説明

無機触媒成分および有機化合物を担持する触媒組成物ならびにその利用

【課題】 触媒の選択性を制御するための新規な触媒選択性制御方法および該制御方法を実現する触媒組成物を提供すること。
【解決手段】 担体上に金属酸化物等の無機触媒成分を担持させる工程、および有機シラン化合物等の有機化合物を該担体上に共有結合させる工程を包含する方法を使用して、担体上に無機触媒成分および有機化合物が担持された触媒組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機触媒成分および有機化合物を担持する触媒組成物およびその製造方法、ならびに触媒の選択性を制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質を高効率かつ高選択性で転換することは、広範な分野において非常に重要な課題であり、その鍵を握る触媒について数多くの研究がなされている。
【0003】
特に、副生成物がなく目的の生成物のみを作り出す触媒、すなわち、極めて高い選択性を有する触媒は、化成品の分野におけるニーズが非常に高い。
【0004】
例えば、医薬、香料、農薬といったバイオファインケミカルズに利用される生物活性分子の多くは、その光学異性体(右手型分子と左手型分子)の一方のみが所望の生物活性を有しているので、作り分けるためには多くの困難を伴う。
【0005】
また、不飽和アルデヒドのC=O基を選択的に水素化して得られる不飽和アルコールは、香料または医薬品の分野で重要な役割を担っている。例えば、αβ不飽和アルデヒドの水素化反応(図1を参照のこと)のように反応標的が複数存在し、異なる反応によって異なる生成物が生じる場合、いずれかの反応標的を選択的に水素化する技術は実用的でありかつその需要も非常に高い。しかし、水素化活性を有する貴金属触媒を用いるとC=C結合が優先的に水素化されて飽和アルデヒドが多く生成するので、所望の物質を容易に得ることができない。また、炭化水素の酸化反応においては、例えば、ブタンの酸化による無水マレイン酸製造またはプロパンのアンモ酸化によるアクリロニトリル製造など、一酸化炭素または二酸化炭素の副成を抑えて選択性を向上させるための触媒改良がさかんに行われている。
【0006】
このように、触媒反応選択性の改善が、化成品の開発における最重要課題である。
【0007】
一方、細孔(直径2〜50nmのメソ孔)を有する金属酸化物からなる多孔質材料は、非常に大きな比表面積を有しているため、吸着剤、分離剤だけでなく合成用触媒の担体として注目されている。
【0008】
このような多孔質材料としては、主に、有機基を含まない金属酸化物からなる材料、金属酸化物からなる細孔壁の表面に有機基を結合させた表面修飾型材料、および細孔壁が有機基を含む金属酸化物からなる有機無機複合型材料が挙げられる。
【0009】
表面修飾型材料としては、シリカゲルまたはゼオライトなどの固相に有機修飾基を結合させて、固相の化学的特性および/または物理的特性を変化させる手法が知られている。具体的には、アルコキシシリル基(またはアシロキシシリル基)などと有機修飾基とを有する有機化合物を、シリカゲルと反応させることによって、有機化合物は、反応性に富むアルコキシシリル基を介してシリカゲル表面のシラノール基と反応して両者の間で新たな共有結合を形成し、その結果、有機修飾基を有する固相が形成される。このようなアルコキシシリル基を用いた有機化合物の結合方法を適用したメソ細孔シリカが非特許文献1に開示されている。具体的には、非特許文献1には、メソ細孔シリカ(MCM−41)をトリメトキシメルカプトプロピルシランで処理することによって、細孔表面にモノレイヤーのメルカプトプロピル基を導入することが記載されている。このようなメソ多孔シリカの内壁を有機物で修飾した材料の研究は、近年非常に活発に進められており、例えば、特許文献1では無機系固体を有機シラン化合物と反応させ、該有機シラン化合物を介して有機修飾基を無機系固体へ結合させる方法が開示されている。
【0010】
有機無機複合型材料としては、例えば、有機基と金属原子と酸素原子とが特定の結合様式で結合した結晶性の有機無機複合材料からなる多孔質粒子(例えば、特許文献2を参照のこと)、反応分子の特定部位を選択的に活性化することができる多孔質粒子(例えば、特許文献3を参照のこと)が知られている。
【0011】
さらに、多孔質材料を用いた触媒において、その活性および/または選択性を制御するために、無機物を添加することがよく行われている。例えば、水素化触媒に種々の金属塩(例えば、塩化物)を少量添加することがよく行われている。
【特許文献1】特開2004−175793(平成16年6月24日公開)
【特許文献2】特開2001−114790公報(平成13年4月24日公開)
