説明

無機過酸化物の製造法

【課題】従来量産が困難であった無機過酸化物の効率的な製造法を提供する。
【解決手段】カソード及びアノードによりアノード室、中間室、カソード室に区画され、該中間室はカチオン交換膜の隔膜により、該アノードと該隔膜の間に位置するアノード側中間室、及び該カソードと該隔膜の間に位置するカソード側中間室に区画された反応装置を用いて、アノード側中間室及びカソード側中間室にアルカリ電解液を導入し、アノードで電子を発生させて、カソードで酸素を還元することにより過酸化水素含有アルカリ水溶液を製造する工程と、過酸化水素含有アルカリ水溶液を濃縮及び/又は冷却して無機過酸化物結晶を析出させる工程を含むことを特徴とする無機過酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機過酸化物の製造法に関するものである。無機過酸化物は酸化剤や漂白剤として主に用いられる。
【背景技術】
【0002】
無機過酸化物は、主に、金属あるいは金属酸化物を酸素あるいは空気中で加熱して製造される(非特許文献1参照)。しかしながら、このような製造法は、高価なアルカリ金属を用いる、アルカリ金属は扱いに注意を要する、高温で熱することによる危険性がある、量産性や純度にも課題がある、といった問題がある。他の製法として、金属塩水溶液に過酸化水素を添加することにより、無機過酸化物を析出させる方法もあるが、この方法は主に無機過酸化物の水への溶解度の低い場合に適用されるものであり、無機過酸化物の溶解度が高い場合にはろ液中に残存する無機過酸化物が多く、量産性に問題がある。
【0003】
一方、燃料電池のシステムを利用して水素と酸素から過酸化水素を製造する方法(非特許文献2参照)が提案されている。これは、カチオン交換膜を隔膜とし、アノード側は白金黒を、カソード側は金メッシュもしくはグラファイトを触媒電極とし、アノード室に水素ガス、塩酸水溶液が導入されたカソード室に酸素ガスを吹き込むことによって過酸化水素を製造するものである。さらに、過酸化水素を高濃度で効率よく生成する方法として、アノードの内側とカソードの内側の間に形成された中間室、アノードの外側にあるアノード室、及びカソードの外側にあるカソード室を有する三槽構造からなり、さらにその中間室がアニオン交換膜によってカソード側中間室とアノード側中間室とに仕切られており、このカソード側中間室とアノード側中間室に電解質水溶液が導入されている装置を用いて、アノード室に水素、カソード室に酸素を供給して、カソード側中間室に過酸化水素等を発生させる方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、無機過酸化物を効率よく製造する手法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−236968号公報
【特許文献2】特開2005−76043号公報
【特許文献3】特開2005−281057号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「15308の化学商品」、化学工業日報社、2008年1月22日、p.32−33
【非特許文献2】Electrochimica Acta,Vol.35,No.2,319,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来量産が困難であった無機過酸化物の効率的な製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、無機過酸化物の製造について鋭意検討した結果、カソード電極上で酸素を還元する方法で過酸化水素/アルカリ化合物のモル当量比0.5の水溶液を効率的に製造し、この水溶液より無機過酸化物を析出させることにより、高純度の無機過酸化物を効率よく製造できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、(1)カソード及びアノードによりアノード室、中間室、カソード室に区画され、該中間室はカチオン交換膜の隔膜により、該アノードと該隔膜の間に位置するアノード側中間室、及び該カソードと該隔膜の間に位置するカソード側中間室に区画された反応装置を用いて、アノード側中間室及びカソード側中間室にアルカリ電解液を導入し、アノードで電子を発生させて、カソードで酸素を還元することにより過酸化水素含有アルカリ水溶液を製造する工程と、(2)前記工程(1)の過酸化水素含有アルカリ水溶液を濃縮及び/又は冷却して無機過酸化物結晶を析出させる工程を含むことを特徴とする無機過酸化物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造法により高純度の無機過酸化物を効率よく製造することができる。本発明により製造した無機過酸化物は、固体であるために取り扱いや輸送が容易であり、酸化剤や漂白剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で用いた反応装置の概略図。
