説明

無機物粒子の製造方法

【課題】電子導電性に優れた無機物粒子の提供。
【解決手段】無機物粒子の構成成分を含む原料化合物の溶液を調製する工程(A)と、前記原料化合物の溶液を噴霧熱分解処理して第1無機物粒子を形成する工程(B)と、前記第1無機物粒子を1次焼成する工程(C)と、前記1次焼成された第1無機物粒子と、導電性物質とを、遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合して、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子を形成する工程(D)と、前記第2無機物粒子を2次焼成する工程(E)と、を含むことを特徴とする無機物粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子導電性に優れた無機物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を付与した無機物粒子が、各種の分野で利用されている。例えば、携帯電話、ノート型パソコン等の携帯用電子機器には、小型化および軽量化の要求を満たすとともに、必要な電力を供給するために、重量エネルギー密度および体積エネルギー密度が大きいリチウム二次電池の利用が拡大している。このリチウム二次電池においては、正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO)などの粒子と導電材料とをバインダを用いて成形したものが用いられている。
【0003】
こうした無機物粒子の電子導電性を改善すれば、その無機物粒子を利用する機器の性能向上に有効である。例えば、前記のコバルト酸リチウム(LiCoO)を用いるリチウム二次電池では、重量エネルギー密度および体積エネルギー密度が向上し、さらなる小型化および軽量化に有効である。
【0004】
また、最近では、希少で高価なコバルトの化合物であるコバルト酸リチウムの代替材料として、スピネル型の結晶構造を有するマンガン酸リチウム(LiMMn2−x、M=Mn,Al,Co,Mg,Ti等)、オリビン型の結晶構造を有する燐酸マンガンリチウム(LiMnPO)やリン酸鉄リチウム(LiFePO)などが、資源として豊富で安価な元素で構成されているため、その利用が検討されている。特に、ハイブリッド型電気自動車や夜間電力貯蔵などの分散型の大型電力貯蔵用に用いられる二次電池には、低コストであることが求められるため、これらの代替材料の開発が進められている。しかし、これらの代替材料、例えば、リン酸鉄リチウムは、LiCoOに比べて電子導電性が極めて低いため、低い電気量しか得られないという問題がある。
【0005】
そこで、大きな電気量を得るため、コバルト酸リチウムだけでなく、その代替材料であるリン酸鉄リチウム等からなる無機物粒子の電子導電性を向上させるための方法が求められている。また、リチウム二次電池に用いられる材料に限られず、材料の電子導電性を向上させることは、ガスセンサー、燃料電池、太陽電池の性能を向上させるためにも有効である。
【0006】
ところで、一般に、材料の電子導電性を向上させる方法としては、材料を微細化することにより電気化学反応に関与する反応面積を増加させるとともに導電性物質と複合化する方法がある。具体的には、固相反応法、水熱合成法、ゾルゲル法、噴霧熱分解法などが、これまでに提案されている。
【0007】
前記の固相反応法は、原料の炭酸塩や酸化物を出発原料とし、これらを、ボールミル等を用いて微細化および混合し、その後、高温の電気炉内で焼成して目的の粒子を得る方法である(非特許文献1参照)。また、水熱合成法は、原料塩と導電性物質とを液相で混合し、亜臨界あるいは超臨界反応場で微粒子を製造する方法であり、比較的低温で高結晶性の微粒子を得ることができる方法である(非特許文献2参照)。さらに、ゾルゲル法は、例えば、金属アルコキシドの加水分解重合反応を利用して粒子を製造する方法である(非特許文献3参照)。また、噴霧熱分解法は、原料塩と導電性物質を液相で混合し、これを高温反応器内に噴霧することで、微小液滴を急速加熱・熱分解して固体粒子を生成させ、その固体粒子を急速に冷却することで結晶性の良い微細粒子が凝集したナノ構造体セラミックス粒子を製造する方法である(特許文献1、特許文献2、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6等参照)。
【特許文献1】特開2004−14340号公報
【特許文献2】特開2004−259471号公報
【非特許文献1】S. J. Kwon, C. W. Kim, W. T. Jeong, K. S. Lee, J. Power Sources, 137, 93-99(2004)
【非特許文献2】K. Dokko, K. Shiraishi, K. Kanamura, J. Electrochem. Society, 152, A2199-A2202(2005)
【非特許文献3】K.F. Hsu, S.Y. Tsay, B.J. Hwang, J. Mater. Chem., 14, 2690-2695 (2004)
【非特許文献4】M.R. Yang, T.H. Teng, S.H. Wu, J. Power Sources, 159, 307-311 (2006)
【非特許文献5】T.H. Teng, M.R. Yang, S.H. Wu, Y.P. Chiang, Solid State Communications, 142, 389-392 (2007)
【非特許文献6】S. L. Bewlay, K. Konstantinov, G. X. Wang,, S. X. Dou, H. H. Liu, Mater. Lett., 58, 1788-1791(2004))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、固相反応法では、組成が均一で、単一の結晶構造を有する粒子を得るためには、十分に原材料を粉砕した後に長時間の焼成が必要である。そのため、最終的には、結晶粒が比較的大きく、比表面積が小さい粒子が得られる。さらに、導電性物質が必ずしも粒子の全表面にわたって強固にコーティングされないため、得られる粒子の導電性が十分に改善されない。
【0009】
また、水熱合成法は、原料を量論組成で調製しても、得られる粒子の組成は量論組成から大きくずれるため、粒子の成分組成の精密制御が困難である。さらに、導電性物質が粒子の表面だけでなく内部にも含有されてしまう。そのため、電子導電性に寄与する粒子表面の導電性物質が相対的に少なく、得られる粒子の導電性が十分に改善されない。
【0010】
