説明

無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法、及び無機酸化物粒子の製造方法

【課題】 塩基性触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応後の無機酸化物粒子分散液を濃縮して濃縮物を得る際に、上記濃縮物中の無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集体の生成を防止し、また、これを乾燥して無機酸化物粒子を得る際に、強固に凝集した凝集塊の生成を効果的に防止し、且つ、高純度の無機酸化物粒子を得るための方法を提供する。
【解決手段】 上記無機酸化物粒子分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加した後、該分散液の濃縮を行う。また、得られた濃縮物の乾燥を行うことにより無機酸化物粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粒子分散液の濃縮物、及び無機酸化物粒子の新規な製造方法に関する。詳しくは、触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応後の無機酸化物粒子分散液を濃縮して濃縮物を得る際に、上記濃縮物中の無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集体の生成を防止し、また、これを乾燥して無機酸化物粒子を得る際に、強固に凝集した凝集塊の生成を効果的に防止し、且つ、高純度の無機酸化物粒子を得るための方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ等の無機酸化物粒子の製造方法の1種として、ゾル−ゲル法が知られている。この製造方法は、酸又は塩基性触媒の存在下、水を含む有機溶媒中で、テトラエトキシシラン等の金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応によって、無機酸化物粒子を得る方法である。ゾル−ゲル法は、比較的粒径が揃った微細な無機酸化物粒子が得られることが特徴であり、該粒子は樹脂への充填剤や研磨剤等に用いられている。
【0003】
上記触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応、すなわち、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液中では、無機酸化物粒子が、微細な一次粒子として高度に分散しており、かかる分散液中より、分散媒を除去し、無機酸化物粒子分散液の濃縮物を得る方法として、ろ過を採用することは非常に困難である。このため、上記無機酸化物粒子分散液の濃縮物を得る方法として、該分散液を加熱濃縮、或いは減圧濃縮等により、分散媒を揮発させる方法、遠心分離機により無機酸化物粒子を沈降させた後、デカンテーションを行う方法等が採用されている。そして、これらの方法によって得られる無機酸化物粒子の濃縮物の乾燥を行うことにより、濃縮物中に残存する分散媒がさらに除去され、無機酸化物粒子が得られる。
【0004】
しかしながら、無機酸化物粒子分散液の上記濃縮処理において、該分散液の濃縮物中の無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集体が生じ、さらに乾燥処理により、無機酸化物粒子同士の凝集による強固に凝集した凝集塊が生成する。このため、得られる無機酸化物粒子の解砕処理を行っても、粒径が揃った無機酸化物粒子が得られず、かかる無機酸化物粒子を樹脂や溶剤に分散させた場合、該凝集塊は、分散機のシェアでは容易に解砕されず、樹脂や溶剤に均一に分散されないという課題があった。特に、ゾル−ゲル法の反応により、一次粒子の粒子径が1μm以下の微細な無機酸化物粒子を製造した場合、該粒子の凝集力が強く、極めて強固に凝集した凝集塊が生成する傾向がある。
【0005】
かかる課題の解決方法として、これまでに様々な提案がされている。例えば、特許文献1では、無機酸化物粒子分散液を乾燥処理後の無機酸化物粒子をジェットミルにより解砕処理を行う方法が提案されている。この方法により、ある程度粒径の揃った無機酸化物粒子を得ることは可能であるが、乾燥処理時に生成する強固に凝集した凝集塊を減少することはできず、前記課題に対する根本的な解決策とは言い難い。
【0006】
また、前記特許文献2には、解砕処理を行わずに金属酸化物の凝集や焼結の問題を解決する方法として、分散媒の濃縮途中でエチレングリコールを添加し、凝集を防ぐ方法も記載されている。この方法により、解砕が困難な凝集塊の生成は抑制されるが、乾燥、及び焼成の条件によっては、エチレングリコールが金属酸化物中に残存してしまうおそれがあり、当該方法は、用途によっては適用が困難であるという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−115925号公報
【特許文献2】特開2003−277025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応後の無機酸化物粒子分散液を濃縮して濃縮物を得る際に、上記濃縮物中の無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集体の生成を防止し、また、これを乾燥して無機酸化物粒子を得る際に、強固に凝集した凝集塊の生成を効果的に防止し、且つ、高純度の無機酸化物粒子を得るための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応、すなわち、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に塩を存在させると、該分散液中で無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が生成することを見出した。そして、このような凝集体が生成した無機酸化物粒子分散液をろ過することにより得られた無機酸化物粒子のケーク中、すなわち、無機酸化物粒子分散液の濃縮物中では、上記無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が保持されること、さらに、該濃縮物の乾燥を行ったところ、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊の生成が生じないことを確認した。
【0010】
一方、高純度の無機酸化物粒子を得る目的で、上記無機酸化物粒子分散液の濃縮物を水洗し、該濃縮物中に残留する塩を除去しようとした場合、塩が消失した状態で水が存在すると、無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が解れてしまい、さらにこれを乾燥すると、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊が生成することが判明した。すなわち、無機酸化物粒子分散液中に生成された、無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体は、該分散液、或いは該分散液の濃縮物中の分散媒の存在下では、塩が存在しなければ安定的に存在できないことが判明した。また、例えば半導体用等に使用する場合で、目的とする無機酸化物粒子を形成する金属以外の金属不純物の残存が好ましくない場合、ナトリウム等のアルカリ金属塩を使用すると、乾燥後に塩が残存してしまうとう課題があった。
【0011】
