説明

無機微粒子乾燥粉体の製造方法、該無機微粒子乾燥粉体を含むコンポジット樹脂材料及び光学素子

【課題】本発明の目的は、液相中で分散した無機微粒子を取り出して無機微粒子乾燥粉体とし樹脂中に分散してコンポジット樹脂材料を製造する方法において、無機微粒子の一次粒子径が増大せず、透明性の高いコンポジット樹脂材料が得られる無機微粒子乾燥粉体の製造方法を提供することにある。
更にその製造方法を用いて作製された無機微粒子乾燥粉体を均一に分散させたコンポジット樹脂材料、及び該コンポジット樹脂材料を用いた光学素子を提供することにある。
【解決手段】無機微粒子と分散剤とを少なくとも含む無機微粒子分散液を作製する工程Iと、該無機微粒子分散液を乾燥させる工程IIを含む無機微粒子乾燥粉体の製造方法であって、前記工程Iは、分散剤存在下で機械的分散が施され、且つ前記分散剤が大気圧、空気下、350℃における熱乾燥残量が0.1質量%以下であることを特徴とする無機微粒子乾燥粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子乾燥粉体の製造方法、それを用いて作製された無機微粒子乾燥粉体を均一に分散させたコンポジット樹脂材料及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MO、CD、DVDといった光情報記録媒体(以下、単に「媒体」ともいう。)に対して、情報の読み取りや記録を行うプレーヤー、レコーダー、ドライブといった情報機器には、光ピックアップ装置が備えられている。光ピックアップ装置は、光源から発した所定波長の光を媒体に照射し、反射した光を受光素子で受光する光学素子ユニットを備えており、光学素子ユニットは、これらの光を媒体の反射層や受光素子で集光させるためのレンズ等の光学素子を有している。
【0003】
光ピックアップ装置に適用する光学素子は、射出成形等の手段で、より安価に作製できる等の観点から、プラスチックを材料として適用することが好ましい。光学素子に適用可能なプラスチックとしては、環状オレフィンとα−オレフィンの共重合体等が知られている。
【0004】
プラスチックを材料として適用した光学素子ユニットにおいては、ガラスレンズのような光学安定性を有する特性を備えていることが求められている。例えば、環状オレフィンのような光学用プラスチック材料は、従来、レンズ用のプラスチック材料として用いられてきたポリメチルメタクリレート(PMMA)に比べて吸水率が極めて低く、吸水による屈折率の変化が大幅に改善されている。しかしながら、光学特性の温度依存性については未だ解決されておらず、屈折率の温度依存性は、ガラスレンズに用いられている無機ガラスより一桁以上大きいのが現状である。
【0005】
上記のような光学用プラスチック材料の欠点を改良する方法の1つとして、プラスチック素材に対して無機微粒子等のフィラーを混合することで、屈折率の温度依存性の改良と共に、剛性、耐熱性等の物性改良が図られてきた。通常、光学用プラスチックとして使用される樹脂組成物へ無機微粒子を適用した場合、無機微粒子に対して適切な表面処理を行うとともに高い光線透過率を維持するため、光学用プラスチックと無機微粒子の屈折率をなるべく近づけ、かつ一次粒子径がナノオーダーの無機微粒子を使用する必要がある。
【0006】
粒径分布のよいナノオーダーの無機微粒子を作製する方法として、液相中で作製する共沈法やゾルゲル法などがあるがいずれの方法も粒子表面の反応性が高く液相中から取り出しする過程で凝集が発生し、該無機微粒子を使用したコンポジット樹脂材料の透明性が低くなってしまう欠点が存在した。
【0007】
そこで粒子凝集を抑制しながら液相中で作製した粒子を取り出す方法として、様々なバインダを使用して乾燥時の凝集を防止する方法が提案されている。例えば、特許文献1には有機化合物を含む粒子または粒子前駆体分散液の液相を高温焼成することで粒子同士の融着を防いだ無機微粒子乾燥粉体を得る方法が開示されている。この方法では一次粒子径が数十nmの粒子を作製することができる。作製した乾燥粉体を有機溶媒及び分散剤と再び混合/粉砕させた後乾燥させた表面処理粉体を樹脂中に混合することでコンポジット樹脂を製造することができる。
【0008】
また特許文献2には、無機微粒子または無機塩を含む液相中に無機塩を添加した後、噴霧焼成することで無機微粒子の融着を防止した無機微粒子を作製する方法が提案されている。作製した無機塩を含む無機微粒子は溶媒中で脱塩することで無機粒子のみを取り出した後、同様にコンポジット樹脂を製造することができる。
【0009】
これらのバインダを用いた無機微粒子取り出し技術では数十ナノの無機微粒子が作製できるが、バインダ添加をすることで粒子安定性が損なわれ均一な粒径を持つ無機微粒子を得られにくいといった問題点があった。
【特許文献1】特開2005−213626号公報
【特許文献2】特開2003−19427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、液相中で分散した無機微粒子を取り出して無機微粒子乾燥粉体とし樹脂中に分散してコンポジット樹脂材料を製造する方法において、無機微粒子の一次粒子径が増大せず、透明性の高いコンポジット樹脂材料が得られる無機微粒子乾燥粉体の製造方法を提供することにある。
【0011】
更にその製造方法を用いて作製された無機微粒子乾燥粉体を均一に分散させたコンポジット樹脂材料、及び該コンポジット樹脂材料を用いた光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0013】
1.無機微粒子と分散剤とを少なくとも含む無機微粒子分散液を作製する工程Iと、該無機微粒子分散液を乾燥させる工程IIを含む無機微粒子乾燥粉体の製造方法であって、前記工程Iは、分散剤存在下で機械的分散が施され、且つ前記分散剤が大気圧、空気下、350℃における熱乾燥残量が0.1質量%以下であることを特徴とする無機微粒子乾燥粉体の製造方法。
【0014】
2.前記無機微粒子の少なくとも一部が気相中で作製されたことを特徴とする前記1に記載の無機微粒子乾燥粉体の製造方法。
【0015】
3.前記1または2に記載の製造方法で得られた無機微粒子乾燥粉体を含むことを特徴とするコンポジット樹脂材料。
【0016】
4.前記3に記載のコンポジット樹脂材料を用いて作製されたことを特徴とする光学素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液相中で分散した無機微粒子を取り出して無機微粒子乾燥粉体とし樹脂中に分散してコンポジット樹脂材料を製造する方法において、無機微粒子の一次粒子径が増大せず、透明性の高いコンポジット樹脂材料が得られる無機微粒子乾燥粉体の製造方法を提供することができる。
【0018】
更にその製造方法を用いて作製された無機微粒子乾燥粉体を均一に分散させたコンポジット樹脂材料、及び該コンポジット樹脂材料を用いた光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
コンポジット樹脂材料を作製する場合において使用される無機微粒子粉体は、コンポジット作製時の発泡や着色を抑制する為に、吸水率などの熱的安定性が高いことが求められる。一般的に粒子作製後に乾燥、焼成された無機微粒子粉体は吸水率が低く、結晶性にも優れており、コンポジット化することで優れた機能を発揮することが期待されているが、粒子形成時や乾燥焼成時の凝集が課題となっており、凝集の抑制された粒子の取り出し方法が求められている。
【0021】
例えば、気相法で作製された無機微粒子は熱安定性に優れているが、粒子生成時の二次凝集が課題であり、ビーズミルのような機械式分散を伴う分散などが必要となる。このような分散工程では基本的に分散剤が用いられるが、最終的なコンポジット材料との相溶性の観点から使用できる種類か限定されるという課題があった。
【0022】
