説明

無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法

【課題】無機粉末を充分量含有する無機物・ポリマーコンポジット成形体を高い生産性で製造できる無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法は、溶融状態のポリマーと、該溶融状態のポリマーと均一相を形成し得る流動性金属化合物とを混合して相溶状態の溶融体を調製し、前記流動性金属化合物から固体状金属化合物を生成させる反応の触媒の存在下で、前記溶融体に含まれる流動性金属化合物を反応させて固体状金属化合物にして、ポリマーおよび固体状金属化合物を含む複合材を調製する複合材調製工程と、前記複合材を押出成形する成形工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機を用いて無機物・ポリマーコンポジット成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂やゴムの物性(例えば耐磨耗性、耐熱性、耐衝撃性、靱性、引張強度、引き裂き強度等)を改良するために、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ、クレー等の無機粉末を配合することがある。
近年、ナノスケールの化学が注目され、ナノオーダーの粒径の無機粉末を樹脂やゴムに配合する試みもなされている。
しかし、樹脂にナノオーダーの無機粉末を配合すると、無機粉末が凝集して分散不良が生じ、さらには増粘を起こすことがあった。また、使用時に、無機粉末が粉塵として舞い上がって、作業環境を損なうことがあった。
【0003】
上記の問題点を解決するために、特許文献1では、ポリプロピレンにテトラエトキシシラン等の金属化合物と水とを配合し、押出機で混合した後、金属化合物を加水分解してサブミクロンオーダーのシリカ粒子をポリプロピレン中に生成させて、微多孔性フィルムを製造することが提案されている。
特許文献2では、超臨界流体と金属化合物とポリマーからなる均一相を形成する工程、該均一相を減圧してポリマーを発泡させる工程、減圧して発泡セル内で超臨界流体と金属化合物を相分離させる工程、金属化合物を分解させて固体状の金属酸化物を得る工程を有して、無機物・ポリマーコンポジット成形体を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−287758号公報
【特許文献2】特開2007−332242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、ポリマーとの親和性の点から、均一に混合できる金属化合物の量には限りがある。そのため、所望の無機粉末量にするためには、押出機での金属化合物の混合を複数回繰り返す必要があった。
また、金属化合物を加水分解させるために配合する水の量が少なすぎると、シリカ粒子の生成量が不充分になり、成形後のフィルムに含まれる未反応の金属化合物の残留量が多くなることがあった。一方、水の量が多すぎると、水分を除去するために、長時間にわたる乾燥工程が必要となり、生産性が低くなった。
【0006】
特許文献2に記載の製造方法では、金属化合物の分解が不充分であるため、成形後に未分解の金属化合物を熱、沸騰水、活性エネルギー放射線等を用いて分解して固体状の金属酸化物とする必要があった。そのため、生産性が低くなる傾向にあった。
【0007】
そこで、本発明は、無機粉末を充分量含有する無機物・ポリマーコンポジット成形体を高い生産性で製造できる無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するための方法について検討した結果、特許文献1に記載の方法ではテトラエトキシシラン等の金属化合物の分解が生じにくく、金属化合物が有効利用されていないことを見出した。また、溶融ポリマー中に触媒を存在させることで、金属化合物の分解を促進できることを見出した。そして、その知見に基づき、さらに検討して、以下の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法を発明した。
【0009】
[1] 溶融状態のポリマーと、該溶融状態のポリマーと均一相を形成し得る流動性金属化合物とを混合して相溶状態の溶融体を調製し、前記流動性金属化合物から固体状金属化合物を生成させる反応の触媒の存在下で、前記溶融体に含まれる流動性金属化合物を反応させて固体状金属化合物にして、ポリマーおよび固体状金属化合物を含む複合材を調製する複合材調製工程と、
前記複合材を押出成形する成形工程とを有することを特徴とする無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
[2] 成形工程前に、前記溶融体または前記複合材に発泡剤を添加する発泡剤添加工程を有し、成形工程にて前記複合材を押出成形すると共に発泡させる、[1]に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
[3] 前記発泡剤が二酸化炭素および/または窒素である、[2]に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
