説明

無機蛍光体

【課題】 新たな発光中心を有し、直流、交流のいずれでも駆動可能な発光素子に適用でき、十分な発光効率が得られ照明用途などで十分な輝度を有し、特に青色で高輝度に発光する無機蛍光体、それを用いる発光素子および直流薄膜型無機EL素子を提供する。
【解決手段】 本発明の無機蛍光体は、第2−16族化合物および第12−16族化合物から選ばれる少なくとも1種、またはそれらの混晶を母体材料とする無機蛍光体であって、CuおよびMnを含有せず、周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素のうちの少なくとも1種と、周期律表の第17族に属する元素のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とし、発光素子、特に直流薄膜型無機EL素子に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流分散型無機EL素子、交流薄膜型無機EL素子、直流薄膜型無機EL素子等に有用な無機蛍光体(以下、無機蛍光体材料ともいう)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光体とは、外部から光、電気、圧力、熱、電子線等のエネルギーが与えられることによって発光する材料のことであり、古くから知られている材料である。中でも無機材料から成る蛍光体は、その発光特性や安定性などからブラウン管、蛍光ランプ、エレクトロルミネッセンス(EL)素子等に用いられてきた。近年ではLED用の色変換材料として、PDPといった低速電子線励起用としても盛んに研究がなされている。
【0003】
無機蛍光体を用いたエレクトロルミネッセンス(EL)素子は、駆動方法によって交流駆動型と直流駆動型に大別される。交流駆動型の中には高誘電性バインダーに蛍光体粒子を分散してなる交流分散型EL素子、誘電体層間に蛍光体薄膜を挟んでなる交流薄膜型EL素子の2種類があり、直流駆動型の中には、透明電極と金属電極で蛍光体薄膜を挟んで低電圧直流駆動する直流薄膜型EL素子がある。
【0004】
次に直流駆動型無機EL素子を取り上げて説明する。
直流駆動型無機EL素子は、1970〜80年代に研究が盛んになされていた(非特許文献1)。これはZnSe:MnをGaAs基板上にMBEにより成膜し、Au電極と挟むことで構成される素子である。約4Vを印加することで電極からトンネル効果で電子が注入され、発光中心であるMnを励起し、発光するという機構である。しかしながら、この素子は発光効率が低いこと(〜0.05lm/W)、再現性が低いことから、それ以来、実用化はもとより学術的な研究もなされていない。
【0005】
近年、新たな直流駆動型無機EL素子が報告された(特許文献1)。発光材料としては、CuやMnといった従来から知られている発光中心を含有するZnS系であり、これを透明電極であるITO電極と背面電極であるAg電極とで挟みこんだ構成である。その発光機構については記載されていないが、想定される機構としては、Cuとともに含有するClとでDAペア対を形成し、そこで注入された電子と正孔の再結合すなわち発光すると考えられる。
【0006】
同様な駆動方法で発光する有機EL素子と比較して、発光素子がすべて無機材料で構成されているため、耐久性が高く、照明やディスプレイなど様々な分野での活用が可能となる。さらに同様な駆動であるLEDはすべて無機材料で構成されているという点で類似しているが、LEDは発光面積が極微小すなわち点発光であるため、単位面積あたりの輝度は高いものの、絶対光量(光束)は少ないために、用途が限られる。一方無機ELはもともと面発光であるため、多くの光束を得ることが可能であるという点で有利である。
【0007】
また、特許文献2は、付活剤として銅を含み、共付活剤として塩素および臭素から選ばれる少なくとも1種類を含み、かつ、6族から10族までの第2遷移系列または第3遷移系列に属する金属元素の少なくとも1種類を含有する硫化亜鉛粒子からなる無機蛍光体を、特許文献3は、硫化亜鉛を母体として、付活剤として銅、第1の共付活剤として塩素、臭素の少なくとも1種、第2の共付活剤として金を含有する蛍光体材料を、それぞれ開示している。
また、特許文献4は、希土類硫化物を母体材料とし、該母体材料とPr、Mn、Auを含み、該母体材料を活性化する活性化剤との混合物を生成し、生成した混合物を加熱して該母体材料を活性化する発光体の製造方法を開示している。
【0008】
【特許文献1】国際公開第07/043676号パンフレット
【特許文献2】特開2006−233147号公報
【特許文献3】特開平4−270780号公報
