説明

無機質板の製造方法

【課題】表面平滑性や外観が低下することなく、生産性よく強度向上を図ることができる無機質板の製造方法を提供する。
【解決手段】鉱物質繊維と無機充填材と結合剤としての水溶性又は水分散性結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造して得られたウェットマットを表裏層とする湿潤無機質板を得、その湿潤無機質板を1次乾燥させてドライボードに形成し、このドライボードの内部に表面から、界面活性剤からなる浸透剤を水に添加した浸透剤水溶液を含浸させた後、ドライボードを加熱圧縮して2次乾燥させるとともに結合剤を完全に硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等建築物の耐力面材や下地材として用いられ、或いは内装材、造作材、開口部材、家具等の化粧板の基板としても好適な無機質板を生産性良く製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種無機質板の製造方法として、本出願人は既に、湿式抄造に基づく、軽量・高強度で、表面硬度及び平滑性に優れた無機質板を得ることのできる方法を提案している(特許文献1参照)。
【0003】
この方法によると、生産時の運搬性や取扱性がよく、化粧層との密着性もよい無機質板が得られる。また、加熱圧縮前のドライボードの少なくとも表面に水又は樹脂水溶液を塗布し塗布面を軟化させることで、さらに表面平滑性の良い無機質板が得られる。
【特許文献1】特開2005−350798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1の製法においては、次のような問題があり、改良の余地があった。
【0005】
すなわち、加熱圧縮前のドライボードに水や樹脂水溶液等の水分を与えると、表面平滑性が向上するだけでなく、結合剤の軟弱化による均一分散化が促進されるので、結合力がより一層発揮されて無機質板の強度向上に寄与すると考えられている。このため、高強度を求める場合には、より多くの水分を効果的に浸透させる手法が検討されていた。
【0006】
しかし、ドライボードの表面密度が高かったり水分の浸透性能が低かったりすると、多量の水分を塗布してもドライボード内部には良好に浸透せず、ドライボード表面上に水分が残ってしまい、結合剤の染み出し(バリ)を誘引して、却って無機質板の強度や表面平滑性等が低下するだけでなく、生産性も低下するという問題が生じる。
【0007】
ドライボード内部に多くの水分を浸透させるためには、機械的設備を用いて圧入したり吸引したりすることも考えられる。
【0008】
ところが、その場合、ドライボードの厚さや密度に応じて適時に適量の水分を浸透させることを要するので、そのための設備が複雑となり、効率性や生産性が低下してしまうこととなる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、表面平滑性や外観が低下することなく、生産性よく強度向上を図ることができる無機質板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、ドライボード内に浸透剤水溶液を含浸させるようにした。
【0011】
具体的には、請求項1の発明に係る無機質板の製造方法では、鉱物質繊維と、無機充填材と、結合剤としての水溶性又は水分散性結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造して得られたウェットマットを用いて、全体又は少なくとも表裏層が上記ウェットマットである単層構造又は多層構造の湿潤無機質板を得、この湿潤無機質板を1次乾燥させてドライボードに形成する。
【0012】
そして、このドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させた後、ドライボードを加熱圧縮して、2次乾燥させるとともに上記結合剤を完全に硬化させることを特徴とする。
【0013】
この請求項1の発明では、湿潤無機質板を1次乾燥させて形成されるドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させるので、適量の水分がドライボードに内部まで浸透する。このことで、ドライボードの表面だけでなく内部の水溶性又は水分散性結合剤が軟弱化して隅々まで染み渡るように均一分散化されて結合剤のフロー性が良くなり、その後に2次乾燥及び結合剤の完全硬化のためにドライボードを加熱圧縮することで、高強度の無機質板を得ることができる。
【0014】