そこで、高純度の無機酸化物粒子を得るために、さらに検討を進めた結果、無機酸化物粒子分散液中に二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及び、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することにより、生成された無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体を、上記分散液、或いは濃縮物中の分散媒の存在下で安定的に存在させながら、しかも、該濃縮物の乾燥時、或いは乾燥後に、これらの化合物により前記分散液中に存在する前記添加した化合物由来の塩を容易に熱分解せしめ、無機酸化物粒子より該塩が除去された、高純度の無機酸化物粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、塩基性触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及び、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加した後、該分散液の濃縮を行うことを特徴とする無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法である。
【0013】
また、本発明の他の発明は、上記の製造方法により得られる無機酸化物粒子分散液の濃縮物を乾燥することを特徴とする無機酸化物粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法によれば、塩基性触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応、すなわち、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及び、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することで、該分散液中で無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が形成される。かかる凝集体は、上記化合物が添加された分散媒の存在下で安定的に存在させることが可能であり、濃縮物中の無機酸化物粒子の強固な凝集体の生成を防止することが可能である。
【0015】
上記濃縮物中の無機酸化物粒子の凝集体は、樹脂や溶剤に分散させる際の分散機のシェアにより、容易に解れて、該樹脂や溶剤中で、粒径の揃った一次粒子の状態で均一に分散させることが可能である。従って、上記本発明の製造方法によって得られた無機酸化物粒子分散液の濃縮物は、特段の解砕処理を行うことなく、目的の用途に使用することも可能である。
【0016】
また、本発明の無機酸化物粒子の製造方法によれば、特段の解砕処理、及び不純物の除去処理を行うことなく、高純度で、且つ分散性に優れ、粒径が揃った微細な無機酸化物粒子を効率よく得ることも可能である。
【0017】
すなわち、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、又は、カルバミン酸アンモニウムを添加することにより溶液中に存在する塩は、35〜60℃程度に加熱することによって、分解する。よって、これらの化合物が添加された前記分散液の濃縮物は、乾燥時、或いは乾燥後に熱処理を行うことにより、これらの塩を容易に熱分解することができ、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊の生成を防止しながら、無機酸化物粒子より塩が除去された、高純度の無機酸化物粒子を得ることが可能である。そして、上記濃縮物の乾燥後に得られる無機酸化物粒子の圧壊強度は、後述する実施例にも記載されている通り、0.2N程度と極めて低く、該無機酸化物粒子は、特段の解砕処理を行うことなく、樹脂や溶剤に分散させる際の分散機のシェアにより、容易に解れて、該樹脂や溶剤中で、粒径の揃った一次粒子の状態で均一に分散させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法は、塩基性触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応、すなわち、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及び、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加した後、該分散液の濃縮を行うことが特徴である。
【0019】
以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0020】
<無機酸化物粒子分散液>
本発明において無機酸化物粒子分散液は、前記ゾル−ゲル法の反応により得られた無機酸化物粒子分散液である。上記無機酸化物粒子分散液としては、ゾル−ゲル法の反応後の分散液をそのまま用いることも、或いは、該反応後の無機酸化物粒子分散液を、遠心分離機により無機酸化物粒子を沈降させた後、デカンテーションを行い、他の分散媒に溶媒置換することで該分散液を得ることも可能であるが、操作が煩雑となるため、本発明の製造方法においては、ゾル−ゲル法の反応後の無機酸化物粒子分散液をそのまま用いることが好ましい。
【0021】
なお、本発明の製造方法によって得られた無機酸化物粒子は、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊がなく、分散性に優れ、粒径が揃った微細な無機酸化物粒子であり、これを単に分散媒に分散させることによって、上記無機酸化物粒子分散液とすることも可能である。しかしながら、従来の製造方法により得られた無機酸化物粒子は、該粒子を得る際の、無機酸化物粒子分散液の濃縮、或いは乾燥処理により、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊が生成しており、このような無機酸化物粒子を分散させた分散液中にも、強固に凝集した凝集塊が存在することとなるため、好ましくない。
【0022】
<金属アルコキシド>
本発明の製造方法において用いる金属アルコキシドとしては、ゾル−ゲル法の反応による無機酸化物粒子の製造に用いられる公知の化合物であれば、特に制限されず、製造する無機酸化物粒子の種類に応じて、適宜用いれば良い。
【0023】
本発明において、後述する無機酸化物粒子を得るための金属アルコキシドとして具体的には、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、インジウム(III)イソプロポキシド、ゲルマニウム(IV)イソプロポキシド、ゲルマニウム(IV)メトキシド、すず(IV)ブトキシド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどの金属アルコキシドが例示される。
【0024】
上記の金属アルコキシドの中でも特に、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランが好ましく、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランは、工業的に入手が容易に可能である点、及び取扱いが容易である点から特に好ましい。
【0025】
また、上記金属アルコキシドにより得られる無機酸化物との複合酸化物を得るために用いる金属アルコキシドとして具体的には、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムメトキシド、マグネシウムイソプロポキシド、カルシウムエトキシド、ストロンチウムイソプロポキシド、バリウムイソプロポキシド、イッテルビウム(III)イソプロポキシド、ランタン(III)エトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、インジウム(III)イソプロポキシド、ゲルマニウム(IV)イソプロポキシド、ゲルマニウム(IV)メトキシド、すず(IV)ブトキシド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどの金属アルコキシドが例示される。
【0026】
