説明

無機繊維

【課題】平均繊維径が1μm以下であるものであっても人体や生活環境に及ぼす影響が抑制された、高い生体溶解性を発揮するとともに、フィルター材やシール材等の構成材料として好適な耐熱性を発揮する無機繊維を提供する。
【解決手段】35質量%〜88質量%のAl、3質量%〜45質量%のCaOおよび5質量%〜40質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上であることを特徴とする無機繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維は、無機化合物より成る繊維を主構成成分とするものであり、断熱材や耐火材等の構成材料として期待されており、特に平均繊維径1μm以下であるものは、フィルター材及びシール材の構成材料としての用途が期待される。
【0003】
ところで、繊維径の小さな無機繊維としては、従来よりアスベスト(石綿)が知られており、このアスベストは、繊維径が小さく、体液に対する化学的抵抗性が高いものであるために、呼吸によって肺奥部に達し、肺胞内の細胞に長期間の刺激を与え、人体に影響するとされている。また、アスベスト以外の無機繊維においても、SiOを主成分とする耐熱性を向上させた無機繊維は、高温環境下でSiOが結晶化してクリストバライトを生成し呼吸によって肺奥部に達した場合には、人体に影響するとされている。
【0004】
このため、生体溶解性を有し、体液に対する化学的な抵抗性が低い無機繊維として、オキシ塩化アルミニウムとコロイダルシリカと増粘剤とを含む溶液からなる紡糸液を多数の紡糸孔から引き出して繊維前駆体とした後、これを急速加熱および急速冷却処理してなる、65〜99重量%のAlおよび1〜35重量%SiOからなる無機繊維が提案されている(特許文献1(特許第3979494号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3979494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等が鋭意検討を行ったところ、特許文献1記載の無機繊維は必ずしも生体溶解性を示すものでないことが判明した。また、無機繊維の用途によっては、特許文献1記載の無機繊維よりも、さらに生体溶解速度の速いものが求められるようになっている。
【0007】
このような状況下、本発明は、生体溶解速度が大きく耐熱性が高い無機繊維を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術課題を解決すべく、本発明者等が鋭意検討を行ったところ、35質量%〜88質量%のAl、3質量%〜45質量%のCaOおよび5質量%〜40質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上である無機繊維により解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)35質量%〜88質量%のAl、3質量%〜45質量%のCaOおよび5質量%〜40質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上であることを特徴とする無機繊維、
(2)39質量%〜66質量%のAl、26質量%〜42質量%のCaOおよび8質量%〜28質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上である上記(1)に記載の無機繊維、
(3)前記無機繊維が、
水溶性の塩基性酸アルミニウムと水溶性のカルシウム化合物と水溶性または水分散性のケイ素化合物とを水性媒体中に溶解して紡糸原料水性溶液を作製した後、
該紡糸原料水性溶液を紡糸して粗無機繊維を得、
次いで、該粗無機繊維を焼成してなるものである
上記(1)または(2)に記載の無機繊維、
(4)前記水溶性の塩基性酸アルミニウムが、下記式(I)
Al(OH) (I)
(ただし、Xは0を超え3未満の正の数であり、Yは、Cl原子、NO基、SO基、RCOO基から選ばれるいずれか一種であり、Zは、YがCl原子、NO基、RCOO基である場合3−X、YがSO基である場合(3−X)/2であり、前記Rは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基であって、RCOO基が複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物から選ばれる一種以上である上記(3)に記載の無機繊維、
(5)前記紡糸が静電紡糸法により行われてなる上記(3)または(4)に記載の無機繊維、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体溶解速度が大きく耐熱性が高い無機繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】静電紡糸に供する紡糸装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の無機繊維は、35質量%〜88質量%のAl、3質量%〜45質量%のCaOおよび5質量%〜40質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の無機繊維は、Alを35質量%〜88質量%含むものであり、39質量%〜87質量%含むものであることが好ましく、39質量%〜83質量%含むものであることがより好ましく、39質量%〜66質量%含むものであることがさらに好ましく、49質量%〜66質量%含むものであることが一層好ましい。
