説明

無機系繊維不織布及びその製造方法

【課題】保形性、強度を必要とする用途にも使用できる嵩高な不織布、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】前記不織布は、無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布であり、無機系繊維不織布の空隙率が90%以上、かつ切断荷重が単位目付あたり9.8mN以上である。前記製造方法は、(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液から、静電紡糸法により無機系ゲル状繊維を紡糸する工程、(2)無機系ゲル状繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させ、ゲル状繊維ウエブを形成する工程、(3)ゲル状繊維ウエブを焼成して無機系繊維ウエブを形成する工程、(4)無機系繊維ウエブの内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰のゾル溶液を通気により除去し、ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを形成する工程、(5)ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを熱処理し、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布を形成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系繊維不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電紡糸法によれば、繊維径の揃った繊維が3次元のネットワーク構造を成し、孔径が均一な不織布を製造できる。
このような静電紡糸法は、紡糸原液を紡糸空間へ供給するとともに、供給した紡糸原液に対して電界を作用させて延伸し、対向電極上に集積させることによって紡糸する方法である。このように、電界の作用により延伸し、紡糸された繊維は対向電極上に、直接電界の力で集積するため、ペーパー状の不織布になる。しかしながら、断熱材の用途、濾過用途などに使用する場合には、嵩高な不織布であるのが好ましい。
【0003】
そのため、本願出願人は、紡糸するポリマー溶液に電荷を付与するステップ、前記電荷を付与したポリマー溶液を紡糸空間へ供給し静電気力により飛翔させるステップ、前記供給して形成した繊維に、前記繊維とは反対極性のイオンを照射するステップ、紡糸した繊維を回収するステップを含む、嵩高な不織布の製造方法(=中和紡糸法、特許文献1,2)を提案した。
この嵩高な不織布は、繊維同士が接着していないか、あるいは、極めて弱く接着した低密度で綿状の不織布であるため、保形性や強度を必要としない用途には適用できたが、液体濾過など、保形性や強度を必要とする用途においては、不織布形態を保つことができず、実用に適さない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−238749号公報
【特許文献2】特開2005−264374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、中和紡糸した無機系繊維不織布の保形性や強度を付与するための方法として、例えば、以下のような方法が考えられる。
(1)無機系繊維を抄造して無機系繊維不織布を製造する方法
(2)無機系繊維不織布にバインダーをスプレーし、乾燥する方法
(3)無機系繊維不織布をバインダー浴に浸漬した後、2本ロールプレス機(圧をかける装置)に通して余剰バインダーを除き、その後乾燥する方法
【0006】
しかしながら、(1)の方法は、静電紡糸法によるナノファイバーの抄紙は極めて困難である。(2)の方法は、無機系繊維不織布全体に(特に不織布内部まで)バインダーを均一に付与することが困難で、強度的に劣る。(3)の方法は、無機系繊維不織布の空隙が潰れ、嵩高性を維持できず、空隙率が低くなる。
本発明の課題は、これらの問題点を解決し、保形性、強度を必要とする用途にも使用できる嵩高な不織布、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
[1]無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布であり、前記無機系繊維不織布の空隙率が90%以上、かつ切断荷重が単位目付あたり9.8mN以上であることを特徴とする、無機系繊維不織布、
[2](1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液から、静電紡糸法により無機系ゲル状繊維を紡糸する工程、
(2)前記無機系ゲル状繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させ、ゲル状繊維ウエブを形成する工程、
(3)前記ゲル状繊維ウエブを焼成して無機系繊維ウエブを形成する工程、
(4)前記無機系繊維ウエブの内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを形成する工程、
(5)前記接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを熱処理し、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布を形成する工程
