説明

無機有機複合コーティング組成物の製造方法

【課題】無機性材料の特性と有機性材料の特性とを両立する、水性の無機有機複合コーティング組成物を簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】テトラアルコキシシランの縮合物と、親水性有機溶媒と、水と、触媒とを混合してポリヒドロキシシロキサン溶液を得る工程(1)、および工程(1)で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを混合する工程(2)を含む、無機有機複合コーティング組成物の製造方法であって、工程(1)における水の混合量が、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上であり、有機バインダーが、水性有機バインダーまたは無溶剤型有機バインダーである、無機有機複合コーティング組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機有機複合コーティング組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、無機性材料と有機性材料とを含む、いわゆる、無機有機複合コーティング材料が種々提案されている。このような無機有機複合コーティング材料としては、例えば、無機性材料としてアルコキシシランやその縮合物を含むものが挙げられる。なかでも、ケイ素原子と炭素原子とが結合するように有機基が導入されているアルコキシシランの縮合物を無機性材料として含むものがよく知られている。
【0003】
一方、環境への影響を考慮し、コーティング材料についても水性化することが必要となってきている。上記アルコキシシランの縮合物を含む無機有機複合コーティング材料の場合、有機性材料として水性樹脂を用いることにより、容易にコーティング材料の水性化が可能となる。しかしながら、この場合、無機材料であるアルコキシシランの縮合物は、水中で加水分解して縮合するため、安定なコーティング材料が得られないという問題点を有する。
【0004】
また、アルコキシシラン化合物を水溶媒中で加水分解縮合して得られた水溶性重合体を用いた塗料用水性被覆組成物が知られている(特許文献1)。しかし、ここでアルコキシシラン化合物としてテトラアルコキシシランの縮合物を用いた場合には、目的とする水溶性重合体を得ることができず、その結果、水性被覆組成物も得ることができないという問題点を有する。
【特許文献1】特開2005−206701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、無機性材料の特性と有機性材料の特性とを両立する、水性の無機有機複合コーティング組成物を簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これまで、テトラアルコキシシランの縮合物を実質的に完全に加水分解する方法、および実質的に完全に加水分解したものを無機有機複合コーティング組成物の無機性材料として用いることは知られていなかった。本発明者らは、特定の反応条件を用いることによりテトラアルコキシシランの縮合物を実質的に完全に加水分解し得ること、および、得られた加水分解物が水性有機バインダーと高い相溶性を示し、水性無機有機複合コーティング組成物の無機性材料として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の無機有機複合コーティング組成物の製造方法は、テトラアルコキシシランの縮合物と、親水性有機溶媒と、水と、触媒とを混合してポリヒドロキシシロキサン溶液を得る工程(1)、および工程(1)で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを混合する工程(2)
を含み、工程(1)における水の混合量が、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上であり、有機バインダーが、水性有機バインダーまたは無溶剤型有機バインダーである。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記工程(1)が、テトラアルコキシシランの縮合物と親水性有機溶媒と触媒とを混合する工程(1a)、および工程(1a)で得られた混合液と水とを混合する工程(1b)を含む。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記工程(1)における水の混合量が、上記テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記ポリヒドロキシシロキサンがアルコキシ基を実質的に有さない。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記工程(1)における親水性有機溶媒の混合量が、テトラアルコキシシランの縮合物の質量未満である。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記水性有機バインダーが水分散性樹脂である。
【0013】
本発明の別の局面によれば、無機有機複合コーティング組成物が提供される。この無機有機複合コーティング組成物は上記無機有機複合コーティング組成物の製造方法によって製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンを無機性材料として用いた水性の無機有機複合コーティング組成物の製造方法が提供される。これにより、無機性材料と有機性材料との相溶性が高く、無機性材料の特性と有機性材料の特性とを両立する(膜厚と硬度とのバランスに優れるコーティング膜を形成し得る)、水性の無機有機複合コーティング組成物を簡便に得ることができる。さらに、本発明においては、アルコキシ基の加水分解に使用される所定量を超えた量の水を用いるので、有機性材料として水性有機バインダーを用いる場合に、有機性材料と無機性材料との相溶性をさらに向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[無機有機複合コーティング組成物の製造方法]
本発明の無機有機複合コーティング組成物の製造方法は、テトラアルコキシシランの縮合物と、親水性有機溶媒と、水と、触媒とを混合してポリヒドロキシシロキサン溶液を得る工程(1)、および工程(1)で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを混合する工程(2)を含み、工程(1)における水の混合量が、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上であり、有機バインダーが水性有機バインダーまたは無溶剤型有機バインダーである。以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
≪工程(1)≫
a.テトラアルコキシシランの縮合物
