説明

無機層状化合物分散液および多層構造体の製造方法

【課題】高湿度条件下でのガスバリア性に優れる多層構造体を与える無機層状化合物分散液を提供することにある。また、高湿度条件下でのガスバリア性に優れる多層構造体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物と、液体媒体とを含む無機層状化合物分散液であって、
上記分散液に含まれるナトリウムイオンの量が、上記分散液に含まれる無機層状化合物1gあたり300μmol以下である無機層状化合物分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機層状化合物分散液および多層構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂からなる成形体は、食品分野、化粧品分野、農薬分野、医療分野等の分野で、包装材料として用いられている。熱可塑性樹脂製成形体を包装材料として用いる場合には、内容物が酸素により劣化することを防ぐため、ガスバリア性が求められることが多い。このようなガスバリア性を有する包装材料として、例えば特許文献1には、ポリビニルアルコールと無機層状化合物である合成ヘクトライトと水とを含む分散液を基材フィルム上に塗布後、乾燥して得られる多層フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−30944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記フィルムは、高湿度条件下でのガスバリア性が不十分であることがあった。
【0005】
本発明の課題は、高湿度条件下でのガスバリア性に優れる多層構造体を与える無機層状化合物分散液を提供することにある。また、高湿度条件下でのガスバリア性に優れる多層構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物と、液体媒体とを含む無機層状化合物分散液であって、
上記分散液に含まれるナトリウムイオンの量が、上記分散液に含まれる無機層状化合物1gあたり300μmol以下である無機層状化合物分散液である。
また本発明は、他の面において、層間に水素イオンを有する無機層状化合物、層間にリチウムイオンを有する無機層状化合物、及び層間にアンモニウムイオンを有する無機層状化合物からなる群より選ばれる1種以上の無機層状化合物を含む層と、基材層とを含む多層構造体の製造方法であって、以下の工程(1)および工程(2)を含む多層構造体の製造方法である。
工程(1):無機層状化合物分散液を基材層表面に塗布して、塗布膜を形成し、次いで20〜150℃の温度条件下で乾燥処理を行い、該塗布膜から液体媒体を除去して、基材層と無機層状化合物層(I)を含む予備構造体を製造する工程
工程(2):該予備構造体を加熱処理して、無機層状化合物層(I)における無機層状化合物の層間距離を狭くし、多層構造体を得る工程
【発明の効果】
【0007】
本発明の無機層状化合物分散液を用いて製造される多層構造体は、高湿度条件下でのガスバリア性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の無機層状化合物分散液は、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物と、液体媒体とを含む。
本発明の無機層状化合物分散液を得るために用いられる無機層状化合物としては、液体媒体への膨潤性、劈開性を有する粘土鉱物が好ましく用いられる。無機層状化合物とは、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を形成している物をいう。層状構造とは、原子が共有結合等によって強く結合して密に配列した面が、ファン・デル・ワールス等の弱い結合力によってほぼ平行に積み重なった構造をいう。
【0009】
粘土鉱物は、一般に(i)シリカの四面体層の上部に、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属とした八面体層を有する2層構造を有するタイプと、(ii)シリカの四面体層が、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属とした八面体層を両側から挟んでなる3層構造を有するタイプに分類される。(i)の2層構造タイプの粘土鉱物としては、カオリナイト−蛇紋石族の粘土鉱物が挙げられる。(ii)の3層構造タイプの粘土鉱物としては、タルク−パイロフィライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族、脆雲母族および緑泥石族等の粘土鉱物が挙げられる。
【0010】
カオリナイト−蛇紋石族の具体例としては、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、リザーダイト、アメサイト、バーチェリン、クロンステダイト、ネポーアイト、ケリアイト、フレイポナイト、ブリンドリアイト等が挙げられる。
タルク−パイロフィライト族の具体例としては、タルク、ウィレムサイト、ケロライト、ピメライト、パイロフィライト、フェリパイロフィライト等が挙げられる。
スメクタイト族の具体例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、ボルコンスコアイト、スインホルダイト等が挙げられる。
バーミキュライト族の具体例としては、3八面体型バーミキュライト、2八面体型バーミキュライト等が挙げられる。
マイカ族の具体例としては、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、金雲母、黒雲母、鉄雲母、イーストナイト、シデロフィライトテトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、ポリリシオナイト、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、パラゴナイト、レピドライト等が挙げられる。
脆雲母族の具体例としては、ザンソフィライト、クリントナイト、ビテ雲母、アナンダ石、真珠雲母、マーガイラト等が挙げられる。
緑泥石族の具体例としては、クリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ニマイト、ベイリクロア、ドンバサイト、クッケアイト、スドーアイト等が挙げられる。
また、これら粘土鉱物を有機物でイオン交換等の処理し、分散性等を改良したもの(朝倉書店、「粘土の事典」参照;以下、有機修飾粘土鉱物と称する場合もある)も無機層状化合物として用いることができる。粘土鉱物を処理する上記有機物としては、公知のジメチルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩やフォスフォニウム塩、イミダゾリウム塩等を用いることができる。
【0011】
上記粘土鉱物の中でも、(ii)の3層構造タイプの粘土鉱物であるスメクタイト族、バーミキュライト族およびマイカ族の粘土鉱物が好ましく、スメクタイト族が特に好ましい。スメクタイト族としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライトが好ましく、とりわけ液体媒体への膨潤性、劈開性の点からモンモリロナイトが好ましく用いられる。
2種類以上の無機層状化合物を用いてもよい。
【0012】
無機層状化合物のアスペクト比は、20〜10000のものが好ましく用いられる。無機層状化合物のアスペクト比が20以上であると本発明の無機層状化合物分散液を用いて製造される多層構造体のガスバリア性が優れ、好ましい。アスペクト比が10000以下であると無機層状化合物を膨潤し劈開させやすくなり、本発明の無機層状化合物分散液を用いて製造される多層構造体のガスバリア性が優れ、好ましい。なお、無機層状化合物のアスペクト比とは、該無機層状化合物と液体媒体を含む無機層状化合物分散液中での値である。
【0013】
無機層状化合物は、平均粒径が10μm以下であることが好ましい。平均粒径が10μm以下であると本発明の無機層状化合物分散液を用いて製造される多層構造体のガスバリア性、透明性、製膜性に優れるため好ましく、特に透明性が求められる用途では1μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明において、無機層状化合物のアスペクト比(Z)は、式:Z=L/aで定義される。式中、Lは無機層状化合物の平均粒径であり、aは、無機層状化合物の単位厚さ、即ち、無機層状化合物の単位結晶層の厚みを示し、粉末X線回析法(「機器分析の手引き(a)」(1985年、化学同人社発行、塩川二朗監修)69頁参照)により求められる。
【0015】
無機層状化合物の平均粒径とは、液体媒体中の回折/散乱法により求めた粒径(体積基準のメジアン径)である。すなわち、無機層状化合物の分散液に光を通過させたときに得られる回折/散乱パターンから、ミー散乱理論等により、上記回折/散乱パターンに最も矛盾のない粒度分布を計算することにより求めることができる。具体的には、例えば粒度分布の測定範囲を適当な区間に分け、それぞれの区間について、代表粒子径を決定し、本来連続的な量である粒度分布を離散的な量に変換させて計算する方法が挙げられる。
【0016】
無機層状化合物としては、具体的には、下記の膨潤性試験による膨潤値が5以上のものが好ましく、膨潤値が20以上のものがより好ましい。また、下記の劈開性試験による劈開値が5以上のものが好ましく、劈開値が20以上のものがより好ましい。
【0017】
〔膨潤性試験〕
100mlメスシリンダーに液体媒体100mlを入れ、これに無機層状化合物2gを徐々に加える。23℃にて24時間静置後、上記メスシリンダー内における無機層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から無機層状化合物分散層の体積(ml)を読む。この数値(膨潤値)が大きい程、膨潤性が高いことを示す。
【0018】
〔劈開性試験〕
無機層状化合物30gを液体媒体1,500ml中に徐々に加え、分散機(浅田鉄工株式会社製、デスパMH−L、羽根径52mm、回転数3,100rpm、容器容量3L、底面−羽根間の距離28mm)にて、周速8.5m/分、23℃で90分間分散させた後、この分散液100mlをメスシリンダーに採取する。60分静置後、上記メスシリンダー内における無機層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から無機層状化合物分散層の体積(ml)を読む。この数値(劈開値)が大きい程、劈開性が高いことを示す。
【0019】
