説明

無機膜形成用塗布液

【課題】 チタン化合物を含有する、低温焼成が可能な無機膜形成用塗布液を提供する。
【解決手段】 チタンアルコキシドを含有する混合物の加水分解生成物、および溶媒を含む無機膜形成用塗布液であって、焼成低温化剤として、硝酸を含むことを特徴とする、無機膜形成用塗布液。上記チタンアルコキシドに加えて、式RSi(OR4−nで示されるケイ素アルコキシドを含む上記無機膜形成用塗布液がより好ましい。(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基であり、Rはアルキル基であり、且つnは0、1、もしくは2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成が可能な、チタン化合物を含有する無機膜形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物の被膜を形成するための塗布液は、種々の産業において幅広く応用されており、例えば液晶ディスプレイの製作に用いられている。
公知の技術である液晶ディスプレイでは、ストライプ状または格子状に形成された透明電極、TFT(薄層トランジスタ)等を有する二枚のガラス基板間に液晶を封入するという構造を有しており、上記透明電極の絶縁保護膜を形成する材料として使用されている。
【0003】
このような絶縁保護膜を形成する材料としては、例えば、特許文献1に開示されている、アルコキシシラン、テトラアルコキシチタンおよび塩基性ジルコニウム塩を原料とする金属酸化物被膜形成用塗布液がある。この特許文献1では、高硬度、耐薬品性を向上させるために塩基性ジルコニウム塩を添加している。
【0004】
また、上記のような塗布液では、チタンアルコキシドの加水分解速度が速いために、一般に、チタンアルコキシドを含む組成物においては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルもしくはアセチルアセトンといったキレート剤を添加してチタンアルコキシドをキレート化し、加水分解速度を制御している。しかしながら、これらのキレート剤は熱分解温度が高く、したがってチタンキレート化合物を含有する塗布液を用いる場合、成膜温度は高温とならざるを得ない。
【特許文献1】特開平5−124818
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下で、特に透明電極の保護、焼成時のコストを下げる意味等で焼成温度を従来よりも低くすることができる無機絶縁膜形成用塗布液が求められているが、上記特許文献1等では無機膜形成時の焼成温度について考慮されておらず、低温焼成化が困難である。
本発明は、高い硬度を備えつつ、低温で焼成することができる無機膜形成用塗布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、無機膜形成用塗布液の原料として、過剰量の硝酸を加えることにより、チタンアルコキシドを含む組成物を安定に加水分解し、且つ、硬質無機絶縁膜を従来に比して低温で焼成できることを見出し、キレート剤の添加を行うことなく、上記の課題を解決するに至った。
【0007】
本発明に係る無機絶縁膜形成用塗布液は、チタンアルコキシドを含有する混合物の加水分解生成物、および溶媒を含む無機絶縁膜形成用塗布液であって、焼成低温化剤として、硝酸を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る硬質無機絶縁膜形成用塗布液を用いることによって、従来に較べ、焼成温度を低くすることができ、膜生成のコストを下げることができ、且つ、焼成温度を低下させるための手段が硝酸であるために、原料溶液の製造のコストについても下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る無機膜形成用塗布液は、チタンアルコキシドの加水分解生成物および溶媒と、焼成低温化剤としての硝酸を含むことを特徴とする。前記チタンアルコキシドとしては、
Ti(OR0)4
(ここで、R0は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アリール基を表す。)
で表される化合物が挙げられる。R0としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。このチタンアルコキシドの中でも、チタン=テトライソプロポキシドであるのが好ましい。
【0010】
好ましくは、前記無機膜形成用塗布液は、構造式が R1nSi(OR2)4-n である、ケイ素アルコキシドの加水分解生成物を含む。ここで、上記式中の R1は、アルキル基、アルケニル基、アリール基であり、 R2 はアルキル基であり、且つ n は 0、1、もしくは2 である。
【0011】
上記R1としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、ビニル基、3-クロロプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、3-グリシドキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基、フェニル基等が挙げられる。上記R2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましく、中でも加水分解性の高さからメチル基及びエチル基が好ましい。前記ケイ素アルコキシドは、オルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)であるのがさらに好ましい。このように、無機膜形成用塗布液がケイ素アルコキシドの加水分解生成物を含むことにより、この無機膜形成用塗布液から形成される無機膜の耐薬品性、特に耐酸性を向上させることができる。
【0012】
