説明

無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】無機微粒子を含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、チキソ性に優れ、スクリーン印刷を容易に行うことができるとともに、例えば350℃以下の低温で焼成することができ、焼成時に無機微粒子が高温の熱に晒されて劣化するのを抑制し得る無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂と、有機微粒子と、無機微粒子とを含有する、無機微粒子分散ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子を含有し、チキソ性に優れた無機微粒子分散ペースト組成物に関し、より詳細には、スクリーン印刷性に優れ、かつ低温で焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物が、様々な形状の焼結体を得るのに用いられている。特に、無機微粒子として蛍光体を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物は、有機EL等に用いられており、需要が高まりつつある。
【0003】
ペースト組成物からなる焼結体は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード等を用いた塗布法、シート状に加工するためのキャスティング法等により、ペースト組成物を所定の形状とした後、焼成することにより得られる。なかでも、スクリーン印刷法は、大量生産に特に適している。
【0004】
スクリーン印刷に用いられるペースト組成物には、塗工の際には、粘度が十分に低く塗工が容易であることが求められる。一方、塗工後に静置して乾燥させる際には、粘度が十分に高く、ペースト組成物が自然に流延しないことが求められる。従って、スクリーン印刷を良好に行うためには、ペースト組成物がチキソトロピー性、すなわちチキソ性を有することが好ましい。なお、チキソ性とは、例えば、回転粘度計でペースト組成物の粘度を評価した場合に、回転数が高くなる(歪速度が高い変位)と粘性が低くなり、回転数が低くなる(歪速度が低い変位)と粘性が高くなる性質をいう。
【0005】
ペースト組成物のチキソ性を高めるために、樹脂バインダーとして例えばエチルセルロースを用いて、該エチルセルロースを高沸点の有機溶剤に溶解させたペースト組成物が広く用いられている。例えば、下記の特許文献1には、少なくとも無機微粒子と、エチルセルロース等のセルロース系樹脂などを含むバインダー樹脂と、溶剤とを含有する隔壁形成用ペーストが開示されている。
【0006】
エチルセルロースはエトキシ化率が高いほど粘度が高くなり、有機溶剤に溶解し難くなる。エチルセルロースが有機溶剤に完全に溶解せずに、数μm程度の大きさのエチルセルロース粒子が溶解せずにペースト組成物中に残留していると、ペースト組成物が優れたチキソ性を有するようになる。エチルセルロース粒子が溶解せずにペースト組成物中に残留していると、エチルセルロース粒子が擬似架橋点のような働きをするため、剪断ひずみが系にかかった際に、剪断速度に応じて応力が変化する。すなわち、剪断速度が大きいときは、疑似架橋点は破壊されて粘度が低くなり、剪断速度が小さいときは、擬似架橋点の破壊と回復とが同時に起こり粘度が高くなる。
【特許文献1】特開2000−164121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バインダー樹脂としてエチルセルロースを用いた場合には、ペースト組成物にエチルセルロースを少量配合するだけで、ペースト組成物の粘度を効果的に高めることができる。しかしながら、ペースト組成物のエチルセルロースの含有量が少量であっても、エチルセルロースを完全に熱分解させるためには、500℃以上に加熱する必要であった。ペースト組成物に無機微粒子が含まれている場合には、無機微粒子の種類によっては、高温での熱分解が無機微粒子にも影響し、無機微粒子の劣化等の問題が生じることがあった。
【0008】
例えば無機微粒子として低融点ガラス微粒子が含まれている場合には、ガラスの溶解から成形に必要な温度よりもエチルセルロースの熱分解温度が高いため、多大な熱エネルギーが必要であったり、低融点ガラス微粒子からなるガラス成形体に熱歪みや気泡が発生しがちであった。また、無機微粒子として、プラズマディスプレイ等の発色に用いる蛍光体が含まれている場合には、蛍光体が高温の熱により劣化しがちであった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、無機微粒子を含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、チキソ性に優れ、スクリーン印刷を容易に行うことができ、かつ低温で焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂と、有機微粒子と、無機微粒子とを含有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のある特定の局面では、有機微粒子は、数平均分子量が2000〜10000の範囲にあるポリエチレングリコールからなる。
【0012】
本発明の他の特定の局面では、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、有機微粒子を1〜20重量%の割合で含んでいる。
【0013】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに他の特定の局面では、ポリアルキレンエーテルは、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体である。
【0014】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに他の特定の局面では、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール25〜80重量%とポリプロピレングリコール75〜20重量%とからなる。
