説明

無機繊維質成形体及びその製造方法並びに加熱設備

【課題】使用時の加熱による変形が効果的に抑制された無機繊維質成形体及びその製造方法並びに加熱設備を提供する。
【解決手段】一部が結晶化した生体溶解性無機繊維と、無機バインダーとを含み、前記生体溶解性無機繊維が、以下の組成を有するSiO/MgO繊維又はSiO/CaO繊維であることを特徴とする無機繊維質成形体。[SiO/MgO繊維]SiO66〜82重量%、CaO1〜9重量%、MgO10〜30重量%、Al3重量%以下;[SiO/CaO繊維]SiO66〜82重量%、CaO10〜34重量%、MgO3重量%以下、Al5重量%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維質成形体及びその製造方法並びに加熱設備に関し、特に、生体溶解性無機繊維を含む無機繊維質成形体の加熱による変形の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維とバインダーとを含む無機繊維質成形体は、軽量で扱いやすく、且つ断熱性に優れるため、例えば、工業炉における断熱材として使用されている。一方、近年、無機繊維が人体に吸入されて肺に侵入することによる問題が指摘されている。
【0003】
そこで、人体に吸入されても問題を起こさない又は起こしにくい生体溶解性無機繊維が開発され、無機繊維質成形体の原料として使用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−162853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、例えば、生体溶解性無機繊維を含む無機繊維質成形体を加熱下で使用した場合、当該無機繊維質成形体に反りや収縮等の変形が生じやすかった。
【0006】
このような変形の原因の一つとしては、例えば、生体溶解性無機繊維は、MgOやCaOを含むことにより、アルミナ繊維等の生体溶解性を有しない無機繊維に比べて、加熱されると収縮しやすいことや、熱クリープを起こしやすいことが挙げられる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、使用時の加熱による変形が効果的に抑制された無機繊維質成形体及びその製造方法並びに加熱設備を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る無機繊維質成形体は、一部が結晶化した生体溶解性無機繊維と、無機バインダーと、を含むことを特徴とする。本発明によれば、使用時の加熱による変形が効果的に抑制された無機繊維質成形体を提供することができる。
【0009】
また、前記無機繊維質成形体において、前記生体溶解性無機繊維は、ワラストナイト、ディオプサイド又はエンスタタイトの結晶を含むこととしてもよい。また、前記生体溶解性無機繊維のSiO含有量は、66〜82質量%であることとしてもよい。また、前記生体溶解性無機繊維のCaO含有量は、10〜34質量%であることとしてもよい。また、前記生体溶解性無機繊維のMgO含有量は、1質量%以下であることとしてもよい。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る無機繊維質成形体の製造方法は、非晶質の生体溶解性無機繊維に加熱処理を施す第一工程と、前記加熱処理が施された前記生体溶解性無機繊維と、無機バインダーと、を含む無機繊維質成形体を成形する第二工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、使用時の加熱による変形が効果的に抑制された無機繊維質成形体の製造方法を提供することができる。
【0011】
また、前記第一工程において、前記非晶質の生体溶解性無機繊維に結晶化温度以上の温度で加熱処理を施し、一部が結晶化した前記生体溶解性無機繊維を得ることとしてもよい。また、前記加熱処理が施された前記生体溶解性無機繊維は、ワラストナイト、ディオプサイド又はエンスタタイトの結晶を含むこととしてもよい。また、前記生体溶解性無機繊維のSiO含有量は、66〜82質量%であることとしてもよい。また、前記生体溶解性無機繊維のCaO含有量は、10〜34質量%であることとしてもよい。また、前記生体溶解性無機繊維のMgO含有量は、1質量%以下であることとしてもよい。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る加熱設備は、前記いずれかの無機繊維質成形体を含むことを特徴とする。本発明によれば、使用時の加熱による変形が効果的に抑制された無機繊維質成形体を含む加熱設備を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用時の加熱による変形が効果的に抑制された無機繊維質成形体及びその製造方法並びに加熱設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る実施例において生体溶解性無機繊維の生体溶解性を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る実施例において生体溶解性無機繊維の生体溶解性を評価した結果の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る実施例において生体溶解性無機繊維の加熱処理による結晶の生成を解析した結果の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る実施例において無機繊維質成形体の加熱線収縮率を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る実施例において無機繊維質成形体の反り量を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る実施例において無機繊維質成形体の反り量を評価した結果の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0016】
