説明

無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】無機微粒子を含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、チキソ性に優れ、スクリーン印刷を容易に行うことができ、かつ低温で焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】炭素数が1〜10であるポリオールと、(メタ)アクリル樹脂及び/またはポリアルキレンオキサイドからなるバインダー樹脂と、無機微粒子とを含有し、前記ポリオールが、ポリオール中の水酸基の分子量の合計/ポリオールの分子量を意味する全OH分子量/全分子量が0.2以上のポリオールであることを特徴とする、無機微粒子分散ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子を含有し、チキソ性に優れた無機微粒子分散ペースト組成物に関し、より詳細には、スクリーン印刷性に優れ、かつ低温で焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物が、様々な形状の焼結体を得るのに用いられている。特に、無機微粒子として蛍光体を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物は、有機EL等に用いられており、需要が高まりつつある。
【0003】
ペースト組成物からなる焼結体は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード等を用いた塗布法、シート状に加工するためのキャスティング法等により、ペースト組成物を所定の形状とした後、焼成することにより得られる。なかでも、スクリーン印刷法は、大量生産に特に適している。
【0004】
スクリーン印刷に用いられるペースト組成物には、塗工の際には、粘度が十分に低く塗工が容易であることが求められる。一方、塗工後に静置して乾燥させる際には、粘度が十分に高く、ペースト組成物が自然に流延しないことが求められる。従って、スクリーン印刷を良好に行うためには、ペースト組成物がチキソトロピー性、すなわちチキソ性を有することが好ましい。なお、チキソ性とは、例えば、回転粘度計でペースト組成物の粘度を評価した場合に、回転数が高くなる(歪速度が高い変位)と粘性が低くなり、回転数が低くなる(歪速度が低い変位)と粘性が高くなる性質をいう。
【0005】
現在、スクリーン印刷にはエチルセルロースをバインダー樹脂に用いたペーストが用いられているが、エチルセルロース系樹脂を用いたペースト組成物では、十分なチキソ性を有しスクリーン印刷性に優れているものの、エチルセルロース系樹脂の熱分解温度が高いため、熱分解時にペースト組成物中に含まれる無機微粒子が熱劣化するおそれがある。
【0006】
そこで、低温分解性樹脂であるアクリル樹脂を用いて、十分なスクリーン印刷性を付与する様々な検討が行われている。
【0007】
下記の特許文献1には、少なくとも(A)溶液粘度が100〜4000センチポイズであるポリマー含有溶液100重量部と、(B)蛍光体10〜1000重量部と、(C)チキソトロピー性付与剤0.1〜10重量部とを含有する蛍光体ペースト組成物が開示されている。特許文献1に記載の蛍光体ペースト組成物では、比較的低粘度のポリマー溶液(A)とチキソトロピー性付与剤(C)とを含有するため、スクリーン印刷時の糸曳性が低く、スクリーン印刷性に優れているとされている。
【特許文献1】特開2000−144124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のペースト組成物では、粘度が低く糸曳性に優れているものの、十分なチキソ性を有するものではなく、チキソ性の更なる向上が求められていた。
【0009】
すなわち、塗工の際には、粘度が十分に低く塗工が容易であり、かつ塗工後に静置して乾燥させる際には、粘度が十分に高く自然に流延しないペースト組成物が求められていた。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、無機微粒子を含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、チキソ性に優れ、スクリーン印刷を容易に行うことができ、かつ低温で焼成が可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、炭素数が1〜10であるポリオールと、(メタ)アクリル樹脂及び/またはポリアルキレンオキサイドからなるバインダー樹脂と、無機微粒子とを含有し、ポリオールが、ポリオール中の水酸基の分子量の合計/ポリオールの分子量を意味する全OH分子量/全分子量が0.2以上のポリオールであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のある特定の局面では、B型粘度計を用いて23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上である。
【0013】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物の他の特定の局面では、ポリオール及びバインダー樹脂からなる樹脂組成物を空気雰囲気下にて昇温10℃/分で昇温加熱したとき400℃までに、樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるポリオール及びバインダー樹脂が含有されている。
【0014】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに他の特定の局面では、ポリオールは、実質的に炭素原子、水素原子および酸素原子からなる。
【0015】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに他の特定の局面では、ポリオール中の炭素−炭素結合は、実質的に炭素−炭素単結合のみからなる。
【0016】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物の別の特定の局面では、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、前記ポリオールを20重量%以下の割合で含んでいる。
