説明

無機質系窯業建材用バックシーラーおよび無機質系窯業建材

【課題】防水性、耐ブロッキング性および防滑性に優れた無機質系窯業建材用バックシーラーを提供する。
【解決手段】エマルション樹脂、非晶質シリカ、および、ワックス水分散液を含むシーラーであって、上記エマルション樹脂は、第1のモノマー混合物と第2のモノマー混合物とを用いて、二段重合によって行われるものであり、前記第1のモノマー混合物が有するガラス転移温度よりも前記第2のモノマー混合物が有するガラス転移温度が20℃以上高いものであり、上記モノマー混合物は、その全量に対して、スチレン5〜70質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%を含み、ガラス転移温度が30〜105℃である無機質系窯業建材用バックシーラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質系窯業建材用バックシーラーおよび無機質系窯業建材に関する。
【背景技術】
【0002】
珪酸カルシウム板、パルプセメント板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、木片セメント板、ALC板等の無機材は、軽さ、断熱性および遮音性等に優れていることから、建築基材として広く用いられている。
【0003】
このような無機質系窯業建材は、製造後に屋外に曝されることにより、水が内部に浸透して劣化するおそれがある。そこで、一般的には、表面および裏面にシーラーまたはプライマーと呼ばれる下塗り塗装が施されている。さらに、表面には意匠性を付与するための上塗り塗装が施されている。
【0004】
最近の意匠性の要求に応じて、上塗り塗装は複数回行われることが多く、このため建材の表面に形成された塗膜の膜厚は、下塗り塗膜のみが形成された裏面側の膜厚よりも大きい。このため、表面および裏面の透水透湿度が異なることにより、基材の反りを生じる場合がある。このため、建材の裏面に塗布されるバックシーラーは、表面に塗布されるシーラーよりも高い防水性を求められている。
【0005】
一方、近年、環境への配慮から、シーラーについても溶剤系のものから水性のものへの移行が行われている。しかし、水性のシーラーは、水性化するために親水性が高いため、先に述べた防水性を得ることはさらに困難である。
【0006】
また、上記無機質系窯業建材は、輸送時や建材を積み上げて保管する際、重なった建材間でブロッキングが生じ、これを剥がすことが困難となる場合がある。バックシーラーには、このようなブロッキングを防止することも必要とされる。
【0007】
このため、例えば、樹脂水性液に、ワックス水分散液、アルキルアルコキシシラン化合物水分散液およびアルキルアルコキシシラン化合物縮合物水分散液から選ばれる少なくとも1種の水性撥水剤を配合した無機建材用水性塗料組成物が開示されている(特許文献1参照)。このものは、水性撥水剤(B)配合量の調整により、静止状態から滑り始めの静摩擦係数を高めることができるものの、動摩擦係数を高めることはできない。このため、連続的な振動が生じる輸送中に滑り始めると、摩擦抵抗が低下して荷崩れが発生するおそれがある。
【0008】
また、樹脂固形分に対して20重量%以上のコロイダルシリカを含有する固形分50重量%未満の樹脂エマルション(A)と、樹脂固形分に対して15重量%以下のコロイダルシリカを含有する固形分50〜70重量%の高濃度樹脂エマルション(B)とを混合してなる水性コーティング組成物が開示されている(特許文献2参照)。しかし、このコーティング組成物は、紙コーティング用に設計されているため、建材用として使用する場合に防水性が充分ではない。
【0009】
さらに、ガラス転移温度が−35〜20℃のアクリル系共重合体エマルション100重量%に対し、平均粒子径2〜20μmのシリカを5〜40重量%含有し、かつpHが4.0〜7.5である水性防滑コーティング材組成物が開示されている(特許文献3参照)。しかし、このコーティング組成物を建材向けに使用した場合、エマルションのガラス転移温度が低いため、耐ブロッキング性が充分ではない。
【特許文献1】特開2003−301139号公報
【特許文献2】特開平7−118573号公報
【特許文献3】特開2004−224816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、防水性、耐ブロッキング性および防滑性に優れた無機質系窯業建材用バックシーラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーは、エマルション樹脂、非晶質シリカ、および、ワックス水分散液を含むシーラーであって、上記エマルション樹脂は、ガラス転移温度が−70〜35℃である第1のモノマー混合物とガラス転移温度が25〜105℃である第2のモノマー混合物とを用いて、二段重合によって行われるものであり、前記第1のモノマー混合物が有するガラス転移温度よりも前記第2のモノマー混合物が有するガラス転移温度が20℃以上高いものであり、上記第1のモノマー混合物と第2のモノマー混合物とからなるモノマー混合物は、その全量に対して、スチレン5〜70質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%を含み、ガラス転移温度が30〜105℃である。ここで、上記第1のモノマー混合物と前記第2のモノマー混合物との質量比が2/8〜8/2の範囲であってよい。
【0012】
また、上記非晶質シリカは、吸油量が300ml/100g以下、平均粒子径が1〜20μm、粒径0.5μm以下の微粒子含有率が10容積%以下であって、その含有量が上記エマルション樹脂の固形分に対して0.5〜10質量%であってよい。
【0013】
