79(1968))。このようなTMS化はTMCSに限定されず、例えば、トリメチルシリルイミダゾール、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、N−メチルーNートリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N,N−ジエチルアミノトリメチルシランなどによっても実施できる。
【0028】
より具体的には、シリカゾルの重量平均分子量は、例えば、TMCS:60ml、水:50ml、イソプロパノール:50mlを25℃で2時間攪拌した混合液中に、加水分解縮重合途上のシリカゾルを加え、25℃で2日間攪拌して反応させ、2層に分離した混合液を得る。次いで、この混合液の上層部を回収し、水:プロパノール=1:1(体積比)の混合液で2回洗浄した後、110℃に設定した熱風乾燥機で、110℃における重量変化がなくなるまで熱処理し、未反応のTMCSを蒸発させて、シリカゾルを安定化させることができる。そして、この安定化したシリカゾルをゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる。測定はGPC測定装置(HLC−8220GPC、東ソー(株)製)、検出器としてRI検出器(東ソー(株)製)、カラムとしてShodex GPC KF−806L×3(昭和電工(株)製)を用いて実施できる。
【0029】
次に、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、塗工液を調製する工程を実施する。これらの混合順序は塗工液が得られる限り特に限定されるものではなく、任意の順序で、あるいは、2成分又は3成分を同時に混合することができる。
【0030】
前記溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)を挙げることができる。使用する有機ポリマーと曳糸性ゾル溶液(特にポリマー)に応じて適宜決定することができ、曳糸性ゾル溶液と有機ポリマーが溶液中で相分離やゲル化を起こすことなく、どちらも均一に溶解可能である溶媒を選択する。
【0031】
前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーポネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、又はポリスルホンを挙げることができ、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスチレン、又はポリビニルピロリドンが好ましい。
【0032】
有機ポリマー重量に対する曳糸性ゾル溶液の混合量は、曳糸性ゾル溶液の固形分量で、10wt%以下であるのが好ましく、5wt%以下であるのがより好ましく、1wt%以下であるのが更に好ましい。10wt%を超えると、無機含有有機膜の機械的強度が向上しにくくなる傾向があるためである。なお、無機成分によって無機含有有機膜の機械的強度を向上させるためには、0.01wt%以上含んでいるのが好ましく、0.1wt%以上含んでいるのがより好ましい。なお、有機ポリマー重量に対する曳糸性ゾル溶液の固形分量の比率(Wr)は、曳糸性ゾル溶液の固形分重量(Ws)の、有機ポリマーの固形分重量(Wp)に対する比をいう。つまり、次の式から算出される値をいう。
Wr=(Ws/Wp)×100
【0033】
このような曳糸性ゾル溶液と有機ポリマー又は有機ポリマー溶液との混合は、特に限定するものではないが、例えば、単に混合し、攪拌するだけで塗工液を得ることができる。なお、塗工液を調製するときに、ゾル溶液は曳糸性を有する必要はない。例えば、曳糸性ありと判定されたゾル溶液を希釈し、その希釈状態では曳糸性のないゾル溶液であっても使用することができる。
【0034】
次いで、(3)前記塗工液を基材に塗布し、形態を固定した後に基材を取り除いて、無機系ゲルと有機ポリマーとからなる無機含有有機膜を形成する工程を実施して、無機含有有機膜を製造する。
【0035】
この塗工液の塗布は公知の方法により実施することができ、例えば、キャスティングによる基材への塗布を挙げることができる。また、塗布量は所望とする無機含有有機膜の厚さによって異なるため特に限定するものではない。無機含有有機膜の厚さが所望厚さとなるように、塗工液の濃度等を考慮して、適宜設定する。
【0036】
なお、基材は塗工液を支持し、塗工液から無機含有有機膜を成膜した後に取り除かれるが、基材塗工面は平滑であっても、凹凸があっても良い。平滑であれば、無孔の無機含有有機膜を製造しやすく、凹凸があれば、有孔の無機含有有機膜を製造しやすい。また、塗工液を塗布した後に無機含有有機膜の形態を固定するため、基材はこの工程によって、形態が変化しないものを使用するのが好ましい。
【0037】
また、塗工液を塗布した後に形態を固定する方法は、基材を取り除いて無機含有有機膜のみとしても取り扱うことができる程度に、曳糸性ゾル及び有機ポリマーを固定し、無機含有有機膜の形態を固定できる方法であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、乾燥して塗工液の溶媒を除去する方法、凝固浴中に浸漬して塗工液の溶媒を除去するなど凝固させる方法、光を照射することによって硬化させる方法、加熱することによって硬化させる方法、などを挙げることができる。これら固定方法は公知の方法により実施することができ、例えば、乾燥して塗工液の溶媒を除去する場合には、オーブン、赤外線、熱風、誘導加熱により実施できる。
