説明

無機材料中の微量Sbの定量方法

【課題】ニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタンの金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料中の微量Sbを、煩雑な前処理を行うことなく迅速かつ高感度に定量する方法を提供する。
【解決手段】無機材料中の微量Sbの定量方法はニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタンの金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料を分解容器に秤量した後、塩酸およびフッ化水素酸を加えて試料を分解後、得られた溶液中のSbを、化学修飾剤を添加しファーネス原子吸光法によって測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタン等のIV属、V属に属する金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料中の微量Sbを、煩雑な前処理を行うことなく迅速かつ高感度に定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウム等のIV属、V属に属する金属や金属間化合物は、電気的、機械的に特異性を有することから、最近では半導体分野で有用されている。特にタンタルを用いたコンデンサーは、緻密な誘電層の形成が可能なことから、小型で高容量、低漏電流、高周波数特性を実現し、携帯電話に多用されているのが現状である。
【0003】
一方、半導体材料として用いられる材料の重要な特性としては、特に含有される不純物濃度が挙げられる。アルカリ金属、遷移金属等は、漏電流や素子劣化等の半導体素子として致命的とも言える電気的不具合を引き起こす原因となる。したがって、これら金属あるいは金属間化合物中の不純物元素濃度を把握することは極めて重要であり、迅速かつ高感度に定量する方法の開発が望まれている。
【0004】
これら金属あるいは金属間化合物の不純物分析方法としては、硝酸とフッ化水素酸で試料を加熱、分解した後、イオン交換法、溶媒抽出法等で主成分から測定の対象となる微量不純物元素を分離し、誘導結合プラズマ発光分光分析法や誘導結合プラズマ質量分析法、原子吸光法等で分離した不純物元素濃度を測定する方法が挙げられる。
【0005】
携帯電話に多用されているタンタル中の不純物元素濃度の定量方法としては、陰イオン交換分離法が実用されている(非特許文献1)。しかし、これらの方法では試料溶液の調製が著しく煩雑であり、定量に時間がかかる。また、毒物であるフッ化水素酸を多量使用するといった問題もある。また、これらの方法はSbの分析には適用できない。
【0006】
発明者らは、これらの問題を解決する方法として、ニオブやタンタル、ジルコニウム、チタンのフッ化物、塩化物が比較的低温で昇華、あるいは蒸発する性質を有することに着目し、これら金属の単体、合金あるいはこれら金属からなる化合物を塩酸とフッ化水素酸で分解し、ファーネス原子吸光法によって直接測定することにより、主成分の分離を迅速かつ容易に行える、無機材料中の不純物元素の定量方法を提案している。しかし、この方法をもってしても塩化物およびフッ化物の沸点が低いSbは、灰化時にマトリックスと同時に気化してしまうため定量が困難であった。
【非特許文献1】JIS H1699 タンタルのICP発光分光分析方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタン等のIV属またはV属の金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料中の微量Sbを、煩雑な前処理を行うことなく迅速かつ高感度に定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタン等のIV属またはV属の金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料を分解容器に秤量した後、塩酸およびフッ化水素酸を加えて試料を加熱あるいは加圧酸分解法、マイクロ波分解法によって分解後、得られた溶液中の微量Sbを、化学修飾剤を添加し原子吸光法によって測定することを特徴とする無機材料中の微量Sbの定量方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタン等のIV属またはV属の金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料中の微量Sbを、少量の有害薬品の使用で迅速かつ高感度に定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ファーネス原子吸光法は、黒鉛炉に試料溶液を注入後、電気的に加熱して試料溶液を乾燥、灰化および原子化し、測定の対象となる元素の吸光度からその濃度を測定するものである。この方法の大きな特徴は、試料溶液を黒鉛炉内で段階的に加熱するところにある。その他の原子光吸法にはフレーム原子光吸法があるが、ファーネス原子光吸法の方がフレーム原子光吸法に比べて炉内での分離等が可能である点で優れている。
【0011】
そこで、化学修飾剤を添加し、Sbと安定な錯体を生成し、灰化時のSbの気化を抑制することにより、無機材料中の微量Sbの定量ができると考え本発明に至った。
【0012】
本発明による無機材料中の微量不純物の定量方法をより詳細に述べると以下のようになる。
【0013】
試料は、塊状あるいは粉末状の何れでも問題ない。試料約0.5gをポリ四フッ化エチレン樹脂製容器に秤量し、塩酸およびフッ化水素酸を添加する。この際、フッ化水素酸の使用量は6ml程度である。イオン交換法等では、イオン交換樹脂の分離条件の調整等で数百mlものフッ化水素酸を用いることもあるが、本発明では少量の酸の使用で定量が可能となる。
【0014】
次に、ホットプレート等で穏やかに加熱して試料を分解するが、焼結体等の分解が困難な試料の場合は、酸を添加した後にポリ四フッ化エチレン樹脂製容器を密閉し、さらにその容器を耐圧製のステンレス製容器あるいはセラミック製容器に収め、電気炉等で加熱する加圧酸分解法を用いると良い。その際、より高温で加熱することで分解時間の短縮が図れるが、ポリ四フッ化エチレン製容器が変形しない230〜250°C程度が好ましい。
【0015】
また、電気炉で加熱する変わりに、マイクロ波を照射して分解するマイクロ波分解法も有効である。使用する装置によってその効果は異なるが、1400W程度の出力でマイクロ波を照射し、溶液を240°C程度まで加熱して分解する。
【0016】
以上の方法で試料を分解、溶液化した後、水を加えて溶液量を一定の容量に合わせ試料溶液とし、これを適宜希釈した後、化学修飾剤を添加し、ファーネス原子吸光法で溶液中のSb農度を測定する。測定の際添加する化学修飾剤としては、酒石酸が好ましい。測定の際の乾燥温度は90〜120°Cが好ましく、黒鉛炉内に注入する試料溶液が多い場合は、90°C程度で60〜120秒程度加熱して溶媒を除去してからさらに昇温する。雰囲気ガスはアルゴンや窒素で問題なく特に制約はない。
【0017】
灰化温度は、揮発分離する元素によって異なるが、800〜1000°C程度が好ましい。注入した試料溶液量によっても異なるが、約60〜120秒程度の灰化によって主成分のほとんどを分離することが可能である。原子化温度は、2700〜2800°Cの範囲で十分な感度を得ることができる。
以上の方法によって、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、チタンの金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料中のSbを、少量の有害薬品の使用で迅速かつ高感度に定量することが可能である。
【実施例】
【0018】
本発明により、各種試料中のSbの定量を行った。以下、実施例に基づき本発明を説明する。
(実施例1)
酸化ニオブ試料A、Bの0.5gをそれぞれポリ四フッ化エチレン製容器に秤取り、12mol/リットル塩酸8mlおよび27mol/リットルフッ化水素酸6mlを加えて加熱、分解した。放冷後、分解した溶液をポリプロピレン製容器に移し入れ、水を加えて容量を20mlに合わせこれを試料溶液とした。測定波長および乾燥、灰化、原子化の温度、時間は表1の通りとし、ファーネス原子吸光装置(Varian製SpectrAA−30/GTA−96)を用いて測定を行った。この際、試料溶液の注入量は10μlとし、雰囲気ガスは流量3.0リットル/minのArとした。化学修飾剤として10wt%酒石酸を5μl添加した。また、D2ランプによるバックグラウンド補正を行った。
【0019】
【表1】

