説明

無機強化ポリエステル樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】 低分子量のポリエステルを反応性化合物にて、加水分解発生の原因となる末端カルボン酸を効率よく封鎖し、流動性が高く、低圧での射出成形が可能であり、更に機械特性・長期耐久性、生産性向上という特徴を兼ね備えた無機強化ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (1)ポリエステル、(2)無変性ポリオレフィン、(3)無機粒子状充填剤、(4)無機補強繊維及び(5)反応性化合物を、質量比で(1)/(2)/(3)/(4)/(5)=100/5〜15/0.3〜3/1〜50/0.5〜3の割合で含有し、(1)ポリエステルが還元粘度0.40dl/g以上0.65dl/g以下のポリブチレンテレフタレートであり、(5)反応性化合物がポリカルボジイミドであることを特徴とする無機強化ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形に適する無機強化ポリエステル樹脂組成物に関する。詳しくは、射出成形において樹脂の流動性が良好で、しかも長期耐久性、高温耐久性、耐加水分解性、耐ヒートショック性を持つ無機強化ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の金属からの樹脂化の流れにおいて、安価でかつ耐熱性を求める用途には特にポリエステルやポリアミド、ポリフェニレンサルファイドなどのエンジニアリングプラスチックが用いられる。これらのエンジニアリングプラスチックは良好な機械特性、高い長期耐久性を備えており、電気部品、家電製品、自動車内装部品や外装部品、住宅設備用などに使用されている。近年、電気家電製品では製品の小型化に伴う部品の小型化・薄肉化、自動車の内外装部品では燃費向上の観点から軽量化・薄肉化の要望が高まっている。上記エンジニアリングプラスチックは高い結晶性を有する為、高溶融粘度の樹脂組成では薄肉部に十分な充填が難しいという問題がある。十分な充填を行うには、高い射出圧力が必要となり、過度の圧力は成形品のバリ・変形の原因となる。この方法では高い射出圧力に打ち勝つ大きな型締力が必要となり、射出成形機のサイズアップが必要で、生産コストがアップするという問題点がある。
【0003】
薄肉部に樹脂を充填させる方法としては、エンジニアリングプラスチックの分子量を低減させ流動性を上昇させる方法が挙げられるが、単純な分子量低下では機械物性の低下、長期耐久性、特に耐加水分解性の不足という点から望ましくない。特にポリエステル樹脂は末端カルボン酸からの加水分解が発生することが知られており、エポキシ化合物などによるカルボン酸末端封鎖処理を施すことで、耐加水分解性を向上させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、エポキシ化合物の反応性が乏しいため、十分にカルボン酸末端を封鎖するためには、カルボン酸末端量よりも過剰のエポキシ化合物を添加する必要があり、金型汚染や、成形時に発生するガスによる環境懸念、エポキシ化合物による結晶性低下による生産性低下の問題がある。
【0004】
また、上記エンジニアリングプラスチックに低結晶性、あるいは非結晶性プラスチックを溶融・混練することで結晶性を阻害し、薄肉部に流動させる方法も提案されている(特許文献2、特許文献3参照)が、結晶性低下による高温耐久性の低下、冷却時間が増大による生産サイクルの悪化など問題もある。
【0005】
また、上記エンジニアリングプラスチックに流動性付与剤や可塑剤を添加し、流動性を向上させる方法も提案されているが(特許文献4、特許文献5)、エンジニアリングプラスチックとの相溶性に欠ける場合には成形品表面に析出したり、エンジニアリングプラスチックの結晶化を阻害する為、高温耐久性低下や、冷却時間増大による生産サイクルの悪化などの問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−220454号公報
【特許文献2】特開平6‐99453号公報
【特許文献3】特開平11−279383号公報
【特許文献4】特開昭61−163957号公報
【特許文献5】特開平5−214222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、低分子量のポリエステルを反応性化合物にて、加水分解発生の原因となる末端カルボン酸を効率よく封鎖し、低圧での射出成形が可能であり、更に低分子量のポリエステルを反応性化合物で増粘することで、機械特性・長期耐久性、生産性向上という特徴を兼ね備えたポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為、本発明者等は鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。即ち本発明は、以下の通りである。
【0009】
[1] (1)ポリエステル、(2)無変性ポリオレフィン、(3)無機粒子状充填剤、(4)無機補強繊維及び(5)反応性化合物としてポリカルボジイミドを、質量比で(1)/(2)/(3)/(4)/(5)=100/5〜15/0.3〜3/1〜50/0.5〜3の割合で含有し、(1)ポリエステルが還元粘度0.40dl/g以上0.65dl/g以下のポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【0010】