さらに、ゾルゲル法は、原料溶液の調製および合成を液相で行うため組成制御は容易であるが粒子の結晶性が低いため、得られた粒子を高温で焼成しなければならない。これにより、粒子の粒成長が起きる。また、合成プロセスが多段操作であるため連続合成が困難である。さらに、導電性物質が粒子表面だけでなく内部にも含有されてしまう。そのため、電子導電性に寄与する粒子表面の導電性物質が相対的に少なく、得られる粒子の導電性が十分に改善されない。
【0011】
さらにまた、前記の噴霧熱分解法は、出発原料にショ糖(カーボンの原料)を添加する方法であるため、得られる粒子は、導電性物質が粒子表面だけでなく内部にも含有されてしまう。そのため、電子導電性に寄与する粒子表面の導電性物質が相対的に少なく、得られる粒子の導電性が十分に改善されない。
【0012】
そこで、本発明の課題は、前記した問題を解決し、表面にコーティングされた導電性物質によって導電路が形成されるため、優れた電子導電性を示す無機物粒子を得ることができる無機物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明の無機物粒子の製造方法は、前記無機物粒子の構成成分を含む原料化合物の溶液を調製する工程(A)と、前記原料化合物の溶液を噴霧熱分解処理して第1無機物粒子を形成する工程(B)と、前記第1無機物粒子を1次焼成する工程(C)と、前記1次焼成された無機物粒子と、導電性物質とを、遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合して、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子を形成する工程(D)と、前記第2無機物粒子を2次焼成する工程(E)と、を含むことを特徴とする。
【0014】
この製造方法では、前記の工程(A)〜工程(E)の一連の工程によって、表面に導電性物質がコーティングされ、電子導電性に優れた無機物粒子を製造することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記工程(D)において、前記遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合を続けて、前記第2無機物粒子の凝集体を形成することを特徴とする。
【0016】
この無機物粒子の製造方法では、工程(D)において、遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合を続けて、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子の凝集体を形成することによって、さらに、電子導電性に優れた無機物粒子を製造することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記第1無機物粒子が、Fe、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種と、Liとを含む無機物で形成されていることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、Fe、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種と、Liとを含む無機物で形成され、表面に導電性物質がコーティングされた無機物粒子を製造することができる。
【0018】
請求項4に係る発明は、前記第1無機物粒子が、リチウムを含むリン酸塩で形成されていることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、リチウムを含むリン酸塩で形成され、表面に導電性物質がコーティングされた無機物粒子を製造することができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記第1無機物粒子が、リチウムを含むケイ酸塩で形成されていることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、リチウムを含むケイ酸塩で形成され、表面に導電性物質がコーティングされた無機物粒子を製造することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記第1無機物粒子が、LiFePOからなる粒子であることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、電子導電性に優れたLiFePOからなる粒子を製造することができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記導電性物質が、カーボンブラックであることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、導電性物質としてカーボンブラックを用いることによって、電子導電性に優れた無機物粒子を製造することができる。
【0022】
請求項8に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記工程(B)の噴霧熱分解処理を300〜800℃で行うことを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、噴霧熱分解処理を300〜800℃で行うことによって、アモルファスあるいは多結晶体の無機物粒子を製造することができる。
【0023】
請求項9に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記工程(C)の1次焼成温度が400〜1200℃であることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、400〜1200℃の温度で1次焼成することによって、前記工程(B)で合成されたアモルファスな無機物粒子を結晶化させることや、多結晶体の無機物粒子の結晶性を向上させること、さらには未分解物質を除去することができる。
【0024】
請求項10に係る発明は、前記無機物粒子の製造方法において、前記工程(D)の遊星ボールミルの回転台の回転数が300〜500回/分、ミルポットの自転の回転数が600〜1000回/分であることを特徴とする。