【特許文献3】特開2004−51573公報(平成16年2月19日公開)
【非特許文献1】X.Fengら、Science,276,923−926(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、無機部分と有機部分とを有する複合機能材料であって、無機部分の化学機能と有機部分の化学機能とが協同的に働いて発現する、新たな複合機能材料の開発に注目して研究を行ってきた。その結果、有機修飾した多孔体が選択的に分子認識することを見出した。
【0013】
上述したメソ多孔シリカの内壁を有機物で修飾した材料の研究としては、特許文献1のように、ナノ細孔内壁に植え付けた有機基の触媒活性または重金属吸着能を利用する研究が挙げられる。例えば、特許文献1には、有機シラン化合物を介して有機修飾基を結合している無機系固体が触媒としても有用であることが記載されている。しかし、これらの研究の大部分は、修飾有機部の機能のみを利用するものである。また、特許文献2および3に記載される有機無機複合材料は、有機官能基を結合した無機酸化物を用いている。
【0014】
本発明の目的は、従来の触媒とは全く異なる構成を有することによって選択性を向上させた触媒(特に、分子認識能が改善または付与された触媒)を提供すること、および化成品の高選択的かつ効率的な新規合成法を提供することであり、具体的には、担体上に触媒活性成分が担持されている触媒において、種々の官能基を有する有機基を担体表面に植え付けることによって触媒の選択性を大きく制御する、従来法とは全く異なる新しい触媒選択性制御方法、および該制御方法を実現する触媒組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、このような課題を解決するために、担体上に触媒活性成分が担持されている触媒において、種々の官能基を有する有機基を担体表面に植え付けることによって触媒の選択性を制御することができることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明に係る触媒組成物は、担体上に無機触媒成分および有機化合物が担持されていることを特徴としている。
【0017】
本発明に係る触媒組成物において、上記担体は、金属酸化物を含むことが好ましい。
【0018】
本発明に係る触媒組成物において、上記担体は、金属酸化物からなることが好ましい。
【0019】
本発明に係る触媒組成物において、上記金属酸化物は、Al、ZnO、TiO、Ta、SiO、ZrO、SrTiO、LaAlO、Y、MgO、LiTaO、LiNbO、KTaO、KNbO、Nb、SnO、BiまたはNdGaOであることが好ましい。
【0020】
本発明に係る触媒組成物において、上記担体は、炭素、活性炭またはリン酸ジルコニウムからなることが好ましい。
【0021】
本発明に係る触媒組成物において、上記無機触媒成分は、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、インジウム、銅、クロム、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、タングステンおよびこれらの酸化物、HPW1240、HPMo1240、HSiW1240、HBW1240、HCoW1240、ならびにTiOからなる群より選択されることが好ましい。
【0022】
本発明に係る触媒組成物において、上記無機触媒成分は、0.5〜50nmの範囲の粒経を有することが好ましい。
【0023】
本発明に係る触媒組成物において、上記有機化合物は官能基を有する有機シラン化合物であることが好ましい。
【0024】
本発明に係る触媒組成物において、上記有機シラン化合物は、以下の式
【0025】
【化2】

【0026】
によって示され、
ここで、X、YおよびZはそれぞれ独立して、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、メルカプト基、メチル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、フェニル基、フェノール基、アミノフェノール基、C2k+1、ピリジル基、シアノ基、スルホン基またはビピリジル基を含む有機基であり、Rは、クロル基、ブロモ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基またはアセトキシ基であり、k、l、mおよびnは、それぞれ独立して0〜20の整数でありかつl+m+n≧1であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る触媒組成物において、上記有機化合物は上記担体上に共有結合していることが好ましい。
【0028】
