説明

無機質系水性組成物及び無機質系水性組成物の製造方法

【課題】流動性があり、乾燥固化後も耐水性を有して、且つ無機質材料の特性である不燃性、耐熱性、耐候性を有する被膜を形成可能な無機質系水性組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸成分とZn成分とを含み、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、アルカリ金属成分を含まないリン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合して無機質系水性組成物を製造する。リン酸系ガラス(A)は、リン酸成分をP換算で45〜55mol%、ZnOを20〜50mol%含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃性、耐熱性及び耐候性を有する被膜を形成でき、塗工作業性に優れた無機質系水性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリカゾル(コロイダルシリカ)、アルミナゾル、ランタンゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等の微細な金属酸化物の水分散体や、ケイ酸アルカリ金属塩水溶液などが、バインダーやコーティング剤などの無機質系水性組成物として用いられている。
また、下記特許文献1には、リン酸系ガラスは、常温で水と反応して粘稠なゲルになることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−217339号公報(段落番号0010参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シリカゾル等の金属酸化物の水分散体を単独で無機質系水性組成物として使用した場合、微細な粒子同士が互いに結合して被膜を形成するため、被膜にクラックや割れが生じ易かった。これらの金属酸化物は、高い造膜性を有する有機質材料と組み合わせて使用することにより、クラックや割れのない被膜を形成することが可能となるが、有機質材料を含有することにより、不燃性、耐熱性、耐候性等の特性が損なわれてしまう問題があった。
【0005】
また、ケイ酸アルカリ金属塩水溶液は、含有する水を加熱除去するだけで、容易に造膜するが、乾燥固化後もアルカリ金属が残存するため、耐水性が低く、更には、使用する条件によっては形成した被膜がもとの水溶物に戻ることがあった。ケイ酸アルカリ金属塩水溶液の耐水性を改良する方法としては、残存するアルカリ金属塩を硫酸等で中和して、水洗除去する方法などがあるが、基材の種類や用途によってはこのような処理が不可能の場合があり、汎用性に欠ける。また、作業工程が煩雑であることから、手間や費用が嵩む問題があった。
【0006】
また、リン酸系ガラスを水と反応して調製した組成物は、粘稠性のあるゲル状物であることから流動性に欠ける。このため、基材への塗工方法が限られてしまい、汎用性に欠け、更には、均一な薄膜塗工ができないという問題があった。加水量を増加することで流動性を増すことができるが、加水量を高めるにつれ分散相のガラス成分が沈降し易くなり、水性組成物としての貯蔵安定性が低下する問題があった。また、リン酸系ガラスは、水和し易いことから、耐水性に劣る問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、流動性があり、乾燥固化後も耐水性を有して、且つ無機質材料の特性である不燃性、耐熱性、耐候性を有する被膜を形成可能な無機質系水性組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するにあたって、本発明の無機質系水性組成物は、リン酸成分及びZn成分を含み、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、アルカリ金属成分を含まないリン酸系ガラス(A)と、揮発性塩基化合物(B)と、水(C)とを含むことを特徴とする。
【0009】
リン酸系ガラス(A)は、リン原子と酸素原子が交互に結合した無機質高分子であり、部分的に遊離した水酸基を有している。この水酸基は、水と作用して水和物を形成するが、揮発性塩基化合物(B)と反応させることにより、リン酸系ガラス(A)と中和塩を形成し、その結果、水への溶解性が向上し、得られる無機質系水性組成物の流動性が向上する。
