説明

無機有機ハイブリッド体の製造方法

【課題】 価格競争力のあり、水系化できる無機有機ハイブリッド体を提供する。
【解決手段】 珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩をイオン交換体、特に陽イオン向寒樹脂により脱アルカリ金属処理して活性珪酸水溶液を生成させ、該活性珪酸水溶液を水溶性高分子物質と混合し、混合水溶液から固形分を回収することからなる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。無機有機ハイブリッド体は、それ自体を含有する水溶液や塗料から形成されるシート体、膜体、積層体の層構成材料として多様な分野での利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪酸アルカリ金属塩を原料に用いた新たな無機有機ハイブリッド体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料と無機材料をハイブリッド化したハイブリッド材料の開発がさかんに行われている。ハイブリッド化することにより有機成分と無機成分の優れた特徴を効率良く引き出す、あるいは相乗効果的な特性を引き出すことが期待されている。このような期待のもと無機成分の原料として、層状粘土鉱物いわゆる平板状顔料を用いるもの、あるいはオルガノシランを原料として用いるものがある。
【0003】
層状粘土鉱物を用いる方法として、例えば、層状粘土鉱物をポリプロピレンに分散させたもの(非特許文献1参照)、層状粘土鉱物をεカプロラクタムに混合し重合したもの(非特許文献2参照)等がある。層状粘土鉱物を用いるものは、如何に層状粘土鉱物をナノレベルに一層一層はがした状態で分散できるかが1つのキーテクノロジーであり、その分散に用いる薬品の性質により適用範囲が制限される問題がある。
【0004】
一方、オルガノシランを用いる方法として、例えば、オルガノシランによるポリカーボネートとのハイブリッド材料についての提案(特許文献1参照)、オルガノシランによる石油系樹脂とのハイブリッド材料についての提案(特許文献2参照)等がある。金属アルコキシドやシランカップリング剤に代表される有機シランであるオルガノシランを用いるこれらの方法の溶媒の主成分は有機溶媒である必要があり、水が多い溶媒を用いるとゾル−ゲル反応が進み良好なハイブリッド材料を作成することができないため、水系の塗料は作成できない欠点を持っている。
【0005】
また、ポリビニルアルコールとオルガノシランによるハイブリッド材料の提案(特許文献3参照)がある。しかし、オルガノシランの加水分解によりアルコールが必ず生じ、ポリビニルアルコールはアルコールに不溶のため、ハイブリッド材料の特性を十分に引き出せないことがある。分子内にシリル基を持つ変性ポリビニルアルコールの作成方法が特許文献4の本文中に記載されている。作成した分子内にシリル基を持つ変性ポリビニルアルコールはシリル基が多い場合は水系化し難く、また、分子内にシリル基を持つ変性ポリビニルアルコールを作成する段階は水を用いない系で変性あるいは重合反応を行う必要がある。以上のようなオルガノシランを用いる方法はいずれもオルガノシランの値段が高く、それを用いたハイブリッド材料は値段が高く、市場性は限定されたものであった。
【0006】
また、珪酸アルカリ金属塩を用いる塗料として、分子内にシリル基を有する変性ポリビニルアルコールと珪酸ナトリウムとを成分とする塗料を酸性紙に塗布する提案(特許文献4参照)がされている。しかし、この方法は酸性紙に限定されること、更に、有機成分として分子内にシリル基を有する変性ポリビニルアルコールとする必要があるため適用範囲が狭いという問題があった。
【特許文献1】特開平11−209596号公報
【特許文献2】特開2002−284879号公報
【特許文献3】特許2556940号公報
【特許文献4】特開平5−32931号公報
【非特許文献1】N.Hasegawa etal., J.Appl.Polym. Sci.,67,87(1998)
【非特許文献2】A.Usuki etal., J.Mat.Res.8(5),1179(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、無機成分と有機高分子をハイブリッド化した物質を提供することにある。更に詳しく述べると、水系化でき、コストパフォーマンスに優れ価格競争力のある無機成分と有機高分子をハイブリッド化したハイブリッド体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基本的には珪酸と水溶性高分子とのハイブリット体に関する発明であり、以下の各発明を包含する。
【0009】
(1)珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩をイオン交換体により脱アルカリ金属処理して活性珪酸水溶液を生成させ、該活性珪酸水溶液を水溶性高分子物質と混合し、混合水溶液から固形分を回収することを特徴とする、活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0010】
(2)前記イオン交換体が水素型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする(1)記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0011】
(3)前記珪酸アルカリ金属塩が珪酸ナトリウム、珪酸リチウム及び珪酸カリウムからなる群より選択される一種であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0012】
(4)前記珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩濃度が0.5〜15質量%であり、該珪酸アルカリ金属塩を脱アルカリ金属処理して得られる活性珪酸水溶液の活性珪酸濃度が0.05〜12質量%であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0013】
