説明

無機酸化物分散用ビニル重合体、およびそれを含んでなる導電性無機酸化物分散体

【課題】透明性、導電性、及び、可撓性に優れ、しかもプラスチック基材に塗布成膜することが可能な導電性無機酸化物分散体の製造に好適な無機酸化物分散用ビニル重合体、およびそれを用いてなる導電性無機酸化物分散体を提供すること。
【解決手段】分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)の存在下に、エチレン性不飽和単量体(b)をラジカル重合して成ることを特徴とする片末端領域に水酸基を有する無機酸化物分散用ビニル重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物分散用ビニル重合体、およびそれを含んでなる導電性無機酸化物分散体に関するものであり、その導電性無機酸化物分散体は、塗膜の均一性が非常に高く、さらには導電性の高い膜を形成することが出来る。これらの特徴を利用し、前記塗膜は、タッチパネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル、無機エレクトロルミネッセンスパネル、液晶パネル等の透明電極として好適に使用することが出来る。
【背景技術】
【0002】
透明電極材料として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の無機酸化物材料を中心に開発が行われてきた。中でも、酸化インジウムと酸化スズの混合焼成体であるITO(スズドープ酸化インジウム)が、その導電性の高さ等の理由により、一般的に使用されている。
【0003】
また、近年では、太陽電池や有機エレクトロルミネッセンス素子向けに、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)やIZO(酸化インジウム、酸化亜鉛混合焼成体)などが開発されている。
【0004】
これら、無機酸化物を中心とした透明電極は、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ、イオンプレーティング法等の乾式成膜法を用いて成膜が行われる。高温成膜や高温焼成などの過程が必要となることから、主にガラスが基材として利用されている。
【0005】
ガラスを基材として用いた場合、折り曲げることが出来ない、割れる、重いなどという点が、モバイル用途を想定した場合に問題点となる。
【0006】
一方、近年「プリンタブルエレクトロニクス」といわれる領域の技術開発が積極的に行われている。これまでの高価な設備や、複雑な工程を駆使して生産されてきた高価な電子部品を、プロセス廃棄物が少なく、材料の利用効率が高く低コストで環境にやさしい印刷法を用いて製造するというものである。これにより、ローコスト・ハイスループットで電子部品を生産することが可能になるといわれている。さらには、低温プロセスを利用することができることから、基材にプラスチックフィルムを用いることが出来る。これにより、フレキシブルな導電膜が作成できる。しかしながら、電子部品の信頼性や性能が犠牲になるといった問題も抱えている。
【0007】
印刷法による、無機酸化物からなる導電膜は、分散媒体中に無機酸化物を分散し、ガラス板やプラスチック板(プラスチックフィルム)等の基板に塗工されることにより形成され、導電性や静電防止機能の付与等を目的として使用される。
【0008】
近年、導電性被膜の平滑性や透明性向上の点から、より粒径の小さな無機酸化物が使用されるようになり、安定な分散体を得ることが困難となっている。安定な分散体を得るために分散剤を増量すると、導電性が低下するという問題を有する。このため、少量の分散剤により安定な分散体が得られ、その分散体から透明性と導電性の高い塗膜が得られることが望まれている。
【0009】
従来、無機酸化物を分散させる分散剤がいろいろ提案されている。
例えば、無機酸化物を分散させる分散剤として、ノニオン系表面処理剤が提案されているが、塗膜強度や密着性が不十分である。それを改善するためにはバインダー樹脂を多量に添加する必要があり、その結果導電性が低下してしまうという問題を有している(特許文献1)。
また分散剤として、カルボキシ基末端ポリラクトン化合物を使用する技術が提案されている(特許文献2)。分散性は良好な分散剤であるが、導電性が十分でないという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−144849号公報
【特許文献2】WO2007/114151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、透明性、導電性、及び、可撓性に優れ、しかもプラスチック基材に塗布成膜することが可能な導電性無機酸化物分散体の製造に好適な無機酸化物分散用ビニル重合体、およびそれを用いてなる導電性無機酸化物分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)の存在下に、エチレン性不飽和単量体(b)をラジカル重合して成ることを特徴とする片末端領域に水酸基を有する無機酸化物分散用ビニル重合体に関する。
【0013】
また、本発明は、重量平均分子量が、1000〜20000である上記無機酸化物分散用ビニル重合体に関する。
【0014】
また、本発明は、分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)が、1−チオグリセロールまたはジメルカプトペンタエリスリトールであることを特徴とする上記無機酸化物分散用ビニル重合体に関する。
【0015】
また、本発明は、上記無機酸化物分散用ビニル重合体と、無機酸化物(P)とを含有する導電性無機酸化物分散体に関する。
【0016】
また、本発明は、無機酸化物(P)が、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、リン含有酸化スズ(PTO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム含有酸化亜鉛(GZO)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする上記導電性無機酸化物分散体に関する。
【0017】
さらに、本発明は、上記導電性無機酸化物分散体から形成される導電膜に関する。
【0018】