この無機物粒子の製造方法では、工程(D)の遊星ボールミルの回転台の回転数を300〜500回/分、ミルポットの自転の回転数を600〜1000回/分とすることによって、粒子表面に導電性物質が十分にコーティングされた無機物粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の無機物粒子の製造方法によれば、表面に十分にコーティングされた導電性物質によって導電路が形成されるため、優れた電子導電性を示す無機物粒子またはその凝集体を得ることができる。特に、本発明の方法は、コバルト酸リチウム(LiCoO)に替わるリチウム二次電池用正極材料として、資源として豊富で安価な元素で構成されるLiFePOからなる粒子の電子導電性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の電子導電性に優れた無機物粒子の製造方法(以下、「本発明の方法」という)について詳細に説明する。
本発明の方法は、原料化合物の溶液(以下、「原料溶液」という)を調製する工程(A)と、第1無機物粒子を形成する工程(B)と、前記第1無機物粒子を1次焼成する工程(C)と、第2無機物粒子を形成する工程(D)と、前記第2無機物粒子を2次焼成する工程(E)と、を含む方法である。
【0027】
本発明の方法によって製造される無機物粒子は、1種または複数の金属原子またはその他の元素を含む酸化物、硫化物、窒化物、炭化物などの無機化合物からなる粒子である。無機化合物の具体例としては、LiMn、LiCoO,LiMCo1−x(M=Ni,Mn), LiMPO(M=Fe,Mn,Co,Ni),LiM’M”1−xPO(M’,M”=Fe,Mn,Co,Ni),LiM’M”1−xSiO(M’,M”=Mn,Co,Ni,Fe),LiM’M”1−xTiO(M’,M”=Mn,Co,Ni,Fe),LiNiVO,LiCoNi1−yVO,LiMMn2−x(M=Co,Cr,Al,Mg,Zn,Ni,Fe),LiNiMn1−x, LiNi1−x−yCo(M=Mn,Mg,Al,Ga,Fe),Li[NiCo1−2xMn]O,MnV, LiTi12,CuO, CoO,Gd,Al,ZnO,ZrO,TiO,SnO,CeO,SiO,MgO,Fe,NiO,Y,PdO,PbO,Co,Mn,BaO,PuO,V,MoO,WO,Eu,YBaCu7−x,YBaCu,La−Sr−Cu−O,Tl−Ca−BaCu−O,(Bi,Pb)−Sr−Ca−Cu−O,MRuO(M=Sr,La),MRu7−x(M=Bi,Pb,Y,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm),BiCaSrCu,BiCaSrCu,ZnO−TiO, ZrO−SiO, MgAl,CoMo,CoMoO,CoAl,CuCr,PbCr,Pb(Zr,Ti)O,LaSr1−xMnO,LnSr1−xCoO(Ln=La,Nd,Gd),LnSr1−xCoFe1−y3δ(La,Sm,Nd,Gd), LaSr1−xGaMg1−y3δ, Mullite(3Al−2SiO),Mn−Zn ferrite, BaFe1219,Ba0.86Ca0.14TiO,BaTiO,BaZn1/3Nb2/3,PbMg1/3Nb2/3,SrTiO,PbTiO,ZnSiO,ZrSn1−xTiO,NiO−SDC(samaria−doped ceria),NiO−CGO(gadorinia−doped ceria),GdFe12,BaFe1219,NiFe,SrTiO,LaAlO Eu−doped Y, Eu−doped(YGd), CdWO,ZnWO,CaWO,SrWO,LaPO,Ce−doped LaPO, Eu−doped LaPO,Ce−Tb−doped LaPO,Eu−doped(Gd1−x,YAl12,YAlO,YAl,YSiO,Ce1−xTbMgAl1119等の酸化物;ZnS,CdS,CuS,CuInS,CaLa等の硫化物;Si,BN,AlN等の窒化物;SiC等の炭化物などが挙げられる。これらの中でも、本発明の方法は、LiFePO、LiM’M”1−xPO(M’,M”=Fe,Mn,Co,Ni),LiM’M”1−xSiO(M’,M”=Mn,Co,Ni,Fe),LiM’M”1−xTiO(M’,M”=Mn,Co,Ni,Fe),LiMn,LiMMn2−x(M=Co,Cr,Al,Mg,Zn,Ni,Fe),LiNiMn1−x, LiNi1−x−yCo(M=Mn,Mg,Al,Ga,Fe),Li[NiCo1−2xMn]O,MnV, LiTi12等からなる無機物粒子の製造に適用して、電子導電性に優れた無機物粒子を製造することができる。特に、本発明の方法によって得られる電子導電性に優れたLiFePOからなる粒子は、希少で高価なコバルトの化合物であるLiCoOに替えてリチウム二次電池の正極材料として有用である。
【0028】
本発明の方法において、原料溶液を調製する工程(A)は、前記第1無機物粒子の構成成分を含む原料化合物を溶媒に溶解する工程である。
【0029】
原料化合物としては、前記第1無機物粒子の構成成分を含むものであれば、特に限定されない。例えば、前記に例示した化合物の構成成分であるリチウム(Li)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)等の硝酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、塩化物、オキシ塩化物、水和物等を用いることができる。また、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート等の金属有機化合物、さらに、種々の配位子を有する金属錯体などを用いることもできる。これらの原料化合物は、前記第1無機物粒子における構成成分の化学量論比となるように、原料溶液中の組成比が調整される。
【0030】
また、原料溶液中の原料化合物の濃度は、原料化合物中の前記第1無機物粒子の構成成分の合計が、0.001mol/L〜12.0mol/Lであることが好ましく、さらに、0.1mol/L〜6mol/Lであることが好ましい。構成成分の合計が0.001mol/L以下であると、一定量の第1無機物粒子を合成するのに長時間必要となり、12.0mol/L以上になると原料塩が原料溶液に溶解しない虞がある。
【0031】
また、原料溶液は、前記原料化合物以外に、次の工程(B)の噴霧熱分解処理において、より微細な粒子を得るために分解性添加剤を配合してもよい。分解性添加剤としては、例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、グリコール酸、アスコルビン酸等の有機酸、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素等のアンモニウム化合物を用いることができる。原料溶液に分解性添加剤を添加する場合、分解性添加剤の濃度は、原料溶液に含まれる前記構成成分の合計濃度の1〜100倍程度であることが望ましく、さらに、2〜50倍程度であることが望ましい。