本発明の無機層状化合物分散液に含まれる液体媒体としては特に限定されないが、後述の無機層状化合物を膨潤かつ劈開させる液体媒体を用いることが好ましい。
【0020】
無機層状化合物を膨潤し劈開させる液体媒体としては、無機層状化合物が親水性の膨潤性粘土鉱物の場合には、水、アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、とりわけ、取り扱いが容易であることから、水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0021】
また、無機層状化合物が有機修飾粘土鉱物の場合には、芳香族炭化水素、エーテル、ケトン、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、シリコンオイルなどを液体媒体として用いることができる。
芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
エーテルとしては、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
脂肪族炭化水素としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素としては、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレン等が挙げられる。
【0022】
無機層状化合物分散液に含まれるナトリウムイオンの量が、上記分散液に含まれる無機層状化合物1gあたり300μmol以下とするために、本発明の無機層状化合物は、
層間に水素イオンを有する無機層状化合物、層間にリチウムイオンを有する無機層状化合物、及び層間にアンモニウムイオンを有する無機層状化合物からなる群より選ばれる1種以上の無機層状化合物であることが好ましい。無機層状化合物は通常、層間に陽イオンを有する。該陽イオンが水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンである無機層状化合物について、市販のものが入手できる場合は、それを用いることができるが、該陽イオンは通常、ナトリウムイオンが主成分であるため、後述の方法によりナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンに交換することが好ましい。
【0023】
無機層状化合物の層間のナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンに交換する方法としては、例えば水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンを有するイオン交換樹脂と、層間の陽イオンがナトリウムイオンである無機層状化合物および液体媒体を含む分散液とを接触させた後に、イオン交換樹脂の残渣を取り除く方法や、層間の陽イオンがナトリウムイオンである無機層状化合物および液体媒体を含む分散液を、半透膜を介して、水素イオンとリチウムイオンとアンモニウムイオンとからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンを含有する液と接触させ、圧力差あるいは電気透析を利用してイオン交換する方法が挙げられる。このような水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンを有する無機層状化合物分散液を用いて後述する多層構造体を製造した場合、該多層構造体はガスバリア性に優れたものとすることができる。
【0024】
本発明のオキソ酸としては、ある原子にヒドロキシル基とオキソ基が結合しており、かつ該ヒドロキシル基が酸性プロトンを与える化合物である。また本発明のオキソ酸としては、無機オキソ酸と有機オキソ酸に分類できる。
【0025】
本発明の無機オキソ酸としては、無機酸であり、中心原子は非金属であっても金属であっても構わない。中心原子が非金属の無機オキソ酸としては、具体的には、ホウ酸、リン酸、硫酸、硝酸、ケイ酸、炭酸などが挙げられる。中心原子が金属の無機オキソ酸としては、具体的には、タングステン酸、モリブデン酸、クロム酸、バナジン酸、過レニウム酸および過マンガン酸などが挙げられる。中でも、取り扱いの容易さから、ホウ酸、リン酸、硫酸、タングステン酸、モリブデン酸、クロム酸およびバナジン酸であることが好ましく、リン酸であることがより好ましい。
【0026】
本発明の有機オキソ酸としては、有機酸であり、通常、カルボン酸である。該カルボン酸としては、例えばモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸等が挙げられる。
トリカルボン酸としては、クエン酸等が挙げられる。
また鎖式カルボン酸であっても芳香族カルボン酸であってもよく、また酸無水物であってもよい。
中でも取り扱いの容易さから、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸であることが好ましく、酢酸であることがより好ましい。
【0027】
本発明で使用するオキソ酸はポリ酸であってもよく、そのポリ酸はイソポリ酸であってもヘテロポリ酸であってもよい。
【0028】
本発明のオキソ酸の金属塩において、金属塩を形成するための陽イオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、1,2,3または4級アルキルアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンおよびスルホニウムイオンなどが挙げられる。中でも、前述の方法によりイオン交換し、本発明の無機層状化合物分散液を製造する場合、イオン交換のしやすさから、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンであることが好ましく、ナトリウムイオン、リチウムイオンまたはアンモニウムイオンであることがより好ましく、ナトリウムイオンであることがさらに好ましい。
【0029】
該オキソ酸単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。同様にオキソ酸の金属塩についても、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。またオキソ酸とオキソ酸の金属塩とを組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の液体媒体としては、前述の無機層状化合物を膨潤かつ劈開させる液体媒体を用いることが好ましい。中でもオキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物の溶解性の点から、水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましい。
【0031】
本発明の無機層状化合物分散液中のナトリウムイオンの量は、上記分散液に含まれる無機層状化合物1gあたり300μmol以下である。より好ましくは200μmol以下であり、さらに好ましくは100μmol以下である。
また、本発明の無機層状化合物分散液中のリチウムイオンと水素イオンとアンモニウムイオンとの合計の量は、該分散液中の無機層状化合物1gあたり500μmol以上であることが好ましく、600μmol以上であることがより好ましく、700μmol以上であることがさらに好ましい。また、リチウムイオンと水素イオンとアンモニウムイオンとの合計を100%とするとき、水素イオン量が50%以上であることが、より好ましい。
さらに好ましくは、ナトリウムイオン濃度が上記した条件を満たし、かつ、リチウムイオンと水素イオンとアンモニウムイオンとの合計の濃度が、上記した条件を満たすことである。
【0032】
上記したナトリウムイオン濃度や、リチウムイオン濃度、水素イオン濃度、アンモニウムイオン濃度の要件を満たす無機層状化合物分散液を用いて、後述する多層構造体を製造した場合には、耐水性、ガスバリア性に優れた多層構造体とすることができる。
【0033】
各陽イオン濃度の調製方法は、前述のイオン交換方法を用いて行うことができる。
【0034】
無機層状化合物分散液中の陽イオンの定性および定量方法については、該陽イオンが、ナトリウムイオン、リチウムイオン等の金属イオンである場合は、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて測定を行う。該誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて測定したナトリウム濃度、リチウム濃度等の金属濃度を、それぞれナトリウムイオン濃度、リチウムイオン濃度とする。また該陽イオンがアンモニウムイオン等の非金属イオンである場合は、キャピラリー電気泳動法により求めることができる。また水素イオンについては、イオン交換前の無機層状化合物中の陽イオン濃度と、イオン交換後の無機層状化合物中の陽イオン濃度との差により求めることができる。無機層状化合物分散液が入手できる場合は、該無機層状化合物分散液から液体媒体を除去した試料を用いて各イオン濃度を測定することができる。また無機層状化合物分散液が入手できない場合は、後述する多層構造体全体の各イオン濃度を測定し、そこから無機層状化合物層以外の層に含まれる陽イオン濃度を差し引くことによって、各イオン濃度を求めることができる。
【0035】
本発明の無機層状化合物分散液に含まれるオキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物との合計重量を100重量%とするときに、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物の割合が0.01〜10重量%であることが好ましく、0.01〜5重量%であることがより好ましく、0.01〜2重量%であることがさらに好ましい。オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物の割合を上記範囲とすることで、前述の方法によりイオン交換し、本発明の無機層状化合物分散液を製造する場合、ナトリウムイオンを低減しやすくなり、また本発明の無機層状化合物分散液を用いて後述する多層構造体を製造した場合、該多層構造体はガスバリア性に優れたものとすることができる。
該無機層状化合物分散液の重量を100重量%とするときに、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物との合計重量の割合は、0.1〜20重量%であることが好ましく、1〜15重量%であることがより好ましく、3〜10重量%であることがさらに好ましい。オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と無機層状化合物との合計重量の割合を上記範囲とすることで、後述する多層構造体における無機層状化合物層(I)を形成する際の製膜性に優れる。