を含む、無機系繊維不織布の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の無機系繊維不織布は、無機系接着剤で接着され、切断荷重が単位目付あたり9.8mN以上であるため、保形性に優れ、充分な強度を有する。また、無機系繊維不織布の空隙率が90%以上であるため、断熱材の用途、濾過用途など、嵩高であるのが好ましい用途に適用することができる。
また、本発明の製造方法によれば、本発明の無機系繊維不織布を製造することができる。特には、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去しているため、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した、嵩高な状態を維持したまま、保形性、強度の優れる無機系繊維不織布を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の一態様を模式的に示す説明図である。
【図2】紡糸用無機系ゾル溶液中に浸したエッジ電極を模式的に示す説明図である。
【図3】紡糸用無機系ゾル溶液中に浸したコンベア状のワイヤ電極を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)は沿面放電素子の構造を模式的に示す平面図であり、(b)は沿面放電素子の構造を模式的に示す側面図である。
【図5】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の別の一態様を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の更に別の一態様を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に沿って、本発明の製造方法について説明し、更に、本発明の無機系繊維不織布について説明する。
本発明の製造方法は、
(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液から、静電紡糸法により無機系ゲル状繊維を紡糸する工程(紡糸工程)、
(2)前記無機系ゲル状繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させ、ゲル状繊維ウエブを形成する工程(集積工程)、
(3)前記ゲル状繊維ウエブを焼成して無機系繊維ウエブを形成する工程(焼成工程)、
(4)前記無機系繊維ウエブの内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを形成する工程(接着用無機系ゾル溶液付与工程)、
(5)前記接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを熱処理し、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布を形成する工程(熱処理工程)、
を含む。
【0011】
図1は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の一態様を模式的に示す説明図である。
図1において、静電紡糸装置1は、繊維の原料となる、無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する紡糸ノズル2と、この紡糸ノズル2の先端下方に配置された繊維回収装置である繊維回収容器3内に配置された捕集部材(例えばネット、コンベアなど)4とを備えている。さらに、紡糸ノズル2に対向して配置され、吐出されて形成する繊維とは反対極性のイオンを発生するイオン発生手段であると共に、電気的に繊維を吸引できる対向電極5を備えている。紡糸ノズル2には、紡糸用無機系ゾル溶液を供給するゾル溶液供給機6が接続されており、紡糸ノズル2及び対向電極5にはそれぞれ第1高電圧電源7及び第2高電圧電源8が接続されている。また、繊維回収容器3には、繊維を繊維回収容器3に吸引する吸引機9が設けられている。
【0012】
紡糸ノズル2としては、内径0.01〜5ミリ程度の金属・非金属パイプを使用できる。また、図2に示すように、紡糸用無機系ゾル溶液21を収容したゾル溶液容器22中に回転するノコギリ状歯車20を浸漬させ、対向電極5に向かうノコギリ状歯車20の先端部20aを電極とするエッジ電極を使用できる。同様に図3に示すように、ワイヤ20bをローラー23によってゾル溶液容器22内を回転させ、紡糸用無機系ゾル溶液21の付着したコンベア状のワイヤ20bを電極として使用することもできる。なお、図3においては、対向電極(図示しない)は、紙面に垂直に配置されている。さらに、従来の種々の静電紡糸用電極を利用することもできる。
【0013】
対向電極5としては、コロナ放電用ニードル(高電圧印加あるいは接地でもよい)、コロナ放電用ワイヤ(高電圧印加あるいは接地でもよい)、交流放電素子などが使用できる。また、交流放電素子として、図4に示すような沿面放電素子を使用できる。すなわち図4において、沿面放電素子25は、誘電体基板26(例えば、アルミナ膜)を挟んで放電電極27及び誘起電極28を設け、これらの電極間に交流の高電圧を印加することにより、放電電極27部分で沿面放電を起こし、正及び負のイオンを生成させることができる。
【0014】