【0032】
溶媒としては、原料化合物と分解性添加剤を溶解するものであれば、特に限定されず、例えば、水、あるいはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、エチレンオキシド、トリエタノールアミン、キシレン、アセトン等の非水系溶媒を用いることができる。
【0033】
次に、第1無機物粒子を形成する工程(B)は、工程(A)で調製された原料溶液を噴霧熱分解処理して第1無機物粒子を形成する工程である。本発明において、噴霧熱分解処理とは、原料化合物の熱分解が起こる温度以上の高温に保持された雰囲気中に原料溶液を微細な液滴として噴霧し、溶媒の蒸発、原料化合物の熱分解を行うとともに、前記構成成分からなる無機物で構成される微細な粒子を形成する処理である。この噴霧熱分解によって、原子スケールでの組成均一性や微量成分元素の均一分散性に優れるとともに、分散性に優れる微粒子が得られる。原料溶液を微細な液滴として噴霧する方法は、特に限定されないが、例えば、超音波噴霧器を用いる方法、二流体ノズルや加圧ノズルを用いる方法、回転ディスクを用いる方法などが挙げられる。また、熱分解は、例えば、噴霧された液滴を、ガスバーナー加熱、電気抵抗加熱、マイクロ波加熱あるいはレーザー加熱等によって加熱することによって行うことができる。
【0034】
原料溶液の噴霧における液滴の直径は、通常、0.1〜500μm程度にすることが好ましい。これによって、ナノサイズの一次粒子が凝集した第1無機物粒子を得ることができる利点がある。
【0035】
また、熱分解温度としては、製造する第1無機物粒子の組成に依存するが、300〜800℃の範囲が好ましい。熱分解温度を300℃以上とすることにより原料塩および添加物を分解させ、アモルファスあるいは多結晶体の第1無機物粒子を得ることができ、また、熱分解温度を800℃以下とすることにより、得られる第1無機物粒子のさらなる熱分解を抑制できる利点がある。また、LiFePOからなる第1無機物粒子を製造する場合は、400〜800℃の範囲が好ましい。
【0036】
さらに、噴霧熱分解処理における雰囲気としては、製造する第1無機物粒子が酸化物である場合は、空気、酸素、あるいはそれらと窒素、アルゴン等の不活性ガスの混合ガスを用いることができる。また、製造する第1無機物粒子が燐酸化合物および非酸化物である場合は、空気、酸素、あるいはその混合ガス以外であれば、限定されない。例えば、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、およびその混合ガス等を用いることができる。
【0037】
また、噴霧熱分解処理の時間は、製造する第1無機物粒子の組成によって調整される。通常、5秒以上であることが好ましく、20秒以上であることがさらに好ましい。5秒以上とすることにより原料塩および添加剤が分解し最終的にアモルファスあるいは多結晶体の目的物たる第1無機物粒子が得られるという利点を有する。
【0038】
次に、この工程(B)について、図1に示す噴霧熱分解装置MPを用いて第1無機物粒子を製造する工程を具体的に説明する。
図1に示す噴霧熱分解装置MPは、液滴生成部として、原料溶液を霧状態の液滴を生成するための超音波噴霧器5と、原料溶液槽7に貯槽された原料溶液を超音波噴霧器5に供給するためのマイクロチューブポンプ6と、恒温槽9、冷凍機10およびポンプ8で構成される恒温水循環システムとを備える。
【0039】
また、超音波噴霧器5には、超音波噴霧器5によって生成された液滴を、後記の熱分解反応炉11に導入するために、超音波噴霧器5に雰囲気ガス(キャリヤガス)を供給するガスボンベ1と、充填カラム2と、フィルター3と、流量計4とからなる液滴導入手段が接続されている。また、フィルター3から流量計4への流路の途中には、超音波噴霧器5に導入される雰囲気ガスの温度を測定するためのガス温度計T11が配置されている。
【0040】
さらに、噴霧熱分解装置MPは、熱分解部として、熱分解反応炉11を有し、この熱分解反応炉11は、超音波噴霧器5から導入される霧状態の液滴を予熱する筒状空間を有する予熱管111と、予熱管111に接続され熱分解を行う筒状空間を有する反応管112と、を備える。また、予熱管111および反応管112の周囲には、予熱管111および反応管112内の温度を調節するためのヒータ12が配置されている。さらに、予熱管111および反応管112には、その各部の温度を測定し制御するための温度制御器TC1,TC2,TC3,TC4,TC5,TC6が配置されている。これによって、予熱管111および反応管112の内部の温度が適正に調節される。超音波噴霧器5から導入された霧状態にされた液滴は、この予熱管111および反応管112に導入されて、予熱管111の区間で、液滴表面から溶媒が蒸発し、溶質の析出、および乾燥のプロセスを、反応管112の区間で、熱分解のプロセスを経て、第1無機物粒子が生成する。
【0041】
このとき、予熱管111および反応管112における温度は、300℃〜800℃程度に調節される。また、予熱管111および反応管112の内部を流通する液滴を含む雰囲気ガスは、通常、0.5L/min〜4.0L/min程度の流量に調整される。この流量は、ガスボンベ1からの雰囲気ガスの流量を調整することによって、調整することができる。また、TC7は、熱分解反応炉11の反応管112の出口における温度を測定して制御するための温度制御器である。
【0042】
熱分解反応炉11の反応管112の出口には、拡散型静電捕集器14が配置されている。この拡散型静電捕集器14には、直流電圧を印加するための直流電圧電源13と、熱分解反応炉11の反応管112から導出される排出ガスに含まれる酸性排ガスを除去するための冷却トラップ15、未捕集粒子の回収のためのフィルター16および真空ポンプ18が接続されている。TC8は、拡散型静電捕集器14内の温度を測定して制御するための温度制御器である。そして、フィルター16から導出される排出ガスの流量を測定するための流量計17が配置され、また、フィルター16から導出される排出ガスの温度を測定するガス温度計T12が配置されている。この拡散型静電捕集器14において、熱分解反応炉11の反応管112における液滴の熱分解によって生成した第1無機物粒子を得ることができる。
【0043】