【0015】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物の別の特定の局面では、ポリアルキレンエーテルは、ポリエチレングリコールとポリテトラメチレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体である。
【0016】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに別の特定の局面では、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール20〜80重量%とポリテトラメチレングリコール80〜20重量%とからなる。
【0017】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物の他の特定の局面では、B型粘度計を用いて23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上である。
【0018】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに他の特定の局面では、バインダー樹脂及び有機微粒子として、バインダー樹脂及び有機微粒子からなる樹脂組成物を大気中350℃で10分間熱処理したときに、樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるバインダー樹脂及び有機微粒子を含有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂と、有機微粒子と、無機微粒子とを含有する。よって、例えばバインダー樹脂としてセルロース系樹脂を用いた場合よりも低温で、ペースト組成物を焼成することができる。従って、焼成温度が低いので、無機微粒子が高温の熱に晒されて劣化するのを抑制できる。さらに、本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物では、ペースト組成物が有機微粒子を含有するため、チキソ性が非常に高められており、スクリーン印刷を容易に行うことができる。
【0020】
数平均分子量が2000〜10000の範囲にあるポリエチレングリコールからなる有機微粒子を含む場合には、ペースト組成物のチキソ性をより一層高めることができる。
【0021】
無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、有機微粒子を1〜20重量%の割合で含む場合には、ペースト組成物ではチキソ性が十分に発現する。
【0022】
ポリアルキレンエーテルが、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体である場合には、ペースト組成物中で有機微粒子が半溶解の状態となり易いので、ペースト組成物のチキソ性がより一層高められる。
【0023】
ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール25〜80重量%とポリプロピレングリコール75〜20重量%とからなる場合には、ペースト組成物中で有機微粒子がより一層半溶解の状態となり易く、無機微粒子の分散性も高められる。
【0024】
ポリアルキレンエーテルが、ポリエチレングリコールとポリテトラメチレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体である場合には、ペースト組成物中で有機微粒子が半溶解の状態となり易いので、ペースト組成物のチキソ性がより一層高められる。
【0025】
ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール20〜80重量%とポリテトラメチレングリコール80〜20重量%とからなる場合には、ペースト組成物中で有機微粒子がより一層半溶解の状態となり易く、無機微粒子の分散性も高められる。
【0026】
B型粘度計を用いて23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上である場合には、ペースト組成物はチキソ性が非常に高く、スクリーン印刷をより一層容易に行うことができる。
【0027】
バインダー樹脂及び有機微粒子として、バインダー樹脂及び有機微粒子からなる樹脂組成物を大気中350℃で10分間熱処理したときに、樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるバインダー樹脂及び有機微粒子を含有する場合には、350℃以下の低温で焼成することが可能となる。よって、無機微粒子が高温の熱に晒されて劣化するのを効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0029】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂と、有機微粒子と、無機微粒子とを含有する。
【0030】
本発明では、ペースト組成物を低温で焼成し得るように、ポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂を用いている。
【0031】
上記ポリアルキレンエーテルの数平均分子量は4000以上である。数平均分子量の好ましい上限は100000である。数平均分子量が4000以上であると、ペースト組成物の粘度を効果的に高めることができる。なお、ポリアルキレンエーテルの数平均分子量とは、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)により測定されたポリアルキレンエーテルのポリスチレン換算数平均分子量を言うものとする。
【0032】
上記数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂は、常温(23℃)で液状の性状を有することが好ましい。液状にはペースト状も含まれる。