無機層状化合物分散液の重量を100重量%とするときに、無機層状化合物の割合は、0.1〜20重量%であることが好ましく、1〜15重量%であることがより好ましく、3〜10重量%であることがさらに好ましい。
【0036】
該無機層状化合物分散液の製造方法としては、例えば、以下のような順に混合する方法が挙げられる。
層間の陽イオンがナトリウムイオンである無機層状化合物を用いる場合、下記の(i)〜(vi)の方法が挙げられる。
(i)液体媒体と無機層状化合物とを混合した分散液(1)を作製し、該分散液(1)中の無機層状化合物が層間に有するナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンにイオン交換した分散液(1’)を作製した後に、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を混合する方法。
(ii)上記分散液(1)にオキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を混合し、分散液(2)を作製した後に、分散液(2)中の無機層状化合物が層間に有するナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンにイオン交換する方法。
(iii)オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物とを予め混合し混合物を作製した後、さらに該混合物と液体媒体とを混合して分散液(3)とし、分散液(3)中の無機層状化合物が層間に有するナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンにイオン交換する方法。
(iv)オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を液体媒体に溶解した後、無機層状化合物を混合し、分散液(4)を作製した後、分散液(4)中の無機層状化合物が層間に有するナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンにイオン交換する方法。
(v)上記分散液(1)と、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を液体媒体に溶解した液とを混合し、分散液(5)を作製した後、分散液(5)中の無機層状化合物が層間に有するナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンにイオン交換する方法。
(vi)上記分散液(1)中の無機層状化合物が層間に有するナトリウムイオンを、水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンにイオン交換した分散液(1’)と、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を液体媒体に溶解した液とを混合する方法。
【0037】
また、無機層状化合物分散液の製造に用いる無機層状化合物の層間の陽イオンが水素イオン、リチウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の陽イオンを有する無機層状化合物であるの場合、下記の(vii)〜(x)の方法が挙げられる。
(vii)液体媒体と無機層状化合物とを混合した分散液(6)に、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を混合する方法。
(viii)オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物とを予め混合し、混合物を作製した後、さらに該混合物と液体媒体とを混合する方法。
(ix)オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、液体媒体とを混合した後、無機層状化合物を混合する方法。
(x)液体媒体と無機層状化合物とを混合して作製した分散液(3)と、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と液体媒体とを混合した液とを混合する方法。
【0038】
無機層状化合物の分散性の点から、(iv)または(ix)の方法を用いることが好ましい。
【0039】
本発明の無機層状化合物分散液、上記分散液(1)〜(6)、または分散液(1’)などの無機層状化合物を含む液を調製する場合には、無機層状化合物の分散性の観点から、高圧分散装置を用いて高圧分散処理することが好ましい。高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation 社製超高圧ホモジナイザー(商品名:マイクロフルイダイザー)、ナノマイザー社製ナノマイザー、マントンゴーリン型高圧分散装置、イズミフードマシナリ製ホモゲナイザーが挙げられる。高圧分散処理とは、無機層状化合物を含む液を複数本の細管中に高速通過させた後に合流させて、無機層状化合物を含む液同士あるいは該無機層状化合物を含む液と細管内壁とを衝突させることにより、無機層状化合物を含む液に高剪断および/または高圧を付加する処理方法である。高圧分散処理では、無機層状化合物を含む液を管径1μm〜1000μm程度の細管中に通過させ、このとき100kgf/cm2以上の最大圧力が印加されるように処理することが好ましい。最大圧力は500kgf/cm2以上であることがより好ましく、1000kgf/cm2以上であることが特に好ましい。また無機層状化合物を含む液が細管内を通過する際、該無機層状化合物を含む液の最高到達速度は100m/秒以上であることが好ましく、圧力損失による伝熱速度は100kcal/時間以上であることが好ましい。
本発明の無機層状化合物分散液は、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物、無機層状化合物、および液体媒体以外の成分として樹脂を含有してもかまわない。本発明の無機層状化合物分散液が樹脂を含む場合、後述する製造方法により得られる多層構造体の無機層状化合物を含む層は柔軟性を有する。
【0040】
該樹脂としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、多糖類、ポリアクリル酸およびそのエステル類、ポリメタアクリル酸およびそのエステル類、アミド樹脂、イミド樹脂、エステル樹脂、一分子中に2種類以上の官能基を有する樹脂、ウレタン樹脂が挙げられるが、水、アルコールまたは水−アルコール混合物に溶解または分散する樹脂が好ましい。
【0041】
ポリビニルアルコールとは、ビニルアルコールに基づく単量体単位を主成分として有するポリマーである。このようなポリビニルアルコールとしては、例えば、ビニルエステル化合物の重合体のエステル部分を加水分解して得られるポリマーやビニルエーテル化合物の重合体のエーテル部分を加水分解して得られるポリマーが挙げられる。ビニルエステル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、ギ酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。またビニルエーテル化合物としては、例えばt−ブチルビニルエーテル、トリメチルシリルビニルエーテル等が挙げられる(「ポリビニルアルコール」の詳細については、例えば、ポバール会編、「PVAの世界」、1992年、(株)高分子刊行会;長野ら、「ポバール」、1981年、(株)高分子刊行会を参照することができる)。上記ビニルエステル化合物の重合体およびビニルエーテル化合物の重合体の加水分解(けん化)の程度は、70モル%以上が好ましく、85モル%以上のものがより好ましく、98%モル以上のいわゆる完全けん化品がさらに好ましい。例えば、酢酸ビニル重合体の加水分解(けん化)の程度が100モル%未満の場合、加水分解されたポリマーは、酢酸ビニルに基づく単量体単位とビニルアルコールに基づく単量体単位とを有するポリマーである。
また、重合度は、100以上5000以下、200以上3000以下であることがより好ましい。
【0042】
また、ポリビニルアルコールとして、水酸基以外の官能基を有するいわゆるポリビニルアルコール誘導体も使用でき、水酸基以外の官能基として例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、シリル基、シロキサン基、アルキル基、アリル基、フルオロアルキル基、アルコシキ基、カルボニル基、ハロゲン基等が例示できる。PVA中の水酸基の一部がこれら官能基の1種または2種以上と置き換わっていてもよい。
【0043】
多糖類とは、種々の単糖類の縮重合によって生体系で合成される生体高分子であり、ここではそれらをもとに化学修飾したものも含まれる。たとえば、セルロースおよびヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサン、などが挙げられる。
【0044】
イミド樹脂とは、分子内の繰り返し単位にイミド結合を有する樹脂であり、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを指し、具体的にはポリアミック酸を脱水、環化反応して得られる樹脂である。
【0045】
アミド樹脂とは、分子内の繰り返し単位にアミド結合を有する樹脂であり、脂肪族骨格を有する脂肪族ポリアミドあるいは芳香族骨格を有する芳香族ポリアミドが挙げられる。脂肪族ポリアミドとしては、例えばε-カプロラクタムの重縮合反応物、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共縮重合物が挙げられる。また芳香族ポリアミドとしてはp-フェニレンジアミンとテレフタル酸クロリドとの共縮重合物、m-フェニレンジアミンとイソフタル酸クロリドとの共縮重合物などが挙げられる。
【0046】
一分子中に2種類以上の官能基を含む樹脂としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、カルボキシレート基、およびアンモニウム基からなる群より選ばれる2種以上の官能基を一分子中に含む樹脂であることが好ましい。また、前記2種類以上の官能基が共有結合性、あるいはイオン結合性の結合をし得る官能基であることが好ましい。具体的には、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体、ビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体、ビニルアルコール−ビニルアミン共重合体、アクリル酸−ビニルアミン共重合体、メタアクリル酸−ビニルアミン共重合体等の共重合体、また上記ポリビニルアルコール誘導体あるいは多糖類のうち、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、カルボキシレート基、およびアンモニウム基からなる群より選ばれる官能基を有する樹脂が挙げられる。
