説明

無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物

【課題】 耐水性および無機多孔質基材への浸透性の両者が優れた無機多孔質基材用水性下塗り剤を提供する。
【解決手段】 20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)5〜70質量%および20℃における水100gへの溶解度が3g未満であるビニル単量体単位(B単位)30〜95質量%を構成単位として含み重量平均分子量1000〜100000である重合体Cを加水分解させて得られる、上記A単位の一部が加水分解された重合体Dが水性媒体中に分散された水性分散体を含有する、無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機多孔質基材の下塗り処理に適する水性の組成物に関するものである。詳しくは無機多孔質基材の表面へのエフロレッセンス粉の析出防止および無機多孔質基材と上塗り塗料との密着性向上に効果がある水性下塗り剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋根瓦や外壁材等の用途に使われる無機多孔質基材は、基材の補強または上塗り塗料との密着性の向上を目的として下塗り剤が含浸・塗布されることがある。
また、無機多孔質基材の強度を高めるためにオートクレーブ養生処理がなされる場合があり、オートクレーブ養生の際エフロレッセンス粉が析出しやすいので、その析出を防止するために、基材表面に合成樹脂を成分として含む下塗り剤が塗布される。
このような下塗り剤として、エチレン性不飽和カルボン酸共重合体を含有する水性の組成物が知られている(特許文献1参照)。しかし、該下塗り剤は耐水性が充分ではなく、さらに上塗り塗料との耐水密着性が充分ではないため、使用が制限されるものである。
特許文献1に記載されている水溶性タイプのもの以外にエマルションタイプの下塗り剤も知られているが、エマルションタイプの下塗り剤は無機多孔質基材への浸透性が悪いために、下塗り剤としての上記機能を充分発揮できない場合がある。
【0003】
【特許文献1】特開平10−310739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐水性および無機多孔質基材への浸透性の両者が優れた無機多孔質基材用水性下塗り剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)5〜70質量%および20℃における水100gへの溶解度が3g未満であるビニル単量体単位(B単位)30〜95質量%を構成単位として含み重量平均分子量1000〜100000である重合体Cを加水分解させて得られる、上記A単位の一部が加水分解された重合体Dが水性媒体中に分散された水性分散体を含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、請求項1に記載の発明において、上記重合体Cは、上記A単位およびB単位以外のビニル単量体単位(E単位)0.01〜20質量%をも構成単位として含むことを特徴とする。
請求項3に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、請求項1または2に記載の発明において、上記重合体Cは、酸価が50mgKOH/g以下であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、請求項1に記載の発明において、上記重合体Cは、ガラス転移温度が0℃以上であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、請求項1に記載の発明において、上記重合体Dは、平均粒子径が80nm以下であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、請求項1に記載の発明において、20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステルは、メチルアクリレートまたはメトキシエチルアクリレートであることを特徴とする。
請求項7に記載の発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、請求項1に記載の発明において、上記加水分解は、上記A単位のモル数の10〜90%に相当するアンモニアを含むアンモニア水が添加されてなされることを特徴とする。
請求項8に記載の発明の被膜を有する無機多孔質基材は、請求項1〜7のいずれかに記載の水性下塗り剤組成物が塗装されたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水性下塗り剤組成物により処理された被膜を有する無機多孔質基材は、耐ブロッキング性および耐エフロレッセンス性が優れ、上塗り塗料との密着性(ドライ密着性、耐水密着性)が優れ、耐凍害性が優れるものであった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書において、アクリルおよびメタクリルを合わせて(メタ)アクリルともいう。
本発明の下塗り剤組成物の主成分の中間原料である重合体Cは、20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)5〜70質量%および20℃における水100gへの溶解度が3g未満であるビニル単量体単位(B単位)30〜95質量%を構成単位として含み、重量平均分子量が1000〜100000の重合体である。
【0008】
20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステル(以下、親水性(メタ)アクリル酸エステルともいう。)単位(A単位)は、重合体に水分散性を付与するために重要な成分である。水100gへの溶解度は3〜10gが好ましく、3〜7gがより好ましい。3g未満であると、下塗り剤組成物により処理された無機多孔質基材は耐水密着性が不充分となり、20gを超えると耐水密着性および耐凍害性が不充分となる。
耐水密着性向上のメカニズムについて以下のように推察している。すなわち、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位のエステル部分が加水分解されると、カルボキシル基が生成する。生成したカルボキシル基と無機多孔質基材中のカルシウムイオンの作用により重合体が架橋する結果、耐水密着性が優れたものとなると推察している。