【0033】
上記数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂は、350℃以下の低温で熱分解することが好ましく、300℃以下の低温で熱分解することがより好ましい。バインダー樹脂の熱分解温度が低いほど、ペースト組成物を低温で焼成することが可能となる。
【0034】
上記ポリアルキレンエーテルとしては、特に限定されず、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独共重合体、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、またはポリエチレングリコールとポリテトラメチレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体等が挙げられる。なかでも、常温で液状の性状を有し、バインダー樹脂に有機微粒子を半溶解させることが容易であるため、上記ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体及び上記ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体が好ましい。
【0035】
上記ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、若しくは上記ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体は、ランダム共重合あるいはブロック共重合のどちらであっても好適に用いることができる。
【0036】
上記ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体は、ポリエチレングリコール25〜80重量%とポリプロピレングリコール75〜20重量%とからなることが好ましい。上記ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール20〜80重量%とポリテトラメチレングリコール80〜20重量%とからなることが好ましい。ポリエチレングリコールの割合が低すぎると、バインダー樹脂に有機微粒子を半溶解させることが困難なことがあり、高すぎると、バインダー樹脂が常温で液状ではないことが多く、またバインダー樹脂を含むペースト組成物に無機微粒子が多量に分散し難くなる。
【0037】
上記バインダー樹脂は、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、30〜70重量%の割合で含まれることが好ましい。より好ましくは30〜50重量%である。バインダー樹脂が30重量%未満であると、無機微粒子の分散性が低下することがあり、バインダー樹脂が70重量%を超えると、十分なチキソ性が得られないことがある。
【0038】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、有機微粒子を含有する。有機微粒子は、常温(23℃)で固形の性状を有する。
【0039】
上記有機微粒子としては、特に限定されず、例えばポリプロピレンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール等からなる有機微粒子が挙げられる。ポリプロピレンジグリシジルエーテルからなる有機微粒子は、末端のグリシジルエーテル基を架橋させることにより得られる。なかでも、ポリエチレングリコールからなる有機微粒子が好ましく用いられる。
【0040】
上記有機微粒子は、数平均分子量が2000〜10000の範囲にあるポリエチレングリコールからなることがより好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量が2000以上であると、有機微粒子は、高極性の溶媒以外の一般的な溶媒には不溶であり、溶媒中で粒子の形状を維持する。ポリエチレングリコールの数平均分子量が10000以下であると、有機微粒子をポリアルキレンエーテル中に半溶解の状態とすることができる。なお、ポリエチレングリコールの数平均分子量とは、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)により測定されたポリエチレングリコールのポリスチレン換算数平均分子量を言うものとする。
【0041】
上記有機微粒子の粒径は、5μm以下であることが望ましい。粒径が5μmを超えると、ペースト組成物中で有機微粒子が半溶解の状態になり難くなる。
【0042】
上記有機微粒子は、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、1〜20重量%の割合で含まれることが好ましい。より好ましくは3〜10重量%である。有機微粒子が1重量%未満であると、ペースト組成物のチキソ性が十分に発現し難くなり、有機微粒子が20重量%を超えると、ペースト組成物中で有機微粒子が半溶解の状態になり難く、スクリーン印刷時にスクリーンメッシュ上に有機微粒子が目詰まりするおそれがある。
【0043】
上記有機微粒子は、350℃以下の低温で熱分解することが好ましく、300℃以下の低温で熱分解することがより好ましい。有機微粒子の熱分解温度が低いほど、ペースト組成物を低温で焼成することが可能となる。
【0044】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、無機微粒子を含有する。
【0045】
上記無機微粒子としては、特に限定されず、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al23・SiO2系無機ガラス、MgO・Al23・SiO2系無機ガラス、LiO2・Al23・SiO2系無機ガラスの低融点ガラス、BaMgAl1017:Eu、Zn2SiO4:Mn、(Y、Gd)BO3:Eu等の蛍光体、種々のカーボンブラック、金属錯体等が挙げられる。高温の熱により劣化することが知られている蛍光体などの無機微粒子を用いる場合には、例えば350℃以下の低温、好ましくは300℃以下の低温で熱分解するバインダー樹脂や有機微粒子と組み合わせて用いることで、焼結体を得る際に無機微粒子の熱による劣化を抑制できる。
