説明

無機薄膜付プラスチック用アンダーコート剤、無機薄膜付プラスチック、インモールド成型用加飾フィルム、およびインサート成型用加飾フィルム

【課題】プラスチック基材と無機薄膜層の双方との密着性に優れ(以下、密着性という)、無機薄膜面の平滑性を保つことができ(以下、平滑性という)、高温利用環境下においても無機薄膜面に白化現象を生じさせず(以下、耐白化性という)、かつ、高温下の成型加工においても加工部位の無機薄膜に目視判断できるような亀裂やクラック、干渉縞を生じさせない(以下、耐加工性という)アンダーコート層を形成できる新規な無機薄膜付プラスチック用アンダーコート剤を提供する。
【解決手段】カルボキシラートアニオン基を有するガラス転移温度が−5〜120℃のアクリルコポリマー(A)およびアジリジニル基を少なくとも3つ有するポリアジリジン化合物(B)を含有するアンダーコート剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機薄膜層とプラスチック基材とを密着させるために使用するアンダーコート剤、および当該アンダーコート剤を用いて得られる無機薄膜付プラスチック、ならびに当該無機薄膜付プラスチックを部材とするインモールド成型用加飾フィルムおよびインサート成型用加飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
無機薄膜付プラスチックとは、一般には、金、銅、アルミニウム、スズなどの金属や酸化ケイ素などの金属酸化物等からなる薄膜を成型(構造体)状ないしフィルム状のプラスチック基材の表面に形成したものをいい、無機薄膜をなす化学種や薄膜の厚さ等に応じて、従来、ボトルやキャップ、レトルトパック等の包装容器、ガスバリアフィルム等の包装材や、透明導電シート、フィルムコンデンサ、表示用ラベル等の種々の用途に供されている。
【0003】
また、無機薄膜付プラスチックの中でも、プラスチックフィルムの表面にアルミニウムを蒸着してなる、数十nm程度の極めて薄いアルミニウム層を有するアルミニウム蒸着プラスチックフィルムは、加飾フィルム(転写箔ともいう)の部材として賞用されており、成型品に電波透過性等の技術的機能やミラー感等の意匠性を付与できることから、近年、例えば、携帯電話やオーディオ製品、パソコン等の種々の電子製品の筐体に供されている。
【0004】
無機薄膜付プラスチックを製造する際には、プラスチック基材の表面に、各種ポリマーを主成分とするアンダーコート剤を予め塗工し、柔軟性のあるアンダーコート層の上に無機薄膜を形成させる方法が採られている。これは、プラスチック基材の表面には通常、微細な凹凸や不純物(プラスチック添加剤等)が存在するため、無機薄膜層とプラスチック基材との密着性や、無機薄膜の平滑性を確保し難いためである。密着性が不十分であると無機薄膜の剥がれ等が生じ、また平滑性が不十分であると、特に無機薄膜が金属からなる場合にはその光沢が損なわれるため、特に意匠性が要求される用途において問題となる。
【0005】
また、加飾フィルムの分野においては、近年、所謂インモールド成型法のように、高温環境下で成型と転写を同時に行なう手法が一般化してきているが、かかる手法においては、加工部分における無機薄膜部位に亀裂やクラックが発生したり、光沢面に曇りやボケといった所謂白化現象が生じたりすることがある。こうしたクラック等は、目視判断できないような微細なものであっても、可視光の干渉縞(虹縞)の原因となるため大きな問題となる。また、かかる白化現象は、加飾フィルムのように意匠性が要求される分野において改善が強く求められる。
【0006】
前記したクラック等の問題については、例えば特許文献1において、アクリル樹脂、メラミン樹脂、およびポリイソシアネート化合物を含む三液タイプのアンダーコート剤により解決できることが知られているが、前記白化現象については言及されていない。また、アンカーコート剤のベース樹脂としては従来、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂が賞用されてきたが、そうしたアンダーコート剤を用いた場合には無機薄膜面の外観が不良となり、また前記した白化やクラック等の問題も解消し難い。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−122456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、プラスチック基材と無機薄膜層の双方との密着性に優れ(以下、密着性という)、無機薄膜面の平滑性を保つことができ(以下、平滑性という)、高温利用環境下においても無機薄膜面に白化現象を生じさせず(以下、耐白化性という)、かつ、高温下の成型加工においても加工部位の無機薄膜に目視判断できるような亀裂やクラック、干渉縞を生じさせない(以下、耐加工性という)アンダーコート層を形成できる新規な無機薄膜付プラスチック用アンダーコート剤を提供することを課題とする。