(5)前記水溶性高分子物質が、澱粉類、セルロース類、ポリビニルアルコール類及びポリアクリルアミド類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0014】
(6)前記水溶性高分子物質は、エステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する水溶性高分子物質であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0015】
(7)前記エーテル基を側鎖に有する水溶性高分子物質は、アルキレングリコールとエーテル結合してなる水溶性高分子物質であることを特徴とする(6)記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0016】
(8)前記エステル基を側鎖に有する水溶性高分子物質は、弱酸性乃至塩基性の物質とエステル結合している水溶性高分子物質であることを特徴とする(6)記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0017】
(9)前記 該弱酸性乃至塩基性の物質が、酢酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩及び第三リン酸塩から選ばれる一種であることを特徴とする(8)記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0018】
(10)前記水溶性高分子物質が、リン酸エステル化澱粉、酢酸エステル化澱粉及び酢酸セルロースから選択される少なくとも一種であることを特徴とする(8)又は(9)に記載の活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0019】
(11)前記無機有機ハイブリッド体中の活性珪酸と水溶性高分子物質の比率が、固形分質量比で50:1〜1:50の範囲であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0020】
(12)前記活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体は、925cm−1〜975cm−1の範囲で赤外吸収スペクトルの吸光度が大きいという特性を有することを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【0021】
(13)前記(1)〜(12)のいずれか1項に記載の方法で得られる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体。
【0022】
(14)前記(13)記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料。
【0023】
(15)前記水系塗料が、顔料物質、バインダー物質、架橋剤及びその他の層形成用補助薬品類から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする(14)記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料。
【0024】
(16)前記(14)又は(15)に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料をシート状基材に塗布し、乾燥してなる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体層を有する積層シート。
【0025】
(17)前記(14)又は(15)に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料をシート状基材に塗布及び/又は含浸し、乾燥してなる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体層を有する記録体シート。
【発明の効果】
【0026】
本発明の珪酸アルカリ金属塩を無機成分の原料とする無機有機ハイブリッド体は、オルガノシランを無機成分の原料とする無機有機ハイブリッド体に比べてコストパフォーマンスに優れ、価格競争力のある無機有機ハイブリッド体を提供することが可能となり産業上極めて有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の無機有機ハイブリッド体を構成する各成分及び無機有機ハイブリッド体の製造方法に関して詳細に説明する。
【0028】
<水溶性高分子について>
本発明の無機有機ハイブリッド体における有機成分に用いる水溶性高分子の好ましい具体例としては、特に限定されるわけではないが、例えば、ポリビニルアルコール類、エチレン−ビニルアルコール共重合体、オリゴ糖類、多糖類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリベンゼンスルホン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルチオール、ポリグリセリン、カゼイン、ゼラチン等のコラーゲン、プロテイン等を挙げることができる。もちろん、これらのナトリウム塩等の金属塩、アンモニウム塩も用いられる。
【0029】
上記水溶性高分子中、ポリビニルアルコール類としては、完全鹸化型、部分鹸化型、官能基変性型(官能基としては、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、アミノ基、アミン基、チオール基、スルホン酸基、燐酸基、シラノール基等を挙げることができる。)等のポリビニルアルコール類を挙げることができる。
【0030】