水系の液体媒体に容易に溶解させることができ、取り扱いが容易であることや、本発明の製造方法により得られる分散液を用いて得られる膜のガスバリア性の観点から、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂であることが好ましく、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体、ビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0047】
また、上述の樹脂を2種類以上併用してもよい。2種類以上の樹脂を併用する場合は、各樹脂が互いに異なる官能基を含む樹脂であることが好ましく、各樹脂が含む官能基が、共有結合性、あるいはイオン結合性の結合をし得る官能基であることが好ましい。水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、カルボキシレート基、アンモニウム基からなる群より選ばれる官能基を含む樹脂を併用することが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコール、多糖類、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリメタアクリル酸部分中和物、ポリビニルアミン等のうち、2種類以上の組み合わせが挙げられる。
水系の液体媒体に容易に溶解させることができ、取り扱いが容易であることや、本発明の製造方法により得られる分散液を用いて得られる膜のガスバリア性の観点から、水酸基を含む樹脂と、カルボキシル基を含む樹脂を併用することが好ましい。この場合、水酸基を含む樹脂としてポリビニルアルコール、カルボキシル基を含む樹脂としてポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸またはポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物であることが好ましい。
【0048】
前記カルボキシル基を含む樹脂は、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリメタアクリル酸部分中和物から選択される1種以上の樹脂であることが好ましい。またアクリル酸とメタアクリル酸との共重合体も使用できる。上記カルボキシル基を含む樹脂の平均分子量は、2000〜1000000の範囲が好ましく、より好ましくは100000〜1000000が好ましい。
【0049】
ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタクリル酸部分中和物は、通常、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸の水溶液にアルカリを添加することにより得ることができる。ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸とアルカリの量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。ポリアクリル酸部分中和物およびポリメタクリル酸部分中和物は、ガスバリア性や透明性の点から、以下の式により算出される中和度が0.1%〜20%であることが好ましい。
中和度=(A/B)×100
A:ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸1g中に含まれる中和されたカルボキシル基の全モル数
B:ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸1g中に含まれる中和前のカルボキシル基の全モル数
【0050】
一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂を用いる場合、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂を併用する場合、一分子中、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂の混合物中の水酸基とカルボキシル基のモル比は、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5であることが好ましく、より好ましくは70:30〜95:5である。また本発明の製造方法により得られる分散液を用いて得られる膜を、特に高湿度条件下でのガスバリア性に優れるものとするためには、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂の混合物に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量が30〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは35〜55重量%である。前記水酸基およびカルボキシル基の合計重量は、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂の重量、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂の混合物の重量を100重量%としたときの値である。
【0051】
一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂を用いる場合、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂を併用する場合、水酸基とカルボキシル基とのモル比は、公知のNMR法、IR法等により求めることができる。例えばIR法であれば、水酸基とカルボキシル基のモル比が既知のサンプルを用い、検量線を求め、算出することができる。また完全けん化品であるポリビニルアルコールと、アクリル酸単独重合体および/またはメタアクリル酸単独重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基のモル数を求め、モル比を算出することができる。水酸基およびカルボキシル基の合計重量測定については、モル比と同様、公知のNMR法、IR法等にて求めることができる。例えばIR法であれば、ポリオールユニット数が既知であるポリオール重合体および、ポリカルボン酸ユニット数が既知であるポリカルボン酸重合体について検量線を求め、算出することができる。また完全けん化品であるポリビニルアルコールと、アクリル酸単独重合体および/またはメタアクリル酸単独重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基の重量を求め、この合計量を用いることができる。
【0052】
一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂を用いる場合、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂を併用する場合、本発明の製造方法により得られる分散液を用いて得られる膜の耐水性の点から、アルカリ金属イオンを含むことが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。用いる樹脂の重量を100%とするとき、2000〜50000ppmであることが好ましく、より好ましくは2000〜20000ppmである。
【0053】
前記アルカリ金属イオンは、アルカリ金属イオン供与化合物に由来する。すなわち一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂を用いる場合、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂を併用する場合、アルカリ金属イオン供与化合物を含むことが好ましい。アルカリ金属イオン供与化合物としては、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、上記オキソ酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。また、無機層状化合物としてモンモリロナイトを用いる場合には、該モンモリロナイトの層間にナトリウムイオンが含まれるため、モンモリロナイトがアルカリ金属イオン供与化合物として作用する。したがって、無機層状化合物として、モンモリロナイトを用いることがとりわけ好ましい。またアルカリ金属イオン供与化合物として、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
本発明の無機層状化合物分散液が上記樹脂を含む場合、本発明で得られる分散液を用いて得られる多層構造体のガスバリア性の点から、上記無機層状化合物と上記樹脂との合計体積を100体積%とするときに、樹脂の割合は、1〜20体積%であることが好ましく、1〜10体積%であることがより好ましく、1〜5体積%であることがさらに好ましい。また該多層構造体における無機層状化合物層の柔軟性の点からは、上記無機層状化合物と上記樹脂との合計体積を100体積%とするときに、樹脂の割合は、50〜90体積%であることが好ましく、60〜80体積%であることがより好ましく、70〜80体積%であることがさらに好ましい。
【0055】
無機層状化合物分散液には、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を含有する無機層状化合物分散液を塗布して、後述の無機層状化合物層を形成することにより、該層と、それに隣接する層との密着性を向上させることができる。界面活性剤の含有量は、通常、無機層状化合物分散液100重量%中0.001〜5重量%である。界面活性剤の添加量が0.001重量%以上であると、密着性の向上しやすく、界面活性剤の添加量が5重量%以下であると、ガスバリア性が良好であるため好ましい。
【0056】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤など、界面活性剤を用いることができる。とりわけ炭素数6以上、24以下のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体等のエーテル型の非イオン性界面活性剤(シリコーン系非イオン性界面活性剤)や、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド化合物等のフッ素型非イオン性界面活性剤(フッ素系非イオン性界面活性剤)を使用することが密着性向上の観点から好ましい。