溶解度3g未満(メタ)アクリル酸エステルは、上記加水分解が充分なされないために耐水密着性が不充分となるものと考えられる。
【0009】
上記親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)は、水素結合性の活性水素を有しないものである。水素結合性の活性水素を有する基は、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミド基、リン酸基などに代表される基であり、水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステルとは、これらの基を有していない(メタ)アクリル酸エステルである。
【0010】
親水性(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、メチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート等が挙げられる。メチルアクリレートおよびメトキシエチルアクリレートは、得られる被膜の耐水性を特に優れたものとするために好ましく、メチルアクリレートが最も好ましい。
【0011】
親水性(メタ)アクリル酸エステル単位の割合は、重合体Cを構成する全単量体単位100質量%を基準として5〜70質量%であり、5〜50質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。70質量%を超えると得られる被膜の耐水性が悪いものとなり、5質量%未満であると得られる無機多孔質基材への含侵性が劣るものとなる。
【0012】
20℃における水100gへの溶解度が3g未満であるビニル単量体(以下、疎水性ビニル単量体ともいう。)単位(B単位)は、重合体に耐水性および耐洗剤性を付与するために重要な成分である。
疎水性ビニル単量体の具体例としては、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ) アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体等が挙げられる。これらの単量体2種以上が併用されてもよい。
【0013】
疎水性ビニル単量体単位の割合は、重合体Cを構成する全単量体単位100質量%を基準として30〜95質量%であり、50〜95質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。30質量%未満であると得られる被膜の耐水性が悪いものとなり、95質量%を超えると耐エフロレッセンス性や常態密着性が劣るものとなる。
【0014】
重合体Cは、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)および疎水性ビニル単量体単位(B単位)以外のビニル単量体(以下、その他のビニル単量体ともいう。)単位(E単位)を含むものであってもよい。該単量体単位は、重合体Cの物性を調整するために必要に応じて使用される。
【0015】
その他のビニル単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸モノメチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、無水マレイン酸、モノメチルイタコン酸、ブチルエステルまたはマレイン酸モノブチルエステル等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸およびそれらの塩、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩等のスルホニル基を含有するビニル単量体、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、グリセロール(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を含有するビニル単量体、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジメチル(メタ)アクリルアミド及びN-メチロールアクリルアミド等の酸アミド基またはN−アルキル基置換アミド基を含有するビニル単量体、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシエチルアクリレート、アシッドホスホオキシプロピルアクリレート等のホスフェイトモノマー、平均付加モル数4から100モルのポリオキシアルキレン鎖を有するポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類またはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類などのポリオキシエチレングリコール基を含有する単量体等が挙げられる。
【0016】
その他のビニル単量体単位の割合は、重合体Cを構成する全単量体単位100質量%を基準として20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。20質量%を超えると得られる被膜の耐水性が低下するため好ましくない。下限は特にないが、0.01質量%未満使用しても実質的に意味がない。
【0017】
重合体Cは、重量平均分子量が1000〜100000であり、1500〜50000であることが好ましい。重量平均分子量が100000を超えると組成物が基材への含侵性の劣るものとなり、得られる被膜は常態での基材への密着性が低いものとなる。重量平均分子量が1000未満であると得られる被膜が強度の小さいものとなる。
重合体Cは公知の方法(例えば溶液重合法、塊状重合法等)により製造される。重合においては連鎖移動剤が使用されてもよい。また、100℃以上の高温で重合されてもよい。
【0018】
重合体Cは、酸価が50mgKOH/g以下であることが好ましく、30mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が50mgKOH/gを超えると得られる被膜が耐水性の悪いものとなる場合がある。
