説明

無機粒子バインダー組成物

【課題】安全性が高く、無機粒子に混合し、乾燥や焼結する等の比較的簡便な方法で、無機粒子同士の接着性を高めるバインダー効果を有する無機粒子バインダー組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、下記成分(A)及び成分(B)
(A)チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする無機粒子バインダー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子を結合する(バインドする)ための、チタンを含有する無機粒子バインダー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機粒子のバインダーの分野において、無機系コーティング剤、無機塗料、無機粒子を使用した自動車部品、不燃処理剤等に関しては、様々な分野で検討がされており、高いバインダー効果を有するものが求められている。特に、無機系コーティング剤や無機塗料に関しては、成膜後の密着性、硬さといった膜物性が求められている。
【0003】
これら無機粒子のバインダーとしては、フェノール樹脂等の有機バインダーを用いる例や、金属アルコキシド等の無機バインダーを使用する例が知られている。
【0004】
しかし、これらの方法では、フェノール樹脂から発生する気体が人体に対して有害であることや、金属アルコキシドを使用した場合、強固な結合をさせるためには、無機粒子との混合割合を制御する必要があり、非常に煩雑になる。また、乾燥固化後の耐水性が乏しい等の問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、チタンアルコキシドのモノマーとシランカップリング剤を組み合わせてバインダー組成物を合成し、使用する方法が開示されているが、チタンアルコキシドのモノマーの反応性は、シランカップリング剤を組み合わせても、その活性は殆ど抑制されず、高い反応性を有するため、空気中の水分等と反応し、ゲル化、経時による性能劣化等を生ずるといった問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭52−112622号公報
【特許文献2】特開平10−225640号公報
【特許文献3】特開2004−315568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、安全性が高く、無機粒子に混合し、乾燥や焼結する等の比較的簡便な方法で無機粒子同士の結合性を高めるバインダー効果を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、チタン化合物オリゴマーに対し、特定のシリコン化合物を溶媒中で混合又は反応させた複合化合物を含有する無機粒子バインダー組成物を、Ti、Zr、Al、Zn、Si、In、Sn、Sb、Mg、V、Nbの少なくとも1つの金属原子を含む、金属粒子若しくは金属酸化物粒子に混合し、乾燥や焼結する等の簡便な方法によって、接着性を向上することを見出して本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも、下記成分(A)及び成分(B)
(A)チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする無機粒子バインダー組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、Ti、Zr、Al、Zn、Si、In、Sn、Sb、Mg、V及びNbよりなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子を含む「金属粒子若しくは金属酸化物粒子」を結合する用途に用いられる上記の無機粒子バインダー組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の無機粒子バインダー組成物及び無機粒子を用いて得られたことを特徴とするセラミックス材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無機粒子バインダー組成物によれば、無機粒子同士を結合することができる。すなわち、従来の無機粒子をその中に埋め込むだけのバインダー組成物とは異なり、無機粒子を表面処理することによって、無機粒子同士を極めて強固に直接結合することができる。具体的には、本発明の無機粒子バインダー組成物によれば、無機粒子に対して、添加し、乾燥又は熱硬化した状態で、「反応性を有するチタン化合物でもありケイ素化合物でもある化合物」を介して、無機粒子同士を結合することができる。すなわち、本発明の無機粒子バインダー組成物中に含まれるかかる化合物が、無機粒子表面が有する水酸基やカルボキシル基等の官能基と接触することで反応し、無機粒子同士の結合性を高めることができる。
【0013】
また、本発明の無機粒子バインダー組成物は、反応性、表面改質性、粒子同士の結合性等に優れるため、Ti、Zr、Al、Zn、Si、In、Sn、Sb、Mg、V、Nb等の金属原子を含む金属粒子、金属酸化物粒子等といった表面に官能基が少ない無機粒子に対しても良好な反応性を発揮し、簡便な方法で無機粒子同士を結合できる。
【0014】
また、その結果、本発明の無機粒子バインダー組成物と無機粒子とを含有する塗膜、成型体等は、基板に対する密着性、製膜性、擦過やひっかき等による機械的強度、耐久性等が極めて良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0016】
本発明の無機粒子バインダー組成物は、少なくとも、下記の成分(A)及び成分(B)を含有する。
(A)チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
【0017】
成分(A)の原料であるチタン化合物オリゴマー(a1)は特に限定はないが、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものが好ましい。