まず、本実施形態に係る無機繊維質成形体の製造方法(以下、「本方法」という。)について説明する。本方法は、非晶質の生体溶解性無機繊維に加熱処理を施す第一工程(以下、「加熱処理工程」という。)と、当該加熱処理が施された当該生体溶解性無機繊維と、無機バインダーと、を含む無機繊維質成形体を成形する第二工程(以下、「成形工程」という。)と、を含む。
【0017】
加熱処理工程においては、まず、非晶質の生体溶解性無機繊維を準備する。生体溶解性無機繊維は、無機繊維であって生体溶解性(例えば、生体の肺に吸入されても当該生体内で分解される性質)を有するものである。生体溶解性無機繊維は少なくとも一部が非晶質であり、非晶質であることは粉末X線回析(XRD)測定で確認される。
【0018】
生体溶解性無機繊維は、例えば、40℃における生理食塩水溶解率が1%以上の無機繊維である。
【0019】
生理食塩水溶解率は、例えば、次のようにして測定される。すなわち、先ず、無機繊維を200メッシュ以下に粉砕して調製された試料1g及び生理食塩水150mLを三角フラスコ(容積300mL)に入れ、40℃のインキュベーターに設置する。次に、三角フラスコに、毎分120回転の水平振動を50時間継続して加える。その後、ろ過により得られた濾液に含有されている各元素の濃度(mg/L)をICP発光分析装置により測定する。そして、測定された各元素の濃度と、溶解前の無機繊維における各元素の含有量(質量%)と、に基づいて、生理食塩水溶解率(%)を算出する。すなわち、例えば、測定元素が、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)である場合には、次の式により、生理食塩水溶解率C(%)を算出する;C(%)=[ろ液量(L)×(a1+a2+a3+a4)×100]/[溶解前の無機繊維の質量(mg)×(b1+b2+b3+b4)/100]。この式において、a1、a2、a3及びa4は、それぞれ測定されたケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの濃度(mg/L)であり、b1、b2、b3及びb4は、それぞれ溶解前の無機繊維におけるケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの含有量(質量%)である。
【0020】
また、生体溶解性無機繊維は、例えば、溶解速度定数が150ng/cm・h以上であり、好ましくは150〜1500ng/cm・h、より好ましくは200〜1500ng/cm・hの無機繊維である。
【0021】
また、生体溶解性無機繊維は、例えば、想定半減期が40日以下であり、好ましくは10〜40日、より好ましくは10〜30日の無機繊維である。
【0022】
生体溶解性無機繊維のSiO含有量は、例えば、50〜82質量%であることとしてもよい。SiO含有量は、63〜81質量%であることが好ましく、66〜80質量%であることがより好ましく、71〜76質量%であることがさらに好ましい。すなわち、生体溶解性無機繊維は、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量とMgO含有量との合計が18〜34質量%の無機繊維である。CaO含有量とMgO含有量との合計は、19〜34質量%であることが好ましく、20〜34質量%であることがより好ましい。これらCaO含有量とMgO含有量との合計の範囲は、上述したSiO含有量の範囲と任意に組み合わせることができる。生体溶解性無機繊維のSiO含有量が上記の範囲であることによって、当該生体溶解性無機繊維は、生体溶解性に加えて、優れた耐熱性をも有することとなる。
【0023】
生体溶解性無機繊維のCaO含有量は、例えば、10〜34質量%であることとしてもよい。すなわち、生体溶解性無機繊維は、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量が10〜34質量%の無機繊維(以下、「SiO/CaO繊維」ということがある。)であることとしてもよい。CaO含有量は、12〜32質量%であることが好ましく、14〜30質量%であることがより好ましい。これらCaO含有量の範囲は、上述したSiO含有量の範囲、上述したCaO含有量とMgO含有量との合計の範囲と任意に組み合わせることができる。
【0024】
生体溶解性無機繊維のMgO含有量は、例えば、1質量%以下(すなわち、0〜1質量%)であることとしてもよい。MgOは通常0質量%超となる。すなわち、生体溶解性無機繊維は、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量が10〜34質量%であり、MgO含有量が1質量%以下のSiO/CaO繊維であることとしてもよい。MgO含有量は、0.9質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。これらMgO含有量の範囲は、上述したSiO含有量の範囲、上述したCaO含有量とMgO含有量との合計の範囲、上述したCaO含有量の範囲と任意に組み合わせることができる。
【0025】
生体溶解性無機繊維のMgO含有量は、1質量%超、且つ20質量%以下であることとしてもよい。すなわち、生体溶解性無機繊維は、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、MgO含有量が1質量%超、且つ20質量%以下の無機繊維(以下、「SiO/MgO繊維」ということがある。)であることとしてもよい。MgO含有量は、2〜19質量%であることが好ましく、3〜19質量%であることがより好ましい。これらMgO含有量の範囲は、上述したSiO含有量の範囲、上述したCaO含有量とMgO含有量との合計の範囲と任意に組み合わせることができる。