また、上記ドライボード内に含浸された水分により、その水溶性結合剤の結合力を軟弱化し、結合剤を隅々まで染み渡るように均一分散化させることができるので、その後の加熱圧縮によって、結合力が高くて表面性の良い無機質板を成形性よく形成することができる。
【0015】
さらに、結合剤の結合力を最大限に生かすことができるので、結合剤を増加させることなく強度向上、硬度向上が実現できる。また、こうして結合剤を増加させる必要がないので、防火性能は低下しない。
【0016】
また、結合剤の染み出し(バリ)が抑えられるので、生産時の離型不良や熱盤の汚れ付着がなく、生産性が低下したり無機質板の強度や表面平滑性、外観が低下したりすることがない。
【0017】
また、ドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させるだけの処理であるので、そのための特別な設備は不要であり、生産性が低下することもない。
【0018】
請求項2の発明に係る無機質板の製造方法では、鉱物質繊維と、無機充填材と、結合剤としての水溶性又は水分散性結合剤及び熱硬化性樹脂結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造して得たウェットマットを用いて、全体又は少なくとも表裏層が上記ウェットマットである単層構造又は多層構造の湿潤無機質板を得る。
【0019】
そして、この湿潤無機質板を、上記ウェットマット内の熱硬化性樹脂結合剤が溶剤に完全に溶解する状態ないし該熱硬化性樹脂結合剤の一部が溶剤に不溶となる状態で含水率が5%以下となるように1次乾燥して、上記熱硬化性樹脂結合剤による結合力が生じていない状態のドライボードに形成する。
【0020】
さらに、このドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させた後、ドライボードを加熱圧縮して、2次乾燥させるとともに上記結合剤を完全に硬化させることを特徴とする。
【0021】
この請求項2の発明では、上記請求項1の発明と同様の作用効果及びそれに加えて以下の作用効果が得られる。すなわち、湿潤無機質板の1次乾燥により得られるドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させるので、適量の水分がドライボード内部にまで浸透し、ドライボード表面だけでなく内部の水溶性又は水分散性結合剤と熱硬化性樹脂結合剤とが軟弱化して隅々まで染み渡るように均一分散化され、その後に2次乾燥及び結合剤の完全硬化のためにドライボードを加熱圧縮することによって高強度、高硬度の無機質板を得ることができる。
【0022】
また、湿潤無機質板を、そのウェットマット内部の熱硬化性樹脂結合剤が溶剤に完全に溶解する状態ないし該熱硬化性樹脂結合剤の一部が溶剤に不溶となる状態で含水率が5%以下となるように1次乾燥して、上記熱硬化性樹脂結合剤による結合力が生じていない状態のドライボードに形成するので、得られるドライボードには結合剤による結合力は殆ど生じておらず、次工程以降において浸透剤水溶液を内部に含浸させたドライボードを加熱圧縮した際の圧縮状態で熱硬化性樹脂結合剤が硬化して初めて結合力を発現する。そのため、組成物間の結合部に破損のない無機質板に形成することができ、この結果、その表面に化粧層を設けた場合にも化粧層が剥がれることのない無機質板を形成することができる。
【0023】
さらに、湿潤無機質板を、含水率が5%以下となるように1次乾燥してドライボードに形成しているので、そのドライボード自体、或いはその後に浸透剤水溶液が内部に表面から含浸されたドライボードも十分な取り扱い強度を保有している。このことで、そのドライボードを乾燥装置から浸透剤水溶液の含浸装置へ運搬し或いは含浸装置にセットする際に、取り扱い易くなり、その破損等を招来することはない。
【0024】
請求項3の発明に係る無機質板の製造方法では、上記湿潤無機質板は、表裏層間に中間層を有する3層構造とする。この発明でも、上記請求項1及び2の発明と同様の作用効果が得られる。それに加え、湿潤無機質板が3層構造であるので、3層構造の無機質板が得られるとともに、生産方法の多様性を確保できる。
【0025】