【0017】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物のさらに別の特定の局面では、無機微粒子は、金属、ガラス、蛍光体、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物および金属錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、炭素数が1〜10であるポリオールと、(メタ)アクリル樹脂及び/またはポリアルキレンオキサイドからなるバインダー樹脂と、無機微粒子とを含有している。たとえば、バインダー樹脂において、(メタ)アクリル樹脂を用いた場合、セルロース系樹脂を用いた場合よりも低温で分解を完了することができる。従って、焼成温度を低くできるため、無機微粒子が高温の熱に晒されて劣化するのを抑制することができる。
【0019】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物では、ポリオール中の水酸基の分子量の合計/ポリオールの分子量を意味する全OH分子量/全分子量が0.2以上のポリオールを含有するため、バインダー樹脂とポリオールとの水素結合などの相互作用が一層増し、チキソ性が非常に高められており、スクリーン印刷を容易に行うことができる。
【0020】
B型粘度計を用いて23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上である場合には、ペースト組成物は十分なチキソ性を有し、スクリーン印刷に適したものと言える。
【0021】
ポリオール及びバインダー樹脂として、該ポリオール及びバインダー樹脂からなる樹脂組成物を空気雰囲気下にて昇温10℃/分で昇温加熱したとき400℃までに樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるポリオール及びバインダー樹脂を含有する場合には、400℃以下の低温で焼成することが可能となる。よって、無機微粒子が高温の熱に晒されて劣化するのを効果的に抑制することができる。
【0022】
ポリオールが、実質的に炭素原子、水素原子および酸素原子からなる場合には、400℃以下の低温で脱脂焼成することができる。
【0023】
ポリオール中の炭素−炭素結合が、実質的に炭素−炭素単結合のみからなる場合には、400℃以下の低温で脱脂焼成することができる。
【0024】
無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、ポリオールを20重量%以下の割合で含む場合には、ペースト組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0025】
無機微粒子が、金属、ガラス、蛍光体、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物および金属錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種である場合には、アクリル樹脂の低温分解性を活かすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0027】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、炭素数が1〜10であるポリオールと、(メタ)アクリル樹脂及び/またはポリアルキレンオキサイドからなるバインダー樹脂と、無機微粒子とを含有する。
【0028】
本発明の特徴は、上記炭素数が1〜10であるポリオールとして、ポリオール中の水酸基の分子量の合計/ポリオールの分子量を意味する全OH分子量/全分子量が0.2以上であるポリオール(A)を用いることにある。全OH分子量/全分子量が0.2以上であると、ペースト組成物のチキソ性が非常に高められ、より好ましく全OH分子量/全分子量が0.4以上である。
【0029】
ペースト組成物のチキソ性が高められる要因としては、ポリオール中の水酸基の分子量の合計のポリオールの分子量に対する割合が高いと、すなわち、OH分子量/全分子量が0.2以上であると、ポリオールとバインダー樹脂との水素結合などの相互作用が非常に高められ、ポリオールとバインダー樹脂とがネットワーク構造を形成するためと思われる。
【0030】
なお、ポリオール1分子が複数の水酸基を有する場合には、ポリオール1分子当たりの水酸基の個数と水酸基の分子量17との積が全OH分子量となる。具体的には、水酸基を1個有するポリオールでは全OH分子量は17となり、水酸基を2個有するポリオールでは全OH分子量は34となる。
【0031】
上記ポリオール(A)としては、例えば、D−ソルビトール、ペンタエリトリトール、グリセリン、ジグリセリン等が挙げられる。なかでも、ペースト組成物のチキソ性を高める効果に優れているため、D−ソルビトール、ペンタエリトリトール、ジグリセリンが好ましく用いられ、D−ソルビトールがより好ましく用いられる。
【0032】
上記ポリオール(A)は、400℃以下の低温で脱脂焼成することを可能とするため、ポリオールが、実質的に炭素原子、水素原子および酸素原子からなることが好ましい。なお、ポリオールが、実質的に炭素原子、水素原子および酸素原子からなるとは、ポリオールが主たる構成原子として、炭素原子、水素原子および酸素原子を含むことを意味する。例えば、ポリオールが窒素原子を含まないことを意味する。窒素原子を含むポリオールを添加した無機微粒子分散ペースト組成物を用いると、脱脂焼成時に窒素原子を含むポリオールがスス等の残留物の原因となり、400℃以下の低温で脱脂焼成することが困難になる。
【0033】
また、上記ポリオール(A)は、400℃以下の低温で脱脂焼成することを可能とするため、ポリオール中の炭素−炭素結合が、実質的に炭素−炭素単結合のみからなることが好ましい。なお、ポリオール中の炭素−炭素結合が実質的に炭素−炭素単結合のみからなるとは、ポリオール中の炭素−炭素結合が炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、もしくは芳香環を含まないことを意味する。400℃以下の低温で脱脂焼成することを可能とするため、ポリオールが実質的に芳香環を含まないことがより好ましい。
【0034】
芳香環を含むポリオールを添加した無機微粒子分散ペースト組成物を用いると、脱脂焼成時に芳香環を含むポリオールがスス等の残留物の原因となり、400℃以下の低温で脱脂焼成することが困難になる。
【0035】