前記多糖類の好ましい具体例としては、澱粉類、具体的に酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、アセチル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、カルバミン酸澱粉、ヒドロキシメチル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等を好ましい澱粉類として挙げることができ、他に、デキストリン、セルロース類、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、キチン、キトサン、アルギン酸、プルラン、マンナン、グルコマンナン等を挙げることができる。
前記ポリアルクリアミドとしては、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の如何なるものも用いることができる。
【0031】
本発明の脱アルカリ金属処理活性珪酸と水溶性高分子の組み合わせが、水系化できる優れた特性を有する無機有機ハイブリッド体となる理由については、今後のさらなる研究を待たなければならないが、おそらく、脱アルカリ金属処理液中にアルコール成分が形成されず、かつ、活性珪酸と水溶性高分子の間に強い水素結合があるため相溶性が良く、ナノレベルあるいはオングストロームレベルで活性珪酸と水溶性高分子が混ざり合うためと考えられる。このため、水素結合を最大限に活用でき、場合によっては、活性珪酸と水溶性高分子の反応生成物を多く含有させることができるため、ハイブリッド体としての特性が十分に引き出されると考えられる。
【0032】
本発明で用いる水溶性高分子としては、エステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する水溶性高分子、例えば、弱酸〜塩基性物質とエステル結合してなる水溶性高分子及び/又はアルキレングリコールとエーテル結合してなる水溶性高分子も好ましい水溶性高分子として挙げられる。エステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する水溶性高分子と活性珪酸との併用が好ましい理由は定かではないが、活性珪酸は塩酸ほどの強酸ではないがかなり強い酸であり、エステル結合している弱酸〜塩基性物質と活性珪酸の間で酸塩基反応あるいは強酸と弱酸の交換反応等を起こしている可能性がありSi−O−C結合を形成している可能性があるためではないかと考えている。
また、上記アルキレングリコールとエーテル結合してなる水溶性高分子の場合、アルキレングリコールは弱い酸とも言え活性珪酸との間で強酸と弱酸の交換反応を起こしているか、エーテル結合しているアルキレングリコールと活性珪酸の間で強い水素結合を形成している可能性があるためではないかと考えられる。
【0033】
上記のような弱酸〜塩基性物質とエステル結合してなる水溶性高分子の弱酸〜塩基性物質は、公知の如何なるものでも構わないが、弱酸〜中性に近い弱塩基性物質が好ましい。より好ましくは、蟻酸、酢酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、三リン酸塩のいずれか少なくとも1つ以上が選択される。
エステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する水溶性高分子として、澱粉、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドのいずれか少なくとも1つ以上が選択されていることが好ましい。
【0034】
エステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する有機高分子として特に好ましいものとしては、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酢酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチル化セルロース、ヒドロキシプロピル化セルロース、酢酸セルロース、部分鹸化ポリビニルアルコールを挙げることができ、これらの少なくとも1つ以上を選択することが好ましい。部分鹸化ポリビニルアルコールとしては鹸化度90mol%以下であることが好ましく、より好ましくは85mol%以下、特に好ましくは75mol%以下であり、鹸化度の下限は35mol%以上が好ましく、より好ましくは50mol%以上、特に好ましくは65mol%以上である。鹸化度が低すぎると水溶化し難くなり工業的に非効率になることがあり、鹸化度が高すぎるとハイブリッド体としての特性が得られないことがある。
【0035】
<珪酸アルカリについて>
本発明で使用される活性珪酸は、珪酸アルカリ金属塩を原料とする。珪酸アルカリ金属塩を原料とすることにより有機溶媒なしの活性珪酸を得ることができるため、特に塗料の水系化において重要である。本発明で用いる珪酸アルカリ金属塩は特に限定するものではないが、好ましくは、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムを挙げることができる。より好ましくは、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムであり、特に好ましくは、JIS K 1408で規定される3号珪酸ナトリウムである。
【0036】
本発明では、珪酸アルカリ金属塩をイオン交換体により脱アルカリ金属処理を行い活性珪酸を作成する。本発明において、珪酸アルカリ金属塩をイオン交換体により脱アルカリ金属処理を行って得る活性珪酸を用いる理由は、先にも述べたが、完全に水系化することができ、かつ、得られる活性珪酸中のイオン性物質(例えばアルカリ金属イオン)を少なくできるためである。
イオン交換体としては、如何なるものも用いることができるが、陽イオン無機イオン交換体、水素型陽イオン交換樹脂を好ましく用いることができ、特に好ましくは、水素型陽イオン交換樹脂を用いることであり、如何なる水素型陽イオン交換樹脂を用いることができる。
