説明

無機粒子凝集体

【課題】原料として製紙スラッジ等の廃棄物を使用し、従来の再生無機粒子では得られなかった、製紙時における歩留性、嵩高性、表面平坦性、印刷適、吸油性に優れた無機粒子凝集体を提供する。
【解決手段】廃棄物を焼成して得られた無機粒子凝集体であって、カルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、かつ、前記カルシウム、前記シリカ及び前記アルミニウムの合計含有割合が、90質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工場の排水処理工程で排出される填料や顔料を含有する排水スラッジ、古紙処理工程の古紙溶解工程や異物除去工程で排出される製紙スラッジ、古紙脱墨工程で排出される脱墨フロス等の製紙スラッジ、原料調整工程で排出される製紙スラッジなどを焼成して得られた、製紙用の填料や顔料、あるいは充填剤、断熱材、防音材などとして利用することができる、好適には製紙スラッジ由来の無機粒子凝集体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機粒子は農薬の展着剤・増量剤、塗料・印刷インクの体質顔料、ゴム類の補強剤、プラスチック類(成形品、フィルム、繊維など)の充填剤・改質剤などとして利用されている。ここでは、白色顔料としての使用量が最も多い製紙産業での利用形態を代表例として記載する。
【0003】
製紙の技術分野においては、紙の白色度、不透明度、紙表面の平坦性、印刷時の網点再現性の向上などを目的として、近年、要求が高まっている紙の軽量化を進めるにあたっての不透明度、裏抜け対策を目的として、抄紙における湿紙の乾燥速度の向上・乾燥エネルギーコストの削減を目的として、増量材効果による原料コストの削減を目的として、あるいは紙表面の諸特性を改善するためにパルプを主とする基紙上に設ける塗工層用顔料として用いられている。
【0004】
このような製紙用の填料、顔料としては、白土(含水ケイ酸アルミニウム)、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、硫化亜鉛、二酸化チタン、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、シリカなどが知られており、単独又はこれらを適宜組み合わせて用いられている。
【0005】
以下、本明細書記載の「填料」とは、製紙において抄紙時の原料調整工程で添加するいわゆる内添填料をいう。また、本明細書記載の「顔料」とは、塗被紙製造時において塗被組成物中に添加する顔料をいう。
【0006】
製紙工程においては、製紙原料であるパルプなどの繊維分、澱粉や合成接着剤などの有機物、紙製品に歩留らずに排水中に含まれて処理される前記製紙用填料・顔料を主とする無機物、さらには、パルプ化工程で洗い出されたリグニンや古紙由来の製紙用顔料、それに付着した印刷インク、また生物排水処理工程で生じる余剰汚泥などからなる、いわゆる製紙スラッジが発生する。近年、古紙利用率が高まるにつれて、古紙の脱墨工程由来の製紙スラッジが増加の一途を辿っている。
【0007】
これらの製紙スラッジは、回収され、流動床炉やストーカー炉などの焼却炉で製紙スラッジ中の有機物を燃焼して製紙スラッジの減容化を図るとともに、エネルギーとして回収されている。しかしながら、製紙スラッジには、多量の無機物が含有されているため、燃焼しても多量の燃焼灰(無機物)が残り、減容化にも限度がある。そこで、この燃焼灰をセメント原料として活用することや、土壌改良剤として活用すること等の努力もなされている。しかし、これらは、セメント原料や土壌改良剤の助剤として焼却灰を利用する方法で、その使用量はわずかなものであり、結局、大部分の燃焼灰は埋立処分されているのが実情である。
【0008】
このため、焼却によってエネルギーとして回収されている有機物だけでなく、焼却灰として残る無機物を製紙用填料、顔料として再利用することは、製紙業界において古紙利用率の向上とともに環境問題に関わる重要な改善課題である。しかしながら、単なる製紙スラッジの焼却灰には燃焼されずに残った有機物がカーボンとして含まれるため白色度が低く、あるいは、無機物の焼結が進んだりして、粒径が不揃いで大きくなっており、そのままの状態では紙の填料や塗工用顔料として使用するのに適さない。そこで、特許文献1は燃焼灰(焼却灰)を再燃焼し、白色度を向上させてから使用する方法を開示している。