紡糸工程(1)では、まず、(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液を形成する工程を実施する。本明細書において「無機成分を主体とする」とは、無機成分が50mass%以上を占めていることを意味し、60mass%以上を占めているのがより好ましく、75mass%以上を占めているのがより好ましい。
【0015】
この紡糸用無機系ゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機系繊維である、無機系乾燥ゲル状繊維又は無機系焼結繊維を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、100℃以下程度の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えばアルコール)又は水である。
【0016】
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0017】
前記の化合物としては、例えば前記元素の酸化物を挙げることができ、具体的には、SiO、Al、B、TiO、ZrO、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、 BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどを挙げることができる。前記の無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO−Alのニ成分から構成することができる。
【0018】
前記の紡糸用無機系ゾル溶液は、後述する繊維を形成する工程において紡糸が可能となる粘度を有していることが必要である。その粘度は、紡糸可能な粘度である限り特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜100ポイズ、より好ましくは0.5〜20ポイズ、特に好ましくは1〜10ポイズ、最も好ましくは1〜5ポイズである。粘度が100ポイズを超えると細繊維化が困難となり、0.1ポイズ未満になると繊維形状が得られなくなる傾向があるためである。なお、ノズルを使用する場合には、ノズル先端部分における雰囲気を原料溶液と同様の溶媒ガス雰囲気とする場合には、100ポイズを超える紡糸用無機系ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
【0019】
紡糸工程(1)で用いる紡糸用無機系ゾル溶液は、上述のような無機成分以外に、有機成分を含んでいることができ、この有機成分として、例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物、などを挙げることができる。より具体的には、前記原料溶液に含まれる化合物がシラン系化合物である場合には、メチル基やエポキシ基で有機修飾されたシラン系化合物が縮重合したものを含んでいることができる。
【0020】
前記原料溶液は、前記原料溶液に含まれる化合物を安定化する溶媒(例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)又は水)、前記原料溶液に含まれる化合物を加水分解するための水、及び加水分解反応を円滑に進行させる触媒(例えば、塩酸、硝酸など)を含んでいることができる。また、前記原料溶液は、例えば、化合物を安定化させるキレート剤、前記化合物の安定化のためのシランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善、柔軟性、硬度(もろさ)調整のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う前、加水分解を行う際、或いは加水分解後に添加することができる。
【0021】
また、前記原料溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.002〜0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、触媒機能、吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。
【0022】
テトラエトキシシランの場合、水の量がアルコキシドの4倍(モル比)を超えると曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、アルコキシドの4倍以下であるのが好ましい。
触媒として塩基を使用すると、曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、塩基を使用しないのが好ましい。
反応温度は使用溶媒の沸点以下であれば良いが、低い方が適度に反応速度が遅く、曳糸性のゾル溶液を形成しやすい。あまり低すぎても反応が進行しにくいため、10℃以上であるのが好ましい。
【0023】
以上のような静電紡糸装置1によりゲル状繊維ウエブを形成する工程[すなわち、紡糸工程(1)及び集積工程(2)]は、次のように行われる。まず、紡糸する繊維の原料となる紡糸用無機系ゾル溶液をゾル溶液供給機6から紡糸ノズル2に供給する。次に、紡糸ノズル2及び対向電極5間に高電圧を印加した状態で、紡糸ノズル2先端から紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する。すると、帯電した液状のゾル溶液はその溶媒が揮発し、凝固して無機系ゲル状繊維となり対向電極5に向かって進行する[以上、紡糸工程(1)]。このとき、紡糸ノズル2に対向して配置された対向電極5から、繊維に向かってイオン5aが照射される。このイオンによって繊維の帯電が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状のゲル状繊維ウエブを得ることができる[以上、集積工程(2)]。