【0019】
重合体Cは、ガラス転移温度が0℃以上であることが好ましく、0〜70℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が低すぎると、得られる被膜の耐水性や耐凍結融解性が悪くなる場合がある。ガラス転移温度が高すぎると組成物が被膜を形成しにくくなる場合がある。ガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)により測定できる。
【0020】
重合体Dは、無機多孔質基材を処理する組成物の主成分であり、耐ブロッキング性、耐エフロレッセンス性、上塗り塗料との密着性、耐凍害性をバランスよく発揮する。重合体Dは重合体Cを加水分解処理することにより得られる。
【0021】
上記加水分解においては、重合体Cに含まれる親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)の一部が加水分解される。加水分解された親水性(メタ)アクリル酸エステル単位は、(メタ)アクリル酸単位または(メタ)アクリル酸塩単位(以下、両者を合わせて(メタ)アクリル酸(塩)単位ともいう。)に転化される。生成した(メタ)アクリル酸(塩)単位は、カルボキシル酸またはカルボキシル酸塩の作用により、重合体の分散性をより良好なものにする。
【0022】
加水分解は、アルカリまたは酸などが添加され、必要に応じて加熱されることによってなされる。加水分解にはアルカリを使用することが好ましく、アンモニア等の揮発性のアルカリを使用することがより好ましい。
【0023】
上記加水分解される割合は、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)の5〜99モル%が好ましく、10〜90モル%がより好ましく、20〜80モル%がさらに好ましく、30〜75モル%が最も好ましい。
加水分解の割合は、例えば使用するアルカリの量によって制御される。アルカリの使用割合は、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)のモル数を基準として10〜90%が好ましく、20〜80%がより好ましく、30〜75%が最も好ましい。
【0024】
本発明の特徴のひとつは、重合体Dの有する(メタ)アクリル酸(塩)単位の少なくとも一部が、原料重合体Cの有する親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)を加水分解させて得られることにある。このことが、本発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物が、耐水性および無機多孔質基材への浸透性の両者が優れたものとなることに寄与していると推測している。そのメカニズムを以下に考察する。
【0025】
重合体Dが水性媒体中に分散されたエマルション粒子となるときに、原料重合体Cの有する親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)を加水分解させて生成する(メタ)アクリル酸(塩)単位は、重合体Dからなるエマルション粒子の表面近傍に多く分布することになる。逆に重合体Dからなるエマルション粒子の中心近傍には加水分解されていない親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)が多く分布することになる。(メタ)アクリル酸(塩)単位がエマルション粒子の表面近傍に局在化することにより、エマルション粒子の分散安定性が優れるとともに無機多孔質基材への浸透性が良好となると考えられる。エマルション粒子全体としては(メタ)アクリル酸(塩)単位を比較的少なく含むこととなるために、耐水性が優れたものになると考えられる。
【0026】
ところが、本発明の重合体Dとは異なり、当初から所定割合の(メタ)アクリル酸(塩)を含む単量体混合物を乳化重合させて得られる重合体は、均質に(メタ)アクリル酸(塩)単位を有するものであって、エマルション粒子の表面近傍および中心近傍における(メタ)アクリル酸(塩)単位の含有割合に差がない。従って耐水性および無機多孔質基材への浸透性のバランスが劣るものとなると考えられる。
【0027】
さて、本発明の組成物中のエマルション粒子が無機多孔質基材内部に深く含侵された後、エマルション粒子に残存する親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)は、無機多孔質基材と接触する表面の部分において速やかに加水分解される。生成したカルボキシ基が無機多孔質基材中のカルシウムイオン等の多価金属イオンにより架橋され無機多孔質基材の強度を補強するという効果も奏すると考えられる。
【0028】
水性媒体中に分散された重合体Dは、平均粒子径が80nm以下であることが好ましい。平均粒子径が80nmを超えると基材への含浸性が低下し、常態での密着性が小さいものとなる場合がある。
【0029】
重合体Dが水性媒体中に分散された水性分散体製造工程としては以下のような態様が例示される。
(1)有機溶剤に溶解された重合体Cの溶液に、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)のモル数の10〜90%(好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜75%)に相当するモル数のアンモニアを含むアンモニア水を添加して、加熱撹拌下に、水を加えながら有機溶剤を留去させる。
(2)水性媒体中に重合体Cからなる粒子が分散された水性分散体に、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)のモル数の10〜90%(好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜75%)に相当するモル数のアンモニアを含むアンモニア水を添加して加熱撹拌する。
【0030】
水性媒体は、水そのものであってもよいし、水と混和する有機溶剤と水の混合物であってもよい。水性媒体が水と混和する有機溶剤と水の混合物である場合、水の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0031】