【0037】
珪酸アルカリ金属塩水溶液濃度は0.5〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であればより好ましく、2〜7質量%であれば更により好ましい。珪酸アルカリ金属塩水溶液の濃度が高すぎるとイオン交換体による脱アルカリ金属処理が十分に行えない場合がある。珪酸アルカリ金属塩水溶液の濃度が低すぎる場合は、生成ハイブリッド体含有水溶液の濃度が低くなりすぎるため、そのまま塗料等に利用することができず、また、生成ハイブリッド体を回収することを意図した場合にも好ましくない。
【0038】
珪酸アルカリ金属塩をイオン交換体により脱アルカリ金属処理を行った活性珪酸の濃度は0.05〜12質量%であることが好ましく、0.5〜7質量%であればより好ましく、1〜5質量%であれば更に好ましい。また、得られる活性珪酸はpHが6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。活性珪酸の濃度が高すぎる場合は、活性珪酸のポットライフが短くなりすぎるために実用的でない場合が生じ、濃度が低すぎる場合は、ハイブリッド体含有水溶液を塗料等の用途に供する場合に濃度が低くすぎることとなり好ましくない。また、活性珪酸のpHが高すぎるとハイブリッド体の特性が十分に発揮されにくくなることがある。
【0039】
珪酸アルカリ金属塩の水溶液からイオン交換体により活性珪酸を作成する時の温度は0〜50℃であることが好ましく、10〜40℃であればより好ましく、15〜30℃であれば更に好ましい。温度が高すぎたり低すぎたりすると脱アルカリ金属処理が上手くいかなかったり、活性珪酸のポットライフが短かすぎて実用的でなかったり、生成するハイブリッド体の特性が十分に発揮されにくくなることがある。
【0040】
本発明で用いる水溶性高分子は、ハイブリッド体中に固形分で少なくとも2質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは10質量%以上である。また、上限の好ましい値は98質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。水溶性高分子の含有量が少なすぎると無機成分のみの機能しか得られないことがあり、多すぎると水溶性高分子の機能のみしか得られないことがある。活性珪酸のハイブリッド体中の固形分は少なくとも2質量%以上であり、好ましくは5質量%以上であり、上限の好ましい値は98質量%、より好ましくは90質量%以下である。活性珪酸が少なすぎたり多すぎたりするとハイブリッド体としての特性が得られ難くなることがある。また、ハイブリッド体中に含まれる水溶性高分子と活性珪酸の配合比は、固形分質量比で50:1〜1:50、好ましくは20:1〜1:20、特に好ましくは10:1〜1:10である。水溶性高分子の配合比率が少なすぎたり多すぎたり、活性珪酸の配合比率が少なすぎたり多すぎたりすると、十分なハイブリッド化の効果が得られないことがある。
【0041】
本発明のハイブリッド体あるいはそれを含有する塗料には、960cm−1付近(925〜975cm−1)の赤外吸収があることが好ましい。より好ましくは、活性珪酸未添加の場合と比較して活性珪酸を配合したハイブリツド体の方が960cm−1付近の赤外吸収スペクトルの吸光度が大きくなることである。960cm−1付近の赤外吸収はSi−O−C結合によるものである。つまり、ハイブリッド体中の960cm−1付近の赤外吸収の存在あるいは吸光度の増大は、活性珪酸とエステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する有機高分子との間にSi−O−Cの共有結合が形成されたことを意味していると考えられる。このことから、960cm−1付近の赤外吸収の有無又は増大がハイブリッド材料としての特性に少なからず影響を及ぼしていると考えられる。
【0042】
本発明のハイブリッド体を含有する塗料中には、必要に応じて様々なものを添加することができる。好ましい具体例を挙げるならば、例えば、顔料、バインダー、架橋剤、その他の薬品等を配合することができる。もちろん、添加できるものはこれらに限定されるものではない。
顔料としては、公知の如何なるものも使用できるが、具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、焼成クレー、シリカ、コロイダルシリカ、ケイソウ土、合成ケイ酸アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、雲母粉などの無機顔料、並びに、尿素−ホルマリン樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合体、ポリスチレン樹脂等の有機系樹脂微粉末などを好ましく挙げることができる。
【0043】
バインダーとしては、公知の有機高分子を挙げることができる。具体的には、ウレタン系ラテックス、アクリル系ラテックス、スチレンブタジエン系ラテックス、エステル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル系ラテックス等のビニル系ラテックス等を挙げることができる。もちろん、これらのバインダーはエステル基又はエーテル基を側鎖に持つ必要はない。
その他の薬品としては、補助添加薬品類、感熱記録体に用いる場合であればロイコ染料、顕色剤、増感剤、ワックス等を、インクジェット記録体に用いる場合であればカチオン系薬品等を挙げることができる。補助添加薬品類としては、塗料のpH調整剤、濡れ性改善剤、消泡剤、剥離改質剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、染料、酸化防止剤、隠蔽剤、油剤、架橋剤、シランカップリング剤等をハイブリッド材料の特性を損なうことのない範囲で用いることができる。
【0044】