【特許文献4】特開2006−199794号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Physics,52(9),5797,1981.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の直流駆動無機EL素子は発光効率が低く、発光波長領域が限られていた。また、特許文献2および特許文献3に記載の蛍光体は、付活剤として銅を含んでいることから、DA(ドナーアクセプタ)ペア発光型のものであるが、DAペア発光型の無機蛍光体は交流駆動型の発光素子への適用しかできず、用途が限定されるという問題があった。さらに、特許文献4に記載の発光体は、母体材料として希土類硫化物を用いたMn及び/またはPrの局在発光型と考えられるが、Mnや希土類の局在発光型のものは、直流、交流のいずれでも駆動可能な発光素子に適用できるが、十分な発光効率が得られないという問題があった。
また、特許文献1〜4のいずれの蛍光体も照明用途などで十分な輝度を有するものではなく、特に青色で高輝度に発光するものはなかった。
【0010】
以上のことから、新たな発光中心を有し、直流、交流のいずれでも駆動可能な発光素子に適用でき、十分な発光効率が得られ、照明用途などで十分な輝度を有し、特に青色で高輝度に発光する蛍光体の開発が望まれていた。
従って、本願発明は、新たな発光中心を有し、直流、交流のいずれでも駆動可能な発光素子に適用でき、十分な発光効率が得られ照明用途などで十分な輝度を有し、特に青色で高輝度に発光する無機蛍光体、それを用いる発光素子および直流薄膜型無機EL素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、鋭意検討の結果、従来から知られているCuやMnや希土類といった発光中心金属を添加せずに、周期律表の第6族〜第11族までの第2遷移系列に属する金属元素または第3遷移系列に属する金属元素、及び、周期律表の第17族に属する元素を第2−16族化合物に添加することによって、紫外線励起でのフォトルミネッセンスおよび直流駆動によるエレクトロルミネッセンスを示す新規な蛍光体を見出したことにより、本発明を成すに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下の要件により達成される。
(1)第2−16族化合物および第12−16族化合物から選ばれる少なくとも1種、またはそれらの混晶を母体材料とする無機蛍光体であって、CuおよびMnを含有せず、周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素のうちの少なくとも1種と、周期律表の第17族に属する元素のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする無機蛍光体。
(2)周期律表の第13族に属する元素及び第15族に属する元素から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(1)の無機蛍光体。
(3)前記第13族に属する元素がAl、Ga、InおよびTlから選ばれる少なくとも1種であり、第15族に属する元素の元素がN、P、As、SbおよびBiから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(2)の無機蛍光体。
(4)前記第17族に属する元素が、F、Cl、BrおよびIから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)の無機蛍光体。
(5)前記第6〜11族の第2遷移系列に属する元素または第3遷移系列に属する元素が、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、PtおよびAuのうちの少なくとも1種であることを特徴とする
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の無機蛍光体を有する発光素子。
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の無機蛍光体を有する直流薄膜型無機EL素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無機蛍光体は、これまでにない新たな発光中心による強度の高い青色発光を示すだけでなく、無機エレクトロルミネッセンス素子用の蛍光体として有用であり、発光輝度に優れ長寿命を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について詳しく説明する。
本発明の無機蛍光体は、第2−16族化合物または第12−16族化合物から選ばれる少なくとも1種、またはそれらの混晶を母体材料とし、さらに周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素のうちの少なくともいずれかと、周期律表の第17族に属する元素のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする。
【0015】
