説明

無機微粒子固着構造体

【課題】多種類にわたる基材について適用可能で、無機微粒子の持つ機能を十分に発揮することのできる、基材上に無機微粒子が強固に固着された構造体を提供する。
【解決手段】本発明の構造体は、基材の上にA層を介してB層が形成された構造体において、A層がウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物単量体を構成単位に含む特定の共重合体を含み、B層が機能性無機微粒子を含むことを特徴とする。従って、本発明の構造体は、電子材料、光学材料、光触媒材料などの分野で幅広く利用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上の最外層に機能性無機微粒子が強固に固着された構造体に関し、更に詳細には、該機能性無機微粒子の有する機能性を長期間発揮させ、電子材料、光学材料、光触媒材料などの分野で幅広く利用することが可能な無機微粒子固着構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機物は、導電性、赤外吸収性、光触媒性能など素材によってさまざまな機能を持ち、その機能を生かすために、無機微粒子を基材表面に固着した構造体が、電子材料、光学材料、光触媒材料などの分野で用いられている。実使用環境において安定して無機微粒子の機能を発揮し続けるためには、無機微粒子が基材に強く固着されていることが要求される。
このような要求に応じた構造体としては、例えば、特許文献1において、基材上にバインダを介して無機微粒子を固着させた構造体が提案されている。
該構造体において、バインダとして無機バインダを採用する場合は、無機微粒子を印刷した後に、焼成し、該バインダを溶融させることでバインダと無機微粒子の固着を行う必要がある。このため、このような構造体には、耐熱性の低い基材や無機微粒子が適用できない。一方、バインダとして有機系バインダを用いる場合の無機微粒子との固着力に関しては記載がない。
特許文献2では、基材であるポリエステル成形体の上にシリカバリヤー層を形成し、次いでマイナス荷電を有するポリ酢酸ビニル系樹脂の塗膜を形成し、その上にプラス荷電の光触媒粒子である酸化チタン粒子を静電的引力によって塗膜に担持させる方法が提案されている。
しかし、該方法における無機微粒子の固着力は樹脂塗膜との静電的引力であるため、異なる電荷を持つ無機微粒子を用いたり、固着された成形体をpHの異なる水中に浸漬した場合などは、静電的引力が作用せず、無機微粒子が脱落するおそれがある。
特許文献3では、表面に重合性基を持つナノ粒子を基材表面に固着させ、基材表面を改質する方法が提案されている。この方法においては、ナノ粒子表面の重合性基の反応によって基材表面にナノ粒子は強力に固着しうる。
しかし、この方法で得られる構造体は、ナノ粒子表面に重合性基が存在することになり、ナノ粒子の本来持つ機能が損なわれる場合がある。
【0003】
ところで、特許文献4にウレタン結合含有(メタ)アクリレート単量体を用いた有機・無機ハイブリッド材料が、特許文献5には樹脂中に配合して樹脂の基材への密着性を向上させる成分として上記単量体が提案されている。しかし、上記単量体を用いた共重合体を介して、基材上に無機微粒子を強く固着した構造体については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−205378号公報
【特許文献2】特開2009−61404号公報
【特許文献3】特表2010−511503号公報
【特許文献4】国際公開第2007/148684号
【特許文献5】特開2008−81579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、多種類にわたる基材の最外層に、機能性無機微粒子を強固に固着させることが可能であり、該無機微粒子の持つ機能を十分に長期にわたり発揮させることができる無機微粒子固着構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、基材と、該基材表面に形成されたA層と、該A層表面に形成されたB層とを備える構造体であって、A層が、式(1a)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物単量体の構成単位(1a)、式(1b)で示される構成単位(1b)および式(1c)で示される構成単位(1c)からなる共重合体(A1)を含み、B層が機能性無機微粒子(B)を含むことを特徴とする無機微粒子固着構造体(以下、本発明の構造体という)が提供される。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基を示す。