本発明に係る触媒組成物において、上記担体は細孔を有する多孔体であり、上記無機触媒成分および上記有機化合物が該細孔表面上に担持されていることが好ましい。
【0029】
本発明に係る触媒組成物において、上記多孔体は、アルミナ、シリカ、シリカゲル、ゼオライト、多孔質ガラス、シリカアルミナ、マグネシア、ジルコニア、活性炭、リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、酸化タングステン、酸化マンガン、ハイドロタルサイト、メソ多孔シリカまたはモンモリロナイトからなることが好ましい。
【0030】
本発明に係る触媒組成物において、上記細孔の直径は5000nm以下であることが好ましい。
【0031】
本発明に係る触媒組成物は、水素化反応、脱水素反応、脱水反応、水和反応、光触媒反応または酸化還元反応を触媒することが好ましい。
【0032】
本発明に係る触媒組成物の製造方法は、担体上に無機触媒成分を担持させる工程、および有機化合物を該担体上に共有結合させる工程を包含することを特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
本発明を用いれば、担体上に有機化合物を直接かつ強固に結合させることができる。担体として金属酸化物(例えば、SiO、Al、ZrO、ZnO、TiO)を用いる場合、担体表面に導入された水酸基を介する共有結合によって担体上に有機化合物を直接かつ強固に結合させることができる。本発明に係る触媒組成物は、共有結合で触媒に結合しているので、反応溶媒により添加成分が洗い流されてしまうことがない。
【0034】
本発明に係る触媒組成物を用いれば、触媒活性を有する無機化合物を担持した担体(例えば、多孔体)の表面に有機基が固定されているので、分子選択的に有機化合物を変換することができる。また本発明を用いれば、担体がナノメートルサイズの細孔を有する場合、触媒活性点の回りに存在するナノメートルレベルの空間に有機基が効率的に配列されるため、より大きな効果を奏することができる。さらに、本発明を用いれば、触媒活性点と相互作用する官能基を触媒に共有結合によって触媒活性点のナノレベル以下の近傍に配置することができ、触媒活性点の電子状態を効率的に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明者らは、無機部分の化学機能と有機部分の化学機能とが協同的に働いて発現する、新たな複合機能材料の開発に注目して研究を行っている。具体的には、本発明者らは、触媒活性点としてPd粒子をメソ細孔アルミナに担持させた後に細孔壁を種々の有機鎖で修飾することによって構築した有機無機複合体において、有機部と無機部とが協同的に働く触媒系の構築を目指した。その結果、触媒活性成分、担体、有機物からなる触媒組成物が制御可能な選択性を有することを見出した。
【0036】
本発明は、触媒選択性が制御可能な触媒組成物を提供する。一実施形態において、本発明に係る触媒組成物は、触媒活性を有する無機触媒成分が担持されている担体を有し、有機化合物をさらに担持している。本実施形態に係る触媒組成物において、上記担体は金属酸化物を含むことが好ましいが、その全体が金属酸化物からなってもよく、金属酸化物でなくても表面のみが酸化物であってもよい。また、本実施形態に係る触媒組成物において、上記担体は金属酸化物を含まなくてもよく、この場合、上記担体は炭素、活性炭またはリン酸ジルコニウムからなることが好ましい。
【0037】
本明細書中において使用される場合、「金属酸化物」は、安定な構造を有する酸化物であれば特に限定されないが、好ましくは、Al、ZnO、TiO、Ta、SiO、ZrO、SrTiO、LaAlO、Y、MgO、LiTaO、LiNbO、KTaO、KNbO、Nb、SnO、BiまたはNdGaOであり、より好ましくは、SiOまたはAlである。
【0038】
本明細書中において使用される場合、「無機触媒成分」は、触媒活性を有する無機化合物であれば特に限定されないが、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、インジウム、銅、クロム、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、タングステンおよびこれらの酸化物、HPW1240、HPMo1240、HSiW1240、HBW1240、HCoW1240、ならびにTiOからなる群より選択されることが好ましい。本実施形態において、無機触媒成分は、0.5〜50nmの範囲の粒経を有することが好ましく、1〜10nmの範囲の粒経を有することがより好ましい。
【0039】