この噴霧熱分解装置MPにおける第1無機物粒子の製造は、まず、工程(A)によって構成成分の組成比、濃度等を調製され、原料溶液槽7に貯槽された原料溶液を、マイクロチューブポンプ6によって超音波噴霧器5に供給する。そして、超音波噴霧器5に供給された原料溶液は、霧状の液滴に形成される。霧状の液滴は、ガスボンベ1と、充填カラム2と、フィルター3と、流量計4とからなる液滴導入手段によって、雰囲気ガスとともに、熱分解反応炉11に導入される。熱分解反応炉11に導入された液滴は、予熱管111、反応管112を通って、蒸発、晶析、乾燥および熱分解され、第1無機物粒子が生成する。生成した第1無機物粒子は、拡散型静電捕集器14において捕集される。これによって、原料化合物の構成成分からなる第1無機物粒子が得られる。
【0044】
本発明の方法において、工程(C)は、工程(B)で得られた第1無機物粒子を1次焼成する工程である。この1次焼成は、特に制限されず、工程(B)で得られた第1無機物粒子を、通常、400〜1200℃、好ましくは500〜900℃の焼成温度で0.5〜6時間、燐酸化合物や非酸化物の場合では窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、およびその混合ガス等の雰囲気中で、酸化物の場合では空気、酸素、あるいはそれらと窒素、アルゴン等の不活性ガスの混合ガス雰囲気で焼成することによって行うことができる。焼成時の昇温速度および冷却速度は、通常、5〜10℃/分程度に調整される。
【0045】
また、1次焼成に用いる焼成炉は、特に制限されず、例えば、電気抵抗加熱炉、マイクロ波焼成炉等を用いることができる。
この1次焼成後の第1無機物粒子は、粒径が0.01〜50μm程度である。
【0046】
本発明の方法において、工程(D)は、工程(C)において1次焼成された第1無機物粒子と、導電性物質とを、遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合して、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子を形成する工程である。
【0047】
図2(a)に工程(D)で用いられる遊星ボールミルの概略図を示す。図2(a)に示す遊星ボールミル21は、矢印A方向に回転する回転台22と、回転台22上に軸受(図示せず)で回転自在に支持され、矢印B方向に自転する複数個のミルポット23とを有する装置である。この遊星ボールミル21において、各ミルポット23に、前記工程(C)で焼成された第1無機物粒子25と、導電性物質と、粉砕媒体であるボール24とを装入した後、ミルポット23を回転台22上に支持する。そして、回転台22の中心軸に設けられた太陽歯車と各ミルポット23の回転軸に設けられた遊星歯車との噛み合いによって、各ミルポット23は、中心軸の回りを矢印A方向に公転しながら自身の回転軸の回りを矢印B方向に自転する。これによって、各ミルポット23の内部においては、図2(b)に示すように、第1無機物粒子25と導電性物質とは、ボール24と衝突して粉砕されながら、公転および自転による遠心力を受けて混合される。そして、工程(C)で得られた、焼成された第1無機物粒子25は粉砕されてより微細になるとともに、導電性物質と混合されることによりその表面に導電性物質がコーティングされ、さらに粉砕・混合を続けることによってそれらが凝集して第2無機物粒子の凝集体が得られる。
【0048】
この遊星ボールミルによる乾式での粉砕・混合は、回転台22の回転数を100〜800回/分程度、ミルポット23の自転の回転数を200〜1600回/分程度行うことができ、粒子表面に導電性物質が十分にコーティングされた第2無機物粒子を得ることができることから、回転台22の回転数が300〜500回/分、ミルポットの自転の回転数が600〜1000回/分であることが好ましい。また、各ミルポット23に装入される第1無機物粒子と導電性物質の合計体積/ボール24の体積の割合は、通常、0.2〜3程度に調整される。また、粉砕媒体として用いられるボール24としては、ジルコニア製ボール、アルミナ製ボール、窒化けい素製ボール等が用いられ、その球径は、100〜10000μm程度のものが用いられる。
【0049】
また、用いられる導電性物質としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、白金、銅、導電性高分子等が挙げられる。中でも、安価で電子導電性が良いことから、カーボンブラックが好ましい。この導電性物質と第1無機物粒子とは、導電性物質/第1無機物粒子の質量比で1/99〜50/50の割合で用いることができる。
【0050】
工程(D)で得られる第2無機物粒子は、導電性の低い物質からなる第1無機物粒子の表面にのみ導電性物質がコーティングされたものである。そして、工程(D)における遊星ボールミルによる乾式での粉砕・混合を続けることによって、表面に導電物質がコーティングされた第2無機物粒子の凝集体を得ることができる。これらの表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子、およびその凝集体は、いずれも表面の導電性物質によって、導電路が確保されるため、荷電移動抵抗が減少し、全体として優れた導電性を得ることができる。
【0051】
この工程(D)において、遊星ボールミルによる乾式での粉砕・混合は、通常、1〜6時間程度行うことによって、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子を得ることができるが、さらに、遊星ボールミルによる乾式での粉砕・混合を、例えば、1〜36時間程度継続することによって、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子の凝集体を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の方法において、工程(D)で得られた第2無機物粒子、または粉砕・混合を続けて生成された第2無機物粒子の凝集体を2次焼成する工程(E)が行われる。
この工程(E)における2次焼成は、特に制限されず、工程(D)で得られた第2無機物粒子またはその凝集体を、通常、400〜1200℃程度、好ましくは500〜900℃程度の焼成温度で0.5〜6時間程度、燐酸化合物や非酸化物の場合では窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、およびその混合ガス等の雰囲気中で、酸化物の場合では空気、酸素、あるいはそれらと窒素、アルゴン等の不活性ガスの混合ガス雰囲気で焼成することによって行うことができる。焼成時の昇温速度および冷却速度は、通常、5〜10℃/分程度に調整される。
【0053】
また、2次焼成に用いる焼成炉は、特に制限されず、例えば、電気抵抗加熱炉、マイクロ波焼成炉を用いることができる。
この2次焼成後の無機物粒子は、粒径が0.1〜50μm程度である。
【0054】