さらにまた、本発明は、基材と上記導電膜とを有することを特徴とする導電性積層体に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、透明性、導電性、及び、可撓性に優れ、しかもプラスチック基材に塗布成膜することが可能な導電性無機酸化物分散体の製造に好適な無機酸化物分散用ビニル重合体、およびそれを用いてなる導電性無機酸化物分散体を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般に、無機酸化物に対して用いられる分散剤は無機酸化物に吸着する部位(無機酸化物吸着部)と、分散媒である溶剤に親和性の高い部位(溶媒親和部)との構造を持ち合わせ、この2つの部位のバランスで分散剤の性能が決まる。つまり、分散性を発現させるためには、分散剤の無機酸化物に吸着する性能と分散媒である溶剤への親和性がともに非常に重要である。本発明では無機酸化物吸着部に水酸基を、溶媒親和部にエチレン性不飽和単量体をラジカル重合して生成されるビニル重合体を用いている。
【0021】
まず、本発明の無機酸化物分散用ビニル重合体について説明する。
本発明に使用する分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)は、エチレン性不飽和単量体(b)をラジカル重合する際に連鎖移動剤として機能し、生成するビニル重合体の片末端領域(一方の末端領域)に水酸基を導入する事ができる。末端領域は、例えば、炭素原子数1〜10(好ましくは炭素原子数1〜8)の直鎖状若しくは分枝状の脂肪族炭化水素基である。この片末端領域に2つ以上の水酸基が含まれる場合は、同一の炭素原子に結合していても、別異の炭素原子に結合していてもよい。
【0022】
このように、片末端領域に導入された水酸基を無機酸化物吸着部とし、更にエチレン性不飽和単量体(b)をラジカル重合することで生成するビニル重合体部分を溶媒親和部とすることで、本発明の無機酸化物分散用ビニル重合体は、無機酸化物に対する優れた分散剤として機能する。
【0023】
本発明に使用する分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)としては、例えば、
メルカプトメタノール、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、1−メルカプト−2−ブタノール、2−メルカプト−3−ブタノール、トリメルカプトペンタエリスリトール等の1つの水酸基を有するチオール化合物類;
1−メルカプト−1,1−メタンジオール、1−メルカプト−1,1−エタンジオール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(別名:1−チオグリセロール)、2−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプト−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプト−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1−メルカプト−2,2−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4‐ジメルカプト‐2,3‐ブタンジオール、ジメルカプトペンタエリスリトール等の2つの水酸基を有するチオール化合物類;
メルカプトペンタエリスリトール、4−チオ−D−ガラクトース等の3つ以上の水酸基を有するチオール化合物類が挙げられ、無機酸化物への吸着能の観点から、水酸基を複数有する化合物が好ましく、特に1−チオグリセロール、及びジメルカプトペンタエリスリトールが好ましい。
【0024】
本発明に使用するエチレン性不飽和単量体(b)としては、
例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロぺンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロ−(5,2,1,0,2.6)−デカニル(メタ)アクリレート、トリシクロ−(5,2,1,0,2.6)−デカニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート類;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ロジンアクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、p−ヒドロキシフェニルエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジエーテル、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3−エチル−3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、4−メチル−4,5−エポキシペンチル(メタ)アクリレート、5−メチル−5,6−エポキシヘキシル(メタ)アクリレート、α−エチルアクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、クロトニルグリシジルエール、(イソ)クロトン酸グリシジルエーテル、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、N−(3,5−ジメチル−4−グリシジル)ベンジルアクリルアミド、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、2,3−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,4−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,5−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,6−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,3,4−トリグリシジルオキシメチルスチレン、2,3,5−トリグリシジルオキシメチルスチレン、2,3,6−トリグリシジルオキシメチルスチレン、3,4,5−トリグリシジルオキシメチルスチレン、2,4,6−トリグリシジルオキシメチルスチレン等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート類;