[4] 前記流動性金属化合物が金属のアルコキシド、金属のβ−ジケトナート錯体、金属の酢酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記流動性金属化合物に含まれる金属が、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズおよびインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[3]のいずれかに記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
[5] 前記複合材調製工程では、酸触媒または塩基触媒を放出する触媒放出化合物をポリマーに添加し、該触媒放出化合物から放出された触媒の存在下で、前記溶融体に含まれる流動性金属化合物を反応させる、[1]〜[4]のいずれかに記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
[6] 前記触媒放出化合物がジシラザン類および/またはクロロシラン類である、[5]に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
[7] 前記複合材調製工程にて、溶融体に水分を添加する、[1]〜[6]のいずれかに記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法によれば、固体状金属化合物からなる無機粉末を充分量含有する無機物・ポリマーコンポジット成形体を高い生産性で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法の一実施形態例について説明する。
本実施形態例の製造方法により製造される無機物・ポリマーコンポジット成形体は、発泡ポリマーと、発泡ポリマーの発泡セル内に存在する固体状金属化合物とを含有する発泡成形体である。
【0012】
<無機物・ポリマーコンポジット成形体>
無機物・ポリマーコンポジット成形体を構成するポリマーとしては熱可塑性樹脂が使用され、中でも、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0013】
オレフィン系樹脂:エチレン又はプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン、又はシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のシクロオレフィンの単独重合体、上記α−オレフィン同士の共重合体、およびα−オレフィンと共重合可能な他の単量体、酢酸ビニル、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等との共重合体等が挙げられる。
【0014】
ポリエステル系樹脂:テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸単量体とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のジオール又は多価アルコール単量体との共重合体、乳酸、p−ヒドロキシ安息香酸や、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、等のヒドロキシカルボン酸等の(共)重合体等が挙げられる。
【0015】
ポリアミド系樹脂:3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られる鎖中に酸アミド結合を有する重合体である。具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合させて得られる重合体またはこれらの共重合体である。例えば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6、6、ナイロン−6、10、ナイロン−6、11、ナイロン−6、12、ナイロン−6T、ナイロン−6/ナイロン−6、6共重合体、ナイロン−6/ナイロン−12共重合体、ナイロン−6/ナイロン−6T共重合体、ナイロン−6I/ナイロン−6T共重合体等が挙げられる。
【0016】
なお、上記樹脂が共重合体である場合には、その構造はランダム、ブロック等のいずれであってもよく、立体規則性を有する場合には、アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれでもよい。
【0017】
さらに、上記の樹脂以外に、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂も使用できる。
また、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム、エラストマー等も使用できる。
【0018】
固体状金属化合物としては、各種金属の酸化物または水酸化物が挙げられるが、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズおよびインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有する酸化物または水酸化物が好ましい。なお、本発明においては、金属は半金属も含む。
固体状金属化合物は、無機物・ポリマーコンポジット発泡成形体の機械的物性や熱的物性等を向上させる役割を果たす。
【0019】
また、無機物・ポリマーコンポジット成形体は、例えば、可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、結晶核剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等の添加剤を含有してもよい。添加剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