【0057】
本発明の層間に水素イオンを有する無機層状化合物、層間にリチウムイオンを有する無機層状化合物、及び層間にアンモニウムイオンを有する無機層状化合物からなる群より選ばれる1種以上の無機層状化合物を含む層と、基材層とを含む多層構造体の製造方法は、以下の工程(1)および(2)を含む。
(1)上記無機層状化合物分散液を基材層表面に塗布して、塗布膜を形成し、次いで20〜150℃の温度条件下で乾燥処理を行い、該塗布膜から液体媒体を除去して、基材層と無機層状化合物層(I)を含む予備構造体を製造する工程
(2)該予備構造体を加熱処理して、無機層状化合物層(I)における無機層状化合物の層間距離を狭くし、多層構造体を得る工程
【0058】
本発明の製造方法により得られる多層構造体は、基材層を有する。基材層を構成する材料は、金属や、樹脂、木材、セラミック、ガラス等が挙げられる。また基材層の形態は、紙や、布、不織布、フィルム等が挙げられる。
金属としては、銅、鉄、銀、アルミニウム等が挙げられ、またこれらの合金も含まれる。
セラミックスとしては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化チタン等が上げられる。
樹脂としては熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、エチレン系共重合体、エステル系樹脂、アミド系樹脂、ポリアリレート、アクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン系樹脂、疎水化セルロース系樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、水素結合性樹脂、カーボネート樹脂、サルホン樹脂、エーテルサルホン樹脂、エーテルエーテルケトン樹脂、フェニレンオキシド樹脂、メチレンオキシド樹脂、イミド樹脂等が挙げられる。
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1等が挙げられる。
エチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体またはそのケン化物、エチレン−α・β不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン−α・β不飽和カルボン酸共重合体等が挙げられる。
エステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
アミド系樹脂としては、ナイロン−6(Ny−6)、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体、ポリメチルメタクリルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6−Ny)等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
スチレン系樹脂としては、AS樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。
疎水化セルロース系樹脂としては、トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース等が挙げられる。
塩素系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。
フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等が挙げられる。
水素結合性樹脂としては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、セルロース誘導体等が挙げられ、このうち、樹脂単位重量あたりの水酸基の重量分率が20〜60%の割合を満たす重合体が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エチレンイミン樹脂、また後述の熱反応性組成物が反応してなる樹脂等が挙げられる。
光硬化性樹脂としては、光重合開始剤を用いて、エポキシ系化合物やアクリル系化合物を重合させてなるエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0059】
本発明の製造方法で得られる多層構造体がフィルムである場合には、基材層は無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれかであってもよい。
また基材層は、Ny−6層/MXD6−Ny層/Ny−6層やポリプロピレン層/エチレン−ビニルアルコール共重合体層/ポリプロピレン層のような多層フィルムであってもよく、アルミニウム、アルミナ、シリカが蒸着されたフィルムであってもよい。
【0060】
基材層には、これを他の層と積層するにあたり、コロナ処理、オゾン処理、電子線処理、イオン処理、シラン等のガスを用いたフレーム処理、常圧または減圧プラズマ処理等の表面処理を予め施していてもよい。また、基材層表面にアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層は、エチレンイミン系、2液硬化型ウレタン系のアンカーコート剤等を用いて形成することができる。また無機層状化合物層(I)、後述の熱反応性組成物層、樹脂層についても上記表面処理を施してもよい。
【0061】
無機層状化合物分散液を基材層表面に塗布して、塗布膜を形成する方法としては、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法等のグラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法等のロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、バーコーティング法、ディッピング法、スプレーコート法、スピンコート法が挙げられる。本発明の製造方法で得られる多層構造体がフィルムである場合には、均一な厚みの層を設けることができることからグラビア法、スピンコート法あるいはダイコート法を採用することが好ましい。なお、塗布膜は、基材層表面の一部に形成してもよく、全面に形成してもよい。またアンカーコート層あるいは後述の熱反応性組成物層等を設ける場合も同様の方法を適用することができる。
【0062】
塗布膜を20〜150℃の温度条件下で乾燥処理し、該塗布膜から液体媒体を除去して、無機層状化合物層(I)を形成する。該温度条件は好ましくは30〜140℃であり、より好ましくは40〜130℃であり、さらに好ましくは50〜120℃である。乾燥処理する時間は通常1秒間〜24時間である。加熱処理時の水蒸気濃度は、好ましくは0〜40g/m3である。該加熱処理に用いる熱源は特に限定されるものではなく、熱ロール接触、熱媒接触(空気等)、赤外線加熱、マイクロ波加熱等、種々の方法を適用することができる。工程(1)における乾燥処理は、後述の工程(2)における加熱処理において、無機層状化合物層(I)中に気泡等が発生しない程度まで乾燥すればよい。
【0063】
本発明の多層構造体の製造方法における工程(2)は、予備構造体を加熱して、無機層状化合物層(I)における無機層状化合物の層間距離を狭くし、多層構造体を得る工程である。
工程(2)において予備構造体を加熱処理する条件としては、160〜350℃であることが好ましく、170〜320℃であることがより好ましく、200〜300℃であることがさらに好ましい。また該加熱処理は、水蒸気濃度が50g/m3未満の雰囲気下で実施することが好ましい。加熱処理する時間は通常1秒間〜24時間である。該加熱処理に用いる熱源は特に限定されるものではなく、工程(1)における乾燥処理と同様の方法を適用することができる。
このように上記条件で乾燥処理を施した後、加熱処理を施すことで、無機層状化合物層(I)は、気泡等が存在せず、液体媒体をほぼ完全に除去することができ、また層間距離の狭い無機層状化合物とすることが出来る。
【0064】
本発明の製造方法で得られる多層構造体は、無機層状化合物層および基材層以外の層を有していてもよい。また無機層状化合物層と同じ組成の層をそれぞれ複数層有していてもよい。本発明の製造方法で得られる多層構造体の構成としては、例えば
基材層/無機層状化合物層/追加層A(構成1)、
基材層/無機層状化合物層/追加層B/追加層C(構成2)、
基材層/無機層状化合物層/追加層D/追加層E/追加層F(構成3)、
基材層/追加層G/無機層状化合物層(構成4)、
基材層/追加層H/無機層状化合物層/追加層I(構成5)、
基材層/追加層J/無機層状化合物層/追加層K/追加層L(構成6)、
が挙げられる。
ここで追加層C、E、Lは無機層状化合物層と同じ組成であってもよく、また追加層A、B、D、F、G、H、I、J、Kは、例えば後述する熱反応性組成物が反応してなる樹脂層であってもよい。
該熱反応性組成物とは、常温では液状、半固形状または固形状等であって常温下または加熱下で流動性を示す比較的低分子量の物質であるが、加熱処理により硬化反応や架橋反応を起こして分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成し得る組成物である。本発明で用いる熱反応性組成物は、前述の加熱処理前では溶剤に可溶であり、加熱処理することによって形成される樹脂層が、溶剤に不溶であるものが好ましい。
【0065】
熱反応性組成物としては、互いに反応する2種類以上のモノマーを含む組成物や、加熱により重合してポリマーを形成するモノマーと、重合開始剤とを含む組成物等が挙げられる。互いに反応する2種類以上のモノマーを含む組成物としては、水酸基を含むモノマーと、カルボキシル基を含むモノマーとを含む組成物が挙げられる。加熱により重合してポリマーを形成するモノマーとしては、エポキシ系化合物、(メタ)アクリロイル系化合物、アリル系化合物、ビニル系化合物が挙げられる。
熱反応性組成物は、エポキシ系化合物と重合開始剤とを含む組成物か、水酸基を含むモノマーと、カルボキシル基を含むモノマーとを含む組成物であることが好ましい。
【0066】
上記エポキシ系化合物とは、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物をいう。上記エポキシ系化合物中のエポキシ基の数としては、1分子当たり1個以上であることが好ましく、1分子当たり2個以上であることがより好ましい。ここで、1分子当たりのエポキシ基の数は、エポキシ系化合物中のエポキシ基の総数をエポキシ系化合物中の分子の総数で除算することにより求められる。
