説明

無機基材用吸水防止剤組成物

【課題】 乾燥が早く、得られる被膜の撥水性、耐久性、耐候性に優れ、濡れ色も発生せず、1工程化が可能な無機基材用吸水防止剤を提供する。また、吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法を提供する。
【解決手段】 アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として含み、重量平均分子量が1000〜10000である共重合体、アルコキシシリル基の縮合反応用触媒および石油系溶剤を含有する無機基材用吸水防止剤組成物。多孔性の無機基材を、上記組成物によって処理することを特徴とする、吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機基材に適用できる吸水防止剤組成物に関し、詳しくは、コンクリートやモルタルなどの多孔性無機基材に対して優れた密着性を示し、撥水性、浸透性、耐候性に優れた吸水防止剤として有用な組成物に関するものである。また、吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート建造物は耐久性に優れ、半永久的に劣化しないと考えられていたが、酸性雨、塩害、凍害などによって、劣化することが認識されるようになってきた。かかる劣化は、コンクリートに侵入する水分が主原因となり、コンクリートの中性化、鉄筋の腐食、白華化を生ずることによると言われている。
この劣化抑制の対策として、アルコキシシランモノマーやアルコキシシランオリゴマーを有効成分としたシラン系浸透性吸水防止剤を塗布する方法が知られている(特許文献1、4および非特許文献1など)。シラン系吸水防止剤は、コンクリートの濡れ色(コンクリートの表面にコーティング材を塗布すると黒色に変化すること。雨に濡れた状態を想起することから呼ばれる)が生じない利点はあるが、皮膜を形成しないため耐久性や耐候性が充分でなく使用が制限される場合があった。
また、シラン系吸水防止剤には、溶剤系と水系が知られているが、溶剤系は乾燥が速すぎてコンクリート内部まで浸透しにくく、水系は乾燥が遅いために使用が制限される場合があった。
一方、溶剤系やエマルション系の塗料をコンクリートに直接塗装する方法は、表面に塗膜を形成するため、耐候性の面では優れた性能を発揮するが、濡れ色が発生するため使用が制限された。
アルコキシシリル基を有する比較的低分子量の重合体の水性分散体が知られているが(特許文献3)、水性分散体の安定性が不充分または得られる被膜の耐水性が不充分なために使用が制限された。
シラン系吸水防止剤の表面に前記塗料を塗装する方法も知られているが(特許文献2)、シラン系浸透性吸水防止剤の塗布と塗料の塗装の2工程になる点と、吸水防止剤と塗料との間の密着性に問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平05−156164号公報
【特許文献2】特開平06−292858号公報
【特許文献3】特開平07−228645号公報
【特許文献4】特開平09−202875号公報
【非特許文献1】日本建築学会学術講演梗概集1991年9月、1170ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、乾燥が早く、得られる被膜の撥水性、耐久性、耐候性に優れ、濡れ色も発生せず、1工程化が可能な無機基材用吸水防止剤を提供することである。また、吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の無機基材用吸水防止剤組成物は、アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として含み、重量平均分子量が1000〜10000である共重合体、アルコキシシリル基の縮合反応用触媒および石油系溶剤を含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明の無機基材用吸水防止剤組成物は、請求項1に記載の発明において、共重合体は、アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位の割合が重量比で5〜50/95〜50であり、ガラス転移温度が10℃以下であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明の無機基材用吸水防止剤組成物は、請求項1に記載の発明において、石油系溶剤は、アニリン点が10〜60℃であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法は、多孔性の無機基材を、請求項1に記載の発明の無機基材用吸水防止剤組成物によって処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、1工程化が可能であり乾燥が早いため取り扱い作業性に優れる。また本発明の組成物は、基材がコンクリートやモルタルなどの多孔質の無機基材である場合は深部まで浸透し、被膜を形成するため撥水性、耐久性、耐候性に優れ、濡れ色も発生せず、優れた吸水防止剤として機能する。上記組成物により処理された無機基材は優れた吸水防止性能を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の組成物の成分である共重合体は、被膜を形成し、無機基材に撥水性、耐久性、耐候性を付与して吸水防止性能を向上させるための主要成分である。共重合体は、重量平均分子量が1000〜10000であり、1500〜8000が好ましく、2000〜4000が特に好ましい。1000未満では被膜が脆いものとなるため好ましくない。また、10000を超えると多孔質の無機基材への浸透性が低下するため好ましくない。
【0008】
共重合体は、アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として含む。
アルコキシシリル基を有するビニル単量体としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジメチルシランおよびビニルトリクロロシランなどのビニルシラン類、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピルおよび(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピルなどのシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテルなどのシリル基含有ビニルエーテル類、トリメトキシシリルウンデカン酸ビニルなどのシリル基含有ビニルエステル類などが例示される。