請求項4の発明に係る無機質板の製造方法では、上記湿潤無機質板を予め加熱圧縮した後、1次乾燥する。この発明では、上記請求項1〜3の発明と同様の効果が得られる。さらに加えて、湿潤無機質板を予め加熱圧縮した後に1次乾燥させるので、さらに取り扱い性の良い無機質板を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、請求項1の発明によると、単層又は多層の湿潤無機質板を1次乾燥させて形成されるドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させた後に、そのドライボードを加熱圧縮することにより、適量の水分をドライボードに内部まで浸透させ、その表面だけでなく内部の水溶性又は水分散性結合剤を軟弱化して隅々まで染み渡るように均一分散化させ、結合力が高くて表面性の良い高強度の無機質板を成形性よくかつ生産性よく形成することができる。また、結合剤の結合力を最大限に生かして、無機質板の強度向上や硬度向上、防火性能の向上を図るとともに、結合剤の染み出し(バリ)を抑制して、生産時の離型不良や熱盤の汚れ付着の防止、生産性の低下、無機質板の強度や表面平滑性、外観の低下を防止することができる。
【0027】
請求項2の発明によると、単層又は多層の湿潤無機質板の1次乾燥により得られるドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させた後に、そのドライボードを加熱圧縮することにより、適量の水分をドライボードに内部まで浸透させ、その表面だけでなく内部の水溶性又は水分散性結合剤と熱硬化性樹脂結合剤とを軟弱化して隅々まで染み渡るように均一分散化させ、結合力が高くて表面性の良い高強度、高硬度の無機質板を成形性よくかつ生産性よく形成することができる。また、ウェットマットを内部の熱硬化性樹脂結合剤が溶剤に完全に溶解する状態ないし該熱硬化性樹脂結合剤の一部が溶剤に不溶となる状態で含水率が5%以下となるように1次乾燥して、熱硬化性樹脂結合剤による結合力が生じていない状態のドライボードに形成するので、浸透剤水溶液を内部に含浸させたドライボードを加熱圧縮した際の圧縮状態で熱硬化性樹脂結合剤が硬化して初めて結合力を発現させることができ、組成物間の結合部に破損のない無機質板に形成することができるとともに、その表面に設けられる化粧層が剥がれることのない無機質板を形成することができる。さらに、湿潤無機質板を、含水率が5%以下となるように1次乾燥してドライボードに形成して、そのドライボード自体、或いはその後に浸透剤水溶液が含浸されたドライボードに十分な取り扱い強度を保有させ、そのドライボード取り扱い性の容易化、その破損等の防止を図ることができる。
【0028】
請求項3の発明によると、湿潤無機質板を3層構造としたことにより、3層構造の無機質板が得られ、生産方法の多様性を確保できる。
【0029】
請求項4の発明によると、湿潤無機質板を予め加熱圧縮した後に1次乾燥することにより、さらに取り扱い性の良い無機質板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0031】
本発明の実施形態に係る無機質板の製造方法では、まず、鉱物質繊維と、無機充填材と、結合剤として水溶性又は水分散性の結合剤とを必須成分として含む原料を大量の水に分散混合させてスラリー組成物を調整し、そのスラリー組成物を丸網式湿式抄造装置等の湿式抄造装置を用いて湿式抄造してウェットマットを形成する。
【0032】
そして、このウェットマットを用い、全体が該ウェットマットからなる単層構造の湿潤無機質板とするか、或いは、2つのウェットマットを表裏層用として用意し、表裏層用の一方のウェットマット上に、無機質発泡体と結合剤とを少なくとも必須成分として含む原料からなる軽量な中間層用組成物を散布堆積した後、その上に他方のウェットマットを載置することで、表裏層用ウェットマットの間に、中間層用組成物を中間層(芯層)とする3層構造の湿潤無機質板(湿潤積層体)を形成する。上記表裏層用ウェットマットと中間層との界面には、両層の接着力を向上させるために結合剤水溶液を塗布しておくこともできる。
【0033】
また、湿潤無機質板は2層又は4層以上の構造のものであってもよい。例えば2層の場合、表層及び裏層のウェットマットで構成されたものとなるが、これら表裏層のウェットマット間に界面が生じるので、単層とは異なる。また、必要に応じて表層及び裏層のウェットマット間で組成の配合を変えることで、表層と裏層とで物性の異なる無機質板を得ることも可能である。
【0034】