【図2】実施例1で用いた集電板の概略図。
【図3】実施例2で用いた反応装置の概略図。
【図4】過酸化ナトリウム製造時の過酸化水素含有アルカリ水溶液における液温と過酸化水素限界濃度の関係。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明の無機過酸化物は、O2−と金属との塩であり、過酸化リチウム、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化カルシウム、過酸化ストロンチウム、過酸化バリウムなどが挙げられ、好ましくはこれらの一種以上を用いる。
【0011】
本発明では、カソード及びアノードによりアノード室、中間室、カソード室に区画され、該中間室はカチオン交換膜の隔膜により、該アノードと該隔膜の間に位置するアノード側中間室、及び該カソードと該隔膜の間に位置するカソード側中間室に区画され、アノード側中間室及びカソード側中間室にアルカリ電解液を導入した装置を用い、該反応装置のアノードで電子を発生させて、カソードで酸素を還元することにより、過酸化水素/アルカリ化合物のモル当量比0.5の過酸化水素とアルカリ化合物を効率的に製造することができる。
【0012】
本発明に用いるカソードには、酸素を還元して過酸化水素を生成する電極が用いられる。過酸化水素を生成する電極としては、炭素電極や金電極がよく用いられる。また、より高性能の電極触媒も種々検討されている。電極触媒としては、微粒子状の導電性炭素や、導電性炭素を酸化処理した導電性炭素酸化物を用いることができる。導電性炭素としては、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンファイバー、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレン、ケッチェンブラック等が挙げられ、これらの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、酸素の拡散と電子移動を効率よく行うためのガス拡散層としては、カーボンペーパーやカーボンクロスなどが挙げられ、それに電極触媒を密着させた電極が好ましく用いられる。
【0013】
カーボンペーパーやカーボンクロスなどには、電解液層とガス層を分離するため、撥水処理したものを用いることが好ましい。撥水処理により、電解液がガス層へ染み出すのを防止することができる。後工程でカーボンペーパーやカーボンクロスに電極触媒を担持するが、担持するものによっては、本撥水処理を行わなくても水溶液の染み出しは防げるが、カーボンペーパーやカーボンクロスのみでも水溶液の染み出しを防止できるものがより好ましい。
【0014】
撥水処理の方法は、例えばカーボンペーパーに撥水性の高分子を含浸させることによって行われる。撥水性の高分子としては、テフロン(登録商標)やナフィオン(登録商標)あるいはシリコン類が用いられる。これら微粒子の分散液あるいは溶液中にカーボンペーパーを浸し、乾燥後、加熱処理してカーボンペーパーに固着させる。加熱温度は、テフロン(登録商標)の場合350℃、ナフィオン(登録商標)の場合130℃が好ましい。
【0015】
カーボンペーパーに含浸させる高分子の量は、例えばテフロン(登録商標)の場合、カーボンペーパーに対して、好ましくは3〜100重量%、より好ましくは7〜50重量%である。少なすぎる場合には水溶液の染み出しがおこり、多すぎる場合にはガスの拡散に支障がある。また、この含浸量の調節は、例えば含浸させる分散液または溶液の濃度調節によって可能である。テフロン(登録商標)の場合、好ましい濃度は、3〜60重量%、より好ましくは5〜40重量%である。
【0016】
続いて、上記撥水処理したカーボンペーパーに電極触媒を担持する。担持法としては、通常用いられる含浸法、浸漬法、塗膜法、ゾルゲル法等が挙げられる。電極触媒が微粒子状である場合には、そのままではカーボンペーパーに固着できないものが多い。この場合、電極触媒に結着剤を分散させてから、カーボンペーパーに担持する方法が用いられる。
【0017】
結着剤としては、触媒を失活させないものとして、フッ素系樹脂あるいはシリコン類が好ましい。より撥水性を高めるものとしては、テフロン(登録商標)やシリコンが選ばれる。また、プロトン伝導性を高めるものとしては、ナフィオン(登録商標)が選ばれる。
【0018】