なお、本発明の無機蛍光体の母体材料として用いられる、第2−16族化合物とは、周期律表の第2族に属する少なくとも1種の元素と周期律表の第16族に属する少なくとも1種の元素からなる化合物、第12−16族化合物とは、周期律表の第12族に属する少なくとも1種の元素と周期律表の第16族に属する少なくとも1種の元素からなる化合物を意味するものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有するもの(当業者)が通常使用している標記・表現である。
該母体材料の例としては、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、CaS、SrS、BaSなどの第2−16族化合物または第12−16族化合物から選ばれる少なくとも1種またはそれらの混晶が用いられる。好ましくはZnS、ZnSe、ZnSSe、SrS、CaS、SrSe、SrSSeであり、さらに好ましくは、ZnS、ZnSe、ZnSSeである。
【0016】
本発明の無機蛍光体に用いられる、周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素の例としては、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、Auがあるが、中でもRu、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Auが好ましいが、さらにはOs、Ir、Pt、Auが好ましい。これらの金属は単独で含有していてもよいし、複数で含有していてもよい。
【0017】
上記の周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素の母体材料への含有のさせ方、すなわちドープ方法は、いかなる方法にも限定するものではないが、たとえば、焼成での粒子形成時の金属塩の形で混入させても良いし、焼成条件で溶融、昇華もしくは反応可能であれば、化合物結晶の形で混入させても良い。これらの金属は母体材料の結晶内に取り込まれた部分以外の結晶表面への析出分や、結晶表面への吸着分は、エッチングや洗浄等で除去することが好ましい。金属塩としては、酸化物、硫化物、硫酸化物、シュウ酸化物、ハロゲン化物、硝酸化物、窒化物等、いかなる化合物でも良いが、中でも酸化物、硫化物、ハロゲン化物が好ましく用いられる。それぞれ単独で用いても良いが、複数種の金属塩を用いても良い。ドープ量としては、母体材料1モルに対して1×10−7〜1×10−1モルが好ましく、さらに好ましくは1×10−5〜1×10−2モルである。
【0018】
本発明の無機蛍光体に用いられる、周期律表の第17族に属する元素の例としては、F、Cl、Br、I、Atがあるが、中でもF、Cl、Br、Iが好ましい。これらの元素は単独で含有していてもよいし、複数で含有していてもよい。
【0019】
上記の周期律表の第17族に属する元素の母体材料への含有のさせ方、すなわちドープ方法は、前述の周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素の母体材料への含有のさせ方と同様に、いかなる方法にも限定するものではないが、たとえば、焼成での粒子形成時の塩の形で混入させても良いし、焼成条件で溶融、昇華もしくは反応可能であれば、化合物結晶の形で混入させても良い。これらの元素は母体材料の結晶内に取り込まれた部分以外の結晶表面への析出分や、結晶表面への吸着分は、エッチングや洗浄等で除去することが好ましい。塩としては、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等いかなる化合物でも良いが、中でもナトリウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩が好ましく用いられる。それぞれ単独で用いても良いが、複数種の塩を用いても良い。ドープ量としては、母体材料1モルに対して1×10−6〜5×10−1モルが好ましく、さらに好ましくは1×10−4〜1×10−1モルである。
【0020】
さらに蛍光体として性能を上げるために、周期律表の第13族に属する元素及び第15族に属する元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが有効である。
好ましくは、第13族に属する元素から選ばれる少なくとも1種の元素と、第15族に属する元素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含有し、さらに好ましくは、第13族に属する元素としてAl、Ga、InおよびTlから選ばれる少なくとも1種を含有し、第15族に属する元素としてN、P、Sb、AsおよびBiから選ばれる少なくとも1種を含有し、特に好ましくは、第13族に属する元素としてGaを含有し、第15族に属する元素としてN、PおよびSbから選ばれる少なくとも1種を含有する。
また、これらの元素を蛍光体に含有させる場合には、第13族に属する元素と第15族に属する元素とからなる化合物(第13−15族化合物)を添加することが好ましい。