テトラアルコキシシランの縮合物は、テトラアルコキシシランを縮合することにより得られる。上記縮合により得られる縮合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無などの点で、種々の構造を有するものの混合物である。また、市販されているテトラアルコキシシランの縮合物についても、一部原料のテトラアルコキシシランを除いたものがあるものの、基本的には混合物である。このため、テトラアルコキシシランの縮合物は、模式的には下記式(1)によって表されている。なお、下記式(1)は、テトラアルコキシシランの縮合物が分岐や架橋のない直鎖状の縮合体である場合を示している。
【化1】

【0017】
上記式(1)において、nは、2以上であり、2〜50が好ましく、5〜20がより好ましい。nが2以上である場合、適度な量のヒドロキシシリル基が得られるので、目的とするコーティング膜が形成され得る。また、nが50以下である場合、テトラアルコキシシランの縮合物が液体状態を維持し得るため、操作性が良好である。上記nは平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物の縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0018】
上記式(1)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜2の非置換のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解性が向上するので、効率良くポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0019】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0020】
上記アルキル基が有し得る置換基としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、クロル、ブロム等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等のアルコキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基が挙げられる。このような置換基を有する場合には、置換アルキル基の炭素数の合計は1〜6であることが好ましい。また、上記アルキル基は、アルキレンオキサイドユニットを有する化合物で置換されていてもよい。アルキレンオキサイドユニットの種類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられる。
【0021】
したがって、上記テトラアルコキシシランの縮合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、またはテトラ−tert−ブトキシシランの縮合物が挙げられる。なかでも、テトラメトキシシランの縮合物およびテトラエトキシシランの縮合物が好ましく、テトラメトキシシランの縮合物がより好ましい。テトラアルコキシシランの縮合物は、含有するアルキル基が同一であっても、異なっていてもよい。また、本発明においては、テトラアルコキシシランの縮合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記テトラアルコキシシランの縮合物には、モノマーのテトラアルコキシシランが配合されていてもよい。この場合、テトラアルコキシシランの縮合物とモノマーのテトラアルコキシシランとは、含有するアルキル基が同一であってもよく、異なっていてもよい。含有するアルキル基が異なる場合の具体例としては、テトラメトキシシランの縮合物と、モノマーのテトラエトキシシランとを含む場合を挙げることができる。なお、モノマーのテトラアルコキシシランの配合量は、テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0023】
上記テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、代表的には6個以上であり、好ましくは6〜102個であり、より好ましくは12〜42個である。アルコキシ基の数が当該好適範囲にある場合、適度な量のヒドロキシシリル基が得られるので、目的とするコーティング膜が容易に形成され得る。上記のとおり、テトラアルコキシシランの縮合物は、種々の縮合度を有するものを含み得ることから、当該アルコキシ基の数は、それらの平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、上記縮合度から求めることができる。また、上記テトラアルコキシシランの縮合物が置換基を有する場合、その数はアルコキシ基の数の半分以下であることが好ましい。
【0024】
上記テトラアルコキシシランの縮合物は、任意の適切なテトラアルコキシシランを加水分解縮合することにより調製することができる。また、市販製品を用いてもよい。当該市販製品としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートMS56」、「MKCシリケートMS57」、「MKCシリケートMS60」(いずれもテトラメトキシシランの縮合物)、コルコート社製、商品名「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(いずれもテトラエトキシシランの縮合物)が挙げられる。また、含有するアルキル基が異なるテトラアルコキシシランの縮合物の市販製品の例としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS56B15」、「MKCシリケートMS56B30」、「MKCシリケートMS58B15」、「MKCシリケートMS56I30」、「MKCシリケートMS56F20」、コルコート社製、商品名「EMS−485」が挙げられる。
【0025】
b.親水性有機溶媒
親水性有機溶媒としては、上記テトラアルコキシシランの縮合物を、その加水分解反応が進行する程度に溶解し得る限り、任意の適切なものを用いることができる。例えば、アルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、R−O−(CHCH(R)O)−H(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、RはHまたはCHであり、mは1〜3の整数である。)、CH−O−(CHCH(R)O)−CH(式中、RはHまたはCHであり、lは1または2である。)、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられ得る。本発明においては、親水性有機溶媒を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。このような溶解度を有する親水性有機溶媒を用いることにより、該親水性有機溶媒と水と水に対する溶解性が十分でないテトラアルコキシシランの縮合物とを含む系を均一化することができる。その結果、効率的にテトラアルコキシシランの縮合物の加水分解反応を進行させ得る。