架橋剤としては、グリオキザール、イソシアネート、ヒドラジン誘導体、エピクロルヒドリン系架橋剤、オキサゾリン架橋剤、メラミン架橋剤、ホルマリン、硼酸、硼砂等を好ましく挙げることができる。
シランカップリング剤は公知のものを好ましくあげることができる。例えば、ビニルシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、スチリルシラン系カップリング剤、メタクリロキシシラン系カップリング剤、アクリロキシシラン系カップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、ウレイドシラン系カップリング剤、クロロプロピルシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、スルフィドシラン系カップリング剤、イソシアネートシラン系カップリング剤等をより好ましく挙げることができる。
【0045】
本発明のハイブリッド体を含有する塗料に用いる溶媒の主成分は水であることが好ましく、溶媒成分の80質量%以上が水であることがより好ましく、95質量%以上であれば更により好ましく、溶媒成分の全てが水であることが特に好ましい。溶媒成分中に水が少ないとハイブリッド材料の特性を十分に発揮させることができないことや、排水に有機溶媒混入の問題を生じることがある。
【0046】
本発明の無機有機ハイブリッド体の特性を挙げると、それ自体を含有する水溶液や塗料から形成されるシート体や膜体として、また、他の材料に塗膜形成用又は添加成分として適用された場合において、強度の向上、弾性率の向上、剛度の向上、耐摩擦性の向上、熱的安定性の向上、耐薬品性の向上、耐バリア性の向上、延伸性の向上、耐候性の向上等の機能を有することを挙げることができる。特に、強度の向上例を具体的に挙げると、引張強度の向上、引き裂き強度の向上、破裂強度の向上、耐折強度の向上、表面強度の向上、層間強度の向上、圧縮強度の向上、曲げ強度の向上、耐衝撃強度の向上、耐振強度の向上、耐打抜き強度の向上、耐切断強度の向上等を好ましく挙げることができる。
【0047】
また、熱的安定性の向上例を具体的に挙げると、例えば、耐熱分解性の向上、Tgの向上、不燃性の向上等を挙げることができ、耐薬品性の向上例を具体的に挙げると、例えば、耐水性の向上、耐有機溶媒性の向上、撥水性の向上、撥油性の向上、耐アルカリ性の向上、耐酸性の向上等を挙げることができる。もちろん、本発明のハイブリッド体の利点はこれらに限定されるものではない。
【0048】
本発明のハイブリッド体は、シート材料に対して適用されると特に効果的である。シート材料としては、特に制限されることはないが、例えば、紙、フィルム等を好ましく挙げることができる。より好ましくは、新聞用紙、印刷用紙、板紙、インクジェット記録体、感熱記録体、感圧記録体、電子写真記録体、昇華記録体、溶融熱転写記録体等の記録体、剥離紙、キャリアテープ、ろ紙、フィルター、電気絶縁紙、有機繊維紙、無機繊維紙、難燃紙、壁紙、包装紙、耐油紙、耐水紙、板紙、段ボール、偏向板、光学フイルム、包装フイルム等を好ましく挙げることができる。更に好ましくは、新聞用紙、印刷用紙、板紙、感熱記録体、感圧記録体、電子写真記録体、昇華記録体、溶融熱転写記録体等の記録体であり、特に好ましくは、感熱記録体、感圧記録体、電子写真記録体、昇華記録体、溶融熱転写記録体を挙げることができる。
【0049】
本発明のハイブリッド体の利用態様と1つとして、水系塗料を挙げることができる。水系塗料として利用する場合の好ましい塗布方法としては、例えば、刷毛コーティング、鏝コーティング、エアナイフコーティング、ロールコーティング、ブレードコーティング、メイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、スプレーコーティング、スライドコーティング、キスロールコーティング、キャストコーティング、カーテンコーティング、ダイスロットコーティング、チャンプレックスコーティング、ブラシコーティング、ゲートロールコーティング、ハミルトンコーティング、KCMコーティング、サイズプレスコーティング、フィルムトランスファロールコーティング、スピンコーティング、含浸コーティング等を挙げることができる。また、処理後の塗料の乾燥手段も公知の方法を用いることができる。例えば、天日干し、風乾、ヒーターやドライヤーによる熱又は熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、超臨界乾燥、加熱水蒸気乾燥等を好ましく挙げることができる。
【0050】
本発明のハイブリッド体の好ましい処理として他に、溶融押出法、流延成膜・成形法、湿式成膜・成形法、ゲル成膜・成形法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、内添法、乳化重合法等を含む重合法等を挙げることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、もちろん、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0052】
<実施例1>
SiO濃度30質量%、SiO/NaOモル比3.1の珪酸ナトリウム水溶液〔東曹産業(株)製、三号珪酸ソーダ〕に水を混合し、強酸性水素型陽イオン交換樹脂〔三菱化学(株)ダイヤイオンSK―1BH〕が充填されたカラムに通じて脱アルカリ金属処理して活性珪酸水溶液Aを調製した。得られた活性珪酸水溶液Aの活性珪酸濃度は4.0質量%、pH2.8であった。得られた活性珪酸水溶液Aは透明かつゲル化しておらず、粒子径の測定(使用機器:ナノトラックUPA−EX150型[日機装(株)]、測定粒子径範囲0.8〜6000nm)を行ったところ粒子径0.8nm以上の粒子の存在を示すデータは得られなかった。
【0053】