また、無機質系水性組成物に含まれるリン酸系ガラス(A)は、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有するので、揮発性塩基化合物(B)との中和塩の強い水和作用により優れた流動性を有する。また、Zn成分を含有するので、Zn成分によってリン酸成分が揮発性塩基化合物(B)により適度に加水分解され、リン酸系ガラス(A)中に、遊離した水酸基が生成し易くなって水への溶解性が向上する。更には、Zn成分がリン酸成分からなる無機質高分子鎖中の水酸基と作用し、静電的に高分子鎖を結合して網目構造を形成すると考えられ、無機質系水性組成物の造膜性、形成される被膜の耐水性、耐熱性がより向上する。また、アルカリ金属類を含まないので、ガラスの耐水性が損なわれにくく、形成される被膜の耐水性がより向上する。
そして、リン酸系ガラス(A)と中和塩を形成するものが、揮発性塩基化合物(B)であるため、基材に無機質系水性組成物を塗工して乾燥する際に、揮発性塩基化合物(B)は水分とともに揮発する。このため、揮発性塩基化合物(B)は被膜に残存し難く、被膜の耐水性などが損なわれにくい。
このため、リン酸系ガラス(A)と、揮発性塩基化合物(B)と、水(C)とを含む本発明の無機質系水性組成物は、流動性があり、どのような形状の基材に対しても、容易に塗工でき、塗工作業性が良好である。また、固化物が無機質系高分子鎖を有するガラスであるので、基材表面に、不燃性、耐熱性、耐候性等に優れ、クラックや割れのない連続した被膜を容易に形成できる。
【0010】
本発明の無機質系水性組成物の前記リン酸系ガラス(A)は、リン酸成分をP換算で45〜55mol%、ZnOを20〜50mol%含有することが好ましい。リン酸系ガラス(A)が上記組成比からなるものであれば、無機質系水性組成物の流動性と、乾燥固化後の被膜の耐水性を最適化できる。
【0011】
本発明の無機質系水性組成物の前記リン酸系ガラス(A)は、Sc成分、Ti成分、V成分、Cr成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Cu成分、Ni成分から選択される少なくとも1種を、酸化物換算で0.1〜10mol%含有することが好ましい。Sc成分、Ti成分、V成分、Cr成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Cu成分、Ni成分から選択される少なくとも1種を、酸化物換算で0.1〜10mol%含有することにより、リン酸系ガラス(A)中の無機質高分子鎖同士が強く結合し、遊離した水酸基の生成を抑制できる。このため、より耐水性の高い被膜を基材表面に形成できる。
【0012】
本発明の無機質系水性組成物の前記リン酸系ガラス(A)は、多価金属硫酸塩を、硫酸塩換算で1〜15mol%含有することが好ましい。多価金属硫酸塩は、高分子化し難い性質を有していると考えられており、多価金属硫酸塩を含有することにより、リン酸系ガラス(A)の高分子鎖の規則性を乱して、結晶化を抑制でき、溶融温度を低下できる。
【0013】
本発明の無機質系水性組成物は、前記揮発性塩基化合物(B)がアンモニアであることが好ましい。アンモニアは、無機質系水性組成物を加熱固化する際に、揮散しやすく、固化物中に残存し難いので、形成される塗膜の耐水性が損なわれにくい。
【0014】
一方、本発明の無機質系水性組成物の製造方法は、リン酸成分とZn成分とを含み、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、アルカリ金属成分を含まないリン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合することを特徴とする。
【0015】
本発明の無機質系水性組成物の製造方法によれば、リン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合することにより、リン酸系ガラス表面で水和が生じて粒子同士が接着し、大きな塊となることを防止できる。このため、リン酸系ガラス(A)の溶解に要する時間を短縮でき、低粘度の無機質系水性組成物を生産性良く製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無機質系水性組成物は、流動性があり、どのような形状の基材に対しても、容易に塗工でき、塗工作業性が良好である。また、固化物が無機質系高分子鎖を有するガラスであるので、基材表面に、不燃性、耐熱性、耐候性等に優れ、クラックや割れのない連続した被膜を容易に形成できる。
【0017】
また、本発明の無機質系水性組成物の製造方法は、リン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合することにより、リン酸系ガラス(A)の溶解に要する時間を短縮でき、低粘度の無機質系水性組成物を生産性良く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[無機質系水性組成物]