ここで、チタンアルコキシドの加水分解生成物とケイ素アルコキシドの加水分解生成物とを含む場合には、チタンアルコキシドとケイ素アルコキシドとを含む混合物の加水分解生成物を含む概念である。中でも、上記加水分解生成物は、チタンアルコキシドとケイ素アルコキシドとを含む混合物の加水分解生成物であることが好ましい。
【0013】
塗布液中のTiO2換算質量と、SiO2換算質量との比は、10:0 から 1:9の範囲であることが好ましく、7:3から4:6であることがより好ましい。
前記塗布液中の硝酸の濃度は、前記を TiO2 に換算質量(および、SiO2換算質量との和)に対して0.5質量%〜10質量% であるのが好ましく、1質量%〜8質量%であることがより好ましい。前記硝酸の濃度が前記の範囲にすることにより、前記塗布液が白濁することを防止することできる。このように、焼成低温化剤としての硝酸を加えることにより、キレート剤を用いることなく塗布液中の金属アルコキシドを安定化することができ、膜形成時の焼成温度を下げることが可能となっている。つまり、本願の塗布液においては、キレート剤を含まないことが好ましい。
【0014】
また、前記溶媒は、例えば、メタノール、エタノールもしくはプロパノールといったアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくは 2-メチル-2,4-ペンタンジオールといったジオール類、アセトンもしくはエチルメチルケトンといったケトン類、ベンゼン、トルエンもしくはキシレンといった芳香族類、2-エトキシエタノール (エチルセロソルブ)、2-ブトキシエタノール (ブチルセロソルブ)、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール (エチルカルビトール)、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール (ブチルカルビトール)、1,2-ジエトキシエタン (ジエチルセロソルブ)もしくはビス(2-エトキシエチル)エーテル (ジエチルカルビトール)といったグリコールエーテル類、N-メチル-2-ピロリドン、ならびに N,N-ジメチルホルムアミド、である。前記溶媒は、塗布液が白濁しないようにする点に鑑みて、エタノール、イソプロパノール、もしくは 3-メチル-3-メトキシ-ブタン-1-オール、もしくはこれらの混合物であるのが特に好ましい。
【0015】
前記チタンアルコキシドおよびケイ素アルコキシドを加水分解する際には、水を添加する。水の添加量は、前記チタンアルコキシド(および、ケイ素アルコキシドを含む場合には前記ケイ素アルコキシドとの合計)とのモル比が 1:1.5 〜 1:4 の範囲となる量であるのが好ましい。水の添加量が前記の範囲の上限以下にすることにより、前記塗布液の経時安定性を高め、ゲル化を防止することができる。また、水の添加量が前記の範囲の下限以上にすることにより、無機絶縁膜の形成能を高めることができる。水の添加は、通常は室温で行うが、加熱下に行うこともできる。チタンアルコキシドおよびケイ素アルコキシドの加水分解反応させることによって、本発明の塗布液は得られるが、加水分解反応後にさらに熟成の目的で50℃〜150℃の範囲で加熱してもよい。
【0016】
前記の金属アルコキシドの加水分解反応は、有機溶媒中のチタンアルコキシドおよび/もしくはケイ素アルコキシドの有機溶媒溶液に、触媒および水、または有機溶媒および水の混合液を添加することによって行うことができる。あるいは、有機溶媒中のチタンアルコキシドに触媒を含む、水、または、有機溶媒および水の混合液を添加した後、ケイ素アルコキシドを加えて反応を行ってもよい。この触媒としては、酸性触媒でも塩基性触媒でもよいが、酸性触媒が好ましい。この酸性触媒としては、有機酸、無機酸のいずれを使用してもよい。
【0017】
無機酸としては、リン酸、硝酸などが使用でき、中でも、リン酸、硝酸が好適である。
上記有機酸としては、ギ酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、氷酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、n-酪酸などのカルボン酸及び硫黄含有酸残基をもつ有機酸が用いられる。
【0018】
本発明の無機膜形成用塗布液に添加される硝酸は、触媒と同時に添加してもよいし、別途添加してもよい。触媒として硝酸を添加する場合には、無機膜形成用塗布液における加水分解の触媒として過剰な量であることが、無機膜形成のための焼成温度の低下のために必要である。
【0019】
本発明に係る無機膜形成用塗布液は、スピンコート、フレキソ印刷、ディッピング刷毛塗り、ロールコートもしくはスプレーといった、通常使用される塗布方法を用いて塗布することができる。塗付後、熱風乾燥機などの手段によって乾燥してから、焼成を行って成膜することができる。焼成温度は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは200℃〜300℃である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0021】
(実施例1)
ビーカーAに、Tiアルコキシドとしてチタン=テトライソプロポキシド(TPTA-1(商品名); 日本曹達株式会社)を 76.88g 、 Siアルコキシドとしてテトラエトキシシラン(正珪酸エチル(商品名); 多摩化学工業株式会社)を 74.88g を添加し、攪拌羽にて攪拌を行い、さらにエタノール 280.44g を添加して1時間攪拌し、アルコキシド溶解液を得た。
【0022】
さらに、ビーカーBに、エタノール 407.88g 、水 22.68g 、および濃度60%の硝酸 1.44g を添加して1時間攪拌し、エタノール加水液を得た。
その後、ビーカーAを攪拌しながら、ビーカーBのエタノール加水液を加え、室温で3時間攪拌した。さらに室温で12時間静置し、塗布液(1)を得た。
【0023】
(実施例2)
ビーカーAに、Tiアルコキシドとして TPTA-1(商品名; 日本曹達株式会社)を 76.88g を単独で添加したこと以外は、実施例1と同様に調製し、塗布液(2)を得た。