【0026】
生体溶解性無機繊維は、例えば、SiO含有量、MgO含有量及びCaO含有量の合計が97質量%以上(すなわち、97〜100質量%)であることとしてもよい。SiO含有量、MgO含有量及びCaO含有量の合計は、97.5質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。これらSiO含有量、MgO含有量及びCaO含有量の合計の範囲は、上述したSiO含有量の範囲、上述したCaO含有量とMgO含有量との合計の範囲、上述したCaO含有量の範囲、上述したMgO含有量の範囲と任意に組み合わせることができる。
【0027】
なお、生体溶解性無機繊維は、SiOと、アルカリ土類金属酸化物(例えば、MgO及びCaOの少なくとも一方)とに加えて、さらに他の成分を含有してもよい。すなわち、生体溶解性無機繊維は、例えば、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)及びジルコニア(ZrO)、酸化鉄(Fe)、酸化マンガン(MnO)、酸化カリウム(KO)からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有してもよく、また、含有しなくてもよい。
【0028】
具体的に、生体溶解性無機繊維がAlを含有する場合、Al含有量は、例えば、5重量%以下、3.4重量%以下又は3.0重量%以下とできる。また、1.1重量%以上又は2.0重量%以上とできる。好ましくは0〜3質量%、より好ましくは1〜3質量%である。この範囲でAlを含むと強度が高くなる。この場合、生体溶解性無機繊維は、例えば、SiO含有量、MgO含有量、CaO含有量及びAl含有量の合計が98質量%以上(すなわち、98〜100質量%)又は99質量%以上(すなわち、99〜100質量%)であることとしてもよい。
【0029】
具体的に、以下の組成の生体溶解性無機繊維を例示できる。
SiOとAlとZrOとTiOとの合計 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 18〜50重量%
【0030】
さらに、以下の組成の生体溶解性無機繊維を例示できる。
SiO 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 10〜43重量%
【0031】
SiO/MgO繊維として以下の組成を例示できる。
SiO 66〜82重量%
CaO 1〜9重量%(例えば、2〜8重量%とできる)
MgO 10〜30重量%(例えば、15〜20重量%とできる)
Al 3重量%以下
他の酸化物 2重量%未満
【0032】
SiO/CaO繊維として以下の組成を例示できる。以下の組成の繊維は加熱後の生体溶解性、耐火性に優れる。
SiO 66〜82重量%(例えば、68〜80重量%、70〜80重量%、71〜80重量%又は71〜76重量%とできる)
CaO 10〜34重量%(例えば、20〜30重量%又は21〜26重量%とできる)
MgO 3重量%以下(例えば、1重量%以下とできる)
Al 5重量%以下(例えば3.5重量%以下又は3重量%以下とできる。また、1重量%以上又は2重量%以上とできる)
他の酸化物 2重量%未満
【0033】
上記の生体溶解性無機繊維は、他の成分として、アルカリ金属酸化物(KO、NaO等)、Fe、ZrO、TiO、P、B、R(RはSc,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y又はこれらの混合物から選択される)等を1以上含んでもよく、含まなくてもよい。他の酸化物は、それぞれ、0.2重量%以下又は0.1重量%以下としてよい。アルカリ金属酸化物は各酸化物を各々0.2重量%以下としてもよく、または各々0.1重量%以下としてもよい。また、アルカリ金属酸化物の合計を0.2重量%以下としてもよい。
【0034】
生体溶解性無機繊維の平均繊維径は、無機繊維質成形体が好適に製造される範囲であれば特に限られず、例えば、1〜10μmであり、好ましくは2〜6μmである。平均繊維径が1μm未満である場合には、耐水性が低下しやすくなるため、製造される無機繊維質成形体の強度が低くなりやすい。また、平均繊維径が10μmを超える場合には、製造される無機繊維質成形体の密度が低くなりすぎるため、当該無機繊維質成形体の強度が低くなりやすい。
【0035】
生体溶解性無機繊維の平均繊維長は、無機繊維質成形体が好適に製造される範囲であれば特に限られず、例えば、1〜200mmであり、好ましくは1〜100mmである。平均繊維長が上記範囲内にあることにより、適切な密度を有する無機繊維質成形体を製造しやすくなる。
【0036】
次に、加熱処理工程においては、上述のようにして準備した非晶質の生体溶解性無機繊維に加熱処理を施し、当該加熱処理が施された当該生体溶解性無機繊維を得る。すなわち、この加熱処理工程を含む方法は、非晶質の生体溶解性無機繊維(以下、「未処理繊維」という。)に加熱処理を施して、当該加熱処理が施された生体溶解性無機繊維(以下、「加熱処理繊維」という。)を製造する方法でもある。製造された加熱処理繊維は、後述のとおり、無機繊維質成形体の原料として使用される。
【0037】
加熱処理の条件(例えば、温度及び時間)は、加熱処理繊維を含む無機繊維質成形体が加熱された場合に、当該無機繊維質成形体の変形(反り、収縮等)が、未処理繊維を含む無機繊維質成形体のそれに比べて低減されるよう決定されれば特に限られない。
【0038】