オキセタン(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、(2−エチル−2−メチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(メタ)アクリレート、1,4−ジオキサスピロ[4,5]デカ−2−イル)メチル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、3−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、5−メタクリロイルオキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトン、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン、2−(1−メタクリロイルオキシ)エチル−4−ブタノリド、N−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等の複素環式(メタ)アクリレート類;
メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、イソブチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等の非置換もしくはN置換型(メタ)アクリルアミド類;
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;
片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレートオリゴマー、片末端メタクリロイル化ポリスチレンオリゴマー、および片末端メタクリロイル化ポリエチレングリコール等の重合性オリゴマー等が挙げられる。
【0025】
さらに、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、インデン等のスチレン類;
エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類;
N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN置換マレイミド類が挙げられる。
これらのエチレン性不飽和単量体は、単独で、もしくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の、片末端領域に水酸基を有する無機酸化物分散用ビニル重合体の重量平均分子量は、1000〜20000が好ましく、より好ましくは2000〜15000、更に好ましくは2000〜10000、特に好ましくは3000〜8000である。重量平均分子量が1000未満では、溶媒親和部による立体反発の効果が少なくなるとともに、顔料の凝集を防ぐことが困難となり、分散安定性が不十分となる場合がある。また20000を超えると、溶媒親和部の絶対量が増えてしまい、分散性の効果自体が低下する場合がある。更に、分散体の粘度が高くなる場合がある。本発明の無機酸化物分散用ビニル重合体は、分子量を上記範囲に調整することが容易であり、かつ、溶剤への親和性も良好である。
なお、本発明における重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による、ポリスチレン換算の値である。
【0027】
分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)を、目的とするビニル重合体の分子量にあわせて、エチレン性不飽和単量体(b)と、任意に重合開始剤とを混合して加熱することで片末端領域に水酸基を有するビニル重合体を得ることができる。
分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)は、エチレン性不飽和単量体(b)100重量部に対して、1〜30重量部を用い、塊状重合又は溶液重合を行うのが好ましく、より好ましくは3〜12重量部、更に好ましくは4〜12重量部、特に好ましくは5〜9重量部である。反応温度は40〜150℃、好ましくは50〜110℃である。
【0028】
重合の際、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、任意に0.001〜5重量部の重合開始剤を使用することができる。
重合開始剤としては、アゾ系化合物及び有機過酸化物を用いることができる。
アゾ系化合物の例としては、
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
有機過酸化物の例としては、
過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等があげられる。これらの重合開始剤は、単独で、もしくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
溶液重合の場合には、重合溶媒として、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン等が用いられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いても良い。反応に使用した溶媒は、反応終了後、蒸留等の操作により取り除くか、あるいはそのまま製品の一部として使用することもできる。
【0030】
次に、本発明に使用する無機酸化物(P)について説明する。
無機酸化物としては、公知のものが制限なく使用できるが、例えば、金属、非金属、亜金属の酸化物であり、具体例としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化カドミウム、酸化銀、酸化金、酸化クロム、珪素酸化物、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化白金、酸化パラジウム、酸化ビスマス、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化バリウム等が挙げられる。
導電性の観点から、より好ましくは、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズや、ドープ剤を固溶することにより導電性を向上した無機酸化物であるアンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、リン含有酸化スズ(PTO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、またはガリウム含有酸化亜鉛(GZO)などが挙げられる。
