説明

無機酸化物分散液、その製造方法及び該分散液を用いた複合体

【課題】成形性に優れ、透明性と高い屈折率を有する樹脂複合体を提供するための無機酸化物分散液、その製造方法及び該分散液を用いた透明複合体を提供すること。
【解決手段】反応性基を有する表面修飾剤により表面が修飾された無機酸化物を含む無機酸化物分散液において、反応性基を有する表面修飾剤が、スチリル基、ビニル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するシランカップリング剤(1)であり、且つスチレンを含むことを特徴とする無機酸化物分散液の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性基を有する表面修飾剤により表面が修飾された無機酸化物を含む無機酸化物分散液、その製造方法、及び該無機酸化物分散液を樹脂中に分散し当該樹脂と反応してなる透明複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカ等の無機酸化物をフィラーとして樹脂と複合化することにより、樹脂の機械的特性等を向上させる試みがなされている。このフィラーと樹脂とを複合化する方法としては、無機酸化物を水又は有機溶媒中に分散させた分散液と樹脂とを混合する方法が一般的であり、分散液と樹脂を種々の方法により混合することにより、無機酸化物が複合化された無機酸化物複合化高分子材を作製することができる。
【0003】
一方、屈折率の高い高分子材は、半導体レーザの封止剤、液晶表示装置用基板、有機EL装置用基板、カラーフィルター用基板、光学レンズ、光学素子等に広く用いられ、屈折率を向上させるための無機酸化物フィラーとしては、酸化ジルコニウム、チタニア等の酸化物微粒子が利用されている。
【0004】
そこで、無機酸化物フィラーを樹脂と複合化するために、無機酸化物フィラーを水系溶媒や有機溶媒中に分散させた分散液が開発され、樹脂の屈折率の向上について検討されているが、従来の無機酸化物を樹脂と複合化しようとすると、この無機酸化物と樹脂が分離したり、分離しないまでも濁ったりする等の不具合が生じるため、目的とする透明性を有する複合体が得られない問題点があった。
【0005】
例えば、複合化の例として、特許文献1には、粒径10〜100nmの酸化ジルコニウム粒子と樹脂とを複合化した酸化ジルコニウム粒子複合化プラスチックを用いた高屈折率かつ高透明性の厚み数ミクロンの膜が提案されている。
また、特許文献2には、反応性官能基を有する表面修飾剤により表面が修飾され且つ分散粒径が1nm以上且つ20nm以下の無機酸化物を含有してなる無機酸化物透明分散液、及び無機酸化粒子を樹脂中に分散し、且つ当該樹脂と反応してなる透明複合体について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−161111号広報
【特許文献2】特開2007−217242号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の無機酸化物フィラーを用いた樹脂との複合体は、透明性や高い屈折率を有するものの、成形性に劣る問題点があった。
そこで、本発明の課題は、成形性に優れ、透明性と高い屈折率を有する樹脂複合体を提供するための無機酸化物分散液、その製造方法及び該分散液を用いた透明複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する無機酸化物分散液、その製造方法について鋭意検討を重ねた結果、反応性基を有する表面修飾剤により表面が修飾された無機酸化物を含む無機酸化物分散液において、反応性基を有する表面修飾剤が、スチリル基、ビニル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基(以下、(メタ)アクリルロイル基という)を有するシランカップリング剤(1)であり、且つスチレンを含むことを特徴とする無機酸化物分散液が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性や高い屈折率を有する光学部材として有用な透明複合体の製造に用いることができる無機酸化物分散液、その製造方法を提供することができ、さらに該分散液を用いた透明複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決する無機酸化物分散液、その製造方法について鋭意検討を重ねた結果、特定の反応性基を有する表面修飾剤により表面が修飾された無機酸化物を含む無機酸化物分散液において、該反応性基を有する表面修飾剤が、スチリル基、ビニル基、(メタ)アクリルロイル基を有するシランカップリング剤(1)であり、且つ且つスチレンを含むことを特徴とする無機酸化物分散液、その製造方法及び該分散液を用いた透明複合体に関する本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の無機酸化物分散液は、反応性基を有する表面修飾剤が、スチリル基、ビニル基、(メタ)アクリルロイル基を有するシランカップリング剤(1)であり、且つ且つスチレンを含むことに特徴を有する。
【0011】
以下、詳細に本発明を説明する。