【0024】
なお、イオンの発生及び照射は、連続的に又は不連続的に行うことができる。また、紡糸ノズル2と対向電極5との間に電界が生じれば良く、いずれか一方のみに高電圧を印加し、他方を接地しても良い。また、紡糸ノズル2は加熱されていても、加熱されていなくても良い。
【0025】
図5は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の別の一態様を模式的に示す説明図である。
図5において、静電紡糸装置1Aは、実施形態1におけるイオンを発生できると共に、繊維を吸引できる対向電極5に替えて、電離放射線を照射できる電離放射線源10と、繊維を吸引できるネット状の対向電極5(第3高電圧電源11に接続されている)を用いた以外は、静電紡糸装置1と同様な構成であり、重複する説明は省略する。
【0026】
静電紡糸装置1Aにおいて、第1高電圧電源7及び/又は第3高電圧電源11により所定の電圧を紡糸ノズル2及び/又は対向電極5に印加することにより、紡糸ノズル2と対向電極5との間に電位差が生じ、繊維は電気的に吸引されて、対向電極5に向かって飛翔する[以上、紡糸工程(1)]。この飛翔する繊維に対して、電離放射線10aが照射され、気体をイオン化し、イオン源として作用する。これにより、繊維の帯電が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状のゲル状繊維ウエブを得ることができる[以上、集積工程(2)]。電離放射線源10を使用した場合には、その線量を紡糸ノズル2と対向電極5との間の電位差の形成とは独立して調節できるため、安定してゲル状繊維ウエブを得ることが可能である。
【0027】
なお、電離放射線源10としては種々の放射線源を使用することができ、特にX線照射装置が望ましい。なお、対向電極5は紡糸ノズル2との間に電位差が生じていれば良く、接地されていても電圧が印加されていても良い。また、電離放射線源10は、繊維に対して放射線を照射できれば良く、対向電極5の背後に位置している必要はない。さらに、対向電極5はネット状である必要はなく、電離放射線が透過できれば種々の部材が使用でき、蒸着フィルムであっても使用可能である。
【0028】
図6は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の更に別の一態様を模式的に示す説明図である。
図6において、静電紡糸装置1Bは、第1紡糸ノズル2aと第2紡糸ノズル2bとが、互いに対向して配置されている。第1紡糸ノズル2aには、紡糸用無機系ゾル溶液を供給する第1ゾル溶液供給機6a及び高電圧を印加する第1高電圧電源7が接続され、第2紡糸ノズル2bには、紡糸用無機系ゾル溶液を供給する第2ゾル溶液供給機6b及び第1高電圧電源7とは反対極性の高電圧を印加する第2高電圧電源8がそれぞれ接続されている。その他は、静電紡糸装置1と同様な構成であり、重複する説明は省略する。
【0029】
静電紡糸装置1Bにおいて、第1高電圧電源7及び第2高電圧電源8により互いに反対極性の電圧をそれぞれ第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bに印加しながら、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bから紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する[以上、紡糸工程(1)]。すると、互いに反対極性に帯電された繊維は、対向して吐出されることにより接触及び接近して電荷が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状のゲル状繊維ウエブを得ることができる[以上、集積工程(2)]。また、第1紡糸ノズル2aからのゾル溶液吐出条件と、第2紡糸ノズル2bからのゾル溶液吐出条件とが異なるように調整することにより、繊維径が異なる、繊維構成材の組成が異なるなど、異種の無機系繊維が混在するゲル状繊維ウエブを製造できる。
【0030】
なお、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bからの紡糸用無機系ゾル溶液の吐出は、連続的に又は不連続的に行うことができる。また、第1紡糸ノズル2aと第2紡糸ノズル2bとの間に電界が生じれば良く、これらのいずれか一方のみに高電圧を印加し、他方を接地しても良い。また、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bは加熱されていても、加熱されていなくても良い。
【0031】
上述した静電紡糸装置1、静電紡糸装置1A、静電紡糸装置1Bにおいては、1つの紡糸ノズル2、2a、2bに対して1本の紡糸ノズルを使用した態様であるが、紡糸ノズルは1本である必要はなく、生産性を高めるために、2本以上の紡糸ノズルを備えていることができる。
【0032】