SiO濃度20質量%、SiO/LiOモル比3.5の珪酸リチウム水溶液〔日本化学工業社製、珪酸リチウム35〕に水を混合し、強酸性水素型陽イオン交換樹脂〔三菱化学(株)ダイヤイオンSK―1BH〕が充填されたカラムに通じて脱アルカリ金属処理して活性珪酸水溶液Bを調製した。得られた活性珪酸水溶液Bの活性珪酸濃度は4.0質量%、pH2.5であった。得られた活性珪酸水溶液Bは透明かつゲル化しておらず、粒子径の測定(使用器機:ナノトラックUPA−EX150型[日機装(株)]、測定粒子径範囲0.8〜6000nm)を行ったところ粒子径0.8nm以上の粒子の存在を示すデータは得られなかった。
【0054】
上記活性珪酸水溶液A及び活性珪酸水溶液Bに後記水溶性高分子水溶液を添加、攪拌混合して表1に示す配合の水溶液を作成した。この水溶液をポリテトラフルオロエチレン製シャーレに展開し、100℃の乾燥機で1時間乾燥し厚さ0.5mmの無機有機ハイブッド体を得た。この無機有機ハイブリッド体を5cm角に切り、沸騰水に2分間浸漬した後サンプルを取り出し、100℃の乾燥機で1hr乾燥し、沸騰水に浸漬前後の質量差より溶解率を確認した。
溶解率=([浸漬前質量]−[浸漬後質量])÷[浸漬前質量]×100
また得られたハイブリッド材料の赤外吸収スペクトル(FT−IR)をニコレー社Nexus670型にて測定し、960cm−1付近の赤外吸収の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0055】
<実験に用いた水溶性高分子>
・ 完全鹸化型ポリビニルアルコールA(商品名:PVA−117、クラレ社製、重合度1700)
・ 部分鹸化型ポリビニルアルコールA(商品名:PVA−205、クラレ社製、重合度500)
・ アセトアセチル変性完全鹸化型ポリビニルアルコール(商品名:Z−200、日本合成化学工業社製、重合度1100程度)
・ 酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ製)
・ ヒドロキシエチル化澱粉A(商品名:Ethylex2020、A.E.Staley社製)
【0056】
【表1】

【0057】
<参考例1>
SiO濃度30質量%、SiO/NaOモル比3.1の珪酸ナトリウム水溶液〔東曹産業(株)製、三号珪酸ソーダ〕に水を混合し、塩酸を加えて濃度10.0質量%、pH2.4の酸処理液を作成した。この酸処理液に下記に挙げる水溶性高分子水溶液を添加し、混合して表2に示す配合割合とする以外、実施例1と同様の実験をした。結果を表2に示す。
<実験に用いた水溶性高分子>
・ 完全鹸化型ポリビニルアルコールB(商品名:PVA−105、クラレ社製、重合度500)
・ 部分鹸化型ポリビニルアルコールB(商品名:PVA−217、クラレ社製、重合度1700)
・ ヒドロキシエチル化澱粉B(商品名:Ethylex2025、A.E.Staley社製)
【0058】
【表2】

【0059】
<比較例1>
実施例1及び参考例1で使用した水溶性高分子のみの水溶液を用いる以外、実施例1と同様の実験を行った。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
<実施例2>
広葉樹を原料としてECF漂白されたLBKP100%を380mlCSFに叩解し、内添サイズ剤としてアルケニル無水コハク酸(商品名:ファイブラン81、ナショナルスターチ製)を0.07%、歩留向上剤(商品名:パーコール182、協和産業製)を0.02%で長網多筒抄紙機によって抄紙し、水溶性高分子であるヒドロキシエチル化澱粉B(商品名:Ethylex2025、A.E.Staley社製)を固形分で85質量%と実施例1の活性珪酸水溶液Aを固形分で15質量%となるように攪拌混合して水溶液を作成し、乾燥後の塗布量が1.5g/mになるようにサイズプレスコーターにて塗工、乾燥し、マシンカレンダー処理を施し、JIS P 8124、JIS P 8118に基づき測定した坪量64g/m、厚さ88μmの紙を得た。この紙の引張強さ、引張弾性率をJIS P 8113、クラークこわさをJIS P 8143に基づき測定した。結果を表4に示す。
【0062】
<実施例3>
水溶性高分子である酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ社製)を固形分で95質量%と実施例1の活性珪酸水溶液Bを固形分で5質量%となるように攪拌混合したハイブリッド材料塗料をサイズプレスコーターにて塗工する以外、実施例2と同様な実験を行った。結果を表4に示す。
【0063】
<比較例2>
水溶性高分子であるヒドロキシエチル化澱粉B(商品名:Ethylex2025、A.E.Staley社製)のみを塗料としてサイズプレスコーターにて塗工する以外、実施例2と同様な実験を行った。結果を表4に示す。
【0064】
<比較例3>
高水素結合性有機高分子である酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ社製)のみを塗料としてサイズプレスコーターにて塗工する以外、実施例3と同様な実験を行った。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
<実施例4〜6、比較例4〜6>
前記実施例1に記載した方法で調製した活性珪酸水溶液Bと表5に示す3種のポリビニルアルコールを表5に示す固形分質量比になるように攪拌混合し、固形分濃度6質量%の水溶液を調製して実施例4〜6のハイブリッド材料塗料とした。
また、上記活性珪酸水溶液Bを使用せず、表5に示す3種のポリビニルアルコールのみからなる固形分濃度6質量%の水溶液を作成し比較例4〜6の塗料とした。
【0067】
内径10cmのポリテトラフルオロエチレン製シャーレにそれぞれの塗料17.5gを層状に展開し、40℃の乾燥機で1日間、更に100℃の乾燥機で1時間乾燥して成膜させた。得られた各実施例及び比較例の膜体を2.5cm角に切り、沸騰水に1分間浸漬した後、各サンプルを取り出し、100℃の乾燥機で1時間乾燥し、沸騰水への浸漬前後の膜体質量差をもとに、下式によりそれぞれの溶解率を確認した。
【0068】