【0010】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、前記課題は次のアンダーコート剤により解決できることを見出した。即ち本発明は、カルボキシラートアニオン基を有するガラス転移温度が−5〜120℃のアクリルコポリマー(A)およびアジリジニル基を少なくとも3つ有するポリアジリジン化合物(B)を含有する無機薄膜付プラスチック用アンダーコート剤;プラスチック基材、当該アンダーコート剤からなる層、および無機薄膜からなる層を有する無機薄膜付プラスチック;当該無機薄膜付プラスチックを部材とするインモールド成型用加飾フィルム;当該無機薄膜付プラスチックを部材とするインサート成型用加飾フィルム、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンダーコート剤は成膜性に優れるため、プラスチックの表面に、平滑な無機薄膜を形成することができる。特に無機薄膜がアルミニウム等の金属薄膜である場合には、光沢に優れた無機薄膜面が得られる。また、当該アンダーコート剤からなるアンダーコート層は、プラスチック基材および無機薄膜層の双方との密着性が良好であるため、無機薄膜付プラスチックの取り扱いに際して無機薄膜の剥がれ等が低減する。
【0012】
また、当該アンダーコート剤を用いた無機薄膜付プラスチックは、高温環境下に置いても無機薄膜に曇りやボケ等の白化現象が生じ難い等、耐白化性に優れる。さらに、高温下での成型加工に付しても、無機薄膜に干渉縞や、目視判断できるような亀裂ないしクラックが生じ難い等、耐加工性に優れる。
【0013】
よって、当該無機薄膜付プラスチックは、例えばボトルやキャップ、レトルトパック等の包装容器や、ガスバリアフィルム、透明導電シート、フィルムコンデンサ、表示用ラベル、加飾フィルムの部材として好適である。また、フィルム状の当該無機薄膜付プラスチックは、無機薄膜層の耐クラック性および耐白化性が良好であることから、特にインサート成型用の加飾フィルムの部材や、高温下での成形加工がなされるインモールド成形用の加飾フィルムの部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】加工性評価が6のアルミニウム蒸着フィルムの外観(電子顕微鏡写真(3000倍))
【図2】加工性評価が5のアルミニウム蒸着フィルムの外観(電子顕微鏡写真(3000倍))
【図3】加工性評価が4のアルミニウム蒸着フィルムの外観(電子顕微鏡写真(3000倍))
【図4】加工性評価が3のアルミニウム蒸着フィルムの外観(電子顕微鏡写真(3000倍))
【図5】加工性評価が2のアルミニウム蒸着フィルムの外観(電子顕微鏡写真(3000倍))
【図6】加工性評価が1のアルミニウム蒸着フィルムの外観(電子顕微鏡写真(3000倍))
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るアンダーコート剤は、カルボキシラートアニオン基を有するガラス転移温度が−5〜120℃のアクリルコポリマー(A)(以下、(A)成分という)、アジリジニル基を少なくとも3つ有するポリアジリジン化合物(B)(以下、(B)成分という)、ならびに必要に応じてアジリジニル基開環触媒(C)(以下、(C)成分という)を含有するものである。
【0016】
(A)成分としては、前記ガラス転移温度を有し、かつ分子内にカルボキシラートアニオン基(−COO)を有するアクリルコポリマーであれば、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0017】
(A)成分の好ましい態様としては、α,β−不飽和カルボン酸(a1)(以下、(a1)成分という)、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはスチレン類(a2)(以下、(a2)成分という)、ならびに必要に応じてこれら以外の不飽和単量体(a3)(以下、(a3)成分という)を反応させてなる共重合体を中和したものが挙げられる。この場合、(A)成分のカルボキシラートアニオン基は、(a1)成分が有するカルボキシル基に由来する。
【0018】
(a1)成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸や、フマル酸、(無水)マレイン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸、該α,β−不飽和ジカルボン酸と後述するアルコール類とのモノエステル等が挙げられる。
【0019】
(a2)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。また、(a2)成分のアルキル基は水酸基等の活性水素含有基を有さず、また、その炭素数は通常1〜20程度、好ましくは1〜8程度、いっそう好ましくは1〜5である。また、スチレン類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン等が挙げられる。