また、これらの静電紡糸装置においては、紡糸空間における空気の速度を5〜100cm/秒、好ましくは10〜50cm/秒とすることができるように、捕集部材4の下方に吸引装置9を設けているが、吸引装置9に加えて、又はこれに替えて、送風装置を捕集部材4の上方に設けることができる。これによって、繊維の捕集性を向上させ、安定してゲル状繊維ウエブを製造することができる。
【0033】
焼成工程(3)では、集積工程(2)で得られたゲル状繊維ウエブを焼成して無機系繊維ウエブ、例えば、無機系乾燥ゲル状繊維ウエブ又は無機系焼結繊維ウエブを形成する。この工程を実施することにより、強度及び耐熱性の優れる無機系繊維を製造することができる。なお、焼成工程は、例えば、焼結炉を用いて実施することができ、その温度は無機系ゲル状繊維ウエブを構成する無機成分によって適宜設定する。
【0034】
無機系乾燥ゲル状繊維とは、ゲル状繊維中に含まれる溶媒などが抜けた状態を意味する。例えば、無機系繊維の原料がテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水、塩酸からなる場合は、最も沸点の高い物質が水であるため、100℃以上の処理で無機系乾燥ゲル状繊維となる。
また、無機系焼結繊維とは、無機系乾燥ゲル状繊維(多孔質)が、焼結(無孔質)した状態を意味する。例えば、無機系繊維の原料がシリカ系の場合は、800℃以上の処理で無機系焼結繊維となる。
無機系繊維の原料がテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水、塩酸からなる場合、100℃以上、好ましくは300℃以上、さらに好ましくは500℃以上の焼成温度がよい。
本工程で得られた無機系繊維ウエブは、点接触により繊維同士が接着しているため、以下の工程の各操作を実施しても、繊維ウエブがばらけることがない。
【0035】
接着用無機系ゾル溶液付与工程(4)では、焼成工程(3)で得られた無機系繊維ウエブの内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを形成する。本工程で用いる、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液の原料としては、無機系繊維ウエブ内に浸透する限り、前記紡糸工程(1)において先述した各種紡糸用無機系ゾル溶液を調製することのできる各種原料を用いることができる。例えば、曳糸性である必要はなく、曳糸性がなくてもよい。また、粒子が含まれていてもよい。紡糸用無機系ゾル溶液を希釈したものであってもよく、濃度は適宜選択することができる。特には、金属アルコキシド加水分解・縮合物であるのが好ましい。
【0036】
前記接着用無機系ゾル溶液の無機系繊維ウエブへの付与は、その全体に均一に、すなわち、無機系繊維ウエブの外側部分と同様に、内部まで充分に接着用無機系ゾル溶液を到達させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、無機系繊維ウエブを接着用無機系ゾル溶液に浸漬することにより、実施することができる。無機系繊維ウエブは焼成しているため、浸漬処理を実施してもばらけることがない。
【0037】
浸漬後の無機系繊維ウエブに含まれる余剰の接着用無機系ゾル溶液は、通気により除去する。無機系繊維ウエブは、無機系繊維から構成されているため、吸引及び/又は加圧により通気させても、厚さを潰すことがなく、内部を含む全体の繊維間に被膜を形成することなく接着用無機系ゾル溶液を付与した接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを得ることができる。
【0038】
熱処理工程(5)では、接着用無機系ゾル溶液付与工程(4)で得られた接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブの熱処理を実施する。
具体的には、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブは、無機系接着剤に含まれる溶媒などを揮発させるため、第一の熱処理を行なうことができる。
前記第一熱処理の後に、あるいは、それとは別に、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブに含まれる無機系接着剤、つまり、接着用無機系ゾル溶液を無機化するために、第二の熱処理を行なうことができる。この工程を実施することにより、無機系繊維ウエブの繊維交点を接着した無機系接着剤の強度及び耐熱性が向上する。なお、第二熱処理工程は、例えば、焼結炉を用いて実施することができ、その温度は無機系接着剤を構成する無機成分によって適宜設定する。
【0039】
熱処理の温度は、焼成工程の温度以下で行なうことが望ましい。
嵩高な状態を維持したまま無機系接着剤で接着するには、無加重で焼成を実施することが好ましい。
【0040】
本発明の無機系繊維不織布は、無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布であり、前記無機系繊維不織布の空隙率は90%以上99.9%以下であり、好ましい空隙率は91%以上、より好ましくは92%以上、更に好ましくは93%以上、更に好ましくは94%以上である。また、本発明の無機系繊維不織布は、切断荷重が単位目付あたり9.8mN以上であり、好ましくは14.7mN以上、より好ましくは19.6mN以上である。なお、切断荷重は次の条件で測定した値である。
製品名:小型引張試験機
型式:TSM−01−cre サーチ株式会社製
試験サイズ:5mm幅×40mm長
チャック間間隔:20mm
引張速度:20mm/min.