また、乾燥取り出し時に有機化合物を用いた無機微粒子分散溶液の乾燥凝集抑制技術は公知である。しかしながら、ある種の分散剤は機械的分散工程から使用することで無機微粒子の一次粒子径が減少するとともに、粒子表面に均一に付着し乾燥時の一次粒子径の増大を大きく抑制する効果があることがわかった。
【0023】
つまり、本発明によれば分散剤を乾燥凝集抑制剤として使用する場合において、無機微粒子及び分散剤存在下で機械的分散が施されることで、粒子表面に乾燥凝集抑制効果を有する分散剤が均一に付着し乾燥時の凝集が少なく、無機微粒子の一次粒子径の増大が抑制される。また、通常使用される分散剤は分子量が大きく粉体乾燥時の有機分の残留が課題になるが、分散剤が大気圧、空気下、350℃における熱乾燥残量が0.1質量%以下である有機化合物を有機バインダ且つ分散剤とすることで分散時の粒子安定性を保ちつつ、乾燥時に有機分残留の抑制された無機微粒子乾燥粉体を作製することができる。
【0024】
即ち、使用される分散剤の残留物が熱乾燥時にほとんどない為脱塩操作の必要がなく、再凝集の抑制された乾燥無機微粒子粉体を作製することができる。それ故、本発明の製造方法で作製された無機微粒子を用いたコンポジット材料は透明性に優れ、屈折率の熱安定性や光学特性の改善された光学素子を提供することができる。また、分散液の安定性に優れ、高濃度の粒子溶液で作製できる為、大量の無機微粒子粉体を低コストで作製することができる。
【0025】
すなわち、本発明の製造方法で作製された無機微粒子粉体を用いたコンポジット樹脂は、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、光学物性及び透明性に優れ、かつ熱安定性に優れた光学素子として好適に使用される。
【0026】
以下、本発明とその構成要素等について詳細な説明をするが、本発明を限定するものではない。
【0027】
《無機微粒子》
本発明に係る無機微粒子粉体は液相中で分散後に、乾燥され、後述する樹脂材料と混合することでコンポジット材料を製造するために使用されることを特徴とする。
【0028】
以下は作製される無機微粒子の一般的な製造方法であるが、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。一般的な調製方法としては気相法(火炎法、噴霧熱分解法)、沈殿法(共沈法)、加水分解法(塩水溶液法、アルコキシド法、ゾルゲル法等)、水熱法(沈殿法、結晶化法、水熱分解法、水熱酸化法等)などが挙げられる。このうち、気相法は吸水率が低く結晶性の高い粒子を作製する点で好ましい。また、これらの手法を複数組み合わせることも好ましい。
【0029】
気相法粒子の作製手法として例えば、通常酸化物微粒子作製によく用いられる酸素を含む雰囲気内においてバーナにより化学炎を形成し、この化学炎中に金属粉末を粉塵雲を形成しうる量投入して燃焼させて、粒子径5〜30nmの酸化物微粒子を合成する方法や、特開2005−218937号公報のように原料気体流と酸素ガスの反応により気相中で所望の酸化物微粒子を得ることもできる。
【0030】
本発明に適用可能な無機微粒子は、その体積平均分散粒径が30nm以下であることが好ましく、1nm以上、30nm以下であることがより好ましく、更に好ましくは1nm以上、10nm以下である。体積平均分散粒径が1nm以上であれば、無機微粒子の分散性を確保することができ、所望の性能を得ることができる。また、体積平均分散粒径が30nm以下であれば、得られる無機微粒子分散樹脂組成物の良好な透明性を得ることができ、光学素子として光線透過率で70%以上を達成することができる。ここでいう体積平均分散粒径とは、分散状態にある無機微粒子を、同体積の球に換算した時の直径を言う。
【0031】
本発明でいう体積平均粒径は、TEM/EDXを用いて測定して求めることができる。本発明において用いることのできる無機微粒子の形状は、特に制限されるものではないが、流動性の観点より、好適には球状の無機微粒子が用いられる。また、粒径分布に関しても特に制限されるものではないが、光学特性の観点より広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。微粒子は、その一部またはすべてが非晶質として存在していても良い。
【0032】
〈使用される無機微粒子の種類〉
本発明で用いることのできる無機微粒子としては特に限定はなく、無機微粒子を含有することでの透明性維持/物性向上という目的が達成可能である無機微粒子の中より適宜選択可能である。具体的には酸化物微粒子・半導体微粒子・金属塩微粒子等が挙げられ、この中でも光学素子として使用する波長領域において吸収、発光及び蛍光等が生じないものが好ましく用いられる。
【0033】
酸化物微粒子としては、金属酸化物を構成する金属が、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi及び希土類金属からなる群より選ばれる1種または2種以上の金属である金属酸化物を用いることができ、具体的には、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物(MgAl24)等が挙げられる。
【0034】
その他の酸化物微粒子として希土類酸化物を用いることもでき、具体的には酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム等も挙げられる。金属塩微粒子としては、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられ、具体的には炭酸カルシウム、リン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0035】
半導体微粒子とは、半導体結晶組成の微粒子を意味し、該半導体結晶組成の具体的な組成例としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF21515や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0036】
〈複数種の無機微粒子〉
これらの無機粒子は、屈折率低下効果の減少または防止を目的として、1種類の無機粒子を用いてもよく、また複数種類の無機粒子を併用してもよい。また、複合組成の無機粒子を用いることも可能である。具体的な形態としては、コアシェル型、複合型、混合型などが挙げられる。
【0037】
〈無機粒子の屈折率〉
光学素子として使用される樹脂材料の屈折率は、ナトリウムD線(25℃)を光源として測定した屈折率nd25が1.5乃至1.7付近であるものが多く、用いられる無機微粒子の屈折率としては、nd25を1.5乃至1.7の範囲に調整することが好ましい。
【0038】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率(n1)は、光学素子として用いられるコンポジット材料の屈折率(n2)とした場合光学素子に要求される光線透過率の観点からn1−n2が0.1以下好ましくは0.03以下もっとも好ましくは0.01以下であることが望ましい。
【0039】
上記屈折率を測定する方法としてEDXによる元素分析から算出する方法、ASTMD542に準拠した方法、ベッケ線法及び分散法などがあるが、本発明ではEDXにより直接算出した値を用いた。
【0040】
〈無機微粒子の吸水率〉
基本的に表面処理を行っていない無機粒子の吸水率は数質量部以上あり、適切な表面処理された粒子でも0.1〜3質量部の吸水を持つ。液相法により作製された粒子のように、焼成工程を伴わない無機微粒子は、作製溶液中でイオンに水和していた水分子の一部が、配位結合や水素結合、分子間力により溶質粒子と強く結びつき、結晶格子内に取り込まれたままとなる。そのため、無機微粒子は気相法で作製されるか、または液相中で作製されたものを一度焼成することが好ましい。光学素子として適用される無機微粒子を樹脂材料へ混合する場合では以上の観点より吸水率は好ましくは3質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、もっとも好ましくは0.2質量部以下が望ましい。