【0027】
上記親水性有機溶媒の混合量は、テトラアルコキシシランの縮合物を溶解し得る量以上であればよい。当該混合量は、好ましくはテトラアルコキシシランの縮合物の質量の1倍未満であり、より好ましくは0.7倍以下である。また、当該混合量は、好ましくはテトラアルコキシシランの縮合物の質量の0.2倍以上である。混合量が当該好適範囲にある場合、テトラアルコキシシランの縮合物を十分に溶解し得ると共に、工程(2)においてポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダー、特に水性有機バインダーとの混合が容易となるという利点を有する。
【0028】
c.水
上記水としては、任意の適切なものを用いることができる。例えば、水道水、イオン交換水、および純水が好ましく用いられる。
【0029】
水の混合量は、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である。当該量の水を用いることにより、上記テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解反応を十分に進行させ得る。その結果、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0030】
上記水の混合量は、好ましくはテトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下であり、より好ましくは10倍当量(モル)以下であり、さらに好ましくは5倍当量(モル)以下である。また、上記水の混合量は、好ましくはテトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の2倍当量(モル)を超え、より好ましくは3倍当量(モル)以上である。当該量の水を用いることにより、加水分解反応中におけるテトラアルコキシシランの縮合物またはその加水分解物の析出を防止し得るとともに、得られるポリヒドロキシシロキサンの貯蔵安定性を向上させ得る。
【0031】
d.触媒
触媒としては、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を有するものであれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物;が挙げられる。触媒作用が適度であるので、生成したポリヒドロキシシロキサンの縮合が進行し難いからである。なかでも、アルミニウム触媒が好ましく用いられる。アルミニウム触媒としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
【0032】
上記触媒の使用量としては、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を発揮する量以上であればよい。具体的には、当該使用量は、上記テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0033】
e.混合方法
混合方法としては、任意の適切な方法が用いられる。好ましくは、テトラアルコキシシランの縮合物と、親水性有機溶媒と、触媒とを混合し、次いで、得られた混合液とテトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水とを混合する方法が用いられ得る。このような混合方法を用いることにより、得られる混合液の白濁、沈殿の生成、またはゲル化を有効に防止し得る。すなわち、1つの好ましい実施形態において、工程(1)は、テトラアルコキシシランの縮合物と親水性有機溶媒と触媒とを混合する工程(1a)、および、工程(1a)で得られた混合液と水とを混合する工程(1b)を含む。なお、混合手段としては、任意の適切な手段(ディスパー等)が用いられる。
【0034】
工程(1a)において、混合温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは0〜80℃、さらに好ましくは0〜40℃である。混合時間は、混合温度に応じて任意に設定され得る。好ましくは、テトラアルコキシシランの縮合物および触媒が親水性有機溶媒に溶解するまで混合が行われる。
【0035】
工程(1b)においては、工程(1a)で得られた混合液と水とを混合する。これにより、テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解反応が進行し得ることから、ポリヒドロキシシロキサン溶液が得られ得る。混合方法としては、得られる混合液(ポリヒドロキシシロキサン溶液)の白濁、沈殿の生成等を抑制するために、工程(1a)で得られた混合液中へ水を10分〜4時間程度かけて、少量ずつ添加して混合することが好ましく、滴下によって添加して混合することがより好ましい。水の添加温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは0〜80℃、さらに好ましくは0〜40℃である。工程(1b)では、テトラアルコキシシランの縮合物の加水分解を十分に進めるために、水の添加後にエージングを行うことが好ましい。当該エージング温度は、水の添加温度と同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、一定に保持されてもよく、変動されてもよい。例えば、一定の昇温速度で昇温されてもよく、段階的に昇温されてもよい。エージング時間は、エージング温度等に応じて任意に設定され得る。エージング時間は、一般的には0.5〜10時間、好ましくは1〜8時間、より好ましくは2〜6時間である。エージング温度が0℃未満である場合、またはエージング時間が0.5時間未満である場合は、加水分解反応が進行し難いので、所望しないポリヒドロキシシロキサン(アルコキシ基が残存するポリヒドロキシシロキサン)溶液が得られる場合がある。また、エージング温度が100℃を超える場合、またはエージング時間が10時間を超える場合は、生成したポリヒドロキシシロキサン同士の縮合が進行し易いので、所望しないポリヒドロキシシロキサン(縮合が進んだポリヒドロキシシロキサン)溶液が得られる場合がある。エージング中は、撹拌が行われてもよく、行われなくてもよい。なお、水の添加またはエージング中に副生成物として析出物等が生成する場合、濾過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にしてから使用することができる。
【0036】
上記工程(1b)における混合(水の添加およびエージング)は、混合液中のテトラアルコキシシランの縮合物が有する実質的に全てのアルコキシ基が加水分解されるまで行われることが好ましい。この場合、生成したポリヒドロキシシロキサンが実質的にアルコキシ基を有さない。「実質的に全てのアルコキシ基が加水分解された」ことおよび「ポリヒドロキシシロキサンが実質的にアルコキシ基を有さない」ことは、例えば、核磁気共鳴分析(H−NMR)および/または赤外分光分析(IR)で、アルコキシ基に基づくピークが観察されないことにより確認することができる。アルコキシ基を実質的に有さず、有機材料と組み合わせることが可能であるポリヒドロキシシロキサンは、従来は実用可能な状態で得ることができなかったものであり、本発明によって初めて実用可能な状態で得られるものである。