初荷重:50mg/1d
本発明の無機系繊維不織布は、例えば、本発明の製造方法により作製することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
《無機系繊維不織布の作製と評価》
(1)シリカ繊維不織布の作製
本実施例では、表1に記載の13種類のシリカ繊維不織布(実施例1〜実施例6、比較例1〜7)を作製し、その評価を行った。
【0043】
紡糸工程(1)及び集積工程(2)
金属化合物としてのテトラエトキシシラン、溶媒としてのエタノール、加水分解のための水、及び触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で10時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去して濃縮した後、温度60℃に加熱して、粘度が2ポイズのゾル溶液を形成した。得られたゾル溶液を紡糸液(紡糸用無機系ゾル溶液)として用い、中和紡糸法(比較例6及び7を除く)又は静電紡糸法である平板紡糸法(比較例6及び7)によりゲル状シリカ繊維ウエブを作製した。
【0044】
なお、前記中和紡糸法は、特開2005−264374号公報の実施例8と同じ紡糸条件で実施した。つまり、図1の対向電極5として、図4の対向電極(沿面放電素子25)を使用した。詳細を以下に示す。
紡糸ノズル:内径0.4mmの金属製注射針(先端カット)
紡糸ノズルと対向電極との距離:200mm
対向電極及びイオン発生電極(両電極を兼ねる):ステンレス板(誘起電極)上に厚さ1mmのアルミナ膜(誘電体基板)を溶射し、その上に直径30μmのタングステンワイヤ(放電電極)を10mmの等間隔で張った沿面放電素子(タングステンワイヤ面を紡糸ノズルと対向させると共に接地し、ステンレス板とタングステンワイヤ間に交流高電圧電源により50Hzの交流高電圧を印加)
第1高電圧電源:−16kV
第2高電圧電源:±5kV(交流沿面のピーク電圧:5kV、50Hz)
気流:水平方向25cm/sec、鉛直方向15cm/sec
紡糸室内の雰囲気:温度25℃、湿度40%RH以下
連続紡糸時間:30分以上
【0045】
また、前記平板紡糸法は、以下の手順で実施した。紡糸装置としては、特開2005−194675号公報の図1に記載の装置を使用した。紡糸液を、内径が0.4mmのステンレス製ノズルに、ポンプにより1g/時間で供給し、ノズルから紡糸液を紡糸空間(温度26℃、相対湿度40%以下)へ吐出するとともに、ノズルに電圧(−16kV)を印加し、捕集体であるステンレス製無孔ロール(ノズルとの距離:10cm)をアースして、紡糸液に電界を作用させることによって細径化し、シリカゲル繊維を形成し、回転する無孔ロール上に集積させ、ゲル状シリカ繊維ウエブを形成した。
【0046】
焼成工程(3)
次に、前記工程で得られたゲル状シリカ繊維ウエブを、比較例1を除いて、表1の工程(3)欄に記載の焼成温度(500℃又は800℃)で焼成することにより、シリカ繊維ウエブ(目付:10g/m)を作製した。
【0047】
接着用無機系ゾル溶液付与工程(4)
繊維間接着のために用いる接着用無機系ゾル溶液として、金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、及び触媒として硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた。反応後、酸化ケイ素の固形分濃度が0.25%となるようにエタノールで希釈し、シリカゾル希薄溶液(接着用無機系ゾル溶液)とした。
前記工程で得られたシリカ繊維ウエブの内、実施例1〜実施例6、及び比較例7について、前記シリカゾル希薄溶液に浸漬した後、吸引により余剰のゾル溶液を除去すること[表1の工程(4)欄に記載の方法A]により、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。
【0048】