Alの含有割合が上記範囲内にあることにより、所望の耐熱性を得やすくなる。
【0014】
また、本発明の無機繊維は、CaOを3質量%〜45質量%含むものであり、3質量%〜42質量%含むものであることがより好ましく、26質量%〜42質量%含むものであることがさらに好ましい。
CaOの含有割合が上記範囲内にあることにより、所望の生体溶解性を得やすくなる。
【0015】
本発明の無機繊維は、SiOを5質量%〜40質量%含むものであり、8質量%〜39質量%含むものであることが好ましく、8質量%〜28質量%含むものであることがより好ましく、8質量%〜16質量%含むものであることが一層好ましい。
SiOの含有割合が上記範囲内にあることにより、所望の耐熱性を得やすくなる。
【0016】
本発明の無機繊維は、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上であり、繊維全体の99質量%以上であることより好ましい。
【0017】
本発明の無機繊維は、不可避的成分を2質量%未満含み得るものであり、ここで、不可避的成分とは、無機繊維の調製時に混入する不純物成分を意味する。
【0018】
本発明の無機繊維は、35質量%〜88のAl、3質量%〜45質量%のCaOおよび5質量%〜40質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上であることにより、所望の生体溶解性と耐熱性を発揮することができる。
【0019】
また、本発明の無機繊維が、39質量%〜66のAl、26質量%〜42質量%のCaOおよび8質量%〜28質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上である場合には、所望の生体溶解性と耐熱性をより一層発揮することができる。
【0020】
本発明の無機繊維において、各成分の含有割合(質量%)は、後述する繊維作製時に使用した紡糸原料水性溶液から一部取り出して乾燥させ、次いで1000℃にて2時間焼成を行った粉末を測定試料として、蛍光X線分析装置(Rigaku社製 RIX2000)を用いて測定した際の値を意味する。なお、得られる無機繊維にはバランス成分が含まれる場合があるが、この場合はバランス成分を除いた金属酸化物の合計値が100質量%となるように、補正計算を行うものとする。
【0021】
本発明の無機繊維は、上記組成を有するものであって、水溶性の塩基性酸アルミニウムと水溶性のカルシウム化合物と水溶性または水分散性のケイ素化合物とを水性媒体中に溶解して紡糸原料水性溶液を作製した後、該紡糸原料水性溶液を、紡糸して粗無機繊維を得、次いで、該粗無機繊維を焼成してなるものであることが好ましい。
【0022】
本発明の無機繊維において、上記水溶性の塩基性酸アルミニウムが、下記式(I)
Al(OH) (I)
(ただし、Xは0を超え3未満の正の数であり、Yは、Cl原子、NO基、SO基、RCOO基から選ばれるいずれか一種であり、Zは、YがCl原子、NO基、RCOO基である場合3−X、YがSO基である場合(3−X)/2であり、前記Rは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基であって、RCOO基が複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよい)で表される化合物から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0023】
上記紡糸原料水性溶液を構成する各原料や、紡糸方法や、焼成条件等の詳細は、後述するとおりである。
【0024】
本発明の無機繊維は、後述する静電紡糸法により紡糸されてなるものであることが好ましい。
【0025】
本発明の無機繊維は、平均繊維径4μm未満でも生体溶解性を発揮することができるものであり、無機繊維の平均繊維径は、3μm以下であるものが好適であり、1μm以下であるものがより好適であり、0.5μm以下であるものがさらに好適である。無機繊維の平均繊維径が1μm以下であることにより、フィルター材及びシール材の構成材料として好適に使用することができる。平均繊維径が1μm以下である無機繊維は、後述する静電紡糸法による静電紡糸時の雰囲気や印加電圧を調整したり、紡糸原料水性溶液の濃度や粘度を調整すること等によって製造することができる。
【0026】
本発明の無機繊維は、後述する生体溶解性の評価方法により評価したときに、試験開始後0時間〜24時間における溶解速度が20ng/cm・h以上であるものが好適であり、40ng/cm・h以上であるものがより好適である。また、試験開始後24時間〜48時間における溶解速度が20ng/cm・h以上であるものが好適であり、40ng/cm・h以上であるものがより好適である。なお、試験開始後0〜24時間における溶解速度が500ng/cm・h以上であれば、試験開始後24〜48時間の溶解速度が20ng/cm・h以下であっても、溶解性は期待できる。溶解速度の上限については、特に制限はないが、通常、5400ng/cm・h程度である。
【0027】
本発明の無機繊維は、生体溶解速度が大きく、生体溶解性に優れたものであるので、平均繊維径が小さいものであっても生活環境に与える影響が小さく、また、後述する製造方法によって容易に細繊維化することができる。このため、例えば、平均繊維径が1μm以下の細繊維化物を、フィルター材及びシール材の構成材料等として、種々の産業分野で利用することができる。