【0037】
f.ポリヒドロキシシロキサン溶液
上記混合により得られるポリヒドロキシシロキサン溶液中において、ポリヒドロキシシロキサンは、典型的には、特開平9−165450号公報やWO95/17349公報に記載されるテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物が示すような、溶液中での粒子性を有さず、また、3nm以上のミクロドメインを形成することもない。すなわち、均一な溶液としてポリヒドロキシシロキサン溶液が得られ得る。粒子性または3nm以上のミクロドメインの有無は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察やレーザー光散乱測定装置、小角X線散乱装置により確認することができる。
【0038】
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液中においては、ポリヒドロキシシロキサン同士の縮合が実質的に生じないことが好ましい。したがって、1つの好ましい実施形態において、加水分解反応に供したテトラアルコキシシランの縮合物の平均縮合度nと、生成したポリヒドロキシシロキサンの平均縮合度nは、好ましくは1≦n/n≦3の関係を有する。平均縮合度nの上昇を避けるため、上記ポリヒドロキシシロキサン溶液を高い濃度(例えば、固形分濃度:20質量%以上)で長期間保存する場合には、室温以下で保管することが好ましい。なお、ポリヒドロキシシロキサンの平均縮合度は、GPC分析により求めることができる。
【0039】
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液は、ポリヒドロキシシロキサンと、親水性有機溶媒と、水と、触媒と、アルコキシ基が加水分解されて生じたアルコールとを含む。当該溶液中の固形分濃度は、代表的には、約5〜40質量%である。当該溶液に親水性有機溶媒および/または水をさらに添加することにより、固形分濃度を所望の値(例えば、3〜30質量%)に調整することができる。添加される親水性有機溶媒および水としてはそれぞれ、上記b項およびc項で記載したものの中から、後述する有機バインダーの種類に応じて適切に選択され得る。具体的には、水性有機バインダーを用いる場合は水を添加することが好ましい。
【0040】
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液は、代表的には、該溶液単独でコーティング膜を形成することができないか、または、形成するとしてもそのコーティング膜の膜厚は0.5μm以下である。このように、単独では十分な膜厚のコーティング膜を形成し難いポリヒドロキシシロキサン溶液を、後述する有機バインダーと共に使用することにより、例えば、膜厚が1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であるコーティング膜を形成することができる。なお、本明細書において、「コーティング膜を形成する」とは、特に記載がない限り、所定のバーコーターでブリキ板に塗装し、100℃で10分乾燥したときに、5cm×5cm以上の連続膜を形成することをいう。
【0041】
上記ポリヒドロキシシロキサン溶液は、種々の有機性材料との相溶性に優れる。そのため、本発明によって得られる無機有機複合コーティング組成物は、無機性材料の特性と有機性材料の特性とを共に発揮し、膜厚と硬度とのバランスに優れ、さらには透明性に優れたコーティング膜を形成し得る。また、本発明の製造方法においては、所定量以上の水を用いることから、得られたポリヒドロキシシロキサン溶液における親水性有機溶媒の量が比較的少ない。そのため、工程(2)においてポリヒドロキシシロキサン溶液と水性有機バインダーとを混合する際にバインダーの析出が有効に抑制され得る。その結果、容易に水性の無機有機複合コーティング組成物を得ることができるという効果が奏される。
【0042】
≪工程(2)≫
g.有機バインダー
有機バインダーとしては、水性有機バインダー、または無溶剤型有機バインダーが用いられる。これらの有機バインダーは、得られる無機有機複合コーティング組成物の低VOC化に有利に働くとともに、上記ポリヒドロキシシロキサン溶液との相溶性に優れるという利点を有するからである。上記水性または無溶剤型有機バインダーは、ポリヒドロキシシロキサンとの反応点(例えば、アルコキシシリル基、ヒドロキシシリル基、ヒドロキシ基)を有していてもよく、有していなくてもよい。また、重合性二重結合またはエポキシ基を含んでもよい。
【0043】
上記水性有機バインダーは、例えば、水分散性樹脂または水溶性樹脂であり得る。当該水分散性樹脂として、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂等を挙げることができる。これらは好ましくは水分散性付与基を有するものである。水分散性付与基としては、アミノ基等のカチオン性基;カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等のアニオン性基;ポリエーテル基等のノニオン性基が挙げられる。
【0044】
上記水分散性樹脂のなかでも、耐久性、光沢、コスト、樹脂設計の自由度等に優れることから、アクリル系樹脂が好ましく用いられる。アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体が用いられ得る。
【0045】
上記アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブロビル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリル等のニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を挙げることができる。上記単量体を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル等を挙げることができる。上記単量体を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
上記水分散性樹脂の体積平均粒子径は、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは20〜500nmであり、さらに好ましくは50〜200nmである。水分散性樹脂の体積平均粒子径は、レーザー光散乱法等によって測定することができる。
【0048】
上記水分散性樹脂は、任意の適切な調製方法によって調製される。代表的な調製方法としては、乳化重合および後乳化が挙げられる。乳化重合により調製する場合には、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等の方法に加えて、平均粒子径5〜500nmのミニエマルション重合法を用いることも可能である。重合に用いる乳化剤および重合開始剤としては、任意の適切なものを用いることができる。