無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、重合体Dが水性媒体中に分散された水性分散体そのものであってもよいが、必要に応じて種々の添加剤が添加されたものであってもよい。
【0032】
無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、着色顔料、体質顔料、充填剤、消泡剤、成膜助剤等が配合されたものであってもよい。
成膜助剤の具体例としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等の芳香族2塩基酸のジアルキルエステルが使用できる。また、コハク酸ジブチル、コハク酸ジオクチル等の脂肪族ジアルキルエステルが使用できる。エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のセロソルブ系化合物が使用できる。プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系化合物が使用でき、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール系化合物が使用でき、そして、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のトリグリコールエーテル系化合物等が使用できる。成膜助剤の使用量は、下塗り剤組成物中の重合体100質量部を基準として1〜20質量部程度とするのが好ましい。
【0033】
無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物は、固形分(不揮発成分)の割合が1〜50質量%であるものが好ましく、3〜20質量%であるものがより好ましい。固形分の割合が1質量%未満であると塗装膜厚を確保する為に塗装回数が多くなるので塗装作業性が悪くなル場合がある。一方50質量%を超えると基材に対する浸透性が劣る為、基材補強性が低下し、上塗り塗料の密着性や耐ブロッキング性が悪くなる場合がある。
【0034】
本発明の下塗り剤組成物の適用対象となる無機多孔質基材としては、各種セメント類や珪酸カルシウム、石膏、石灰等の水和反応によって硬化する物質に細骨材、軽量骨材、補強用繊維等を配合させた材料を成形させたものであり、従来から通常の建材用に使用されているものが挙げられる。セメントコンクリート、セメントモルタル、ALC(オートクレーブ軽量コンクリート)、PC(プレキャストコンクリート)、スレート板、珪酸カルシウム板、石綿セメント板、木片セメント板、パルプセメント板、炭酸カルシウム板、無機ボード、軽量気泡コンクリート板等の建築材料、窯業系サイデイングボード、構造材料、土木材料、あるいは工業材料として使用されているもの等が使用できる。
【0035】
無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物の塗装時期は、オートクレーブ養生用であれば養生前に塗工し、上塗り塗料のシーラー用であれば上塗り塗料を塗る以前に塗工する。基材に含侵させることが重要であり、基材に直接塗工することが望ましい。
【0036】
塗装方法は、特に制限はなく従来の公知の塗装方法、例えばローラー、刷毛、エアースプレー、エアレススプレー、シャワーコート、フローコート、ロールコート、浸漬等の方法で行なう事ができる。
【0037】
水性下塗り剤組成物を塗装させて得られる被膜を有する無機多孔質基材は、耐ブロッキング性および耐エフロレッセンス性が優れ、上塗り塗料との密着性(ドライ密着性、耐水密着性)が優れ、耐凍害性が優れるものとなる。
【0038】
本発明の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物が、耐水性および無機多孔質基材への浸透性の両者が優れたものとなる機構は明らかではないが、水性媒体中での分散に必要な最低限のカルボキシ基しか有さないことと、親水性(メタ)アクリル酸エステル単位中の易加水分解型エステル基が無機多孔質基材というアルカリ雰囲気中でカルボキシ基に変わり、さらに無機多孔質基材の表面でのカルシウムイオンにより架橋され耐水性が向上するものと推察される。
【実施例】
【0039】
実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。各例における「部」は「質量部」を意味する。
【0040】
(実施例1)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた3リットルのガラス製4つ口フラスコにエチレングリコールモノブチルエーテル150部を仕込み、窒素置換した後、内温を80℃に昇温した。他方、メチルメタクリレート50部、ブチルアクリレート30部、アクリル酸メチル20部、ベンゾイルパーオキシド3部およびイソプロピルアルコール130部からなる単量体混合物を重合容器中に3時間かけて滴下した後、さらに82℃で2.5時間反応を継続し重合を終了させた。次いで25%アンモニア水12部(アクリル酸メチルのモル数の70%相当)を加えて、5時間82℃に保った後、有機溶媒を留去しながら水を加えて固形分20%の水性分散体を得た。
【0041】
(実施例2)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた容量3リットルのガラス製4ツ口フラスコにイオン交換水150部とニューコール707SF(日本乳化剤製)3部を仕込んだ。一方、イオン交換水43部、メチルメタクリレート40部、ブチルアクリレート20部、アクリル酸メチル40部、t−ドデシルメルカプタン0.7部およびニューコール707SF 1部をホモジナイザーで混合乳化した単量体混合液を別途調製し、単量体混合液の10%をフラスコに投入した。さらに2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4部を加えた後、フラスコ内を窒素置換し、80℃に昇温して重合反応をおこなった。30分後、残りの単量体混合液と2.5%過硫酸アンモニウム水溶液4部を別々に上記フラスコ中へ3時間かけて滴下させ、滴下が終了した後82℃において2.5時間反応させて重合を終了した。次いで25%アンモニア水11.4部(アクリル酸メチルのモル数の50%相当)を加えて、5時間82℃に保った後、冷却して水性分散体を製造した。
【0042】