本発明の方法によって製造される無機物粒子は、電子導電性に優れるため、各種用途に好適に用いることができる。特に、本発明の方法によって製造される、表面に導電性物質がコーティングされたLiFePO粒子は、電子導電性に優れるとともに、資源として豊富で安価な元素で構成されるため、希少で高価なコバルトの化合物であるコバルト酸リチウムに替えて、リチウム二次電池の正極材料として有用である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
原料溶液の調製:
原料塩として、ギ酸リチウム一水和物、塩化鉄四水和物、燐酸を用いた。これらを量論比(Li:Fe:P=1:1:1)で蒸留水に溶解させ、金属成分の総モル数が0.6mol/Lになるように調製した。なお、pH調節のため塩酸を0.05mol/L加えた。
【0057】
第1無機物粒子の製造
図1に示す構造の噴霧熱分解装置MPを用いて、第1無機物粒子を製造した。
まず、前記に調製された原料溶液を原料溶液槽7に貯槽された原料溶液を、マイクロチューブポンプ6によって超音波噴霧器5(医療用超音波ネブライザー(オムロン社製, NE−U12型)に供給した。そして、超音波噴霧器5に供給された原料溶液を、周波数1.7MHzの超音波によって霧状の液滴に形成した。生成した霧状の液滴を、ガスボンベ1と、充填カラム2と、フィルター3と、流量計4とからなる液滴導入手段によって、超音波噴霧器5内に導入される1dm/min(室温)の窒素ガスに同伴させ、熱分解反応炉11に導入した。このとき、熱分解反応炉11への霧状態の液滴の供給速度は、30ml/hであった。熱分解反応炉11は、500℃に設定された内径20mm、長さ1105mmの熱分解反応区間(反応管112)を有する。熱分解反応炉11に供給された液滴は、その予熱管111で、液滴表面から溶媒が蒸発し、溶質の析出、乾燥のプロセスを、反応管112の区間で、熱分解のプロセスを経て、最終的に熱分解反応炉11の出口で目的とするLiFePOからなる第1微粒子が得られた。生成した第1微粒子を、拡散型静電捕集器14において捕集した。なお、粒子の捕集は印加電圧9kVで行った。排出ガスは液体窒素で冷却して、含まれる酸性排ガスを除去した後に系外に放出した。
【0058】
1次焼成
前記に得られたLiFePOからなる第1微粒子を、3%水素を含む窒素ガス雰囲気において、600℃で4時間、1次焼成した。
【0059】
粒子のカーボンコーティングによる第2無機物粒子の凝集体の製造および2次焼成
1次焼成後の第1微粒子(LiFePO)を、遊星ボールミルを用いてカーボンの乾式コーティングを行った。カーボンはアセチレンブラックを用いた。遊星ボールミルにおいて、ジルコニアポットを用い、これに40gのジルコニアボールと1.5gの試料(LiFePO/アセチレンブラック=90/10の質量割合)を入れ、回転台の回転数400回/分、ミルポットの回転数800回/分で12時間、乾式で粉砕・混合を行い、表面に導電性物質であるアセチレンブラックがコーティングされたLiFePOからなる微粒子の凝集体を得た。さらに、アセチレンブラックでカーボンコーティングされたLiFePOからなる第2微粒子は、水素3%を含む窒素雰囲気下で、500℃で4時間2次焼成して、カーボンコーティングされたLiFePOからなる第2微粒子の凝集体を得た。
【0060】
(実施例2)
原料溶液の調製
原料塩として、塩化リチウム、塩化マンガン四水和物、燐酸を用いた。これらを量論比(Li:Mn:P=1:1:1)で蒸留水に溶解させ、金属成分の総モル数が0.06mol/Lである溶液を調製した。さらに、この溶液に0.1mol/Lのクエン酸を加え、これを原料溶液とした。
【0061】
第1無機物粒子の製造
基本的な装置の構造は実施例1で用いた装置と同様であるが、本実施例では横型の熱分解反応器を用いた。この熱分解反応器は、内径が90mm、長さが1500mmである。キャリアガスとしては3%水素を含む窒素ガスを用い、ガス流量は2dm/min(室温)とした。また、熱分解反応炉は700℃に設定した。
【0062】
1次焼成
前記で得られたLiMnPOからなる第1微粒子を、3%水素を含む窒素ガス雰囲気において、500℃で4時間、1次焼成した。
【0063】
粒子のカーボンコーティングによる第2無機物粒子の凝集体の製造および2次焼成
1次焼成後の第1微粒子(LiMnPO)を、遊星ボールミルを用いてカーボンの乾式コーティングを行った。カーボンはアセチレンブラックを用いた。遊星ボールミルにおいて、ジルコニアポットを用い、これにジルコニアボール40gと、試料(LiMnPO/アセチレンブラック=80/20の質量割合)1.0gを入れ、回転台の回転数400回/分、ミルポットの回転数800回/分で24時間、乾式で粉砕・混合を行い、表面に導電性物質であるアセチレンブラックがコーティングされたLiMnPOからなる第2微粒子の凝集体を得た。さらに、アセチレンブラックでカーボンコーティングされたLiMnPOからなる第2微粒子を、水素3%を含む窒素雰囲気下で、500℃で4時間2次焼成して、カーボンコーティングされたLiMnPOからなる第2微粒子の凝集体を得た。
【0064】
(実施例3)
原料塩として、硝酸リチウム、硝酸マンガン六水和物、燐酸を用い、これらを量論比(Li:Mn:P=1:1:1)で蒸留水に溶解させ、金属成分の総モル数が0.06mol/Lになるように調製し、1次焼成を省略した以外は、実施例2と同様にして、原料溶液の調製、第1無機物粒子の製造、粒子のカーボンコーティングによる第2無機物粒子の凝集体の製造および2次焼成を行って、カーボンコーティングされたLiMnPOからなる第2微粒子の凝集体を得た。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同一の原料溶液および同一条件で、噴霧熱分解によりLiFePO前駆体を合成し、さらに同一条件で二次焼成を行うことで単相のオリビン構造を有するLiFePOを得た。
【0066】
(比較例2)
原料溶液にカーボン原料としてクエン酸を0.11mol/L添加し、実施例1と同一条件で噴霧熱分解し、その後、同一条件で二次焼成を行うことで単相のオリビン構造を有するLiFePOとカーボンの複合体を得た。なお、このLiFePOとカーボンの複合体のカーボン含有量は2.0質量%であった。
【0067】
(比較例3)
実施例2と同一の原料溶液および同一条件で、噴霧熱分解によりLiMnPO前駆体を合成し、さらに同一条件で二次焼成を行うことで単相のオリビン構造を有するLiMnPOを得た。
【0068】
(比較例4)
実施例3と同一の原料溶液および同一条件で、噴霧熱分解により単相のオリビン構造を有するLiMnPOを得た。