【0049】
後乳化により調製する場合には、任意の適切な有機溶媒中で溶液重合した水分散性付与基(例えば、アミノ基等のカチオン性基;カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等のアニオン性基)を有する樹脂に、水及び中和剤を加えて混合攪拌すればよい。
【0050】
有機バインダーが上記乳化重合によって調製された水分散性樹脂である場合、得られる無機有機複合コーティング組成物においては、ポリヒドロキシシロキサン溶液中に水分散性樹脂が分散した状態となる。このような状態の無機有機複合コーティング組成物をコーティングすることにより、有機バインダーから形成された部分がポリヒドロキシシロキサンから形成された部分により隔てられているコーティング膜が得られる。1つの実施形態においては、ポリヒドロキシシロキサンから形成された無機マトリックス中に有機バインダーから形成された部分(有機部分)が分散した、いわゆる海‐島構造を有するコーティング膜が得られる。当該コーティング膜から有機部分を除去することにより、多孔質かつ硬質の、いわゆる蜂の巣状無機コーティング膜が得られる。なお、有機部分の除去方法としては、任意の適切な方法(例えば、溶媒抽出、プラズマ照射)が採用され得る。
【0051】
上記水溶性樹脂としては、例えば、親水性基(例えば、アミド基)を有し、樹脂自体が水溶性であるアクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド化合物が好ましい。また、上記水分散性樹脂において、水分散性付与基(カチオン性基およびアニオン性基)の量を増加させ、これを中和することにより、水溶性を付与し、水溶性樹脂として用いることができる。
【0052】
上記水溶性樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0053】
上記水溶性樹脂の硬化前の数平均分子量(Mn)は、好ましくは200〜200,000である。数平均分子量(Mn)が200未満である場合、加熱硬化時の揮散、塗膜の硬度の低下、塗料の硬化性の低下によって塗膜の耐溶剤性、耐水性や耐候性が低下する場合がある。上記数平均分子量(Mn)が200,000を超える場合、有機バインダー自体の粘度が高くなり、塗布する際の希釈された塗料中の溶媒の含有量が多量になる場合がある。なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0054】
上記水性有機バインダーとしては、市販の水分散性樹脂または水溶性樹脂を用いることができる。このような市販品としては、三井化学ポリウレタン社製 商品名「タケラック W−635」、EMS−PRIMD社製 商品名「PRIMD XL−552」、Bayer MaterialScience AG社製 商品名「バイヒドロールXP2470」等が挙げられる。
【0055】
上記無溶剤型有機バインダーとしては、ポリヒドロキシシロキサン溶液に可溶なものであるか、またはポリヒドロキシシロキサン溶液に分散させることができるものであれば任意の適切なものを用いることができる。好ましい無溶剤型有機バインダーとしては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。無溶剤型有機バインダーである上記樹脂の硬化前の数平均分子量(Mn)は、上記と同様の理由から、好ましくは200〜5,000、より好ましくは250〜3,000である。
【0056】
上記有機バインダーは、必要に応じて硬化剤を含み得る。当該硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート、エポキシ樹脂等が挙げられる。当該硬化剤の含有量は、目的に応じて適宜設定され得る。当該硬化剤の含有量は、通常、無機有機複合コーティング組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部である。
【0057】
有機バインダーが重合性二重結合またはエポキシ基を含む場合、該有機バインダーは、好ましくは光硬化開始剤をさらに含む。当該光硬化開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインおよびベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,N,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールのようなケタール類;ベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類またはキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。光硬化開始剤の含有量は、重合性二重結合またはエポキシ基を含む樹脂の固形分100質量部に対して、一般的には、0.1〜30質量部、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0058】
上記有機バインダーは、代表的には、所定のバーコーターでブリキ板に塗装し、100℃で10分乾燥したときに、該バインダー単独でコーティング膜を形成することができないか、形成するとしても、乾燥膜厚5μmでの硬度(鉛筆硬度)は、B以下である。このように、単独では十分な硬度を有するコーティング膜を形成し難い有機バインダーを、上記ポリヒドロキシシロキサン溶液と共に使用することにより、硬度(鉛筆硬度)が好ましくはHB以上、より好ましくはF以上であるコーティング膜を形成することができる。
【0059】
h.その他の成分
工程(2)においては、無機有機複合コーティング組成物の成分として、さらに任意の適切な他の成分を混合し得る。当該他の成分としては、例えば、アルコキシ基を有するシリコーン化合物、顔料、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0060】
上記のとおり、有機バインダーが重合性二重結合またはエポキシ基を含む場合、アルコキシ基を有するシリコーン化合物を併用することにより、得られるコーティング膜の架橋密度を高めることができる。その結果、より緻密なコーティング膜が形成され得る。
【0061】
i.混合方法
混合方法としては、任意の適切な方法が用いられる。例えば、上記ポリヒドロキシシロキサン溶液、有機バインダー等の配合成分をディスパー等の当業者によく知られた攪拌手段を用いて混合する等の方法が挙げられる。
【0062】