本発明の製造方法において、上記金属アルコキシドは、1種類のみを用いることも、或いは、2種類以上のものを使用することも可能である。2種類以上のものを使用する場合は、特に、ケイ素を含有するアルコキシシランと、アルコキシシラン以外の金属アルコキシドを混合して使用することで、シリカを含有する複合無機酸化物粒子を得ることが可能である。また、アルコキシシランを加水分解及び重縮合した後、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合を行うことも可能であり、かかる場合には、シリカの表面に金属酸化物が結合した複合無機酸化物粒子を得ることができる。
【0027】
また、金属アルコキシドが、常温常圧で液体である場合には、そのまま使用することも可能であるし、後述する有機溶媒で希釈して使用することも可能である。金属アルコキシドが、常温常圧で固体である場合には、有機溶媒に溶解、又は分散して使用すれば良い。
<塩基性触媒>
ゾル−ゲル法による無機酸化物粒子の製造においては、適当な触媒が好ましく使用される。ゾル−ゲル法においては、酸性触媒が用いられる場合もあるが、粒子径の揃った球状粒子を得ることが容易であるという点で、本発明では塩基性触媒を使用する。ただし、ゾル−ゲル法では先ず酸性触媒下で予備加水分解を行った後、粒子成長を行わせることも多いが、本発明では上記のように予備加水分解時に酸性触媒を用いることを排除するものではなく、粒子成長時に塩基性触媒を用いる方法であればよい。
【0028】
本発明において用いられる塩基性触媒としては、ゾル−ゲル法の反応による無機酸化物粒子の製造に用いられる公知の塩基性触媒であれば、これを好適に使用することができる。
【0029】
このような塩基性触媒としては、例えば、アミン化合物、水酸化アルカリ金属等を挙げることができる。特に、目的とする無機酸化物粒子を構成する金属原子以外の金属を含有する不純物量が少なく、高純度の無機酸化物粒子が得られるという観点から、アミン化合物を用いることが好適である。このようなアミン化合物としては、例えばアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等を挙げることができる。これらのうち、揮発性が高く除去し易いこと、ゾル−ゲル法の反応速度が速いこと等から、アンモニアを使用することが特に好ましい。
【0030】
上記塩基性触媒は、単独で使用することも、或いは2種以上を使用することも可能である。
【0031】
上記塩基性触媒は、工業的に入手可能なものを、そのまま(市販されている形態のまま)使用することも可能であるし、例えばアンモニア水等のように、水や有機溶媒に希釈して使用することも可能である。特に、反応の進行速度を制御しやすい点で、塩基性触媒を水に希釈し、必要に応じて濃度を調整した水溶液として使用することが好ましい。塩基性触媒として水溶液を使用する場合の濃度は、工業的に入手が容易であること、濃度調整が容易であること等から、1〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0032】
塩基性触媒の使用割合は、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応の反応速度等を勘案して適宜決定すればよい。塩基性触媒の使用割合としては、反応溶液中における塩基性触媒の存在量が、使用する金属アルコキシドの質量に対して、0.1〜60質量%とすることが好ましく、0.5〜40質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0033】
また、前記酸性触媒は、後述する金属アルコキシドの予備加水分解反応の触媒として好適に使用できる。具体的には、塩化水素、硫酸、硝酸、酢酸等が挙げられる。
【0034】
酸性触媒も、塩基性触媒と同様、そのまま使用することも可能であるし、水等の溶媒に希釈して使用することも可能である。
【0035】
酸性触媒を使用する場合、その使用量は、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応速度等を勘案して適宜決定すれば良い。通常、使用する金属アルコキシドの質量に対し、0.00001〜10質量%、より好ましくは0.0001から1質量%の範囲で使用すれば十分である。
【0036】
<反応溶媒>
なお、前記ゾル−ゲル法の反応には水が必須である。よって、触媒を水溶液として使用しない場合は、上記反応に必要な水を添加する必要がある。水の使用量は、製造する無機酸化物粒子の粒径に応じて適宜調整して使用すればよい。但し、少なすぎるとゾル−ゲル法の反応速度が遅くなり、多すぎると乾燥の際に長時間を要するため、通常、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液の質量に対し、2〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%の範囲で適宜調整すれば良い。
【0037】
本発明の製造方法において、ゾル−ゲル法の反応を速やかに進行させるためには、反応溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。本発明において用いる有機溶媒は特に制限されず、ゾル−ゲル法の反応による無機酸化物粒子の製造において公知の有機溶媒を用いることが可能である。有機溶媒として具体的に例示すれば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、等の有機溶媒が挙げられる。
【0038】
特にメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類は、ゾル−ゲル法の反応時に生成するものであり、反応後の無機酸化物粒子分散液中への不純物の混入を抑制する点、及び該分散液の濃縮、及び濃縮後の乾燥処理において、容易に除去可能である点から特に好ましい。
【0039】
上記有機溶媒は、単独で用いることも、あるいは2種以上の有機溶媒の混合物とすることも可能である。また、有機溶媒の使用量は、目的とする無機酸化物粒子の粒径、及びゾル−ゲル法の反応後の無機酸化物粒子分散液中の無機酸化物粒子の濃度に応じて適宜決定すればよい。例えば、有機溶媒としてアルコール類を使用する場合、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液の質量に対し、10〜90質量%、より好ましくは15〜80質量%の範囲となるように使用すれば十分である。
<反応条件>
本発明における加水分解及び重縮合反応(ゾル−ゲル法の反応)は、前記したように塩基性触媒の存在下で行われる。反応条件としては公知の条件を採用することができ、金属アルコキシドと塩基性触媒との接触方法も特に制限されず、反応装置の構成や反応スケールを勘案して適宜選択して決定すればよい。
【0040】
ゾル−ゲル法の反応方法の一例を具体的に示すと、例えば以下の如くである。
【0041】
反応容器に水、水以外の極性溶媒(有機溶媒)及び塩基性触媒を仕込み、ここに金属アルコキシド(又は金属アルコキシドの有機溶媒溶液)と塩基性触媒の水溶液とを同時に添加する方法を挙げることができる。この方法によれば、反応効率が良好で、粒子径の揃った球状の無機酸化物粒子を、効率よく、且つ再現性よく製造することができ、好ましい。この場合、例えば、先に金属アルコキシドの一部を添加した後に、残りの金属アルコキシドと塩基性触媒とを同時に添加することも可能である。
【0042】
2種以上の金属アルコキシドを併用する場合、各々を混合して同時に添加してもよく、或いは各々を順次に添加することも可能である。特に、シリカを含有する複合無機酸化物の製造を行う際、先ず1種の金属アルコキシドを用いて予備加水分解・重縮合反応を行い、その後に他の種類の金属アルコキシドを添加して反応を継続することにより、複合金属アルコキシドを製造することができる。例えばアルコキシシランをメタノール中において塩酸の存在下に加水分解・重縮合反応を行って、先ず酸性触媒による加水分解を行い、次いでチタンテトライソプロポキシド等のアルコキシシラン以外の金属アルコキシドを添加して反応を継続することにより、シリカからなるコアとチタニアからなるシェルとを有する複合無機酸化物を製造することができる。
【0043】