【0009】
しかしながら、焼却灰を再燃焼する方法による場合、再燃焼温度を500〜900℃に設定すると、焼却灰の白色度は50%程度にまでしか向上せず、紙の填料や塗工用顔料として使用するに適するものとはならないことが知見された。また、再燃焼温度を900℃超に設定すると、燃焼灰(無機物)が焼結、溶融し、極めて硬くなることが知見された。また、再燃焼灰を填料として使用すると、この再燃焼灰は非常に硬い性質をもつため、抄紙ワイヤーの磨耗進行が早く、抄紙ワイヤーの寿命が非常に短くなるため、実操業には使用できるものではなかった。また、この再燃焼灰を塗工用顔料として使用すると、再燃焼灰が非常に硬い性質であるため、カレンダー処理を行ってもその塗工層表面の平滑性が劣るという問題が生じる。
【0010】
この点、再燃焼灰を粉砕し、その粒径を小さくして、磨耗の低減、平滑性の向上を図ることも考えられるが、内添填料として使用する場合には、抄紙時における歩留りが低いものであったり、燃焼灰自体が極めて硬いため、粉砕のためのエネルギーコストが極めて高いものとなったりする。
【0011】
また、特許文献2のように、スラッジを、酸素含有ガスを注入した反応器内に供給し、250〜300℃、3000psig程度の加温加圧下で0.25〜5時間酸化して、製紙スラッジ中の無機物を製紙用の顔料として再生化する方法が提案されている。
【0012】
しかし、この方法は、スラッジの湿式空気酸化処理によるものであるから、有機物除去が十分でなく、また、得られた顔料の白色度が低く、粒径も不揃いで、しかも反応操作が複雑でコストが高いとう問題がある。
【0013】
一方、特許文献3には、製紙スラッジをいぶし焼きしてPS炭とした後、さらにこれをキルンで焼却して製紙用原料となる白土を生成させる方法が提案されている。しかし、この方法は製紙スラッジをいぶし焼きするため、製紙スラッジからエネルギーを有効に取り出すことができないばかりか、逆に投入エネルギーが必要になるという大きなデメリットがある。さらに、生成した白土も粒径が不揃いで大きくなっており、製紙用顔料としては使用できないとう問題がある。
【0014】
すなわち、従来公知の方法により得られた無機粒子を抄紙工程において内添する場合には歩留りの安定性が得られず、塗工紙用顔料を調整する際の分散状態が不安定となる場合が多く、塗工層の表面処理において所定の紙厚では平滑性が得られず、画線の明瞭性が低下するなど、品質として不安定なものであった。
【特許文献1】特開平11‐310732号公報
【特許文献2】特公昭56−27638号公報
【特許文献3】特開昭54−14367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らはこれらの問題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、無機粒子を形成する成分構成とそれらの成分が粒子全体に占める割合によって解決できることを見出した。したがって、本発明が解決しようとする主たる課題は、原料として製紙スラッジ等の廃棄物を使用し、従来の再生無機粒子では得られなかった、製紙時における歩留性、嵩高性、表面平坦性、印刷適正、吸油性に優れた無機粒子凝集体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
廃棄物を焼成して得られた無機粒子凝集体であって、
カルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、
かつ、前記カルシウム、前記シリカ及び前記アルミニウムの合計含有割合が、90質量%以上である、ことを特徴とする無機粒子凝集体。
【0017】
(作用効果)
・ 本発明の無機粒子凝集体は、廃棄物を焼成して得られたもの、つまり原料として廃棄物が使用されているので、廃棄物が増えるとの問題が生じず、また、原料が安価であることによって製造コストが削減される。
・ 本発明の無機粒子凝集体は、顔料として塗工液に添加した場合において、バインダーや分散剤との相性が良く、高濃度での分散特性に優れるため、塗工層の強度が向上する。
・ 本発明の無機粒子凝集体は、空隙を多く含むため吸油性が高く、顔料として塗工液に添加するとインク着肉性が良好になり印刷適正が向上する。
・ 本発明の無機粒子凝集体は、カルシウムが酸化物換算で30質量割合以上とされているので、内添した紙の白色度が高くなる。