また、4層以上の場合、湿潤無機質板の表裏層をそれぞれ上記表裏層のウェットマットで構成し、それらの間に上記中間層用組成物からなる中間層(芯層)と、それとは異なる強化層とを配置して積層する。例えば4層の場合には、中間層と表層ウェットマットとの間に強化層を積層することで、表側から裏側に向かって表層ウェットマット、強化層、中間層及び裏層ウェットマットとするか、或いは、中間層と裏層ウェットマットとの間に強化層を積層することで、同様に表層ウェットマット、中間層、強化層及び裏層ウェットマットとすることができる。また、5層の場合には、中間層と表裏層ウェットマットとの間に1つの中間層と2つの強化層とを積層することで、表側から裏側に向かって表層ウェットマット、表側強化層、中間層、裏側強化層及び裏層ウェットマットとする。この強化層は、例えば釘の保持力を強化するために形成されるもので、炭酸カルシウムや水酸化アルミニウム等の無機紛状体と、フェノール、澱粉、ポバール等の結合剤と、古紙、ポリエステル等の有機繊維とを主成分として混合したものが用いられる。そして、これらを積層して湿潤無機質板を形成する際には、上記3層構造のものと同様の積層方法で行う。
【0035】
上記ウェットマットの構成材料を説明すると、上記鉱物質繊維としては、ロックウール、スラグウール、グラスウール等を挙げることができ、これらの鉱物質繊維は、スラリー中の固形成分に対して20〜70重量%加えられる。添加量が20重量%未満になると、鉱物質繊維同士の絡み合いが少なくなって曲げ強度が弱くなり、また70重量%を超えると無機充填材の添加割合が少なくなって、表面の緻密性が低くなり化粧性が損なわれるので好ましくない。
【0036】
無機充填材としては、炭酸カルシウム、マイクロシリカ、水酸化アルミニウム、スラグ粉等を用いることができ、スラリー中の固形成分として10〜70重量%加えられる。添加量が10重量%未満になると、形成される無機質板表面の緻密性が低くなって化粧性が損なわれ、また70重量%を超えると、鉱物質繊維の添加割合が少なくなって曲げ強度が弱くなるので好ましくない。
【0037】
また、結合剤としては、ポリビニルアルコール、スターチ類、ポリアクリルアミド、SBRラテックス、アクリル樹脂エマルジョン等の水溶性又は水分散性結合剤を用いることができる。この他に結合剤として熱硬化性樹脂結合剤を水溶性又は水分散性結合剤と併用することもでき、この熱硬化性樹脂結合剤としてはフェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素メラミン樹脂等の粉末状或いは水性結合剤を用いる。
【0038】
このような結合剤は、その総量がスラリー中の固形成分に対して2〜20重量%、好ましくは7〜15重量%程度加えられる。結合剤の添加量が2重量%未満となると曲げ強度等の強度的性質が低くなり、20重量%を超えると防火性が悪くなるので好ましくない。
【0039】
この他に、必要に応じて、ポリプロピレン、ポリエステル、ビニロン等の合成樹脂繊維、麻や木質繊維等の植物質繊維、凝集剤、サイズ剤、消泡剤等をスラリー中に添加することができる。
【0040】
次に、上記中間層用組成物の構成材料を説明すると、無機質発泡体としては、パーライト、シラス発泡体、シリカフラワー、ガラス発泡体等を挙げることができ、中間層の主原料として中間層全体の40〜90重量%添加することができる。40重量%未満であると軽量化が不十分となり、90重量%を超えると強度が弱くなるので好ましくない。
【0041】
中間層用組成物の結合剤としては、上記表裏層用スラリー組成物に用いることができるもの、すなわち熱硬化性樹脂結合剤、ポリビニルアルコール、スターチ類、ポリアクリルアミド、SBRラテックス、アクリル樹脂エマルジョン等を、中間層用組成物の固形成分に対して固形成分として2〜20重量%添加することができる。
【0042】
尚、その他の中間層用組成物として、上記表裏層用スラリー組成物と同じ鉱物質繊維や木質繊維を50重量%未満の割合で添加することができる。また、このような中間層用組成物には、その細かなものが散布する際に空気中に散乱するのを防止して散布堆積効率を良くするために、5〜30重量%程度の水分を含ませておくのが好ましい。
【0043】
次いで、このようにして得られたウェットマットからなる単層構造の湿潤無機質板、又は少なくとも表裏層が上記ウェットマットである多層構造の湿潤無機質板(湿潤積層体)を熱風循環式ドライヤーに搬入し、1次乾燥してドライボードに形成する。
【0044】
このとき、上記熱硬化性樹脂結合剤が混入されているウェットマットであれば、熱硬化性樹脂結合剤が溶剤に完全に溶解する状態ないし該熱硬化性樹脂結合剤の一部が溶剤に不溶となる状態で上記熱硬化性樹脂結合剤による結合力が生じていない状態で(すなわち、プレキュアー状態に至らない条件下で)含水率が5%以下となるように1次乾燥してドライボードに形成する。
【0045】
ここにおいて、ドライボードの含水率が5%を超えると、後述する浸透剤水溶液の含浸工程のために、ドライボードを浸透剤水溶液の含浸装置へ運び、その含浸装置内にセットするための取り扱い時の強度が不足して破損することがあるので好ましくない。