さらに、上記ワックス水分散液に含まれるワックス成分は、融点が50〜150℃、平均粒子径が0.1〜20μmであって、その含有量が上記エマルション樹脂の固形分に対して0.5〜10質量%であってよい。
【0014】
本発明の無機質系窯業建材は先のシーラーが塗装されたものであり、その静摩擦係数が0.5〜2.0、動摩擦係数が0.3〜1.0である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーは、二段重合で製造されたエマルション樹脂、非晶質シリカ、および、ワックス水分散液を含んでおり、防水性、耐ブロッキング性および防滑性に優れている。これは、それぞれの成分についての特性を規定することにより得られたものと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーは、エマルション樹脂、非晶質シリカ、および、ワックス水分散液を含んでいる。
【0017】
上記エマルション樹脂は、モノマー混合物を乳化重合して得られるものであり、その製造には二段重合が用いられる。上記二段重合における、一段目の重合にはガラス転移温度が−70〜35℃である第1のモノマー混合物を、二段目の重合にはガラス転移温度が25〜105℃である第2のモノマー混合物をそれぞれ使用する。ここで、上記第1のモノマー混合物が有するガラス転移温度よりも上記第2のモノマー混合物が有するガラス転移温度は20℃以上高い関係にある。このような条件で二段重合を行うことで、通常、背反する性能である、造膜性と耐ブロッキング性との両立を図ることができる。また、上記第1のモノマー混合物と前記第2のモノマー混合物との質量比は、2/8〜8/2の範囲であることが好ましい。
【0018】
なお、本明細書中におけるガラス転移温度(Tg)は、下記トボルスキ(Tobolsky)の計算式より算出される値である。この式による計算値は、実測値とほぼ一致する値である。
【0019】
1/Tg=W/Tg+W/Tg・・・・・+W/Tg
(式中、Tgは共重合体のガラス転移温度(K)、Tg、Tg・・・、Tgはそれぞれ単量体1、2、・・・nのホモポリマーのガラス転移温度(K)、W、W、・・・、Wはそれぞれ単量体1、2、・・・nの質量分率を示す。)
【0020】
上記第1のモノマー混合物と第2のモノマー混合物とからなるモノマー混合物、すなわち、エマルション樹脂を製造するのに用いられるモノマー全量に対して、スチレンを5〜70質量%含んでいる。スチレンをモノマーとして使用することで、塗膜の疎水性を高め、防水性を向上させることができる。5質量%以下では上記効果が得られず、70質量%を超えると、塗膜のガラス転移温度が高くなりすぎて、造膜性が低下して塗膜欠陥の発生につながり、その結果、塗膜の防水性が低下するおそれがある。
【0021】
また、上記モノマー混合物は、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜10質量%含んでいる。アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを用いて共重合を行うことにより、得られたエマルション樹脂中で一部内部架橋が形成され、これにより吸水率を低下させることができ、その結果、塗膜の防水性が向上すると考えられる。
【0022】
上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、デセニルトリメトキシシラン、4−ビニルフェニルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリプトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0023】
上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーの量が0.1質量%未満だと、内部架橋の進行が期待できない。また、10質量%を超えると、内部架橋が過剰に進行するおそれがあり、その結果、造膜性が低下して塗膜欠陥の発生につながり、その結果、塗膜の防水性が低下するおそれがある。上記下限は0.5質量%であることが好ましく、上記上限は3.0質量%であることが好ましい。
【0024】
さらに、上記モノマー混合物は、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%を含んでいる。このモノマーの使用によりエマルション樹脂にカルボキシル基が導入され、これを中和することによって、水中での安定性を確保することができる。
【0025】
上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸等を
挙げることができる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0026】
上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーの量が、0.1質量%未満だと、エマルションの安定性が低下するおそれがある。また、5質量%を超えると、得られる塗膜の防水性が低下するおそれがある。上記上限は3重量%であることが好ましい。
【0027】
上記中和は、乳化重合の前後で行うことができる。中和剤としては、揮発性のアミン類を用いることが好ましい。揮発性アミン類は、塗膜形成時に大気中に揮散して、塗膜中の量を少なくすることができ、塗膜の防水性を高めることとなる。
【0028】
上記揮発性アミン類としては、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−n−プロピルアミン、ジメチル−n−プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、イソプロパノールアミン等を挙げることができる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0029】