本明細書中において、「有機化合物」は「有機基」または「有機修飾基」と置換可能に使用され、有機化合物は、触媒活性を有するものであっても、触媒活性を有さないものであってもよい。また、本実施形態において、有機化合物は、無機触媒成分と協同して作用し得る官能基を有することが好ましく、担体上に共有結合していることが好ましい。有機化合物を担体上に共有結合させる方法としては、シランカップリングが挙げられるがこれに限定されない。シランカップリングには公知のシランカップリング剤を用いればよく、官能基を有するシランカップリング剤としては、例えば、n−トデシルトリエトキシシラン(CH(CH11Si(OC)、n−オクタデシルトリエトキシシラン(CH(CH17Si(OC)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(NH(CHSi(OC)、3−クロロプロピルトリエトキシシラン(Cl(CHSi(OC)、3−ブロモブチルトリエトキシシラン(Br(CHSi(OC)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
このようなシランカップリング剤のうち、n−トデシルトリエトキシシランのように長鎖アルキル基を有する有機物は、疎水基を有する反応分子を分子認識的に吸着し、その吸着配向性と反応選択性を変化させる。クロルまたはアミノ基を有する有機基の場合、触媒活性成分に電子供与的または電子吸引的に作用して、触媒活性および/または選択性を変化させる。フェノール性水酸基またはアミノ基を有する有機基の場合、反応分子中のカルボニル基と相互作用してその反応性を変化させる。
【0041】
本発明に係る触媒組成物において使用される有機化合物は、上述したようにシランカップリング剤を例に挙げたが、これらの物質に限定されず、以下の式
【0042】
【化3】

【0043】
(ここで、X、YおよびZはそれぞれ独立して、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、メルカプト基、メチル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、フェニル基、フェノール基、アミノフェノール基、C2k+1、ピリジル基、シアノ基、スルホン基またはビピリジル基を含む有機基であり、Rは、クロル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基またはアセトキシ基であり、k、l、mおよびnは、それぞれ独立して0〜20の整数でありかつl+m+n≧1であることが好ましい)によって示される化合物であれば適用可能であることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0044】
好ましい官能基としては、クロル基、アミノ基、フェニル基、フェノール基、ピリジル基またはビピリジル基が挙げられるがこれらに限定されず、必要な反応に応じて適切な官能基を適宜選択して用いればよいことを、当業者は容易に理解する。
【0045】
他の実施形態において、本発明に係る触媒組成物は、細孔を有しかつ触媒活性を有する無機触媒成分が該細孔内に担持されている担体を有し、該担体は、金属酸化物を含み、有機化合物を該細孔内にさらに担持している。
【0046】
本実施形態において、本発明に係る触媒組成物において、上記多孔体は、アルミナ、シリカ、シリカゲル、ゼオライト、多孔質ガラス、シリカアルミナ、マグネシア、ジルコニア、活性炭、リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、酸化タングステン、酸化マンガン、ハイドロタルサイト、メソ多孔シリカまたはモンモリロナイトからなることが好ましい。多孔体形態を採ることによって、担体の表面積が大きくなるので、担体はより多くの有機化合物を結合することができる。また、多孔体としては、メソ細孔シリカ、アモルファスシリカゲル等が挙げられる。
【0047】
本明細書中で使用される場合、用語「メソ」は、サイズを規定するために用いられることが意図される。具体的には、International Union of Pure and Applied Chemistry(IUPAC)に基づく細孔のサイズの定義に基づき、2nm未満の径の細孔を「ミクロ孔」、2nm〜50nmの径の細孔を「メソ孔」、50nmより大きい径の細孔を「マクロ孔」と称する。よって、本明細書中で使用される場合、「メソスケール」は、2nm〜50nmのサイズが意図され、用語「メソ結晶」は、メソスケールの径の細孔を有する結晶が意図される。
【0048】