・ 炭酸カルシウムには、六方結晶系のカルサイト結晶(方解石)や、斜方結晶系のアラゴナイト結晶(あられ石)などの同質異像があり、天然に産する石灰石はそのほとんどがカルサイト系で、貝殻類にはカルサイト結晶のほかアラゴナイト結晶がある。また、炭酸カルシウムには、天然には存在しないがバテライト系がある。廃棄物中から得られるカルシウムは多種多様であるが、焼成凝集化することでほぼ均一の炭酸カルシウム性状となる。したがって、無機微粒子そのものの品質安定性に寄与し、異なる成分で構成される凝集体でありながら、殆ど性状が安定した無機微粒子が得られる。
・ 本発明の無機粒子凝集体は、シリカを含むところ、シリカの1次粒子は微細なので、光学的屈折率が高い。したがって、シリカが酸化物換算で9質量割合以上とされている本発明の無機粒子凝集体を填料として内添した紙は、不透明度が高い。
・ また、シリカの1次粒子が微細であると、バインダー等の水溶性接着剤や水溶性助剤との親和性が高まる。したがって、シリカが酸化物換算で9質量割合以上とされている本発明の無機粒子凝集体を顔料として塗工液に含ませると、印刷インクの吸収性や乾燥性が向上する。
・ 他方、本発明の無機粒子凝集体は、シリカが酸化物換算で35質量割合以下とされているので、顔料として使用した場合においても、流動性、固形分濃度の安定性、つまり分散性が高い。これは、無機粒子凝集体の形成により、シリカが持つ高い吸水能が制限されることによるためと考えられる。
・ 本発明の無機粒子凝集体は、アルミニウムを酸化物換算で9質量割合以上含む。このアルミニウムは、クレー中のアルミニウムや、抄紙工程における助剤として添加される3価の硫酸アルミニウム、18水和物、不純物としてタルクに含有されるアルミニウムを、主たる由来源としている。アルミニウムが本来持つ極めて高いカチオン性を示し、アニオン性を示す従来の無機填料と比べ、アニオン性のパルプ繊維との結合力が向上し、歩留まり、薬品定着性が向上する。
・ 他方、本発明の無機粒子凝集体は、アルミニウムが酸化物換算で35質量割合以下とされているので、過剰なカチオン性による塗料ショックを生じさせることがなく、パルプ懸濁液中(パルプスラリー中)や塗工液中における安定した分散性を得ることができる。
【0018】
〔請求項2記載の発明〕
コールターカウンター法による平均粒子径が、0.1〜10μmで、JIS K 5101法による吸油度が、30〜100ml/100gである、請求項1記載の無機粒子凝集体。
【0019】
(作用効果)
・ 本発明の無機粒子凝集体は、コールターカウンター法による平均粒子径が、0.1〜10μmである。平均粒子径を0.1〜10μmの範囲にした理由は、製紙用として内添用製紙顔料や塗工用製紙顔料に利用する場合に、その分散性、摩耗性、白色度、明度及び不透明度への影響を考慮して、この範囲が最適であると判断し設定したためである。
・ 本発明の無機粒子凝集体は、平均粒子径が0.1μm以上の凝集体とされているので、近年の1300m/分を越える高速抄紙において歩留まりがよく、顔料としては、紙層の被覆性に優れるという利点を有する。他方、本発明の無機粒子凝集体は、平均粒子径が10μm以下とされているので、高速塗工におけるストリーク発生の問題を軽減するとともに、紙粉、粉落ちの発生が少ないという利点を有する。
さらに、無機粒子凝集体は、塗工紙の顔料として用いた場合、平均粒径が0.1μm以下の場合、コート液を調製する際に、水若しくはバインダー水溶液に填料を分散する時に分散液の粘度が上昇し、コート液の填料濃度を十分上げることが困難となる。また、インクジェット記録用紙の筆記性、表面強度も低下する。
一方、平均粒径が10μmよりも大きい場合、コート層表面に非晶質シリカ粉末に由来する凹凸が生じ紙面の手触りが悪くなり、インクドットの真円性も低下する。
特に好ましい無機粒子凝集体の平均粒子径は、4〜9μmである。
・ 無機粒子凝集体は、分散剤を添加してスラリー化した後、分散機による湿式分散により平均粒径0.1〜10μmまで細かくするが、白色顔料の用途に応じて、例えば塗工用の製紙用顔料としては0.3〜5μm、内添用の製紙用顔料としては0.5〜10μmとするのが好ましい。