無機物・ポリマーコンポジット成形体においては、発泡倍率が2〜50倍であることが好ましく、3〜30倍であることがより好ましい。発泡倍率が2倍以上であれば、発泡体としての特性を充分に発揮でき、50倍以下であれば、無機物・ポリマーコンポジット成形体の機械的強度を充分なものとすることができる。
発泡セルの平均発泡径は1.0〜500μmであることが好ましく、1.0〜200μmであることがより好ましい。発泡セルの平均発泡径が1.0μm以上であれば、容易に発泡セルを形成でき、500μm以下であれば、無機物・ポリマーコンポジット成形体の機械的強度を充分なものとすることができる。
【0021】
<無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法>
本実施形態例の製造方法は、複合材調製工程と発泡剤添加工程と成形工程とを有する。
【0022】
(複合材調製工程)
本実施形態例における複合材調製工程では、まず、ホッパーよりペレット状のポリマーを押出機に供給して溶融させる。その際に使用する押出機としては、単軸押出機、二軸押出機のいずれであってもよい。また、スクリューを直列に配置したタンデム型の押出機も使用できる。
【0023】
次いで、押出機内で溶融させたポリマーに流動性金属化合物と触媒放出化合物とを添加する。
流動性金属化合物および触媒放出化合物の添加方法としては、例えば、押出機内の溶融状態のポリマーに液体状態または気体状態でポンプ等を使用して添加する方法、流動性金属化合物を後述する発泡剤に溶解させて発泡剤と共に添加する方法等が挙げられる。
流動性金属化合物と触媒放出化合物とは、同時に添加してもよいし、流動性金属化合物添加後に触媒放出化合物を添加してもよい。
【0024】
流動性金属化合物は、溶融状態のポリマーと均一相を形成し得る金属化合物である。溶融状態のポリマーと均一相を形成し得る金属化合物とは、液体状の金属化合物、気体状の金属化合物、または、溶融状態のポリマーと混合する前は固体状であるが、溶融状態のポリマーに混合した際には溶融する金属化合物のことである。また、流動性金属化合物は、分解して固体状金属化合物になる。
このような流動性金属化合物の中でも、容易に固体状金属化合物が得られることから、金属のアルコキシド、金属のβ−ジケトナート錯体、金属の酢酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、金属としては、容易に固体状金属化合物が得られることから、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズおよびインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
特に、流動性金属化合物の中でも、より容易に固体状金属化合物が得られることから、テトラメトキシシランがより好ましい。
【0025】
触媒放出化合物は、酸触媒または塩基触媒を放出するものである。また、触媒放出化合物は、ポリマー、流動性金属化合物、発泡剤との親和性が高い化合物が好ましい。さらに、分解生成物が無機物・ポリマーコンポジット成形体に影響を及ぼさないことが好ましい。
具体的には、触媒放出化合物は、酸または塩基を生成するタイプのシランカップリング剤、シラザン類、クロロシラン類が好ましい。これらの化合物は、加水分解によりアンモニア等の塩基や塩酸等の酸を生成し、流動性金属化合物の加水分解を促進する。
触媒放出化合物の中でも、代表的な発泡剤である二酸化炭素に対する親和性が高いことから、ジシラザン類および/またはクロロシラン類がより好ましい。また、ジシラザン類、クロロシラン類は分解によりシリカを形成するため、流動性金属化合物がケイ素化合物である場合には、その加水分解物のシリカと同一になり、不純物が生じないという利点も有する。
さらに、触媒放出化合物は、二酸化炭素と完全に相溶することから、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0026】
複合材調製工程では、流動性金属化合物および触媒放出化合物を添加した後、溶融状態のポリマーと流動性金属化合物および触媒放出化合物とを混合して相溶状態の溶融体を調製する。
また、触媒放出化合物を分解して触媒を放出させ、その触媒の存在下で流動性金属化合物の分解を促進させて、固体状金属化合物を得る。これにより、ポリマーおよび固体状金属化合物を含む複合材を調製する。
流動性金属化合物の分解ではポリマーに含まれる水、熱などが利用される。また、加水分解を促進するためには、溶融体に水を添加することが好ましい。
【0027】
(発泡剤添加工程)
本実施形態における発泡剤添加工程では、押出機内の溶融体に発泡剤を添加する。
発泡剤の添加方法としては、例えば、液体状態の発泡剤をプランジャーポンプ等で供給する方法、気体状態の発泡剤を直接あるいは加圧した状態で供給する方法、超臨界状態で直接あるいは加圧した状態で供給する方法等が挙げられる。
【0028】
発泡剤としては、ポリマーおよび流動性金属化合物と均一相を形成しうるものが使用され、例えば、窒素、二酸化炭素、各種フロンガスが使用される。発泡剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
発泡剤の中でも、ポリマーへの親和性、流動性金属化合物との相溶性の観点から、二酸化炭素および/または窒素が好ましく、二酸化炭素がより好ましい。二酸化炭素は、溶解性の高い高圧の液体状態、亜臨界状態、超臨界状態が好ましく、超臨界状態の二酸化炭素がより好ましい。