上記ポリオール(A)の含有量は、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、好ましい下限は0.1重量%であり、好ましい上限は20重量%である。より好ましくは0.5〜10重量%である。ポリオール(A)が0.1重量%未満であると、チキソ性が十分に発現されずスクリーン印刷性に劣ることがあり、ポリオール(A)が20重量%を超えると、相分離してペースト組成物の貯蔵安定性に劣ることがある。
【0036】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物では、ペースト組成物を低温で焼成することを可能とするために、(メタ)アクリル樹脂及び/またはポリアルキレンオキサイドからなるバインダー樹脂が用いられる。
【0037】
上記(メタ)アクリル樹脂としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体が好適に用いられる。また、(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体と、(メタ)アクリレートモノマーとポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体とを混合したものであってもよい。
【0038】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0039】
上記(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、炭素数が10以下の(メタ)アクリレートモノマーを用いることが好ましい。これらの(メタ)アクリレートモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリメチレングリコール、ポリアセタール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられる。さらに、ポリプロピレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルは、より一層低温で分解するため、より好適に用いられる。
【0041】
上記(メタ)アクリル樹脂は、炭素数10以下の(メタ)アクリレートモノマーと、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとに由来する構造単位を有することが好ましい。この構造単位を有する(メタ)アクリル樹脂は、分解温度が特に低く、ペースト組成物をより一層低温で焼成することが可能となる。
【0042】
上記(メタ)アクリル樹脂の重合方法としては、特に限定されず、通常の(メタ)アクリルモノマーの重合に用いられる方法が挙げられる。具体的には、フリーラジカル重合法、リビングラジラル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等が挙げられる。
【0043】
上記(メタ)アクリル樹脂の数平均分子量は、5000〜200000の範囲であることが好ましい。数平均分子量が5000より小さいと、必要な粘度を得る為に多くの樹脂が必要となり、完全に分解させるためには、長時間加熱する必要があり、低温焼成に劣ることがある。数平均分子量が200000を超えると、ペースト組成物の粘度が高く、粘着性、糸曳性等のスクリーン印刷性が悪化することがある。なお、(メタ)アクリル樹脂の数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算数平均分子量を言うものとする。なお、GPCによりポリスチレン換算数平均分子量を測定する際のカラムとしては、SHOKO社製カラムLF−804等が挙げられる。
【0044】
上記ポリアルキレンオキサイドとしては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラエチレングリコール(PTEG)等が挙げられる。なかでも、低温での分解性に優れているため、ポリプロピレングリコールが好ましい。
【0045】
本発明では、バインダー樹脂として、上記(メタ)アクリル樹脂及び上記ポリアルキレンオキサイドは、それぞれを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記バインダー樹脂は、400℃以下の低温で熱分解することができる。
【0047】
上記バインダー樹脂は、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、10〜70重量%の割合で含まれることが好ましい。バインダー樹脂が10重量%未満であると、ペースト組成物中にバインダー樹脂が均一に分散しないことがあり、バインダー樹脂が70重量%を超えると、ペースト組成物の粘度が高く、粘着性、糸曳性等のスクリーン印刷性が悪化することがある。
【0048】
本発明に係る無機微粒子分散ペースト組成物は、無機微粒子を含有する。
【0049】
上記無機微粒子としては、特に限定されず、例えば、金属、ガラス、蛍光体、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物および金属錯体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0050】
具体的には、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al・SiO系無機ガラス、MgO・Al・SiO系無機ガラス、LiO・Al・SiO系無機ガラスの低融点ガラス、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y、Gd)BO:Eu等の蛍光体、種々のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、金属錯体等が挙げられる。なかでも、樹脂の低温分解が求められる場合等に、金属、ガラス、蛍光体、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物および金属錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく用いられる。
【0051】
上記無機微粒子は、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、20〜50重量%の割合で含まれることが好ましい。より好ましくは30〜40重量%である。無機微粒子が20重量%未満であると、必要粘度を得るのに多量のバインダー樹脂が必要となる。無機微粒子が50重量%を超えると、ペースト組成物中に無機微粒子が均一に分散し難くなる。
【0052】
無機微粒子分散ペースト組成物は、上述した成分以外に、有機溶剤等を含有していてもよい。