金属アルコキシド及び塩基性触媒の添加は、反応液に液中滴下することが好ましい。ここで液中滴下とは、上記の原料を反応液中に滴下する際、滴下口の先端が反応液中に浸されていることをいう。滴下口先端の位置は、液中にあれば特に限定されないが、攪拌羽根の近傍等の、攪拌が十分に行われ、滴下物が反応液中に速やかに拡散することのできる位置とすることが望ましい。
【0044】
金属アルコキシドと塩基性触媒の添加時間(添加開始から添加終了までの時間)は、粒径分布の幅の狭い粒子を製造するうえで非常に重要な因子である。この添加時間が短すぎると粒径分布幅が広くなる傾向にあり、逆に長すぎると安定した粒子成長ができない。従って、粒度分布幅が狭く、粒径が揃った無機酸化物粒子を得るには、粒子が成長するのに適した添加時間を選択して採用する必要がある。このような観点から、上記添加時間としては、所望の粒子直径100nmあたり、0.2〜8時間の範囲でとすることが好ましい。
【0045】
反応温度は、ゾル−ゲル法の反応が速やかに進行する温度であれば、特に制限されず、目的とする無機酸化物粒子の粒径に応じて適宜に選択すればよい。一般的に、反応温度が低いほど得られる無機酸化物粒子の粒径が大きくなる傾向にある。メジアン径が0.01〜5μmの無機酸化物粒子を得る場合、反応温度としては、−10〜60℃の範囲で適宜選択すればよい。
【0046】
ゾル−ゲル法の反応を確実に進行させるために、金属アルコキシド及び塩基性触媒の滴下が終了した後、熟成(次の表面処理剤の添加を行うまで暫く時間をおくこと)を行ってもよい。この場合、熟成温度としては反応温度と同じ範囲、即ち、−10〜60℃とすることが好ましく、熟成時間としては0.25〜5時間とすることが好ましい。
【0047】
所望の粒径の無機酸化物粒子を得るために、熟成後に再度金属アルコキシド及び塩基性触媒を添加し、無機酸化物粒子の粒径を成長させる等の手法を用いてもよい。
【0048】
<無機酸化物粒子>
本発明の製造方法によって得られる無機酸化物粒子は、前述の原料として使用する金属アルコキシドの元素に対応したものである。かかる無機酸化物粒子を具体的に挙げれば、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの周期表第4族金属、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどの周期表第13族金属、ゲルマニウム、スズなどの周期表第14族金属等の金属酸化物、シリカ(ケイ素の酸化物)、及びこれら元素で構成される複合無機酸化物等が挙げられる。
【0049】
また上記無機酸化物と複合酸化物の形成が可能な元素を挙げれば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの周期表第1族金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの周期表第2族金属、スカンジウム、イットリウム、ランタンなどの周期表第3族金属、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの周期表第4族金属、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどの周期表第13族金属、ゲルマニウム、スズなどの周期表第14族金属等の金属元素、及びケイ素等が挙げられる。
【0050】
上記無機酸化物の中でも、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムの酸化物、及びこれらの元素で構成される複合無機酸化物が好ましく、特にシリカ、及びケイ素を含む元素で構成される複合無機酸化物が、本発明の効果が顕著に現れるため好ましい。
【0051】
なお、一般的にゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子の粒径は、通常、メジアン径が0.01〜5μmであるが、本発明の製造方法は、無機酸化物粒子の粒径に関わらず適用することが可能である。特に、メジアン径が0.01〜1μmの粒径が小さな無機酸化物粒子は、凝集力が強く、従来の濃縮処理、或いは乾燥処理では、無機酸化物粒子強固に凝集した凝集塊が生じ易い傾向がある。メジアン径が0.01〜1μmの粒径が小さな無機酸化物粒子の製造に、本発明の製造方法を採用することで、分散性に優れ、粒径が揃った微細な無機酸化物粒子分散液の濃縮物、及び無機酸化物粒子を得ることが可能である。従って、本発明の製造方法は、メジアン径が0.01〜1μmと、特に粒径が小さな無機酸化物粒子の製造において、好適に採用することが可能である。
【0052】
また、ゾル−ゲル法の反応により製造される無機酸化物粒子は、粒度分布幅が狭いことも特徴である。前記の製造方法により得られる無機酸化物粒子の粒度分布幅は、通常、粒度分布幅の広がりを示す指標の一つである変動係数が40%以下であり、変動係数が30%以下とすることも可能である。本発明の製造方法では、分散液中の無機酸化物粒子の粒度分布幅に関わらず用いることが可能である。
【0053】
前記、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液中の無機酸化物粒子の濃度は、特に制限されず、反応条件に応じて適宜決定すれば良い。しかしながら、分散液中に含まれる無機酸化物粒子の量が多いと、分散液の粘度が高くなるため、取り扱い辛く、少なすぎると1回の反応で得られる無機酸化物粒子の量が少なくなり、不経済である。従って、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液中の無機酸化物粒子の濃度は、1〜40質量%、特に2〜25質量%に調整することが好ましい。なお、上記分散液中の無機酸化物粒子の濃度の調整は、反応後の無機酸化物粒子の濃度が所定の範囲内となるように、前記有機溶媒及び水の使用量を調整して行うことも可能であるし、反応後に、前記有機溶媒又は水を添加することにより、分散液中の無機酸化物粒子の濃度の調整を行うことも可能である。
【0054】
<無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法>
本発明の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法は、前記ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及び、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、特定凝析剤ともいう。)を添加した後、該分散液の濃縮を行うことが最大の特徴である。なお、市販されている「炭酸アンモニウム」は、一般的に炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムとの混合物であり、そのまま添加して使用することができる。前記特定凝析剤を分散液に添加することにより、添加した特定凝析剤由来の塩が存在し、該分散液中で無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が形成され、かかる凝集体は、上記塩が存在する分散媒の存在する状態において安定的に存在させることができ、濃縮物中の無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集体の生成を防止することが可能である。
【0055】
上記本発明の製造方法において、前記添加された特定凝析剤は、無機酸化物粒子分散液の濃縮を行う段階で前記塩として存在していれば良く、ゾル−ゲル法の反応前に特定凝析剤を反応溶媒に添加しておくことも、或いはゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、特定凝析剤を添加することも可能である。
【0056】
或いは、ゾル−ゲル法の反応に用いる塩基性触媒が、アンモニア水のようなアンモニアである場合、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に二酸化炭素を添加することにより、反応により塩が生成し、かかる塩を該分散液中に存在させることが可能である。