・ さらに、カルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、かつ、前記カルシウム、前記シリカ及び前記アルミニウムの合計含有割合が、90質量%以上からなる多孔質となっているので、比重が軽く、過度の水溶液吸収が抑えられるため、パルプ懸濁液中(パルプスラリー中)や塗工液中における分散性が高い。したがって、嵩高な塗工層、紙層を形成しやすく、かつ紙層に歩留まり易い。
・ JIS K 5101法による吸油度が、30〜100ml/100gとされている。本発明に従う、カルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、かつ、前記カルシウム、前記シリカ及び前記アルミニウムの合計含有割合が、90質量%以上である無機粒子凝集体において、吸油度が30ml/100g未満では、インク吸収効果が少なく裏層抜け防止効果が低い。100ml/100g以上では、画線部のニジミや印刷品質が沈んだ状態になり印刷光沢が悪くなる。
【0020】
〔請求項3記載の発明〕
コールターカウンター法による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さが、30%以上である、請求項1又は請求項2記載の無機粒子凝集体。
【0021】
(作用効果)
・ コールターカウンター法による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さが30%以上である。本発明において、無機粒子凝集体の粒度分布としては、微分曲線におけるピーク高さが30%以上好ましくは35%以上、半値幅は5μm以下であることが好ましい。かかる微分曲線におけるピーク高さが30%以上かつ好ましくは半値幅が5μm以下であることは、粒度分布が狭い(シャープである)ことを意味する。粒度分布の狭い無機粒子ほど、画線部の明瞭性や、高精細な画像を得るのに好適である。逆に、ピーク高さ及び半値幅が上記範囲から外れる(粒度分布がブロードである)場合、精細さが欠け、画像が不鮮明になる。
・ また、かかる微分曲線において、ピークは1つ存在するのが最も好ましいが、他に5%以下のピークであれば1つ以上存在しても良い。しかし、ピークが2つ以上存在する場合、部分的に精細が欠ける部分が混在することとなり、ピークが1つの場合と比べると画像は不鮮明となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、従来の再生無機粒子では得られなかった、製紙時における歩留性、嵩高性、表面平坦性、印刷適正、吸油性に優れた無機粒子凝集体を提供することが可能となり、アート紙、コート紙などの塗被組成物を構成する顔料として、あるいはPPC用紙、感熱紙、感圧紙、熱転写紙、インクジェット用紙、静電記録紙、磁気記録紙等の情報用紙に用いる填料、顔料として、あるいは上級、中級印刷用紙などの非塗工紙に用いる填料として、あるいはライスペーパー、工業用雑種紙などに用いる填料、顔料などとして広い範囲にわたり使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態を、本発明に係る無機粒子凝集体を好適に使用できる製紙用填料、顔料用途の製造方法を主たる対象として説明する。以下の実施の形態は、本発明に基づく無機粒子凝集体を製造する好適な事例を示し、この事例に限定されるものではない。
〔用途〕
本形態の製紙用の無機粒子凝集体は、その用途が特に限定されない。例えば、製紙における内添用填料や塗工用顔料、充填剤、増量剤、断熱材、防音材などとして利用することができる。
【0024】
〔無機粒子凝集体〕
本形態の無機粒子凝集体は、廃棄物を焼成して得られたものである。
【0025】
〔廃棄物〕
廃棄物としては、例えば、製紙工場の排水処理工程で排出される填料や顔料を含有する排水スラッジ、古紙処理工程の古紙溶解工程や異物除去工程で排出される製紙スラッジ、古紙脱墨工程で排出される脱墨フロス等の製紙スラッジ、あるいは、原料調整工程で排出される製紙スラッジなどを例示することができる。
ただし、廃棄物は、脱墨フロスであるのが好ましい。脱墨フロス以外の製紙スラッジなどは、構成成分が変動し易いため、製品の性状の変動要因になりやすい。これに対し、脱墨フロスは、構成成分がほとんど変動しないため、得られる無機粒子凝集体の白色度等の品質をコントロールすることが容易となり、製紙用とするに好適である。なお、脱墨フロスの構成成分がほぼ変動せずに安定しているのは、古紙パルプの性状の安定が再生紙の品質安定につながり、この品質安定を目的として古紙パルプの原料たる古紙をほぼ同質にするためである。