【0053】
上記有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール、テルピネオール、等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル樹脂等からなるバインダー樹脂の溶解性に優れているため、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール等が好適に用いられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記有機溶剤としては、ペースト組成物を低温で焼成し得るように、沸点が400℃未満であるものが好ましく用いられ、より好ましくは沸点が350℃未満、さらに好ましくは沸点が300℃未満である。
【0055】
上記有機溶剤の添加量としては、ペースト組成物の粘度が低下しすぎない範囲であれば特に限定されないが、無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、好ましくは50重量%以下である。
【0056】
無機微粒子分散ペースト組成物の製造方法としては、特に限定されるものではない。上述した各配合成分を従来公知の攪拌方法、具体的には、例えば3本ロール、ビーズミル、遊星式撹拌機等で混練することで無機微粒子分散ペースト組成物を得ることができる。
【0057】
本発明では、ポリオール及びバインダー樹脂として、該ポリオール及びバインダー樹脂からなる樹脂組成物を空気雰囲気下にて昇温10℃/分で昇温加熱したとき400℃までに、樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるポリオール及びバインダー樹脂を含有することが好ましい。樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であると、ペースト組成物を構成したときに、低温で焼成することができる。
【0058】
なお、窒素置換等をしない通常の空気雰囲気下、すなわち大気中で上記樹脂組成物を焼成したときに、初期重量の99.5重量%が失われる温度を焼成温度とする。B型粘度計を用いて、無機微粒子分散ペースト組成物の23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上であることが好ましい。粘度比η5rpm/η30rpmが1.5以上であると、ペースト組成物はチキソ性が高く、スクリーン印刷を容易に行うことができる。
【0059】
無機微粒子分散ペースト組成物では、沸点が300℃未満の有機溶剤と、400℃未満で熱分解するバインダー樹脂とを含有することが好ましい。この構成では、上記無機微粒子として、熱により劣化し易い蛍光体を使用することができる。よって、ペースト組成物を、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)、SED(Surface Conduction Electron Emission Display)等の各種ディスプレイ装置の蛍光面形成に好適に用いることができる。
【0060】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を説明することにより本発明を明らかにする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
攪拌機、冷却器、温度計、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)90重量部と、水素結合性官能基を有し、かつポリオキシアルキレン側鎖を含有するメタアクリレートとして、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製ブレンマーPP1000)10重量部と、連鎖移動剤(DDM)と、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
【0062】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら溶液温度が95℃に達するまで昇温した。温度が95℃に達した後、重合開始剤を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。重合開始から10時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、ポリオキシアルキレン側鎖を有する重合体のテルピネオール溶液を得た。
【0063】
得られた(メタ)アクリル樹脂について、GPCによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による数平均分子量は30000であった。なお、ポリスチレン換算数平均分子量の測定には、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用いた。
【0064】
上記のようにして得られた(メタ)アクリル樹脂のテルピネオール溶液にテルピネオール、およびポリオール(A)としてD−ソルビトール(全OH分子量/全分子量=0.56)をさらに添加し、高速分散機を用いて分散し、(メタ)アクリル樹脂30重量部、テルピネオール35重量部、およびD−ソルビトール5重量部を含有する分散液を得た。
【0065】
次に、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部を分散液にさらに添加し、三本ロールを用いて十分に混練し、蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0066】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた(メタ)アクリル樹脂のテルピネオール溶液にテルピネオール、D−ソルビトール、およびポリプロピレングリコール(日本油脂社製ユニオールD−40000)をさらに添加し、高速分散機を用いて分散し、(メタ)アクリル樹脂20重量部、ポリプロピレングリコール20重量部、テルピネオール25重量部、およびD−ソルビトール5重量部を含有する分散液を得た。
【0067】
次に、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部を分散液にさらに添加し、三本ロールを用いて十分に混練し、蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0068】