X1およびX2はそれぞれ独立に−O−または−NH−を示し、Y1およびY2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基または炭素数1〜20のヒドロキシアルキレン基を示し、Zは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。l、m、およびnは各構成単位のモル比を表し、2≦l≦97、2≦m≦97、0.1≦n≦10かつl+m+n=100である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の構造体は、無機微粒子および基材との相互作用を非常に強くしうる、分子構造中に多数のウレタン結合およびヒドロキシル基を有する特定の共重合体(A1)を用いるので、基材の最外層に機能性無機微粒子(B)を強固に固着させることができ、該無機微粒子の機能性を長期間十分に発揮させることができる。しかも、該固着を簡便な方法で実施できるので、多種にわたる材質や形態の基材や、多種の機能性無機微粒子に適用できる。従って、本発明の構造体は、電子材料、光学材料、光触媒材料などの分野で幅広く利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の構造体は、基材と、該基材表面に形成された、上記式(1a)〜(1c)からなる共重合体(A1)を含むA層と、該A層表面に形成された機能性無機微粒子(B)を含むB層とを備える無機微粒子固着構造体である。
【0009】
共重合体(A1)を構成する上記式(1a)〜(1c)において、R1は水素原子またはメチル基を表わす。R2、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示し、共重合体(A1)において構成単位(1c)の原料となる単量体の入手のしやすさの面からはすべてメチル基であることが好ましい。
X1およびX2はそれぞれ独立に、−O−または−NH−を示す。−O−の場合は共重合体(A1)の原料となる単量体は(メタ)アクリル酸エステル、−NH−の場合は(メタ)アクリル酸アミドとなる。ここで、原料としての単量体の構造が類似していた方が一般的に共重合性が高い、即ち、各単量体成分が共重合体内に均一に分布するため、X1およびX2はともに−O−であることが好ましい。
Y1およびY2はそれぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキレン基または炭素数1〜20のヒドロキシアルキレン基を示す。Y1は、式(1b)で示される構成単位および共重合体(A1)の疎水性に影響するので、構造体の耐水性の面から、並びに共重合体(A1)の合成時の溶媒への溶けやすさの面から、炭素数は4〜18が好ましい。一方、Y2は、式(1c)で示される構成単位の原料となる単量体の入手のしやすさの面から炭素数は2〜6が好ましい。
Zは、炭素数1〜4のアルキレン基を示し、式(1a)で示される構成単位の原料となる単量体の入手のしやすさの面から炭素数は1または2が好ましい。
【0010】
共重合体(A1)を構成する上記式(1a)〜(1c)において、l、mおよびnは、各構成単位のモル比を示し、共重合体(A1)と、基材および無機微粒子(B)との相互作用の強さや、共重合体(A1)の親疎水性などに影響を与える。これらの点から、l、mおよびnは、2≦l≦97、2≦m≦97、0.1≦n≦10かつl+m+n=100、好ましくは10≦l≦95、2≦m≦85、0.1≦n≦5かつl+m+n=100である。
【0011】
共重合体(A1)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量で10000〜500000が好ましい。10000未満では共重合体(A1)1分子あたりの官能基数が少なく、基材や機能性無機微粒子(B)との相互作用が十分でなく、該無機微粒子を強く固着できないおそれがある。一方500000を越えると、共重合体(A1)溶液の粘度が高く扱いが困難となるおそれがある。
【0012】
共重合体(A1)は、例えば、構成単位(1a)、(1b)及び(1c)の原料となる単量体組成物を、溶媒およびラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることによって得ることができる。
構成単位(1a)の原料となる単量体としては、例えば、グリセリル−1−(メタ)アクリロイルオキシエチルウレタン、3,4−ジヒドロキシブチル−1−(メタ)アクリロイルオキシエチルウレタンが挙げられる。
【0013】