(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液と(B)有機バインダーとの配合比[(A)/(B):固形分(質量)]は、好ましくは1/9〜9/1であり、より好ましくは2/8〜8/2、さらに好ましくは3/7〜7/3である。1/9以上の配合比[(A)/(B):固形分(質量)]で(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液と(B)有機バインダーとを含むことにより、無機有機複合コーティング組成物は、十分な硬度を有するコーティング膜を形成することができる。また、9/1以下の配合比[(A)/(B):固形分(質量)]で(A)ポリヒドロキシシロキサン溶液と(B)有機バインダーとを含むことにより、無機有機複合コーティング組成物は、十分な膜厚を有するコーティング膜を形成することができる。
【0063】
[無機有機複合コーティング組成物]
上記製造方法によって得られる無機有機複合コーティング組成物は、通常、被塗装物に対し、任意の適切な方法で塗布してコーティング膜を形成するのに用いられる。当該塗布方法としては、例えば、バーコーター法、スプレー法等が挙げられる。無機有機複合コーティング組成物は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上の膜厚のコーティング膜を形成し得る。コーティング膜の膜厚は、用途等に応じて任意の適切な値に設定され得る。
【0064】
さらに、得られたコーティング膜は加熱硬化させてもよい。加熱硬化させることで、コーティング膜の物性および諸性能が向上し得る。加熱温度は、無機有機複合コーティング組成物の種類に応じて適宜設定し得る。一般的には40〜180℃に設定されていることが好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定し得る。
【0065】
上記有機バインダーが重合性二重結合またはエポキシ基を含むものである場合、無機有機複合コーティング組成物から得られるコーティング膜を、熱硬化に加えてさらにエネルギー線硬化(例えば、電子線硬化、紫外線硬化、光硬化)させてもよい。熱硬化とエネルギー線硬化の二重硬化により、架橋密度が向上され、無機性材料と有機性材料とが均質化した緻密なコーティング膜が形成され得る。二重硬化されたコーティング膜の硬度(鉛筆硬度)は、例えば、F以上であり、好ましくはH以上である。エネルギー線硬化条件は、無機有機複合コーティング組成物の種類に応じて適宜設定し得る。例えば、照射光量が好ましくは0.1〜5J/cm、より好ましくは0.1〜3J/cmとなるよう紫外線を照射すればよい。
【0066】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0067】
実施例で行った各測定の測定条件を以下に示す。
<アルコキシ基の有無の確認>
IR分析:アルコキシ基のC−H伸縮に基づくピーク(SiOMeの場合は2846〜2849cm−1付近)を観察した。
H−NMR分析:アルコキシ基が有する水素に基づくシグナル(SiOMeの場合は3.51〜3.65ppm付近)を観察した。
上記アルコキシ基に基づくピークまたはシグナルが認められない場合は「無」と評価し、認められる場合は「有」と評価した。
【0068】
<平均縮合度の測定>
テトラアルコキシシランの縮合物の平均縮合度nは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)分析によって得た分子量(ポリスチレン換算)から、分子に分岐がないものとして算出した。GPC分析は、以下の装置、器具および測定条件により行った。
・分析装置: 東ソー社製 HLC−8220
・溶離液: クロロホルム
・流量: 0.6mL/分
・検出器: RI
・カラム温度: 40℃
・注入量: 20μL
【0069】
ポリヒドロキシシロキサンの平均縮合度nは、GPC分析によって得た分子量(ポリエチレングリコール換算)から、分子に分岐がないものとして算出した。GPC分析は、以下の装置、器具および測定条件により行った。
・分析装置: 東ソー社製 HLC−8220
・溶離液: 10mM 臭化リチウム含有メタノール
・流量: 0.6mL/分
・検出器: RI
・カラム温度: 40℃
・注入量: 20μL
【0070】
<固形分濃度の測定>
試料(約1g)の重量を測定後、該試料を140℃オーブンにて10分間乾燥させた。次いで、乾燥後の試料の重量を測定した。乾燥後の試料の重量を乾燥前の試料の重量で除して100を乗じた値を固形分濃度(%)とした。
【0071】
<コーティング膜の膜厚の測定>
ブリキ板上のコーティング膜の膜厚は、電磁膜厚計(ケット科学研究所社製、LE−300J)を用いて測定した。PETフィルム、ガラス板上のコーティング膜の膜厚は、クーラントプルーフマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。非磁性金属上のコーティング膜の膜厚は、渦電流膜厚計(ケット科学研究所社製、LH−300J)を用いて測定した。
【0072】
<コーティング膜の硬度(鉛筆硬度)の測定>
JIS−K−5600−5−4に準拠して測定した。
【0073】
[調製例1〜33]
表1〜3に記載のとおり、テトラアルコキシシランの縮合物(a−1)と、親水性有機溶媒(a−2)と、水(a−3)と、触媒(a−4)とを混合し、反応させることにより、ポリヒドロキシシロキサン溶液1〜33を得た。なお、表1〜3中における混合条件1〜6はそれぞれ、以下のとおりである。
【0074】
<混合条件1>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、40℃で混合した。得られた混合物を40℃で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を2時間かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を40℃で2時間撹拌した。
【0075】
<混合条件2>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、室温(約20℃)で混合した。得られた混合物を室温で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を10分かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を室温で1時間撹拌した後、40℃に昇温して3時間撹拌した。
【0076】
<混合条件3>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、20℃で混合した。得られた混合物を20℃で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を20分かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を室温で40分撹拌した後、40℃に昇温して3時間撹拌した。
【0077】
<混合条件4>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、40℃で混合した。得られた混合物を40℃で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を4時間かけて滴下した。
【0078】