すなわち、加熱処理は、例えば、加熱処理繊維を含む無機繊維質成形体を加熱した場合の反り量が、未処理繊維を含む無機繊維質成形体のそれに比べて低減される条件で行う。また、加熱処理は、例えば、加熱処理繊維を含む無機繊維質成形体の300〜1300℃での加熱線収縮率が、未処理繊維を含む無機繊維質成形体のそれに比べて低減される条件で行う。
【0039】
なお、加熱線収縮率は、例えば、無機繊維質成形体を電気炉中、300〜1300℃の範囲内の一定温度で24時間加熱し、測定された加熱前後の当該無機繊維質成形体の長さに基づき、次の式から求められる;加熱線収縮率(%)={(X−Y)/X}×100。なお、この式において、「X」は加熱前の無機繊維質成形体の長さ(mm)を示し、「Y」は加熱後の無機繊維質成形体の長さ(mm)を示す。
【0040】
加熱処理における加熱温度(以下、「加熱処理温度」という。)は、例えば、600〜1300℃であり、好ましくは800〜1000℃である。
【0041】
加熱処理温度は、例えば、未処理繊維の結晶化温度以上の温度であってもよい。すなわち、この場合、加熱処理工程においては、未処理繊維に結晶化温度以上の温度で加熱処理を施し、一部が結晶化した加熱処理繊維を得る。なお、未処理繊維の結晶化温度は、例えば、TG−DTA(熱重量−示差熱測定)により測定される。
【0042】
結晶化温度は、未処理繊維の化学組成に応じて変化するため、当該結晶化温度以上の加熱処理温度は一概に決定できないが、例えば、600〜1300℃であり、好ましくは600〜1100℃であり、より好ましくは800〜1000℃である。
【0043】
結晶化温度以上の温度で加熱処理を行うことにより、加熱処理繊維内には、その化学組成及び加熱処理温度に応じた種類の結晶が生成される。すなわち、加熱処理繊維は、例えば、その製造に使用された未処理繊維には含まれない結晶を含む。加熱処理繊維に含まれる結晶は、例えば、粉末X線回折により解析することができる。すなわち、加熱処理は、例えば、未処理繊維に加熱処理を施すことによって、粉末X線回折において当該未処理繊維では検出されなかった結晶が検出される加熱処理繊維が得られるように行う。
【0044】
加熱処理繊維が上述のSiO/CaO繊維である場合、一部が結晶化された加熱処理繊維は、例えば、ワラストナイトの結晶を含む。この場合、加熱処理繊維は、さらに他の結晶を含むこととしてもよい。すなわち、加熱処理繊維は、例えば、ワラストナイト、クリストバライト及びトリジマイトからなる群より選択される1種又は2種以上の結晶を含む。
【0045】
加熱処理繊維が上述のSiO/MgO繊維である場合、一部が結晶化された加熱処理繊維は、例えば、エンスタタイトの結晶を含む。この場合、加熱処理繊維は、さらに他の結晶を含むこととしてもよい。すなわち、加熱処理繊維は、例えば、エンスタタイト、ディオプサイト、クリストバライト及びトリジマイトからなる群より選択される1種又は2種以上の結晶を含む。
【0046】
加熱処理繊維が他の生体溶解性無機繊維(例えば、SiO含有量が35〜45質量%、Al含有量が10〜20質量%、MgO含有量が4〜8質量%、CaO含有量が20〜40質量%、Fe含有量が0〜3質量%、MnO含有量が0〜1質量%の生体溶解性無機繊維)である場合、一部が結晶化された加熱処理繊維は、例えば、ワラストナイト、アノサイト、ディオプサイト、アカルマナイト及びオーガイトからなる群より選択される1種又は2種以上の結晶を含むこととしてもよい。
【0047】
なお、加熱処理温度は、上述のとおり、加熱処理繊維を含む無機繊維質成形体が加熱された場合の変形が、未処理繊維を含む無機繊維質成形体のそれに比べて低減されるという効果が得られる範囲であれば特に限られず、例えば、未処理繊維の結晶化温度未満であってもよい。
【0048】
加熱処理における加熱時間(以下、「加熱処理時間」という。)もまた、上述の加熱処理による効果が得られる範囲であれば、特に限られない。すなわち、加熱処理時間は、例えば、1分〜48時間であり、好ましくは3分〜24時間である。
【0049】
具体的に、加熱処理温度が未処理繊維の結晶化温度以上である場合には、加熱処理時間は、例えば、3分〜8時間であり、好ましくは5分〜3時間である。
【0050】
また、生体溶解性無機繊維は、加熱処理が施されることにより、その生体溶解性が変化し得る。すなわち、生体溶解性無機繊維は、加熱処理が施されることにより、その生体溶解性が低下しやすい。特に、生体溶解性無機繊維を、その結晶化温度以上の温度で加熱して、当該生体溶解性無機繊維の一部を結晶化させる場合、加熱後の生体溶解性は、加熱前に比べて低下することが多い。
【0051】
この点、本発明の発明者らは、生体溶解性無機繊維として上述のSiO/CaO繊維を使用することにより、加熱処理前に比べてより優れた生体溶解性を有する加熱処理繊維が得られることを独自に見出した。
【0052】
すなわち、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量が10〜34質量%のSiO/CaO繊維に、その結晶化温度以上の温度で加熱処理を施すことにより、得られる加熱処理繊維の生体溶解性は、加熱処理前に比べて顕著に増加する。さらに、この場合、加熱処理繊維は、SiO含有量が大きいため、優れた生体溶解性に加えて、優れた耐熱性をも有している。
【0053】
また、加熱処理繊維を含む無機繊維質成形体が工業炉壁に施工され高温に晒された場合には、例えば、当該加熱処理繊維のSiO/CaOの比率においてSiOの比率が小さくなると、当該加熱処理繊維がAlと化学反応を起こすことがあり、その結果、当該無機繊維質成形体の大きな変形等、各種炉材等へ不都合が生じることがある。
【0054】
加熱処理繊維とAlとの化学反応は、SiO/CaO/Alの成分の比率に依存して起こる現象であり、酸化物の固体状態図からも化学反応(溶融)が起こることが確認できる。この溶融を伴う化学反応は、例えば、生体溶解性無機繊維のSiO含有量を増加させることで抑制することができる。この点、上述のSiO/CaO繊維は、そのSiO含有量が大きいため、当該SiO/CaO繊維と、工業炉壁を構成するAlと、の化学反応が効果的に抑制される。