構成単位(1b)の原料となる単量体としては、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、7−ヘプチル(メタ)アクリレート、8−オクチル(メタ)アクリレート、9−ノニル(メタ)アクリレート、10−デシル(メタ)アクリレート、11−ウンデシル(メタ)アクリレート、12−ドデシル(メタ)アクリレート、13−トリデシル(メタ)アクリレート、14−テトラデシル(メタ)アクリレート、15−ペンタデシル(メタ)アクリレート、16−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、17−ヘプタデシル(メタ)アクリレート、18−オクタデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0014】
構成単位(1c)の原料となる単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメチルアンモニウムクロライド、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
上記各構成単位を構成する単量体の仕込み量は、得られる共重合体(A1)が上記割合となるように適宜選択して行うことができる。
【0015】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、水、および上記溶媒の混合物が挙げられる。単量体および生成する重合体の溶解性の観点から、水とエタノールまたはイソプロパノールの混合溶媒の使用が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシネオデカノエート等の有機過酸化物;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物等が挙げられ、作業性の点から、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)の使用が好ましい。
ラジカル開始剤の使用量は、単量体組成物100重量部に対して、通常0.1〜5.0質量部が好ましい。
【0016】
ラジカル重合は、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの公知の方法により行うことができる。重合温度及び重合時間は、ラジカル開始剤の種類や単量体の種類等によって適宜選択して決定できる。例えば、重合温度は好ましくは50〜70℃、重合時間は8〜48時間程度である。
得られる共重合体(A1)の精製は、例えば、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の一般的な精製方法により行うことができる。
【0017】
A層は、式(2)で表される金属化合物の加水分解縮合物(A2)を含むことができる。
該加水分解縮合物(A2)は、無機酸化物が主骨格となるため、耐久性や硬度に優れた構造体を得ることが可能となる。このとき、A層中の共重合体(A1)の割合は、1wt%以上、特に5wt%以上が好ましい。1wt%未満では、基材や機能性無機微粒子(B)との相互作用が十分でなく、該無機微粒子を強く固着できないおそれがある。
M (OQ1)m (Q2)a-m (2)
式中、MはSi、Al、TiまたはZrであり、Q1は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアシル基、官能基を有する炭素数1〜20のアルキル基または官能基を有する炭素数2〜20のアシル基を示す。Q2は炭素数1〜10の脂肪族アルキル基、炭素数1〜10の芳香族アルキル基、官能基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルキル基、官能基を有する炭素数1〜10の芳香族アルキル基、またはハロゲン原子を示す。aはMの原子価と同じ数であり、mは0〜aまでの整数である。
【0018】
前記加水分解縮合物(A2)は、入手のしやすさや反応性の制御のしやすさから、式(2)中のMはSiが好ましい。Q1としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはイソプロピル基が好ましく挙げられる。また、Q2は、立体障害によって加水分解縮合反応中のゲル化を防ぎ、また加水分解縮合物(A2)と、基材および機能性無機微粒子(B)との相互作用をもたらす効果がある。好ましくは、エポキシ基を有する炭素数2〜6のアルキル基、またはアミノ基を有する炭素数2〜6のアルキル基が挙げられる。
【0019】
前記加水分解縮合物(A2)は、金属化合物を加水分解縮合反応させる公知の方法により得ることができる。このとき、加水分解縮合反応を促進させる触媒を用いてもよい。
該触媒としては特に限定されず、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、リン酸などの無機酸;マレイン酸、酢酸、クエン酸などの有機酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアなどの塩基が挙げられる。
【0020】