まず、本発明の無機質系水性組成物について説明する。本発明の無機質系水性組成物は、リン酸系ガラス(A)と、揮発性塩基化合物(B)と、水(C)とを少なくとも含む水性組成物である。
【0019】
リン酸系ガラスは、リン原子と酸素原子が交互に結合した(Pが主骨格となる無機質高分子である。リン原子には、高分子鎖を形成する酸素以外に、側鎖側に酸素原子が二重結合で結合している。この側鎖にあたる酸素原子は、水の作用により二重結合が開環し、水酸基2個が側鎖として結合した構造に変化する。この水酸基は、リン酸系ガラスの親水性を増加させるので、水酸基が生成されることによりリン酸系ガラスは水和しやすくなる。
【0020】
リン酸系ガラス(A)は、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、45〜55mol%含有することが好ましい。リン酸成分の含有量がP換算で40mol%未満であると、ガラス製造時に結晶化を起こしてしまいガラスが得られない場合や、揮発性塩基組成物(B)を添加しても水性組成物が得ることが出来ない場合がある。また、60mol%を超えると、リン酸系ガラスの耐水性が低下して、バインダーあるいはコーティング剤としての機能を有さない場合がある。そして、リン酸成分の含有量が、P換算で45〜55mol%であれば、固形分濃度が高くても、より低粘度の無機質系水性組成物とすることができる。
【0021】
また、リン酸系ガラス(A)は、Zn成分を含有し、ZnOを20〜50mol%含有することが好ましく、35〜50mol%含有することがより好ましい。Zn成分は、上記リン酸成分の水酸基に作用し、(Pで構成される高分子鎖同士を結合させて、網目構造を形成するものと考えられる。このとき、遊離している水酸基を消費するので、リン酸系ガラスの親水性は低下する。そして、ZnOの含有量が20mol%未満であると、(Pで構成される高分子鎖間の架橋作用が乏しくなると考えられ、リン酸系ガラスの耐水性が損なわれる傾向にある。また、ZnOの含有量が50mol%を超えると、リン酸系ガラスを製造する際の熔融温度が高くなる傾向にある。更には、リン酸塩ガラス中の遊離した水酸基の数が低下し、水性組成物を得るための工程時間が長くなり、生産性を損なう場合がある。更にまた、得られる無機質系水性組成物の粘度が高くなる傾向にある。
【0022】
また、リン酸系ガラス(A)は、アルカリ金属成分を含有しない。Li、Na、K、Rb、Csのアルカリ金属類は、(Pで構成される高分子鎖間で架橋する作用がなく、リン酸系ガラスの耐水性を損なう成分であるので、アルカリ金属成分を含有しないことにより、耐水性を向上できる。
【0023】
また、リン酸系ガラス(A)は、更に、Sc成分、Ti成分、V成分、Cr成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Cu成分、Ni成分から選択される少なくとも1種を、酸化物換算で0.1〜10mol%含有することが好ましく、0.5〜5mol%含有することがより好ましい。
【0024】
上記金属成分は、(Pで構成される高分子鎖の水酸基と強く反応し、リン酸系ガラスの耐水性が向上する。また、上記金属成分は紫外線吸収能や赤外線散乱等の副次的効果を有しているので、本発明の無機質系水性組成物をバインダーやコーティング剤として基材の保護する際にも有用である。そして、上記金属成分の含有量が、酸化物換算で0.1mol%未満であると、添加効果がほとんど見られず、10mol%を超えると、リン酸系ガラスを製造する際の熔融温度が高くなる場合や結晶化しやすくなる場合がある。上記金属成分のうち、経済性の観点からTi成分、Fe成分、Cu成分、Ni成分を用いることがより好ましい。
【0025】
また、リン酸系ガラス(A)は、更に、多価金属硫酸塩を、硫酸塩換算で1〜15mol%含有することが好ましく、5〜15mol%含有することがより好ましく、8〜15mol%含有することが特に好ましい。ガラス組成において、構成する金属酸化物種の数が少ないと、結晶化し易く、ガラス化が困難になる場合がある。多価金属硫酸塩中のSO成分は、リン酸成分と比較して、高分子量化し難く、リン酸系ガラスにおいては、(P高分子構造を乱して、結晶化の抑制、あるいは熔融温度の低下の効果を有している。このため、多価金属硫酸塩を含有することで、より低温でのガラス化が可能となる。そして、多価金属硫酸塩の含有量が、硫酸塩換算で1mol%未満であると、添加効果が乏しく、15mol%を超えると、リン酸系ガラスの耐水性が損なわれる傾向にある。
【0026】