【0067】
上記エポキシ系化合物としては、公知のエポキシ基を有する化合物を用いることができ、例えばビスフェノール型エポキシ系化合物、ノボラック型エポキシ系化合物、グリシジルエステル型エポキシ系化合物、グリシジルアミン型エポキシ系化合物、フルオレン型エポキシ系化合物が挙げられるが、分子内に芳香環を有するエポキシ系化合物であることが好ましい。またシルセスキオキサンユニット等のシロキサン結合を分子内に有するエポキシ系化合物も用いることができる。熱反応性組成物は、2種類以上のエポキシ系化合物を含んでいてもよい。
【0068】
エポキシ系化合物用の重合開始剤としては、例えば、ビス(4−アミノシクロヘキシル)、メタンジアミノジフェニルスルホン、1,5−アザビシクロ−(4,3,0)−ノネン−7およびそれらの塩類等のアミン類;無水フタル酸、無水ドデセニルコハク酸等の酸無水物類;ビスフェノ−ルF、フェノ−ルノボラック等の多価フェノ−ル類;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;上述のようなアミンのBF3錯体化合物;芳香族スルホニウム塩、ヨードニウム塩及びホスホニウム塩等のブレンステッド酸塩類;アジピン酸ジヒドラジッド及びフタル酸ジヒドラジッド等の有機酸ヒドラジッド類;ジシアンジアミド類;アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、トリメリット酸及びカルボキシル基含有ポリエステル等のポリカルボン酸類等が挙げられる。反応速度の点から、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素等を対アニオンとした、ベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、ベンジルホスホニウム塩等のイオン性熱潜在性カチオン重合開始剤;N−ベンジルフタルイミド、芳香族スルホン酸エステル等の非イオン熱潜在性カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。また該重合開始剤は、分子内にポリイミド骨格を有することが好ましい。ここでいうポリイミド骨格とは、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された構造をいう。重合開始剤は、2種類以上用いてもよい。
【0069】
水酸基を含むモノマーと、カルボキシル基を含むモノマーとを含む組成物としては、例えば芳香族アルコールと芳香族カルボン酸とを含む組成物等が挙げられる。
具体的には、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせや、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸や、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせ、またこれらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の一部を芳香族アミノカルボン酸に置き換えたもの、芳香族ジオールの一部を、フェノール性水酸基を有する芳香族アミンおよび/または芳香族ジアミンに置き換えたもの、を用いることができるが、溶剤への溶解性など取り扱いの容易さから、(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と(2)芳香族ジカルボン酸と(3)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンあるいは芳香族アミノ酸、とを含むことが好ましい。
【0070】
上記(1)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸などが挙げられるが、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を含むことが好ましい。またこれらを2種類以上用いても構わない。
上記(2)で示される芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられるが、イソフタル酸を含むことが好ましい。またこれらを2種類以上用いても構わない。
上記(3)で示される芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンあるいは芳香族アミノ酸としては、例えば、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、アミノ安息香酸などが挙げられるが、4−アミノフェノールを含むことが好ましい。またこれらを2種類以上用いても構わない。
【0071】
また上記(1)〜(3)は、エステル形成性誘導体を用いてもよい。カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステルを生成する反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの反応活性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。アミノ基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0072】
熱反応性組成物が、芳香族アルコールと芳香族カルボン酸とを含む組成物である場合、下記に示す非プロトン性溶媒に可溶な範囲で、その一部をあらかじめ予備重合したものを用いても構わない。
非プロトン性溶媒しては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒などが挙げられる。
【0073】
熱反応性組成物層を形成する方法としては、熱反応性組成物を液体媒体に溶解または分散させた塗布液を、基材層あるいは無機層状化合物層(I)上などに塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜から液体媒体を除去する方法が挙げられる。熱反応性組成物層は、工程(2)の加熱処理において反応が進行することが好ましいため、液体媒体を除去する際には、熱反応性組成物層に含まれるモノマーの反応をできるだけ抑えるよう、低温で乾燥することが好ましい。その温度は、通常20〜150℃であり、乾燥時間は通常0.1秒間〜1時間である。
【0074】
熱反応性組成物層を形成するために用いる塗布液に含まれる液体媒体としては、該熱反応性組成物が溶解または分散する液体媒体であれば特に限定されないが、例えば上記有機修飾粘土鉱物を膨潤し劈開させる液体媒体や、上記非プロトン性溶媒が挙げられる。該塗布液には、密着性向上の観点から、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の含有量は、通常、該塗布液100重量%中0.001〜5重量%である。
【0075】
基材層や無機層状化合物層(I)上に熱反応性組成物層を形成する方法としては、上記した基材層上に無機層状化合物層(I)を形成する方法と同様の方法が使用できる。
本発明の多層構造体の製造方法における工程(2)において、加熱処理を施すことによって、無機層状化合物層(I)における無機層状化合物の層間距離を狭くすると同時に、熱反応性組成物層中の成分の反応を進行させて樹脂層を形成することが好ましい。これにより、無機層状化合物層と樹脂層との密着性に優れる多層構造体を得ることができる。
【0076】
熱反応性組成物層中の成分を反応させて形成される樹脂が、芳香族アルコールと芳香族カルボン酸とを含む組成物の熱反応物である場合は、芳香族ジアミン由来の構造単位、水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位、芳香族アミノ酸由来の構造単位、または上記構造単位の2種以上を全構造単位に対して10〜35モル%含むことが好ましい。また該樹脂は、構造単位として以下の式(1)〜(3)で示される構造単位を含み、式(1)で示される構造単位が30〜80モル%、式(2)で示される構造単位が35〜10モル%、式(3)で示される構造単位が35〜10モル%であることが好ましい。
式(1) −O−Ar1−CO−
式(2) −CO−Ar2−CO−
式(3) −X−Ar3−Y−
ここで、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフタレン、または4,4’−ビフェニレンを表わす。Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、または2,6−ナフタレンを表わす。Ar3は、1,4−フェニレンまたは1,3−フェニレンを表わす。Xは−NH−であり、Yは、−O−または−NH−を表わす。
【0077】
本発明の製造方法で得られる多層構造体を構成する各層の厚みは特に限定されるものではない。無機層状化合物層および樹脂層の厚みは、本発明で得られる多層構造体をガスバリア材料として用いる場合、通常0.01μm〜50μmである。また耐屈曲性の観点から、無機層状化合物層の厚みは樹脂層の厚みよりも薄いことが好ましい。上記した追加層の厚みも通常0.01μm〜50μmである。基材層上にアンカーコート層を有する場合には、アンカーコート層の厚みは通常0.01〜5μmである。
【0078】
また、本発明の製造方法で得られる多層構造体が、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂、または、水酸基を含む樹脂とカルボキシル基を含む樹脂とを有する場合、上記加熱処理後に、湿熱処理を施すことが好ましい。該湿熱処理とは100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m3超の雰囲気下または80℃以上の水中で保持する処理である。湿熱処理する時間は、通常1秒間〜1時間である。100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m3超の雰囲気下での処理の場合、温度は120〜200℃の範囲内が好ましく、水蒸気濃度は500〜20000g/m3の範囲内が好ましい。また80℃以上の水中で保持する処理の場合、水の温度は100℃以上であることが好ましく、120〜200℃の範囲内がより好ましい。
【0079】
本発明の多層構造体を構成する各層は、必要に応じて紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0080】
本発明の製造方法で得られる多層構造体は、タイヤやねじ、液晶ディスプレイ用基板、有機EL用基板などフレキシブルディスプレイ用基板あるいは封止材といった光学部品部材、シリコン型太陽電池あるいは色素増感型太陽電池などの基板、封止材のような電子部品部材、また真空断熱材パネル等が挙げられる。