一方、比較例1〜比較例3、比較例6については、本工程を実施しなかった。比較例4については、前記工程で得られたシリカ繊維ウエブに、スプレーにより前記シリカゾル希薄溶液を吹き付けること[表1の工程(4)欄に記載の方法B]により、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。比較例5については、前記工程で得られたシリカ繊維ウエブを、前記シリカゾル希薄溶液に浸漬した後、2本ロールプレス機を用いて余剰の溶液を除去すること[表1の工程(4)欄に記載の方法C]により、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。
【0049】
熱処理工程(5)
実施例1〜実施例6、及び比較例7について、無機系接着剤(シリカゾル希薄溶液)に含まれる溶媒の乾燥除去のために、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを110℃の雰囲気中に30分保持した(第一熱処理工程)。一方、比較例1〜6については、第一熱処理工程を実施しなかった。
続いて、実施例2、実施例3、実施例5、実施例6、比較例4、比較例5、比較例7について、前記工程で得られたシリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを、表1の工程(5)欄に記載の焼成温度(200℃又は500℃)で焼成すること(第二熱処理工程)により、シリカ繊維不織布を作製した。
一方、実施例1、実施例4、比較例1〜3、比較例6については、本第二熱処理工程を実施しなかった。
【0050】
(2)シリカ繊維不織布の評価
前記(1)で作製した13種類のシリカ繊維不織布(実施例1〜実施例6、比較例1〜7)について、10cm×10cmのサイズに切断し、各種測定を実施した結果を表1に示す。
なお、目付は、1mの大きさに換算した重量、不織布の厚みは、加重100g/cmとなるように設定したマイクロメーター法で測定した値、見掛密度は目付を厚みで除した値をそれぞれ意味する。
また、切断荷重測定の条件を以下に示す。
製品名:小型引張試験機
型式:TSM−01−cre サーチ株式会社製
試験サイズ:5mm×40mm
チャック間隔:20mm
引張速度:20mm/min
初荷重:50mg/1d
伸度は、次の式から算出した値である。
{(a−b)/b}×100
[ここで、a:切断時チャック間長さ(mm)、b:チャック間隔、つまり20mm]
空隙率は、下記式:
[空隙率(%)]=[1−(目付/厚み/比重)]×100
(目付の単位=g/m、厚みの単位=μm、シリカの比重=2g/cm
により算出した。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の無機系繊維不織布は、例えば、断熱材の用途、濾過用途などに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布であり、前記無機系繊維不織布の空隙率が90%以上、かつ切断荷重が単位目付あたり9.8mN以上であることを特徴とする、無機系繊維不織布。
【請求項2】
(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液から、静電紡糸法により無機系ゲル状繊維を紡糸する工程、
(2)前記無機系ゲル状繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させ、ゲル状繊維ウエブを形成する工程、
(3)前記ゲル状繊維ウエブを焼成して無機系繊維ウエブを形成する工程、
(4)前記無機系繊維ウエブの内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを形成する工程、
(5)前記接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維ウエブを熱処理し、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維不織布を形成する工程
を含む、無機系繊維不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−185164(P2010−185164A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5759(P2010−5759)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】