説明

無機物に含まれる重金属類の溶出試験法

【課題】 無機物からの有害物質の溶出量を判定するに当たり、従来の方法と同等の精度で、しかも、従来の方法に比較して格段に単時間で溶出量を判定することのできる溶出試験法を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決するための溶出試験法は、無機物を水中に浸漬させて化学物質を溶出させ、その量を評価する溶出量試験法において、粒径が0.15mm以上2.0mm以下の範囲になるように調製した無機物を水中に浸漬させて化学物質を溶出させ、次いで、溶出した化学物質の中から、鉛、カドミウム、六価クロム、ヒ素、セレンのうちの少なくとも1種についてその量を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物を路盤材や地盤改良材のような土木建築用資材の一部として有効利用する際に、土壌、地下水などの環境に対しての安全性を評価するために行う、無機物から溶出する化学物質を定量化する溶出試験法に関し、詳しくは、無機物からの重金属類の溶出量を短時間で判定することのできる溶出試験法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全意識の高まりから、各種産業副産物(廃棄物)などの無機物の有効利用、つまり、これらをリサイクル資材として再利用することが検討されている。そして、その有効利用の一つとして、無機物は、路盤材や地盤改良材のような土木建築用資材の一部としての再利用が検討されてきた。ここで、路盤材とは、路床の上に設けられた路盤からの荷重を分散させて、路床に伝える役割をもつ部分に使用される材料のことであり、一方、地盤改良材とは、軟弱地盤の改良のために使用される材料のことである。
【0003】
ここで、土木建築用資材は、常に風雨に曝される環境において使用されるものであり、その周囲には常に水分が存在する。従って、無機物をリサイクル利用したこれらの土木建築用資材が水分と接した場合に、もし、これらの土木建築用資材から有害な化学物質が溶出し、この溶出した化学物質が周辺環境に影響を及ぼすことがあったとしたら、それは大きな社会問題となる。従って、無機物を路盤材などの土木建築用資材としてリサイクル使用する場合、雨水などの環境水への無機物からの有害物質の溶出量が規制値以下であることを予め確認しておくことが必要となる。尚、無機物をリサイクル使用した土木建築用資材から溶出する可能性のある化学物質のうち、周辺環境に影響を及ぼすかもしれないものとしては、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、ヒ素(As)、セレン(Se)、硫黄(S)などが代表的なものである。
【0004】
無機物からの有害物質の溶出量を判定する方法として、例えば、非特許文献1にあるような溶出試験法が実施されている。具体的には、利用有姿の無機物を一定量秤量し、その10倍量相当の純水中に浸漬させ、6時間攪拌することにより、有害成分などを溶出させる方法である。そして、溶出液中の有害成分の定量には、非特許文献2に示される測定方法を適用するのが一般的である。
【非特許文献1】JIS K0058−1
【非特許文献2】JIS K0102
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、JIS K0058−1(非特許文献1)による溶出試験法では、溶出時間に6時間という長時間を必要とし、極めて能率が悪い。しかも、JIS K0102(非特許文献2)による、溶出した有害物質の定量には、ほとんどの場合、水素化物発生−原子吸光分析装置や黒鉛炉原子吸光分析装置の如く、高性能且つ高感度ではあるが、非常に大掛かりな付帯設備を必要とする分析装置を利用せざるを得ない。そのために、分析を依頼されてから分析結果を得るまでには概ね1〜2週間程度を要し、分析待ちの無機物の置き場の確保が必要となる。また、分析には、多量の無機物及び溶媒を使用するために、分析操作が困難であるという分析操作上の問題もある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、無機物からの有害物質の溶出量を判定するに当たり、従来の方法と同等の精度で、しかも、従来の方法に比較して格段に単時間で溶出量を判定することのできる、無機物に含まれる重金属類の溶出試験法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明に係る無機物に含まれる重金属類の溶出試験法は、無機物を水中に浸漬させて化学物質を溶出させ、その量を評価する溶出量試験法において、粒径が0.15mm以上2.0mm以下の範囲になるように調製した無機物を水中に浸漬させて化学物質を溶出させ、次いで、溶出した化学物質の中から、鉛、カドミウム、六価クロム、ヒ素、セレンのうちの少なくとも1種についてその量を定量することを特徴とするものである。