溶解率=([浸漬前質量]−[浸漬後質量])÷[浸漬前質量]×100
【0069】
得られた実施例4〜6及び比較例4〜6の各膜体の赤外吸収スペクトル(FT−IR)をニコレー社Nexus670型にて測定した。各膜体の赤外吸収スペクトルの960 cm−1付近(Si−O−Cの吸収に相当)の吸光度(A960)と1720 cm−1付近 (C=Oの吸収に相当)の吸光度(A1720)についてポリビニルアルコールのC−H系の吸収を意味する2940cm−1付近の吸光度(A2940)を用い、その比(A960/ A2940とA1720/ A2940)を求めた。結果を表5に示す。いずれの水準も、活性珪酸未配合の比較例4〜6の各ポリビニルアルコール膜よりA960/ A2940の増大が認められ、活性珪酸を配合することによりSi−O−Cの形成が認められた。また、実施例4〜6のハイブリッド物質膜のA1720/ A2940は活性珪酸が配合されていない各ポリビニルアルコール膜より減少することから、活性珪酸とポリビニルアルコール中の酢酸エステル基とが反応していることが示唆される。
【0070】
【表5】

【0071】
<実施例7>
実施例1で調製した活性珪酸水溶液Aとヒドロキシエチル化澱粉B(商品名:Ethylex2025、A.E.Staley社製)を固形分質量比3:7で攪拌混合して固形分濃度6質量%の水溶液を作成し対外は、実施例4〜6と同様の実験を行った。膜体の溶解率は9.6質量%であった。
【0072】
<実施例8>
実施例1で調製した活性珪酸水溶液Bとリン酸エステル化澱粉(商品名:エースP‐340、王子コ−ンスターチ社製)を固形分質量比3:7で攪拌混合して固形分濃度6質量%の水溶液を作成し対外は、実施例4〜6と同様の実験を行った。膜体の溶解率は6.3質量%であった。
【0073】
<実施例9>
実施例1で調製した活性珪酸水溶液Bとリン酸エステル化澱粉(商品名エースP‐260、王子コ−ンスターチ社製)を固形分質量比9:1で攪拌混合して固形分濃度4質量%の水溶液を作成し、内径10cmのポリテトラフルオロエチレン製シャーレに、この水溶液26.3gを層状に展開し、40℃の乾燥機で1日間、更に100℃の乾燥機で1時間乾燥して成膜させた以外は、実施例4〜6と同様の実験を行った。膜体の溶解率は2.6質量%であった。
【0074】
<実施例10>
ヒドロキシエチル化澱粉の代わりに、酸化澱粉(王子エースA、王子コーンスターチ社製)を使用する以外は、実施例7と同様の実験を行った。膜体の溶解率は、37.6質量%であった。
【0075】
<実施例11>
リン酸エステル化澱粉の代わりに、酸化澱粉(王子エースA、王子コーンスターチ社製)を固形分質量比9:1で使用する以外は、実施例8と同様の実験を行った。膜体の溶解率は、11.1質量%であった。
【0076】
<比較例5>
活性珪酸水溶液Bを配合せず、リン酸エステル化澱粉のみの塗料(濃度6質量%)を用いる以外は、実施例8と同様の実験を行った。膜体の溶解率は100質量%であった。
【0077】
<実施例12>
電子供与性発色性染料として、3−ジブチルアミノ−7−(2’−クロロアニリノ)−フルオランを固形分で20質量%、電子受容性顕色性化合物として4−ヒドロキシ−4’−イソプロピルオキシジフェニルスルホンを固形分で10質量%、熱可融性物質としてシュウ酸ジ−p−メチルベンジルエステルを固形分で10質量%、軽質炭酸カルシウム(商品名:ブリリアント15、白石工業社製)を固形分で40質量%、ラテックス接着剤としてSBR(商品名:OX−1060、日本ゼオン社製)を固形分で15質量%、ステッキング防止剤としてステアリン酸亜鉛(商品名:Z−8−36、中京油脂社製)を固形分で5質量%、配合した感熱記録層塗工液を、乾燥後の塗工量7.5g/mになるように塗工して形成された感熱記録層を有する坪量61g/mの紙に、下記オーバーコート層A用塗工液を乾燥後の塗工量が3g/mになるようにメイヤーバーコーターにて感熱記録層上に塗工・乾燥し、王研式平滑度(J.TAPPI No.5)が850秒になるようにスーパーカレンダー処理を行って感熱記録用紙を得た。得られた感熱記録用紙のオーバーコート層上を水で濡れた人差し指にて20回擦ったところ、塗膜の剥がれもなく良好なままであった。
【0078】
(オーバーコート層A用塗工液)
ポリビニルアルコール(商品名:PVA−420H、鹸化度78〜81.5mol%、重合度2000)を固形分で40質量%、クレー(商品名:ハイドログロス90、ヒューバー社製)を固形分で30質量%、シリカ(商品名:ファインシールX−45、トクヤマ社製)を固形分で5質量%、ステアリン酸亜鉛(商品名:Z−8−36、中京油脂社製)を固形分で5質量%、実施例1で調製した活性珪酸水溶液Bを固形分で20質量%配合して攪拌混合し、オーバーコート層A用塗工液とした。
【0079】
<比較例6>
オーバーコート層A用塗工液を下記オーバーコート層B用塗工液に変更する以外は、実施例12と同様な実験を行った。水に濡れた人差し指にて20回擦ったところ、オーバーコート層の塗膜が剥がれた。
【0080】
(オーバーコート層B用塗工液)
ポリビニルアルコール(商品名:PVA−420H、鹸化度78〜81.5mol%、重合度2000)を固形分で40質量%、カオリナイトクレー(商品名:ハイドログロス90、ヒューバー社製)を固形分で50質量%、シリカ(商品名:ファインシールX−45、トクヤマ社製)を固形分で5質量%、ステアリン酸亜鉛(商品名:Z−8−36、中京油脂社製)を固形分で5質量%配合して攪拌混合し、オーバーコート層B用塗工液とした。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の無機有機ハイブリッド体は、それ自体を含有する水溶液や塗料から形成されるシート体や膜体として、また、他の材料に塗膜形成用又は添加成分として適用された場合において、強度の向上、弾性率の向上、剛度の向上、耐摩擦性の向上、熱的安定性の向上、耐薬品性の向上、耐バリア性の向上、延伸性の向上、耐候性の向上等の機能を有するので、新聞用紙、印刷用紙、板紙、インクジェット記録体、感熱記録体、感圧記録体、電子写真記録体、昇華記録体、溶融熱転写記録体等の記録体、剥離紙、キャリアテープ、ろ紙、フィルター、電気絶縁紙、有機繊維紙、無機繊維紙、難燃紙、壁紙、包装紙、耐油紙、耐水紙、板紙、段ボール、偏向板、光学フイルム、包装フイルム等、多様な分野での利用が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩をイオン交換体により脱アルカリ金属処理して活性珪酸水溶液を生成させ、該活性珪酸水溶液を水溶性高分子物質と混合し、混合水溶液から固形分を回収することを特徴とする、活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項2】