【0041】
(分散剤)
本発明で使用される分散剤は、無機微粒子の分散工程で乾燥凝集抑制剤として作用する。
【0042】
分散剤は粒子に対して吸着して分散安定性を保持する官能基を有するものであり、具体的にはアミノ基、カルボキシル基、ケトン基、水酸基、チオール基などの官能基を有する高分子材料や分散剤が好ましく選択される。
【0043】
高分子の場合例えば、ポリ(2−メチル2−オキサゾリン)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどの低分子量のもの、
アニオン性、カチオン性、非イオン性、高分子タイプなどの湿潤・分散剤なども好適に用いられる。ピリジル基やアセチル基などを持つアセチルアセトンや2,2−ビピリジルなどキレート作用のあるもの低分子量有機材料も好適に挙げられる。
【0044】
また、分散剤は乾燥時の凝集や融着を抑制する機能を有し、熱乾燥する場合に揮発分解するものがよく、大気圧、空気下、350℃における熱乾燥残量が0.1質量%以下である有機化合物が用いられる。熱乾燥減量が0.1質量%以下にする為に350℃以上の熱乾燥温度が必要な分散剤の場合、無機微粒子同士の融着による一次粒子径の増大が発生する為、最終的なコンポジット材料の透明性が低下する。また、350℃における熱乾燥減量が0.1質量%を超える場合には最終的なコンポジット材料の着色や透過率低下の要因となり好ましくない。
【0045】
分散剤の分解温度は、例えばSII社製熱分析装置(EXSTAR6000 TG/DTA)を用いて測定することができる。
【0046】
本発明においてはポリビニルピロリドンやポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)の低分子量タイプやアセチルアセトン及び2,2−ビピリジルが熱分解残渣も少なく、粒子分散性がよいため好ましい。
【0047】
(無機微粒子分散液に用いられる溶媒)
本発明に適用可能な溶媒としては、本発明で使用される分散剤が溶解し、また無機微粒子が実質的に溶解しないものであればよく、粒子分散性の観点から水溶性溶媒が好ましく用いられる。
【0048】
例えば水溶性溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類:エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類:アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類:テトラヒドロフランなどのエーテル類が挙げられる。
【0049】
また、乾燥時には表面張力が低い溶媒が有利である為、限外濾過や遠心分離など公知な方法で非水系溶媒への置換を行ってもよい。
【0050】
例えば、非水系溶媒であればベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘプタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−t−ブチル、酢酸−n−ブチル、酢酸−n−ヘキシル等のエステル類、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン等の等を挙げることができる。
【0051】
また、これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0052】
使用する溶媒の大気圧時の沸点に関して、好ましくは30〜200℃、より好ましくは50〜150℃である。沸点が30℃未満であると、取り扱い上危険である。また、沸点が150℃より高いと、溶媒除去が困難であるばかりか、分解物の残留や加熱の影響で最終生成物に悪影響を与える。
【0053】
本発明の無機微粒子分散工程に調製する際に使用される溶媒量は、分散剤が溶解する範囲内であれば特に制限されない。乾燥工程時の残留溶媒量が50ppm以上である場合、無機有機複合熱可塑性樹脂材料のTg低下の要因となる為除去するのが望ましい。
【0054】
(機械式分散装置)
気相中で作製された無機微粒子は溶媒中では二次粒子に凝集しており、分散工程が必要となる。機械式分散工程を経ることで、一次粒子近くまで分散することができる。
【0055】
気相法で作製された無機微粒子は粒径分布が広く、透明コンポジットを作製するためには分散工程を経て一次粒子近くまで分散する必要がある。
【0056】
機械的分散には超音波分散装置、コロイドミル、ビーズミルなどがあり、所望の分散粒子径まで微粒子化できるものであれば特に限定はないが、数ナノメートルまで微粒子化することができる媒体攪拌式のビーズミル分散装置が好ましい。
【0057】
《乾燥装置》
本実施形態において適用できる乾燥装置は無機微粒子分散溶液中の溶媒を乾燥できるものであれば特に限定はなく、ヒーター加熱を用いた焼成炉、マイクロ波加熱乾燥装置、超臨界乾燥装置などが使用できる。
【0058】
また上記加熱乾燥時には無機微粒子溶液を液滴化することで乾燥効率をあげ、溶媒の残留を抑制することができる。具体的にはスプレー式やディスク式、超音波噴霧などが挙げられるが液滴系を小さくしやすい超音波噴霧方式がより好ましい。
【0059】
(乾燥条件)
上記乾燥装置において必要とされる乾燥温度は、無機微粒子溶液に使用される分散剤、溶媒物性及び無機微粒子濃度により左右される。具体的には例えば、粒子の一部にコロイダルシリカゾルが含まれている場合には、水分や未反応分の除去の為に100℃以上好ましくは200℃以上にすることが望ましい。
【0060】
本発明の乾燥粉体とは実質的に溶媒または表面吸着水のない粉体であり、コンポジット材料及び光学素子を作製する工程において系内に流出しない範囲であれば粒子内部に存在してもよい。また熱可塑性樹脂を用いた射出成形や、硬化性樹脂を用いたリフロー工程などを経て光学素子を作製する場合には、あらかじめ溶媒除去温度より高温にすることで成形時の発泡を抑制することができる。また、あらかじめ水熱操作を用いて無機微粒子を加熱することで上記課題を抑制することもできる。
【0061】
乾燥時の雰囲気は特に制限はないが、後述する分散剤の残留を抑制する為空気下であることが望ましい。乾燥温度は無機微粒子同士の融着防止の観点から350℃以下が好ましい。
【0062】
(表面処理)
コンポジット樹脂に用いられる樹脂材料がポリオレフィン樹脂などの疎水性が高い場合には、無機微粒子乾燥粉体に表面修飾を行うことで親和性を向上させることができる。上記方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、水が存在する条件下で加水分解により微粒子の表面に修飾する方法が挙げられる。この方法では、酸またはアルカリなどの触媒が好適に用いられ、微粒子表面の水酸基と、表面修飾剤が加水分解して生じる水酸基とが、脱水して結合を形成することが一般に知られている。
【0063】
気相中で作製した無機微粒子を流動床中で表面処理を行った後、液相中に直接混合する方法でも無機微粒子を直接混合した液相中で表面処理を行ってもよい。
【0064】
無機微粒子の表面改質の方法としては、カップリング剤等の表面修飾剤による表面処理、ポリマーグラフト、メカノケミカルによる表面処理などが挙げられる。
【0065】
無機微粒子の表面改質に用いられる表面修飾剤としては、シラン系カップリング剤を始め、シリコーンオイル、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系カップリング剤等が挙げられる。これらは特に限定されず、無機微粒子および無機微粒子を分散する樹脂材料の種類により適宜選択することが可能である。また、各種表面処理を二つ以上同時又は異なる時に行っても良い。