これら結着剤と電極触媒を溶媒に分散させて混合する。ここで用いる溶媒は、揮発性で反応性の乏しいものであればなんでも良く、混合溶液でも良い。このような溶媒として、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノールのようなアルコール類、アセトン、2−ブタノンのようなケトン類、ヘキサン、シクロヘキサンのような炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類等が挙げられる。これらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、溶媒の量は、後工程の担持法により任意に選ぶことができる。すなわち、含浸や浸漬担持の場合は、多めの量、塗膜の場合は少なめの量となる。
【0019】
上記、電極触媒と結着剤の分散溶液から、種々の方法でカーボンペーパーに担持できる。例えば、分散液をカーボンペーパー上でろ過する方法、分散液をカーボンペーパー上で乾燥する方法、分散液をカーボンペーパー上に吹き付ける方法、筆やバーコーター等で塗膜する方法等が挙げられる。カーボンペーパーに担持した電極触媒は、加熱することにより結着剤が溶融、融着し、より強固に担持される。この方法で作製した電極は、触媒と導電性炭素と結着剤とのみで作製した電極と比較し、強度の面で優れている他に、高価な触媒の使用量を減らすことが可能である。
【0020】
本発明に用いられるカソードの原料は酸素である。酸素の供給は、純酸素を用いた場合が最も反応速度が速くなるが、調達の容易な空気を用いることもできる。
【0021】
一方、アノードでは電子を発生する酸化反応が行われる。アノードの酸化反応が、酸素が過酸化水素に還元される電極電位より十分低い電位の場合、アノードとカソードを短絡結線すると、過酸化水素生成反応が起こる。また、アノードの酸化反応の電極電位が十分低くなくても、外部電圧を印加することによりアノードで酸化反応が起こり、カソードで過酸化水素生成反応が起こる。また、アノードとカソードを短絡結線するのみで反応する系においても、外部電圧の印加により反応速度が促進される。それぞれの装置の詳細については後述する。
【0022】
本発明に用いられるカチオン交換膜としては、金属カチオンあるいはプロトンを伝導し、過酸化水素が透過しにくい隔膜であればいずれでも良いが、過酸化水素のような酸化剤に対して耐久性のあるフッ素系の樹脂が好ましく用いられる。代表的な製品として、デュポン社のナフィオン(登録商標)が挙げられる。
【0023】
本発明に用いられるアルカリ電解液としては、目的とする無機過酸化物の金属元素を含有するアルカリ水溶液が用いられる。例えば、過酸化ナトリウムの製造には水酸化ナトリウム水溶液、過酸化カリウムの製造には水酸化カリウム水溶液を用いる。また、アノード側中間室の電解液にこれら金属の炭酸塩を用いることもできるが、通常、反応速度が遅くなる。
電解液はカチオン交換膜で区切られるが、アノード側中間室の電解液は高濃度が好ましい。高濃度であるほどイオン伝導度が大きいため、反応速度で優位である。また、カチオン交換膜を通る化学種は、反応量に応じた金属カチオンと水のみであるため、アノード液組成は生成液であるカチオン液組成にほとんど影響を与えない。ただし、それぞれの溶液で溶解度には限界がある。また、反応が進行するに従いアノード側中間室の電解液が薄くなるあるいは減少するため、反応を定常化するためには電解液を流通させ、一定濃度に調製した電解液を常時補充する必要がある。
【0024】
一方、カソード側中間室の電解液もアノード側中間室の電解液と同様に、目的とする無機過酸化物の金属元素を含有するアルカリ水溶液が用いられる。また、反応が進行するに従い、モル当量比で過酸化水素/アルカリ化合物=0.5の過酸化水素とアルカリ化合物、およびカチオン交換膜を透過する水が増加する。従って、反応液組成を定常的に一定にするためには、反応開始前のカソード側中間室のアルカリ電解液のモル当量比を過酸化水素/アルカリ化合物=0.40〜0.67、好ましくは0.45〜0.55、より好ましくは0.49〜0.51とすることが好ましい。0.5に近い程、カソード側中間室生成液の過酸化水素/アルカリ化合物のモル当量比が0.5に近くなり、後工程の無機過酸化物の結晶化の効率が良くなり、また電解液濃度の変化が少ないため濃度制御しやすい。これにより、カソード側中間室のアルカリ電解液は過酸化水素とアルカリ化合物のモル当量比0.40〜0.67を維持して濃度が増加する。ここで、アルカリ化合物とは、例えば、過酸化ナトリウムを製造する場合には水酸化ナトリウムであり、過酸化カリウムを製造する場合には水酸化カリウムである。
【0025】