本発明に用いられる無機酸化物は、特に限定されないが、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(Fe、FeO、Fe)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ニオブ(Nb)、酸化モリブデン(MoO)、酸化インジウム(In、InO)、酸化スズ(SnO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(WO、W)、酸化鉛(PbO、PbO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO、Ce)、酸化アンチモン(Sb、Sb)、酸化ゲルマニウム(GeO、GeO)、酸化ランタン(La)、酸化ルテニウム(RuO)等が挙げられる。また、これらの無機酸化物は、単独でも複数を複合して用いることもできるが、特に酸化ジルコニウムが好ましい。
これらの無機化酸化物粒子の平均粒径は、分散液中における分散性、透明複合体を作製した場合の透明性、屈折率等を鑑み、1〜100nmのものを好ましく用いることができ、特に10〜50nmであるものが好ましい。
【0012】
当該無機酸化物は、表面修飾剤により表面が修飾されており、用いられる表面修飾剤は、通常公知のシランカップリング剤を用いることができる。
このようなシランカップリング剤は、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基等の群から選択される基を有するものが好ましく、特に、スチリル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。
【0013】
本発明に用いられるシランカップリング剤は、上記スチリル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイル基を有するものの他に、アルキル基を有するシランカップリング剤、フェニル基を有するシランカップリング剤、又はその他の重合性基でない基を有するシランカップリング剤を併用してもよい。
アルキル基を有するシランカップリング剤におけるアルキル基は、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0014】
また、フェニル基を有するシランカップリング剤を併用してもよい。シランカップリング剤は、フェニル基を1個或いは複数個有してもよく、このようなフェニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が好ましい。
さらには、その他の重合性基でない基を有するシランカップリング剤も用いることができ、このようなシランカップリング剤としては、例えば、2―(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0015】
また、スチリル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤の使用量は、無機酸化物に対して、0.1〜40質量%の範囲であることが好ましい。0.1質量%より使用量が少ないと、無機酸化物の分散剤、溶剤又は樹脂中での分散が不十分となって、無機酸化物に凝集がおこり、透明性が失われるため好ましくなく、40質量%より多いと反応中にゲル化がおこり、成形性が悪くため好ましくない。
【0016】
このようなスチリル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリフェノキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリクロルシシラン、p−スチリルトリフェノキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリクロルシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリフェノキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリクロルシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリフェノキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリクロルシシラン、アリルトリフェノキシシラン等が挙げられる。
【0017】
また、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルエチルジエトキシシラン、ビニルエチルジクロルシラン、ビニルエチルジフェノキシシラン、p−スチリルエチルジメトキシシラン、p−スチリルエチルジエトキシシラン、p−スチリルトリエチルジクロルシシラン、p−スチリルエチルジフェノキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルエチルジクロルシラン、3−アクリロイルオキシプロピルエチルジフェノキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルエチルジクロルシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルエチルジフェノキシシラン、アリルエチルジメトキシシラン、アリルエチルジエトキシシラン、アリルエチルジクロルシシラン、アリルエチルジフェノキシシラン等も挙げられる。
【0018】