【化1】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【0018】
縮合前の出発物質である「式(1)で表されるチタンアルコキシド」としては、式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基であるが、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基であるものがより好ましく、それぞれ独立に炭素数1〜5個のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0019】
「式(1)で表されるチタンアルコキシド」としては、以下の具体例に限定はされないが、例えば、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラノルマルプロポキシチタネート、テトライソプロポキシチタネート、テトラノルマルブトキシチタネート、テトライソブトキシチタネート、ジイソプロポキシジノルマルブトキシチタネート、ジターシャリーブトキシジイソプロポキシチタネート、テトラターシャリーブトキシチタネート、テトライソオクチルチタネート、テトラステアリルアルコキシチタネート等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0020】
縮合前の出発物質としては、上記した「式(1)で表されるチタンアルコキシド」のほかに、「式(1)で表されるチタンアルコキシド」に、キレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物も好ましいものとして挙げられる。キレート化剤としては特に限定はないが、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが、チタン化合物の加水分解等に対する安定性を向上する点で好ましい。
【0021】
β−ジケトン化合物としては、2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、ジベンゾイルメタン、テノイルトリフルオロアセトン、1,3−シクロヘキサンジオン、1−フェニル1,3−ブタンジオン等が挙げられ、β−ケトエステルとしては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル、メチルピバロイルアセテート、メチルイソブチロイルアセテート、カプロイル酢酸メチル、ラウロイル酢酸メチル等が挙げられ、多価アルコールとしては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール等が挙げられ、アルカノールアミンとしては、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルジエタノールアミン、N−ターシャリーブチルエタノールアミン、N−ターシャリーブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられ、オキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上併用できる。
【0022】
上記「式(1)で表されるチタンアルコキシド」又は「該チタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物」が縮合することによってチタン化合物オリゴマー(a1)が得られる。ここで縮合させる方法としては特に限定はないが、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行うことが好ましい。
【0023】
縮合してオリゴマー化するために用いる水の量については、チタンアルコキシド及び/又はチタンキレート化合物1モルに対し、すなわちチタン原子1モルに対して、水のモル数が0.05〜5.0モルであることが好ましく、0.1〜3.0モルであることがより好ましく、0.2〜2.0モルであることが特に好ましい。
【0024】
加水分解による縮合時には、アルコール等の溶剤を用い、場合により還流等の熱処理を経由し、チタン化合物オリゴマー(a1)を得ることが好ましい。このとき用いられるアルコールとしては特に限定はないが、上記式(1)中のアルキル基R〜Rのアルコールが、チタン化合物オリゴマーの反応性を変化させない点で好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0025】
かかるアルコールの使用量は特に限定はないが、縮合してオリゴマー化するために用いる水の量を0.5〜20質量%の濃度になるようにアルコールを用いて希釈することが好ましく、更に好ましくは0.7〜15質量%、特に好ましくは1.0〜10質量%の濃度になるように希釈する。
【0026】
加水分解により縮合してオリゴマー化して得られたチタン化合物オリゴマー(a1)は、平均で、2〜50量体が好ましく、2〜30量体がより好ましい。
【0027】
成分(A)の原料であるチタン化合物オリゴマー(a1)は、上記したチタン化合物オリゴマーに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものであることも好ましい。すなわち、上記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、それにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものも好ましい。すなわち、縮合前及び/又は縮合後に、キレート化剤を反応させた構造のものは、チタン化合物オリゴマーの加水分解等に対する安定性を高める点で好ましい。
【0028】
縮合後に用いるキレート化剤としては特に限定はないが、前記したキレート化剤が好適に使用できる。特に好ましくは、β−ジケトン、β−ケトエステル又はアルカノールアミンである。
【0029】
本発明の無機粒子バインダー組成物に含有される成分(A)は、上記したチタン化合物オリゴマー(a1)に対し、「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」を反応させた構造又は混合させた組成を有するものである。