【0038】
形態を固定した後、基材を取り除いて、本発明の無機系ゲルと有機ポリマーとからなる無機含有有機膜を形成するが、基材の除去方法は無機含有有機膜を基材から剥がすなど、取り除ければ良く、特に限定するものではない。
【0039】
このような方法により製造された無機含有有機膜は、連続して伸びる無機成分が多数分散した状態にあるため、薄く、かつ有機ポリマーのみからなる有機膜よりも機械的強度の向上した無機含有有機膜である。また、前記状態で無機成分が分散していることによって、柔軟性にも優れている。更に、無機成分が機能性を有する場合には、その機能を発揮することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、厚さはマイクロメーター法(1kg/cm荷重)により測定した値である。
【0041】
(実施例1)
(1)無機系曳糸性ゾル溶液の調製;
テトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水及び塩酸を、1:5:2:0.0025のモル比で混合して、曳糸性シリカゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン1モルに対して、2.5モル量のエタノールを混合し、攪拌させながら、その中に、水2モル量、塩酸0.0025モル量及び2.5モル量のエタノールからなる混合液をゆっくりと滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素の固形分濃度が44wt%となるまで濃縮し、ゾル溶液とした。そして、濃縮後のゾル溶液を温度60℃で数時間保持し、増粘させ、曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:12000)を得た。この曳糸性シリカゾル溶液の粘度は0.32Pa・sであった。
【0042】
(2)塗工液の調製;
ポリアクリロニトリル(Mn=24万、Mw=48万)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10wt%濃度の溶解液とした後、ポリアクリロニトリル質量に対する酸化ケイ素の固形分量が1wt%となるように、前記(1)で調製した曳糸性シリカゾル溶液を添加し、塗工液とした。この塗工液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0043】
(3)無機含有有機膜の製造;
基材としてガラス板を用意した。
【0044】
このガラス板上に塗工液をキャスティングによって塗布した後、熱風乾燥機により、温度70℃で1時間乾燥した。続いて、熱風乾燥機により、温度150℃で30分間の乾燥を実施して、塗工液の溶媒を完全に除去するとともにゲルを固定化し、ガラス板上に無機含有有機膜を成膜した。その後、ガラス板から無機含有有機膜を引き剥がし、本発明の無機含有有機膜(厚さ:23μm)を得た。
【0045】
(実施例2)
シリカ原料として、テトラエトキシシラン(TEOS):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を9:1のモル比で混合したものを使用し、前記シリカ原料、エタノール、水及び塩酸を、1:5:2:0.0025のモル比で混合して、曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:15000、粘度:1.6Pa・s)を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、本発明の無機含有有機膜(厚さ:27μm)を得た。なお、塗工液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0046】
(実施例3)
(1)無機系曳糸性ゾル溶液の調製;
テトラエトキシシラン(TEOS)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ブタノール、水及び塩酸を、0.5:0.5:10:2:0.0025のモル比で混合して、曳糸性シリカ・ジルコニウム混合ゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン0.5モルとジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)0.5モルの混合溶液に対して、5モル量のブタノールを混合し、攪拌させながら、その中に、水2モル量、塩酸0.0025モル量及び5モル量のブタノールからなる混合液をゆっくりと滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素と酸化ジルコニウムの固形分濃度の合計が50wt%となるまで濃縮し、ゾル溶液とした。そして、濃縮後のゾル溶液を温度60℃で数時間保持し、増粘させ、曳糸性シリカ・ジルコニウムゾル溶液(粘度:2.5Pa・s)を得た。
【0047】
(2)塗工液の調製;
ポリアクリロニトリル(Mn=24万、Mw=48万)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10wt%濃度の溶解液とした後、ポリアクリロニトリル質量に対する酸化ケイ素と酸化ジルコニウムの固形分濃度の合計が1mass%となるように、前記(1)で調製した曳糸性シリカ・ジルコニウムゾル溶液を添加し、塗工液とした。この塗工液の粘度は0.9Pa・sであった。