前記加水分解縮合物(A2)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量で1000〜50000が好ましい。1000未満では加水分解縮合物(A2)と共重合体(A1)との相互作用が小さく、A層の物性が低下するおそれがあり、50000を超えると得られる縮合物がゲル化しやすくなり、扱いが困難となるおそれがある。
【0021】
B層に含まれる機能性無機微粒子(B)は、例えば、特に、A層の共重合体(A1)と多数の水素結合を形成することができる点から、金属酸化物微粒子が好ましい。
該金属酸化物微粒子としては、例えば、SiO2粒子、ZrO2粒子、Al2O3粒子、TiO2粒子、Pt担持TiO2粒子、Fe担持TiO2粒子、NドープTiO2粒子、Pt担持WO3粒子、Cu担持WO3粒子、SnO2粒子、ITO粒子、ATO粒子が挙げられる。これらの金属酸化物微粒子は、その機能性を考慮して単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
B層には無機微粒子(B)の他に、無機微粒子(B)間を連結する重合体や加水分解縮合物、例えば、上記加水分解縮合物(A2)、また構造体作製時の成膜性を良くするための表面調整剤などを含んでいてもよい。前記重合体や加水分解縮合物および表面調整剤などの量としては、特に限定されるものではないが、無機微粒子(B)の機能を最大限に発揮させる面からはB層中に25wt%未満であることが好ましい。
【0023】
本発明の構造体において、A層の単位面積あたり重量は0.01g/m2〜10g/m2が好ましく、0.05〜5g/m2がより好ましい。0.01g/m2未満ではA層の成分が少なすぎるため無機微粒子(B)の固着力が不十分となり、10g/m2を超えるとA層が厚くなりすぎ、構造体の可とう性が低下するおそれがある。
【0024】
本発明の構造体において、B層の単位面積あたり重量は0.1〜20g/m2が好ましく、0.5g/m2〜10g/m2がより好ましい。0.1g/m2未満ではB層の無機微粒子(B)の機能が十分に発揮されないおそれがある。一方、20g/m2を越えると構造体の外観を損ねるおそれがある。
【0025】
A層に用いられる共重合体(A1)がさまざまな基材へ良好な密着性を有するため、本発明に用いる基材については特に限定されない。基材の例としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース系樹脂などから作られるプラスチックフィルムや、綿、絹、麻などから作られる天然繊維、およびポリプロピレン、レーヨン、ポリエステル、ナイロンなどから作られる合成繊維などが挙げられる。
【0026】
本発明の構造体の作製は、公知の方法によって行うことができる。例えば、A層成分を溶媒に溶解させた溶液を用い、基材上にディップコート、スピンコート、スプレーコート、バーコート、ロールコート、グラビアコート法などの手段により塗膜を形成し、必要に応じて加熱乾燥処理を行うことでA層を作製することができる。続いて、B層成分を溶媒に溶解させた溶液をA層上に同様の手段で塗工し、必要に応じて加熱乾燥処理を行うことで、基材上にA層を介してB層が形成されている本発明の構造体を得ることができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
製造例1 共重合体(A1)の作製
4つ口フラスコ中でグリセリル-1-メタクリロイルオキシエチルウレタン(GLYMOU)14.84g、n-ブチルメタクリレート(BMA)5.67g、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(QA)の5wt%水溶液2.38g(GLYMOU/BMA/QAのモル比(式(1a)のl / 式(1b)のm / 式(1c)のn)=59.7 / 39.8 / 0.5)及びジメチル-2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.413gをエタノール80.31gに溶解させ、30分間窒素置換した後、60℃で20時間反応させて共重合体(A1)の溶液(固形分20wt%)を得た。
得られた共重合体(A1)を核磁気共鳴(NMR)で分析した結果、GLYMOU/BMA/QAのモル比(式(1a)のl / 式(1b)のm / 式(1c)のn)=59.7 / 39.8 / 0.5であった。
【0028】
得られた共重合体(A1)の分子量を以下のようにして測定した。
50mM LiClを溶解させたアセトニトリル/水(3/7容積比)混合溶媒を溶離液としたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、屈折率検出およびポリエチレングリコール標準により重量平均分子量を測定した。その結果、共重合体(A1)の重量平均分子量は42000であった。
【0029】