さらに、ビニルジエチルメトキシシラン、ビニルジエチルエトキシシラン、ビニルジエチルクロルシラン、ビニルジエチルフェノキシシラン、p−スチリルジエチルメトキシシラン、p−スチリルジエチルエトキシシラン、p−スチリルジエチルクロルシシラン、p−スチリルジエチルフェノキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジエチルクロルシラン、3−アクリロイルオキシプロピルジエチルフェノキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジエチルメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジエチルクロルシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジエチルフェノキシシラン、アリルジエチルメトキシシラン、アリルジエチルエトキシシラン、アリルジエチルクロルシシラン、アリルジエチルフェノキシシラン等も挙げられる。
【0019】
上記シランカップリング剤を用いて無機酸化物の表面を修飾する方法としては、湿式法、乾式法等が挙げられる。
湿式法とは、表面修飾剤と無機酸化物を溶媒に投入し混合することにより、無機酸化物の表面を修飾する方法であり、乾式法とは、表面修飾剤と乾燥した無機酸化物をミキサー等の乾式混合機に投入し混合することにより、無機酸化物の表面を修飾する方法である。本発明では、上記方法を適宜選択して行うことができる。
【0020】
本発明の無機酸化物分散液は、さらに分散剤及び溶剤を含んでもよい。
分散剤としては、無機酸化物と親和性を有する基を有する分散剤であれば、特に限定されないが、好ましい分散剤として、カルボン酸、硫酸、スルホン酸或いはリン酸等の酸基、又はそれらの酸基の塩を有するアニオン系の高分子量又は低分子量分散剤を挙げることができ、更に好ましくは、前記酸基を有してもよいリン酸エステル系分散剤を挙げることができる。使用される量は特に制限がないが、酸化ジルコニウムナノ粒子に対して、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜15質量%を挙げることができる。
溶剤は、トルエン、エチルベンゼン或いはキシレンが好ましい。本発明の溶剤は、スチレンを含むことに特徴を有し、トルエン、エチルベンゼン或いはキシレン等は含んでも含まなくてもよい。
【0021】
次に、本発明の無機酸化物分散液の製造方法について説明する。
本発明の無機酸化物分散液の製造方法は、
遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機を用い、且つ下記(A)〜(D)を湿式撹拌粉砕機に供給するに際し、少なくとも(D)を最後に供給することを特徴とし、さらに(D)前記シランカップリング剤(1)は、一時に全量を供給しないことに特徴を有する。
(A)無機酸化物
(B)分散剤
(C)溶剤
(D)前記シランカップリング剤(1)
【0022】
本発明に用いられる湿式撹拌粉砕機は、遠心分離によりメディアを分離する機構を備えることに特徴を有し、当該機構を有するものであれば、通常公知のものを制限なく使用することができる。このような粉砕機としては、例えば、ビーズミル(寿工業株式会社製、ウルトラアペックスミルUAM−015)等を挙げることができるが、本発明に使用される湿式撹拌粉砕機はこれに限らない。
【0023】
該ビーズミルを簡単に説明すると、当該機は、分散機であるビーズミルとビーズミルに原料スラリーを供給する原料スラリー供給ポンプ、原料スラリーを調整する原料スラリータンクから構成される。
【0024】
ビーズミルは、冷却用のジャケットを取付けたステータと、上部に遠心分離方式のビーズセパレータを有し、その下部にビーズを撹拌するためのローターピンを同軸上に有するローター、ローターを駆動するモータを含み構成される。ローターとステータとは軸封によりシールされ、機内が密閉化されている。原料スラリータンクは、撹拌機を備え、原料スラリー供給ポンプは、原料スラリー(分散液)を定量的にビーズミルへ供給する。ビーズミルに供給された原料スラリーは、ステータ内で撹拌粒子と衝突し、凝集した原料粉は分散される。ビーズセパレータにより撹拌粒子が分離された原料スラリーは、戻りラインを通じて原料スラリータンクへ戻る。原料スラリータンクは、冷却のためのジャケットを備える。
本発明に使用されるビーズミルは、ローター、ステータ及び遠心分離により攪拌粒子であるビーズを分離するビーズ分離機構を備えることに特徴を有する。
【0025】
本発明に使用されるメディアは、通常公知のビーズであれば特に制限はないが、好ましくは、ジルコニア、アルミナ、シリカ、ガラス、炭化珪素、窒化珪素等を例示できる。
ビーズの平均粒径としては、3〜50μmが好ましく、10〜30μmのビーズがより好ましい。粒子径が3μmより小さいと、原料粉に対する衝撃力が小さく、分散に時間を要する。一方、撹拌粒子の粒子径が50μmを超えると原料粉に対する衝撃力が大きくなりすぎ、分散された粒子の表面エネルギーが増大し、再凝集が発生しやすい。さらにビーズは、十分に研磨したものを使用することが望ましい。研磨不十分な撹拌粒子を使用すると、粒子の解粒、分散に与える影響は殆どないものの、分散液の光透過度を低下させるからである。
【0026】
本発明では、無機微粒子分散液の製造工程においては、(A)無機酸化物、(B)分散剤、(C)溶剤を混合して得られた混合物に(D)シランカップリング剤を供給するが、該シランカップリング剤を一括して全量を供給しないことに特徴を有する。また、前記(A)〜(C)を粉砕機に供給する順序に特に限定はない。