【0066】
具体的には、例えば、シラン系の表面処理剤として、ビニルシラザン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられ、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好ましく用いられる。
【0067】
シリコーンオイル系処理剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルやアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルを用いることができる。
【0068】
またこれらの処理剤はヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン水等で適宜希釈して用いても良い。
【0069】
表面修飾剤による表面処理の方法としては、湿式加熱法、乾式攪拌法が挙げられる。50nm以下の微粒子を表面改質する場合、乾式攪拌法が粒子凝集抑制の観点から好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0070】
これらの表面修飾剤は1種類のみを用いても、複数種類を併用してもよく、さらに、用いる表面修飾剤によって得られる表面修飾微粒子の性状は異なることがあり、樹脂組成物を得るにあたって用いる熱可塑性樹脂との親和性を、表面修飾剤を選ぶことによって図ることも可能である。表面修飾の割合は特に限定されるものではないが、表面修飾後の微粒子に対して、表面修飾剤の割合が10〜99質量部であることが好ましく、30〜98質量部であることがより好ましい。
【0071】
《樹脂材料》
(熱可塑性樹脂)
本発明のコンポジット材料に使用される熱可塑性樹脂(ホスト材料)は、熱安定性の観点よりオレフィン系樹脂が好ましく、特に環状オレフィン樹脂が望ましい。例えば三井化学 特開2003−73559号公報段落番号0031〜0036に記載の範囲にあるものであれば、その他既往の樹脂をもちいてもよい。
【0072】
本発明において用いる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が80℃以上350℃以下であることが好ましく、100℃以上300℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃未満であると、十分な耐熱性が得られない恐れがあり、またガラス転移温度が350℃を超えると、成形加工する際に高温が必要となり、プロセス的に不利となるばかりでなく、材料が変色する等の問題が生じる恐れがある。
【0073】
光線透過率は70%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。密度は0.9g/cm3以上2.0g以下が好ましく、0.9g/cm3以上1.5g以下がより好ましい。
【0074】
本発明における熱可塑性樹脂とは、ある温度範囲で加熱により軟化し、その軟化した状態で成形や押し出し等により製品加工ができることを示す。具体的には、例えば、加熱状態でプレスすることにより、0.1〜5000μm程度の厚さを有するフィルムを成形できる性能を有する。また、本発明における溶融成形が可能な熱可塑性樹脂とは、熱的に安定な温度域で溶融成形が可能な溶融粘度を有しており、押し出しや射出等により成形加工ができることを示す。具体的には、例えば、空気中において加熱により樹脂の5質量部が減少する温度、すなわち5%質量減少温度に比べ、1〜100パスカル・秒程度の溶融粘度を有する温度が30℃以上、好ましくは50℃以上低いことをいう。溶融成形性を有することにより、押し出し成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、積層成形等が可能となり、ディスク、ファイバー等の様々な成形体を得ることができる。
【0075】
具体的には、本発明において用いる熱可塑性樹脂は、上述の光学特性を満たすものであり、より好ましくはさらに、上述のガラス転移温度、光線透過率、密度、及び樹脂加工性(熱可塑性及び/または溶融成形性)をも満たす樹脂である。例えば、アクリル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリカーボネート樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリエステル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリエーテル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリアミド樹脂、または環状脂肪族鎖を有するポリイミド樹脂等が挙げられる。より具体的には、例えば、表1記載の樹脂番号(3)〜(14)で示される構造骨格を有する樹脂を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
【表1】

【0077】
また、環状脂肪族鎖の一部を芳香環に置き換えた共重合体を用いることもでき、硫黄を結合鎖などに一部含んだチオカーボネートやチオエステル、チオエーテル等も好適に用いることができる。なお、芳香環や硫黄はアッベ数の低減を伴うことがあるので、本発明で提示している熱可塑性樹脂の光学特性を外れない範囲で選択することが重要である。
【0078】
本発明において用いる熱可塑性樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法を用いることもできる。また樹脂に含まれる不純物の種類及び量についても、特に制限されるものではないが、用途によっては不純物が本発明の効果を損なう恐れがあるので、総不純物量は1質量部以下、特にナトリウムや塩素などのイオン性不純物は0.5質量部以下であることが望ましい。
【0079】
本発明において用いる熱可塑性樹脂の分子量は、特に限定されるものではなく、用途や加工方法に応じ、任意の分子量とすることができるが、成形加工性を勘案すると、樹脂を0.5g/100ミリリットルの濃度で溶解可能な溶剤に溶解した後の35℃で測定した対数粘度の値が、0.1〜3.0デシリットル/gであることが好ましい。
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂は、構成単位の繰り返しに特に制限はなく、交互構造、ランダム構造、ブロック構造等のいずれの場合でも良い。また、通常用いられる分子形状は線状であるが、分岐している形状を用いても良い。また、グラフト状でも良い。
【0081】
その他、本発明において用いる熱可塑性樹脂として、特公平7−121981号公報に開示されている開環重合体水素添加物などを挙げることができる。
【0082】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂材料においては、吸水率が0.2質量部以下であることが好ましい。吸水率が0.2質量部以下の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭硝子社製)等)、環状オレフィン樹脂(例えば、ZEONEX(日本ゼオン社製)、アートン(JSR社製)、アペル(三井化学社製)、TOPAS(チコナ社製)等)、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネートなどが好適であるが、これらに限るものではない。また、これらの樹脂と相溶性のある他の樹脂を併用することも好ましい。本発明内で用いられる相溶性とは任意の割合で分子状態に溶け合う完全相溶と任意の組成や温度等条件下で相溶する部分相溶の状態をいう。また、2成分以上樹脂を相溶化する場合、相溶化後の樹脂は各成分の物理的及び化学的性質の平均であるか、両者の最善の特性が示される物理的及び化学的性質を有する。例えば2種以上の樹脂を用いる場合、その吸水率は、個々の樹脂の吸水率の平均値にほぼ等しいと考えられ、その平均の吸水率が0.2%以下になればよい。