【0055】
さらに、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量が10〜34質量%であり、MgO含有量が1質量%以下のSiO/CaO繊維も好ましく使用される。この場合、MgO含有量が小さいため、加熱処理繊維を含む無機繊維質成形体の加熱時の変形を効果的に低減することができる。
【0056】
すなわち、例えば、SiO/MgO繊維は、MgO含有量が比較的大きいため、その結晶化温度以上の温度での加熱によって、Si及びMgを主成分として含む結晶(例えば、エンスタタイト)が優先的に形成される。これに対し、上述したSiO/CaO繊維は、CaO含有量が高く、MgO含有量が低いため、その結晶化温度以上の温度での加熱によってSi及びCaを主成分として含む結晶(例えば、ワラストナイト)が優先的に形成される。Caのイオン半径はMgのそれに比べて大きいため、Si及びCaを主成分として含む結晶の比重は、Si及びMgを主成分として含む結晶のそれに比べて小さくなる。そして、加熱処理繊維に含まれる結晶の比重が小さいほど、当該加熱処理繊維の変形量(例えば、加熱線収縮率)は小さくなる。
【0057】
したがって、無機繊維質成形体が加熱処理繊維として上述したMgO含有量の小さいSiO/CaO繊維を含むことにより、当該無機繊維質成形体の加熱時の変形(反り、加熱線収縮等)が効果的に抑制される。
【0058】
なお、加熱処理によって生体溶解性無機繊維の生体溶解性が低下する場合であっても、当該加熱処理後の生体溶解性が所望の範囲内(例えば、40℃における生理食塩水溶解率が1%以上)であれば特に問題はない。
【0059】
次に、成形工程においては、上述の加熱処理工程で準備した加熱処理繊維と、無機バインダーと、を含む無機繊維質成形体を成形する。すなわち、まず、加熱処理繊維と無機バインダーとを含む原料を調製する。
【0060】
無機バインダーは、加熱処理繊維を結着するものであれば特に限られず、例えば、アニオン性のコロイダルシリカ、カチオン性のコロイダルシリカ等のコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、ジルコニアゾル、チタニアゾル、アルミナゾル、ベントナイト、カオリンからなる群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0061】
原料において、加熱処理繊維の含有量は、例えば、70〜95.5質量%であり、無機バインダーの含有量は、例えば、0.5〜30質量%である。
【0062】
原料は、加熱処理繊維及び無機バインダーに加えて、さらに他の成分を含有してもよい。すなわち、原料は、例えば、有機バインダーをさらに含有してもよい。有機バインダーは、加熱処理繊維を結着するものであれば特に限られず、例えば、澱粉、アクリル樹脂、ポリアクリルアミドからなる群より選択される1種又は2種以上である。原料は、例えば、耐火性無機粉末をさらに含有してもよい。耐火性無機粉末は、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等のセラミックス粉末、及び/又はカーボンブラック等の炭素粉末である。
【0063】
原料は、加熱処理繊維、無機バインダー及び必要に応じてその他の成分を溶媒と混合することにより調製する。溶媒は、加熱処理繊維及び無機バインダーを混合し分散するものであれば特に限られず、例えば、水(例えば、蒸留水、イオン交換水、水道水、地下水、工業用水)及び/又は極性有機溶媒(例えば、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール類、エチレングリコール等の2価のアルコール類)であり、好ましくは水である。
【0064】
こうして調製された無機繊維質成形体の原料は、不定形の組成物である。すなわち、原料は、可塑性のある組成物であり、例えば、流動性のある組成物(いわゆるスラリー等)である。
【0065】
成形工程においては、こうして調製された不定形の原料から、定形の無機繊維質成形体を製造する。すなわち、例えば、原料を所定形状の型に入れ、当該型内で当該原料から溶媒を除去し、さらに、当該原料を乾燥することにより、当該型の形状に対応した形状の無機繊維質成形体を得る。
【0066】
より具体的に、例えば、原料を底部に網が設置された成形型に流し込み、次いで、当該網を介して当該原料に含有される溶媒を吸引することにより当該溶媒を除去し、その後、当該原料を乾燥機中で加熱して乾燥させる。乾燥のための加熱温度は、例えば、60〜150℃であり、好ましくは80〜120℃である。
【0067】
なお、無機繊維質成形体の成形方法は、上述の吸引成形法に限られない。すなわち、例えば、原料として、スラリーに比べて流動性の低い不定形組成物を調製し、当該原料を所定形状の型に入れ、当該型内で乾燥及び焼成する方法によっても、無機繊維質成形体を得ることができる。
【0068】
本実施形態に係る無機繊維質成形体(以下、「本成形体」という。)は、このような本方法により好ましく製造される。すなわち、本成形体は、上述の加熱処理繊維と、無機バインダーと、を含む無機繊維質成形体である。本成形体は、例えば、一部が結晶化した生体溶解性無機繊維(加熱処理繊維)と、無機バインダーと、を含む無機繊維質成形体である。
【0069】
本成形体に含まれる加熱処理繊維のSiO含有量は、例えば、66〜82質量%である。この場合、本成形体は、加熱処理繊維のSiO含有量が比較的大きいことによって、優れた耐熱性を有することとなる。
【0070】