【0027】
本発明におけるシランカップリング剤の供給方法は、一括して所定の全量を供給しないことに特徴があるが、具体的には、少なくとも2回に分割して供給する方法と、全量の一部ずつを連続的に供給する方法とがある。
前者の少なくとも2回に分割して供給する方法では、所定の全量を2回以上に分割して供給すればよく、特に制限はないが、例えば、供給すべきシランカップリング剤の全量を5以上にほぼ等分した後、各等分量を分割して供給すればよい。
【0028】
また、後者の全量の一部ずつを連続的に供給する方法では、分散させる(A)無機酸化物が、供給時に凝集等により粒径が大きくならないように行うことが必要で、そのためには、分散が進行し、表面積が増大する工程中に連続的にシランカップリング剤を供給することが必要である。連続的に供給するには、供給するシランカップリング剤を滴下等の方法により、分散に必要な時間の少なくとも1/3の時間をかけて供給を行うことが好ましい。供給する(D)シランカップリング剤の使用量は前記した通りである。
【0029】
本発明の透明複合体の製造方法は、本発明の無機酸化物分散液と、モノマーとを混合し、得られた混合物を重合することを特徴とする。使用できるモノマーとしては、スチレン系モノマー、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリロイル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられるが、特に、スチレン系モノマーが好ましい。また、樹脂オリゴマーも存在していてもよく、スチレン系オリゴマーを好ましく用いられる。
【0030】
本発明の透明複合体は、表面修飾剤により表面が修飾された無機酸化物を樹脂中に分散してなる複合体である。また、得られた透明複合体を樹脂と混合して用いても良く、樹脂としては、可視光線或いは近赤外線等の所定の波長帯域の光に対して透明性を有する樹脂であればよく、熱可塑性、熱硬化性、可視光線や紫外線や赤外線等による光(電磁波)硬化性、電子線照射による電子線硬化性等の硬化性樹脂が好適に用いられる。
このような樹脂として、例えば、スチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリシクロヘキシルメタクリレート等のアクリレート樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアクリル酸エステル、ポリアミド、フェノール−ホルムアルデヒド(フェノール樹脂)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクレート・スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリ−4−メチルペンテン、ノルボルネン系ポリマー、ポリウレタン、エポキシ、シリコーン等が挙げられ、特に、スチレン樹脂が好ましい。
【0031】
また、上記樹脂に対しては、その特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、離型剤、カップリング剤、無機充填剤等を添加してもよい。
【0032】
本発明の透明複合体の可視光透過率は、無機酸化物の組成及び含有率により異なるが、無機酸化物の含有率を25質量%とした場合、光路長を1mmとしたときの可視光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは92%以上である。
【0033】
例えば、無機酸化物として酸化ジルコニウム粒子を用いた場合、光路長を1mmとしたときの可視光透過率は、酸化ジルコニウム粒子の含有率が1質量%では95%以上、酸化ジルコニウム粒子の含有率が40質量%では80%以上である。
この酸化ジルコニウム粒子の屈折率は2.15であるから、この酸化ジルコニウム粒子を樹脂中に分散させることにより、アクリル樹脂、シリコーン樹脂の屈折率1.4程度、エポキシ樹脂の屈折率1.5程度と比べて、樹脂の屈折率をそれ以上に向上させることが可能である。
また、この酸化ジルコニウム粒子は、靭性、硬度が高いので、複合体の機械的特性向上に適している。
【0034】
本発明の透明複合体は、次に挙げる方法により作製することができる。まず、上述した本発明の無機酸化物分散液と、モノマーまたはオリゴマーを混合する。次いで、この混合物を、ラジカル重合することによって透明複合体を得ることができる。
【0035】
重合方法としては、触媒として過酸化物の存在下で行なう塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合があげられる。次に得られた樹脂組成物を、射出成形、押し出し成形を行なうことで成形体を得ることができる。また、樹脂のモノマーやオリゴマーが、反応性を有する炭素二重結合(C=C)を有する場合、単に混合するだけでも、重合・樹脂化させることができる。代表的には、加熱または光照射により開始されるラジカル重合反応を用いたモールド成形法、トランスファー成形法等が挙げられる。このラジカル重合反応としては、熱による重合反応(熱重合)、紫外線等の光による重合反応(光重合)、ガンマ(γ)線による重合反応、或いは、これらの複数を組み合わせた方法等が挙げられる。また、過酸化物の存在下に反応することもできる。このような過酸化物としては、通常公知のパーブチルO、パーブチルZ等を挙げることができる。