また、アルカリ電解液中の過酸化水素濃度が増加すると、ある濃度から無機過酸化物が沈殿するため、任意の割合で水を添加し、過酸化水素濃度を一定に維持する必要がある。過酸化水素の限界濃度は、目的とする無機過酸化物の溶解度で決まり、それは電解液温度に依存する。図4に、過酸化ナトリウム製造時の過酸化水素含有アルカリ水溶液における液温と過酸化水素限界濃度の関係を例示する。図4によれば、液温20℃の場合、当系における過酸化水素の限界濃度は5%である。なお、液温60℃以上では過酸化水素の分解が多くなり、溶解度の計測ができなかった。
【0026】
本発明の、カソード及びアノードによりアノード室、中間室、カソード室に区画された反応装置において、該中間室の隔膜にカチオン交換膜を用い、該アノードと該隔膜の間に位置するアノード側中間室、及び該カソードと該隔膜の間に位置するカソード側中間室にアルカリ電解液を導入し、アノードで電子を発生させて、カソードで酸素を還元することにより過酸化水素含有アルカリ水溶液を製造する際に、アノードの酸化反応が、酸素が過酸化水素に還元される電極電位より十分低い電位の場合、アノードとカソードを短絡結線すると、過酸化水素生成反応が起こる(燃料電池システム)。また、アノードの酸化反応の電極電位が十分低い場合でなくても、外部電圧を印加することによりアノードで酸化反応が起こり、カソードで過酸化水素生成反応が起こる(外部電圧を印加)。また、アノードとカソードを短絡結線するのみで反応する系においても、外部電圧の印加により反応速度が促進される。
【0027】
対極に用いるアノードは、カソードとアノード間に外部電圧を印加する方法と燃料電池システムを利用する方法とで必要構造が異なる。外部電圧をかける方法の場合、アノードでは通常電解液の電気分解が行われ、電子が生じる。カソードとアノード間の電圧の印加は、例えば直流電源で両極に電圧を印加する方法や、ポテンショスタットとAg/AgCl等の参照電極を用いる方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。使用できるアノードとしては種々あるが、耐久性の点から白金電極や炭素電極が挙げられる。また、必要電圧を下げるために、酸素発生過電圧の低い電極も鋭意検討がなされている。
【0028】
燃料電池システムを利用する場合、アノードでは酸素が過酸化水素に還元される電極電位より低い電位で酸化反応を行う必要がある。アノードでの原料の酸化により、プロトンまたはカチオンと電子が生成する。このような反応が可能な原料としては、水素、メタノール、エタノール、ジメチルエーテルが挙げられる。ヒドラジン、ボロハイドライド類、アルミニウム等の卑金属類等でも可能であるが、通常過酸化水素より高価である。現状、実用的な原料としては水素またはメタノールが好ましい。
【0029】
例として、アノードでの水素の酸化反応を用いた場合のカソードおよびアノードの反応を示す。
O + HO + 2Na+ 2e → NaOOH + NaOH(E−0.08V)
+ 2OH→ 2HO + 2e(E−0.828V)
【0030】
ここで用いられるアノードの電極触媒としては、水素の場合は白金、メタノールの場合は白金・ルテニウムを含む単体あるいは合金が一般に用いられる。これらの触媒は、通常、炭素担体上に担持される。また、反応部である電解液側と原料部を隔離するのが好ましいため、カーボンペーパーの片面に触媒を塗布した電極が一般に用いられる。
【0031】
燃料電池システムにおいては、両極間電位差は反応速度に影響する大きな要因である。また、実際の反応においては、過電圧が発生するため標準電極電位の電位差より小さな電位差での反応になる。燃料電池システムで反応する系においても、アノードとカソードの間に外部電圧を印加することもでき、より大きな電位差を与えることにより反応速度が促進される。
上述のように、カソード及びアノードによりアノード室、中間室、カソード室に区画された反応装置において、該中間室の隔膜にカチオン交換膜を用い、該アノードと該隔膜の間に位置するアノード側中間室、及び該カソードと該隔膜の間に位置するカソード側中間室にアルカリ電解液を導入した装置を用い、カソード電極上で酸素を還元することにより過酸化水素アルカリ水溶液を製造する方法により、モル当量比で過酸化水素/アルカリ化合物=0.40〜0.67の過酸化水素含有アルカリ水溶液を効率よく製造することができる。
【0032】
本発明の過酸化水素含有アルカリ水溶液を濃縮及び/又は冷却することにより、目的の無機過酸化物結晶を析出させる。濃縮方法としては、加熱濃縮、減圧濃縮、通風濃縮などの従来公知の方法を用いて、過酸化水素含有アルカリ水溶液を濃縮し無機過酸化物結晶を析出させることができる。ただし、過酸化水素が分解しやすいため、特に加熱には注意を要し、液温60℃以下での操作が好ましい。また、冷却方法としては、従来公知の冷却浴、冷水塔、冷却槽等を用いて、過酸化水素含有アルカリ水溶液を無機過酸化物の析出温度以下に冷却することにより、結晶を得ることができる。前記濃縮と冷却はいずれかの操作のみを行っても良く、併用しても良い。過酸化水素含有アルカリ水溶液中に析出した無機過酸化物結晶は、従来公知のろ過方法を用いてろ別し、乾燥することによって採取することができる。さらに、無機過酸化物結晶をろ別した後のろ液は、そのまま、あるいは過酸化水素とアルカリ化合物の濃度を調製し、カソード側中間室の電解液として再利用できる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例をあげて本発明の方法を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1