構成成分の変動の抑制手法としては、前記脱墨フロスの利用以外に、性状が安定している、塗工工程スラッジや抄紙工程のスラッジなど出所が明確なスラッジを所定量混合することで調整可能になる。
ここで脱墨フロスとは、古紙処理工程において、脱インクし、パルプを取り出した後の残渣である。主として、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン等の無機粒子、残留インク粒子、繊維、コーティング剤等の有機系化合物、及び、水を含む。
脱墨フロスは、例えば、沈殿や加圧浮上等の方法で固液分離して固形分を回収し、所定の水分に乾燥した後、炭化工程で所定の未燃率となるように調整して焼成する。これにより、塊状に凝集した多孔質原料となる。
【0026】
以下は、脱墨フロスを例にとり、本発明に基づく微細無機粒子凝集体の製造方法例を詳述する。
〔フロック化・脱水〕
通常脱墨フロスは、水分率95〜98質量%程度であり、凝集剤を加えてフロックを形成させ、脱水処理を行う。脱水処理は、1段でも複数段でも実施可能ではあるが、フロックを固化させると、後工程の炭化工程において炭化ムラが生じる原因になるため、複数段で水分率を50〜60質量%程度まで脱水することが好ましい。
【0027】
〔乾燥・分級〕
脱水物は、予め乾燥される。乾燥手段は、熱風乾燥等公知の乾燥手段を使用可能であるが、脱墨フロスを乾燥させながらほぐす事が可能であり、更に比重分級をも可能な熱風乾燥手段が最も好適に使用できる。
好適に使用できる熱風乾燥手段を具体的に例示すると、脱水製紙フロスをインペラ等のほぐし設備にてほぐしながら、インペラ設備下方に設けた熱風吹きだし手段にて熱風を吹き込み熱風乾燥を行う。ほぐされ、乾燥された製紙フロスのうち、比重の軽い製紙フロスを熱風乾燥手段の上部に設けた取出し口から排出させることで、乾燥と分級とを行うことができる。
乾燥させた脱墨フロスの分級には、好適な手段として、サイクロンによる分級を採用することもできる。
【0028】
〔炭化・焼成〕
乾燥・分級された脱墨フロスは、既に最終的に得られる無機粒子凝集体の類似形状を呈している。
乾燥・分級された脱墨フロスは、炭化工程に送られる、炭化工程においては、未燃率を10質量%以上、15質量%未満になるように調整することが肝要である。未燃率を10質量%以上とすることで、次工程の焼成において粒子に多孔性を付与することができる。さらに、未燃率を15質量%未満にすることで、次工程の焼成工程で自燃による過焼成で粒子が硬化することを防ぐことが可能になる。
焼成は、650℃以下で行うのが好ましく、特に、残カーボンによる白色度の低下を避けるために、450〜650℃の範囲で段階をつけて行うのが好ましい。650℃超の高温で焼成を行うと、炭酸カルシウムが分解して酸化カルシウムとなり、また、無機物の溶融が生じて極めて硬度が高く多孔性が低い無機粒子となるおそれがある。なお、酸化カルシウムは水溶性であるため、抄紙工程において添加した際に溶け出してしまい、例えば、サイズ剤等の薬品効果を妨げるおそれがある。
本形態の無機粒子凝集体は、以上の多孔質原料を、90質量%以上含み、かつこの多孔質原料が、カルシウム、シリカ及びアルミニウムを酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含むことを特徴とする。好ましくは、40〜82:9〜30:9〜30の質量割合、より好ましくは、60〜82:9〜20:9〜20の割合である。
炭化・焼成工程において、本発明の割合に調整するための方法としては、脱墨フロスにおける原料構成を調整することが本筋ではあるが、乾燥・分級工程、炭化・焼成工程において、出所が明確な塗工フロスや調整工程フロスをスプレー等で工程内に含有させる手段や、焼却炉スクラバー石灰を含有させる手段にて調整することも可能である。
例えば、無機粒子凝集体中のカルシウムの調整には、中性抄紙系の排水スラッジや、塗工紙製造工程の排水スラッジを用い、シリカの調整には、不透明度向上剤として多量添加されている新聞用紙製造系の排水スラッジを、アルミニウムの調整には酸性抄紙系等の硫酸バンドの使用がある抄紙系の排水スラッジや、タルク使用の多い上質紙抄造工程における排水スラッジを適宜用いることができる。