本成形体に含まれる加熱処理繊維のCaO含有量は、例えば、10〜34質量%である。すなわち、この加熱処理繊維は、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量が10〜34質量%のSiO/CaO繊維である。
【0071】
一部が結晶化したSiO/CaO繊維は、例えば、ワラストナイトの結晶を含む。この場合、SiO/CaO繊維は、例えば、ワラストナイト、クリストバライト及びトリジマイトからなる群より選択される1種又は2種以上の結晶を含むこととしてもよい。
【0072】
これらのSiO/CaO繊維は、上述のとおり、無機繊維質成形体の成形に先立って加熱処理が施されていることによって、当該加熱処理によって増大された、非常に優れた生体溶解性を有している。
【0073】
また、SiO/CaO繊維のSiO含有量が大きいことにより、上述のとおり、本成形体が、Alを含む工業炉壁で加熱して使用された場合であっても、当該SiO/CaO繊維と当該Alとの化学反応が効果的に抑制され、本成形体の変形も効果的に抑制される。
【0074】
本成形体に含まれる加熱処理繊維のMgO含有量は、例えば、1質量%以下である。すなわち、この加熱処理繊維は、例えば、SiO含有量が66〜82質量%であり、CaO含有量が10〜34質量%であり、MgO含有量が1質量%以下のSiO/CaO繊維であるこの場合、加熱処理繊維のMgO含有量が小さいことにより、上述のとおり、本成形体の加熱時の変形(反り、加熱線収縮等)が効果的に抑制される。
【0075】
本成形体における加熱処理繊維及び無機バインダーの含有量は、特に限られず、その用途や求められる特性によって適宜決定される。例えば、本成形体において、加熱処理繊維の含有量は70〜95.5質量%である。より具体的に、例えば、本成形体において、加熱処理繊維の含有量は70〜95.5質量%であり、無機バインダーの含有量は0.5〜30質量%である。
【0076】
本成形体の密度は、特に限られず、その用途や求められる特性によって適宜決定される。例えば、本成形体の密度は、0.1〜1.0kg/cmであり、好ましくは0.15〜0.6kg/cmである。
【0077】
本成形体の形状は、特に限られず、その用途や求められる特性によって適宜決定される。例えば、本成形体の形状は、板状(四角等の多角形の板状(ボード)、円板状等)、筒状(四角等の多角形の筒状、円筒状等)、錘状(四角錘等の多角錐、円錐等)である。尚、ペーパー(通常厚みが8mm以下)を含まないとしてもよい。
【0078】
本成形体は、生体溶解性繊維として加熱処理繊維を含有することにより、加熱された状態で使用された場合の変形が効果的に抑制されている。すなわち、例えば、本成形体を1100℃で24時間加熱した場合の加熱線収縮率は、3.0%以下であり、より具体的には、0.0〜3.0%である。本成形体を400℃で24時間加熱した場合の反り量は、1.3mm以下であり、より具体的には、1.0mm以下である。測定方法は実施例に示す通りである。
【0079】
本成形体は、様々な用途に適用される。すなわち、本成形体は、例えば、熱処理装置、工業炉、焼却炉等の加熱設備における断熱材、シール材、パッキング材として使用される。また、本成形体は、例えば、吸音材、ろ過材、触媒担体、複合材料用補強材、耐火被覆材としても使用される。
【0080】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0081】
加熱処理前後の生体溶解性無機繊維の生体溶解性を評価した。まず、第一の生体溶解性無機繊維として、SiO含有量が73質量%、CaO含有量が21〜26質量%、MgO含有量が1質量%以下、Alを1〜3質量%の非晶質のSiO/CaO繊維(以下、「繊維A」という。)を準備した。繊維Aの結晶化温度は895℃であった。
【0082】
次に、繊維Aに加熱処理を施した。加熱処理温度は、800℃、1000℃又は1100℃とした。加熱処理時間は24時間とした。
【0083】
そして、加熱処理前及び各温度での加熱処理後の繊維Aの生体溶解性を評価した。すなわち、生体溶解性を示す指標として、溶解速度定数(ng/cm・h)及び想定半減期(日)を評価した。
【0084】
繊維Aの溶解速度定数は、次のようにして測定した。すなわち、まず、繊維Aを45μmの篩に通し、ショットを除去した繊維Aを濾紙上に置いた。次いで、マイクロポンプにより、繊維A上に生理食塩水を滴下させ、繊維A及び濾紙を通過した濾液をタンク内に貯めた。所定時間経過後に貯まった濾液を回収した。そして、回収された濾液中の溶出成分をICP発光分析装置により定量し、溶出量(ng)を得た。溶解速度定数は、次の式により算出した;溶解速度定数(ng/cm・h)=溶出量(ng)/(繊維Aの比表面積(cm)×試験時間(h))。
【0085】
想定半減期は、EU指令97/69/ECのNoteQに係る適用除外条件を満たすか否かの試験(ドイツ基準)を参考にして測定した。すなわち、この試験では、動物の気管内への注入による短期の生体内滞留性試験において、20μmより長い繊維が40日未満の荷重半減期をもつ場合、当該繊維は適用除外条件を満たすこととなる。そこで、加熱処理前の繊維Aを使用して、この試験を行ったところ、当該繊維Aの荷重半減期は19日であった。そして、加熱処理後の繊維Aの想定半減期は、加熱処理前の繊維Aの溶解速度定数を当該加熱処理後の繊維Aの溶解速度定数で除した値に、当該加熱処理前の繊維Aの荷重半減期を乗じることにより算出した。
【0086】
また、第二の生体溶解性無機繊維として、SiO含有量が76質量%、CaO含有量が2〜6質量%、MgO含有量が16〜20質量%、Alを1〜2質量%の非晶質のSiO/MgO繊維(以下、「繊維B」という。)を準備した。繊維Bの結晶化温度は857℃であった。
【0087】
次に、繊維Bに加熱処理を施した。加熱処理温度は、700℃、800℃、850℃、900℃又は1000℃とした。加熱処理時間は、700℃、800℃及び1000℃については24時間、850℃及び900℃については50時間とした。