【0048】
(3)無機含有有機膜の製造;
実施例1と同様の手順により、本発明の無機含有有機膜(厚さ:23μm)を得た。
【0049】
(比較例1)
ポリアクリロニトリル(Mn=24万、Mw=48万)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10wt%濃度の塗工液(粘度:0.9Pa・s)を調製した。
【0050】
この塗工液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリアクリロニトリル膜(厚さ:26μm)を得た。
【0051】
(比較例2)
テトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水及びアンモニアを、1:5:2:0.0025のモル比で混合して、非曳糸性シリカゾル溶液を調製した。より具体的には、テトラエトキシシラン1モルに対して、2.5モル量のエタノールを混合し、攪拌させながら、その中に、水2モル量、アンモニア0.0025モル量及び2.5モル量のエタノールからなる混合液をゆっくりと滴下し、出発原料とした。この出発原料は冷却水を循環させながら、設定温度100℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素の固形分濃度が44%となるまで濃縮し、非曳糸性シリカゾル溶液(重量平均分子量:3800)を得た。この非曳糸性シリカゾル溶液の粘度は0.013Pa・sであった。
【0052】
この非曳糸性シリカゾル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、無機含有有機膜(厚さ:20μm)を得た。
【0053】
(引張り強さ・伸度の測定)
実施例1〜3及び比較例1〜2の膜の引張り強さを、インストロン型引張試験機(テンシロン、TM−111−100、オリエンテック社製)を用いてそれぞれ測定した。つまり、各膜から、たて40mm、よこ10mmに切断した長方形状試料を採取し、この試料を前記引張試験機の20mm離れて位置するチャック間に固定し、50mm/分の定速で引張り、試料が破断に至るまでの最大張力(引張強さ)を測定した。その後、この引張強さを各膜の厚さで割り、単位厚さあたりの引張り強さを算出した。
【0054】
また、前記試料が破断に至った際の試料の伸びをもとに、次の式から伸度(S)を算出した。
S={(L−L)/L}×100={(L−20)/20}×100
ここで、Lは破断時の試料の長さ(単位:mm)、Lは測定前の試料の長さ、つまりチャック間距離(単位:mm)をそれぞれ意味する。
【0055】
これらの結果は表1に示す通りであった。
【0056】
【表1】

【0057】
表中、「PAN」はポリアクリロニトリル(PAN)固形分比率で、PANの固形分重量(WPAN)の溶媒重量(S)に対する百分率(=(WPAN/S)×100)、「TEOS」はテトラエトキシシラン、「GPTMS」は3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、「ZDBB」はジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、「添加量」はゾルの添加比率で、ゾルの固形分量(WSOL)のPANの固形分重量(WPAN)に対する百分率(=(WSOL/WPAN)×100)、引張り強さの括弧内の数字は比較例1の引張り強さに対する百分率を、それぞれ意味する。
【0058】
表1の実施例と比較例の比較から、曳糸性ゾル溶液を有機ポリマーと混合し、成膜することにより、無機含有有機膜の機械的強度が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、薄いにもかかわらず、機械的強度の改良された無機含有有機膜を製造することができる。このような無機含有有機膜は、例えば、センサーや電子デバイス、分離膜、支持膜などの用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能な有機ポリマーとを混合して、塗工液を調製する工程、
(3)前記塗工液を基材に塗布し、形態を固定した後に基材をとり除いて、無機系ゲルと有機ポリマーとからなる無機含有有機膜を形成する工程、
を含む無機含有有機膜の製造方法。
【請求項2】
無機系曳糸性ゾル溶液の重量平均分子量が10000以上であることを特徴とする、請求項1記載の無機含有有機膜の製造方法。
【請求項3】
無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の無機含有有機膜の製造方法。
【請求項4】
無機系曳糸性ゾル溶液の固形分量が有機ポリマー重量に対して10wt%以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無機含有有機膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4に記載の製造方法により製造された無機含有有機膜。

【公開番号】特開2010−143181(P2010−143181A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325382(P2008−325382)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】