また、上記二段重合においては、反応性乳化剤を使用することが好ましい。上記反応性乳化剤としては、ラジカル重合性不飽和基を有する界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、エレミノールJS−1、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、S−120、S−180A、S−180(花王社製)、アクアロンHS−10(第一工業製薬製)、アデカリアソープSE−10N、アデカリアソープSE−20N(旭電化社製)、ANTOX MS−60 (日本乳化剤社製)等を挙げることができる。なかでも、乳化重合において重合反応性の高いアクアロンHS−10やANTOX MS−60が特に好ましい。これらは、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
上記反応性乳化剤の量は、0.1〜5質量%が好ましい。0.1質量%未満であると、良好にエマルション重合が行えないおそれがある。5質量%を超えると、エマルション粒子表面の親水性が高くなり、塗膜の防水性が低下するおそれがある。
【0031】
上記モノマー混合物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の、その他のラジカル重合性モノマーを含むことができる。上記その他のラジカル重合性モノマーとして、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは2種類以上を併用してもよい。なお、(メタ)アクリレートとは、メタクリレートとアクリレートとの両方の意味を表す。
【0032】
上記モノマー混合物としてのガラス転移温度は30〜105℃であることが好ましい。30℃未満だと、ブロッキング性が不十分になる恐れがあり、105℃を超えると、造膜性が十分でなく、塗膜の防水性が低下するおそれがある。
【0033】
上記二段重合は、当業者によく知られた方法で行うことができる。反応開始剤としては、乳化重合に使用される水溶性開始剤を使用することができる。上記水溶性開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の無機過酸化物開始剤、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物開始剤、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のようなアゾ系開始剤等を挙げることができる。
【0034】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーに含まれる非晶質シリカは、珪酸ナトリウムと鉱酸(通常は硫酸)の中和反応によって得られるものである。上記中和反応を酸性pH領域で進行させて脱ナトリウムすることにより製造されるゲル法シリカと、上記中和反応をアルカリpH領域で進行させる沈降法シリカとがあるが、本発明では、沈降法シリカよりも二次粒子が硬いゲル法シリカを用いることが好ましい。また、上記非晶質シリカ粒子は、その表面がワックス、界面活性剤、無機塩類で処理されていてもよい。
【0035】
上記非晶質シリカ粒子は、その吸油量が300ml/100g以下であることが好ましい。この値を上回ると、後述するワックスが塗膜表面に配向しにくくなり、その結果、耐ブロッキング性や透水性が低下するおそれがある。また、上記非晶質シリカ粒子の平均粒子径は1〜20μmであり、かつ、粒径0.5μm以下の微粒子含有率が10容積%以下であることが好ましい。平均粒子径が1μm未満だと防滑性が充分でなく、20μmを超えると耐水性が低下するおそれがある。より好ましい下限は1μmであり、より好ましい上限は15μmである。一方、粒径0.5μm以下の微粒子の含有量が10容積%を超えると防滑性が低下して、これを補うためには配合量を多くすると、後述するように、耐水性が低下するおそれがある。
【0036】
上記非晶質シリカ粒子の含有量は、上記エマルション樹脂の固形分に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。0.5質量%未満では充分な防滑性が得られないおそれがあり、10質量%を超えると防水性が低下するおそれがある。
【0037】
また、本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーに含まれているワックス水分散液は、融点が50℃以上であるパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸ワックス、脂肪酸金属塩ワックス、石油樹脂ワックス、合成樹脂ワックス等のワックス成分の少なくとも1種を水に分散させたものである。上記ワックス成分は、融点が50〜150℃、平均粒子径が0.1〜20μmであることが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満だと、ワックス成分が凝集して、耐ブロッキング性が低下するおそれがある。20μmを超えると、防水性が低下するおそれがある。より好ましい上限は、15μmである。なお、本明細書における平均粒子径は、レーザー光散乱法粒度分布測定装置、または、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された50%累積平均粒子径を意味する。
【0038】