【0030】
「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」としては、特に限定はないが、シランカップリング剤や、ケイ素原子に4個のアルコキシ基が結合したシリコン化合物等が挙げられる。このうち、メチル基、アミノ基、メルカプト基又はエポキシ基を含有するものが、成膜後の密着性、硬さを高める点で好ましい。また、ケイ素原子にアルキル基であり、特に、メチル基が結合した構造を有するものも成膜後の密着性、硬さを高める点で好ましい。また、上記化合物の部分加水分解縮合物も好適に使用できる。
【0031】
「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」の種類としては、以下に限定されるわけではないが、例えば、モノメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、γ−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0032】
成分(A)は、上記した「チタン化合物オリゴマー(a1)」に、「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」を反応させることによって得られる構造を有することが好ましい。ここで、反応方法には特に限定はないが、(a1)、(a2)及び溶剤を混合した後、使用した溶剤の沸点にて還流し、反応を進行させることが好ましい。なお、配合の順序に規定は無い。
【0033】
「チタン化合物オリゴマー(a1)」と「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」との使用割合は特に限定はないが、(a1)と(a2)の質量比が(a1)/(a2)=0.1/50〜50/0.1質量比が好ましく、(a1)/(a2)=0.5/25〜25/0.5より好ましく、1/20〜20/1の質量比が特に好ましい。(a1)/(a2)の比率において、(a1)が少なすぎると、反応性、製膜性、粒子同士の接着性を低下させる原因となり、一方、(a1)が多すぎると、反応性、製膜性、粒子同士の接着性を低下させ、加水分解性等の安定性が不足する場合がある。
【0034】
成分(A)の構造については、上記製造方法で得られる構造を有するものであれば、特定の製造方法で製造されたものには限定されない。成分(A)の構造としては、チタン化合物オリゴマー(a1)の末端であるアルコキシル基とシリコン化合物に存在するアルコキシル基が空気中の水分や未反応の水を介して反応し、Ti−O−Siのように結合した構造やシリコン化合物に存在するアミノ基、メルカプト基等の官能基がチタン原子に配位した構造が好ましい。
【0035】
成分(A)は、チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を混合させた組成を有するものであってもよい。「混合させた組成」には、全量反応が進まず未反応のまま残ったものが混合している場合も含まれる。
【0036】
「成分(A)複合化合物」には、少なくとも以下の5形態があり、何れでもよい。
(1)(a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの
(2)(a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの及び(a1)の混合物
(3)(a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの及び(a2)の混合物
(4)(a1)及び(a2)の混合物
(5)(a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの、及び(a1)、(a2)の混合物
このうち、態様(5)の「((a1)と(a2)の反応により得られる構造を有するもの、及び(a1)、(a2)の混合物」が好ましい。
【0037】
本発明の無機粒子バインダー組成物は、成分(B)溶剤を必須成分として含有する。溶剤としては特に限定はないが、基材や、無機粒子に対して濡れ性の高い溶剤が好ましい。好ましい溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤等が挙げられる。具体的には、炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられ、エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等が挙げられ、アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等が挙げられ、グリコール系溶剤としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。溶剤の基材や無機粒子表面に対するぬれ性、表面張力、チタン化合物オリゴマーの安定性等を考慮して、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0038】
本発明の無機粒子バインダー組成物中の、成分(A)の含有割合は特に限定はないが、無機粒子バインダー組成物100質量部中に、成分(A)0.1〜50質量部が含有されていることが好ましく、0.5〜40質量部の含有がより好ましく、0.7〜35質量部の含有が特に好ましく、1.0〜30質量部の含有が更に好ましい。
【0039】
本発明の無機粒子バインダー組成物が適用される無機粒子は特に限定されず、金属粒子、合金粒子、酸化物粒子、窒化物粒子、炭化物粒子、無機塩粒子等が挙げられる。また、セラミックス、サーメット(セラミックスと金属の組合せからなる焼結材料)等も挙げられる。
【0040】
本発明の無機粒子バインダー組成物は、Ti、Zr、Al、Zn、Si、In、Sn、Sb、Mg、V及びNbよりなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子(以下、「特定金属原子」と略記する)を含む「金属粒子若しくは金属酸化物粒子」を結合するため用に特に好適に使用できる。「特定金属原子を含む金属粒子」には、特定金属原子を含む合金の粒子も含まれる。また、「金属酸化物粒子」には、複数の金属の酸化物粒子も含まれ、複合酸化物も含まれる。また、「酸化物」には、チタン酸、ジルコン酸、アルミン酸等の金属酸も含まれる。