(比較例3、4、6)
単量体組成およびアンモニアの量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較用水性分散体を製造した。
(比較例5)
単量体組成およびアンモニアの量を表1に示すように変更した以外は、実施例2と同様にして、比較用水性分散体を製造した。
(比較例7)
アンモニア添加による加水分解処理をしなかった他は実施例2と同様にして、比較用水性分散体を製造した。
(比較例8)
アンモニアの量をメチルアクリレートモル数に対し120%にした他は実施例2と同様にして、比較用水性分散体を製造した。
【0043】
(評価)
上記水性分散体および比較用水性分散体を下塗り剤組成物として使用し、以下の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0044】
1)耐ブロッキング性
2枚のスレート板に下塗り剤組成物を固形分で40g/m2の厚みになるようにスプレー塗装し、100℃で5分間乾燥を行った後、スレート板を塗装面同士を荷重が400g/cm2になるように加圧を行い、このものを水蒸気存在下、180℃で10時間加熱した後、室温に冷却し2枚のスレート板間の剥がれ易さを手作業で評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:全く付着せずに良好であった
○:若干付着していたが軽い力で剥離が可能で実用上問題ない
△:強い力をかけないと剥離できなかった
×:剥離が困難であった
【0045】
2)耐エフロレッセンス性
セメントペースト(セメント/フェルト繊維/水=100/4/35の質量比で調合したものを平板状に加工して30分間放置したもの)表面に固形分で40g/m2の厚みになるように下塗り剤組成物をスプレー塗装し、放置乾燥し、さらに、オートクレーブ養生(180℃、約10時間、水蒸気存在下)を行った後、塗膜表面を観察した。評価は次の基準で行った。
◎:白化が全く無かった
○:若干白化したが実用上問題ない
△:白化した
×:白化が著しかった
【0046】
3)ドライ密着性(常態密着性)
珪酸カルシウム板上に下塗り剤組成物を固形分で40g/m2の厚みとなるように塗布後、100℃で20分間乾燥を行った。さらに市販の水性上塗り塗料を有り姿で75g/m2の厚みとなるように塗布後100℃で20分間乾燥させて試験板を作成した。カッターナイフを使用して塗膜を4mm間隔で格子状に切り、25個の桝目を形成した。塗膜に粘着テープ(ニチバン製粘着テープ)を圧着した後、一気に引き剥がした。剥がれずに珪酸カルシウム板状に残存したシーラー皮膜片の面積(桝目数)から以下の式に従って密着性を評価した。数値が100に近いほど密着性が良好であることを表している。密着性は無機多孔質基材への組成物の浸透性の指標となる。
密着性(%)=100×残った桝目数/25
【0047】
4)耐水密着性
ドライ密着性評価に使用したのと同じ試験板を用意し、これを60℃の温水に24時間浸漬し、室温で24時間静置したものについて、ドライ密着性と同様に密着性を試験した。
【0048】
5)耐凍害性試験
ドライ密着性評価に使用したのと同じ試験板を−20℃×18時間凍結と20℃×8時間融解とを1サイクルとし、このサイクルを40回繰り返した後の塗膜状態を評価した。評価基準は以下のとおりであり、異常とははがれ、われまたはふくれを意味する。
◎:異常がなかった
○:ごく僅かな異常が認められた
△:異常が認められた
×:著しい異常が認められた
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
屋根瓦や外壁材等の用途に使われる無機多孔質基材の補強または上塗り塗料との密着性の向上を目的とする下塗り剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステル単位(A単位)5〜70質量%および20℃における水100gへの溶解度が3g未満であるビニル単量体単位(B単位)30〜95質量%を構成単位として含み重量平均分子量1000〜100000である重合体Cを加水分解させて得られる、上記A単位の一部が加水分解された重合体Dが水性媒体中に分散された水性分散体を含有する、無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項2】
上記重合体Cは、上記A単位およびB単位以外のビニル単量体単位(E単位)0.01〜20質量%をも構成単位として含むものである、請求項1に記載の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項3】
上記重合体Cは、酸価が50mgKOH/g以下のものである、請求項1または2に記載の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項4】
上記重合体Cは、ガラス転移温度が0℃以上のものである、請求項1に記載の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項5】
上記重合体Dは、平均粒子径が80nm以下のものである、請求項1に記載の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項6】
20℃における水100gへの溶解度が3〜20gであり水素結合性の活性水素を有しない(メタ)アクリル酸エステルは、メチルアクリレートまたはメトキシエチルアクリレートである請求項1に記載の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項7】
上記加水分解は、上記A単位のモル数の10〜90%に相当するアンモニアを含むアンモニア水が添加されてなされることを特徴とする請求項1に記載の無機多孔質基材用水性下塗り剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水性下塗り剤組成物が塗装された被膜を有する無機多孔質基材。

【公開番号】特開2007−39497(P2007−39497A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222817(P2005−222817)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】