【0083】
(硬化性樹脂)
本発明で用いられる硬化性樹脂としては、紫外線及び電子線照射、あるいは加熱処理の何れかの操作によって硬化し得るもので、無機微粒子と未硬化の状態で混合させた後、硬化させることによって透明な樹脂組成物を形成する物であれば特に制限なく使用でき、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂等が好ましく用いられる。一例として、以下にエポキシ樹脂とその構成組成物について説明するが、これらに限定される物ではない。
【0084】
(水素化エポキシ樹脂)
本発明に用いられる硬化性樹脂として水素化エポキシ樹脂が挙げられるが、好ましく使用されるのは芳香族エポキシ樹脂を水素化したエポキシ樹脂である。このエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3、3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ビフェノール型エポキシ樹脂又は4,4′−ビフェノール型エポキシ樹脂のようなビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、トリスフェニロールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェニロールエタン型エポキシ樹脂、及びフェノールジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビフェノール型エポキシ樹脂の芳香環を直接水添した水素化エポキシ樹脂が、高水添率のエポキシ樹脂が得られるという点で特に好ましい。
【0085】
また、脂環式オレフィンをエポキシ化して得られる脂環式エポキシ樹脂を水素化エポキシ樹脂中に5〜50質量部添加し併用することができる。特に好ましい脂環式エポキシ樹脂は3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートであり、この脂環式エポキシ樹脂を配合すると、エポキシ樹脂組成物の配合粘度を低下でき作業性を向上させることができる。
【0086】
(酸無水物硬化剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物中における酸無水物硬化剤は、分子中に炭素−炭素の二重結合を持たない酸無水物硬化剤が好ましい。具体的には、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、水添無水ナジック酸、水添無水メチルナジック酸、水添無水トリアルキルヘキサヒドロフタル酸、無水2,4−ジエチルグルタル酸等が挙げられる。これらの中で、無水ヘキサヒドロフタル酸又は/及び無水メチルヘキサヒドロフタル酸が耐熱性に優れ、無色の硬化物が得られる点で特に好ましい。
【0087】
酸無水物硬化剤の添加割合はエポキシ樹脂のエポキシ当量により異なるが、好ましくはエポキシ樹脂100質量部に対し、40〜200質量部の範囲内で配合される。
【0088】
(硬化促進剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物中へ、エポキシ樹脂と酸無水物の硬化反応を促進する目的で硬化促進剤を使用することができる。硬化促進剤の例としては、3級アミン類及びその塩類、イミダゾール類及びその塩類、有機ホスフィン化合物類、オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズ等の有機酸金属塩類が挙げられ、特に好ましい硬化促進剤は、有機ホスフィン化合物類である。添加する硬化促進剤の配合割合は、水素化酸無水物硬化剤100質量部に対し、0.01〜10質量部の範囲内である。この範囲を外れると、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなるため好ましくない。
【0089】
《コンポジット樹脂の製造方法》
本発明に係るコンポジット樹脂の製造方法は、無機微粒子乾燥粉体が高度に分散したコンポジット樹脂を得るため、好ましくは表面処理剤などによって適切に表面改質された無機微粒子乾燥粉体と樹脂材料に剪断力を与えて直接混合し、好ましい硬化条件を経ることによって光学素子が作製する方法が好ましく用いられる。
【0090】
最終的に調製されるコンポジット樹脂に含まれる無機微粒子乾燥粉体の割合としては、通常5〜50体積%程度である。コンポジット樹脂に含まれる無機微粒子の割合が大幅に少ない場合、フィラー含有により求められる物性改善効果が期待できない。また、上記で規定する割合を越える場合、混合装置中で均一な混合に時間を費やし、その結果、樹脂の劣化を招くほか、混合装置内壁面への無機微粒子の付着が問題となる。
【0091】
また、上記樹脂との混合は、酸化による機能低下を防ぐため、大気中ではなくAr、N2等不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0092】
また、装置の雰囲気制御や連続生産性などを考慮に入れた場合、二軸混練機を好ましく用いることができる。その他高トルクで雰囲気制御が可能であるものであるならばローター,ニーダー等も用いることができる。特に、無機微粒子の吸湿を防ぐと同時に溶媒除去を行う為、ベント付装置が好ましい。
【0093】
具体的な混練機としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製)、ポリラボシステム(HAAKE社製)、ナノプラストミル(東洋精機製作所社製)、ナウターミキサーブス・コ・ニーダー(Buss社製)、TEM型押し出し機(東芝機械社製)、TEX二軸混練機(日本製鋼所社製)、PCM混練機(池貝鉄工所社製)、三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(以上、井上製作所社製)、ニーデックス(三井鉱山社製)、MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(以上、森山製作所社製)、バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)等が挙げられる。
【0094】
(混合条件)
本発明において、無機微粒子粉体と樹脂材料との混合の程度が不十分の場合には、特に、屈折率やアッベ数、光線透過率などの光学特性に影響を及ぼすことが懸念され、また、溶融成形性などの樹脂加工性にも悪影響する恐れがあるため、十分な混合を行う方が望ましい。その混合の程度は、用いる無機微粒子粉体及び樹脂材料の特性を十分に勘案して、方法を選択することが重要である。
【0095】
〈樹脂添加剤〉
本発明に使用されるコンポジット樹脂の製造工程及び加工工程においては必要に応じて様々な種類の添加剤を単独で又は組合せて使用してもよい。
【0096】
本発明に使用される添加剤について格別指定はないが、通常使用されているものとして熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、増量剤、帯電防止剤、離型剤、加工助剤各種フィラーなどが挙げられる。上記のような各種添加剤は一般に用いられており、当業者に公知である。かかる添加剤の具体例は、R.Gachter及びH.Muller,Plastics Additives Handbook,4th edition,1993に記載されている。またその範囲は発明に記載の効果を損なわない範囲で適宜使用可能である。上記添加剤は上記樹脂製造工程より最終製品の加工工程までどのタイミングで添加されても良い。
【0097】
以下に各樹脂添加剤の中で主なものの具体例を挙げるが、これらに限定はされない。
【0098】
(可塑剤)