【0008】
第2の発明に係る無機物に含まれる重金属類の溶出試験法は、第1の発明において、溶出した化学物質を、電気化学測定法を用いて定量することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶出試験の対象となる無機物の粒径を、粉砕及び分級によって0.15mm以上2.0mm以下の範囲に調製するので、約1時間の溶出時間で、JIS K0058−1(非特許文献1)の方法による溶出量と同等の溶出量を得ることができ、迅速な判定が可能となる。また、粒径が小さいことから、利用有姿のままの状態で溶出試験をする場合に比べて溶出試験に必要とする試料質量を大幅に少なくすることができ、溶出試験の操作性が大幅に向上する。更に、溶出した化学物質を、電気化学測定法を用いて定量した場合には、高価な分析装置や付帯設備が不要となり、現場レベルでの迅速且つ簡便な分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
本発明においては、無機物を路盤材や地盤改良材のような土木建築用資材として使用する際に、無機物の環境に対しての安全性を評価するために行う溶出試験にて使用する試料として、粒径が0.15mm以上2.0mm以下の範囲、好ましくは0.6mm以上1.2mm以下の範囲になるように調製した無機物の試料を用いる。ただ単に、無機物を破砕して粒径を小さくするだけではなく、粒径が0.15mm以上2.0mm以下の特定の範囲に調製した試料を用いる。この試料を水中に浸漬させて化学物質を溶出させる。
【0012】
本発明において、溶出試験で使用する試料の粒径を0.15mm以上2.0mm以下の範囲、好ましくは0.6mm以上1.2mm以下の範囲とする理由は、以下の通りである。粒径が0.15mm未満になると、単位質量当たりの界面積が大きくなることから、試料からの化学物質の溶出速度が速くなり、溶出時間を1時間程度にすると、JIS K0058−1(非特許文献1)の方法で測定した場合よりも溶出量が多く測定されて過大に評価される恐れがあるからである。一方、粒径が2.0mmを超えると、溶出時間を1時間程度にすると、JIS K0058−1(非特許文献1)の方法で測定した場合よりも溶出量が少なく測定され、過小に評価される恐れがあるからである。従って、試料の粒径を0.6mm以上1.2mm以下の更に狭い範囲とすることにより、溶出時間を1時間程度にした場合、JIS K0058−1(非特許文献1)の方法で測定した場合と極めて類似した溶出量を得ることが可能となる。
【0013】
本発明において、溶出試験の対象とする無機物とは、例えば、鉱物や各種産業副産物(火力発電所などで発生する石炭灰に代表される)などが挙げられる。
【0014】
粒径を上記範囲に調製する場合に、無機物の粉砕方法は特に制限はなく、例えばベッセル粉砕機によって粗破砕し、次いでこの試料を篩い分けて、粒径が0.15mm以上2.0mm以下の試料を回収するなどすればよい。このとき必ずしも粉砕を実施しなくてもよい。つまり、利用有姿の無機物から0.15mm以上2.0mm以下の試料を篩い分けて回収してもよい。尚、本発明における粒径0.15mm以上及び粒径2.0mm以下は、上記のように篩い分けにより規定されるものであり、従って、粒径2.0mm以下とは、目開き寸法が2.0mmの篩い分け器を通過するという意味であり、目開き寸法が2.0mの篩い分け器を通過する限り、長径が2.0mmを超える紡錘形であっても構わない。
【0015】
溶出操作は、試料粒径、試料量及び溶出時間(攪拌時間)が異なる以外は、全てJIS K0058−1(非特許文献1)に準拠する。即ち、粒径が0.15mm以上2.0mm以下に調製した試料から約50gを秤量し、秤量した試料を溶出用の容器に入れ、この容器に、pHを5.8〜6.3に調製した水を約500mL加える。溶出用の容器は、攪拌を円滑に実施する上で、底面が平らなポリエチレンなどの樹脂製で且つ円筒形のものを用いることが望ましい。攪拌には、モーター及び攪拌翼を供えた攪拌装置を用いる。攪拌中には異物の混入を防止するために蓋や覆いをする。毎分約200回転の回転数で攪拌翼を回転させて、約1時間攪拌して化学物質を溶出させた後、この溶出液を穴径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものを検液とする。