[2] 前記(2)無変性ポリオレフィンが、ポリエチレンまたは無極性エチレン共重合体であり、密度が0.95g/cm以下であり、(2)ポリオレフィンの190℃、2160gにおけるメルトフローレートが60(g/10分)以上であることを特徴とする[1]に記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【0011】
[3] 前記(3)無機粒子状充填剤が、平均粒径5μm以下のタルクであることを特徴とする[1]〜[2]のいずれかに記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【0012】
[4] 前記(4)無機補強繊維が、ガラス繊維であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【0013】
[5] 前記(5)ポリカルボジイミドの数平均分子量が500〜10000であり、カルボジイミド基量が100〜10000当量/トンであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【0014】
[6] [1]〜[5]のいずれかの無機強化ポリエステル樹脂組成物より得られた成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、低分子量のポリエステルを使用するため、高い射出圧力やそれに伴う大型成形機を必要とせず、更には反応性化合物によるポリエステル末端カルボン酸の封鎖、及び増粘反応による長期耐久性、耐加水分解性を有する無機強化ポリエステル樹脂組成物を提供することが可能となる。さらに、これらの特性のほかに、金型からの優れた離型性、冷却時間の短縮による生産性向上も可能となる。これにより、複雑な形状・薄肉を有する無機強化ポリエステル樹脂組成物として、機械特性・高温耐久性・耐高温高湿性・耐ヒートショック性・生産性等の種々の性能を充分満足する素材が、提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[(1)ポリエステル]
本発明に使用される(1)ポリエステルは、主としてブチレンテレフタレートを繰り返し単位とするポリブチレンテレフタレート系樹脂である。ポリブチレンテレフタレートおよび/または80モル%以上のブチレンテレフタレート単位を含むポリブチレンテレフタレート共重合体が用いられる。共重合のグリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサメチレングリーコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトン等が挙げられる。また、酸成分としては、公知の酸成分が共重合できる。例えば、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セシン酸等が使用される。共重合成分が20モル%を超えると耐熱性や結晶性が低下しこの用途に好ましくない。
【0017】
本発明に用いる(1)ポリエステルの還元粘度は、後記する測定方法で測定した場合、0.40dl/g以上0.65dl/g以下である。還元粘度は、0.45dl/g以上0.60dl/g以下であることが好ましい。0.40dl/g未満では、(5)反応性化合物による増粘をした樹脂においても各種耐久性が低く、0.65dl/gを超えると、(5)反応性化合物によるポリエステルの増粘反応が進行し、流動性が不足する可能性がある。また、酸価は40eq/t以下が好ましい。後記する(5)反応性化合物にて、ポリエステルの末端カルボキシル基を封鎖し耐加水分解性を向上させるが、(5)反応性化合物の過剰添加によるゲル化を避ける為に、25eq/t以下が特に好ましい。
【0018】
[(2)無変性ポリオレフィン]
本発明に用いる(2)無変性ポリオレフィンは、密度が0.95g/cm以下、190℃・2160gでのメルトフローレートが60(g/10分)以上の超低密度の無変性ポリオレフィンが好ましい。このような超低密度の無変性ポリオレフィンを使用することによって、元来非相溶のポリエステルと、容易に微分散・混合でき、特別な混練設備を必要とせず、良好な射出成形用樹脂組成物を得ることができる。また、低密度で結晶性も低いことで、ポリエステルに生じた射出成形時の残存応力の経時的な緩和にも適切に作用する。さらには、この残留応力の緩和は、高温から低温/低温から高温などのヒートショック時の成形品の割れなどの緩和に適切に作用する。
グリシジル変性やマレイン酸変性などの変性ポリオレフィンでは、(1)ポリエステルと反応することによる増粘が進行し、流動性が低下する要因となるだけでなく、(5)反応性化合物との反応も発生するため、(5)反応性化合物による十分な(1)ポリエステルのカルボン酸末端との反応が進行せず、耐加水分解性が低下する要因となる。
このような特性を有する(2)無変性ポリオレフィンは、ポリエチレンまたは無極性エチレン共重合体が、入手容易、安価、耐加水分解性に悪影響しない点で、特に好ましい。具体的には、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンプロピレンエラストマー、エチレン−ブテン共重合体が挙げられる。これらの中でも、超低密度ポリエチレンやエチレンと他のαオレフィン共重合体が好ましい。
【0019】