【0041】
特定金属原子を含む「金属粒子若しくは金属酸化物粒子」としては、特に制限はなく使用できるが、具体的には例えば、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ等の酸化物、チタン酸バリウム、チタンジルコン酸鉛等の複合酸化物等が挙げられる。
【0042】
本発明の無機粒子バインダー組成物を、無機粒子に用いる場合は、必要に応じて「希釈有機溶剤」を用いて希釈してから無機粒子と配合してもよい。「希釈有機溶剤」については、特に限定はないが、各種基材に対して濡れ性の高い溶剤が好ましい。好ましい「希釈有機溶剤」としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。「希釈有機溶剤」は、無機粒子へのぬれ性、各種基材に対して濡れ性、成分(B)溶剤との相溶性、塗布液の安定性等を考慮して、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0043】
本発明の無機粒子バインダー組成物を、無機粒子に配合する場合、その配合量は特に限定はないが、無機粒子50質量部に対して、本発明の無機粒子バインダー組成物1〜90質量部が好ましく、1〜80質量部がより好ましく、1〜60質量部が特に好ましい。
【0044】
本発明の無機粒子バインダー組成物を無機粒子に配合し、無機塗料を調製して、これを基材表面に塗布する場合の塗布量は特に限定はないが、乾燥後の塗布量としては0.01〜20g/mが好ましく、0.05〜10g/mがより好ましく、0.1〜5g/mが特に好ましい。
【0045】
本発明の無機粒子バインダー組成物を無機粒子に配合して得られた無機塗料を基材に塗布した後に、乾燥又はその後に焼成することが、無機粒子同士の結合性を高める点で好ましい。乾燥温度は特に限定はないが、25℃〜150℃が好ましく、50℃〜130℃が特に好ましい。焼成温度は特に限定はないが、150℃〜900℃が好ましく、200℃〜400℃が特に好ましい。焼成時間は特に限定はないが、10秒〜2時間が好ましく、30秒〜1時間が特に好ましい。
【0046】
本発明の無機粒子バインダー組成物は、無機粒子、特に、特定金属原子を含む「金属粒子若しくは金属酸化物粒子」等の接着性を高めるために用いられることが好ましいが、本発明の無機粒子バインダー組成物を使用して得られるセラミックス材料は、無機粒子同士の結合性が高いことより、セラミックス材料としての物理的な強度を高めることができる。
【0047】
本発明の無機粒子バインダー組成物は、金属酸化物粒子若しくは金属粒子のセラミックス又はサーメットの強度向上剤として好適に使用できる。本発明の無機粒子バインダー組成物が、優れた強度を与える作用・原理は明らかではなく、本発明は以下の作用・原理の範囲に限定されるものではないが、以下のことが考えられる。すなわち、チタン化合物オリゴマー(a1)を使用することにより、製膜される膜が緻密化されることが考えられ、また、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を併用することによって、粒子表面に存在する水酸基やカルボキシル基等の官能基と反応することで、粒子同士の結合性、接着性等を高めていると考えられる。これらの事象より、セラミックス材料に用いた場合、粒子単独で使用するよりも強度が高まると考えられる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0049】
製造例1
[チタン化合物オリゴマーA(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート)の合成]
テトライソプロポキシチタニウム28.4g(0.10モル)をイソプロパノール25.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とイソプロピルアルコール20.0gとアセチルアセトン20.0g(0.2モル)の混合液を滴下した。滴下終了後、30分間還流し、テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナートを得た。これを「チタン化合物オリゴマー溶液A」とする。
【0050】
製造例2
[チタン化合物オリゴマーB(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート)の合成]
テトライソプロポキシチタニウム28.4g(0.10モル)に対する水の量を水2.2g(0.12モル)とした以外は、製造例1と同様の方法で、テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナートを得た。これを「チタン化合物オリゴマー溶液B」とする。
【0051】
製造例3
[チタン化合物オリゴマーC(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート)の合成]
テトラノルマルブトキシチタニウム34.0g(0.10モル)をノルマルブタノール12.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とノルマルブタノール24.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、30分間還流した。これにアセチルアセトン20.0g(0.20モル)を滴下した。滴下終了後、30分間還流し、テトラブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナートを得た。これを「チタン化合物オリゴマー溶液C」とする。
【0052】
製造例4
[チタン化合物オリゴマー溶液D(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート)の合成]