該多層構造体を、例えばディスプレイ用基板として用いた場合、重くて割れやすく大面積化が困難なガラス基板に比べ、軽量化、大型化という要求にこたえることができ、形状の自由度が高く、曲面表示が可能である。さらにはロールツーロール方式が可能であることからガラスよりも生産性が良くコストダウンの点でも有利である。また従来のプラスチック等を用いた基板と比較して、水蒸気や空気のガスバリア性が高く、例えば液晶セル内の液晶を劣化させ、表示欠陥となって表示品位を劣化させてしまうといった問題を解決できる。
またシリコン型あるいは色素増感型太陽電池の基板用途として用いた場合、本発明で得られる多層構造体をバックシートあるいは前面板として用いれば、水蒸気や酸素等のガスが電極や半導体、色素、電解質に作用することで起こる光電変換特性の劣化を抑制することができる。また耐熱性にも優れることから、薄膜でシリコン層等を形成する場合にも好適に用いることができる。また電子部品部材として用いる場合、耐熱性に優れ、またエッチングの際の耐アルカリ性、耐酸性に優れることからプリント配線基板用途として用いる場合にも好適である。
本発明の製造方法で得られる多層構造体を真空断熱材パネル用途として外装に用いた場合、ガスバリア性に優れるため、長期間にわたって内部の真空度を保持できるとともに、アルミ箔等と比較して熱橋が起こりにくいため、断熱性に優れる。
また本発明の製造方法で得られる多層構造体を包装材料として用いることにより、該包装材料で包装された内容物の酸素および水蒸気劣化を防ぐことができる。該多層構造体を包装材料として用いる場合、その形状としては、フィルム、袋、ボトル、ボトルキャップ、箱型、カップ、皿、トレー、タンク、チューブ等が挙げられる。本発明の製造方法で得られる多層構造体により包装される内容物としては、ケーキ、カステラ等の洋菓子、大福、もち等の和菓子、ポテトチップス等のスナック菓子等の菓子類、竹輪や蒲鉾等の水産加工品、味噌、漬物、蒟蒻、ミートボール、ハンバーグ、ハム、ソーセージ等の食品、コーヒー、茶、ジュース等の飲料品、牛乳、ヨーグルト等の乳製品、米飯、カレー等が例示される。また食料品以外に、洗剤、入浴剤、化粧品といったトイレタリー製品、ガソリン、水素ガス等の燃料、粉末剤、錠剤、点眼薬、輸液バック等の医薬品および医療機器、ハードディスク、シリコンウエハ等の電子部品および電子機器等の包装材料としても用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各種物性の測定方法を以下に記す。
【0082】
〔厚み測定〕
0.5μm以上の厚みは、市販のデジタル厚み計(接触式厚み計、商品名:超高精度デシマイクロヘッド MH−15M、日本光学社製)を用いて測定した。0.5μm未満の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)の断面観察より求めた。
【0083】
〔粒径測定〕
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA910、堀場製作所(株)製)を用いて測定した。後述の塗布液(1)〜(7)、(9)を希釈し、該希釈液中の無機層状化合物の平均粒径を、フローセルにて光路長4mmで測定し、得られた平均粒径を無機層状化合物の平均粒径Lとみなした。
なお、該塗布液(1)〜(7)、(9)を希釈せずに、該塗布液中の無機層状化合物の平均粒径をペーストセルにて光路長50μmで測定し、この平均粒径と、希釈液で求めた平均粒径Lの値とがほぼ一致したとき、該分散液中で無機層状化合物が充分に膨潤し劈開していると認定した。
【0084】
〔アスペクト比計算〕
X線回折装置(XD−5A、(株)島津製作所製)を用い、無機層状化合物そのものについて粉末法による回折測定を行った。これにより無機層状化合物の単位厚さaを求め、上述の方法で求めた粒径Lを用いて、アスペクト比Zを、Z=L/aの式により算出した。
【0085】
〔無機層状化合物の層間距離〕
X線回折装置(XD−5A、(株)島津製作所製)を用い、粉末法による回折測定を行い、予備構造体および多層構造体に含まれる無機層状化合物層中の無機層状化合物の層間距離を求めた。
各実施例および比較例で、予備構造体を得るまでに行なった乾燥処理および加熱処理と同じ熱処理を、無機層状化合物を含む塗布液(1)〜(7)、(9)に行い、上記手法により層間距離1を求めた。層間距離1を、予備構造体における無機層状化合物層中の無機層状化合物の層間距離とみなした。
また、各実施例および比較例で、多層構造体を得るまでに行なった乾燥処理および加熱処理と同じ熱処理を、無機層状化合物を含む塗布液(1)〜(7)、(9)に行い、上記手法により層間距離2を求めた。層間距離2を、多層構造体における無機層状化合物層中の無機層状化合物の層間距離とみなした。
【0086】
〔無機層状化合物の陽イオン濃度測定〕
後述の塗布液(1)〜(7)、(9)について、誘導結合プラズマ発光分析装置(VISTA−PRO、Agilent Technologies社製)を用いて、ナトリウムイオンおよびリチウムイオン濃度を測定した。試料の調製方法は以下のとおりである。試料0.5gを蒸発皿に採取したあと、電気炉で乾式灰化(500℃)し、有機物を除去した。蒸発皿上の残渣を36%高純度塩酸0.4mLで溶解し、超純水で10mLに希釈したものを測定供試液とし、塗布液(1)〜(7)、(9)中のナトリウムおよびリチウム濃度を測定した。その後、該塗布液(1)〜(7)、(9)に分散している無機層状化合物の固形分濃度から、該無機層状化合物1gあたりのナトリウム濃度およびリチウムイオン濃度を算出し、これをナトリウムイオンおよびリチウムイオン濃度とした。また塗工液(9)について、キャピラリー電気泳動装置(キャピラリー電気泳動システム、Agilent Technologies社製)を用いて、アンモニウムイオン濃度を測定した。試料の調製方法は以下のとおりである。試料1mLをキャピラリー電気泳動用泳動液(20mM イミダゾール/5mM 乳酸/0.5mM 18−クラウンー6−エーテル(pH4.5))1mLで希釈した後、限外ろ過フィルター(Ultrafree−MC30000 NMWL Filter Unit、MILLIPORE社製)を使用して希釈試料をろ過した。該溶液をキャピラリー電気泳動装置に供試し、塗工液(9)中のアンモニウムイオン濃度を測定した。その後、該塗布液(9)に分散している無機層状化合物の固形分濃度から、該無機層状化合物1gあたりのアンモニウムイオン濃度を算出した。また塗工液(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)中の無機層状化合物中の水素イオン濃度については、予備分散液(6)における無機層状化合物中のナトリウムイオン濃度から、各塗布液を用いて形成される無機層状化合物中のナトリウムイオン濃度を差し引いた値とした。
【0087】
〔塗布外観評価〕
50mm×50mmサイズの予備構造体について、塗膜の状態を目視にて確認し、評価した。
○・・・良好。均一に塗布されている。
×・・・不良。不均一に塗布されている。ムラあり。
【0088】
〔耐水性評価〕
50mm×50mmサイズの多層構造体を、水中に、23℃で、1時間浸漬した。その後、塗膜の剥れを目視にて確認し、評価した。
○・・・剥離無し
△・・・一部剥離
×・・・全面剥離
【0089】
〔酸素透過率測定〕
JIS K7126に基づき、酸素透過率測定装置(OX−TRANML、MOCON社製)にて23℃、90%RHの条件下で測定を行った。
【0090】
〔塗布液の作製〕
(1)塗布液(1)の作製
攪拌機にて、室温下、イオン交換水1000gを高速攪拌(3,000rpm、周速度=8.2m/分)のもと、該攪拌系にピロリン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.75gを徐々に加え、さらに高純度モンモリロナイト(商品名:クニピアG;クニミネ工業(株)製)60gを徐々に加え、添加終了後、室温下にて60分間攪拌を続け、予備分散液(1)を得た。
該予備分散液(1)にH型イオン交換樹脂(デュオライト C255LFH;ローム&ハース社製)を60g添加し、その後30分間攪拌し、混合液(1)を得た。その後、フィルター(フルイ目の開きが297μm)を用いて、該混合液(1)をろ過してイオン交換樹脂の残渣を除去し、塗布液(1)を得た。該塗布液(1)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(1)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は70μmol/g、リチウムイオン濃度は測定下限値以下、水素イオン濃度は730μmol/gであった。
(2)塗布液(2)の作製
予備分散液(1)において、ピロリン酸ナトリウムのかわりにピロリン酸(和光純薬工業(株)製)を添加したこと以外は同様にして、予備分散液(2)を得た。該予備分散液(2)にH型イオン交換樹脂を60g添加し、その後30分間攪拌し、混合液(2)を得た。その後、フィルター(フルイ目の開きが297μm)を用いて、該混合液(2)をろ過してイオン交換樹脂の残渣を除去し、塗布液(2)を得た。該塗布液(2)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(2)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は50μmol/g、リチウムイオン濃度は測定下限値以下、水素イオン濃度は750μmol/gであった。
(3)塗布液(3)の作製
予備分散液(1)において、ピロリン酸ナトリウムのかわりに硫酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を添加したこと以外は同様にして、予備分散液(3)を得た。該予備分散液(3)にH型イオン交換樹脂を60g添加し、その後30分間攪拌し、混合液(3)を得た。その後、フィルター(フルイ目の開きが297μm)を用いて、該混合液(3)をろ過してイオン交換樹脂の残渣を除去し、塗布液(3)を得た。該塗布液(3)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(3)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は170μmol/g、リチウムイオン濃度は測定下限値以下、水素イオン濃度は630μmol/gであった。
(4)塗布液(4)の作製