【0046】
上記無機微粒子の添加量としては特に限定されないが、上記バインダー樹脂と上記有機微粒子との合計100重量部に対して、好ましい上限は100重量部である。無機微粒子が100重量部を超えると、ペースト組成物中に無機微粒子を均一に分散させることが困難なことがある。
【0047】
無機微粒子分散ペースト組成物は、上述した成分以外に、界面活性剤、分散剤、有機溶剤等を含有していてもよい。
【0048】
上記有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、ターピネオール、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記有機溶剤としては、ペースト組成物を低温で焼成し得るように、沸点が350℃未満であるものが好ましく用いられ、より好ましくは沸点が300℃未満である。
【0050】
上記有機溶剤の添加量としては、ペースト組成物のチキソ性が低下しすぎない範囲であれば特に限定されないが、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、好ましくは5〜30重量%である。
【0051】
無機微粒子分散ペースト組成物の製造方法としては、特に限定されるものではない。上述した各配合成分を従来公知の攪拌方法、具体的には、例えば3本ロール、ビーズミル、遊星式攪拌機等で攪拌することで無機微粒子分散ペースト組成物を得ることができる。
【0052】
本発明では、例えば常温で液状の性状を有するバインダー樹脂と、常温で固形の性状を有する有機微粒子とを加熱撹拌することにより、バインダー樹脂中に有機微粒子が半溶解した状態となる。この場合、得られたペースト組成物中でも有機微粒子が半溶融の状態となるので、ペースト組成物の粘度が効果的に高められ、ペースト組成物が優れたチキソ性を有するようになる。バインダー樹脂中における有機微粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡等により容易に確認することができる。
【0053】
本発明では、バインダー樹脂及び有機微粒子として、バインダー樹脂及び有機微粒子からなる樹脂組成物を大気中350℃で10分間熱処理したときに、樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるバインダー樹脂及び有機微粒子を用いることが好ましい。350℃で10分間熱処理したときに、樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であると、ペースト組成物を構成したときに、低温で焼成することができる。
【0054】
なお、窒素置換等をしない通常の空気雰囲気下、すなわち大気中で上記樹脂組成物を焼成したときに、初期重量の99.5重量%が失われる温度を焼成温度とし、焼成温度が200〜350℃である場合に、ペースト組成物を特に低温で焼成することが可能となる。
【0055】
有機微粒子の添加量が少なすぎたり、有機微粒子が完全に溶解する高極性の溶媒を用いてペースト組成物を作製した場合、チキソ性が十分に発現しないことがある。従って、有機微粒子の添加量及び溶媒の種類を適宜選択することが好ましい。
【0056】
B型粘度計を用いて、無機微粒子分散ペースト組成物の23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上であることが好ましい。粘度比η3rpm/η30rpmが1.5以上であると、ペースト組成物はチキソ性が高く、スクリーン印刷を容易に行うことができる。
【0057】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を説明することにより本発明を明らかにする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
バインダー樹脂として数平均分子量が7000であり、かつポリエチレングリコール80重量%とポリプロピレングリコール20重量%とからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体61.5重量部と、有機微粒子として数平均分子量が4000であるポリエチレングリコール粉末8.5重量部とをサンプル瓶に秤量した。しかる後、60℃に設定したオーブン中にサンプル瓶を入れ、高速撹拌装置にて1時間加熱撹拌することにより、バインダー樹脂にポリエチレングリコール粉末が半溶解した樹脂組成物を得た。
【0059】
次に、無機微粒子として、蛍光体であるZn2SiO4:Mn(日亜化学工業社製、緑色蛍光体)30重量部をさらに添加し、高速攪拌装置にて混練した。しかる後、3本ロールミルにより、表面が滑らかになるまで混練することにより、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0060】
(実施例2)
バインダー樹脂として、数平均分子量が5000であり、かつポリエチレングリコール25重量%とポリプロピレングリコール75重量%とからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体61.5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0061】
(実施例3)
バインダー樹脂として、数平均分子量が7000であり、かつポリエチレングリコール80重量%とポリプロリレングリコール20重量%とからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体68.6重量部を用いたこと、並びに有機微粒子として、数平均分子量が4000であるポリエチレングリコール粉末1.4重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0062】