製造例2 金属化合物の加水分解縮合物(A2)の作製
バイアルに水3.66g、リン酸6.52mg、テトラエトキシシラン(TEOS)4.24gおよびγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMOS)1.18gをはかりとり、50℃で3時間反応させて加水分解縮合物(A2)の溶液(固形分23wt%)を得た。
得られた加水分解縮合物(A2)の分子量を以下のようにして測定した。
テトラヒドロフランを溶離液としたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、屈折率検出およびポリスチレン標準により重量平均分子量を測定した。その結果、加水分解縮合物(A2)の重量平均分子量は4000であった。
【0030】
実施例1−1
製造例1で得た共重合体(A1)の溶液を水で200倍希釈した液に、基材としてのポリプロピレン(PP)不織布を5分間浸漬させ、60℃で5分間乾燥させてPP不織布表面に共重合体(A1)の層(A層)を形成した。A層の単位面積あたりの重量を重量変化で算出したところ、0.2g/m2であった。
A層を形成した上記不織布を、無機微粒子(B)としてのPt担持TiO2粒子(石原産業社製)の水分散スラリー(固形分1wt%)に5分間浸漬させ、60℃で5分間乾燥させてA層の上にPt担持TiO2粒子の層(B層)を形成させた。B層の単位面積あたりの重量を重量変化で算出したところ、1.9g/m2であった。
【0031】
実施例1−2
無機微粒子(B)をFe担持TiO2粒子(ナノウェイヴ社製)としたほかは、実施例1−1と同様の方法でPP不織布表面にA層およびB層を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は2.0g/m2であった。
【0032】
実施例1−3
無機微粒子(B)をZrO2粒子(日産化学工業社製)としたほかは、実施例1−1と同様の方法でPP不織布表面にA層およびB層を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は1.9g/m2であった。
【0033】
比較例1
PP不織布表面にA層を形成させずに、PP不織布を、Pt担持TiO2粒子水分散スラリー(石原産業社製、固形分1wt%)に5分間浸漬させ、60℃で5分間乾燥させてPP不織布表面にPt担持TiO2粒子の層(B層)を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は1.9g/m2であった。
【0034】
実施例2−1
実施例1−1におけるA層の代わりに、A層中の共重合体(A1)の割合が50wt%となるよう共重合体(A1)溶液と、製造例2で得た加水分解縮合物(A2)溶液とを混合した。この混合液を水で200倍希釈した液にPP不織布を5分間浸漬させ、60℃で5分間乾燥させてPP不織布表面にA層として、A層中の割合が50wt%の共重合体(A1)と加水分解縮合物(A2)との混合層を形成させた。熱重量分析(TG)で測定したA層中の共重合体(A1)の割合は50wt%であった。また、A層の単位面積あたりの重量は0.2g/m2であった。
A層を形成した上記のPP不織布表面に、実施例1−1と同様の方法でB層(Pt担持TiO2粒子層)を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は2.0g/m2であった。
【0035】
実施例2−2
A層中の共重合体(A1)の割合を20wt%としたほかは、実施例2−1と同様の方法でPP不織布表面にA層及びB層を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は1.6g/m2だった。
【0036】
比較例2
A層を加水分解縮合物(A2)のみ(共重合体(A1)=0wt%)とし、B層としてZrO2粒子(日産化学工業社製)を形成させたほかは、実施例2−1と同様の方法でPP不織布表面にA層およびB層を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は1.6g/m2だった。
【0037】
実施例3
A層中の共重合体(A1)の割合が5wt%となるよう共重合体(A1)溶液と加水分解縮合物(A2)溶液を実施例2−1と同様に混合した。これをエタノールで10倍希釈した液を、基材としてのPETフィルム上にバーコートし、PETフィルム表面にA層を形成した。A層の単位面積あたりの重量は0.1g/m2であった。
Pt担持TiO2粒子(石原産業社製)、SiO2粒子(日産化学工業社製)および加水分解縮合物(A2)溶液を、Pt担持TiO2粒子:SiO2粒子:加水分解縮合物(A2)=73:24.3:2.7(重量比)となるよう混合した。この混合液をA層の上にバーコートし、135℃で2分間加熱させた。続いて、2日間室温でエージングしてA層の上にB層を形成させた。B層の単位面積あたりの重量は1.0g/m2であった。