【0046】
また、ウェットマットに混入されている熱硬化性樹脂結合剤が完全に硬化しないまでもプレキュアー状態(すなわち、熱硬化性樹脂結合剤の大部分が溶剤に不溶となる状態)に硬化が進むと、ドライボード表裏面層の熱硬化性樹脂は不十分ながら結合力を発現する。このため、このようなドライボードを後述するように加熱圧縮すると、上記一旦結合された組織が潰れてしまい、得られる無機質板又は無機質板の表裏層が脆弱化する。この結果このような無機質板の表面に化粧層を設けた場合、化粧層が上記脆弱化した無機質板から剥離し易くなり、無機質板と化粧層との密着性が悪くなるので好ましくない。
【0047】
尚、上記単層の、又は少なくとも表裏層がウェットマットである湿潤無機質板は、予め加熱ロール、連続プレス、平板プレス等で加熱圧縮してから、上記熱風循環式ドライヤーで1次乾燥し、ドライボードに形成しておくこともできる。このように、乾燥前に予備的な加熱圧縮を行うことにより、さらに取り扱い強度に優れたドライボードに形成することができる。
【0048】
上記乾燥条件や予備的な加熱圧縮条件は、ウェットマットに熱硬化性樹脂結合剤が添加されている湿潤無機質板であれば、得られるドライボード内の熱硬化性樹脂がプレキュアー状態に至らないものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、熱硬化性樹脂として粉末フェノール樹脂を用いた場合には、乾燥温度60℃〜140℃、予備的な加熱圧縮温度80℃〜180℃程度の温度条件で時間を加減して行うことができる。
【0049】
次に、上記1次乾燥して得られたドライボード内にその周囲表面(内部に対する表面を意味する)から浸透剤水溶液を塗布等により含浸させる。この浸透剤水溶液とは、浸透剤を0.05〜2重量%添加した水である。浸透剤が0.05重量%よりも少ないと、必要な浸透性が得られない。一方、2重量%を超えると、無機質板の強度が低下する虞れがある。
【0050】
浸透剤は界面活性剤であって、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性系のいずれであっても特に限定することなく用いることができるが、特にノニオン系は耐水性が良いので適している。
【0051】
また、塗布等の含浸の方法は特に限定されない。また、浸透剤水溶液の含浸量は、ウェットマット固形分の重量に対して10〜35重量%がよい。10重量%よりも少ないと、結合剤の軟弱化による均一分散化が不十分となり、必要な強度が得られない。一方、35重量%を超えると、その後の加熱圧縮工程における2次乾燥に時間を要して生産性が低くなる。
【0052】
また、ドライボード内への表面からの浸透剤水溶液の含浸により、水分が含浸した周囲表層は特に柔軟化し、加熱圧縮による成形性を向上させることができる。
【0053】
尚、仮に、上記浸透剤水溶液の代わりに水を使用した場合、通常はウェットマット固形分重量に対して50〜60g/m程度しか含浸できず、強度向上には殆ど寄与しない。多量の水を塗布してもドライボード表面に残存してバリが発生し易くなる。また、機械的手段等を用いてドライボードに水を圧入すると150g/m程度は含浸できるものの、大量のバリが発生してしまう。従って、本願発明では、水ではなくて浸透剤水溶液を含浸させる。
【0054】
次に、このようにして得られたドライボードを、多段式ホットプレス等の加熱圧縮装置の加熱板間に挿入し、水溶性又は水分散性の結合剤や熱硬化性樹脂結合剤の硬化温度以上の温度で加熱圧縮し、2次乾燥させるとともに結合剤を十分に硬化させて所定の厚みの無機質板に形成する。
【0055】
そのとき、上記1次乾燥において、ドライボード内の上記熱硬化性樹脂は、プレキュアー状態にも至っておらず(すなわち、熱硬化性樹脂結合剤が溶剤に完全に溶解する状態ないし該熱硬化性樹脂結合剤の一部が溶剤に不溶となる状態)、その結合効果は殆ど発現されていないので、このドライボード内の熱硬化性樹脂は、浸透剤水溶液が含浸された後の加熱圧縮及び2次乾燥によって初めて結合剤としての機能を効率良く発現して硬化し、得られる無機質板の表面の層に潰れ等が生じて該表面の層が脆弱化することはない。このため、このような無機質板は強度があり、その表面に突板や化粧シートの貼着、塗装、印刷等により表面化粧層を設けた場合でも、無機質板と化粧層が剥離することのない無機質化粧板に形成することができる。
【0056】
1次乾燥により一旦発現した上記スターチ類やポリビニルアルコール等の水溶性結合剤の結合力を、上記内部に含浸された水分(浸透剤水溶液)により軟弱化させて隅々まで染み渡るように均一分散化させることができる。そのため、その後の加熱圧縮及び2次乾燥による結合剤の硬化によって、成形性よく結合力が高くて強度のあり、表面性の良い無機質板を形成することができる。