また、本発明に用いる(2)無変性ポリオレフィンの配合量は、(1)ポリエステルに対して、質量比で(1)/(2)=100/5〜15である。(2)無変性ポリオレフィンが5質量部未満の場合、(1)ポリエステルの結晶化やエンタルピー緩和によるひずみエネルギーの緩和が難しいため、耐ヒートショック性が低下する傾向がある。また、(2)無変性ポリオレフィンを、15質量部を超えて配合した場合、ポリエステルと無変性ポリオレフィンとの相分離により、大幅な機械物性の低下、射出成形時の層間剥離など成形性、冷却時間増大また生産サイクルの増加など、悪影響を及ぼす場合がある。
【0020】
[(3)無機粒子状充填剤]
本発明に用いる(3)無機粒子状充填剤とは、無機結晶核剤のことである。これらの中でも、平均粒径5μm以下のタルクであることが好ましい。タルク類はそのまま使用しても十分な効果が得られるが、タルクにポリエステル系表面処理してもよい。表面処理により、ポリエステル樹脂との親和性が向上し、ポリエステル樹脂の靭性が向上するためである。これらのタルクは、(1)ポリエステルの結晶化を促進することで、(1)ポリエステルの結晶化温度を上昇させるため、冷却時間の短縮に効果がある。また(2)無変性ポリオレフィンの添加により高温剛性の低下が発生し、射出成形直後の金型からの突き出しで変形が生じるため、冷却時間が増大する問題があるが、タルクの添加により高温剛性を向上させ、突き出し時の変形を抑制し、冷却時間を短縮させる効果がある。ここでタルクの平均粒径は、4μm以下がより好ましい。平均粒径が5μm超では、結晶核剤として効果を出すには多量添加が必要となり、成形品の靭性を低下させる要因となる為である。
【0021】
本発明の樹脂組成物における(1)ポリエステルと(3)無機粒子状充填剤の配合比は、質量比で(1)/(3)=100/0.3〜3である。(3)無機粒子状充填剤が、3質量部より多いと、機械的特性が劣り、特に耐衝撃性、曲げたわみ特性が低下するおそれがある。一方、(3)無機粒子状充填剤が0.3質量部未満であると結晶核剤としての効果に乏しく、高温剛性向上への効果は見られない。
【0022】
[(4)無機補強繊維]
本発明に用いる(4)無機補強繊維とは、ポリエステル樹脂組成物の機械強度を向上させる作用を有するものである。これらの中でも、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物における(1)ポリエステルと(4)無機補強繊維の配合比は、質量比で(1)/(4)=100/1〜50である。(4)無機補強繊維が、50質量部より多いと、成形加工性が低下する傾向がある。一方、(4)無機補強繊維が1質量部未満であると機械強度の向上が不十分である。(4)無機補強繊維は、20〜40質量部であることが好ましい。
【0024】
[(5)反応性化合物]
本発明に用いる(5)反応性化合物は、ポリエステル末端カルボン酸の封鎖、及び増粘反応による長期耐久性、耐加水分解性を付与するものであり、ポリカルボジイミドが最適である。ポリカルボジイミドの中でも、一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物を含有させることにより、ポリエステルの末端カルボン酸と反応し、加水分解の原因となる末端カルボン酸を効率良く封鎖しながら、ポリエステルの増粘反応を進行させることが出来る。
カルボン酸と反応する官能基としては、グリシジル基、オキサゾリン基、オキセタン基、カルボジイミド基などが挙げられるが、一般のグリシジル基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、オキセタン基含有化合物は反応が速やかでなく、十分な耐加水分解性を発生させる為には、ポリエステルの末端カルボン酸等量より過剰量の添加を必要とする。過剰量の反応性化合物添加は、ポリエステルの結晶化温度を低下させるだけでなく、乾燥時の揮発による汚染や成形品表面への析出などの問題を引き起こす原因や、反応性化合物によるゲル化の原因となる。一方、カルボジイミド化合物はグリシジル基、オキサゾリン基、オキセタン基に比べ反応が速やかであり、末端カルボン酸と反応のための使用に非常に好ましい。水酸基と反応する官能基としては、カルボン酸と反応する官能基とは異なるものであり、例えばイソシアネート基、酸無水物基等が挙げられるが、反応性の観点からイソシアネート基が特に好ましい。鋭意に検討した結果、一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物としては、一分子中にカルボジイミド基とイソシアネート基を有する化合物が最も好ましい。
また、カルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを一分子中に含有させる目的は、これら官能基がポリエステルへの反応が容易となり、分子量の小さいポリエステル樹脂同士が、末端カルボン酸と反応性化合物で繋がることで、加水分解の原因となる末端酸を効率良く消失しながら、粘度を上げることにより他の長期耐久性を向上させることが可能となる。
【0025】