【0088】
そして、上述の繊維Aの場合と同様に、繊維Bの加熱処理前及び各温度での加熱処理後の繊維Bの生体溶解性を評価した。
【0089】
図1には、繊維Aの生体溶解性を評価した結果を示す。図2には、繊維Bの生体溶解性を評価した結果を示す。図1及び図2に示すように、加熱処理前(図中の「未処理」)の繊維A及び繊維Bはいずれも、優れた生体溶解性を有していた。
【0090】
繊維Aは、図1に示すように、加熱処理が施されることにより、その生体溶解性が増大した。特に、繊維Aの結晶化温度を超える温度で加熱処理を行うことにより、当該繊維Aの生体溶解性は顕著に増大した。このように、加熱処理後の繊維Aは、極めて優れた生体溶解性を有していた。
【0091】
繊維Bは、図2に示すように、加熱処理が施されることにより、その生体溶解性が低下した。特に、繊維Bの結晶化温度付近又はそれより高い温度で加熱処理を行うことにより、当該繊維Bの生体溶解性は著しく低下した。
【実施例2】
【0092】
繊維Aに加熱処理を施し、当該繊維Aにおける結晶の生成を解析した。まず、繊維Aを加熱処理した。加熱処理温度は、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃、1300℃又は1400℃とした。加熱処理時間は24時間とした。次いで、加熱処理後の繊維Aを粉末X線回折(XRD)で解析した。
【0093】
図3には、各加熱処理温度での加熱処理により得られた繊維AのXRD測定結果を示す。図3において、「△」印はワラストナイト(CaSiO)の結晶のピークを示し、「□」印はシュードワラストナイトの結晶のピークを示し、「○」印はクリストバライトの結晶のピークを示し、「×」印はトリジマイトの結晶のピークを示す。
【0094】
図3に示すように、繊維Aの結晶化温度より高い加熱処理温度で加熱処理を行うことによって、当該繊維Aに当該加熱処理前には検出されなかった結晶が生成されることが確認された。
【0095】
すなわち、900℃以上で加熱処理を行うことにより、ワラストナイトの結晶が生成された。また、1100℃以上で加熱処理を行うことにより、クリストバライトの結晶が生成された。また、1200℃以上で加熱処理を行うことにより、シュードワラストナイトの結晶が生成された。また、1300℃以上で加熱処理を行うことにより、トリジマイトの結晶が生成された。
【0096】
また、繊維Aの場合と同様に、繊維Bに加熱処理を施し、XRD測定を行った。その結果、900℃以上で加熱処理を行うことにより、エンスタタイトの結晶が生成された。また、1100℃以上で加熱処理を行うことにより、クリストバライトの結晶が生成された。また、1300℃以上で加熱処理を行うことにより、トリジマイトの結晶が生成された。
【実施例3】
【0097】
繊維Aを含む無機繊維質成形体を製造し、その加熱線収縮率を評価した。まず、加熱処理が施されていない繊維A、850℃で10分の加熱処理が施された繊維A及び900℃で10分の加熱処理が施された繊維Aを準備した。
【0098】
そして、いずれかの繊維Aを100重量部と、無機バインダーとしてコロイダルシリカ(ST30、日産化学工業株式会社製)を5重量部と、有機バインダーとして澱粉(ペトロサイズJ、日澱化学株式会社製)を4.5重量部及び凝集材(ポリストロン117、荒川化学工業株式会社製)を0.5重量部と、を5000重量部の水と混合して、原料スラリーを調製した。
【0099】
次に、この原料スラリーを、底部に網が設置された成形型に流し込んだ。そして、成形型の網を介して原料スラリーに含有される水を吸引し除去した。その後、脱水された原料を乾燥機中で加熱して乾燥させた。
【0100】
こうして、600mm×900mm、厚さ50mmの四角形板状の無機繊維質ボードを成形した。無機繊維質ボードにおいて、繊維Aの含有量は91.0質量%であり、コロイダルシリカの含有量は4.5質量%であった。
【0101】
さらに、無機繊維質ボードを電気炉中、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃、1260℃又は1300℃で24時間加熱した。そして、無機繊維質ボードの加熱線収縮率を次の式より求めた;加熱線収縮率(%)={(X−Y)/X}×100。この式において、「X」は加熱前の無機繊維質ボードの長さ(mm)であり、「Y」は加熱後の無機繊維質ボードの長さ(mm)であった。
【0102】
図4には、加熱線収縮率を測定した結果を示す。図4に示すように、加熱処理が施された繊維Aを使用して製造された無機繊維質ボード(図中の「850℃処理繊維A」及び「900℃処理繊維A」)の加熱線収縮率は、当該加熱処理が施されていない繊維Aを使用して製造された無機繊維質ボード(図中の「未処理繊維A」)に比べて低減された。
【0103】
特に、結晶化温度より高い加熱処理温度で加熱処理が施された繊維Aを含む無機繊維質ボード(図中の「900℃処理繊維A」)の加熱線収縮率は、測定時の加熱温度が700〜1300℃の全ての範囲において顕著に低減された。
【実施例4】
【0104】
繊維A又は繊維Bを含む無機繊維質成形体を製造し、当該無機繊維質成形体を加熱した場合の反り量を評価した。まず、繊維A及び繊維Bに加熱処理を施した。
【0105】
すなわち、加熱処理が施されていない繊維A、800℃で5分の加熱処理が施された繊維A、850℃で5分の加熱処理が施された繊維A、850℃で10分の加熱処理が施された繊維A、900℃で5分の加熱処理が施された繊維A、及び950℃で10分の加熱処理が施された繊維Aを準備した。
【0106】
また、加熱処理が施されていない繊維B、800℃で5分の加熱処理が施された繊維B、及び900℃で10分の加熱処理が施された繊維Bを準備した。