予備分散液(1)において、ピロリン酸ナトリウムのかわりに酢酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を添加したこと以外は同様にして、予備分散液(4)を得た。該予備分散液(4)にH型イオン交換樹脂を60g添加し、その後30分間攪拌し、混合液(4)を得た。その後、フィルター(フルイ目の開きが297μm)を用いて、該混合液(4)をろ過してイオン交換樹脂の残渣を除去し、塗布液(4)を得た。該塗布液(4)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(4)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は60μmol/g、リチウムイオン濃度は測定限界値以下、水素イオン濃度は740μmol/gであった。
(5)塗布液(5)の作製
イオン交換樹脂(デュオライト C−20LF;ローム&ハース社製)50ccと10%塩化リチウム水溶液500gとを混合し、次いで30分間高速攪拌(3,000rpm、周速度=8.2m/分)し、その後、該イオン交換樹脂を回収し、Li型イオン交換樹脂を作製した。
型イオン交換樹脂のかわりに、該Li型イオン交換樹脂を用いたこと以外は塗布液(1)と同様にして、塗布液(5)を得た。該塗布液(5)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(5)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は80μmol/g、リチウムイオン濃度は740μmol/gであった。
(6)塗布液(6)の作製
予備分散液(1)において、ピロリン酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は同様にして、予備分散液(6)を得た。該予備分散液(6)にH型イオン交換樹脂を60g添加し、その後30分間攪拌し、混合液(6)を得た。その後、フィルター(フルイ目の開きが297μm)を用いて、該混合液(6)をろ過してイオン交換樹脂の残渣を除去し、塗布液(6)を得た。該塗布液(6)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(6)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は320μmol/g、リチウムイオン濃度は測定下限値以下、水素イオン濃度は480μmol/gであった。
(7)塗布液(7)の作製
予備分散液(1)において、ピロリン酸ナトリウムのかわりにエチレングリコール(和光純薬工業(株)製)を添加したこと以外は同様にして、予備分散液(7)を得た。該予備分散液(7)にH型イオン交換樹脂を60g添加し、その後30分間攪拌し、混合液(7)を得た。その後、フィルター(フルイ目の開きが297μm)を用いて、該混合液(7)をろ過してイオン交換樹脂の残渣を除去し、塗布液(7)を得た。該塗布液(7)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(7)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は80μmol/g、リチウムイオン濃度は測定下限値以下、水素イオン濃度は720μmol/gであった。
(8)塗布液(8)の作製
分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、シクロヘキサノン206gと、クレゾールノボラック型エポキシ系化合物(ユニディックV8000C1 DIC(株)製)25.8g、およびポリイミド骨格含有化合物(ユニディックV8000 DIC(株)製)100gを混合し、高速攪拌し(3000rpm、周速度=8.2m/分)、室温下で30分間攪拌して溶解させ、熱反応性組成物層を形成するために用いる塗布液(8)を得た。
(9)塗布液(9)の作製
イオン交換樹脂(デュオライト C−20LF;ローム&ハース社製)50ccと10%塩化アンモニウム水溶液500gとを混合し、次いで30分間高速攪拌(3,000rpm、周速度=8.2m/分)し、その後、該イオン交換樹脂を回収し、NH4型イオン交換樹脂を作製した。
型イオン交換樹脂のかわりに、該NH4型イオン交換樹脂を用いたこと以外は塗布液(1)と同様にして、塗布液(9)を得た。該塗布液(9)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.22nmであり、アスペクト比Zは460であった。該塗布液(9)中に含まれる無機層状化合物1gあたりのナトリウムイオン濃度は150μmol/g、リチウムイオン濃度は測定下限値以下、アンモニウムイオン濃度は500μmol/gであった。
【0091】
[実施例1]
基材層に厚さ50μmのポリイミドフィルム(カプトン200H/V 東レ・デュポン(株)製:PI)を用いた。該基材層についてコロナ処理を行い、該コロナ処理面に前述の塗布液(8)を、バーコーターにて塗布(番手:8)し、乾燥処理(80℃、20分間)し、基材層上に熱反応性組成物層(I)を形成した。その後、該熱反応性組成物層(I)上に、前述の方法と同様に、塗布液(1)をバーコーターにて塗布(番手:28)し、乾燥処理(80℃、20分間)し、無機層状化合物層(I)を形成し、予備構造体(1)を得た。該予備構造体(1)について、空気雰囲気下、200℃、3時間加熱処理を行い、基材層、樹脂層および無機層状化合物層からなる多層構造体(1)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(1)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0092】
[実施例2]
塗布液(1)のかわりに塗布液(2)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(2)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(2)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0093】
[実施例3]
塗布液(1)のかわりに塗布液(3)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(3)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(3)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0094】
[実施例4]
塗布液(1)のかわりに塗布液(4)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(4)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(4)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0095】
[実施例5]
塗布液(1)のかわりに塗布液(5)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(5)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(5)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0096】
[比較例1]
塗布液(1)のかわりに塗布液(6)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(6)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(6)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0097】
[比較例2]
塗布液(1)のかわりに塗布液(7)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(7)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(7)について評価を行った。結果を表1に示した。
[実施例6]
塗布液(1)のかわりに塗布液(9)を用いた以外は実施例1と同様にして、基材層、無機層状化合物層および樹脂層からなる多層構造体(8)を得た。該樹脂層の厚みは0.5μm、無機層状化合物層の厚みは2μmであった。その後該多層構造体(8)について評価を行った。結果を表1に示した。
【0098】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物と、液体媒体とを含む無機層状化合物分散液であって、
上記分散液に含まれるナトリウムイオンの量が、上記分散液に含まれる無機層状化合物1gあたり300μmol以下である無機層状化合物分散液。
【請求項2】
オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物が、オキソ酸とオキソ酸のナトリウム塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物である請求項1に記載の無機層状化合物分散液。
【請求項3】
分散液に含まれるオキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、無機層状化合物との合計重量を100重量%とするときに、オキソ酸とオキソ酸の金属塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物の割合が0.01〜10重量%である請求項1または2に記載の無機層状化合物分散液。
【請求項4】
層間に水素イオンを有する無機層状化合物、層間にリチウムイオンを有する無機層状化合物、及び層間にアンモニウムイオンを有する無機層状化合物からなる群より選ばれる1種以上の無機層状化合物を含む層と、基材層とを含む多層構造体の製造方法であって、以下の工程(1)および工程(2)を含む多層構造体の製造方法。
工程(1):請求項1〜3のいずれかに記載の無機層状化合物分散液を基材層表面に塗布して、塗布膜を形成し、次いで20〜150℃の温度条件下で乾燥処理を行い、該塗布膜から液体媒体を除去して、基材層と無機層状化合物層(I)を含む予備構造体を製造する工程。
工程(2):該予備構造体を加熱処理して、無機層状化合物層(I)における無機層状化合物の層間距離を狭くし、多層構造体を得る工程。

【公開番号】特開2012−177102(P2012−177102A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−13843(P2012−13843)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】