本発明で用いられるポリカルボジイミドとしては、特に限定されないが、脂肪族系カルボジイミド、脂環族系カルボジイミド、芳香族系カルボジイミドおよびこれらの共重合物を使用できる。例えば、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミドなどのモノカルボジイミド、一分子内に−N=C=N−の構造を2つ以上有するポリカルボジイミド、末端にイソシアネート基を有するモノカルボジイミド、末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミド等が上げられる。ポリカルボジイミドは、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により作製される公知のものを使用できる(米国特許第2941956号、特公昭47−3279号公報、J.Org.Chem.,28,2069〜2075(1963)、Chemical Review 1981、Vol.81,No.4,619〜621参照)。
【0026】
用いられるジイソシアネートとしては、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−ジイソシアネートなどを単独または二種以上を共重合させ使用することが出来る。また、分岐構造を導入したり、カルボジイミド基やイソシアネート基以外の官能基を共重合により導入しても良い。さらに末端のイソシアネートを一部もしくは全部を封鎖させることにより重合度の制御および、末端イソシアネートを封鎖できる。末端封鎖剤としては、フェニルイソシアネート、トリスイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物、−OH基、−COOH基、−SH基、−NH−R(Rは水素原子またはアルキル基)などを有する化合物を用いることが出来る。末端のイソシアネートを全部封鎖した場合は、イソシアネート基とは異なる水酸基反応性基を導入する必要がある。市販の製品として、ラインケミー(株)製のスタバックゾールシリーズ、日清紡(株)製のカルボイライトシリーズ、三井武田ケミカル社製のコスモネートLK、コスモネートLL、BASF INOAC ポリウレタン社製のルプラネートMM−103等が挙げられる。
【0027】
一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物としては揮発性の観点から高分子量がよく、数平均分子量として200以上、好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上10000以下である。また、カルボン酸反応性基数についても特に限定されないが、反応性の観点から100〜10000当量/トンが好ましく、下限はより好ましくは500当量/トン以上、さらに好ましくは1000当量/トン以上である。水酸基反応性基としては、1当量/トンである。
【0028】
本発明の樹脂組成物における(1)ポリエステルと(5)反応性化合物の配合比は、質量比で(1)/(4)=100/0.5〜3である。0.5質量部未満であると、末端カルボン酸を封鎖するには十分な量ではなく、一方、3質量部を超えると、官能基が過剰でありポリエステルがゲル化する可能性がある。
【0029】
本発明に用いるポリエステル樹脂組成物の組成、及び組成比を決定する方法としては、試料を重クロロホルム等の溶剤に溶解して測定するH−NMRのプロトン積分比から算出することも可能である。
【0030】
本発明の(1)ポリエステルの製造方法としては、公知の方法をとることができるが、例えば、上記のジカルボン酸及びジオール成分を150〜250℃でエステル化反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルを得ることができる。あるいは、上記のジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とジオール成分を用いて150℃〜250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230℃〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルを得ることができる。
【0031】
さらには本発明の樹脂組成物に高温長期間の耐久性を必要とする場合は、酸化防止剤を添加することが好ましい。例えば、ヒンダードフェノール系として、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3−トリ(4−ヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられ、また、燐系として、3,9−ビス(p−ノニルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(オクタデシロキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイトが挙げられる。これらを単独に、または複合して使用できる。添加量は、質量基準で、0.1%以上5%以下が好ましい。0.1%未満だと熱劣化防止効果に乏しくなることがある。5%を超えると、添加剤のブリードによる成形品外観等に悪影響を与える場合がある。
【0032】
本発明の樹脂組成物には、その他各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、本発明以外の樹脂、無機フィラー、安定剤、紫外線吸収剤、及び老化防止剤を熱可塑性接着剤への添加剤として広く用いられているものを本発明の特徴を損なわない範囲で添加することができる。
【0033】
無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー、ベントナント、フュ−ムドシリカ、シリカ粉末、雲母等を本発明の樹脂組成物100重量部に対して40重量部以下配合することができる。