【0020】
(a3)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル、2−ヒドロキシプロピオン酸4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシフェニル等のヒドロキシ(メタ)アクリレート類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(1−メチル−2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド類;不飽和スルホン酸類;アミノアルキル系不飽和単量体類;ポリオキシアルキレン系不飽和単量体類;クロロシラン系(メタ)アクリレート類;(ポリ)シロキサンモノ(メタ)アクリレート類;フルオロアルキル(モノ)アクリレート類等が挙げられる。
【0021】
(a1)成分および(a2)成分の使用モル%は特に限定されないが、通常は順に7〜70モル%程度、30〜93モル%程度であり、好ましくは13〜45モル%、55〜87モル%である。また、(a3)成分を使用する場合、(a1)成分〜(a3)成分の使用モル%は通常、順に7〜70モル%程度、29〜92モル%程度、1〜60モル%程度であり、好ましくは13〜45モル%、52〜84モル%、3〜20モル%である。
【0022】
(A)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記(a1)成分〜(a3)成分を、重合開始剤および有機溶剤の存在下、通常80〜180℃程度において、1〜20時間程度ラジカル重合させた後、得られた重合体を中和剤で中和する方法を採用できる。
【0023】
重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0024】
有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ノルマルプロピルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノn−プロピルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0025】
中和剤としては、アンモニア;モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の第1級アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン等の第2級アミン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、アンモニアおよび/または第3級アミン類を用いると特に耐白化性や加工性等が良好になるため好ましい。中和剤の使用量は、アクリルコポリマーが有するカルボキシル基に対し、通常80〜300モル%程度となる範囲である。
【0026】
(A)成分は、主に耐白化性および加工性の観点より、ガラス転移温度が−5〜120℃、好ましくは40〜110℃である。なお、当該ガラス転移温度は測定値である。また、(A)成分のカルボキシラートアニオン基の含有量は特に限定されないが、通常0.5〜8mmol/g程度、好ましくは1〜5mmol/gであり、この範囲内であれば、特に耐白化性や耐加工性が良好になる傾向にある。なお、「カルボキシラートアニオン基の含有量」とは、(A)成分1g(不揮発分換算)中に含まれるカルボキシラートアニオン基のモル数をいい、計算値である。
【0027】
(A)成分の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)も特に限定されないが、主に耐白化性および加工性の観点より、通常3000〜100000程度、好ましくは10000〜80000である。
【0028】
(B)成分としては、分子内にアジリジニル基を少なくとも3つ有するものであれば各種公知のもの(米国特許4382135号、特開2003−104970号等参照)を特に制限なく使用できる。具体的には、以下の一般式で表される化合物が好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、Xは水素、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を、Rは水素又はメチル基を、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【0031】
当該式で表される化合物としては、テトラメチロールメタン−トリ−(β−アジリジニルプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)、およびグリセリルトリス(β−アジリジニルプロピオネート)等が挙げられる。
【0032】
その他の(B)成分としては、テトラアジリジニルメタキシレンジアミン、テトラアジリジニルメチルパラキシレンジアミン、ペンタエリスリトールテトラ(β−アジリジニルプロピオネート)等のテトラアジリジン化合物等が挙げられる。