【0016】
検液は、JIS K0102(非特許文献2)などに示される原子吸光分析法などを用いて目的成分を定量分析してもよいが、簡便で且つ高価な分析装置や付帯設備が不要であることから、ボルタンメトリー法などの電気化学測定法を用いて定量分析を行うことが好ましい。その際、測定元素に応じて適切なpH調製剤や還元剤などを添加する。この定量分析においては、鉛、カドミウム、六価クロム、ヒ素、セレンのうちの少なくとも1種についてその量を定量する。
【0017】
尚、電気化学測定法とは、参照電極に対する作用電極(指示電極)の電位と、補助電極(対極)との間に流れる電流と、の関係を調べる方法であり、電極反応の解析や酸化還元系の研究及び被電解物質の分析などに広く利用されている手法である。例えば、作用電極の電位を特定の値に設定して目的の物質を或る時間だけ電解析出させ、その物質を電極上に濃縮させ、次いで、電極電位を逆方向に増加させて析出した物質が再び溶出するときの電流を測定することにより、極めて希薄な溶液の微量分析を行うことができることから、近年環境負荷物質の定量法として利用が高まっている方法である。
【0018】
従来のJIS K0058−1(非特許文献1)による溶出試験では、例えば1kgの利用有姿の無機物を、その10倍の質量相当である10Lの水に浸漬し、6時間の攪拌時間を費やしていたが、本発明によれば、試料の粒径を0.15mm以上2.0mm以下に規定することにより、試料質量を約50g、溶媒である水を約500mLまで減らして試験することが可能となり、操作性に優れており、その上、約1時間の攪拌時間で、JIS K0058−1(非特許文献1)と同等の溶出量を得ることができ、迅速な判定が可能となる。その結果、分析待ちの無機物の置き場を確保する必要がなくなり、無機物のリサイクル運用が極めて円滑になる。
【実施例1】
【0019】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
土木材料用の石炭灰の30種類をセレンの溶出試験に供した。それぞれの試料について、3kg程度サンプリングし、そのうちの1kgをJIS K0058−1(非特許文献1)の方法(以下「公定法」と記す)で溶出試験した。残りの試料から0.15mm以上2.0mm以下の試料を篩い分けし、この粒径が0.15mm以上2.0mm以下の試料50gを本発明に係る溶出試験法(以下「本発明法」と記す)で溶出試験した。本発明法では、溶媒である水の量は500mL、溶出時間(攪拌時間)は1時間とした。
【0021】
尚、本実施例1において、溶出試験の対象とする石炭灰とは、石炭火力発電所などにおいて石炭を燃やすことにより発生するものであり、例えばボイラーの底部から回収されるクリンカーアッシュや、電器集塵器などから回収される微粉末(フライアッシュ)などである。
【0022】
得られた検液は、公定法及び本発明法ともに、水素化物発生原子吸光分析法とボルタンメトリー法とにより定量し、両者を比較した。図1に、水素化物発生原子吸光法を用いて定量した公定法による溶出量と、電気化学測定法であるボルタンメトリー法を用いて定量した本発明法による溶出量とを、対比して示す。
【0023】
図1に示すように、公定法と本発明法との定量結果には良好な相関があることが明らかになった。この結果から、試料の粒径を0.15mm以上2.0mm以下とすることにより、溶出時間を6時間から1時間に短縮することが可能であることが確認できた。また、水素化物発生原子吸光法による定量結果と、ボルタンメトリー法による定量結果とで差は見られず、付帯設備の大掛かりな原子吸光分析法を用いない現場レベルでの迅速分析法の有用性も立証された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明法と公定法とで溶出量を比較して示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物を水中に浸漬させて化学物質を溶出させ、その量を評価する溶出量試験法において、粒径が0.15mm以上2.0mm以下の範囲になるように調製した無機物を水中に浸漬させて化学物質を溶出させ、次いで、溶出した化学物質の中から、鉛、カドミウム、六価クロム、ヒ素、セレンのうちの少なくとも1種についてその量を定量することを特徴とする、無機物に含まれる重金属類の溶出量試験法。
【請求項2】
溶出した化学物質を、電気化学測定法を用いて定量することを特徴とする、請求項1に記載の無機物に含まれる重金属類の溶出量試験法。

【図1】
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