テトラノルマルブトキシチタニウム34.0g(0.10モル)をノルマルブタノール12.0gに溶解させた後、水1.8g(0.10モル)とノルマルブタノール24.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、30分間還流した。これにアセチルアセトン20.0g(0.20モル)を滴下した。滴下終了後、30分間還流し、テトラブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナートを得た。これを「チタン化合物オリゴマー溶液D」とする。
【0053】
実施例1
製造例1で製造したチタン化合物オリゴマー溶液A(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、エチレングリコール10質量%、及びγーグリシドキプロピルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0054】
実施例2
製造例1で製造したチタン化合物オリゴマー溶液A(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、1,2−プロパンジオール10質量%、及びγーグリシドキプロピルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0055】
実施例3
製造例2で製造したチタン化合物オリゴマー溶液B(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、エチレングリコール5質量%、1,2−プロパンジオール5質量%、及びγーグリシドキプロピルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0056】
実施例4
製造例3で製造したチタン化合物オリゴマー溶液C(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、イソプロパノール5質量%、トルエン5質量%、及びγーグリシドキプロピルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0057】
実施例5
製造例2で製造したチタン化合物オリゴマー溶液B(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、エチレングリコール10質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0058】
実施例6
製造例3で製造したチタン化合物オリゴマー溶液C(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、1,2−プロパンジオール5質量%、イソプロパノール5質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0059】
実施例7
製造例4で製造したチタン化合物オリゴマー溶液D(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、エチレングリコール6質量%、イソプロパノール5質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0060】
実施例8
製造例1で製造したチタン化合物オリゴマー溶液A(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、イソプロパノール5質量%、トルエン5質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0061】
実施例9
製造例1で製造したチタン化合物オリゴマー溶液A(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、エチレングリコール10質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0062】
実施例10
製造例2で製造したチタン化合物オリゴマー溶液B(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート溶液)80質量%(0.1モル)、1,2−プロパンジオール10質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0063】
比較例1
エチレングリコール90質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0064】
比較例2
1,2−プロパンジオール90質量%、及びγ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0065】
比較例3
イソプロパノール45質量%、トルエン45質量%、及びγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン10質量%(0.05モル)を混合して無機粒子バインダー組成物を得た。
【0066】
比較例4
実施例1においてチタン化合物オリゴマーA(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート)を、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)に代えた以外は、実施例1と同様にして、無機粒子バインダー組成物を得た。
【0067】
比較例5
実施例1においてチタン化合物オリゴマーA(テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーアセチルアセトナート)を、テトライソプロポキシドチタンに代えた以外は、実施例1と同様にして、無機粒子バインダー組成物を得ようとしたが、短時間で白濁液体となってしまった。従って、無機粒子バインダー組成物が得られなかったため、以下の評価は行わなかった。
【0068】
【表1】

表1中の数値は、無機粒子バインダー組成物全体中の各成分の質量%である。
表1中の(B)溶剤の質量%の数値には、チタン化合物オリゴマー溶液中の溶媒は含まれていない。
【0069】
評価例1