多価金属硫酸塩としては、特に制限はなく、ZnSO、CuSO、Fe(SO等が挙げられ、リン酸系ガラスの溶融前のスラリー作成時に容易に反応するという理由からZnSOが好ましい。
【0027】
また、リン酸系ガラス(A)は、更に、上述した金属成分以外の多価金属成分(その他多価金属成分)を含有してもよい。ただし、Mg、Ca、Ba、Sr等のアルカリ土類金属を使用すると、結晶化が生じ易くなる傾向にあり、ガラス化できない場合や、揮発性塩基組成物(B)との反応により水性組成物が得られない場合がある。その他多価金属成分の含有量は、5mol%以下が好ましく、1mol%以下がより好ましい。
【0028】
本発明の無機質系水性組成物に使用するリン酸系ガラス(A)は、Pを45〜55mol%、ZnOを20〜50mol%含有し、アルカリ金属成分を含まない組成からなるものが好ましい。上記組成からなるリン酸系ガラスは、無機質系水性組成物の流動性と、乾燥固化後の塗膜の耐水性を最適化できる。更には、リン酸系ガラスをガラス化する際において、熔融温度900〜1500℃の範囲で、均質なリン酸系ガラスを得ることができる。ガラス化時における熔融温度が900℃未満であると、未熔解物ができ、均質なリン酸系ガラスを得ることができないことがあり、1500℃を越えると、リン酸成分の揮発が生じやすくなり、所望する組成比のリン酸系ガラスが得られ難くなる。熔融温度は、900〜1300℃が好ましく、900〜1100℃がより好ましい。
【0029】
本発明の無機質系水性組成物に使用するリン酸系ガラス(A)は、例えば、以下のようにして製造できる。すなわち、リン酸成分、Zn成分などが所望する組成比になるよう、オルトリン酸、メタリン酸、あるいはポリリン酸等のリン酸類と、Znなどの金属種の酸化物、水酸化物、炭酸塩、必要に応じてさらにその硫酸塩を水媒体中で混合する。そして、この混合液を固−液反応にてリン酸塩を生成させる。そして、反応に使用した水を加熱除去した後、荒く粉砕し、坩堝、熔解炉、あるいは熔解釜に投入して、900〜1500℃(好ましくは900〜1300℃、より好ましくは900〜1100℃)の熔融温度にて、30分〜6時間熔解させる。熔融したガラスを空中で滴下、あるいは型に注入・キャスティングして、徐冷することで得られる。
【0030】
揮発性塩基化合物(B)は、リン酸系ガラス(A)の水酸基と中和塩を形成することで、リン酸系ガラス(A)の水和性を高め、容易に水性組成物を得ることが可能にする成分である。この揮発性塩基化合物(B)は、基材等に無機質系水性組成物を塗工して乾燥する際に、水分とともに揮発し易いので、被膜中に残存し難く、耐水性に優れた被膜を形成できる。
【0031】
揮発性塩基化合物(B)としては、アンモニア、アミン類が挙げられる。
アミン類としては、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、ジシソブチルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0032】
本発明において、揮発性塩基化合物(B)としては、アンモニアが好ましい。アンモニアであれば、無機質系水性組成物を加熱固化する際に揮散しやすいため、被膜中に極めて残存し難く、耐水性等に及ぼす影響が極めて少ない。一方、アミン類の場合、特に、高沸点のアミン類は被膜中に残存することがあるので、アミン類が有している有機部位が、例えば、耐熱用途あるいは紫外線に曝される用途では、固化物の物性に好ましくない影響を及ぼす可能性がある。アンモニアは、取扱性などの観点から、水溶液として用いることが好ましい。
【0033】
揮発性塩基化合物(B)は、無機質系水性組成物中に、リン酸系ガラス100質量部に対して100〜500質量部含有させることが好ましい。
【0034】
本発明の無機質系水性組成物は、不燃性、耐熱性、耐候性等の特性を損なわない範囲で、上記成分の他に必要に応じて、尿素、尿素誘導体(ヒダントイン等)等のリン酸系ガラス析出・沈殿防止剤、シリコーン類、ワックス類、重質オイル系エマルション等の撥水剤、着色剤、各種有機質樹脂の水溶液、エマルション等のその他成分を添加しても構わない。これらのその他成分の含有量は、無機質系水性組成物中に10質量%以下とすることが好ましく、7質量%以下がより好ましい。
【0035】
本発明の無機質系水性組成物は、リン酸系ガラス(A)を、0.5〜40質量%含有することが好ましく、5〜30質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、不燃性、耐熱性、耐候性等に優れた被膜を形成出来ないことがあり、40質量%を超えると、粘度が高くなり、塗工作業性が低下する傾向にある。また、例えば、無機質系水性組成物が無機質系繊維等に用いられるバインダーの場合は、0.5〜2質量%が好ましく、0.5〜1.5質量%がより好ましい。また、無機質系水性組成物が建材等に用いられるコーティング剤の場合は、10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0036】