【0024】
(実施例3)
ビーカーAに、Tiアルコキシドとして TPTA-1(商品名; 日本曹達株式会社)を 15.33g 、 Siアルコキシドとして正珪酸エチル(商品名; 多摩化学工業株式会社)を 134.78g を添加したこと以外は、実施例1と同様に調製し、塗布液(3)を得た。
【0025】
(実施例4)
ビーカーAに、Tiアルコキシドとして TPTA-1(商品名; 日本曹達株式会社)を 76.88g 、 Siアルコキシドとして正珪酸エチル(商品名; 多摩化学工業株式会社)を 74.88g を添加し、攪拌羽にて攪拌を行い、さらにエタノール 280.44g を添加して1時間攪拌し、アルコキシド溶解液を得た。
【0026】
さらに、ビーカーBに、エタノール 396.54g 、水 34.02g 、および濃度60%の硝酸 1.44g を添加して1時間攪拌し、エタノール加水液を得た。
その後、ビーカーAを攪拌しながら、ビーカーBのエタノール加水液を加え、室温で3時間攪拌した。さらに室温で12時間静置し、塗布液(4)を得た。
【0027】
(実施例5)
ビーカーAに、Tiアルコキシドとして TPTA-1(商品名; 日本曹達株式会社)を 76.88g 、 Siアルコキシドとして正珪酸エチル(商品名; 多摩化学工業株式会社)を 74.88g を添加し、攪拌羽にて攪拌を行い、さらにエタノール 280.44g を添加して1時間攪拌し、アルコキシド溶解液を得た。
【0028】
さらに、ビーカーBに、エタノール 396.54g 、水 45.36g 、および濃度60%の硝酸 2.88g を添加して1時間攪拌し、エタノール加水液を得た。
その後、ビーカーAを攪拌しながら、ビーカーBのエタノール加水液を加え、室温で3時間攪拌した。さらに室温で12時間静置し、塗布液(5)を得た。
【0029】
(実施例6)
実施例1にて調製した塗布液(1)を三ツ口フラスコに入れ、 N-メチル-2-ピロリドン 75g 、ジプロピレングリコール 225g 、3-メチル-3-メトキシ-ブタン-1-オール 520g を加え、40℃水浴にて加温、減圧を行い、低沸点溶媒を除去した塗布液(6)を得た。
【0030】
(比較例1)
ビーカーAに、Tiアルコキシドとして TPTA-1(商品名; 日本曹達株式会社)を 76.88g 、 Siアルコキシドとして正珪酸エチル(商品名; 多摩化学工業株式会社)を 74.88g を添加し、攪拌羽にて攪拌を行い、アセチルアセトン 96.40g を添加し、さらにエタノール 280.44g を添加して1時間攪拌し、アルコキシド溶解液を得た。
【0031】
さらに、ビーカーBに、エタノール 396.54g 、水 34.02g 、および濃度60%の硝酸 0.07g を添加して1時間攪拌し、エタノール加水液を得た。
その後、ビーカーAを攪拌しながら、ビーカーBのエタノール加水液を加え、室温で3時間攪拌した。さらに室温で12時間静置し、塗布液(A)を得た。
【0032】
以上の塗布液を、基板 Si-Wafer 、ガラス基板にそれぞれスピンコートにて塗布し、80℃の熱風乾燥機にて15分乾燥した後、250℃のマッフル炉にて30分焼成を行い、成膜した。得られた膜の膜厚、屈折率、膜硬度、耐酸性を測定した。耐酸性については、ガラス基板に成膜した膜を、濃度 0.028wt% の弗化水素溶液に 60秒浸漬して水洗した後に、膜厚を測定して評価を行った。
【0033】
以上の実施例および比較例の実験条件を表1に、実験結果を表2にまとめて示した。
本発明に係る無機絶縁膜形成用塗布液を用いて形成された無機絶縁膜は、低温で焼成しても、比較例に較べて高い硬度を持っており、また、耐酸性も高いことが示された。さらに、原料の成分比によって焼成後の膜の屈折率を調整することができることも示された。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルコキシドの加水分解生成物、および溶媒を含む無機膜形成用塗布液であって、
焼成低温化剤として、硝酸を含むことを特徴とする、無機膜形成用塗布液。
【請求項2】
R1nSi(OR2)4-n で示されるケイ素アルコキシドを含むことを特徴とする、請求項1記載の無機膜形成用塗布液。
(式中の R1 はアルキル基、アルケニル基、アリール基であり、 R2 はアルキル基であり、且つ n は0、1、もしくは2である。)
【請求項3】
TiO2換算質量と、SiO2換算質量との比が、 10:0 から 1:9の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の無機膜形成用塗布液。
【請求項4】
TiO2換算質量、または、TiO2換算質量およびSiO2換算質量の和に対して、硝酸が、0.5質量%〜10質量% であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の無機膜形成用塗布液。
【請求項5】
前記溶媒が、エタノール、イソプロパノール、もしくは 3-メチル-3-メトキシ-ブタン-1-オールであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の無機絶縁膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機膜形成用塗布液を塗布し、所定の温度で焼成することにより形成されたことを特徴とする、無機膜。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機膜形成用塗布液を塗布し、300℃以下の温度で焼成することを特徴とする、無機膜の形成方法。

【公開番号】特開2007−63375(P2007−63375A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250133(P2005−250133)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】