カルシウム、シリカ及びアルミニウムの合計含有割合を、90質量%以上にする手段としては、排水スラッジの凝集処理に用いる凝集剤に鉄分を含まないものを使用する、製造設備工程を鉄以外素材で設計又はライニングし、摩滅等により鉄分が系内に混入することを防止する、更に、乾燥・分級設備内に磁石等の高い磁性体を設置し取り除くことで調整可能になる。
特に鉄分が、酸化により白色度低下の起因物質になるため、選択的に取り除くことが好ましい。
【0029】
〔溶解・粉砕〕
炭化・焼成された無機物は、抄紙あるいは塗工工程で使用するには粒径が不揃いであるため、そのままでは填料、顔料への利用は問題がある。
填料、顔料用途への使用においては、粒径の均一化や微細化が必要であるが、本発明に基づく無機粒子凝集体における填料、顔料用途等への最適な粒径、顔料径について鋭意検討を重ねた結果、本形態の無機粒子凝集体は、一次粒子が平均粒子径0.01〜0.1μmであり、この一次粒子が凝集した二次粒子が平均粒子径0.1〜10μmであるのが好ましいことを知見した。
本形態の無機粒子凝集体は、例えば、吸油量が30〜100ml/100gで、抄紙工程で内添用として用いる場合は、平均粒径が0.1〜10μm、塗工工程で顔料として用いる場合には、平均粒径を0.3〜5μmに調整することが好ましい。
本発明の無機粒子凝集体は前記の乾燥・分級・炭化・焼成方法により粉砕処理前に既に40μm以下の粒子が90%以上となるよう処理しておくことが好ましい。これにより、従来一般的に行われている乾式粉砕による大粒子の粉砕及び湿式粉砕による微粒子化といった複数段の粉砕処理を行うことなく、湿式による1段粉砕処理が可能となる。これによりコールターカウンター法による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さを30%以上とすることができ、さらには原料スラッジ中のカルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合に調整することで、無機粒子凝集体の細孔容積を0.15〜0.60cc/g、細孔表面積を10〜25m2/g、細孔半径を300〜1000オングストロームとすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を更に具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)原紙構成
坪量64g/m2。BPGW(30質量%)、NBKP(30質量%)、LBKP(25質量%)、DIP(15質量%)、本発明に基づく無機粒子凝集体を実施例表2に基づき添加した。評価法を次記に示す。
(2)ハンター白色度:JIS P 8148
(3)ハンター不透明度:JIS P 8149
(4)ベック平滑度:JIS P 8119
(5)灰分:JIS P 8251(温度525℃)
(6)光沢度:村上色彩技術研究所製:光沢度計 JIS P 8142
(7)印刷光沢度:RI印刷適正試験機(明製作所製)を使用し、オフセット印刷用インキ0.4mlを使用しベタ印刷した面を村上色彩技術研究所製:光沢度計にて測定した。
(8)画線部の明瞭性:目視にて画線部の明瞭性を判断。◎:にじみ・かすれがない、○:にじみが見られるが使用に問題ない、△:にじみがはっきり分かる、×:にじみ・かすれとも多い。
(9)インク裏抜け:目視にて、印刷後の用紙裏面を判断。◎:裏面へのにじみがない、○:裏面へのにじみが見られるが使用に問題ない、△:裏面へのにじみがはっきり分かる、×:裏面へのにじみが多い。
(10)粉落ち:黒色ビニール上で、B5寸法裁断試料を20枚束ねて5回軽く振ったさいの、粉落ちを目視で判断。◎:粉落ちが見られない、〇:粉落ちは殆どない、△:粉落ちが見られる、×:粉落ちが多い。
(11)平均粒子径、粒度分布測定:サンプル10mgをメタノール溶液8mlに添加し、超音波分散機(出力80ワット)で3分間分散させた。この溶液をコールターカウンター粒度分布測定装置(COULTER ELECTRONICS 社製TA−II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定を行った。ただし、50μmのアパチャーで測定不可能なものについては200μmのアパチャーを使用し測定した。また、電解液はISOTON II(商品名;COULTER ELECTRONICS 社製、0.7%の高純度NaCl水溶液)を用いた。
(12)吸油量測定:JIS−K5101に準じて測定を行った。