【0038】
試験例1
各実施例および比較例で調製した層構造体について、粒子の密着性評価試験を以下の方法で行った。結果を表1に示す。
基材が繊維(不織布)の場合:10cm角の不織布を100gの水に入れて5分間洗濯を行い、60℃で5分間乾燥させた。洗濯前後での重量減少を粒子脱落量として測定し、担持された粒子の脱落率を算出した。評価は、脱落率≦10%:○、10%<脱落率:×とした。
基材がフィルムの場合:JIS K 5600の碁盤目剥離試験を行い、剥離の有無を目視で観察した。評価は、剥離なし:○、剥離あり:×とした。
【0039】
【表1】

【0040】
試験例2
光触媒活性を有する無機微粒子(B)を用いた、実施例1−1、1−2、2−1、2−2、および3について、得られた層構造体50cm2を用いて、光触媒の性能評価方法の一つであるアセトアルデヒドガス分解試験を行った。試験は、層構造体に、可視光6000lx照射3時間後のアセトアルデヒド分解率(初期濃度100ppm)を測定することにより行った。結果を表2に示す。
表2より、全ての実施例でアセトアルデヒドの分解が確認され、B層に用いた無機微粒子の機能が発揮されていることがわかった。
【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材表面に形成されたA層と、該A層表面に形成されたB層とを備える構造体であって、
A層が、式(1a)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物単量体の構成単位(1a)、式(1b)で示される構成単位(1b)および式(1c)で示される構成単位(1c)からなる共重合体(A1)を含み、B層が機能性無機微粒子(B)を含むことを特徴とする構造体。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基を示す。X1およびX2はそれぞれ独立に−O−または−NH−を示し、Y1およびY2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基または炭素数1〜20のヒドロキシアルキレン基を示し、Zは炭素数1〜4のアルキレン基を示す。l、m、およびnは各構成単位のモル比を表し、2≦l≦97、2≦m≦97、0.1≦n≦10かつl+m+n=100である。)
【請求項2】
A層が、共重合体(A1)と金属化合物の加水分解縮合物(A2)との混合物からなり、かつ共重合体(A1)のA層中の割合が1wt%以上である請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
金属化合物の加水分解縮合物(A2)が、式(2)で表される金属アルコキシド、金属錯体または金属塩を加水分解縮合反応させて得た、加水分解縮合物である請求項2に記載の構造体。
M (OQ1)m (Q2)a-m (2)
(式中、MはSi、Al、TiまたはZrであり、Q1は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアシル基、官能基を有する炭素数1〜20のアルキル基または官能基を有する炭素数2〜20のアシル基を示す。Q2は炭素数1〜10の脂肪族アルキル基、炭素数1〜10の芳香族アルキル基、官能基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルキル基、官能基を有する炭素数1〜10の芳香族アルキル基、またはハロゲン原子を示す。aはMの原子価と同じ数であり、mは0〜aまでの整数である。)
【請求項4】
機能性無機微粒子(B)が、SiO2粒子、ZrO2粒子、Al2O3粒子、TiO2粒子、Pt担持TiO2粒子、Fe担持TiO2粒子、NドープTiO2粒子及びこれらの2種以上の混合物からなる群より選択される金属酸化物微粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の構造体。
【請求項5】
基材が有機基材であり、A層の単位面積あたりの重量が0.01g/m2〜10g/m2であり、かつB層の単位面積あたりの重量が0.1g/m2〜20g/m2である請求項1〜4のいずれかに記載の構造体。
【請求項6】
基材が繊維であることを特徴とする請求項5に記載の構造体。
【請求項7】
基材がフィルムであることを特徴とする請求項5に記載の構造体。

【公開番号】特開2012−86498(P2012−86498A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236898(P2010−236898)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】