【0034】
また、その他の添加剤として、各種金属塩等の結晶核剤、着色顔料、無機、有機系の充填剤、タック性向上剤、クエンチャー、金属不活性化剤、UV吸収剤、HALS等の安定剤、シランカップリング剤、難燃剤等を添加することもできる。
本発明の樹脂組成物は、(1)ポリエステル、(2)無変性ポリオレフィン、(3)無機粒子状充填剤、(4)無機補強繊維及び(5)反応性化合物の合計で、70質量%以上を占めることが好ましい。(1)〜(5)の合計で、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がいっそう好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、本発明のポリエステルとポリオレフィン、ポリカルボジイミド、タルクなどを単軸もしくは二軸のスクリュー式溶融混錬機、または、ニーダー式加熱機に代表される通常の熱可塑性樹脂の混合機を用いて製造し、引き続き造粒工程によりペレット化する。
【実施例】
【0036】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例に記載された各測定値は次の方法によって測定したものである。
【0037】
融点:
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドして試料を完全に溶融させた後、液体窒素で急冷して、その後−150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線の吸熱ピークを融点とした。
【0038】
還元粘度:
充分乾燥したポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローゼ粘度計にて30℃で測定した。
【0039】
酸価:
試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0040】
密度:
JIS K 7112に従って測定した。
【0041】
ポリエステルの製造例
(ポリエステルA)
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶内にテレフタル酸100質量部、1,4−ブタンジオール100質量部、テトラブチルチタネート0.1質量部を加え、170〜220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)を0.8質量部投入し、255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A)を得た。このポリエステル樹脂(A)の融点は225℃で、還元粘度は0.45dl/g、酸価は25eq/tであった。
(ポリエステルB)
ポリエステルAと同様の方法にてエステル交換反応、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(B)を得た。このポリエステル樹脂(B)の融点は225℃で、還元粘度は0.60dl/g、酸価は25eq/tであった。
(ポリエステルC)
ポリエステルAと同様の方法にてエステル交換反応、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(C)を得た。このポリエステル樹脂(C)の融点は225℃で、還元粘度は0.90dl/g、酸価は25eq/tであった。
【0042】
実施例1
上記ポリエステルの製造例で得られたポリエステル(A)100質量部と、ポリオレフィンとして、超低密度ポリエチレン(住友化学(株)製 CX−5508 密度0.90g/cmメルトフローレート75g/10分)10質量部、無機粒子状充填剤として、ミクロンホワイト5000A(林化成(株)社製、平均粒径4μm)1.0質量部、無機補強繊維としてガラス繊維30質量部、反応性化合物として、カルボジイミドLA−1(日清紡(株)社製 ポリカルボジイミド)0.8質量部を、240℃にて、ニーディングゾーンを3ヶ所有する二軸スクリュー式押出し機にて、混練・ペレット化した。このペレットを用いて、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
射出圧力評価:
上記ペレットを、射出成形機を用いて成形を行った。射出成形機には電動射出成形機EC−100N(東芝成形機械製)を使用した。この際の成形温度はホッパー下からノズル先まで250〜260℃で、金型温度は80℃にて行った。
射出圧力は、128mm×13mm、厚さ:1.6mm(ゲートサイズ:1mm×3mm、厚さ:1.0mm)の成形品を射出成形した際の最大射出圧力から評価を行った。
【0044】
高温剛性評価
上記射出成形時の成形品の100℃における曲げ弾性率から評価を行った。曲げ弾性率はORIENTEC社製UTM−I−5000を用いて、40mmのスパン間距離、10mm/minの速度で曲げ弾性率を測定した。
【0045】
耐加水分解性評価:
上記射出成形で得られた成形品を温度80℃、湿度95%環境下にて1000時間処理後の曲げ強度保持率から評価を行った。
○:90%以上
△:80%以上90%未満
×:80%未満
【0046】
耐熱老化試験:
上記射出成形で得られた成形品を温度150℃環境下にて1000時間処理後の曲げ強度保持率から評価を行った。
○:90%以上
△:80%以上90%未満
×:80%未満
【0047】