【0028】
なお、本出願書類において、無機繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(日本電子製 JSM‐5800LV)により撮影した写真(倍率2000〜5000倍)から無作為に選定した10〜111箇所の繊維の幅を計測し、これ等の幅から算出した平均値を意味する。
【0029】
本発明の無機繊維は、融点が1300℃以上であるものが好適であり、1350℃以上であるものがより好適であり、1367℃以上であるものがさらに好適である。本発明の無機繊維が、融点が1300℃以上の耐熱性の高いものであることにより、フィルター材及びシール材等として好適に使用することができる。
なお、本出願書類において、無機繊維の融点は、上述した無機繊維組成を基に、熱力学平衡計算から求めた値を意味する。
【0030】
本発明の無機繊維を製造する方法としては、種々の方法を挙げることができ、所望組成を有する紡糸原料溶液を乾式紡糸する方法や、所望組成を有する溶融物を紡糸ノズルから引き出し、冷却した後、ワインダ巻取りしながら紡糸する溶融連続紡糸法や、所望組成を有する溶融物を高速回転体に衝突させその遠心力によって繊維化するスピナー法(外部遠心法)や、所望組成を有する溶融物を回転体から吐出し、遠心力によって繊維化する内部遠心法や、所望組成を有する溶融物を圧縮空気により繊維化するメルトブロー法が挙げられる。また、上記乾式紡糸法としては、所望組成を有する紡糸原料溶液をノズルから吐出した後、ワインダで巻取り延伸しながら乾燥する乾式連続紡糸法や、所望組成を有する紡糸原料溶液を空気流で遠心しながら乾燥し不連続繊維を得る方法や、後述する静電紡糸法を挙げることができる。
【0031】
乾式紡糸法においては、紡糸原料溶液の粘度を適宜調整することが好ましく、紡糸原料溶液の粘度調整は、例えば、紡糸助剤の添加量を変更したり、加熱や減圧による濃縮や水を添加することによる希釈操作によって行うことができる。
【0032】
例えば、平均繊維径数μm〜数十μmの繊維を得ることを目的として紡糸原料溶液を連続紡糸法により紡糸する場合、その粘度は数十Pa・s〜数百Pa・s程度であることが好ましく、60Pa・s〜200Pa・sであることがより好ましい。上記粘度が数十Pa・s未満であると、ノズルから押し出された紡糸液が表面張力に負けて毛管破断しやすくなり紡糸が困難になる。また、上記粘度が数百Pa・s超であると、繊維を延伸する際に凝集破断がおきて繊維径を小さくし難くなるとともに、ノズルから紡糸液を押し出す際に高い圧力が必要になって繊維製造装置が大型化してしまう。
【0033】
また、例えば、平均繊維径数μmの繊維を得ることを目的として紡糸原料溶液を多数の孔から遠心により噴き出し引き伸ばして紡糸する回転遠心円板法や空気を吹き付けることによって紡糸液を引き伸ばして紡糸するブローイング法により紡糸する場合、紡糸原料溶液の粘度は数Pa・s〜数十Pa・s程度が好ましい。上記粘度が数Pa・s未満であると、紡糸原料溶液が繊維化されずに液滴のまま飛散したり、繊維化できても紡糸液が引き伸ばされて破断した際に、ショットと呼ばれる球状の粒子が多量に生成する。一方、粘度が過大であると、遠心力やブローイングによって延伸することができず、繊維を作製することができなくなる。
【0034】
上記各乾式紡糸法により得られた粗無機繊維を適宜焼成処理することにより、粗無機繊維中の有機物を消失させて所望の無機繊維を得ることができる。
【0035】
上記無機繊維の製造方法のうち、乾式紡糸法を用いた製造方法、特に静電紡糸法を用いた製造方法が、目的とする無機繊維を簡便かつ低コストに製造することができるため、好適である。
【0036】
また、本発明の無機繊維は、水溶性の塩基性酸アルミニウムと水溶性のカルシウム化合物と水溶性または水分散性のケイ素化合物とを水性媒体中に溶解して紡糸原料水性溶液を作製した後、該紡糸原料水性溶液を紡糸して粗無機繊維を得、次いで、該粗無機繊維を焼成する方法により製造することが好ましい。
【0037】
以下、本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する方法について詳述する。
【0038】
本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する場合、原料としてはアルミニウム原料等を挙げることができ、アルミニウム原料としては、水溶性の塩基性酸アルミニウムが挙げられる。
本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する場合、原料として用いられる水溶性の塩基性酸アルミニウムとしては、下記式(I)
Al(OH) (I)
(ただし、Xは0を超え3未満の正の数であり、Yは、Cl原子(塩素原子)、NO基、SO基、RCOO基(カルボキシル基)から選ばれるいずれか一種であり、Zは、YがCl原子、NO基、RCOO基である場合3−X、YがSO基である場合(3−X)/2であり、前記Rは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基であって、RCOO基が複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物を挙げることができる。なお、こうした塩基性酸アルミニウムは、ヒドロキシ基で架橋された8面体配位のアルミニウム多核錯体(無機イオン性ポリマー)で、2量体やオリゴマーの形をとり得る。