これらの周期律表の第13族に属する元素及び第15族に属する元素から選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は、特に限定されないが、母体材料1モルに対して1×10−7〜1×10−2が好ましい。
【0021】
一般に交流駆動の無機EL素子は電圧50〜300V、周波数50〜5000Hzで駆動するが、直流駆動の無機EL素子は0.1〜20Vと低電圧で駆動できることが特長として挙げられる。本発明の無機蛍光体は、分散型無機EL素子、薄膜型無機EL素子といった交流駆動型素子、さらには直流駆動型の無機EL素子に有用であるが、中でも直流駆動型無機EL素子に有用である。
次に直流駆動型無機EL素子について詳しく説明する。
直流駆動型無機EL素子は少なくとも透明電極(透明導電膜とも称する)と蛍光体層(発光層とも称する)と背面電極とから構成される。発光層の厚みは厚くなりすぎると発光に必要な電界強度を得るために両電極間の電圧が上昇するので、低電圧駆動を実現するためには50μm以下が好ましく、さらに好ましくは30μm以下である。また厚みが薄くなりすぎると、蛍光体層の両面にある電極が短絡しやすくなるため、短絡を避けるために厚みは50nm以上が好ましく、さらに好ましくは100nm以上である。
【0022】
成膜方法としては、物理的蒸着法である抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着、スパッタリングやイオンプレーティング、CVD(Chemical Vapor Deposition)など無機材料を一般的に成膜する方法が用いられる。本発明に用いられる蛍光体は高温でも安定で高融点であることから、高融点材料を蒸着するのに適した電子ビーム蒸着法や、蒸着源をターゲット化できる場合はスパッタリング法が好適に用いられる。さらに電子ビーム蒸着の場合、蛍光体中に含有する金属の蒸気圧が、母体材料の蒸気圧と大幅に異なる場合には、それぞれ単独の蒸着源として複数の蒸着源を利用した蒸着方法も有用である。また結晶性を高めるという意味で、基板との格子マッチングを考慮したMBE(Molecular Beam Epitaxiy)法も好適である。
【0023】
本発明に好ましく用いられる透明導電膜の表面抵抗率は、10Ω以下であることが好ましく、0.01Ω/□〜10Ω/□が更に好ましい。特に0.01Ω/□〜1Ω/□が好ましい。
透明導電膜の表面低効率は、JIS K6911に記載の方法に準じて測定することができる。
透明導電膜は、ガラス又はプラスチック基板上に形成されており、かつ酸化錫を含有していることが好ましい。
【0024】
すなわち、ガラスとしては無アルカリガラス、ソーダライムガラスなど、一般的なガラスが用いられるが、耐熱性が高く平坦性の高いガラスを用いることが好ましい。プラスチック基板としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロースベース等の透明フィルムが好適に用いられる。それらを基板として、インディウム・錫酸化物(ITO)や錫酸化物、酸化亜鉛等の透明導電性物質を蒸着、塗布、印刷等の方法で付着、成膜することができる。
この場合、耐久性を上げる目的で透明導電膜表面を酸化錫を主体の層とすることが好ましい。
【0025】
透明導電膜を構成する透明導電性物質の好ましい付着量は、透明導電膜に対して、100質量%〜1質量%、より好ましくは、70質量%〜5質量%、さらに好ましくは、40質量%〜10質量%である。
透明導電膜の調製法はスパッター、真空蒸着等の気相法であっても良い。ペースト状のITOや酸化錫を塗布やスクリーン印刷で作成したり、膜全体を過熱したりレーザーにて加熱して成膜しても良い。
本発明のEL素子において、透明導電膜には一般的に用いられる任意の透明電極材料が用いられる。例えば錫ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、酸化亜鉛などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどの共役系高分子などが挙げられる。
【0026】
更に低抵抗化するには、例えば櫛型あるいはグリッド型等の網目状ないしストライプ状金属細線を配置して通電性を改善することが好ましい。金属や合金の細線としては、銅や銀、アルミニウム、ニッケル等が好ましく用いられる。この金属細線の太さは、任意であるが、0.5μm程度から20μmの間が好ましい。金属細線は、50μm〜400μmの間隔のピッチで配置されていることが好ましく、特に100μm〜300μmピッチが好ましい。金属細線を配置することで、光の透過率が減少するが、この減少は出来るだけ小さいことが重要で、80%以上100未満の透過率を確保することが好ましい。
【0027】
金属細線は、メッシュを透明導電性フィルムに張り合わせてもよいし、予めマスク蒸着ないしエッチングによりフィルム上に形成した金属細線上に金属酸化物等を塗布、蒸着しても良い。また、予め形成した金属酸化物薄膜上に上記の金属細線を形成してもよい。