【0033】
また、(B)成分とともに、ネオペンチルグリコールジ(β−アジリジニルプロピオネート)、4,4’−イソプロピリデンジフェノールジ(β−アジリジニルプロピオネート)、4,4’−メチレンジフェノールジ(β−アジリジニルプロピオネート)等のジアジリジン化合物や、2−メチルアジリジン、2−エチルアジリジン、2,2−ジメチルアジリジン、2,3−ジメチルアジリジン、2−フェニルアジリジン等のモノアジリジン化合物を併用できる。
【0034】
(B)成分のアジリジニル基の含有量は特に限定されないが、特に耐白化性や耐加工性等を考慮して、通常3〜11mmol/g程度、好ましくは5〜9mmol/gとなる範囲である。なお、「アジリジニル基の含有量」とは、(B)成分1g中に含まれるアジリジニル基のモル数をいい、計算値である。
【0035】
(C)成分は、特に耐白化性や耐加工性を向上させる目的において、必要に応じて使用することができる。具体例としては、パラトルエンスルホン酸、塩酸、臭素酸、ヨウ素酸、フッ素酸、フルオロスルホン酸、硫酸、リン酸等の酸触媒や、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、ジアリールホスホニウム塩等が挙げられる。これらの中では、取り扱いが容易であるため、酸触媒、特にパラトルエンスルホン酸が好ましい。また、必要に応じ、(C)成分とともに前記中和剤、好ましくはアンモニアを使用できる。当該中和剤は水溶液として使用できる。
【0036】
本発明のアンダーコート剤は、(A)成分、(B)成分および必要に応じて(C)成分を各種公知の方法で混合することによって得られる。(A)成分および(B)成分の含有量比は特に制限されないが、特に耐白化性および耐加工性の観点より、通常は、〔(A)成分のカルボキシラートアニオン基の含有量(mmol/g)×(A)成分の使用グラム(g)(不揮発分換算)〕/〔(B)成分のアジリジニル基の含有量(mmol/g)×(B)成分の使用グラム(g)(不揮発分換算)〕が通常0.01〜10程度、好ましくは0.1〜2となる範囲である。また、(C)成分の使用量も特に限定されないが、通常は、(B)成分に対し固形分換算で1〜15重量%程度、好ましくは5〜10重量%となる範囲である。
【0037】
本発明のアンダーコート剤は、前記有機溶剤や水(イオン交換水等)を溶媒とした溶液として使用できる。当該有機溶剤としては前記アルコール類やグリコールエーテル類が好ましい。また、有機溶剤および水の双方を使用する場合、重量比は順に通常9/1〜1/9程度である。
【0038】
本発明のアンダーコート剤の不揮発分は特に制限されないが、通常は5〜50重量%程度である。また、当該不揮発分に占める(A)成分、(B)成分、および(C)成分の量は順に通常42〜85重量%程度、15〜58重量%程度、および0〜8重量%程度である。
【0039】
本発明のアンダーコート剤には、他にも、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、コロイダルシリカ、フィラー等の添加剤を配合できる。
【0040】
本発明の無機薄膜付プラスチックは、プラスチック基材、本発明のアンダーコート剤からなる層、および無機薄膜からなる層を有する。
【0041】
プラスチック基材としては、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、これらはコロナ放電等の表面処理がされていてもよい。また、該プラスチック基材は、球状、円柱状、直方体状、板状等の構造体(プラスチックフィルムに相当するものを除く)、またはフィルム状であり、表面の一部に凹凸や曲面が存在していてもよい。なお、フィルム状のプラスチック基材の厚みは特に制限されないが、通常は12〜200μm程度である。
【0042】
無機薄膜をなす種としては、アルミニウム、金、銀、パラジウム、スズ等の金属や、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化チタン、酸化ケイ素等の金属酸化物が挙げられ、これらは併用できる。
【0043】
本発明の無機薄膜付プラスチックを製造する方法は特に限定されないが、例えば、本発明のコーティング剤を前記プラスチック基材に各種公知の方法で塗工した後、アンダーコート層を硬化させ(処理条件:通常60〜165℃程度、10秒〜5分程度)、次いでアンダーコート面に前記無機薄膜種を形成する方法が挙げられる。アンダーコート剤の塗工方法としては、スプレー、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ドットコーター等が挙げられる。塗工量は特に限定されないが、通常は不揮発分として0.01〜10g/m程度である。無機薄膜の形成手段としては、各種公知の物理的方法(真空熱蒸着、スパッタリング等)、化学的方法(化学的気相反応等)が挙げられる。また、無機薄膜の厚みは通常5〜800nm程度である。