上記ワックス水分散液に含まれるワックス成分の含有量は、上記エマルション樹脂の固形分に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。0.5質量%未満だと、充分な耐ブロッキング性および防水性が得られないおそれがある。一方、10.0質量%を超えると、充分な防滑性が付与できないか、ワックス水分散液に含まれる、ワックス成分を水分散させるための乳化剤の量が過剰になるため、かえって防水性を低下させるおそれがある。
【0039】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーは、さらに上記以外の成分として、その他の顔料を含むことができる。上記その他の顔料を併用することで、優れた耐ブロッキング性および防水性を得ることができる。
【0040】
上記その他の顔料としては特に限定されないが、扁平な形状を有するものやそうでないものを挙げることができる。
上記扁平な形状を有する顔料としては、例えば、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウム等を挙げることができる。また、扁平な形状を有しない顔料としては、重質炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等の体質顔料、二酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄、カーボンブラック、黄鉛等の着色顔料やアゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機着色顔料を挙げることができる。これらは2種類以上を用いてもよい。
【0041】
上記その他の顔料を用いる場合、樹脂固形分に対して40質量%以下の量とすることが好ましい。40質量%を超えると防水性が低下するおそれがある。より好ましくは35質量%以下である。
【0042】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーは、上記各成分の所定量をディスパーなどのよく知られた混合手段を用いて混合することによって得られる。その樹脂固形分は、例えば、10〜50質量%に、また、顔料固形分(PWC)は0.5〜50質量%に、それぞれ設定することができる。
【0043】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーが塗布される無機質系窯業建材として、珪酸カルシウム板、パルプセメント板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、木片セメント板、ALC板等を挙げることができる。本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーが塗布される面には、インラインシーラーや含浸シーラーが塗装されていてもよい。
【0044】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーの塗布は、上記建材の裏面に対して、公知の塗装方法、例えば、エアースプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーター、シャワーアンドエアナイフ等を用いて行うことができる。塗装は、乾燥膜厚が10〜50μmの範囲で行われることが好ましい。10μm未満であると充分な防水性が得られないおそれがあり、50μmを超える場合は、乾燥不良が生じ、その結果、充分な耐ブロッキング性が得られないおそれがある。乾燥は、塗布した後、例えば、80〜150℃の雰囲気下で、2〜10分間の条件で行うことができる。
【0045】
本発明の無機質系窯業建材は、先のシーラーが無機質系窯業建材の裏面に塗装されたものであり、その静摩擦係数が0.5〜2.0、動摩擦係数が0.3〜1.0である。これらの範囲外であると、目的とする性能が得られないおそれがある。これらの値は、先に述べた無機質系窯業建材用バックシーラーに含まれる各成分量を適宜調整することによって制御することができる。
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下の記述において、特に断りのない限り、「%」は質量%を意味する。
【実施例】
【0047】
製造例1
反応容器に、脱イオン水50部およびアクアロンHS−10(第一工業製薬製、反応性乳化剤)0.5部を入れ、内容物温度を85℃とした。その中に、スチレン20部、メチルメタクリレート20部、ブチルメタクリレート20部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3部、メタクリル酸1.0部、脱イオン水20部、アクアロンHS−10 0.3部からなるプレ乳化液、水溶性重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1部と脱イオン水10部とからなる重合開始剤水溶液をそれぞれ2時間で滴下し、乳化重合を行った。また、乳化重合中、重合反応液のpHは3.0に保った。第1のモノマー混合物のガラス転移温度は11.3℃であった。
【0048】
次に、得られた乳化重合物に対して、スチレン5部、メチルメタクリレート20部、ブチルメタアクリレート部、アクリル酸1.0部、脱イオン水40部、および、アクアロンHS−10 1.0質量%からなるプレ乳化液と、過硫酸アンモニウム0.2部と脱イオン水10部とからなる重合開始剤水溶液を2時間で滴下した。第2のモノマー混合物のガラス転移温度は86.8℃であり、差は75.5℃であった。
さらに3時間攪拌を継続した後、反応温度を30℃まで冷却した。10%アンモニア水を5.5部添加することによりpHを8.5として、不揮発分45%のエマルション樹脂を得た。
【0049】
製造例2〜5