【0057】
上記特定凝析剤の使用割合は、使用する特定凝析剤の種類に応じて下記のように設定することができる。特定凝析剤の使用割合は、分散液中での無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体の形成の程度と、不当に多量の原料を使用することの無駄のバランスを勘案することによって設定される。以下における特性凝析剤の使用割合の基準として無機酸化物粒子の質量は、用いた金属アルコキシドが全て加水分解及び重縮合して無機酸化物粒子となっていると仮定した場合の換算値である。
【0058】
上記特定凝析剤として二酸化炭素を使用する場合、その使用割合は、分散液中に含有される無機酸化物粒子100質量部に対して、0.005質量部以上、更には0.05質量部以上とするのが好ましく、0.05〜300質量部とするのが特に好ましく、0.25〜200質量部とすることがとりわけ好ましい。
【0059】
上記特定凝析剤として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、又はカルバミン酸アンモニウムを使用する場合、その使用割合は、分散液中に含有される無機酸化物粒子100質量部に対して、0.001質量部以上、更には0.001〜80質量部とするのが好ましく、0.001〜15質量部とするのが特に好ましく、0.001〜10質量部とすることがとりわけ好ましい。上記特定凝析剤は、1種のみを使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
上記特定凝析剤を添加する際の無機酸化物粒子のpHとしては、分散液中で特定凝析剤由来の塩が好ましくない分解を起こさず、本発明の効果が有効に発揮できるpH領域を選択して設定することが望まれる。このような観点から、分散液のpHは塩基領域とすることが好ましく、pH9以上とすることがより好ましい。特に、ゾル−ゲル法の反応の触媒としてアンモニア水等のアンモニアを用いた場合、反応後の無機酸化物粒子分散液のpHは通常9以上であり、反応後の無機酸化物粒子分散液に対し、pH調整を行うことなく特定凝析剤を添加することが好ましい。
【0061】
また、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、特性凝析剤を添加する際の温度は、生成する無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が安定に存在できる温度であれば、特に制限されず、適宜設定すれば良い。特性凝析剤の分解温度等を考慮し、通常、反応温度と同じ−10〜60℃、好ましくは、10〜40℃の範囲で行えば良い。
【0062】
また、特定凝析剤の添加は、上記分散液を攪拌した状態で行うことも、或いは静置した状態で行うことも可能である。また、静置した状態で添加後、攪拌を行うことも可能である。さらに、特定凝析剤の添加後、分散液の濃縮を行うまでの時間は特に制限はされず、作業状況等を勘案して適宜決定すれば良く、通常0.25〜72時間、好ましくは、1〜48時間の範囲で適宜決定すれば十分である。
【0063】
<無機酸化物粒子分散液の濃縮>
本発明の製造方法において、前記無機酸化物粒子分散液の濃縮を行うことで、無機酸化物粒子の濃度が向上した無機酸化物粒子分散液の濃縮物を得ることができる。ここで、後述する参考例からも明らかなように、前記分散媒と無機酸化物粒子とが共存する状態で前記特定凝析剤由来の塩が消失すると、前記無機酸化物粒子の凝集体が容易に解れてしまい、さらにこれを乾燥すると、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊が生成してしまう。
【0064】
従って、上記無機酸化物粒子分散液の濃縮物中に無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体を安定的に存在させるためには、前記濃縮物中に前記特定凝析剤由来の塩が残存する条件で濃縮を行うことが必要である。
【0065】
上述のとおり、本発明の製造方法において、前記無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体が生成した無機酸化物粒子分散液は、該分散液を減圧濾過、加圧ろ過、遠心ろ過等のろ過を行うことにより、無機酸化物粒子のケーク、すなわち、無機酸化物粒子分散液の濃縮物を効率良く得ることが可能である。特にろ過による濃縮は、その過程で加熱することなく、無機酸化物粒子分散液の濃縮を行うことが可能であり、濃縮物中に特定凝析剤由来の塩を残存させながら、無機酸化物粒子分散液の濃縮が行える点、或いは、操作が容易で、汎用的な方法である点からも、特に好ましい。ろ過に用いる、ろ紙やフィルター、ろ布等は、工業的に入手可能なものであれば、特に制限なく、分離装置のスケールに応じて適宜選択すれば良い。メジアン径が、0.01〜5μmの無機酸化物粒子であれば、孔径5μm程度のもので十分である。また、ろ紙やフィルター、ろ布等を重ねて行うことも可能である。
【0066】
或いは、その他の濃縮方法として、特定凝析剤由来の塩が存在する無機酸化物粒子分散液を加熱濃縮、或いは減圧濃縮等により、分散媒を揮発させる方法、遠心分離機により無機酸化物粒子を沈降させた後、デカンテーションを行う方法等、ゾル−ゲル法の反応により得られる無機酸化物粒子分散液の濃縮方法として公知の方法を採用することも可能である。加熱濃縮等、濃縮時に特定凝析剤由来の塩が消失する虞のある濃縮方法を用いる場合には、濃縮途中の無機酸化物粒子分散液の濃縮物に、特定凝析剤を適宜添加し、濃縮物中に特定凝析剤由来の塩が消失しない様に行えばよい。
【0067】
上記特定凝析剤由来の塩が存在した状態で、無機酸化物粒子分散液の濃縮を行うことにより、無機酸化物粒子が弱い力で凝集した凝集体を分散媒の存在下で安定的に存在させながら、無機酸化物粒子の含有量が50〜80質量%、好ましくは60〜80質量%の高濃度の濃縮物を得ることが可能である。
【0068】
上記のように濃縮された無機酸化物粒子の濃縮物は、そのままの形態で目的とする用途に使用する場合は、存在する特定凝析剤由来の塩を除去又は消失せしめて使用することも可能である。
【0069】
<無機酸化物粒子の製造方法>
前記のとおり、本発明の製造方法により、無機酸化物粒子の含有量が50〜80質量%、好ましくは60〜80質量%の無機酸化物粒子分散液の濃縮物が得られるが、特定凝析剤由来の塩が存在する上記濃縮物を乾燥することにより、無機酸化物粒子の表面に存在する分散媒が除去された、弱い力で解砕可能な無機酸化物粒子を得ることができる。即ち、前記のとおり、濃縮物中に特定凝析剤由来の塩が消失すると無機酸化物粒子の凝集体が容易に解れてしてしまい、これを乾燥すると、無機酸化物粒子が強固に凝集した凝集塊が生成してしまう。
また、特定凝析剤由来の塩は、上記濃縮物を乾燥する際、或いは、乾燥後に行う熱処理により、容易に熱分解するため、本発明の方法によって得られる無機酸化物粒子は、塩が除去された、高純度の無機酸化物粒子となる。
【0070】
本発明の製造方法において、無機酸化物粒子分散液の濃縮物の乾燥方法としては、公知の方法が特に制限されず採用される。例えば、加熱した状態での減圧乾燥、送風乾燥等の乾燥方法が挙げられる。
【0071】
また乾燥時の温度は、分散媒が除去でき、且つ、特定凝析剤由来の塩を分解可能な温度であればよく、乾燥時の圧力等を勘案して適宜決定すれば良い。具体的には、乾燥温度として、35〜250℃、より好ましくは、50〜250℃の温度での乾燥が好ましい。
【0072】
なお、本発明において、前記無機酸化物粒子分散液からの分散媒の除去を、濃縮及び乾燥にわたって連続して行うことも可能である。例えば、無機酸化物粒子分散液を加熱濃縮、或いは、減圧濃縮等によって分散媒を揮発させる方法によって行うことにより、無機酸化物粒子分散液より分散媒が除去された無機酸化物粒子を直接得ることができる。この場合、分散媒を加熱による除去する際、特定凝析剤由来の塩が消失する虞があるため、かかる場合には、濃縮、乾燥途中の無機酸化物粒子分散液の濃縮物に、特定凝析剤を適宜添加し、濃縮物中に前記塩が消失しない様に行えばよい。