可塑剤としては、特に限定はないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を挙げることができる。
【0099】
リン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等、トリメリット酸系可塑剤では、例えば、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等、ピロメリット酸エステル系可塑剤では、例えば、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等、グリコレート系可塑剤では、例えば、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、クエン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等を挙げることができる。
【0100】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成形時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0101】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などが挙げられる。
【0102】
リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス−(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0103】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0104】
(耐光安定剤)
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本発明においては、レンズの透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。ヒンダードアミン系耐光安定剤(以下、HALSと記す。)の中でも、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたGPCにより測定したポリスチレン換算のMnが1,000〜10,000であるものが好ましく、2,000〜5,000であるものがより好ましく、2,800〜3,800であるものが特に好ましい。Mnが小さすぎると、該HALSをブロック共重合体に加熱溶融混練して配合する際に、揮発のため所定量を配合できず、射出成形等の加熱溶融成形時に発泡やシルバーストリークが生じるなど加工安定性が低下する。また、ランプを点灯させた状態でレンズを長時間使用する場合に、レンズから揮発性成分がガスとなって発生する。逆にMnが大き過ぎると、ブロック共重合体への分散性が低下して、レンズの透明性が低下し、耐光性改良の効果が低減する。したがって、本発明においては、HALSのMnを上記範囲とすることにより加工安定性、低ガス発生性、透明性に優れたレンズが得られる。
【0105】
このようなHALSの具体例としては、N,N′,N″,N′″−テトラキス−〔4,6−ビス−{ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ}−トリアジン−2−イル〕−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,6−ヘキサンジアミン−N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ〔(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕などの、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物などの、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した高分子量HALS等が挙げられる。
【0106】
これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物などのMnが2,000〜5,000のものが好ましい。
【0107】
《光学素子》
本発明に係る光学素子は、上記のコンポジット樹脂の製造方法によって作製された光学素子であることを特徴とする。以下において、当該光学素子の製造方法等について詳細な説明をする。
【0108】
(光学素子用成形体の作製方法)
本発明のコンポジット樹脂を用いた光学素子の成形方法としては、格別制限されるものはないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた成形物を得る為には、溶融成形法が好ましい。
【0109】
溶融成形法としては、例えば、市販のプレス成形、市販の押し出し成形、市販の射出成形等が挙げられるが、射出成形が成形性、生産性の観点から好ましい。
【0110】
成形条件は、使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば、射出成形における樹脂組成物(樹脂単独の場合または樹脂と添加物との混合物の両方がある)の温度は、成形時に適度な流動性を樹脂に付与して成形品のヒケやひずみを防止し、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生を防止し、更に、成形物の黄変を効果的に防止する観点から150℃〜400℃の範囲が好ましく、更に好ましくは200℃〜350℃の範囲であり、特に好ましくは200℃〜330℃の範囲である。
【0111】
本発明に係る成形物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、本発明の光学素子の一つである光学用樹脂レンズとして用いられるが、その他の光学部品としても好適である。
【0112】
(光学素子への適用例)
本発明の光学素子用のコンポジット樹脂は、上記の作製方法により得られるが、光学素子への具体的な適用例としては、以下のようである。
【0113】
例えば、光学レンズや光学プリズムとして、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。
【0114】
光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(MiniDisc)、DVD(Digital Versatile Disc), Blu−ray Disc,などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【0115】
これらの中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズやレーザ走査系レンズとして好適であり、ピックアップレンズに最も好適に用いられる。
【0116】
本発明を用いて作製された光学素子用の樹脂組成物は優れた温度特性を有し、青紫色レーザ光源を用いた高密度な光ディスク用レンズとして好適に用いられる。
【0117】
上述した成形物の中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズや、レーザ走査系レンズ等の光学素子として好適に用いられ、以下、図を参照しながら、本実施形態における光学素子用無機微粒子分散樹脂組成物によって成形された光学素子が用いられた光ピックアップ装置1について説明する。
【0118】
図1に示すように、本実施形態における光ピックアップ装置1には、光源としての3種類の半導体レーザ発振器LD1、LD2、LDが具備されている。このうち、半導体レーザ発振器LD1は、BD(またはAOD)10用として波長350〜450nm中の特定波長、例えば、405nm、407nmの波長の光束を出射するようになっている。また、半導体レーザ発振器LD2は、DVD20用として波長620〜680nm中の特定波長の光束を出射するようになっている。さらに、半導体レーザLD3は、CD30用として750〜810nm中の特定波長の光束を出射するようになっている。