【0039】
組成式(I)で表される塩基性酸アルミニウムにおいて、Xは1以上3未満の正の数であることが好ましく、1以上2.5以下の正の数であることがより好ましく、1〜2がさらに好ましい。
【0040】
組成式(I)で表される塩基性酸アルミニウムにおいて、Xは、塩基性酸アルミニウムの合成時に、添加した酸等の組成比から算出することができる。
【0041】
組成式(I)で表される塩基性酸アルミニウムとしては、塩基性カルボン酸アルミニウム(Al(OH)(RCOO)3−X)が好ましく、組成式(I)で表される塩基性酸アルミニウムが塩基性カルボン酸アルミニウムであることにより、後述する焼成処理を施す際において環境負荷の大きい塩素や硝酸の発生を抑制することができる。
【0042】
また、組成式(I)で表される塩基性酸アルミニウムが、塩基性カルボン酸アルミニウムである場合、RCOO基を構成するRは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基である。
【0043】
Rが炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基である場合、その炭素数は1〜10であり、1〜5であることが好ましい。炭素数が10を超えると、式(I)で表される塩基性酸アルミニウムが水溶性を示し難くなる。また、Rが炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基である場合、炭化水素基部分は、直鎖状でも分枝状でもよく、また、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。
【0044】
Rが炭化水素基である場合、炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基等が挙げられる。
【0045】
具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基(これらのアルキル基が分枝状になり得る場合には、アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基(これらのアルケニル基が分枝状になり得る場合には、アルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である);シクロプロピル基、シクロブチル基等のシクロアルキル基;メチルシクロプロピル基、メチルシクロブチル基等のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)等を例示することができる。
【0046】
Rが水酸基含有炭化水素基である場合、水酸基含有炭化水素基としては、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基、ヒドロキシシクロアルキル基等が挙げられる。
【0047】
具体的には、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等のヒドロキシアルキル基(これらのヒドロキシアルキル基が分枝状になり得る場合には、ヒドロキシアルキル基を構成するアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);ヒドロキシブテニル基等のヒドロキシアルケニル基(ヒドロキシアルケニル基を構成するアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である);ヒドロキシシクロプロピル基、ヒドロキシシクロブチル基等のヒドロキシシクロアルキル基(ヒドロキシル基やアルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)等を例示することができる。
【0048】
水中での安定性等を考慮すると、RCOO基としては、ギ酸、酢酸、乳酸等から選ばれるカルボン酸の反応残基(HCOO基、CHCOO基、CHCH(OH)COO基)が好ましい。
【0049】
本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する場合、カルシウム原料としては、水溶性のカルシウム化合物が好ましく、該カルシウム化合物としては、水溶性を示すとともに、後述する紡糸原料水性溶液中に所望量溶解し得るものであれば特に制限されず、例えば、カルシウムの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、塩化物、フッ化物、ホウ酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
【0050】
これ等のカルシウム化合物のうち、紡糸原料水性溶液中に溶解させるアルミニウム化合物が塩基性カルボン酸アルミニウムである場合には、カルシウム化合物もカルボン酸塩であることが好ましく、紡糸原料水性溶液への溶解性や材料の入手の容易さから酢酸カルシウム一水和物であることがより好ましい。
【0051】