【0069】
実施例1、比較例1および比較例2で得られた微粒子の凝集体または微粒子について、下記の方法にしたがって、凝集体の構造、比表面積の測定および結晶相の同定を行い、さらに、リチウム二次電池の正極活物質として用いたリチウム二次電池の充放電サイクル試験を行った。
【0070】
凝集体の構造
凝集体の構造は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所製、S−800)と透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL製、JEM−200CX)を用いて観察した。
【0071】
比表面積
BET法(島津製作所製、フローソーブII2300)により行った。測定には、150〜250mgの粒子試料を200℃で約30分乾燥したものを用い、測定は3回〜5回行い、脱着時の値の平均値を用いた。
【0072】
結晶相の同定
微粒子の結晶相の同定を、粉末X線回折分析装置(Philips社製、PW1700システム)を用いて行った。測定はCuKα1およびCuKα2線を用い、約50〜80mgの粒子試料について以下の条件で行った。
電圧 :40kV
電流 :30mA
時定数 :0.5s
走査速度 :0.04度/s
測定範囲 :4度≦2θ≦70度
【0073】
リチウム二次電池の評価
実施例1、比較例1および比較例2で得られた微粒子の凝集体または微粒子を用いて、リチウム二次電池の正極を作製した。まず、活物質として、各例で得られた微粒子、導電材としてアセチレンブラック、バインダー(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をそれぞれ質量%で70:20:10の割合でNMP(N−メチル−2−ピロリジノン)溶液に分散、混合し、ドクターブレード法によりアルミニウム箔に塗布してフィルム状に成形する。これを乾燥後、圧延し、正極を得た。なお、カーボンコーティングした微粒子の凝集体(実施例1)については、カーボンコーティングの際に添加したカーボンの量を含めて、前述の質量%で、リチウム二次電池の正極を得た。
【0074】
得られたリチウム二次電池の正極を用いて、リチウム二次電池であるCR2032型コインセルをそれぞれ作製した。このとき、負極には金属リチウム、電解液にはEC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)を1:1の割合(体積基準)で混合し、LiClOを1mol/dmになるように溶解させた溶液を、セパレータにはセルガード2400#、正極集電板(正極缶)及び負極集電板(負極端子)にはステンレス鋼を用いた。
【0075】
得られたリチウム二次電池について、様々な充放電速度で充放電を繰り返し、放電容量を測定した。
【0076】
(LiFePOについての結果、考察)
LiFePOに関する前記の実施例1および比較例1〜2について、比表面積の測定結果を下記の表1に、結晶相の同定の結果を図3に、実施例1で得られた第2無機物粒子の凝集体のSEM写真を図4に、その第2無機物粒子のTEM写真を図5に、および充放電サイクル試験の結果を図6および図7に示す。
【表1】

【0077】
まず、図3に示す粉末X線回折による結晶相の同定結果から、実施例1、比較例1および比較例2のいずれの場合においても、単相のオリビン構造を有する燐酸鉄リチウムLiFePOが合成できたことがわかる。
【0078】
図4に示すSEM写真から、実施例1で得られた粉体は粒径が400nm程度の第2無機物粒子の凝集体からなっていることがわかる。
さらに、図5のTEM写真から、この第2無機物粒子は、表面が数十ナノメートルのカーボン層で覆われたLiMnPO粒子であることがわかる。
【0079】
そして、表1に示すように、これらの微粒子の凝集体または微粒子の比表面積を測定したところ、比較例1では2.5m/g、比較例2では14.2m/gに対して、実施例1では46.5m/gとなり、極めて大きな値を示した。この結果より、実施例1は、電極反応に関与する反応面積が大きいため、電池特性に優れていることが予想される。
【0080】
図6は実施例1と比較例1の初期充放電曲線を示す。この図6において、実施例1の初期充放電曲線では、燐酸鉄リチウム特有の3.4V付近に大きなプラトーが見られる。また、初期放電容量も160mAh/gで、理論容量の94%に相当する高い放電容量を有し、初期の不可逆容量も全く見られない。これに対して、比較例1の初期充放電曲線では、初期の放電容量が100mAh/gであった。
この結果から明らかなように、表面に導電性物質を強固にコーティングしたLiFePOからなる粒子は、電子導電性が改善され、優れた電池特性を示すことがわかる。
【0081】
表2は、様々な充放電速度において得られた初期放電容量をまとめたものである。
【表2】

【0082】
表2に示すとおり、実施例1では、1C(充放電速度:10時間充電、10時間放電)で150mAh/g、3C(充放電速度:20分充電、20分放電)で133mAh/g、5C(充放電速度:12分充電、12分放電)で115mAh/gの極めて優れた電池特性を示した。これに対して、比較例1および比較例2においては、1Cの条件で初期放電容量は、それぞれ40mAh/g、92mAh/gであった。さらに、比較例2においては、3Cの条件で、初期放電容量は59mAh/gであった。このように、実施例1は、優れたレート特性を示している。
【0083】
図7は、様々な充放電速度におけるサイクル特性を示す。図7において、Cycle numberはサイクル数、Discharge capacityは放電容量を示す。実施例1の場合、1Cの条件では100サイクル後の容量劣化は初期放電容量に対して2.7%、3Cで200サイクル後の容量劣化は初期放電容量に対して2.3%、5Cで200サイクル後の容量劣化は初期放電容量に対して5.1%であった。これに対して、比較例2の場合では、1Cの条件で50サイクル後の容量劣化は初期放電容量に対して27.5%であった。このように、実施例1が充放電サイクル特性においても極めて優れていることを確認することができた。
【0084】
以上のとおり、LiFePOからなる粒子の表面にカーボンを強固にコーティングすることで、コーティングをしないものに比べ、0.1Cの条件で1.6倍、1Cの条件で3.75倍、さらには5Cの条件では、カーボンコーティングしない場合は、電池として作動しなかったが、それを行うことで極めて大きな放電容量を示した。したがって、何れの場合においても、実施例が比較例よりも優れた電池特性を示している。
【0085】
(LiMnPOについての結果、考察)