本発明の無機質系水性組成物は、25℃、No1ロータ、20rpmの条件で測定した粘度が10〜50mPa・sであることが好ましく、10〜30mPa・sであることがより好ましい。粘度の増減は、リン酸系ガラスの含有量を調整することにより、容易に上記範囲に調整できる。
【0037】
[無機質系水性組成物の製造方法]
次に、本発明の無機質系水性組成物の製造方法について説明する。本発明の無機質系水性組成物の製造方法は、上記リン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合して製造することである。
【0038】
具体的には、以下の(1)、(2)の方法が挙げられる。
【0039】
(1)リン酸系ガラス(A)と、揮発性塩基化合物(B)を、同時かつ徐々に、水(C)に攪拌しながら添加してリン酸系ガラス(A)を溶解させる方法
(2)あらかじめ揮発性塩基化合物(B)を水(C)に溶解させ、その後、リン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)と水(C)との混合液中に攪拌しながら徐々に添加してリン酸系ガラス(A)を溶解させる方法
【0040】
上記方法のうち、調合後の無機質系水性組成物の均質性、乾燥後の造膜性等の観点から上記(2)の方法が好ましい。
【0041】
リン酸系ガラス(A)と水(C)だけを先に混合した場合、リン酸系ガラス(A)の表面で水和が生じ、リン酸系ガラス(A)の粒子同士が接着して、大きな塊となってしまい、リン酸系ガラス(A)の溶解に時間を要する場合がある。また、得られる無機質系水性組成物は、粘度が高くなる傾向にある。
【0042】
これに対し、リン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合することで、リン酸系ガラス(A)の溶解に要する時間を短縮でき、より低粘度の無機質系水性組成物を得ることができる。
【0043】
リン酸系ガラス(A)は、平均粒径1mm以下に粉砕して用いることが好ましく、100μm以下がより好ましい。これにより、リン酸系ガラス(A)の溶解に要する時間を短縮でき、更には、得られる無機質系水性組成物の粘度上昇を抑制できるので、より低粘度の無機質系水性組成物を効率よく製造できる。なお、本発明において、リン酸系ガラスの平均粒径は、レーザー式粒度分布計を用いたレーザー光回折法で測定した値を意味する。
【0044】
また、上述したその他成分を更に配合する場合には、リン酸系ガラス(A)を溶解させる際にその他成分を添加してもよく、リン酸系ガラス(A)を溶解させた後に、その他成分を添加してもよい。
【0045】
このようにして得られる本発明の無機質系水性組成物は、流動性があり、どのような形状の基材に対しても、容易に塗工でき、塗工作業性が良好である。また、乾燥固化後の固化物は、無機質系高分子鎖を有するガラスであるので、基材表面に、クラックや割れのない連続した被膜を容易に形成できる。
【0046】
そして、ガラス、カーボン、シリカ、アルミナ等の無機質系の繊維、粒子、多孔体のバインダーや、表面処理コーティング剤等として好ましく用いられ、この無機質系水性組成物で処理された成形品は、断熱吸音材、遮熱コーティング等の建築用途や、キャスタブル、高温炉等の各種産業用途に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0048】
下記表1に示す各組成比になるように、各原料を過剰量の水の中で混合撹拌して、固−液反応を生じさせた。この混合液は、撹拌終了後、反応による温度上昇が観察された。そして、この反応液を反応熱が低下するまで放置した。その後、反応液を200℃の乾燥機で2〜6時間放置して水分を十分に除去した。水分を除去して得られたゲル物を適当な大きさに粉砕して、白金坩堝に入れ、熔融炉にて900〜1500℃で2時間で熔融させてガラス化させてリン酸系ガラスを調製し、得られた各組成のリン酸系ガラスを平均粒子径50μmまで粉砕した。なお、例11の組成では、熔融温度を1500℃としてもガラス化の際に結晶化が生じてしまい、リン酸系ガラスを得ることが出来なかった。
次に、水100質量部を撹拌装置及び滴下装置の付いた溶解装置に入れ、上記リン酸系ガラスの粉砕物100質量部及びアンモニア水(25%)400質量部を攪拌しながら徐々に添加した。そして、添加したリン酸塩ガラスが完全に溶解するまで、撹拌を継続し、無機質系水性組成物を製造した。