「希釈有機溶剤」として、トルエン50gとイソプロパノール50gの混合溶剤と、酸化チタン粉末(堺化学社製、R32)10g、及び実施例1〜10、比較例1〜5の無機粒子バインダー組成物10gを、各々ボールミル混錬して無機塗料を調製した。これらの無機塗料を、厚さ5mmのガラス板、鏡面ステンレス板に、それぞれバーコーターNo.4で、乾燥膜厚0.5g/mで塗布した。その後、200℃にて30分乾燥した。得られた塗膜について以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
[クロスカット試験]
クロスカット試験をJIS K−5600−5−6に準拠した方法により行い、以下の基準で判定した。
◎:100%、○:90〜99%、△:70〜89%、×:70%未満
【0071】
[ラブオフ試験(擦過試験)]
得られた塗膜表面を指で強く擦った後、擦過した表面に対する脱落しなかった部分の面積を目視で観察し、以下の基準で判定した。
◎:100%、○:90〜99%、△:70〜89%、×:70%未満
【0072】
[耐煮沸試験]
得られた塗膜を100℃の沸騰水中に2時間浸漬した後、クロスカット試験をJIS K−5600−5−6に準拠した方法により行い、以下の基準で判定した。
◎:100%、○:90〜99%、△:70〜89%、×:70%未満
【0073】
[鉛筆ひっかき硬度試験]
鉛筆引っかき試験をJIS K−5600−5−4に準拠した方法により行った。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例1〜10の無機粒子バインダー組成物で各基材の表面を処理した場合、評価した何れの基材に対しても、クロスカット試験、鉛筆引っかき硬度試験、ラブオフ試験、及び耐煮沸試験の何れの結果も良好であり、また、何れも平滑性に優れており、何れもクラックの発生は認められなかった。一方、比較例1〜4をバインダーとして用いた塗膜は、全ての試験において、本発明の無機粒子バインダー組成物を用いた場合より劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の無機粒子バインダー組成物は、ガラス、金属、セラミックス等、あらゆる基材に対して、接着性、強度等に優れた無機系皮膜を形成することができることから、無機粒子を使用した塗料等の産業分野に広く利用されるものである。特に、無機粒子の結合体、集合体等の強度の向上ができることより、強度が必要とされるセラミックス材料等の産業分野への利用が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記成分(A)及び成分(B)
(A)チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする無機粒子バインダー組成物。
【請求項2】
該チタン化合物オリゴマー(a1)が、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものである請求項1記載の無機粒子バインダー組成物。
【化1】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【請求項3】
該チタン化合物オリゴマー(a1)が、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものである請求項1記載の無機粒子バインダー組成物。
【化2】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【請求項4】
上記縮合が、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行われたものである請求項2又は請求項3記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項5】
上記縮合が、チタンアルコキシド及び/又はチタンキレート化合物1モルに対し、アルコール溶液中で、水0.2〜2モルを反応させることにより行われたものである請求項2ないし請求項4の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項6】
該キレート化剤が、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2ないし請求項5の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項7】
式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基である請求項2ないし請求項6の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項8】
分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)が、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項9】
分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)が、アミノ基、メルカプト基又はエポキシ基を含有するものである請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項10】
Ti、Zr、Al、Zn、Si、In、Sn、Sb、Mg、V及びNbよりなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子を含む、金属粒子若しくは金属酸化物粒子を結合するため用の請求項1ないし請求項9の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の無機粒子バインダー組成物及び無機粒子を用いて得られたことを特徴とするセラミックス材料。

【公開番号】特開2010−6997(P2010−6997A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169696(P2008−169696)
【出願日】平成20年6月28日(2008.6.28)
【出願人】(000188939)マツモトファインケミカル株式会社 (26)
【Fターム(参考)】