(実施例4)
バインダー樹脂として、数平均分子量が4000であり、かつポリエチレングリコール50重量%とポリテトラメチレングリコール50重量%とからなるポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体67.5重量部を用いたこと、並びに有機微粒子として、数平均分子量が4000であるポリエチレングリコール粉末2.5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0063】
(比較例1)
バインダー樹脂として数平均分子量が4000であるポリプロピレングリコール70重量部をサンプル瓶に秤量した。
【0064】
次に、無機微粒子として、蛍光体であるZn2SiO4:Mn(日亜化学工業社製、緑色蛍光体)30重量部をさらに添加し、高速攪拌機にて混練した。しかる後、3本ロールミルにより、表面が滑らかになるまで混練することにより、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0065】
(比較例2)
バインダー樹脂として、数平均分子量が4000であるポリテトラエチレングリコール70重量部を用いたこと以外は比較例1と同様にして無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0066】
(評価)
実施例及び比較例で得られた無機微粒子分散ペースト組成物について以下の評価を行った。
【0067】
(1)スクリーン印刷性(粘度比法(チキソ性評価法))
B型粘度計(BROOK FILED社製、DVII+Pro)を用いて、無機微粒子分散ペースト組成物の23℃における粘度を測定した。プローブ回転数が5rpmであるときの粘度η5rpmと、プローブ回転数が30rpmであるときのη30rpmとを測定し、粘度比η5rpm/η30rpmを求めた。
【0068】
なお、粘度比η5rpm/η30rpmが1.5以上である場合に、スクリーン印刷性に優れている。
【0069】
(2)分解温度(TG・DTA)評価
熱分解装置(TAインスツルメンツ社製、simultaneousSDT2960)を用いて、上記実施例1〜4の無機微粒子を配合する前の樹脂組成物、または比較例1、2の無機微粒子を配合する前のバインダー樹脂を、空気雰囲気下にて昇温温度10℃/分で600℃まで昇温・加熱し、完全に熱分解が終了する分解温度、すなわち分解率が99.5重量%以上となったときの分解温度を測定した。
【0070】
結果を下記の表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
比較例1、2の無機微粒子分散ペースト組成物では、ポリエチレングリコール粉体を含有していないため、ペースト組成物のチキソ性が十分に発現しておらず、かつ粘度が低かった。そのため、ペースト組成物の経時変化を観察すると、ペースト組成物中で蛍光体が沈降していた。
実施例1〜4の無機微粒子分散ペースト組成物では、樹脂組成物の分解温度が270℃であり、かつ粘度比η5rpm/η30rpmが1.5以上であった。よって、実施例1〜4の無機微粒子分散ペースト組成物は、チキソ性が高く、スクリーン印刷性に優れ、かつ低温で焼成することも可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が4000以上であるポリアルキレンエーテルからなるバインダー樹脂と、有機微粒子と、無機微粒子とを含有することを特徴とする、無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項2】
前記有機微粒子は、数平均分子量が2000〜10000の範囲にあるポリエチレングリコールからなることを特徴とする、請求項1に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項3】
無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、前記有機微粒子を1〜20重量%の割合で含む、請求項1または2に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項4】
前記ポリアルキレンエーテルが、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール25〜80重量%とポリプロピレングリコール75〜20重量%とからなる、請求項4に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項6】
前記ポリアルキレンエーテルが、ポリエチレングリコールとポリテトラメチレングリコールとからなるポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール共重合体が、ポリエチレングリコール20〜80重量%とポリテトラメチレングリコール80〜20重量%とからなる、請求項6に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項8】
B型粘度計を用いて23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項9】
前記バインダー樹脂及び前記有機微粒子として、バインダー樹脂及び有機微粒子からなる樹脂組成物を大気中350℃で10分間熱処理したときに、前記樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるバインダー樹脂及び有機微粒子を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。


【公開番号】特開2007−169447(P2007−169447A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368737(P2005−368737)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】