耐ヒートショック試験:
直径36mm、高さ25mmの円筒形のステンレスを樹脂厚み2mmの均一肉厚でインサート成形した成形品を、?40℃の雰囲気で1時間処理し、次いで150℃の雰囲気で1時間処理をするヒートショック試験を繰り返し行い、目視判断によるクラックが発生するまでのサイクルを測定した。
○:500回超でクラック無し
△:100〜500回でクラック発生
×:100回未満でクラック発生
【0048】
冷却時間評価:
冷却時間評価は、上記射出成形にて突き出し時に成形品のゲート部(1mm×3mm、厚さ:1.0mm)が破断しない時間を最低冷却時間とした。
○:2秒未満
△:2秒以上4秒未満
×:4秒以上
【0049】
離型性評価:
上記ペレットを、射出成形機を用いて成形を行った。射出成形機には電動射出成形機EC−100N(東芝成形機械製)を使用した。この際の成形温度はホッパー下からノズル先まで250〜260℃で、金型温度は80℃にて行った。
離型性評価は、外径40mm、内径34mm、高さ50mmの成形品を射出成形し、突き出し時の抵抗値から評価を行った。
○:5kgf未満
△:5kgf以上10kgf未満
×:10kgf以上
【0050】
成形品外観:
上記射出成形で得られた成形品より、下記の基準にて評価を行った。
○:ガラス繊維の浮き無し
△:一部ガラス繊維の浮き有り
×:ガラス繊維の浮き有り
【0051】
ブリード評価:
上記射出成形で得られた成形品を80℃、300時間静置後、下記の基準にて評価を行った。
○:ブリード無し
△:一部ブリード有り
×:ブリード有り
【0052】
実施例2〜10、比較例1〜12
表1、2に記載の原料を用いて、実施例1と同様な方法により樹脂組成物を得て、その性能を評価した。結果を表1、2に併せて記載する。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1、2に示すように、本発明により、高い射出圧力やそれに伴う大型成形機を必要とせず、更には長期耐久性、耐加水分解性を有する無機強化ポリエステル樹脂組成物を提供することが可能となる。さらに、これらの特性のほかに、金型からの優れた離型性、冷却時間の短縮による生産性向上も可能となる。これにより、複雑な形状・薄肉を有する射無機強化ポリエステル樹脂組成物として、機械特性・高温耐久性・耐高温高湿性・耐ヒートショック性・生産性等の種々の性能を充分満足する素材が、提供可能となる。
また、配合物として好ましいものを用い、(1)ポリエステル、(2)無変性ポリオレフィン、(3)無機粒子状充填剤、(4)無機補強繊維、及び(5)反応性化合物の重量比が、((1)/(2)/(3)/(4)/(5)=100/5〜15/0.3〜3/1〜50/0.5〜3を満たすことにより、上記特性はさらに向上し、高流動性、高い長期安定性、生産性向上できるレベルとなる。
一方、本発明外の樹脂組成物は、射出成形による高流動性、長期耐久性、耐加水分解性のいずれかが、満足できるレベルでない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の樹脂組成物は、従来のポリエステル樹脂に比べて、優れた流動性と、長期安定性を示すとともに、離型性に優れており、機械特性・高温耐久性・耐高温高湿性・耐ヒートショック性・生産性向上等の種々の性能を持つ樹脂組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリエステル、(2)無変性ポリオレフィン、(3)無機粒子状充填剤、(4)無機補強繊維及び(5)反応性化合物としてポリカルボジイミドを、質量比で(1)/(2)/(3)/(4)/(5)=100/5〜15/0.3〜3/1〜50/0.5〜3の割合で含有し、(1)ポリエステルが還元粘度0.40dl/g以上0.65dl/g以下のポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(2)無変性ポリオレフィンが、ポリエチレンまたは無極性エチレン共重合体であり、密度が0.95g/cm以下であり、(2)ポリオレフィンの190℃、2160gにおけるメルトフローレートが60(g/10分)以上であることを特徴とする請求項1に記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(3)無機粒子状充填剤が、平均粒径5μm以下のタルクであることを特徴とする請求項1または2に記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(4)無機補強繊維が、ガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記(5)ポリカルボジイミドの数平均分子量が500〜10000であり、カルボジイミド基量が100〜10000当量/トンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無機強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの無機強化ポリエステル樹脂組成物より得られた成形品。

【公開番号】特開2013−67746(P2013−67746A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208433(P2011−208433)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】