【0044】
当該無機薄膜付プラスチックフィルムは、用途に応じ、プラスチックフィルム層、アンダーコート層、および無機薄膜層のそれぞれに、他の機能性層が隣接していてもよい。例えば本発明の無機薄膜付プラスチックフィルムをインモールド成型用加飾フィルム用途に供する場合には、プラスチックフィルムとアンダーコート層との間に離型層、ハードコート層、ハードコート層用アンカー層、柄インキ層等が存在していてよい。また、無機薄膜層の上には接着剤層が存在していてもよい。
【0045】
本発明の無機薄膜付プラスチックのうち、プラスチック基材がフィルム状であるもの(無機薄膜付プラスチックフィルム)は、特にインモールド成形用加飾フィルムやインサート成型用の加飾フィルムの部材として有用である。この場合、当該プラスチック基材がポリエステルフィルムであり、無機薄膜層が5〜50nm程度アルミニウム層および/またはスズ層であるのが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されない。また、実施例中の「部」は重量基準を表す。
【0047】
各例中、ガラス転移温度は、市販の測定器具(製品名「DSC8230B」、理学電機(株)製)を用いて得た値である。また、数平均分子量は、市販のゲルパーミエーションクロマトグラフィー機器(製品名「HLC−8220GPC」、東ソー(株)製)を用いて測定した値である。
【0048】
<(A)成分の製造>
製造例1
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応容器に、市販のカルボキシル基含有スチレンアクリルコポリマー(製品名「ARUFON−UC3920」、東亞合成(株)製、不揮発分100%、(a1)成分がアクリル酸、(a2)成分がスチレン)500.0部、イソプロピルアルコール(以下、IPAという)150.0部、イオン交換水(以下、IWという)2055.6部、28%アンモニア水(以下、28%NHという)155.8部を仕込み、45℃にて3時間保温することによって、ガラス転移温度(以下、Tgという)が104℃、カルボキシラートアニオン基の含有量(以下、CAという)が4.3mmol/g、重量平均分子量(以下、Mwという)が15500の(A−1)成分の溶液(不揮発分(以下、NVという)が20%)を得た。
【0049】
製造例2
製造例1と同様の反応容器に、メタクリル酸(以下、MAAという)を16.8部、メタクリル酸メチル(以下、MMAという)を151.2部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、2−HEAという)を72部、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(以下、ABN−Eという)を1.2部、IPAを360部仕込み、窒素ガス気流下にて80℃、5時間保持した(以上、前重合工程)。次いでABN−Eを2.4部仕込み、反応系を同温度付近において更に3時間保温した(以上、後重合工程)。次いで、IPAを288.2部、IWを288.2部、トリエチルアミン(以下、TEAという)を23.6部仕込み、中和した(以上、中和、希釈工程)。こうしてられた(A−2)成分の物性を表1に示す。
【0050】
製造例3〜6、比較製造例1〜3
表1に示す部数の原料を使用した他は製造例2と同様の方法により、(A−3)成分〜(A−6)成分、および比較用の(AC−1)成分〜(AC−3)成分の各溶液を得た。それぞれの物性を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
AA:アクリル酸
BA:アクリル酸ノルマルブチル
28%NH:28%アンモニア水
【0053】
比較製造例4
製造例1と同様の反応容器に、テレフタル酸479部、イソフタル酸402部、アゼライン酸87部、エチレングリコール256部、1,6−ヘキサンジオール354部およびグリセリン23部を仕込み、撹拌下に反応系を加熱してこれらを溶融させた。次いで、反応系を、脱水縮合反応で生成する水を除去しながら、160℃から200℃まで3時間かけて昇温し、更に200℃で1時間保温した。次いで三酸化アンチモンを0.16部加えた。次いで、反応容器に真空減圧装置を接続し、235℃、2.8kPaで1時間、減圧重縮合反応を行った。次いで、減圧状態を解除して反応系を150℃まで冷却し、反応系に無水トリメリット酸119部を仕込み、1時間保温した。次いで、メチルイソブチルケトン1997部、メチルエチルケトン1997部を加え均一に溶解させることによって、Tgが19℃、CAが0.4mmol/g、Mwが30000のポリエステル樹脂(PE−1)の溶液(NVが35重量%)を得た。
【0054】
比較製造例5