【0020】
定量結果を表2に示す。分析値の確かさを確認するため、標準溶液を添加し、同様の操作で試料溶液を調製して添加回収率を測定した。その結果、添加回収率はSb(III)で104%、Sb(V)で102%であった。
【0021】
【表2】

【0022】
(実施例2)
試料に酸化チタンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で定量を行った。その結果、表3に示す結果が得られた。また、実施例1と同様にして求めた添加回収率は97%と102%であった。
【0023】
【表3】

【0024】
(実施例3)
試料に酸化タンタルを用いた以外は、実施例1と同様の方法で定量を行った。その結果、表4に示す結果が得られた。また、実施例1と同様にして求めた添加回収率は98%と103%であった。
【0025】
【表4】

【0026】
(実施例4)
金属ジルコニウム試料A、Bの0.5gをそれぞれ密閉可能なポリ四フッ化エチレン樹脂製容器に秤取り、12mol/リットル塩酸8mlおよび27mol/リットルフッ化水素酸6mlを加えて密閉した。これを耐圧性ステンレス製容器内に収め、温度を230°Cに設定した乾燥器内で約3時間加熱して試料を分解した。放冷後、分解した溶液をポリプロピレン製容器に移し入れ、水を加えて容量を20mlに合わせこれを試料溶液とした。次に実施例1と同様にして定量を行った結果、表5に示す結果が得られた。また、実施例1と同様にして求めた添加回収率は101%と103%であった。
【0027】
【表5】

【0028】
(実施例5)
金属ジルコニウム試料A、Bの0.5gをそれぞれ密閉可能なポリ四フッ化エチレン樹脂製容器に秤取り、12mol/リットル塩酸8mlおよび27mol/リットルフッ化水素酸6mlを加えて密閉した。これを耐圧性セラミックス製容器内に収め、出力1400W、昇温時間20分、保持時間2時間、冷却時間20分に設定したマイクロ波試料分解装置(Anton Paar社製Multiwave3000)を用いて試料を分解した。放冷後、分解した溶液をポリプロピレン製容器に移し入れ、水を加えて容量を20mlに合わせこれを試料溶液とした。次に実施例1と同様にして定量を行った結果、実施例4と同様の結果が得られた。
(実施例6)
試料に酸化ジルコニウムと酸化チタンの複合酸化物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で定量を行った。その結果、表6に示す結果が得られた。また、実施例1と同様にして求めた添加回収率は104%と101%であった。
【0029】
【表6】

【0030】
(実施例7)
試料に酸化タンタルと酸化ニオブの複合酸化物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で定量を行った。その結果、表7に示す結果が得られた。また、実施例1と同様にして求めた添加回収率は99%と103%であった。
【0031】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
IV属、V属に属する金属単体、金属合金あるいはこれら金属の化合物からなる試料を分解容器に秤量した後、塩酸およびフッ化水素酸を加えて試料を分解後、得られた溶液中のSbを、化学修飾剤を添加し原子吸光法によって測定することを特徴とする無機材料中の微量Sbの定量方法。
【請求項2】
前記IV属、V属に属する金属がニオブ、タンタル、ジルコニウムまたはチタンであることを特徴とする請求項1記載の無機材料中の微量Sbの定量方法。
【請求項3】
前記原子光吸法がファーネス原子吸光法であることを特徴とする請求項1記載の無機材料中の微量Sbの定量方法。
【請求項4】
試料の分解を塩酸およびフッ化水素酸を加えた後、加圧酸分解法、マイクロ波分解法によって行うことを特徴とする請求項1記載の無機材料中の微量Sbの定量方法。
【請求項5】
前記化学修飾剤がSbと安定な錯体を生成する材料であることを特徴とする請求項1記載の無機材料中の微量Sbの定量方法。
【請求項6】
前記化学修飾剤として酒石酸を添加することを特徴とする請求項1記載の無機材料中の微量Sbの定量方法。

【公開番号】特開2006−145453(P2006−145453A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338496(P2004−338496)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】