(カーボンペーパーの撥水処理)
テフロン(登録商標)微粒子の分散液として、旭硝子社製PTFEディスパージョン(FluonPTFE−AD911)を用いた。このディスパージョンを純水で薄め、PTFE7重量%の分散液とした。この分散液に、3.3cm角の東レ社製カーボンペーパー(TGP−H−060)を浸漬した。これをゆっくり引き上げ、80℃で乾燥後、アルゴン気流下350℃に加熱し、撥水処理したカーボンペーパーを得た。カーボンペーパーの重量変化量から、テフロン(登録商標)がカーボンペーパーに対し、15重量%含浸していた。
【0035】
(アノードの作製)
丸底フラスコに50%白金/バルカン(エヌ・イーケムキャット社)0.5gを秤量し、フラスコ内をアルゴンガスで置換した。ここに、イソプロパノール2.0g、5重量%ナフィオン溶液1.0gを添加し、攪拌と超音波洗浄機による分散を2度行った。平板上に撥水処理したカーボンペーパーを置き、これに上記白金/バルカン分散液を滴下し、SUS製の棒で引き伸ばした。室温乾燥後、アルゴン気流下130℃で1時間加熱した。カーボンペーパーの重量変化量から、塗膜物の量は1.8mg/cm2であった。白金の量は、およそ0.83mg/cm2となる。
【0036】
(カソードの作製)
丸底フラスコにケッチェンブラック(ライオン社EC−600JD)0.1gを秤取し、フラスコ内をアルゴンガスで置換した。ここに、イソプロパノール2g、5%ナフィオン溶液1.0gを添加し、攪拌と超音波洗浄機による分散を2度行った。平板上に撥水処理したカーボンペーパーを置き、これに上記ケッチェンブラック分散液を入れ、カーボンペーパー上で室温乾燥後、アルゴン気流下130℃で1時間加熱した。カーボンペーパーの重量変化量から、塗膜物の量は1.8mg/cm2であった。
【0037】
(過酸化水素生成反応)
図1に示す反応セル(内径2.4cm)を用い、カソード室、集電板(図2参照。開口面積3.14cm、厚さ0.2mm)、カソード、カソード側中間室(厚さ5mm)、ナフィオン117膜(デュポン社)、アノード側中間室(厚さ5mm)、アノード、集電板(図2参照。開口面積3.14cm、厚さ0.2mm)、アノード室と積み重ね、外側から金具で押し付けた。なお、カソード室、カソード側中間室、アノード側中間室、アノード室はテフロン(登録商標)製、集電板はSUS板の金メッキである。
【0038】
続いて、カソード側中間室には、過酸化水素3.75%、水酸化ナトリウム8.80%の水溶液(過酸化水素/水酸化ナトリウムのモル比は0.5)10.1gをポンプで外部循環させた。また、アノード側中間室は2N水酸化ナトリウム水溶液を10.0g/時間の速度で流し続けた。次に、カソード室に酸素ガス、アノード室に水素ガスをそれぞれ20ml/分で流した。アノードとカソードとを無抵抗電流計(北斗電工社HM−104)を介して短絡したところ、334mAの電流値を観測した。60分間反応を継続したところ、カソード側中間室の電解液(液温20℃)の過酸化水素濃度が5.0%になったため、イオン交換水を添加し、過酸化水素濃度4.5%に下げた。以降、水の適宜添加により、過酸化水素濃度を4.5〜5.0%に維持し、反応を6時間継続した。なお、この時の電流値は266mAであった。カソード側の電解液を全て回収したところ、21.9gであった。生成液を過マンガン酸カリウムや2N塩酸で滴定したところ、過酸化水素濃度5%、水酸化ナトリウム11.3%の水溶液であった。
【0039】
(金属過酸化物の析出)
上記の生成液を、液温2℃に冷却したところ、白色の結晶が析出した。結晶を5Aのろ紙を用いてろ別し、室温で減圧乾燥したところ、白色結晶0.7gを得た。白色結晶の一部を水に溶解し、過マンガン酸カリウムおよび2N塩酸で滴定したところ、モル当量比で過酸化水素/水酸化ナトリウム=0.5の組成であることが確認できた。これは、過酸化ナトリウムが水で分解し、モル当量比が過酸化水素/水酸化ナトリウム=0.5の水溶液になったためであり、本願発明の方法により過酸化ナトリウムが生成されたことを意味する。
【0040】
実施例2
(過酸化水素生成反応)