これらの中でも(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性や共重合体の基材密着性の点からメトキシシリル基またはエトキシシリル基を有するシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル(以下、単量体Aともいう。)が好ましい。これらアルコキシシリル基を有する単量体は、1種類または2種類以上用いることが可能である。
【0009】
アルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシルおよび(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸脂肪族アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルおよび(メタ)アクリル酸トリシクロデシニル等の(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチルおよび(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のヘテロ原子含有(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。これら単量体は、1種類または2種類以上用いることが可能である。得られる共重合体の耐候性が優れるため、アルキル基の炭素数4〜8のアクリル酸アルキルエステル(以下、単量体Bともいう。)とアルキル基の炭素数1〜4のメタクリル酸アルキルエステル(以下、単量体Cともいう。)を併用することが好ましい。
【0010】
共重合体は、アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位の割合が、両単量体単位の合計100質量部を基準としてそれぞれ5〜50質量部および95〜50質量部であるものが好ましい。アルコキシシリル基を有する単量体単位の割合が少なすぎると、硬化性が悪くなり得られる被膜にタックが残りやすい。アルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位の割合が少なすぎると成膜性が低下し、均質な被膜が得られにくい場合がある。
共重合体は、単量体A単位、単量体B単位および単量体C単位を含むものであることがより好ましく、単量体A単位、単量体B単位および単量体C単位の合計100質量部を基準として単量体A単位5〜30質量部、単量体B単位40〜70質量部および単量体C単位10〜30質量部を含むものであることが特に好ましい。単量体B単位が多すぎると耐アルカリ性が低下する場合があり、単量体C単位が多すぎると成膜性が低下し、均質な被膜が得られない場合がある。
【0011】
共重合体は、上記単量体以外の単量体(以下、その他の単量体という。)単位を含むものであってもよい。その他の単量体としては特に制限はなく、(メタ)アクリル酸、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニルおよび水酸基、イソシアネート基、エポキシ基などの架橋性官能基を有する単量体が挙げられる。その他の単量体単位は必須ではなく、アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位の合計100質量部を基準として30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。
水酸基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε−カプロラクトン付加反応物、トリアクリル酸ペンタエリスリトール等のアクリル酸ヒドロキシアルキル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテルおよびヒドロキシプロピルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシエチルアリルエーテルおよびヒドロキシブチルアリルエーテル等のヒドロキシル基含有アリルエーテル、クロトン酸ヒドロキシエチルおよびクロトン酸ヒドロキシプロピル等のクロトン酸ヒドロキシアルキルが挙げられる。
イソシアネート基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリロキシエチルイソシアネート、メタクリルイソシアネート、ジメチルメタイソプロペニルベンジルイソシアネートが挙げられる。
エポキシ基を有する単量体の具体例としては(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキサンエポキシ、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0012】
共重合体は、ガラス転移温度(以下、Tgともいう。)が10℃以下であるものが好ましい。10℃を超えるTgを有する共重合体が使用された組成物は、多孔性無機基材への浸透性が不充分なために、形成される被膜が基材への密着性不充分なものとなる場合がある。
【0013】
共重合体は、上記単量体を公知の方法で重合させて得ることができる。溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合などのいずれであってもよい。溶液重合を採用する場合、有機溶媒としては、通常溶媒として用いられるものでよく、例えばテトラヒドロフランおよびジオキサン等の環状エーテル類、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素化合物、酢酸エチルおよび酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール類等があげられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
ラジカル重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ターシャリーブチルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびジターシャリーブチルパーオキサイド等の過酸化物、またはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の無機過酸化物が使用できる。また、アルコールやメルカプタン系化合物などの連鎖移動剤も用いて良いが、耐候性の低下につながるため、用いないことが好ましい。
【0015】