本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する場合、ケイ素原料としては、水溶性または水分散性のケイ素化合物が好ましく、該ケイ素化合物としては、紡糸原料水溶液に溶解または分散するものであれば特に制限されず、例えば、水溶性のケイ素化合物としては、水溶性のケイ酸塩、水溶性のケイ素のアルコキシド(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等)等を挙げることができ、水分散性のケイ素化合物としては、シリカゾル(コロイダルシリカ)等を挙げることができ、これ等のケイ素化合物のうち、紡糸原料水溶液の粘度安定性等の観点から、シリカゾル(コロイダルシリカ)が好ましい。
【0052】
シリカゾルとしては、4〜100nmの粒子径のシリカを、固形分5〜30質量%媒体中に分散してなるものが好ましく、シリカゾルは、アルコキシシランから製造されるゾル−ゲル法や、ケイ酸ナトリウムから製造されるケイ酸ソーダ法により製造することができる。
【0053】
本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する場合、必要に応じて、さらに紡糸助剤を用いることもできる。紡糸助剤としては、所望の無機繊維を作製し得るものであれば特に制限されないが、取扱いの容易性や溶解性を考慮すると水溶性の有機高分子であることが好ましい。例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリアクリル酸エステルならびにこれらの共重合体が挙げられ、これ等のうち、ポリアクリル酸エステルが好ましい。
【0054】
紡糸助剤を添加することにより、繊維径のばらつきを抑制し、安定して紡糸することができる。また、紡糸後の未焼成繊維の強度が増し、ハンドリング性に優れる。
【0055】
本発明の無機繊維を乾式紡糸法により作製する場合、上述したように、上記水溶性の塩基性酸アルミニウムと水溶性のカルシウム化合物と水溶性または水分散性のケイ素化合物と、必要に応じ紡糸助剤とを水性媒体中に溶解させて、紡糸原料水性溶液にした上で紡糸する方法が挙げられる。
【0056】
水性媒体としては、水が好ましく、溶液の安定性を向上させたり、紡糸の安定性を向上させるために、水を主成分として水に可溶な他の媒体、例えばアルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、カルボン酸類などを添加したものであってもよい。また、これらの媒体に対して塩化アンモニウムなどの有機塩を添加したものであってもよい。
【0057】
紡糸原料水性溶液中における水溶性の塩基性酸アルミニウムの濃度は、4質量%〜83質量%であることが好ましく、4質量%〜68質量%であることがより好ましい。
また、紡糸原料水性溶液中において、アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対するアルミニウム元素の存在割合は、アルミニウム元素をAl、カルシウム元素をCaO、ケイ素元素をSiOに換算したときのAl換算で35質量%〜88質量%であることが好ましく、39質量%〜87質量%であることがより好ましく、39質量%〜83質量%であることがさらに好ましく、39質量%〜66質量%であることが一層好ましく、49質量%〜66質量%であることがより一層好ましい。
【0058】
アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対する、アルミニウム元素の存在割合がAl換算で88質量%超であると、カルシウム元素の存在割合が小さくなって所望の生体溶解性を得難くなり、アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対する、アルミニウム元素の存在割合がAl換算で35質量%未満であると、所望の耐熱性や生体溶解性を示し難くなる。
【0059】
紡糸原料水性溶液中における水溶性のカルシウム化合物の濃度は、0.4質量%〜46質量%であることが好ましく、2質量%〜46質量%であることがより好ましい。
また、紡糸原料水性溶液において、アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対するカルシウム元素の存在割合は、アルミニウム元素をAl、カルシウム元素をCaO、ケイ素元素をSiOに換算したときのCaO換算で3質量%〜45質量%であることが好ましく、3質量%〜42質量%であることがより好ましく、26質量%〜42質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対する、カルシウム元素の存在割合がCaO換算で45質量%超であると、他の金属元素の存在割合が低下して所望の耐熱性を得難くなり、3質量%未満であると所望の生体溶解性を得難くなる。
【0061】
紡糸原料水性溶液中における水溶性または水分散性のケイ素化合物の濃度は、0.4質量%〜24質量%であることが好ましく、0.4質量%〜16質量%であることがより好ましく、0.4質量%〜8質量%であることがさらに好ましい。
また、紡糸原料水性溶液中において、アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対するケイ素元素の存在割合は、アルミニウム元素をAl、カルシウム元素をCaO、ケイ素元素をSiOに換算したときのSiO換算で5質量%〜40質量%であることが好ましく、8質量%〜39質量%であることがより好ましく、8質量%〜28質量%であることがさらに好ましく、8質量%〜16質量%であることが一層好ましい。
【0062】
アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対する、ケイ素元素の存在割合がSiO換算で40質量%超であると、カルシウム元素の存在割合が小さくなって所望の生体溶解性を得難くなり、アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対する、ケイ素元素の存在割合がSiO換算で5質量%未満であると、所望の耐熱性を示し難くなる。
【0063】
紡糸原料水性溶液が紡糸助剤を含む場合、紡糸助剤の濃度は、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜5質量%がより好ましい。紡糸助剤は、焼成後に繊維が緻密化し、強度が保持されるために可能な限り少ない方が好ましいが、少量では繊維作製時の形態が安定しない場合があるため、必要に応じて添加量を調整することが好ましい。
【0064】
紡糸原料水性溶液の作製方法は、特に制限されず、例えば、水性媒体と、水溶性の塩基性酸アルミニウム、水溶性のカルシウム化合物、水溶性または水分散性のケイ素化合物、紡糸助剤およびその他の任意成分を、各成分がそれぞれ所望濃度になるように混合することにより作製してもよいし、水溶性の塩基性酸アルミニウムの水性溶液と、水溶性のカルシウム化合物の水性溶液と、水溶性または水分散性のケイ素化合物の水性溶液と、紡糸助剤の水性溶液と、その他の任意成分とを、各成分が所望濃度になるように混合することにより作製してもよい。
【0065】
本発明の無機繊維を作製する場合、上記紡糸原料水性溶液を、静電紡糸法により紡糸して粗無機繊維を得ることが好ましい。
【0066】
静電紡糸法とは、繊維形成性化合物を含む紡糸原料水性溶液に対して電圧を印加し、静電反発力を利用して紡糸原料水性溶液を吐出し繊維化する方法である。
【0067】
紡糸原料水性溶液を電圧を印加した静電場中に吐出する方法としては、任意の方法を用いることができ、例えば、紡糸原料水性溶液を、静電場中の適切な位置に供給し、紡糸原料水溶液に対して電圧を印加することによって電界を利用して曳糸して繊維化する方法を挙げることができる。具体的には、例えば、紡糸原料水性溶液をノズルに供給した状態で、静電場中の適切な位置に置き、そのノズルから紡糸原料水溶液を電界によって曳糸して繊維化する方法を挙げることができる。
【0068】
以下、静電紡糸法による紡糸の具体的態様を図1を参照しつつ説明する。
【0069】
図1は、静電紡糸に供する紡糸装置の一例を示す図である。図1において、紡糸装置1は、シリンジ2と、ノズル3と、高電圧発生装置4と、試料捕集台5から構成されている。
【0070】
図1に示す紡糸装置1において、紡糸原料水性溶液は、シリンジ2内に充填された後、ノズル3の先端部まで送液される。高電圧発生装置4は、それぞれノズル3周囲に設けられた導電性の固定部と導電性の試料捕集台5に電気的に接続されており、ノズル3周囲に設けられた固定部を通じてノズル3に電圧を印加することにより、ノズル3の先端から紡糸原料水性溶液を噴出し、繊維化して、粗無機繊維とする。得られた粗無機繊維は、対向電極である試料捕集台5上に捕集される。
【0071】
紡糸原料水性溶液をノズル3から静電場中に供給する場合、複数のノズル3を用い、ノズル3を並列に配置して繊維状物質の生産速度を上げてもよい。
【0072】
静電紡糸時に印加する電圧は、ノズル先端と対向電極との距離(電極間の距離)や、紡糸原料水性溶液の粘度や、紡糸原料水性溶液の濃度等の条件を考慮しつつ、1〜100kVとすることが好ましく、3〜30kVとすることがより好ましい。
【0073】
電極間の距離は、帯電量、ノズル寸法、紡糸原料水性溶液のノズルからの噴出量、紡糸原料水性溶液濃度等に依存するが、20〜500mmが好ましく、50〜300mmがより好ましく、100〜200mmがさらに好ましい。
【0074】
紡糸原料水性溶液の粘度は、0.01〜5.0Pa・s程度が好ましく、0.05〜3.0Pa・s程度がより好ましい。紡糸原料水性溶液の粘度が0.01Pa・s未満であると、紡糸時に紡糸原料水性溶液が糸状化せずに球状の粒を生ずる場合があり、紡糸原料水性溶液の粘度が5.0Pa・s超であると、繊維化処理が困難となる。紡糸原料水性溶液の粘度は、紡糸助剤の添加量を調整したり、適宜、加熱処理や減圧処理による濃縮操作を行うことによって調整することもできる。
なお、本出願書類において、紡糸原料水性溶液の粘度は、粘弾性測定装置(AntonPaar社製 Physica MCR301)を用い、紡糸液の液温を25℃に維持し、せん断速度10s-1の時のせん断粘度を意味する。以降、上記の条件で測定した粘度を本出願書類の粘度とする。
【0075】
静電紡糸により得られる粗無機繊維は、平均繊維径が10nm〜2000nmであることが好ましく、50nm〜1000nmであることがより好ましい。
【0076】
なお、本出願書類において、粗無機繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(日本電子製 JSM‐5800LV)により撮影した写真(倍率2000〜5000倍)から無作為に10〜111箇所選定して繊維の幅を計測し、これ等の幅から算出した平均値を意味する。
【0077】
上記静電紡糸法により得られた粗無機繊維を焼成する。
【0078】
焼成温度は、500℃以上液相生成温度未満が好ましく、具体的には、500℃以上1350℃以下であって液相生成しない温度であることが好適である。