【0073】
本発明において、上記方法により得られた無機酸化物粒子は、個々の粒子が弱い力で凝集した凝集体の形態を成す乾燥粉末として得られる。そして、かかる無機酸化物粒子は、高純度で、且つ解砕処理が困難な凝集塊が生成せず、容易に解砕が可能な、分散性に優れたものである。このような無機酸化物粒子の凝集体の圧壊強度は、後述する実施例にも記載されているとおり、0.2N程度と極めて低く、特段の解砕処理を行うことなく、樹脂や溶剤に分散させる際の分散機のシェアにより、容易に解砕され、該樹脂や溶剤中で均一に分散させることが可能である。
【0074】
<焼成処理>
上述のとおり、本発明の製造方法により、高純度の無機酸化物粒子を得ることが可能であるが、乾燥後の無機酸化物粒子中に吸収された分散媒は完全に除去されていない場合があるため、該粒子中の分散媒を高度に除去する目的で、更に、焼成処理を行うことも可能である。
【0075】
上記焼成処理時の焼成温度は、低すぎると分散媒成分の除去が困難であり、高すぎると無機酸化物粒子の融着が生じるため、300〜1300℃、更には600〜1200℃で行うのが好ましい。
【0076】
焼成時間については、残存する分散媒が除去されれば特に制限されないが、あまり長すぎると不経済であるため、目的とする焼成温度まで昇温した後、0.5〜48時間、より好ましくは、2〜24時間の範囲で保持し焼成を行えば十分である。
【0077】
焼成時の雰囲気も特に制限はされず、アルゴンや窒素等の不活性ガス下、又は大気雰囲気下で行うことができる。
【0078】
上記焼成処理後に得られる無機酸化物粒子は、解砕処理を行うことなく種々の用途に使用することが可能であるが、目的に応じて、公知の解砕手段により解砕させて使用することも可能である。
【0079】
<表面処理>
本発明において、上記無機酸化物粒子に対し、シリコーンオイルや、シランカップリング剤、シラザン、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等、公知の表面処理剤で表面処理を行い、目的の用途に使用することも可能である。これらの中でも特に、シリコーンオイル、シランカップリング剤、シラザンを使用するのが好ましい。
【0080】
本発明で使用するシリコーンオイルは、通常表面処理に用いられる公知のシリコーンオイルを、特に制限なく使用することが可能であり、必要とする表面処理無機酸化物粒子の性能等に応じて適宜選択して、使用すれば良い。具体的に例示すれば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル等を挙げることができる。これらの中でも、単に疎水化を行うことが目的であれば、ジメチルシリコーンオイルを使用するのが好ましい。
【0081】
シリコーンオイルを使用する際の使用量は特に制限はされないが、少なすぎると表面処理が不十分となり、多すぎると後処理が煩雑となるので、使用する無機酸化物粒子100質量部に対し、0.05〜30質量部、より好ましくは、0.1〜20質量部とするのが良い。
【0082】
本発明で使用するシランカップリング剤は、通常表面処理に用いられる公知のシランカップリング剤を、特に制限なく使用することが可能であり、必要とする表面処理無機酸化物粒子の性能等に応じて適宜選択して、使用すれば良い。具体的に例示すれば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−スチリルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。これらの中でも、単に疎水化を行うことが目的であれば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランを使用するのが好ましい。
【0083】
シランカップリング剤を使用する際の使用量は、特に制限はされないが、少なすぎると表面処理が不十分となり、多すぎると後処理が煩雑となるので、使用する無機酸化物粒子100質量部に対し、0.05〜40質量部、より好ましくは、0.1〜20質量部とするのが良い。
【0084】
本発明で使用するシラザンは、通常表面処理に用いられる公知のシラザンを、特に制限なく使用することが可能である。シラザンの中でも、特に反応性の良さ、取り扱いの良さ等より、ヘキサメチルシラザンを使用するのが好ましい。
【0085】
シラザンを使用する際の使用量は、特に制限はされないが、少なすぎると表面処理が不十分となり、多すぎると後処理が煩雑となるので、使用する無機酸化物粒子100質量部に対し、0.05〜60質量部、より好ましくは、0.1〜50質量部とするのが良い。
【0086】
これら表面処理剤は、単独で1種類のみ使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明における諸物性の測定方法は、以下の通りである。
【0088】
(分散液中の無機酸化物粒子のメジアン径の測定)
分散液中の無機酸化物粒子のメジアン径の測定は、走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)を使用し、画像解析法により実施した。ゾル−ゲル反応終了後に得られた分散液を、純水で希釈し、シリコンウェハー上に滴下した。その後、室温で2時間以上減圧乾燥を行うことで、分散媒を除去し、SEM観察用のサンプルとした。なお、作製したサンプルに存在するシリカの観察は、撮影場所を適宜変更し、200個以上実施した。また値は、体積基準に換算して、記載した。
【0089】
(乾燥後及び焼成後の無機酸化物粒子のメジアン径、及び変動係数の測定)
乾燥後及び焼成後の無機酸化物粒子のメジアン径は、以下に示すレーザー回折散乱法により実施した。乾燥後及び焼成後の無機酸化物粒子を、乳鉢ですり潰した後、0.1gを内径4cm、高さ11cmのガラス性容器に入れ、純水50gを注いだ。プローブ(先端の内径7mm)の先端より4.5cmを浸し、出力50W、40kHzで、30分間、超音波分散により分散させた。
【0090】
得られた分散液のメジアン径、変動係数を、ベックマン・コールター株式会社製、ベックマンコールターLS230(商品名)を使用し、偏光散乱強度差計測により、0.04μm〜2000μmの範囲で測定した。また、変動係数は、下記式より算出した。変動係数が小さいほど、粒度分布幅が狭いことを示す。
【0091】
変動係数(%)=粒子径の標準偏差(μm)/粒子径の数平均値(μm)
(圧壊強度の測定)
後述する実施例及び比較例の測定条件を統一するため、以下の方法により測定を実施した。ゾル−ゲル反応後の分散液を遠心分離機にかけ、分散媒と無機酸化物粒子を分離した。その後、100℃で真空乾燥後に得られた無機酸化物粒子を、目開き1.4mm、続いて0.71mmの篩にかけ、目開き0.71mmの篩に残った無機酸化物粒子を測定に使用した。
【0092】
無機酸化物粒子を上皿天秤に載せ、金属製のヘラで荷重をかけ、粒子が解砕された時の荷重を測定した。測定は、50回実施し、上下5つの値を除いた40回分の平均値を圧壊強度値とした。値が小さいほど、粒子が解砕され易いことを示す。
【0093】
(疎水度の測定)
表面処理を行った無機酸化物粒子0.2gを容量250mlのビーカー中の50mlの水に加え、マグネチックスターラーで攪拌した。これにビュレットを使用してメタノールを加え、試料粉末の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴定した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度とした。
【0094】
(金属元素成分量の測定方法)