【0031】
このような無機酸化物の形状は、例えば、球状粒子、針状粒子、葉状粒子等のいかなるものであってもよいが、針状粒子であることが好ましく、特に球状粒子と針状粒子とを混合して用いることが好ましい。球状粒子と針状粒子とを混合することで、無機酸化物同士の接触を増加させることができ、導電性を向上させる効果がある。球状粒子と針状粒子との混合比率(重量比)は、球状粒子/針状粒子=10/90〜90/10であることが好ましい。
【0032】
また粒子径の異なる球状粒子同士を混合することも好ましい様態の一つである。無機酸化物の充填密度を増加させることができ、導電性を向上させる効果がある。
この場合、平均粒径30〜2000nmの粒子と平均粒径2〜200nmの粒子との混合であるのが好ましく、平均粒径30〜500nmの粒子と平均粒径5〜100nmの粒子との混合がより好ましい。一方の無機酸化物の平均粒径が大きすぎると、無機酸化物同士の空隙が大きくなり、その結果、十分な導電性が得られなかったり、膜の強度、密着性、および膜特性が低下することがある。一方の無機酸化物の平均粒径が小さすぎると、導電性粒子の表面積の増大に伴う経時的な膜特性の変化が顕著になることがある。
【0033】
本発明の無機酸化物分散用ビニル重合体を用いた導電性無機酸化物分散体は、必要により各種溶剤、樹脂、添加剤等を混合して、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で無機酸化物(P)を分散することにより、得ることができる。
無機酸化物(P)、無機酸化物分散用ビニル重合体、その他の樹脂、添加剤は、すべての成分を混合してから分散してもよいが、初めに無機酸化物(P)と無機酸化物分散用ビニル重合体とのみ、あるいは、無機酸化物(P)と、無機酸化物分散用ビニル重合体と、その他の樹脂のみを分散し、次いで、他の成分を添加して再度分散を行ってもよい。
【0034】
また、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散を行う前に、ニーダー、3本ロールミル等の練肉混合機を使用した前分散、2本ロールミル等による固形分散、又は無機酸化物(P)の表面処理を行ってもよい。又はハイスピードミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ロールミル、石臼式ミル、超音波分散機等のあらゆる分散機や混合機が無機酸化物分散体を製造するために利用できる。前記の無機酸化物分散体に用いることができる各種溶剤としては、有機溶剤、水等が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化型組成物として用いる場合、活性エネルギー線硬化性の液状モノマーや液状オリゴマーを溶剤代わりの媒体として用いてもよい。
【0035】
また、本発明の導電性無機酸化物分散体に用いることができる樹脂の例としては、石油樹脂、カゼイン、セラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、酸化ゴム、塩酸ゴム、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル酸性基含有ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、乾性油、合成乾性油、スチレン変性マレイン酸、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。また、本発明の無機酸化物分散用ビニル重合体を導電性無機酸化物分散体のバインダー樹脂として使用することもできる。
【0036】
次に、調製した導電性無機酸化物分散体を用いて導電膜を形成する方法について説明する。導電膜の形成には、主に湿式成膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、又はバーコート法等各種の手段を用いた方法がある。それらの方法は、塗布する厚み、粘度等に応じて適宜利用できる。
【0037】
また、本発明の導電性無機酸化物分散体を成膜する際の基材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、若しくはセルローストリアセテートなどのプラスチックフィルム、又は、ガラスなどを用いることができる。
基材上に、本発明の導電性無機酸化物分散体を用いて導電膜を形成することにより、導電性積層体を得ることができる。
【0038】
一般に、これら基材と導電膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、易接着処理などを挙げることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、「部」とあるのは「重量部」を、「%」とあるのは「重量%」をそれぞれ意味するものとする。また、表1中の「Mw」とは、重量平均分子量を表す。
【0040】
ビニル重合体(A)の製造
[実施例1]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルメタクリレート200部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、メルカプトエタノール12部を添加して、12時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認し、反応を終了した。メチルエチルケトンを用いて固形分を50%に希釈することにより、重量平均分子量4000のビニル重合体溶液(1)を得た。
【0041】
[実施例2]
表1に示す組成で合成した以外は、合成例1と同様にして、固形分50%のビニル重合体溶液(2)を得た。
【0042】
[実施例3]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、nーブチルメタクリレート150部、ベンジルメタクリレート30部、およびブチルアクリレート20部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、トリメルカプトペンタエリスリトール12部および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を添加して、10時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認し、反応を終了した。メチルエチルケトンを用いて固形分を50%に希釈することにより、重量平均分子量4400のビニル重合体溶液(3)を得た。