【0079】
焼成温度が500℃未満であると、紡糸助剤として用いた有機高分子などの有機成分が得られる無機繊維中に残留し、また、焼成温度が1350℃超であると、結晶粒の成長が生じて得られる無機繊維が非常に脆くなったり、液相を生じて炉床と反応してしまう。
【0080】
焼成温度を所望範囲内に制御することによって、得られる無機繊維により優れた生体溶解性を付与することができる。
【0081】
焼成は、公知の電気炉等を用いて行うことができ、焼成時の雰囲気は、紡糸助剤等として用いた有機物を分解するために、大気または酸化性雰囲気とすることが好ましい。残留有機物の分解能を考慮しなくてよい場合には、窒素等の不活性雰囲気であってもよい。
【0082】
本発明によれば、このようにして、平均繊維径が1μm以下であるものであっても人体や生活環境に及ぼす影響が抑制された、高い生体溶解性を発揮するとともに、フィルター材やシール材等の構成材料として好適な耐熱性を発揮する無機繊維を提供することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、生体溶解性は、以下に示す方法により評価した。
【0084】
(生体溶解性の評価方法)
得られた無機繊維のうち、評価試料として25 mgの範囲に収まる量を精秤した。
【0085】
次に、この評価試料を孔径0.1μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルタ上に置き、さらに評価試料上部に孔径1μmのPTFE製メンブレンフィルタを乗せてフィルタユニットとして固定した。このフィルタユニットに対し、表1に記載した組成を有するpH5.0の生理食塩水を0.15ml/minの割合で流通させた。
【0086】
評価試料を流通した生理食塩水は、フィルタユニット下部に設けたタンク内に溜まるが、生理食塩水が評価試料を通ることによって無機繊維成分も溶出する。評価試験中の生理食塩水は生体液の温度である37℃に維持しつつ、タンクに貯めた無機繊維成分溶出液を試験開始から24時間後と48時間後に取り出し、ICP発光分析装置により、繊維成分の溶出量を定量し、その値から溶解度を算出した。
【0087】
ここで、単純な溶解度では、繊維径の違いによる繊維表面積の差が出てくるため、繊維径を別途計測して繊維表面積を求め、これと溶解度の測定値、繊維の真密度、試料の使用量より単位時間、単位繊維表面積あたりの溶解度(ng/cm・h)を算出し溶解速度とした。溶解速度は、試験開始後0時間〜24時間における速度を求めるともに、実施例1、実施例10〜実施例13、実施例16〜20、実施例22〜実施例23および実施例25においては試験開始後24〜48時間における速度も求めた。
【0088】
なお、得られた無機繊維の外形が概略円柱状であることから、無機繊維の表面積は、無機繊維形状が円柱状であるとしてその全側面積を求めることにより算出した。
【0089】
すなわち、無機繊維の質量をM(g)、無機繊維の全長をL(m)、無機繊維の平均繊維径をd(m)、無機繊維の真密度をρ(kg/m)とすると、下記(1)式が成り立つ。
M=π×d×L×ρ/4 (1)
また、無機繊維の表面積S(m)は式(2)で表わされる。
S=π×d×L (2)
式(2)よりL=S/(π×d)であることから、このLを式(1)に代入してSについてまとめると、以下の式(3)のとおりとなる。
S=4M/dρ (3)
【0090】
無機繊維の質量M(g)を実測するとともに、上述したように走査型電子顕微鏡(日本電子製 JSM‐5800LV)を用いて無機繊維の平均繊維径d(m)を測定し、ピクノメーター法により無機繊維の粉砕物から無機繊維の真密度ρ(kg/m)を測定して、上記式(3)にそれぞれ代入することにより、無機繊維の表面積S(m)を算出することができる。
【0091】
なお、上記評価によって得られた生理食塩水への溶解速度は、体液への化学的抵抗性の指標であり、この値が高いほど体液への化学的抵抗性は低く、生体への有害性は低いとされる。
【0092】
【表1】

【0093】
(実施例1) 塩基性カルボン酸アルミニウムとして、Al(OH)(RCOO)3−X(Xが1.7の値、Rの炭素数が0〜2の値である)を用いて、以下のとおり紡糸原料水溶液を調製した。
【0094】
すなわち、Al換算したアルミニウム濃度が10.5質量%である塩基性カルボン酸アルミニウム水溶液100質量部に対して、CaO換算したカルシウム濃度が7.3質量%である酢酸カルシウム水溶液47.2質量部と、SiO換算したケイ素濃度が20.5質量%であるコロイダルシリカ29.2質量部と、濃度6.0質量%に調製したポリアクリル酸エステル水溶液28.6質量部とを添加、混合した後、適宜濃縮することにより、粘度が1.0Pa・sの紡糸原料水性溶液を調製した。
【0095】
この紡糸原料水性溶液は、アルミニウム元素をAl、カルシウム元素をCaO、ケイ素元素をSiOに換算したときに、アルミニウム元素とカルシウム元素とケイ素元素の総量に対し、アルミニウム元素を52.6質量%、カルシウム元素を17.4質量%、ケイ素元素を30.0質量%含むものである。
【0096】
次いで、図1に示す紡糸装置1を用いて、上記紡糸原料水性溶液を紡糸した。紡糸処理に際しては、上記紡糸原料水性溶液をシリンジ2内に充填した後、ノズル3の先端部まで送液し、ノズル3周囲に設けられた固定部と試料捕集台5に電気的に接続した高電圧発生装置4から10.0kVの電圧を印加することにより、ノズル3の先端から紡糸原料水性溶液を噴出させ、繊維化して、ノズル3先端からの距離を150mmに調整した試料捕集台5上に捕集して、粗無機繊維を得た。