LiMnPOに関する前記の実施例2〜3および比較例3〜4について、比表面積の測定結果を下記の表3に、充放電サイクル試験の結果を表4および図8に示す。
【表3】

【0086】
表3に示すように、各例で得られた微粒子の比表面積において、比較例3では4.4m/g、比較例4では5.4m/gに対して、実施例3では40.0m/g、実施例4では29.4m/gとなり、極めて大きな値を示した。この結果より、実施例2および実施例3で得られた第2無機物粒子は、リチウム二次電池の正極材料として用いた場合、それぞれ比較例3、比較例4で得られた微粒子よりも電極反応に関与する反応面積が大きいため、優れた電池特性が得られることが予想される。
【0087】
表4は、様々な充放電速度において得られた放電容量をまとめたものである。
【表4】

【0088】
表4に示すとおり、実施例2での初期放電容量は、0.05Cで67mAh/g、0.1Cで47mAh/g、6サイクル後では、0.05Cで69mAh/g、0.1Cで49mAh/gであった。また、実施例3での初期放電容量は、0.05Cで74mAh/g、0.1Cで60mAh/g、6サイクル後では、0.05Cで96mAh/g、0.1Cで83mAh/gであった。これらに対して、比較例3および比較例4では、電池として作動しなかった。
【0089】
図8は、実施例3について、充電速度を0.01C、放電速度を0.1Cの条件で充放電試験を行った場合の初期充放電曲線を示す。この図8において、実施例3の初期充放電曲線では、燐酸マンガンリチウム特有の4.0V付近に大きなプラトーが見られる。また、初期放電容量も105mA/gで、理論容量の62%に相当する高い放電容量を有している。
【0090】
したがって、LiFePOの場合と同様に、LiMnPOからなる粒子の表面にカーボンを強固にコーティングし、さらにその凝集体を作製することで、コーティング処理をしない場合に比べ、極めて優れた電池特性を示すことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】噴霧熱分解装置を示す概略図である。
【図2】(A)は、遊星ボールミルを説明する概念図、(B)は、遊星ボールミルのミルポット内の粉砕物およびボールの動作を説明する概念図である。
【図3】結晶相の同定結果を示す粉末X線回折スペクトルである。
【図4】実施例1で得られた第2無機物粒子の凝集体のSEM写真である。
【図5】実施例1で得られた第2無機物粒子のTEM写真である。
【図6】実施例1と比較例1における充放電サイクル試験の初期充放電曲線を示す図である。
【図7】実施例1と比較例1における様々な充放電速度におけるサイクル特性を示す図である。
【図8】実施例3における充放電サイクル試験の初期充放電曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
MP 噴霧熱分解装置
1 ガスボンベ
2 充填カラム
3 フィルター
4 流量計
5 超音波噴霧器
6 マイクロチューブポンプ
7 原料溶液槽
8 ポンプ
9 恒温槽
10 冷凍機
11 熱分解反応炉
111 予熱管
112 反応管
12 ヒータ
13 直流電圧電源
14 拡散型静電捕集器
15 冷却トラップ
16 フィルター
17 流量計
18 真空ポンプ
21 遊星ボールミル
22 回転台
23 ミルポット
24 ボール
25 第1無機物粒子
TC1,TC2,TC3,TC4,TC5,TC6,TC7,TC8 温度制御器
T11,T12 ガス温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粒子の製造方法であって、
前記無機物粒子の構成成分を含む原料化合物の溶液を調製する工程(A)と、
前記原料化合物の溶液を噴霧熱分解処理して第1無機物粒子を形成する工程(B)と、
前記第1無機物粒子を1次焼成する工程(C)と、
前記1次焼成された無機物粒子と、導電性物質とを、遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合して、表面に導電性物質がコーティングされた第2無機物粒子を形成する工程(D)と、
前記第2無機物粒子を2次焼成する工程(E)と、
を含むことを特徴とする無機物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(D)において、前記遊星ボールミルを用いて乾式で粉砕・混合を続けて、前記第2無機物粒子の凝集体を形成することを特徴とする請求項1に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1無機物粒子が、Fe、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種と、Liとを含む無機物で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1無機物粒子が、リチウムを含むリン酸塩で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1無機物粒子が、リチウムを含むケイ酸塩で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1無機物粒子が、LiFePOで形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記導電性物質が、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(B)の噴霧熱分解処理を300〜800℃で行うことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(C)の1次焼成温度が400〜1200℃であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の無機物粒子の製造方法。
【請求項10】
前記工程(D)の遊星ボールミルの回転台の回転数が300〜500回/分、ミルポットの自転の回転数が600〜1000回/分であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の無機物粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−62256(P2009−62256A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268170(P2007−268170)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】