図3に示す反応セルを用いた。すなわち、図1の装置と同様のセル構成で、両電極間に直流電源で電圧を印加した。カソードには実施例1と同様にケッチェンブラック塗布電極を用い、アノードには実施例1と同様に50%白金/バルカン塗布電極を用いた。また、電解液も実施例1と同様に、カソード側中間室には、過酸化水素3.75%、水酸化ナトリウム8.80%の水溶液(過酸化水素/水酸化ナトリウムのモル比は0.5)10.0gをポンプで外部循環、アノード側中間室は2N水酸化ナトリウム水溶液を10.0g/時間の速度で流し続けた。両極間に+1.4Vの電圧を印加したところ、平均245mAの電流値を観測した。75分間反応を継続したところ、カソード側中間室の電解液(液温20℃)の過酸化水素濃度が5.0%になったため、イオン交換水を添加し、過酸化水素濃度4.5%に下げた。以降、水の適宜添加により、過酸化水素濃度を4.5〜5.0%に維持し、反応を5時間継続した。カソード側の電解液を全て回収したところ、22.9gであった。生成液を過マンガン酸カリウムや2N塩酸で滴定したところ、過酸化水素濃度4.9%、水酸化ナトリウム11.5%の水溶液であった。
【0041】
(金属過酸化物の析出)
上記の生成液を、液温2℃に冷却したところ、白色の結晶が析出した。結晶を5Aのろ紙を用いてろ別し、室温で減圧乾燥したところ、白色結晶0.6gを得た。白色結晶の一部を水に溶解し、過マンガン酸カリウムおよび2N塩酸で滴定したところ、モル当量比で過酸化水素/水酸化ナトリウム=0.5の組成であることが確認できた。これは、過酸化ナトリウムが水で分解し、モル当量比が過酸化水素/水酸化ナトリウム=0.5の水溶液になったためであり、本願発明の方法により過酸化ナトリウムが生成されたことを意味する。
【符号の説明】
【0042】
1 アノード室
2A カソード側中間室
2B アノード側中間室
3 カソード室
4 アノード
5 カソード
6 水素の入口
7 酸素(空気)の入口
8 生成液の出口
9 導線
10 電流計
11 電解質水溶液の入口
12 イオン交換膜
13 電解質水溶液の出口
14 水素の出口
15 酸素(空気)の出口
16 集電板
17 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)カソード及びアノードによりアノード室、中間室、カソード室に区画され、該中間室はカチオン交換膜の隔膜により、該アノードと該隔膜の間に位置するアノード側中間室、及び該カソードと該隔膜の間に位置するカソード側中間室に区画された反応装置を用いて、アノード側中間室及びカソード側中間室にアルカリ電解液を導入し、アノードで電子を発生させて、カソードで酸素を還元することにより過酸化水素含有アルカリ水溶液を製造する工程と、
(2)前記工程(1)の過酸化水素含有アルカリ水溶液を濃縮及び/又は冷却して無機過酸化物結晶を析出させる工程を含むことを特徴とする無機過酸化物の製造方法。
【請求項2】
無機過酸化物が、過酸化リチウム、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化カルシウム、過酸化ストロンチウム及び過酸化バリウムから選ばれる一種以上であり、且つアルカリ電解液に該無機過酸化物の金属元素を含有するアルカリ水溶液を用いることを特徴とする、請求項1記載の無機過酸化物の製造方法。
【請求項3】
さらに、反応開始前のカソード側中間室のアルカリ電解液が、過酸化水素/アルカリ化合物のモル当量比として0.40から0.67の電解液であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無機過酸化物の製造方法。
【請求項4】
さらに、過酸化水素含有アルカリ水溶液中の無機過酸化物結晶をろ別後、ろ液をカソード側中間室の電解液に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機過酸化物の製造方法。
【請求項5】
アノードでの電子の発生を、(A)酸素が過酸化水素に還元される電極電位より低い電位でのアノードでの酸化反応、及び/又は(B)カソードとアノード間の外部電圧印加によるアノードでの酸化反応、のいずれかにより行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無機過酸化物の製造方法。
【請求項6】
アノードでの酸化反応に水素、メタノール、エタノール又はジメチルエーテルのいずれかを用いることを特徴とする請求項5記載の無機過酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−242159(P2010−242159A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91786(P2009−91786)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】