【0119】
半導体レーザ発振器LD1から出射される青色光の光軸方向には、図1中下方から上方に向かって、シェイバSH1、スプリッタBS1、コリメータCL、スプリッタBS4、BS5及び対物レンズ15が順次配設されており、対物レンズ15と対向する位置には、光情報記録媒体であるBD10、DVD20またはCD30が配置されるようになっている。また、スプリッタBS1の図1中右方には、シリンドリカルレンズL11、凹レンズL12及び光検出器PD1が順次配設されている。
【0120】
半導体レーザ発振器LD2から出射される赤色光の光軸方向には、図1中左方から右方に向けてスプリッタBS2、BS4が順次配設されている。また、スプリッタBS2の図1中下方にはシリンドリカルレンズL21、凹レンズL22及び光検出器PD2が順次配設されている。
【0121】
半導体レーザ発振器LD3から出射される光の光軸方向には、図1中右方から左方に向けてスプリッタBS3、BS5が順次配設されている。また、スプリッタBS3の図1中下方にはシリンドリカルレンズL31、凹レンズL32及び光検出器PD3が順次配設されている。
【0122】
光学素子である対物レンズ15は、光情報記録媒体としてのBD10、DVD20またはCD30に対向配置されるものであり、各半導体レーザ発振器LD1、LD2、LD3から出射された光を、BD10、DVD20またはCD30に集光するようになっている。このような対物レンズ15には、2次元アクチュエータ2が具備されており、この2次元アクチュエータ2の動作により、対物レンズ15は、上下方向に移動自在となっている。
【0123】
次に、光ピックアップ装置の作用について説明する。
【0124】
本実施形態における光ピックアップ装置1は、記録媒体の種類よってそれぞれ異なる動作をするため、以下において、BD10、DVD20及びCD30に対する動作態様の詳細について、それぞれ説明する。
【0125】
はじめに、BD10に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
【0126】
BD10への情報の記録動作時や、BD10に記録された情報の再生動作時には、半導体レーザ発振器LD1が光を出射する。その光は、図1に示すように、光線L1となって、シェイバSH1を透過して整形され、スプリッタBS1を透過して、コリメータCLで平行光とされる。そして、各スプリッタBS4、BS5及び対物レンズ15を透過し、BD10の記録面10aに集光スポットを形成する。
【0127】
集光スポットを形成した光は、BD10の記録面10aで情報ピットにより変調され、記録面10aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15、スプリッタBS5及びコリメータCLを透過し、スプリッタBS1で反射した後、シリンドリカルレンズL11を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL12を透過して、光検出器PD1で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、BD10に対する情報の記録動作や、BD10に記録された情報の再生動作が完了する。
【0128】
次に、DVD20に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
【0129】
DVD20への情報の記録動作時や、DVD20に記録された情報の再生動作時には、半導体レーザ発振器LD2が光を出射する。その光は、図1に示すように、光線L2となって、スプリッタBS2を透過し、スプリッタBS4によって反射される。反射された光線L2は、スプリッタBS5及び対物レンズ15を透過し、DVD20の記録面20aに集光スポットを形成する。
【0130】
集光スポットを形成した光は、DVD20の記録面20aで情報ピットにより変調されて、記録面20aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15及びスプリッタBS5を透過し、各スプリッタBS4、BS2で反射した後、シリンドリカルレンズL21を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL22を透過して、光検出器PD2で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、DVD20に対する情報の記録動作や、DVD20に記録された情報の再生動作が完了する。
【0131】
最後に、CD30に対する光ピックアップ装置1の動作について説明する。
【0132】
CD30への情報の記録時や、CD30に記録された情報の再生時には、半導体レーザ発振器LD3から光が出射される。出射された光は、図1に示すように、光線L3となって、スプリッタBS3を通過し、スプリッタBS5によって反射される。反射された光線L3は、対物レンズ15を透過し、CD30の記録面30aに集光スポットを形成する。
【0133】
集光スポットを形成した光は、CD30の記録面30aで情報ピットにより変調されて、記録面30aによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ15を透過し、各スプリッタBS5、BS3で反射した後、シリンドリカルレンズL31を透過して、非点収差が与えられる。その後、凹レンズL32を透過して、光検出器PD3で受光される。以後、このような動作が繰り返し行われ、CD30に対する情報の記録動作や、CD30に記録された情報の再生動作が完了する。
【0134】
なお、光ピックアップ装置1には、BD10、DVD20またはCD30に対する情報の記録動作時や、BD10、DVD20またはCD30に記録された情報の再生動作時には、各光検出器PD1、PD2、PD3でのスポットの形状変化または位置変化による光量変化を検出して、合焦検出またはトラック検出を行うようになっている。そして、このような光ピックアップ装置1は、各光検出器PD1、PD2、PD3の検出結果に基づいて、2次元アクチュエータ2が半導体レーザ発振器LD1、LD2、LD3からの光をBD10、DVD20またはCD30の記録面10a、20a、30aに結像するように対物レンズ15を移動させるとともに、半導体レーザ発振器LD1、LD2、LD3からの光を各記録面10a、20a、30aの所定のトラックに結像させるように対物レンズ15を移動させるようになっている。
【実施例】
【0135】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量部」を表す。
【0136】
(光線透過率の測定)
作製した光学素子を厚さ1mm、巾20mm、長さ50mmの試験用プレート(光学素子)にして、厚さ方向(1mm厚)に対する波長405nmにおける透過率T1(%)を、ASTM D−1003に従って、島津製作所製の分光光度計UV−3150を用いて測定した。
【0137】
(熱乾燥残量の測定)
分散剤の熱乾燥残量は以下の方法で測定した。
【0138】
SII社製熱分析装置(EXSTAR6000 TG/DTA)を用いて、大気中雰囲気、10℃/minの昇温速度で350℃まで加熱した条件における残量を乾燥残量とする。
【0139】
〈光学素子1の作製〉
気相法で粒子形成した、大明化学製γ−アルミナ TM−300(一次粒子径7nm)8質量部、及び関東化学製2,2′−ビピリジン32質量部を28%アンモニア水100質量部、水100質量部及びエタノール300質量部と混合した後、コトブキ技研ビーズミル分散機(ウルトラアペックスミル)を用いて分散混合を行った。その後関東化学製テトラエトキシシラン3質量部を8hかけて滴下し、アンモニア及びエタノールを限外濾過で除去して無機微粒子分散液を作製した。