【0049】
得られた無機質系水性組成物のリン酸系ガラスの溶解状況、粘度、造膜性を評価した。
リン酸系ガラスの溶解状況は、無機質系水性組成物を40℃で7日間放置した後、沈殿物の有無を目視で観察して評価した。沈殿物が無い場合を「○」とし、白色の沈殿物が生じていた場合を「×」とした。
無機質系水性組成物の粘度は、固形分が30%に調整した無機質系水性組成物を、BL型回転粘度計にて、25℃の温度下で、No.1ロータ、20rpmの条件で測定した。
無機質系水性組成物の造膜性は、無機質系水性組成物10gを磁性皿にて180℃、1時間の条件で乾燥させ、48時間放置してガラスの形成を確認した。透明かつ薄膜の被膜が形成されている場合を「○」とし、膜を形成しないもの、べた付きがあるもの、または水を滴下し、吸水するものを「×」とした。
各組成及び評価結果を表1にまとめて記す。
【0050】
【表1】

【0051】
上記結果より、リン酸成分及びZn成分を含み、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、アルカリ金属成分を含まないリン酸系ガラス(A)と、揮発性塩基化合物(B)と、水(C)とを含む、例1〜7の無機質系水性組成物は、クラック等の無い連続した膜を形成できた。また、形成された膜は、べたつき等が無く、耐水性が良好であり、造膜性に優れていた。また、リン酸系ガラスは、十分溶解しており、沈殿物等が生じにくく、貯蔵安定性に優れていた。なかでも、リン酸成分をP換算で45〜55mol%、ZnOを20〜50mol%含有するリン酸系ガラス(A)を用いた例1,3,4,5,7の無機質系水性組成物は、高固形分であるにもかかわらず低粘度であり、塗工作業性に特に優れていた。
【0052】
一方、リン酸成分の含有量がP換算で60mol%よりも多いリン酸系ガラスを用いた例8の無機質系水性組成物は、耐水性が悪く、形成された膜はべたつきがあり造膜性の劣るものであった。
また、リン酸成分の含有量がP換算で40mol%未満のリン酸系ガラスを用いた例9の無機質系水性組成物は、水溶化が困難であり、水性組成物を得ることができなかった。
また、アルカリ金属を含有するリン酸系ガラスを用いた例10の無機質系水性組成物は、耐水性が悪く、形成された膜はべたつきがあり造膜性の劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸成分及びZn成分を含み、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、アルカリ金属成分を含まないリン酸系ガラス(A)と、揮発性塩基化合物(B)と、水(C)とを含むことを特徴とする無機質系水性組成物。
【請求項2】
前記リン酸系ガラス(A)は、リン酸成分をP換算で45〜55mol%、ZnOを20〜50mol%含有する、請求項1に記載の無機質系水性組成物。
【請求項3】
前記リン酸系ガラス(A)は、Sc成分、Ti成分、V成分、Cr成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Cu成分、Ni成分から選択される少なくとも1種を、酸化物換算で0.1〜10mol%含有する、請求項1に記載の無機質系水性組成物。
【請求項4】
前記リン酸系ガラス(A)は、多価金属硫酸塩を、硫酸塩換算で1〜15mol%含有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の無機質系水性組成物。
【請求項5】
前記揮発性塩基化合物(B)がアンモニアである、請求項1〜4のいずれか一つに記載の無機質系水性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の無機質系水性組成物の製造方法であって、
リン酸成分とZn成分とを含み、リン酸成分をP換算で40〜60mol%含有し、アルカリ金属成分を含まないリン酸系ガラス(A)を、揮発性塩基化合物(B)の存在下で、水(C)と混合することを特徴とする無機質系水性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−51842(P2011−51842A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202574(P2009−202574)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的ノンフロン系断熱材技術開発プロジェクト」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】