<混合条件5>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、40℃で混合した。得られた混合物を40℃で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を4時間かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を40℃で8時間撹拌した。
【0079】
<混合条件6>
反応容器中にテトラアルコキシシランの縮合物、触媒、および、親水性有機溶媒を添加し、20℃で混合した。得られた混合物を20℃で撹拌しながら、さらに該反応容器に水を20分かけて滴下した。滴下終了後、得られた混合物を室温で40分撹拌した後、80℃に昇温して3時間撹拌した。
【0080】
調製例1〜33で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液1〜33をTEM観察したところ、ポリヒドロキシシロキサン溶液33では、平均粒子径で約5nmの微粒子が観察された。他のポリヒドロキシシロキサン溶液1〜32についてはいずれも、粒子および3nm以上のミクロドメインの形成が認められなかった。さらに、該ポリヒドロキシシロキサン溶液1〜33について、外観(目視)、アルコキシ基の有無、平均縮合度比(n/n)、固形分濃度を調べた。結果を表1〜3にまとめて示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
[調製例a]
(有機バインダー(a)の調製)
N,N’-ジ(β−ヒドロキシエチル)コハク酸アミド(EMS−PRIMD社製 商品名「PRIMD XL−552」) 0.5部をイオン交換水 0.5部に溶解して得た水溶液を有機バインダー(a)(数平均分子量320)とした。
【0085】
[調製例b]
(有機バインダー(b)の調製)
水分散性樹脂であるアクリルエマルション(メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート/アクリル酸=50/49/1(固形分質量比)、平均粒子径:100nm、pH:9.0、中和剤:アンモニア水)を有機バインダー(b)とした。
【0086】
[調製例c]
(有機バインダー(c)の調製)
ノニオン性ポリウレタン水分散液(三井化学ポリウレタン社製 商品名「タケラック W−635」 固形分:35.8%) 14.0部にイオン交換水 2.7部を加えることにより、固形分を30%に調整したポリウレタン水分散液を有機バインダー(c)とした。
【0087】
[調製例d]
(有機バインダー(d)の調製)
ヘキサメチレンジイソシアネート 500部に3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドを触媒量添加し、窒素気流下170℃で4時間加熱撹拌した。次いで、イソシアネート価から算出したカルボジイミド価が約2.8になったところで、当該反応液を80℃まで冷却し、トルエンを加えて固形分を50%に調整した。これにより、NCO含有量(%)が10.16%であり、粘度(20℃)が30cpである淡黄色溶液を得た。コルベンに当該淡黄色溶液 500部を加え、さらに氷冷下でジ−n−ブチルアミン 78部とキシレン 78部との混合液を約30分かけて滴下した。得られた混合液を室温で1時間撹拌することにより、粘度(25℃)が73cpである淡黄色溶液(以後、「CDI−1」と称することがある。)を得た。
【0088】
1L容の容器にCDI−1 260部と、スチレン 130部と、n−ブチルアクリレート 130部とを添加し、よく混合することにより、均一なモノマー混合液を得た。3L容の反応容器に、イオン交換水 130部と乳化剤(花王社製 商品名「PD−104」) 78部とを添加し、混合することにより、均一溶液とした。次いで、当該均一溶液を氷冷し、ホモジナイザー(プライミックス(株)製)で撹拌しながら、上記モノマー混合液を一度に投入した。得られた混合液に、少量のイオン交換水を加えながらプレエマルションの平均粒子径が300nmになるまで撹拌した。ホモジナイザーをイオン交換水で洗浄し、洗浄液は混合液に加えた。これにより、CDI−1と、スチレンと、n−ブチルアクリレートとの合計濃度が50%に調整されたプレエマルションを得た。
【0089】
開始剤(過硫酸アンモニウム) 0.6部をイオン交換水 50部に溶解することにより開始剤水溶液を得た。1L容の反応容器に、イオン交換水 154部を入れ、80℃で撹拌しながらプレエマルション 760部および開始剤水溶液 50.6部をそれぞれ3時間かけて滴下した。次いで、滴下後のプレエマルション滴下装置をイオン交換水 30部で洗浄し、生じた洗浄液を反応溶液に加えた。当該反応溶液を80℃でさらに2時間撹拌した後、40℃まで冷却し、200メッシュの篩でろ過した。これにより得たカルボジイミド化合物内包アクリルミニエマルション(平均粒子径:209nm pH:4.9)を、有機バインダー(d)とした。
【0090】
[調製例e]
(有機バインダー(e)の調製)
アクリルポリオール(Bayer MaterialScience AG社製 商品名「バイヒドロールXP2470」 固形分:45%)を有機バインダー(e)とした。
【0091】
[調製例f]
(有機バインダー(f)の調製)
アクリルポリオール(Bayer MaterialScience AG社製 商品名「バイヒドロールXP2470」 固形分:45%) 1.28部とノニオン性ポリイソシアネート(三井化学ポリウレタン(株)製 商品名「タケネートWD−725」) 0.43部とを混合することにより、有機バインダー(f)を得た。
【0092】
[調製例g]
(有機バインダー(g)の調製)
エポキシ基含有の水分散性樹脂であるアクリルエマルション(グリシジルメタクリレート/n−ブチルアクリレート/エチルヘキシルメタクリレート=50/23/27(固形分質量比)、平均粒子径:400nm、pH:3.0、中和なし)を有機バインダー(g)とした。
【0093】
[調製例h]
(有機バインダー(h)の調製)
水分散性樹脂であるアクリルエマルション(メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレート/アクリル酸=50/49/1(固形分比)、平均粒子径:100nm、pH:3.0、中和なし)を有機バインダー(h)とした。
【0094】
[調製例i]
(有機バインダー(i)の調製)
重合性二重結合含有ポリエステル型ウレタン樹脂を、ノニオン性界面活性剤を用いて分散させた水分散性樹脂(第一工業製薬(株)製 商品名「スーパーフレックスR−5002」) 100部と、ベンジルジメチルケタール 4部とを混合することにより、有機バインダー(i)を得た。
【0095】
上記調製例a〜i記載の有機バインダー(a)〜(i)の固形分濃度および該有機バインダー単独で形成した乾燥膜厚5μmでのコーティング膜の鉛筆硬度を表4にまとめて示す。
【表4】

【0096】
[実施例1〜26]