【0097】
得られた粗無機繊維を、大気雰囲気下、電気炉中で500℃/時で1000℃まで昇温し、2時間保持することによって焼成して、無機繊維を得た。
【0098】
得られた無機繊維の平均繊維径は1.53μmであり、Alを53.4質量%(39.6モル%)含むとともに、CaOを18.7質量%(25.2モル%)、SiOを27.9質量%(35.2モル%)含むものであった。
【0099】
この無機繊維の生体溶解性を評価するために、上述した方法により、得られた無機繊維の溶解速度を測定したところ、試験開始後0時間〜48時間における溶解速度は458ng/cm・hであり、24時間〜48時間における溶解速度は560ng/cm・hであり、融点は1392℃であった。
上記焼成時の温度および得られた無機繊維の組成(質量%およびモル%表示)を表2に示すとともに、焼成温度および得られた無機繊維の平均繊維径、溶解速度および融点を表3に示す。
【0100】
(実施例2〜実施例27、比較例1)
得られる無機繊維中のAl量、CaO量およびSiO量が表2に示す割合になるように、紡糸原料水性溶液中の塩基性カルボン酸アルミニウム水溶液量、酢酸カルシウム水溶液量およびコロイダルシリカ量を調整するとともに、焼成温度(電気炉中で2時間保持した温度)を表3に示す温度にして、実施例1と同様にして無機繊維を作製した。
【0101】
得られた無機繊維について、実施例1と同様にして平均繊維径を求めるともに、生体溶解性の評価および融点の測定を行った。結果を表3に示す。なお、実施例13等においては、試験開始後0〜24時間までの溶解速度に比較して、試験開始後24〜48時間までの溶解速度が低下しているが、これは試料の大半が溶解・消失したためである。
【0102】
上記焼成時の温度および得られた無機繊維の組成(質量%およびモル%表示)を表2に示すとともに、得られた無機繊維の平均繊維径、溶解速度および融点を表3に示す。
なお、比較例1においては、紡糸原料水溶液を作製し、粘度調整した段階で沈殿が生成したため、紡糸できなかった。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
表3に示す結果より、実施例1〜実施例27で得られた無機繊維は、試験開始後0時間〜24時間における溶解速度が65ng/cm・h以上であり、試験開始後24時間〜48時間おける溶解速度が47ng/cm・h以上であることから、優れた生体溶解性を示すものであることが分かり、融点が1367℃以上であることから、高い耐熱性を示すものであることが分かる。
【0106】
これに対し、比較例1の紡糸原料水溶液は、繊維化できないものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、生体溶解速度が大きく生体溶解性に優れるとともに、耐熱性の高い無機繊維を提供することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 紡糸装置
2 シリンジ
3 ノズル
4 高電圧発生装置
5 試料捕集台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
35質量%〜88質量%のAl、3質量%〜45質量%のCaOおよび5質量%〜40質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上であることを特徴とする無機繊維。
【請求項2】
39質量%〜66質量%のAl、26質量%〜42質量%のCaOおよび8質量%〜28質量%のSiOを含み、Al、CaOおよびSiOを合計した含有割合が繊維全体の98質量%以上である請求項1に記載の無機繊維。
【請求項3】
前記無機繊維が、
水溶性の塩基性酸アルミニウムと水溶性のカルシウム化合物と水溶性または水分散性のケイ素化合物とを水性媒体中に溶解して紡糸原料水性溶液を作製した後、
該紡糸原料水性溶液を紡糸して粗無機繊維を得、
次いで、該粗無機繊維を焼成してなるものである
請求項1または請求項2に記載の無機繊維。
【請求項4】
前記水溶性の塩基性酸アルミニウムが、下記式(I)
Al(OH) (I)
(ただし、Xは0を超え3未満の正の数であり、Yは、Cl原子、NO基、SO基、RCOO基から選ばれるいずれか一種であり、Zは、YがCl原子、NO基、RCOO基である場合3−X、YがSO基である場合(3−X)/2であり、前記Rは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基若しくは水酸基含有炭化水素基であって、RCOO基が複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよい)
で表される化合物から選ばれる一種以上である請求項3に記載の無機繊維。
【請求項5】
前記紡糸が静電紡糸法により行われてなる請求項3または請求項4に記載の無機繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2011−196007(P2011−196007A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38403(P2011−38403)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】