【0029】
発泡剤を添加する前、最中、後のいずれかにて、発泡核剤を添加することができる。発泡核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー、酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタン、無水シリカ等の無機粒子が挙げられる。発泡核剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(成形工程)
成形工程では、複合材調製工程で得た複合材をダイスから吐出させて押出成形する。
複合材をダイスから吐出させて大気圧に開放した際には、複合材の圧力が急激に低下する。発泡剤を添加した本実施形態例では、圧力の低下により発泡するため、得られる成形体は発泡体となる。
また、この成形工程では、ポリマー外に発泡剤および未反応の流動性金属化合物が充分に拡散する時間がないまま、発泡剤および流動性金属化合物の溶解度が急激に低下するため、発泡セルの内部に金属化合物が析出する。
【0031】
上記複合材調製工程、発泡剤添加工程および成形工程は連続的に、かつ、各々並行に行われ、無機物・ポリマーコンポジット成形体は連続的に製造される。
【0032】
以上説明した無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法では、流動性金属化合物と共に添加した触媒放出化合物から放出された触媒によって流動性金属化合物の分解を促進させることができる。そのため、流動性金属化合物を固体状金属化合物にする分解反応の転化率を向上させることができるので、流動性金属化合物の添加量を少なくしても、押出機内で充分な量の固体状金属化合物を得ることができる。したがって、流動性金属化合物を多量に添加するために流動性金属化合物を繰り返しポリマーに混合する必要がない。
また、触媒によって流動性金属化合物を固体状金属化合物にするため、成形後に流動性金属化合物を固体状金属化合物にする工程を別途行う必要がない。
よって、上記製造方法によれば、押出機を用いて無機粉末を充分量含有する無機物・ポリマーコンポジット成形体を高い生産性で製造できる。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。例えば、複合材調製工程において、触媒放出化合物を添加せず、その代わりに、流動性金属化合物を固体状金属化合物にする酸触媒または塩基触媒を添加してもよい。
また、発泡剤添加工程において、発泡剤を複合材に添加してもよい。
また、発泡剤添加工程を省略して、発泡していない無機物・ポリマーコンポジット成形体を得てもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
アクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、アクリペット IR K304)のペレットをホッパーより押出機((株)東洋精機製作所製、二軸セグメント押出機2D30W2)に供給し、シリンダー温度240℃の条件で加熱溶融させた。
また、液化炭酸ガスボンベから供給された二酸化炭素を昇圧ポンプで12MPaに昇圧させ、これを発泡剤として、押出機内で完全に溶融させたアクリル樹脂(7g/分)に対し、2.0ml/分の割合で供給した。
これと同時に、テトラメトキシシランとヘキサメチルジシラザンの混合物を、二酸化炭素100質量%に対して100質量%の割合になるように、押出機内で完全に溶融させたアクリル樹脂に供給した。その際、混合物はテトラメトキシシラン4mlに対してヘキサメチルジシラザン1mlの比率とした。
240℃のまま、アクリル樹脂、二酸化炭素、テトラメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとを押出機内で混合して溶融体を調製すると共に、テトラメトキシシランを分解させてシリカを得た。これにより、アクリル樹脂およびシリカを含む複合材を得た。
また、ダイスの設定温度を140℃とし、ダイスで降温させ、そのダイスから複合材を吐出させて減圧させることにより、発泡成形して、発泡したシリカ・アクリル樹脂コンポジット成形体を得た。
得られたシリカ・アクリル樹脂コンポジット成形体について、シリカ以外のケイ素化合物とシリカの合計含有量、シリカの含有量を以下の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
・ケイ素化合物とシリカとの合計含有量
熱分析装置(SIIナノテクノロジー(株)製、TG/DTA6200)を用い、窒素雰囲気下、シリカ・アクリル樹脂コンポジット成形体の試料を500℃まで加熱しながら質量を測定し、式(1)により、ケイ素化合物とシリカとの合計含有量を求めた。
【0036】
【数1】

【0037】
・シリカの含有量
熱分析装置を用い、ケイ素化合物とシリカの合計含有量の測定と同様の方法で加熱しながら質量を測定し、下記式により、シリカの含有量を求めた。
[シリカの含有量(質量%)]={[500℃残留成分の質量]/[無機物・ポリマーコンポジットの25℃での質量]}×100
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例2]
ポリ乳酸(ネイチャーワークス(Nature Works)製、PLA Polymer 4060)のペレットをホッパーより押出機に供給し、シリンダー温度190℃の条件で加熱溶融させた。