多孔体の有する細孔直径についても、特に限定されるものではないが、有機物質の濃縮効果の観点からは、好ましくは細孔直径が5000nm以下、さらに好ましくは0.5nm〜500nmである。比較的小さい分子が吸着対象であれば、直径0.5nm〜500nm、さらに好ましくは1nm〜50nmの範囲内にある細孔を有する多孔体が用いられる。また、溶液の拡散を促進したり流路を確保したりする観点からは、上記範囲より大きな細孔を含んでいた方が好ましく、上記のような細孔に加えて直径1マイクロメートル以上の大きな細孔を含む多孔体を用いることも可能である。実施例において、メソスケール(2〜50nm)の細孔を有する多孔体を用いて本発明に係る触媒組成物を作製しているが、多孔体としてメソ細孔を有するメソ多孔体を採用した場合、担体は触媒反応の基質等に対しても高い吸着性を示すことができるので、無機触媒成分が結合した細孔内に基質が高濃度で導入され、その結果、反応速度に優れた触媒を得ることができる。また、微細な細孔内においては細孔壁からの分子間力が3次元的に作用して、触媒反応をさらに向上させる。しかし、本発明は、メソ細孔を有する触媒組成物にのみ適用可能な技術ではなく、本発明の構成を採ることによって触媒の選択性を制御することができる観点からも、種々のサイズの細孔を有する多孔体においてもまた適用可能であることを、当業者は容易に理解する。
【0049】
本発明に係る触媒組成物は、水素化反応、脱水素反応、脱水反応、水和反応、光触媒反応または酸化還元反応を触媒することが好ましい。実施例において、選択的水素化反応を例に挙げて本発明の効果を実証しているが、本発明は、水素化反応の触媒にのみ適用可能な技術ではなく、脱水素反応、脱水反応、水和反応、光触媒反応または酸化還元反応において使用可能な選択性を有する触媒を提供する。当業者は、これらの反応において適切な担体、無機触媒成分および官能基を適宜選択することができる。
【0050】
例えば、脱水素反応では、担体はSiO、AlまたはZnOであることが好ましく、無機触媒成分はNi、CrまたはInが好ましく、官能基はクロル基またはブロモ基が好ましい。脱水反応または水和反応では、担体はSiO、AlまたはZnOであることが好ましく、無機触媒成分はAl、WO、硫酸根またはHPW12などのヘテロポリ酸が好ましく、官能基はドデシル基またはフェニル基が好ましい。また、酸化還元反応では、担体はAlであることが好ましく、無機触媒成分は酸化バナジウム、官能基はカルボン酸が好ましい。
【0051】
本発明はさらに、触媒選択性が制御可能な触媒組成物を製造する方法提供する。一実施形態において、本発明に係る触媒組成物を製造する方法は、担体上に無機触媒成分を担持させる工程、および有機化合物を該担体上に共有結合させる工程を包含する。本実施形態において、上記担体は金属酸化物を含むことが好ましいが、その全体が金属酸化物からなってもよく、金属酸化物でなくても表面のみが酸化物であってもよい。また、本実施形態に係る触媒組成物において、上記担体は金属酸化物を含まなくてもよく、この場合、上記担体は炭素、活性炭またはリン酸ジルコニウムからなることが好ましい。
【0052】
本実施形態において、金属酸化物を含む担体上に無機触媒成分を担持させる工程としては、無機触媒成分を含む溶液中に該担体を含浸させ、乾燥後焼成することによって無機触媒成分を分散担持させる方法、無機触媒成分を含む溶液またはその蒸気と該担体を反応させる方法が挙げられる。
【0053】
本実施形態において、有機化合物を該担体上に共有結合させる工程としては、有機化合物を溶媒中で担体と還流するシランカップリングが挙げられる。
【0054】
本実施形態において、金属酸化物を含まない担体(例えば、炭素、活性炭またはリン酸ジルコニウムからなる担体)上に有機化合物を共有結合させる工程としては、当該分野において公知の技術を用いればよく、例えば、担体を処理して活性基を露出させた後にエステル結合などによって有機化合物を結合させる方法などが挙げられる。
【0055】
本発明において、無機触媒成分および有機化合物の触媒所生物全体に対する割合は、それぞれ1〜15重量%および5〜50重量%が好ましい。無機触媒成分の割合がこの範囲より低い場合、触媒活性が低くなり、この範囲より高い場合、細孔が閉塞する。また、有機化合物の割合がこの範囲より低い場合、選択性を制御する能力において十分な効果が得られず、この範囲より高い場合、細孔が閉塞する。
【0056】
本実施形態において、担体は細孔を有する多孔体であることが好ましい。多孔体は、市販のものを用いても必要に応じて形成してもよい。担体が多孔体である場合、担体上に無機触媒成分を担持させる工程としては、上述した方法以外に、多孔体の原料と無機触媒成分とを混合してから多孔体を形成してもよい。細孔がメソスケールであるメソ多孔体を用いる場合、細孔径は均一であることが好ましいが、不均一でもよい。
【0057】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、請求項および上記実施形態に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0058】