上記で得たポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを表5に記載の配合比でよく混合することにより、無機有機複合コーティング組成物を得た。次いで、得られた無機有機複合コーティング組成物を表5に記載の塗装条件でコーティングすることにより、無機有機複合コーティング膜を得た。得られた無機有機複合コーティング膜について、外観(目視)、鉛筆硬度、および乾燥膜厚を調べた。結果を表6に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
[比較例1]
上記で得たポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを表5に記載の配合比でよく混合することにより、無機有機複合コーティング組成物を得た。次いで、得られた無機有機複合コーティング組成物を表5に記載の塗装条件でコーティングすることにより、無機有機複合コーティング膜を得た。得られた無機有機複合コーティング膜は白濁していた。また、コーティングから7日後にはクラックが発生した。
【0100】
[比較例2]
ポリメトキシシロキサン(三菱化学社製 商品名「MS51」 テトラメトキシシランの縮合物(平均縮合度:5) SiO含有量:51%)と有機バインダーとを表5に記載の配合比でよく混合することにより、白色の無機有機複合コーティング組成物を得た。次いで、得られた無機有機複合コーティング組成物を表5に記載の塗装条件でコーティングすることにより、無機有機複合コーティング膜を得た。得られた無機有機複合コーティング膜は白濁していた。
【0101】
[比較例3]
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.3部をイオン交換水 80部に溶解して得た溶液に、ポリメトキシシロキサン(三菱化学社製 商品名「MS51」 テトラメトキシシランの縮合物(平均縮合度:5) SiO含有量:51%) 29部を加えて、室温で4時間撹拌したところ、混合液は白濁し、室温にて放置したところ、ゲル化した。その結果、本発明の無機有機複合コーティング組成物の無機性材料として使用し得るポリヒドロキシシロキサンを得ることはできなかった。
【0102】
[比較例4]
調製例23で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液23を♯8バーコーターでPETフィルム(東洋紡績社製 商品名「コスモシャインA4100」)に塗装し、80℃で1分乾燥した。次いで、当該PETフィルムの断面をTEMで観察したところ、コーティング膜の厚みは300nmであった。また、当該ポリヒドロキシシロキサン溶液23を♯20バーコーターでブリキ板に塗装し、100℃で10分乾燥したところ、塗装層は小細片になってブリキ板から剥がれてしまい、コーティング膜が得られなかった。
【0103】
[比較例5]
調製例13で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液13を♯8バーコーターでPETフィルム(東洋紡績社製 商品名「コスモシャインA4100」)に塗装し、80℃で1分乾燥した。次いで、当該PETフィルムの断面をTEMで観察したところ、コーティング膜の厚みは200nmであった。また、当該ポリヒドロキシシロキサン溶液13を♯20バーコーターでブリキ板に塗装し、100℃で10分乾燥したところ、塗装層は小細片になってブリキ板から剥がれてしまい、コーティング膜が得られなかった。
【0104】
本発明において無機性材料として使用されるポリヒドロキシシロキサンは、該溶液単独では十分な膜厚を有するコーティング膜を形成することができない(比較例4および5参照)。また、表4に示されるとおり、本発明において有機性材料として使用される有機バインダーは、該バインダー単独では膜厚と硬度とのバランスに優れたコーティング膜を形成し難い。しかし、該ポリヒドロキシシロキサンと該有機バインダーとを組み合わせて使用することにより、膜厚と硬度とのバランスにより優れたコーティング膜を形成することができる(表6参照)。さらに、本発明の製造方法においては、所定量以上の水を用いるので、ポリヒドロキシシロキサン溶液と水性有機バインダーとの相溶性が優れる。その結果、得られる水性の無機有機複合コーティング組成物は、透明性に優れたコーティング膜を形成し得る。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の無機有機複合コーティング組成物は、無機性材料の特性と有機性材料の特性とを両立することから、塗料の分野で好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランの縮合物と、親水性有機溶媒と、水と、触媒とを混合してポリヒドロキシシロキサン溶液を得る工程(1)、および
工程(1)で得られたポリヒドロキシシロキサン溶液と有機バインダーとを混合する工程(2)
を含む、無機有機複合コーティング組成物の製造方法であって、
工程(1)における水の混合量が、テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上であり、
有機バインダーが、水性有機バインダーまたは無溶剤型有機バインダーである、無機有機複合コーティング組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)が、
テトラアルコキシシランの縮合物と親水性有機溶媒と触媒とを混合する工程(1a)、および
工程(1a)で得られた混合液と水とを混合する工程(1b)
を含む、請求項1記載の無機有機複合コーティング組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)における水の混合量が、前記テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下である、請求項1または2記載の無機有機複合コーティング組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシシロキサンがアルコキシ基を実質的に有さない、請求項1〜3いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)における親水性有機溶媒の混合量が、テトラアルコキシシランの縮合物の質量未満である、請求項1〜4いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物の製造方法。
【請求項6】
前記水性有機バインダーが水分散性樹脂である、請求項1〜5いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の無機有機複合コーティング組成物の製造方法によって製造される、無機有機複合コーティング組成物。


【公開番号】特開2009−1750(P2009−1750A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166336(P2007−166336)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】