【0140】
その後、日本ビュッヒ社製スプレードライ装置B−290を用いて、220℃で乾燥させ白色粉体を得た。その後焼成炉で350℃10min乾燥させることで無機微粒子乾燥粉体を得た。
【0141】
このときの無機微粒子分散液中の粒子径、熱乾燥残量、及び乾燥粉体の粒子径を表2に示す。このときの無機微粒子分散液中の粒子径は動的光散乱式粒径分布装置から、乾燥粉体はTEM−EDXから算出した。
【0142】
次に、無機微粒子乾燥粉体100質量部とヘキサメチルジシラザン50質量部をN2置換したフラスコ容器内にいれて250℃8h放置することにより表面改質された無機微粒子粉体を得た。その後未反応のヘキサメチルジシラザンを100℃で減圧することで除去した。
【0143】
続いて前記無機微粒子乾燥粉体とアダマンチルメタクリレート(表中、AMと略す)を無機微粒子が20体積部になるように二軸混練機(東洋精機製作所 ラボプラストミル)で混合し開始剤として日本油脂社製パーブチルz(t−ブチルパーオキシベンゾエート)をアダマンチルメタクリレートに対して1質量部を加えて、金型中に注入し120℃2h重合させて光学素子1を作製した。
【0144】
結果を表2に示す。
【0145】
〈光学素子2の作製〉
関東化学製2,2′−ビピリジン32質量部をアセチルアセトン28質量部にした以外は実施例1と同様に光学素子2作製した。
【0146】
〈光学素子3の作製〉
実施例1と同様に表面改質した無機微粒子乾燥粉体を作製した。
【0147】
その後、三井化学社製環状ポリオレフィンAPEL5014(表中、APELと略す)と無機微粒子を無機微粒子が20体積部になるように二軸混練機(東洋精機製作所 ラボプラストミル)で混合した後、金型中に注入し光学素子3を作製した。
【0148】
〈光学素子4の作製〉
実施例1と同様に表面改質した無機微粒子乾燥粉体を作製した。
【0149】
続いて前記無機微粒子乾燥粉体とメタクリル酸メチル(表中、MMAと略す)を無機微粒子が20体積部になるように二軸混練機(東洋精機製作所 ラボプラストミル)で混合し開始剤として過酸化ベンゾイルをメタクリル酸メチルに対して1質量部を加えて、金型中に注入し80℃4h重合させて光学素子4を作製した。
【0150】
〈光学素子5の作製〉
大明化学製γ−アルミナ TM−300(一次粒子径7nm)8質量部を、液相法で粒子形成した日産化学社製アルミナゾル100(固形分10質量%)80質量部にした以外は実施例1と同様に光学素子5を作製した。
【0151】
〈光学素子6の作製〉
大明化学製γ−アルミナ TM−300(一次粒子径7nm)8質量部、28%アンモニア水100質量部、水100質量部及びエタノール300質量部と混合した後、コトブキ技研ビーズミル分散機(ウルトラアペックスミル)を用いて分散混合を行った。その後関東化学製テトラエトキシシラン3質量部を8hかけて滴下し、アンモニア及びエタノールを限外濾過で除去して無機微粒子分散液を作製した。
【0152】
その後、2,2′−ビピリジン32質量部を無機微粒子分散液と混合したところ、やや一次粒子径の増大が確認された。
【0153】
その後、日本ビュッヒ社製スプレードライ装置B−290を用いて、220℃で乾燥させ白色粉体を得た。その後焼成炉で450℃10min乾燥させることで無機微粒子乾燥粉体を得た。
【0154】
以降は実施例1と同様に光学素子6作製した。
【0155】
〈光学素子7の作製〉
関東化学製2,2′−ビピリジン32質量部をポリビニルピロリドン(分子量300)32質量部にした以外は実施例1と同様に光学素子7を作製した。作製した光学素子はポリビニルピロリドンの熱分解物が残留しており、茶褐色のもので透明性が低下した。
【0156】
〈光学素子8の作製〉
大明化学製γ−アルミナ TM−300(一次粒子径7nm)8質量部、及び関東化学製ポリN−ビニルアセトアミド32質量部を28%アンモニア水100質量部、水100質量部及びエタノール300質量部と混合した後、コトブキ技研ビーズミル分散機(ウルトラアペックスミル)を用いて分散混合を行った。その後関東化学製テトラエトキシシラン3質量部を8hかけて滴下し、アンモニア及びエタノールを限外濾過で除去して無機微粒子分散液を作製した。
【0157】
その後、日本ビュッヒ社製スプレードライ装置B−290を用いて、220℃で乾燥させ白色粉体を得た。その後焼成炉で350℃10min乾燥させたところ、ポリN−ビニルアセトアミドが検出された為、450℃10minでさらに乾燥させ無機微粒子乾燥粉体を得た。
【0158】
このときの無機微粒子分散液中の粒子径、熱乾燥残量、及び乾燥粉体の粒子径を表2に示す。このときの無機微粒子分散液中の粒子径は動的光散乱式粒径分布装置から、乾燥粉体はTEM−EDXから算出した。
【0159】
次に、無機微粒子乾燥粉体100質量部とヘキサメチルジシラザン50質量部をN2置換したフラスコ容器内にいれて250℃8h放置することにより表面改質された無機微粒子粉体を得た。その後未反応のヘキサメチルジシラザンを100℃で減圧することで除去した。
【0160】
続いて前記無機微粒子乾燥粉体とアダマンチルメタクリレート(AM)を無機微粒子が20体積部になるように二軸混練機(東洋精機製作所 ラボプラストミル)で混合し開始剤として日本油脂社製パーブチルz(t−ブチルパーオキシベンゾエート)をアダマンチルメタクリレートに対して1質量部を加えて、金型中に注入し120℃2h重合させて光学素子8を作製した。
【0161】
【表2】

【0162】
表より、機械的分散工程存在下で乾燥時バインダ機能を有する分散剤を添加することにより、分散剤添加時の無機微粒子の凝集を抑制し更に、無機微粒子表面に均一に吸着することにより、熱乾燥時の凝集をより抑制することができた。
【0163】
また、分散剤として使用される有機化合物が350℃までにコンポジット作製時に残留しない場合は、未分解物によるコンポジット作製時の着色や白濁が発生しない。
【0164】
また、溶媒除去時の熱乾燥温度が低く抑えられる為、無機微粒子の融着による一次粒子径増大が抑制された無機微粒子乾燥粉体が作製でき、透明性に優れたコンポジット材料及び光学素子の作製が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明に係る光学素子が用いられた光ピックアップ装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0166】
15 対物レンズ(光学素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子と分散剤とを少なくとも含む無機微粒子分散液を作製する工程Iと、該無機微粒子分散液を乾燥させる工程IIを含む無機微粒子乾燥粉体の製造方法であって、前記工程Iは、分散剤存在下で機械的分散が施され、且つ前記分散剤が大気圧、空気下、350℃における熱乾燥残量が0.1質量%以下であることを特徴とする無機微粒子乾燥粉体の製造方法。
【請求項2】
前記無機微粒子の少なくとも一部が気相中で作製されたことを特徴とする請求項1に記載の無機微粒子乾燥粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られた無機微粒子乾燥粉体を含むことを特徴とするコンポジット樹脂材料。
【請求項4】
請求項3に記載のコンポジット樹脂材料を用いて作製されたことを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96699(P2009−96699A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272326(P2007−272326)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】