これとは、異なる方法となるが、金属細線の代わりに、100nm以下の平均厚みを有する金属薄膜を金属酸化物と積層して本発明に適した透明導電膜とすることができる。金属薄膜に用いられる金属としては、AuやIn、Sn、Cu、Niなど耐腐食性が高く、展延性等に優れたものが好ましいが、特にこの限りではない。
これらの複層膜は、高い光透過率を実現することが好ましく、具体的には70%以上の光透過率を有することが好ましく、80%以上の光透過率を有することが特に好ましい。光透過率を規定する波長は、550nmである。
光の透過率に関しては、干渉フィルターを用いて550nmの単色光を取り出し、一般に用いられる白色光源を用いた積分型光量測定やスペクトル測定装置を用いて測定することが出来る。
【0028】
(背面電極)
光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作製する素子の形態、作製工程の温度等により適時選択されるが、その中でも熱伝導率が高いことが重要で、2.0W/cm・deg以上であることが好ましい。
また、EL素子の周辺部に高い放熱性と通電性を確保するために、金属シートや金属メッシュを用いることも好ましい。
【0029】
本発明に利用可能な無機蛍光体は、当業界で広く用いられる焼成法(固相法)で形成することができる。例えば、硫化亜鉛の場合、液相法で10nm〜50nmの微粒子粉末(生粉と呼ぶ)を作成し、これを一次粒子として用い、これに付活剤と呼ばれる不純物を混入させて融剤とともに坩堝にて900℃〜1300℃の高温で30分〜10時間、第1の焼成をおこない、粒子を得る。
第1の焼成によって得られる中間蛍光体粉末をイオン交換水で繰り返し洗浄してアルカリ金属ないしアルカリ土類金属及び過剰の付活剤、共付活剤を除去する。
次いで、得られた中間体蛍光体粉末に第2の焼成をほどこす。第2の焼成は、第1の焼成より低温の500〜800℃で、また短時間の30分〜3時間の加熱(アニーリング)をする。
上記製法により無機蛍光体を得ることができるが、直流駆動型無機EL素子に用いる場合には上記製法により得られた蛍光体を加圧成型し、電子ビーム蒸着等の物理蒸着によってEL素子を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
ZnS100gに対して、IrまたはIrClをIr元素量としてZnに対して下記表1に示す量になるように、またMgClをCl元素量としてZnに対して下記表1に示す量になるように秤量する。秤量したZnSと、IrまたはIrClとMgClとを乳鉢に入れ20分以上混合した後、真空中で1100℃、3時間焼成する。焼成後の粉体を乳鉢で粉砕し、水洗した後に乾燥を行って、蛍光体A〜Lを得た。
得られた蛍光体に励起光として波長330nmの光を照射した際の、フォトルミネッセンス発光波長および発光強度を下記表1にまとめる。
【0031】
【表1】

【0032】
サンプルAでは何も添加していないため、殆ど発光しない。MgClのみを添加したサンプルBでは500nmをピークとする発光が見られ、Irのみを添加したサンプルCでは445nmをピークとする発光が見られるが、いずれも発光強度は弱い。本発明で得られたサンプルDの発光強度を100とすると、サンプルBおよびCの発光強度は5〜10程度である。一方、本発明であるサンプルD〜Kでは、サンプルA〜Cと比較して、大幅に発光強度を増大することができた。サンプルFではサンプルDよりも発光強度が下がっているが、これはIrの添加量が多すぎるために、母体材料中に取り込みきれないIrが表面に析出してしまい、発光強度の絶対値が下がってしまったと考えられる。サンプルHおよびサンプルIでは、サンプルD〜Gで最も発光強度の高かったサンプルEに対して、MgClの量を減少または増加させた。サンプルEに対してMgClの量を減少させたサンプルHでは、サンプルEよりも発光強度が低く、MgCl量を増加させたサンプルIでは、サンプルEの発光強度とあまり変わらない。このことから、MgClの添加量としては、Znに対して6E−2molが適点と考えられる。さらに、サンプルJ、Kでは、Irの代わりにIrClを添加した。IrClのみを添加したサンプルJにおいても、本発明における発光強度の増大は確認でき、MgClを添加することで大幅な発光強度の増大が見られる。このときの発光強度は、実施例1における本発明の中で、最も強度が高い。また、サンプルLでは、サンプルDの作製条件においてMgClの代わりにMgOを添加したが、Irのみを添加したサンプルCと同等の発光強度しか得られていない。このことから、発光強度の増大は、MgではなくClの効果であると考えられる。本発明により、フォトルミネッセンスで波長445nmの青色発光を示す、新たな蛍光体が得られた。
【0033】
〔実施例2〕