前記イオン交換体が水素型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項3】
前記珪酸アルカリ金属塩が珪酸ナトリウム、珪酸リチウム及び珪酸カリウムからなる群より選択される一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項4】
前記珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩濃度が0.5〜15質量%であり、該珪酸アルカリ金属塩を脱アルカリ金属処理して得られる活性珪酸水溶液の活性珪酸濃度が0.05〜12質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子物質が、澱粉類、セルロース類、ポリビニルアルコール類及びポリアクリルアミド類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性高分子物質は、エステル基及び/又はエーテル基を側鎖に有する水溶性高分子物質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項7】
前記エーテル基を側鎖に有する水溶性高分子物質は、アルキレングリコールとエーテル結合してなる水溶性高分子物質であることを特徴とする請求項6記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項8】
前記エステル基を側鎖に有する水溶性高分子物質は、弱酸性乃至塩基性の物質とエステル結合している水溶性高分子物質であることを特徴とする請求項6記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項9】
前記弱酸性乃至塩基性の物質が、酢酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩及び第三リン酸塩から選ばれる一種であることを特徴とする請求項8記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項10】
前記水溶性高分子物質が、リン酸エステル化澱粉、酢酸エステル化澱粉及び酢酸セルロースから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項8又は9に記載の活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項11】
前記無機有機ハイブリッド体中の活性珪酸と水溶性高分子物質の比率が、固形分質量比で50:1〜1:50の範囲であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項12】
前記活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体は、925cm−1〜975cm−1の範囲で赤外吸収スペクトルの吸光度が大きいという特性を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の活性珪酸及び水溶性高分子からなる無機有機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項13】
前記請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法で得られる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体。
【請求項14】
前記請求項13記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料。
【請求項15】
前記水系塗料が、顔料物質、バインダー物質、架橋剤及びその他の層形成用補助薬品類から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項14記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料。
【請求項16】
前記請求項14又は15に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料をシート状基材に塗布し、乾燥してなる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体層を有する積層シート。
【請求項17】
前記請求項14又は15に記載の活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体を含有する水系塗料をシート状基材に塗布及び/又は含浸し、乾燥してなる活性珪酸及び水溶性高分子物質からなる無機有機ハイブリッド体層を有する記録体シート。

【公開番号】特開2007−224266(P2007−224266A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238742(P2006−238742)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】