【0036】
本発明における複合体中の無機酸化物の含有率は特に制限はないが、高い屈折率の複合体を得るために、1質量%〜80質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
酸化ジルコニウム粉体(第一稀元素化学工業(株)製、UEP100:一次粒径12nm)13.5g、リン酸エステル系分散剤(楠本化成(株)製、ディスパロンPW36)0.675g、トルエン270gを混合し、攪拌しながら超音波を10分照射して粗分散した。
得られた混合液を、遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機である寿工業(株)製ウルトラアペックスミルUAM−015を用いて分散処理した。メディアは平均粒子径が15μmの安定化ジルコニアビーズ(高周波熱錬(株)製)を400g用い、ビーズミルのベッセル容積中の充填率を65容積%とした。ビーズミルのローター周速は12m/sとした。
【0039】
スラリー供給ポンプの流量を調整し、循環流量を10L/時間とした。分散処理開始30分後から、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)0.56g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)2.82gを一定速度で原料スラリータンクに滴下した。分散処理開始から90分後に滴下及び分散処理を終了し、分散液を回収した。分散終了後、不揮発成分が40質量%となるようにトルエンで調整し、分散液(1)を得た。
【0040】
(実施例2)
用いるシランカップリング剤を、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1003)0.56g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)2.84gとし、シランカップリング剤の供給方法を表1に示した方法で行った以外は、実施例1と同様にして分散液(2)を得た。
(実施例3)
用いるシランカップリング剤を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−503)0.56g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)2.84gとした以外は、実施例1と同様にして、本実施例を実施し、分散液(3)を得た。
(実施例4)
用いるシランカップリング剤を、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)0.014g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)3.36gとした他は実施例1と同様にして分散液(4)を得た。
(実施例5)
用いるシランカップリング剤を、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)2.03g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)1.35gとした他はとした他は実施例1と同様にして分散液(5)を得た。
(実施例6)
用いるシランカップリング剤を、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)3.38g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)1.35gとした他は実施例1と同様にして分散液(6)を得た。
(実施例7)
用いるシランカップリング剤を、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)5.41g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)1.35gとした他は実施例1と同様にして分散液(6)を得た。
(実施例8)
用いるシランカップリング剤を、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)0.56g、ヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−3063)2.84gを用いた他は、実施例1と同様にして、本実施例を実施し、分散液(8)を得た。
【0041】
(比較例1)
用いるシランカップリング剤として、スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−1403)0.56gを用いた他は、実施例1と同様にして、分散液(9)を得た。
(比較例2)
用いるシランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)3.38gを用いた他は、実施例1と同様にして、分散液(10)を得た。
(比較例3)
用いるシランカップリング剤として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−503)8.10g及びフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−103)1.74gを用いた他は、実施例1と同様にして、分散液(11)を得た。
(比較例4)