上記実施例1におけるサンプルKに、周期律表の第13族に属する元素および第15族に属する元素からなる化合物を加えて混合し、真空中で700℃、6時間焼成を行った。焼成後の粉体を乳鉢で粉砕し、水洗した後に乾燥を行って、蛍光体M〜Pを得た。また、比較として実施例1で発光が見られなかったサンプルAに同様の処理を施して、蛍光体Qを得た。
得られた蛍光体に、励起光として波長330nmの光を照射した際のフォトルミネッセンス発光波長および発光強度を下記表2にまとめる。
【0034】
【表2】

【0035】
サンプルN〜Pについては、サンプルKに対して周期律表の第13族に属する元素および第15族に属する元素からなる化合物、具体的には、GaAs、InAs、GaSb、InN等を添加することで、青色発光がさらに増強される結果となった。一方、実施例1において発光が見られなかったサンプルAに対して、同様の処理を施したサンプルQでは、発光は見られなかった。本発明により、フォトルミネッセンスで青色発光を示す、新たな蛍光体材料が得られた。
【0036】
〔実施例3〕
実施例1および実施例2のサンプルD〜Pの無機蛍光体を用いて直流駆動型無機EL素子を作製した。該直流駆動型無機EL素子の構造の概略を図1に示す。
第1電極2として厚さ200nmのITO層が形成されたガラス基板1に対して、ITO層の上に実施例1および2で得られた本発明の蛍光体(サンプルD〜P)をエレクトロンビーム蒸着法により蒸着成膜することで発光層3を形成した。
具体的には、実施例1および2で得られた本発明の蛍光体を第1の蒸着源に、セレンを第2蒸着源に配置し、第1の蒸着源からは一定の成膜レートで、第2の蒸着源からは蛍光体に対するセレンの重量比が0.5%以下となる第1段階と、1%程度となる第2段階とで発光層3を積層した。第1段階と第2段階の成膜時間比は1:1とした。形成した発光層3の総厚みは合計で2μmであった。そのときの蒸着チャンバー内の真空度は1×10−6Torr、基板1温度は200℃に設定した。さらに、結晶性を向上させるために、成膜した発光層3に対して同一チャンバー内で600℃、1時間熱処理を施した後、発光層3の上に抵抗加熱蒸着法により第2電極4としてAgを蒸着し、発光素子を得た。
得られた発光素子に、Agを正極、ITOを負極として直流電流を流したところ、発光が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例3の直流駆動型無機EL素子の構造の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ガラス基板
2 第1電極
3 発光層
4 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2−16族化合物および第12−16族化合物から選ばれる少なくとも1種、またはそれらの混晶を母体材料とする無機蛍光体であって、CuおよびMnを含有せず、周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素のうちの少なくとも1種と、周期律表の第17族に属する元素のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする無機蛍光体。
【請求項2】
周期律表の第13族に属する元素及び第15族に属する元素から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の無機蛍光体。
【請求項3】
前記第13族に属する元素がAl、Ga、InおよびTlから選ばれる少なくとも1種であり、第15族に属する元素がN、P、As、SbおよびBiから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の無機蛍光体。
【請求項4】
前記第17族に属する元素が、F、Cl、BrおよびIから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の無機蛍光体。
【請求項5】
前記第6〜11族の第2遷移系列に属する元素または第3遷移系列に属する元素が、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、PtおよびAuのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の無機蛍光体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の無機蛍光体を有する発光素子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の無機蛍光体を有する直流薄膜型無機EL素子。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215450(P2009−215450A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61267(P2008−61267)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】