乾燥後の無機酸化物粒子2gを精秤して白金皿に移し、濃硝酸10ml、フッ酸10mLをこの順に加えた。これを200℃に設定したホットプレート上に乗せて加熱して内容物を乾固した。室温まで冷却後、更に濃硝酸2mLを加え、200℃に設定したホットプレート上に乗せて加熱して溶解した。室温まで冷却後、白金皿の内容物である溶液を容量50mLのメスフラスコに移し、超純水で希釈して漂線に合わせた。これを試料として、ICP発光分析装置((株)島津製作所製、型番「ICPS−1000IV」)により、金属元素成分量を測定した。
【0095】
(窒素含有量の測定)
(株)住化分析センター製の高感度N.CアナライザーNC−22Fを用い、ボードにシリカ粒子50mgを秤り取り、830℃において完全酸化させた後、TCDガスクロマトグラフィーにて窒素成分の定量分析を行うことによって、無機酸化物粒子中の窒素含有量(質量%)を測定した。
【0096】
実施例1
5Lの4つ口フラスコに、塩基性触媒として15質量%アンモニア水を150g(金属アルコキシドの質量に対し、1.2質量%)、及び有機溶媒としてメタノールを1040g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、27質量%)を投入し、35℃で攪拌した。金属アルコキシドとしてテトラメトキシシラン1940g、塩基性触媒として5質量%アンモニア水700g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として1.8質量、先に仕込んだアンモニア水との合計で3.0質量%)を、それぞれ独立に液中滴下した。滴下は、5時間で終了するように速度を調整して実施した。滴下開始後10分の段階で、反応液が白濁しており、反応が進行している様子が確認された。なお、無機酸化物粒子分散液の質量は、3830gである。
【0097】
滴下終了後、0.5時間熟成を行い、ドライアイス(固体状の二酸化炭素)20g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、2.6質量%)を投入後、20時間放置した。20時間経過した段階でシリカ粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径7μm)を使用し、減圧濾過を行い、1303g(シリカ濃度57質量%)の濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。更に、100℃で16時間減圧乾燥を行い、804gのシリカ粒子を得た。続けて、900℃で10時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、743gのシリカ粒子を得た。
【0098】
実施例2
ドライアイスの代わりに、炭酸水素アンモニウムを20g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、2.6質量%)を投入した以外は、実施例1と同様に操作を実施した。得られた無機酸化物粒子のIRを分析したところ、炭酸水素アンモニウムのピークは検出されず、特性凝析剤の残存は確認されなかった。
【0099】
実施例3
ドライアイスの添加量を200g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、26質量%)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0100】
実施例4
ドライアイスの添加2時間後にろ過した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0101】
実施例5
反応温度を15℃に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0102】
実施例6
5Lの4つ口フラスコに、塩基性水溶液として25質量%アンモニア水を210g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として3.1質量%)、及び有機溶媒としてメタノールを310g、及びイソプロピルアルコールを710g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、26.8質量%)を投入し、40℃で攪拌した。金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン26gを滴下後、10分経過したところで反応液が白濁しており、反応が進行したことが確認された。続いて、金属アルコキシドとしてテトラメトキシシシラン1650g、メタノール170g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し4.5質量%、アルコールの合計で31質量%)の混合溶液と、塩基性触媒として25%アンモニア水730g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として10.9質量%、先に仕込んだアンモニア水との合計で14質量%)を、それぞれ独立に液中滴下した。滴下は、2時間で終了するように速度を調整して実施した。なお、無機酸化物粒子分散液の質量は、3806gである。
【0103】
滴下終了後、ドライアイス(固体状の二酸化炭素)20g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、3.0質量%)を投入後、20時間放置した。20時間経過した段階でシリカ粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径7μm)を使用し、減圧濾過を行い、1266g(シリカ濃度52質量%)の濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。更に、100℃で16時間真空乾燥し、693gのシリカ粒子を得た。続いて、900℃で10時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、659gのシリカ粒子を得た。
【0104】
実施例7
ろ紙(孔径6μm)を使用し、0.1MPaの圧力で、加圧ろ過を行った以外は、実施例6と同様に操作を行った。
【0105】
実施例8
ろ布(通気量0.2cc/(cm・sec))及び、ろ紙(孔径6μm)を重ねて使用し、回転数1000rpmで遠心ろ過を実施した以外は、実施例6と同様に操作を行った。
【0106】
実施例9
3Lの4つ口フラスコに、金属アルコキシドとしてテトラメトキシシラン475gを仕込み、有機溶媒としてメタノールを238g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、11質量%)と、酸触媒として0.035質量%塩酸56g(金属アルコキシドの質量に対し、塩化水素の含量として、0.003質量%)を加え、室温で10分間攪拌することによって、テトラメトキシシランを加水分解した。続いて、金属アルコキシドとしてチタンテトライソプロポキシド250gをイソプロピルアルコール500g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、23質量%)で希釈した液を添加し、透明な複合アルコキシド溶液を得た。
【0107】
5Lの4つ口フラスコに、イソプロピルアルコールを256g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、12質量%、合計で46質量%)、25質量%アンモニア水を64g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として2.2質量%)仕込み、40℃で保持、攪拌した。これに、上記複合アルコキシド溶液と、25質量%アンモニア水344g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として3.9質量%、合計で6質量%)を、それぞれ独立に液中滴下した。滴下は、5時間で終了するように速度を調整して実施した。滴下開始後10分の段階で、反応液が白濁しており、反応が進行している様子が確認された。なお、無機酸化物粒子分散液の質量は、2183gである。
【0108】