【0043】
[実施例4および5]
表1に示す組成で合成した以外は、合成例3と同様にして固形分50%のビニル重合体溶液(4)および(5)を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
[合成例1]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、12−ヒドロキシステアリン酸315部、ε―カプロラクトン685部、およびジブチル錫ジラウレート3gを仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を180℃に加熱して、5時間反応した。固形分測定により95%以上が反応したことを確認し、反応を終了した。メチルエチルケトンを用いて固形分を50%に希釈することにより、重量平均分子量1300のカルボキシル基末端ポリカプロラクトン樹脂溶液を得た。
【0046】
(導電性無機酸化物分散体の製造)
[実施例6]
ATO粉体(球状粒子、一次粒子径20nm)34部、実施例1のビニル重合体溶液(A1)を12部(固形分6部)、メチルエチルケトン34部と、直径1mmのジルコニアビーズ150部を加え、ペイントコンディショナーで3時間分散し、固形分50%の導電性無機酸化物分散体を作製した。
【0047】
[実施例7〜実施例12および比較例1〜3]
表2に示す組成で作製した以外は、実施例6と同様にして、固形分50%の導電性無機酸化物分散体を作製した。
【0048】
(導電性無機酸化物分散体の評価)
本発明の導電性無機酸化物分散体の性能を評価するために、分散体の粘度をB型粘度計で測定した。さらに分散体を50℃の恒温機に1週間保存、経時促進させた後、再度粘度を測定し、経時前後での無機酸化物分散体の粘度変化を測定した。粘度安定性は50℃1週間保存前後での粘度の変化率が±10%以内なら○、±10%を超えたら×とした。
また、導電性無機酸化物分散体を、バーコーター(#14)を用いて易接着処理PET上に塗布した。80℃にて2分間乾燥させて得られた塗膜を用いて、密着性試験はクロスカット法(JIS K5600−5−6)を行い、導電性はロレスタHP(三菱化学社製)で表面抵抗値を測定し、透明性はNDH2000(日本電色工業社製)で全光線透過率を測定した。密着性および全光線透過率は大きいほど良好である。表面抵抗値は小さいほど良好であり、測定範囲の上限を超えた時はoverと示す。
可撓性は、塗膜が積層されたPET基材を直径1センチメートルの円柱に巻きつけて、塗膜に変化がなければ○、ひびや欠け、表面荒れ等が生じれば×とした。密着性、導電性、透明性、および可撓性で分散体塗膜の性能を評価した。
結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2中の略称は、それぞれ以下のものを表す。
ノニオン系表面処理剤:アデカトールLA−875(旭電化社製ノニオン系ラウリルアルコールアルコキシレート)
ATO:アンチモン含有酸化スズ
ITO:スズ含有酸化インジウム
PTO:リン含有酸化スズ
FTO:フッ素含有酸化スズ
AZO:アルミニウム含有酸化亜鉛
GZO:ガリウム含有酸化亜鉛
バインダー樹脂:ダイヤナールBR87(三菱レイヨン社製アクリル樹脂)
【0051】
以上の評価結果から明らかなように、本発明の無機酸化物分散用ビニル重合体を使用した実施例6〜12の導電性無機酸化物分散体は、粘度安定性が高く、分散体を基材に塗布して得られた塗膜は、基材への密着性が高く、導電性、透明性、および可撓性も良好である。
これに対して、比較例1では、塗膜の密着性が低い。密着性を向上させる目的でバインダー樹脂を添加すると、目的どおり密着性は向上するが、表面抵抗値が大きく低下した(比較例2)。また比較例3から得られた塗膜は、導電性に問題が生じていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の導電性無機酸化物分散体から形成される導電膜は、有機エレクトロルミネッセンス、太陽電池、タッチパネル、液晶パネル、電子ペーパー等への透明導電膜、及び、熱線反射ガラス、電磁波シールド、帯電防止膜として使用することができ、導電性、及び密着性に優れ、しかもプラスチック基材に塗布成膜することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)の存在下に、エチレン性不飽和単量体(b)をラジカル重合して成ることを特徴とする片末端領域に水酸基を有する無機酸化物分散用ビニル重合体。
【請求項2】
重量平均分子量が、1000〜20000である請求項1記載の無機酸化物分散用ビニル重合体。
【請求項3】
分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物(a)が、1−チオグリセロールまたはジメルカプトペンタエリスリトールであることを特徴とする請求項1または2記載の無機酸化物分散用ビニル重合体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の無機酸化物分散用ビニル重合体と、無機酸化物(P)とを含有する導電性無機酸化物分散体。
【請求項5】
無機酸化物(P)が、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、リン含有酸化スズ(PTO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム含有酸化亜鉛(GZO)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4記載の導電性無機酸化物分散体。
【請求項6】
請求項4または5記載の導電性無機酸化物分散体から形成される導電膜。
【請求項7】
基材と請求項6記載の導電膜とを有することを特徴とする導電性積層体。

【公開番号】特開2011−202040(P2011−202040A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71216(P2010−71216)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】