(実施例3)
ポリオール(A)としてD−ソルビトール5重量部と、ポリプロピレングリコール(日本油脂社製ユニオールD−40000)65重量部とからなる分散液に緑色蛍光体30重量部をさらに添加し、三本ロールを用いて十分に混練し、蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0069】
(実施例4)
D−ソルビトールをペンタエリトリトール(全OH分子量/全分子量=0.50)にしたこと以外は、実施例1と同様に蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0070】
(実施例5)
D−ソルビトールをジグリセリン(全OH分子量/全分子量=0.41)にしたこと以外は、実施例1と同様に蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0071】
(比較例1)
D−ソルビトールをヒマシ油系ポリエステルポリオール(伊藤製油株式会社製URIC、H−62、全OH分子量/全分子量=0.079)にし、表2記載の配合で、蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0072】
(比較例2)
D−ソルビトールをヒマシ油系脂肪酸メチルエステル(伊藤製油株式会社製URIC、H−31、全OH分子量/全分子量=0.053)にし、表2記載の配合で、蛍光体ペースト組成物を得た。なお、緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)30重量部のみを配合しなかった樹脂組成物も同様にして得た。
【0073】
(評価)
実施例及び比較例で得られた無機微粒子分散ペースト組成物である蛍光体ペースト組成物、及び樹脂組成物について以下の評価を行った。
【0074】
(1)スクリーン印刷性(粘度比法(チキソ性評価法))
B型粘度計(BROOK FILED社製、DVII+Pro)を用いて、無機微粒子分散ペースト組成物の23℃における粘度を測定した。プローブ回転数が5rpmであるときの粘度η5rpmと、プローブ回転数が30rpmであるときのη30rpmとを測定した。η5rpmをη30rpmで除して粘度比η5rpm/η30rpmを求めた。
【0075】
なお、粘度比η5rpm/η30rpmが1.5以上である場合に、スクリーン印刷性に優れている。
【0076】
(2)分解温度(TG・DTA)評価
熱分解装置(TAインスツルメンツ社製、simultaneousSDT2960)を用いて、上記実施例1〜5の蛍光体を配合しなかった樹脂組成物、または比較例1、2の蛍光体を配合しなかった樹脂組成物を、空気雰囲気下にて昇温温度10℃/分で600℃まで昇温・加熱し、完全に熱分解が終了する分解温度、すなわち分解率が99.5重量%以上となったときの分解温度を測定した。
【0077】
(3)スクリーン印刷特性
250メッシュ(東京プロセスサービス社製)のスクリーンを通して無機微粒子分散ペースト組成物のドットパターン(開口部 200×400μm)を目視で評価した。スキージ圧は0.25/cmとし、スキージスピードは100mm/秒とした。全てのドットパターンの印刷が均一である場合に良好と評価し、ドットパターンの印刷が不均一である場合に不良と評価した。
【0078】
(4)分解性
上記実施例1〜5の蛍光体を配合しなかった樹脂組成物、または比較例1、2の蛍光体を配合しなかった樹脂組成物をガラス基板上に厚み0.05mm、面積100mm×100mmで塗布し、電気炉(アドバンテック社製 FUW230PA)を用いて大気中400℃で30分間熱処理したときに、ガラス基板上の残留物を目視で評価した。ガラス基板上に残留物がない場合を良好と評価し、ガラス基板上に残留物がある場合を不良と評価した。
【0079】
上記実施例及び比較例で使用したポリオール(A)及びその他のポリオールの特性を下記表1に示し、評価結果を下記の表2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が1〜10であるポリオールと、(メタ)アクリル樹脂及び/またはポリアルキレンオキサイドからなるバインダー樹脂と、無機微粒子とを含有し、
前記ポリオールが、ポリオール中の水酸基の分子量の合計/ポリオールの分子量を意味する全OH分子量/全分子量が0.2以上のポリオールであることを特徴とする、無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項2】
B型粘度計を用いて23℃における粘度を測定したときに、回転数5rpmにおける粘度η5rpmと、回転数30rpmにおける粘度η30rpmとの比η5rpm/η30rpmが1.5以上である、請求項1に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項3】
ポリオール及びバインダー樹脂からなる樹脂組成物を空気雰囲気下にて昇温10℃/分で昇温加熱したとき400℃までに前記樹脂組成物の分解率が99.5重量%以上であるポリオール及びバインダー樹脂を含有する、請求項1または2に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項4】
前記ポリオールが、実質的に炭素原子、水素原子および酸素原子からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項5】
前記ポリオール中の炭素−炭素結合が、実質的に炭素−炭素単結合のみからなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項6】
無機微粒子分散ペースト組成物100重量%中、前記ポリオールを20重量%以下の割合で含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項7】
前記無機微粒子が、金属、ガラス、蛍光体、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物および金属錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機微粒子分散ペースト組成物。

【公開番号】特開2007−177035(P2007−177035A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375471(P2005−375471)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】