製造例1と同様の反応容器に、市販ポリカーボネートジオール(製品名「ニッポラン980R」、数平均分子量2000;日本ポリウレタン工業(株)製)を362.3部、イソホロンジイソシアネート151.4部、2,2−ジメチロールプロピオン酸36.3部、メチルエチルケトン550部を仕込み、80℃で10時間ウレタン化反応を行ってイソシアネート基末端のウレタンプレポリマー1100部を得た。次いで、当該プレポリマーを、撹拌状態にある鎖伸長剤溶液(トリエチルアミン24.6部、イソプロピルアルコール41.1部、イソホロンジアミン3.6部、アジピン酸ジヒドラジド12.1部、メチルエチルケトン434.9部)へ滴下して、反応系全体を混合した。その後、反応系を60℃で2時間撹拌保持して、鎖伸長反応を完了させることによって、Tgが−10℃、CAが0.5mmol/g、Mwが14000のポリウレタン樹脂(PU−1)の水溶液(NVが35重量%)を得た。
【0055】
<アンダーコート剤の製造>
実施例1
(A−1)成分を5部、テトラメチロールメタン−トリ−(β−アジリジニルプロピオネート)(製品名「TAZO」、相互薬工(株)製、アジリジニル基の含有量7mmol/g)(以下、TAZOという)を1.2部、パラトルエンスルホン酸(以下、PTSという)を0.12部、28%NHを0.04部、IPAを8.4部、IWを8.4部、ビーカーにおいて良く混合し、NVが10重量%のコーティング剤を調製した。
【0056】
実施例2〜15、比較例1〜43
各表に示す部数の原料を使用した他は実施例1と同様の方法によりコーティング剤を調製した。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
PZ−33:トリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)(製品名「ケミタイトPZ−33」、(株)日本触媒製、アジリジニル基の含有量7mmol/g)
SV−02:カルボジイミド系硬化剤(商品名「カルボジライト SV−02」、日清紡ケミカル(株)製、カルボジイミド基の含有量2.3mmol/g)
WS−700:オキサゾリン系硬化剤(商品名「エポクロスWS−700」、(株)日本触媒製、オキサゾリン基の含有量4.5mmol/g)
EX−612:エポキシ系硬化剤(商品名「デナコール」、ナガセケムテックス(株)製、エポキシ基の含有量5.9mmol/g)
(A)/(B):〔(A)成分のカルボキシラートアニオン基の含有量(mmol/g)×(A)成分の使用グラム(g)(不揮発分換算)〕/〔(B)成分のアジリジニル基の含有量(mmol/g)×(B)成分の使用グラム(g)(不揮発分換算)〕
【0060】
<アルミニウム蒸着プラスチックフィルムの作製および評価>
市販PETフィルム(製品名「E5100」、東洋紡績(株)製、38μm厚)に、実施例1で得られたアンダーコート剤を、バーコーターを用いて乾燥膜厚が1μmとなるように塗工し、次いで塗工フィルムを循風乾燥機にて乾燥(150℃、60秒間)させた。
【0061】
次に、得られた乾燥フィルムを、市販の蒸着装置(製品名「NS−1875−Z」、(株)西山製作所製)にセットして、蒸着層の厚が50nmであるアルミニウム蒸着フィルムを得た。これを実施例1の試験フィルムとして用いた。他の実施例及び比較例についても同様にして試験フィルムを作製した。
【0062】
(外観)
実施例1に係る試験フィルムの蒸着面の外観を以下の規準で目視評価した。他の実施例及び比較例に係る試験フィルムについても同様に評価した。結果を表4および5に示す。
3…蒸着面に白化が生じていない
2…蒸着面の全体に僅かに白化が生じている
1…蒸着面の全体に強い白化や干渉縞が生じている
【0063】
(密着性)
実施例1に係る試験フィルムの蒸着面に粘着テープ(製品名「セロテープ(登録商標)」、ニチバン(株)製)を貼り付け、垂直方向に勢い良く引き剥がした。また、他の実施例及び比較例に係る試験フィルムについても同様に評価した。いずれの場合にもアルミニウム蒸着膜に剥がれが生じなかったため、表4および5では全て3とした。
【0064】
(耐白化性) 実施例1に係る試験フィルムを150℃の循風乾燥機にて60分加熱した後の蒸着面の外観を以下の基準で目視評価した。結果を表4および5に示す。
4…アルミニウム蒸着面に白化も干渉縞も生じていない
3…アルミニウム蒸着面に部分的に白化が生じているが、干渉縞は生じていない
2…アルミニウム蒸着面の全面に僅かに白化や干渉縞が生じている
1…アルミニウム蒸着面の全面に強く白化や干渉縞が生じている
【0065】
(加工性)
市販アクリルパネル(製品名「コモグラス」、(株)クラレ製、5cm×5cm×1mm)に、実施例1で得られたアンダーコート剤を、乾燥膜厚が1μmとなるようバーコーターにて塗工し、順風乾燥機において、150℃で60秒間、乾燥させることにより、耐加工性試験用のテストパネルを作製した。他の実施例及び比較例に係るアンダーコート剤についても同様にしてテストパネルを作製した。
【0066】
また、前記テストパネルを屈曲させるための器具として、アルミニウム板(15cm×5cm×1mm)を真中で60°に折り曲げたものを用意した。
【0067】