アルミニウム源としてAl(sec−BuO)、界面活性剤としてラウリン酸を用いて、メソ細孔アルミナ(MPA)を、水熱合成条件下で合成した。酢酸パラジウムを用いる含浸法によってMPAにPd粒子を担持させた。具体的には、Pd(II)アセテート0.422g(Pd5重量%相当)を60mlのトルエンに溶解させた。このトルエン溶液をMPA4gに一度に加えた後1時間攪拌した。次いで、攪拌しながら加熱してトルエンを蒸発させた。得られた試料を乾燥機中にて一晩乾燥させた後、N:O=4:1にて室温から300℃まで1分間あたり3℃ずつ上昇させた後300℃で1時間維持し、次いで、室温まで自然冷却させ、N:H=9:1にて室温から300℃まで1分間あたり3℃ずつ上昇させた後300℃で3時間維持して、水素還元を行い、MPAを活性化させた(Pd/PMA)。
【0059】
得られた多孔体(Pd/MPA)1gを200℃で2時間真空乾燥した。次いで、Ar雰囲気下にて、Pd/MPA1gと0.02mmolのn−ドデシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(NH(CHSi(OC)または3−クロロプロピルトリエトキシシラン(Cl(CHSi(OC)とをトルエン溶媒(乾燥トルエン30ml)中にて140℃で48時間還流して有機修飾を行い、反応物を、Ar雰囲気下にて100mlのトルエンで洗浄し、さらに空気中にて100mlのメタノールで洗浄して目的の触媒を得た(それぞれ、C12−Pd/MPA、C18−Pd/MPA、N−C3−Pd/MPAおよびCl−C3−Pd/MPAと称する)。
【0060】
窒素吸着測定および元素分析を行うことによって、これらの細孔特性を調べた。触媒反応としてシンナムアルデヒドの水素化反応を行った。5nmolのシンナムアルデヒド(CAD)をトルエンまたはメタノール約5mlに溶解した後に触媒0.1gを添加し、水素雰囲気下で攪拌しながら室温にて反応させた。
【0061】
種々の触媒の窒素吸着測定結果を、図2に示す。窒素吸着測定結果および元素分析によって得られた細孔特性を、表1に示す。有機未修飾触媒であるMPAは、均一なメソ細孔を有する場合に見られる典型的な等温線を示し、Pd/MPAでは、細孔径がわずかに小さくなったが、吸着等温線の形に大きな変化はない。また、XRD測定の結果から、Pdのピークは非常にブロードであった。すなわち、触媒においてPd粒子が担持されていても細孔は維持されており、しかも全体として非常に高度に分散してPd粒子が担持されていることがわかる。
【0062】
【表1】

【0063】
MPAまたはCl−C3−Pd/MAPを触媒として用いたCADの水素化反応(トルエン触媒)の経時変化を図3に示す。Pd/MPAとCl−C3−Pd/MPAとを比較すると、POLの選択率がMPAでは16%であったのに対して、Cl−C3−Pd/MPAでは39%であった。これは、有機修飾によって反応の第1工程でのC=O結合水素化が促進され、COLの水素化が優勢になったことを示す。このことから、修飾したCl−(CH−基がPd表面と相互作用して反応選択性が変化した可能性を示唆する。
【0064】
有機修飾した触媒であるN−C3−Pd/MPAおよびCl−C3−Pd/MPAでは、それぞれ細孔体積が未修飾のMPAと比較して半分〜1/3程度に減少し、細孔径も減少した。このことより、有機鎖が細孔内壁に修飾されたことがわかる。すなわち、内壁に担持されたPd粒子の周りは有機鎖で囲まれている(スキームを図4に示す)。
【0065】
また、表2に、CAD水素化の活性または選択性の値を示す。
【0066】
【表2】

【0067】
POL選択性は、Pd/MPAと比べてC12−Pd/MPAでは約1.6倍、Cl−C3−Pd/MPAでは2.4倍に達し、C=O水素化が促進されたことがわかる。さらにCl−C3−Pd/MPAでは活性も向上した。
【0068】
以上のように、触媒を有機修飾することによって触媒の活性および選択性が大きく制御し得ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、広範な種々の分野において利用される触媒に新たな機能を付与する技術であり、例えば、不飽和アルデヒドのC=O基を選択的に水素化することによって、香料または医薬品の分野で重要な役割を担う不飽和アルコールの製造・開発に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、αβ不飽和アルデヒドの水素化反応を示すスキームである。
【図2】図2は、メソ多孔アルミナおよびPd担持触媒の窒素吸着曲線を示すグラフである。