単量体を150〜350℃の温度で重合させて得られる共重合体は、耐候性の優れたものとなりやすいために好ましい。重合温度は180〜320℃がより好ましく、200〜300℃がさらに好ましい。バッチ重合、セミ連続重合、連続重合などのいずれも採用できるが、撹拌槽型反応器を使用する連続重合は、生産性が優れるために特に好ましい。このような高温連続重合は公知である(特表昭57−502171号公報、特開昭59−6207号公報、特開昭60−511992号公報)。
【0016】
アルコキシシリル基の縮合反応用触媒は、組成物が無機基材に塗布された後に、共重合体が有するアルコキシシリル基の反応を円滑にさせ、組成物から形成される被膜を三次元架橋させると同時に無機基材に強固に密着させるための成分である。
アルコキシシリル基の縮合反応用触媒の具体例としては、テトラブチルチタネートおよびテトラプロピルチタネートなどのチタン酸エステル類、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセトアセトナート、オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ、ラウリン酸スズおよびフェルザチック酸スズなどの錫カルボン酸塩類、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートおよびジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテートなどの有機アルミニウム化合物類、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよびチタンテトラアセチルアセトナートなどのキレート化合物類、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉄、ビスマス−トリス(ネオデカノエート)、ビスマス−トリス(2−エチルヘキソエート)およびオクチル酸ビスマスなどのビスマス化合物、ブチルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)および1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)などのアミン系化合物、あるいはこれらアミン系化合物のカルボン酸などとの塩、過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂、過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物などのシラノール縮合触媒、さらには他の酸性触媒、塩基性触媒などの公知のシラノール縮合触媒等が例示される。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。好ましい硬化促進剤としては、硬化速度の調整が容易なことから、錫カルボン酸塩類が例示される。使用量は種類により適正な量が異なるが、共重合体量を基準として0.1ppm〜10%であることが好ましく、さらに好ましくは0.01%〜3%である。
【0017】
本発明の組成物は、上記共重合体およびアルコキシシリル基の縮合反応用触媒が石油系溶剤に溶解されたものである。石油系溶剤は飽和炭化水素を主成分とするものであり、弱溶剤と呼ばれ、環境への負荷が小さく毒性も少ない。本発明にいう石油系溶剤は、飽和炭化水素を40質量%以上含有する有機溶剤である。飽和炭化水素の割合が40質量%未満では塗布された組成物の乾燥が遅くなるほか、形成される被膜にタックが残り汚染されやすいものとなる。
【0018】
飽和炭化水素の具体例としてはn−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ノナン、ウンデカン、トリデカン、ターペン等が挙げられる。
【0019】
飽和炭化水素と併用してもよい有機溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、 エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブ類、メタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノール、イゾブタノール等のアルコール類が挙げられる。
石油系溶剤としては、飽和炭化水素50〜90質量%および芳香族炭化水素10〜50質量%からなる混合有機溶剤も好適に使用でき、このような石油系溶剤の具体例としては、ナフサNo5、ナフサNo6(以上、エクソン化学株式会社製)、LAWSやHAWS(以上、シェル株式会社製)、Aソルベント(日本石油株式会社製)等が挙げられる。
石油系溶剤は、アニリン点10〜60℃であるものが好ましい。アニリン点は、石油系溶剤の中で飽和炭化水素が占める割合の目安ともなり、形成される被膜の物性に影響するものである。
【0020】
共重合体と石油系溶剤の合計100質量部を基準として、共重合体の割合は1〜50質量部であることが好ましく、2.5〜25質量部であることがより好ましい。共重合体が1質量部未満であると得られる被膜の撥水性が不充分なものとなる場合がある。50質量部を超えると乾燥しづらくなる。
【0021】
本発明の組成物は、上記成分のほかに各種成分が添加されたものであってもよい。
基材との密着性増強剤を添加することも効果的であり、その具体例としては、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、撥水性や硬化性、作業性を改善するため、フッソ系撥水撥油剤、アルコキシシランモノマー、アルコキシシランオリゴマー、エポキシ基やイソシアネート基、ビニル基を含有するシランカップリング剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤などが添加されたものであってもよい。
機械物性を調整するために充填剤が添加されたものであってもよい。充填剤の具体例としては、シリカ、珪酸類、ケイソウ土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、クレー、タルク、ベントナイト、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、亜鉛華、シラスバルーン、石綿、ガラス繊維、フィラメントなどが挙げられる。
さらには保存安定性を高めるために、脱水剤が添加されたものであってもよい。脱水剤としては、オルトギ酸メチルおよびオルト酢酸メチル等のオルトエステル類、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの加水分解性シリル基を有する化合物などが挙げられる。
【0022】