リン酸エステル系分散剤を用いない他は、実施例1と同様にして、分散液(12)を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例9)
還流冷却器を付した200mL三つ口フラスコに、実施例1で得られた分散液(1)40g、スチレンモノマー7.84g、トルエン31.8gを加え、さらにパーブチルO(日本油脂株式会社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)を0.78g加え、窒素雰囲気下、85℃で8時間攪拌した。その後、パーブチルZ(日本油脂株式会社製、t−ブチルパーオキシベンゾエート)を0.008g加え2時間攪拌した。反応溶液を大量のメタノールに投入し、沈殿させ、沈殿を濾取した後、60℃で12時間乾燥して有機無機複合体(1)を得た。
【0044】
(実施例10)〜(実施例16)
分散液(1)の替わりに分散液(2)〜(8)を用いて、実施例9と同様にして、実施例10〜16を行い、有機無機複合体(2)〜(8)を得た。
【0045】
(比較例5)〜(比較例8)
分散液(1)の替わりに分散液(9)〜(12)を用いて、実施例9と同様にして、比較例5〜8を行い、有機無機複合体(9)〜(12)を得た。
【0046】
(試験例)複合体(1)〜(12)の評価
実施例1で合成した有機無機複合体を220℃で熱プレス成形し、厚さ200μmのシートを得た。得られたシートの全光線透過率測定とアッベ屈折率計による屈折率測定(25℃)を行なった。また、成形性についても評価を行った。
評価基準は以下の通りである。
【0047】
・透過率(%):80%以上 ○、80%未満 ×
・屈折率:1.65以上 ○、1.65未満 ×
・成形性:プレス可 ○、プレス不可 ×
【0048】
【表2】

【0049】
表中の「測定不能」は、成形性においてプレス可の場合(比較例5、6、8)は白濁のため透過性が不良であるためであり、成形性においてプレス不可の場合(比較例7)はシートの作製ができないためである。
【0050】
本評価の結果、本発明により得られる複合体は、高い透明性、屈折率及び透過性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、成形性に優れた透明光学部材を提供でき、該部材は高屈折率材料への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を有する表面修飾剤により表面が修飾された無機酸化物を含む無機酸化物分散液において、
反応性基を有する表面修飾剤が、スチリル基、ビニル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するシランカップリング剤(1)であり、且つスチレンを含むことを特徴とする無機酸化物分散液。
【請求項2】
無機酸化物が、酸化ジルコニウムである請求項1に記載の無機酸化物分散液。
【請求項3】
無機酸化物分散液が、更に分散剤及び溶剤を含むものである請求項1又は2に記載の無機酸化物分散液。
【請求項4】
前記分散剤が、リン酸エステル系界面活性剤である請求項3に記載の無機酸化物分散液。
【請求項5】
前記溶剤が、トルエン、エチルベンゼン又はキシレンである請求項3に記載の無機酸化物分散液。
【請求項6】
前記シランカップリング剤(1)の質量比が無機酸化物に対して0.1〜40質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の無機酸化物分散液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の無機酸化物分散液に含まれるスチレンが重合することにより得られる透明複合体。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれかに記載の無機酸化物分散液の製造方法であって、
遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機を用い、且つ下記(A)〜(D)を湿式撹拌粉砕機に供給するに際し、少なくとも(D)を最後に供給することを特徴とする無機酸化物分散液の製造方法。
(A)無機酸化物
(B)分散剤
(C)溶剤
(D)前記シランカップリング剤(1)
但し、(D)前記シランカップリング剤(1)は、一時に全量を供給しないものとする。
【請求項9】
(D)前記シランカップリング剤(1)を、少なくとも2回に分割して全量を供給する請求項8に記載の無機酸化物分散液の製造方法。
【請求項10】
(D)前記シランカップリング剤(1)を、連続的に一部ずつを供給することにより全量を供給する請求項8に記載の無機酸化物分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の無機酸化物分散液の製造方法において、
無機酸化物分散液の製造に必要な分散時間の1/3以上の時間をかけて(D)前記シランカップリング剤(1)の全量を供給する無機酸化物分散液の製造方法。
【請求項12】
メディアの平均粒径が、10〜30μmである請求項8〜11のいずれかに記載の無機酸化物分散液の製造方法。

【公開番号】特開2010−195967(P2010−195967A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43900(P2009−43900)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】