また、液化炭酸ガスボンベから供給された二酸化炭素を昇圧ポンプ12MPaに昇圧させ、これを発泡剤として、押出機内で完全に溶融させたポリ乳酸(8g/分)に対し、2.0ml/分の割合で供給した。
これと同時に、テトラメトキシシランとヘキサメチルジシラザンの混合物を、二酸化炭素100質量%に対して100質量%の割合になるように、押出機内で完全に溶融させたポリ乳酸に供給した。その際、混合物はテトラメトキシシラン4mlに対してヘキサメチルジシラザン1mlの比率とした。
190℃のまま、ポリ乳酸、二酸化炭素、テトラメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとを押出機内で混合して溶融体を調製すると共に、テトラメトキシシランを分解させてシリカを得た。これにより、ポリ乳酸とシリカを含む複合材を得た。
また、ダイスの設定温度を120℃とし、ダイスで降温させ、そのダイスから複合材を吐出させて減圧させることにより、発泡成形して、発泡したシリカ・ポリ乳酸コンポジット成形体を得た。
このシリカ・ポリ乳酸コンポジット成形体について、ケイ素化合物とシリカの合計含有量、シリカの含有量を測定した結果について表1に示す。
【0040】
[比較例1]
実施例1においてテトラメトキシシランとヘキサメチルジシラザンの混合物を供給せず、テトラメトキシシランのみを供給した以外は、実施例1と同様にしてシリカ・アクリル樹脂コンポジット成形体を得た。得られたシリカ・アクリル樹脂コンポジット成形体に含まれるケイ素化合物とシリカとの合計含有量、シリカの含有量の測定結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
実施例2においてテトラメトキシシランとヘキサメチルジシラザンの混合物を供給せず、テトラメトキシシランのみ供給した以外は、実施例2と同様にしてシリカ・ポリ乳酸コンポジット成形体を得た。得られたシリカ・アクリル樹脂コンポジット成形体に含まれるケイ素化合物とシリカとの合計含有量、シリカの含有量の測定結果を表1に示す。
【0042】
テトラメトキシシランと共にヘキサメチルジシラザンを供給した実施例1,2では、成形後にテトラメトキシシランを分解してシリカにする工程を有さないにもかかわらず、無機物・ポリマーコンポジット成形体に充分な量のシリカが含まれていた。
これに対し、ヘキサメチルジシラザンを供給しなかった比較例1,2では、無機物・ポリマーコンポジット成形体に含まれるシリカの量が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法で得られる無機物・ポリマーコンポジット成形体は、シュリンクフィルム等の包装用フィルム、電池用セパレータ、断熱材等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態のポリマーと、該溶融状態のポリマーと均一相を形成し得る流動性金属化合物とを混合して相溶状態の溶融体を調製し、前記流動性金属化合物から固体状金属化合物を生成させる反応の触媒の存在下で、前記溶融体に含まれる流動性金属化合物を反応させて固体状金属化合物にして、ポリマーおよび固体状金属化合物を含む複合材を調製する複合材調製工程と、
前記複合材を押出成形する成形工程とを有することを特徴とする無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項2】
成形工程前に、前記溶融体または前記複合材に発泡剤を添加する発泡剤添加工程を有し、成形工程にて前記複合材を押出成形すると共に発泡させる、請求項1に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤が二酸化炭素および/または窒素である、請求項2に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項4】
前記流動性金属化合物が金属のアルコキシド、金属のβ−ジケトナート錯体、金属の酢酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記流動性金属化合物に含まれる金属が、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズおよびインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項5】
前記複合材調製工程では、酸触媒または塩基触媒を放出する触媒放出化合物をポリマーに添加し、該触媒放出化合物から放出された触媒の存在下で、前記溶融体に含まれる流動性金属化合物を反応させる、請求項1〜4のいずれかに記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項6】
前記触媒放出化合物がジシラザン類および/またはクロロシラン類である、請求項5に記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。
【請求項7】
前記複合材調製工程にて、溶融体に水分を添加する、請求項1〜6のいずれかに記載の無機物・ポリマーコンポジット成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−280779(P2010−280779A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133988(P2009−133988)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】