多孔性の無機基材は上記組成物が発揮する優れた浸透性を生かすために特に好適な無機基材である。多孔性の無機基材としては、打放しコンクリート、軽量コンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート、モルタル、石綿セメント板、水系セメント板、ガラス繊維入りセメント板、カーボン繊維入りセメント板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、ブロック、レンガ、瓦、タイル等が例示される。
【0023】
本発明の組成物は、ローラー、刷毛、スプレー、浸漬法などを使用して無機基材に塗布することができる。無機基材が多孔性のものである場合は、塗布された組成物が基材の孔に浸透し、撥水性、耐久性、耐候性とともに密着性も優れた被膜が形成される。
【実施例】
【0024】
(製造例1)
電熱式ヒーターを備えた容量1000mlの加圧式攪拌槽型反応器を、温度200℃に保った。次いで、反応器の圧力を一定に保ちながら、表1に示す単量体混合物100部、MEK5部、重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド1部からなる原料混合物を、一定の供給速度(80g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給を開始し、原料混合物の供給量に相当する量の反応液を出口から連続的に抜き出した。反応開始直後に、一旦反応温度が低下した後、重合熱による温度上昇が認められたが、ヒータを制御することにより、反応温度240℃を保持した。原料混合物の供給開始から温度が安定した時点を、反応液の採取開始点とし、これから25分間かけて2kgの原料混合液を供給し、1.9kgの反応液を回収した。その後反応液を薄膜蒸発器に導入して、未反応モノマー等の揮発成分を分離して濃縮液(以下、重合体1ともいう。)を得た。ガスクロマトグラフ分析より、濃縮液中には未反応モノマーは存在していなかった。溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCという。)で測定した上記重合体1のポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、Mwという。)は2500であった。
【0025】
(製造例2〜5)
条件を表1のように変更する以外は製造例1と同様に重合等の操作を行い、共重合体を合成した。得られた共重合体をそれぞれ重合体2〜4および比較重合体1という。
【0026】
【表1】

【0027】
表1における略号の意味は以下のとおりである。
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸ブチル
HA:アクリル酸2−エチルへキシル
MSi:メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル
MMSi:メタクリル酸ジメトキシメチルシリルプロピル
St:スチレン
【0028】
(実施例1〜6、比較例1〜2)
重合体1〜4、比較重合体1を下記表2に示す条件で溶剤に溶解した。次いで、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート、密着増強剤としてN−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、および老化防止剤(チバスペシャリティー製チヌビンB75)を表2に示す質量割合で混合して組成物を得た。
【0029】
【表2】

【0030】
表2における溶剤は以下のものである。
*1:シェル化学製石油系溶剤、アニリン点43℃
*2:シェル化学製石油系溶剤、アニリン点15℃
*3:エクソン社製石油系溶剤、アニリン点55℃
【0031】
表2の配合により得られた組成物を、不揮発成分の量として0.1kg/m2になるようにモルタル板に塗布した。上記塗布を3回繰返した後、3時間後に試料の表面状態を目視および指触で観察した。
○:塗布面に濡れ、変色がなかった。
△:塗布面の一部に濡れまたは変色があった。
×:塗布面の全体に濡れまたは変色があった。
さらに、1週間養生後に試料の外観と色差(塗布後のL値−塗布前のL値)を評価した。
次いで、試料に水滴を落し、接触角を測定することにより、塗膜の撥水性を評価した。
試料を半分に割り、断面を水に付けて、吸水防止剤の浸透深さ(撥水性を発揮する領域の深さ)を測定した。
試料の組成物塗布面以外をエポキシシールし、試料塗布面を水に付くように半没して、1週間後の吸水量を測定した。
試料のメタリングウェザーメーター(SUV、岩崎電気製アイスーパーUVテスター SUV−W11型)試験を行い、500時間後に、再度吸水試験をおこなって、初期との吸水量の比較をおこなった。
耐候性=(SUV試験前の吸水量/SUV試験後の吸水量)×100
なお、エマルション型シラン系浸透性吸水防止剤「アクアプルーフ40J」(東亞合成株式会社製)を同一条件で塗布し、表3の比較例3とした。
【0032】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0033】
乾燥が早く、得られる被膜の撥水性、耐久性、耐候性に優れ、濡れ色も発生せず、1工程化が可能な無機基材用の吸水防止剤が得られた。また、吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法が提供された。コンクリートやモルタルなどの多孔性無機基材の吸水防止性能を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として含み、重量平均分子量が1000〜10000である共重合体、アルコキシシリル基の縮合反応用触媒および石油系溶剤を含有する無機基材用吸水防止剤組成物。
【請求項2】
共重合体は、アルコキシシリル基を有するビニル単量体単位およびアルコキシシリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位の割合が重量比で5〜50/95〜50であり、ガラス転移温度が10℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の無機基材用吸水防止剤組成物。
【請求項3】
石油系溶剤は、アニリン点が10〜60℃であることを特徴とする請求項1に記載の無機基材用吸水防止剤組成物。
【請求項4】
多孔性の無機基材を、請求項1に記載の無機基材用吸水防止剤組成物によって処理することを特徴とする、吸水防止性能が改良された無機基材の製造方法。

【公開番号】特開2006−89657(P2006−89657A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278777(P2004−278777)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】