【0107】
次に、繊維A又は繊維Bを含む無機繊維質ボードを製造した。すなわち、いずれかの繊維Aを100重量部と、無機バインダーとしてコロイダルシリカ(ST30、日産化学工業株式会社製)を5重量部と、有機バインダーとして澱粉(ペトロサイズJ、日澱化学株式会社製)を4.5重量部及び凝集材(ポリストロン117、荒川化学工業株式会社製)を0.5重量部と、を5000重量部の水と混合して、原料スラリーを調製した。そして、上述の実施例3と同様にして、繊維Aを含む無機繊維質ボードを製造した。
【0108】
また、いずれかの繊維Bを100重量部と、無機バインダーとしてコロイダルシリカ(ST30、日産化学工業株式会社製)を5重量部と、有機バインダーとして澱粉(ペトロサイズJ、日澱化学株式会社製)を4.5重量部及び凝集材(ポリストロン117、荒川化学工業株式会社製)を0.5重量部と、を5000重量部の水と混合して、原料スラリーを調製した。そして、上述の実施例3と同様にして、繊維Bを含む無機繊維質ボードを製造した。
【0109】
次に、無機繊維質ボードの反り量を測定した。まず、上述のようにして製造した無機繊維質ボードを860mm×450mm、厚さ50mmのサイズに切り出して試験片とした。この試験片の表面のうち、後述の加熱時に電気炉の内側に向くよう配置される一つの表面(860mm×450mmの表面)を決定し、当該決定された表面の長手方向の一方端から他方端に直定規を渡し、当該表面の当該直定規から最も離れた部分(最も凹んでいる部分)と、当該直定規と、の距離(加熱処理前の変形量)を測定した。
【0110】
その後、上述のように加熱処理前の変形量が測定された表面を電気炉の内側に向くよう、無機繊維質ボードを当該電気炉の内壁に配置した。さらに、この電気炉内において、当該電気炉内に配置したパネルヒーターによって、無機繊維質ボードを、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃又は900℃で24時間加熱した。加熱後、上述の加熱前と同様にして、無機繊維質ボードの変形量を測定した。そして、加熱後の変形量から加熱前の変形量を減じた値を反り量(mm)として得た。
【0111】
図5には、繊維Aを含む無機繊維質ボードの反り量(mm)を測定した結果を示す。図6には、繊維Bを含む無機繊維質ボードの反り量(mm)を測定した結果を示す。
【0112】
図5及び図6に示すように、加熱処理が施されていない繊維A又は繊維Bを含む無機繊維質ボード(図中の「未処理繊維A」又は「未処理繊維B」)に比べて、加熱処理が施された繊維A又は繊維Bを含む無機繊維質ボードの反り量は効果的に低減された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部が結晶化した生体溶解性無機繊維と、無機バインダーとを含み、
前記生体溶解性無機繊維が、以下の組成を有するSiO/MgO繊維又はSiO/CaO繊維である
ことを特徴とする無機繊維質成形体。
[SiO/MgO繊維]
SiO 66〜82重量%
CaO 1〜9重量%
MgO 10〜30重量%
Al 3重量%以下
[SiO/CaO繊維]
SiO 66〜82重量%
CaO 10〜34重量%
MgO 3重量%以下
Al 5重量%以下
【請求項2】
前記生体溶解性無機繊維は、ワラストナイト、ディオプサイド又はエンスタタイトの結晶を含む
ことを特徴とする請求項1に記載された無機繊維質成形体。
【請求項3】
前記成形体がボードであり、400℃で24時間加熱したときの反り量が1.3mm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された無機繊維質成形体。
【請求項4】
以下の組成を有するSiO/MgO繊維又はSiO/CaO繊維である、非晶質の生体溶解性無機繊維に600〜1300℃の加熱処理を施す第一工程と、
前記加熱処理が施された前記生体溶解性無機繊維と、無機バインダーと、を含む無機繊維質成形体を成形する第二工程と、
を含む
ことを特徴とする無機繊維質成形体の製造方法。
[SiO/MgO繊維]
SiO 66〜82重量%
CaO 1〜9重量%
MgO 10〜30重量%
Al 3重量%以下
[SiO/CaO繊維]
SiO 66〜82重量%
CaO 10〜34重量%
MgO 3重量%以下
Al 5重量%以下
【請求項5】
前記第一工程において、前記非晶質の生体溶解性無機繊維に結晶化温度以上の温度で加熱処理を施し、一部が結晶化した前記生体溶解性無機繊維を得る
ことを特徴とする請求項4に記載された無機繊維質成形体の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理が施された前記生体溶解性無機繊維は、ワラストナイト、ディオプサイド又はエンスタタイトの結晶を含む
ことを特徴とする請求項4又は5に記載された無機繊維質成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体がボードであり、400℃で24時間加熱したときの反り量が1.3mm以下である
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載された無機繊維質成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載された無機繊維質成形体を含む
ことを特徴とする加熱設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102450(P2012−102450A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154567(P2011−154567)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】