次に、前記屈曲器具を順風乾燥機(250℃)において加熱した後に取り出し、高温状態にある当該器具の折り曲げ辺上に、前記テストパネルをアクリルパネル側から約3秒間押しあて、次いで約80°に折り曲げてから、折り曲げ部位におけるアルミ蒸着面の状態を以下の規準で目視評価した。また、他の実施例及び比較例に係るテストパネルについても同様に評価した。結果を表4および5に示す。
【0068】
6…アルミニウム蒸着部位に割れや剥がれがなく、かつ、曇り及び干渉縞も認められず、目視判断上、5よりも外観がいっそう良好である
5…アルミニウム蒸着部位に割れや剥がれがなく、かつ、曇り及び干渉縞も認められない
4…アルミニウム蒸着部位に割れや剥がれがなく、かつ、曇りが僅かに認められ、かつ、干渉縞は認められない
3…アルミニウム蒸着部位に割れや剥がれがなく、かつ、曇りや干渉縞が僅かに認められる
2…アルミニウム蒸着部位に細かい割れや剥がれが認められ、かつ、曇りや干渉縞が強く認められる
1…アルミニウム蒸着部位に大きな割れや剥がれが認められ、かつ、曇りや干渉縞が強く認められる

【0069】
なお、厚手のアクリルパネルを使用することにより、パネルの曲げ方向にアンダーコート面(層)が過度に引き伸ばされる。その結果、アルミニウム蒸着層にクラックがより生じ易い状況となる。こうした過酷な試験条件は、インモールド射出成型の実機を意図したものである。
【0070】
【表4】


【0071】
【表5】

【0072】
実施例16〜20、比較例44〜46
<スズ蒸着プラスチックフィルムの作製および評価>
前記PETフィルムに、実施例1で得られたアンダーコート剤を、バーコーターを用いて乾燥膜厚が1μmとなるように塗工し、次いで塗工フィルムを循風乾燥機にて乾燥(150℃、60秒間)させた。次に、前記蒸着装置を用い、蒸着層の厚が50nmであるスズ蒸着フィルムを得た。実施例8、11、13、15、および比較例29、31、33のアンダーコート剤についても同様にスズ蒸着フィルムを得た。次いで、各フィルムについての平滑性、密着性、耐白化性、および加工性について、前記した試験項目の方法及び基準に従い評価した。結果を表6に示す。
【0073】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシラートアニオン基を有するガラス転移温度が−5〜120℃のアクリルコポリマー(A)およびアジリジニル基を少なくとも3つ有するポリアジリジン化合物(B)を含有する無機薄膜付プラスチック用アンダーコート剤。
【請求項2】
(A)成分が、α,β−不飽和カルボン酸(a1)、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはスチレン類(a2)、ならびに必要に応じてこれら以外の不飽和単量体(a3)を反応させてなる共重合体を中和したものである、請求項1のアンダーコート剤。
【請求項3】
(A)成分のカルボキシラートアニオン基が0.5〜8mmol/gである、請求項1または2のアンダーコート剤。
【請求項4】
(A)成分の重量平均分子量が3000〜100000である、請求項1〜3のいずれかのアンダーコート剤。
【請求項5】
(B)成分が下記一般式で表されるものである、請求項1〜4のいずれかのアンダーコート剤。
【化1】

(式中、Xは水素、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を、Rは水素又はメチル基を、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項6】
さらにアジリジニル基開環触媒(C)を含有する、請求項1〜5のいずれかのアンダーコート剤。
【請求項7】
(C)成分がパラトルエンスルホン酸である、請求項6のアンダーコート剤。
【請求項8】
(A)成分および(B)成分の含有量比が、〔(A)成分のカルボキシラートアニオン基の含有量(mmol/g)×(A)成分の使用グラム(g)(不揮発分換算)〕/〔(B)成分のアジリジニル基の含有量(mmol/g)×(B)成分の使用グラム(g)(不揮発分換算)〕が0.01〜10となる範囲である、請求項1〜7のいずれかのアンダーコート剤。
【請求項9】
プラスチック基材、請求項1〜8のいずれかのアンダーコート剤からなる層、および無機薄膜からなる層を有する無機薄膜付プラスチック。
【請求項10】
プラスチック基材がフィルム状である、請求項9の無機薄膜付プラスチック。
【請求項11】
請求項10の無機薄膜付プラスチックを部材とするインモールド成型用加飾フィルム。
【請求項12】
請求項10の無機薄膜付プラスチックを部材とするインサート成型用加飾フィルム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195835(P2011−195835A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40213(P2011−40213)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】