【0057】
また、加熱圧縮に際して、エンボスプレートを用いてドライボード表面を加熱圧縮することもできる、この場合には、表面に任意の凹凸模様が刻設された無機質板を得ることができる。
【実施例】
【0058】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0059】
(実施例1)
鉱物質繊維としてロックウール50重量%と、無機充填材として炭酸カルシウム14重量%及び水酸化アルミニウム20重量%と、水溶性又は水分散性結合剤として澱粉3重量%及びポリビニルアルコール3重量%と、熱硬化性樹脂結合剤として粉末フェノール樹脂5重量%と、補強繊維として古紙5重量%とを大量の水中に添加して攪拌し、さらに少量のワックス系サイズ剤、ポリ塩化アルミニウム及びポリアクリルアマイドを添加して攪拌してスラリーを得た。
【0060】
次いで、このスラリーを丸網式湿式抄造装置により湿式抄造し、含水率70%、固形分重量2.3kg/mの表裏層用の2つのウェットマットを得た。
【0061】
一方、シラス発泡体64重量%と、水酸化アルミニウム20重量%と、澱粉3重量%と、ポリビニルアルコール3重量%と、粉末フェノール樹脂5重量%と、古紙5重量%と、少量のワックス系サイズ剤とを、これらに水を噴霧しながらミキサー内で均一に混合して、含水率25%、固形分重量1.8kg/mの中間層用組成物を得た。
【0062】
この中間層用組成物を、上記裏層用ウェットマット上に均一に散布堆積させるとともに、その散布面上に表層用ウェットマットを積層して3層構造の湿潤無機質板(湿潤積層体)を形成した。
【0063】
次に、この3層構造の湿潤無機質板を、厚さ12mmのディスタンスバーを介して95℃の温度下で120秒間予め加熱圧締した後、さらに熱風循環式ドライヤーに搬入してその表面温度が140℃を超えない乾燥条件で30分間1次乾燥することで、含水率2%のドライボードを得た。このドライボードは、その表面の層の粉末フェノール樹脂がプレキュアーにも至っていない状態で、上記含水率にまで乾燥されていた。
【0064】
そして、得られたドライボードをホットプレス装置に搬入し、その表層及び裏層の各表面ないし周囲端面から表層及び裏層の各表面につきそれぞれ350g/mの浸透剤含水液を塗布してドライボード内部に含浸させた。その後、そのホットプレス装置の熱盤間にセットし、厚さ9mmのディスタンスバーを介して、190℃の温度条件下で10分間加熱圧縮して2次乾燥させ、厚さ9.1mm、比重0.72の無機質板を得た。
【0065】
そのとき、上記ドライボードは、ホットプレスへの搬入や熱盤間へのセットを、破損等を生じることなく良好に行えた。また、加熱圧縮時にパンク現象は生じず、加熱圧縮後のホットプレス装置からの離型性も良好で、無機質板の端部にはバリの発生もなく、無機質板は変形を生じていなかった。
【0066】
こうして得られた無機質板の曲げ強度と釘側面抵抗とを測定したところ、曲げ強度24.2N/mm、釘側面抵抗690Nであった。
【0067】
(実施例2)
上記実施例1と同様にして、3層構造の湿潤無機質板を得るとともに、1次乾燥してドライボードを得た。
【0068】
このドライボードをホットプレス装置に搬入し、その表層及び裏層の各表面ないし周囲端面から表層及び裏層の各表面につきそれぞれ500g/mの浸透剤含水液を塗布してドライボード内部に含浸させた後、ホットプレス装置の熱盤間にセットし、厚さ9mmのディスタンスバーを介して、190℃の温度条件下で10分間加熱圧縮して2次乾燥させ、厚さ9.1mm、比重0.72の無機質板を得た。
【0069】
そのとき、上記ドライボードは、ホットプレスへの搬入や熱盤間へのセットを、破損等を生じることなく良好に行えた。また、加熱圧縮及び2次乾燥時にパンク現象は生じず、加熱圧縮後のホットプレス装置からの離型性も良好で、無機質板の端部にはバリの発生もなく、無機質板は変形を生じていなかった。
【0070】
このようにして得られた無機質板の曲げ強度と釘側面抵抗を測定したところ、曲げ強度24.5N/mm、釘側面抵抗720Nであった。
【0071】
(比較例1)
上記実施例1と同様にして、3層構造の湿潤無機質板を得るとともに、1次乾燥してドライボードを得た。
【0072】
このドライボードをホットプレス装置に搬入し、その表層及び裏層の各表面ないし周囲端面から表層及び裏層の各表面につきそれぞれ100g/mの水を塗布した後、ホットプレス装置の熱盤間にセットし、厚さ9mmのディスタンスバーを介して、190℃の温度条件下で10分間加熱圧縮して2次乾燥させ、厚さ9.2mm、比重0.71の無機質板を得た。