表1の配合に従い、製造例1と同様の手順により、エマルション樹脂を得た。製造例2および3が本発明に用いるエマルション樹脂であり、製造例4および5が比較用のエマルション樹脂である。なお、製造例4は二段重合ではなく、通常の乳化重合により製造した。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1
製造例1で得られたエマルション樹脂100部(固形分)に対し、GASIL HP395(イオネスシリカ社製、非晶質シリカ粒子、吸油量280ml/100g、平均粒子径14.5μm)5部、SNコート287(サンノプコ社製、ポリエチレンワックス水分散液、融点80℃、平均粒子径0.2μm)5部(固形分)をホモディスパーで混合することにより、無機質系窯業建材用バックシーラーを得た。
【0052】
実施例2〜6
表2に示された配合に従い、実施例1と同様にして、それぞれ無機質系窯業建材用バックシーラーを得た。
【0053】
比較例1〜5
表2に示された配合に従い、実施例1と同様にして、それぞれ比較用の無機質系窯業建材用バックシーラーを得た。
【0054】
<試験板の作成>
実施例1〜6、および、比較例1〜5で得られたバックシーラーを、基材比重1.1の珪酸カルシウム板に、スポンジロールコーターを用いて、塗布量が50g/mとなるように塗装し、100℃で5分間乾燥して試験板を得た。
【0055】
<耐ブロッキング性の評価>
上記試験板を10cm×10cmに切断したものを2枚作成し、各試験板の塗装面を向かい合わせ、50℃の雰囲気下で20kg/cmの荷重をかけて12時間静置したのち、2枚の試験板を剥がした際の状態を以下の基準により評価した。◎および○が合格である。
【0056】
◎ 粘着感がない
○ 粘着感はあるが、基材の破壊はない
△ 基材破壊面積5%未満
× 基材破壊面積5〜20%未満
×× 基材破壊面積20%以上
【0057】
<防滑性の評価>
防滑性の評価は静・動摩擦係数の測定により行った。具体的には、JIS K 7125に記載の静・動摩擦係数の測定方法に準じて、上記試験板を10cm×10cm、および、10cm×20cmに切断したものを2枚作成した。10cm×10cmの試験板の試験面と反対側の面に補強板を貼り付け、試験板と補強板、および、錘の合計重量が1kgになるように調整した。さらに、固定した10cm×20cmの板の塗装面と上記試験板の塗装面とを合わせ、上記、補強板を引っ張り、静・動摩擦係数をそれぞれ測定した。静摩擦係数については0.5〜2.0の範囲、動摩擦係数が0.3〜1.0の範囲のものが合格である。
【0058】
<防水性の評価>
防水性は透水性試験を行うことにより評価した。具体的には、バックシーラーを塗装した試験板に、φ75mmのロートを接着させ、JIS K 5400のロート法に準じて耐透水性を測定した。24時間後に減水量が500cc/m以下のものを合格とした。
【0059】
これらの評価結果について、表2にまとめた。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜6を塗布した珪酸カルシウム板は、いずれも防水性、耐ブロッキング性および防滑性に優れていた。これに対し、本発明で規定された成分を含まない場合には、上記評価項目をすべて満たすことはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の無機質系窯業建材用バックシーラーは、無機質系窯業建材に適用することにより、輸送および保管の際における品質劣化を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルション樹脂、非晶質シリカ、および、ワックス水分散液を含むシーラーであって、
前記エマルション樹脂は、ガラス転移温度が−70〜35℃である第1のモノマー混合物とガラス転移温度が25〜105℃である第2のモノマー混合物とを用いて、二段重合によって行われるものであり、前記第1のモノマー混合物が有するガラス転移温度よりも前記第2のモノマー混合物が有するガラス転移温度が20℃以上高いものであり、
前記第1のモノマー混合物と第2のモノマー混合物とからなるモノマー混合物は、その全量に対して、スチレン5〜70質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%を含み、ガラス転移温度が30〜105℃である、
無機質系窯業建材用バックシーラー。
【請求項2】
前記モノマー混合物における第1のモノマー混合物と前記第2のモノマー混合物との質量比が2/8〜8/2の範囲である、請求項1記載の無機質系窯業建材用バックシーラー。
【請求項3】
前記非晶質シリカは、吸油量が300ml/100g以下、平均粒子径が1〜20μm、粒径0.5μm以下の微粒子含有率が10容積%以下であって、その含有量が前記エマルション樹脂の固形分に対して0.5〜10質量%である、請求項1または2記載の無機質系窯業建材用バックシーラー。
【請求項4】
前記ワックス水分散液に含まれるワックス成分は、融点が50〜150℃、平均粒子径が0.1〜20μmであって、その含有量が前記エマルション樹脂の固形分に対して0.5〜10質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の無機質系窯業建材用バックシーラー。
【請求項5】
請求項1〜6に記載のシーラーが塗装された、静摩擦係数が0.5〜2.0、動摩擦係数が0.3〜1.0である無機質窯業建材。

【公開番号】特開2008−150401(P2008−150401A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336483(P2006−336483)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】