(13)記録紙の作成:純水200gに本発明に基づく無機粒子凝集体を実施例表3に基づき添加し、ホモディスパーSL(商品名:特殊機化工業(株)社製)を用いて充分分散した後、ポリビニルアルコール(PVA クラレR−1130)の10%水溶液200gを加え混合した。この塗工液を坪量80g/m2の上質紙にバーコーター(No.60)を用いて塗工し、パイロットスーパーカレンダーにて平坦化処理を行い、記録紙を得た。
(14)記録画像評価:上記(13)で得られた記録紙にRI印刷適正試験機(明製作所製)を使用してオフセット印刷用インキでベタ印刷し印字濃度印字画像の濃度評価を行い、キヤノン社製のPIXUS9900iプリンターを用いて印字し、ドットの真円性印字画像、インクの吸収性、筆記性評価を行い、セロハンテープにより表面強度評価を行った。
a.印字濃度印字画像の濃度をマクベスRD918にて測定した。
b.ドットの真円性印字画像についてドットをルーペで拡大観察。
A:真円に近い形状の割合が95%以上。
B:70%以上90%未満。
C:70%未満。
c.インクの吸収性キヤノン社製のPIXUS9900iのインクカートリッジから抜き取ったマゼンダインク0.5μリットルを用いて、マイクロシリンジにより1cmの高さから紙面に滴下し、完全に吸収されるまでの時間を測定した。
d.筆記性HBの鉛筆による筆記。
〇:コピー用紙と比較して同程度の筆記性のもの。
△:やや劣るが問題なく書けるものもの。
×:ほとんど書けないもの。
e.表面強度をセロハンテープによる塗工層の剥がれ具合で評価した。
○:ほとんど剥がれない(表面強度強い)。
△:剥がれる。
×:かなり剥がれる(表面強度弱い)。
製造例を表1に、試験結果を表2及び表3に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
本発明による利点は、実施例から容易に把握することが可能である。
すなわち、歩留性は、実施例表2における灰分において、カルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、かつ、前記カルシウム、前記シリカ及び前記アルミニウムの合計含有割合が、90質量%以上であるものが高い灰分を示していることから、紙中への歩留性が高いことを示している。
嵩高性については、実施例表2から、無機粒子凝集体が同一添加量で、比較製造例無機粒子凝集体と比較し灰分が高いにも関わらず、低い密度を示していることから、嵩高性効果は明瞭である。
本発明に基づく無機粒子凝集体の効果をみるために、塗工層への顔料として使用した場合にて評価を行った実施例表3の結果からも明らかなように、本発明に基づく無機粒子凝集体は、比較製造例の無機粒子凝集体と比較し、表面平坦性、印刷適正、吸油性とも秀でていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、製紙における填料や顔料、無機充填剤、増量剤、断熱材、防音材などとして利用可能な無機粒子凝集体として、適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を焼成して得られた無機粒子凝集体であって、
カルシウム、シリカ及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、
かつ、前記カルシウム、前記シリカ及び前記アルミニウムの合計含有割合が、90質量%以上である、ことを特徴とする無機粒子凝集体。
【請求項2】
コールターカウンター法による平均粒子径が、0.1〜10μmで、JIS K 5101法による吸油度が、30〜100ml/100gである、請求項1記載の無機粒子凝集体。
【請求項3】
コールターカウンター法による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さが、30%以上である、請求項1又は請求項2記載の無機粒子凝集体。

【公開番号】特開2007−100262(P2007−100262A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293953(P2005−293953)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【特許番号】特許第3872090号(P3872090)
【特許公報発行日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】