【0073】
そのとき、加熱圧縮及び2次乾燥時にパンク現象は生じなかったが、無機質板の端部には多量のバリが発生し、ホットプレス装置の熱盤に付着して離型不良が生じた。
【0074】
そして、このようにして得られた無機質板の曲げ強度と釘側面抵抗を測定したところ、曲げ強度16.7N/mm、釘側面抵抗510Nであり、実施例に較べて強度的性質は劣っていた。
【0075】
(比較例2)
上記実施例1と同様にして、3層構造の湿潤無機質板を得るとともに、1次乾燥してドライボードを得た。
【0076】
このドライボードをホットプレス装置に搬入し、その表層及び裏層の各表面ないし周囲端面から表層及び裏層の各表面につきそれぞれ300g/mの水を塗布したところ、一部の水はドライボード表面に残存して搬送中に流れ落ちた。実際の塗布量は各表面につき150g/m相当であった。次いで、ドライボードをホットプレス装置の熱盤間にセットし、厚さ9mmのディスタンスバーを介して、190℃の温度条件下で10分間加熱圧縮して2次乾燥させ、厚さ9.0mm、比重0.73の無機質板を得た。
【0077】
そのとき、加熱圧縮及び2次乾燥時にパンク現象は生じなかったが、無機質板の端部には多量のバリが発生し、ホットプレス装置の熱盤に付着して離型不良が生じた。
【0078】
このようにして得られた無機質板の曲げ強度と釘側面抵抗を測定したところ、曲げ強度18.3N/mm、釘側面抵抗530Nであり、実施例に較べて強度的性質は劣っていた。
【0079】
以上の実施例及び比較例により、本願発明によれば、加熱圧縮時にパンク現象が生じず、加熱圧縮後の離型性も良好で、バリの発生や変形がなく、曲げ強度及び釘側面抵抗の高い無機質板が得られること、また、中間生成物であるドライボードのホットプレスへの搬入や熱盤間へのセットを良好に行ることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、無機質板の強度や表面平滑性の低下を招くことなく、その無機質板を生産性よく製造できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物質繊維と、無機充填材と、結合剤としての水溶性又は水分散性結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造して得られたウェットマットを用いて、全体又は少なくとも表裏層が上記ウェットマットである単層構造又は多層構造の湿潤無機質板を得、
この湿潤無機質板を1次乾燥させてドライボードに形成し、
上記ドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させた後、
上記ドライボードを加熱圧縮して、2次乾燥させるとともに上記結合剤を完全に硬化させることを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項2】
鉱物質繊維と無機充填材と結合剤としての水溶性又は水分散性結合剤及び熱硬化性樹脂結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造して得たウェットマットを用いて、全体又は少なくとも表裏層が上記ウェットマットである単層構造又は多層構造の湿潤無機質板を得、
この湿潤無機質板を、上記ウェットマット内の熱硬化性樹脂結合剤が溶剤に完全に溶解する状態ないし該熱硬化性樹脂結合剤の一部が溶剤に不溶となる状態で含水率が5%以下となるように1次乾燥して、上記熱硬化性樹脂結合剤による結合力が生じていない状態のドライボードに形成し、
上記ドライボード内に表面から浸透剤水溶液を含浸させた後、
上記ドライボードを加熱圧縮して、2次乾燥させるとともに上記結合剤を完全に硬化させることを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
湿潤無機質板は、表裏層間に中間層を有する3層構造であることを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つにおいて、
湿潤無機質板を予め加熱圧縮した後、1次乾燥することを特徴とする無機質板の製造方法。

【公開番号】特開2010−236107(P2010−236107A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82461(P2009−82461)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】