【図3】図3は、Pd/MPAおよびCl−C3−Pd/MPAを用いた場合のシンナムアルデヒドの変換を示すグラフである。
【図4】図4は、無機触媒成分を担持した触媒を有機修飾した状態を示すスキームである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体上に無機触媒成分および有機化合物が担持されていることを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
前記担体が金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物がAl、ZnO、TiO、Ta、SiO、ZrO、SrTiO、LaAlO、Y、MgO、LiTaO、LiNbO、KTaO、KNbO、Nb、SnO、BiまたはNdGaOであることを特徴とする請求項2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記担体が炭素、活性炭またはリン酸ジルコニウムからなることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記無機触媒成分が金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、インジウム、銅、クロム、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、タングステンおよびこれらの酸化物、HPW1240、HPMo1240、HSiW1240、HBW1240、HCoW1240、ならびにTiOからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記無機触媒成分が0.5〜50nmの範囲の粒経を有することを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記有機化合物が官能基を有する有機シラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記有機シラン化合物が、以下の式
【化1】

によって示され、
ここで、X、YおよびZはそれぞれ独立して、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、メルカプト基、メチル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、フェニル基、フェノール基、アミノフェノール基、C2k+1、ピリジル基、シアノ基、スルホン基またはビピリジル基を含む有機基であり、Rは、クロル基、ブロモ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基またはアセトキシ基であり、k、l、mおよびnは、それぞれ独立して0〜20の整数でありかつl+m+n≧1であることを特徴とする請求項7に記載の触媒組成物。
【請求項9】
前記有機化合物が前記担体上に共有結合していることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項10】
前記担体が細孔を有する多孔体であり、前記無機触媒成分および前記有機化合物が該細孔表面上に担持されていることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項11】
前記多孔体が、アルミナ、シリカ、シリカゲル、ゼオライト、多孔質ガラス、シリカアルミナ、マグネシア、ジルコニア、活性炭、リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、酸化タングステン、酸化マンガン、ハイドロタルサイト、メソ多孔シリカまたはモンモリロナイトからなることを特徴とする請求項10に記載の触媒組成物。
【請求項12】
前記細孔の直径が5000nm以下であることを特徴とする請求項10に記載の触媒組成物。
【請求項13】
水素化反応、脱水素反応、脱水反応、水和反応、光触媒反応または酸化還元反応を触媒することを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項14】
担体上に無機触媒成分を担持させる工程、および有機化合物を該担体上に共有結合させる工程を包含することを特徴とする触媒組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−198503(P2006−198503A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12125(P2005−12125)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】