滴下終了後、0.5時間熟成を行い、ドライアイス(固体状の二酸化炭素)150g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、58質量%)を投入後、4時間放置した。4時間放置した段階でシリカ−チタニア複合酸化物粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用し、減圧濾過を行い、398g(シリカ−チタニア複合酸化物濃度62質量%)の濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。得られたシリカ−チタニア複合酸化物粒子を100℃で16時間真空乾燥し、260gのシリカ−チタニア複合酸化物を得た。更に、1050℃で12時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、247gのシリカ−チタニア複合酸化物粒子を得た。
【0109】
実施例10
3Lの4つ口フラスコに、酸触媒として0.1質量%塩酸4.0g(金属アルコキシドの質量に対し、塩化水素の含量として0.001質量%)と、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン158g、メタノール950g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、24質量%)を投入し、室温で2時間攪拌させながら、加水分解を行った。そこへ、金属アルコキシドとして、ジルコニウムn−ブトキシド38gとイソプロパノール400g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、10質量%)の混合溶液を添加し、複合アルコキシド溶液とした。
【0110】
10Lの4つ口フラスコに、メタノール1980g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、51質量%)、25質量%アンモニア水を125g(金属アルコキシドの質量に対し、9.5質量%)を加え、そこへ、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン4.0gとメタノール80g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、2質量%)の混合溶液を20℃に保持し、5分かけて添加したところ、反応液が僅かに白濁している様子が確認された。そこへ、上記複合アルコキシド溶液を2時間かけて滴下した。更に、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン128gとメタノール400g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、1質量%、全体で88質量%)の混合溶液を2時間かけて滴下した。なお、無機酸化物粒子分散液の質量は、4267gである。
【0111】
滴下終了後、0.5時間熟成を行い、ドライアイス(固体状の二酸化炭素)を20g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、21質量%)を投入後、20時間放置した。20時間放置した段階でシリカ−ジルコニア複合酸化物粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用し、減圧濾過を行い、153g(シリカ−ジルコニア複合酸化物濃度58質量%)の濃縮物を得た。得られたシリカ−ジルコニア複合酸化物粒子を100℃で16時間真空乾燥し、98gのシリカ−ジルコニア複合酸化物を得た。更に、1000℃で6時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、89gのシリカ−ジルコニア複合酸化物粒子を得た。
【0112】
実施例11
有機溶媒として、メタノール780g、イソプロピルアルコール260gを使用した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0113】
実施例12
ドライアイスの代わりに、炭酸アンモニウムを20g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、2.6質量%)を投入した以外は、実施例1と同様に操作を実施した。
【0114】
実施例13
ドライアイスの代わりに、カルバミン酸アンモニウムを20g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、2.6質量%)を投入した以外は、実施例1と同様に操作を実施した。
【0115】
実施例14
乾燥温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に操作を実施した。窒素含有量の測定を行ったところ、0.01%であった。
【0116】
実施例15
乾燥温度を150℃とした以外は、実施例2と同様に操作を実施した。窒素含有量の測定を行ったところ、0.01%であった。
【0117】
比較例1
実施例1において、ドライアイスの添加を行わずにろ過を実施したところ、分散液が、ろ紙をすり抜け、シリカを回収することが出来なかった。得られた分散液を室温で真空乾燥させ、ある程度の分散媒を留去した後、実施例1同様に、乾燥、焼成を行った。
【0118】
参考例1
実施例1で得られた乾燥後のシリカ粒子10gを、純水90gと混合、1時間攪拌し、シリカ粒子の分散液を得た。定量ろ紙(保留粒径7μm)を使用し、減圧濾過を行ったところ、分散液が、ろ紙をすり抜け、シリカ粒子を回収することができなかった。得られた分散液を室温で真空乾燥させ、ある程度の分散媒を留去した後、実施例1同様に、乾燥、焼成を行った。得られたシリカの物性を表1に示す。
【0119】
参考例2
実施例1で得られた乾燥後のシリカ粒子10gを、5質量%の炭酸水素アンモニウム水溶液90gと混合、1時間攪拌し、シリカ粒子の分散液を得た。定量ろ紙(保留粒径7μm)を使用し、減圧濾過を行ったところ、ろ液は透明であり、100℃で16時間乾燥後、10gのシリカ粒子を回収することができた。
【0120】
上記実施例1〜15、比較例1及び参考例1において、無機酸化物分散液中の無機酸化物粒子のメジアン径、乾燥後、及び焼成後の無機酸化物粒子のメジアン径、及び変動係数、並びに乾燥後の無機酸化物粒子の圧壊強度の結果を表1に示す。表1の結果より、本発明の製造方法により、得られた無機酸化物粒子は、いずれも圧壊強度が非常に低く、無機酸化物粒子分散液の濃縮、及び濃縮後の乾燥において、解砕処理の必要な、無機酸化物粒子の強固に凝集した凝集塊の生成が防止されていることが分かる。
【0121】
【表1】

【0122】
実施例16
実施例1において得られた100℃で16時間乾燥後のシリカ粒子400gを容積20Lの容器に入れ、窒素置換すると同時に、250℃に加熱した。10L/分の速度で窒素の流通を15分間継続した後、容器内を密閉して、水蒸気をミキサー内の分圧で60kPa導入した。続いて、ヘキサメチルジシラザン120g(無機酸化物粒子に対し、30質量部)を一流体ノズルで噴霧し、そのまま60分間攪拌を継続することにより、表面処理を行った。ミキサーを開放し、雰囲気を窒素ガスで置換した後に、表面処理品を取り出した。
【0123】
実施例17
実施例11で得られたシリカ粒子400gを使用し、実施例14と同様の操作で表面処理を行った。
【0124】
実施例18
実施例11で得られたシリカ粒子140g、トルエン700gを1L4つ口フラスコに入れ、室温で攪拌した。そこへアミノ変性オイル1.68g(無機酸化物粒子に対し、1.2部)投入し、110℃で1時間加熱還流を行った。その後、減圧蒸留により溶媒留去を行い、表面処理品を得た。
【0125】
実施例19
実施例11で得られたシリカ粒子140g、トルエン700gを1L4つ口フラスコに入れ、室温で攪拌した。そこへデシルトリメトキシシラン3.76g(無機酸化物粒子に対し、2.7部)投入し、110℃で1時間加熱還流を行った。その後、減圧蒸留により溶媒留去を行い、表面処理品を得た。
上記実施例16〜19に関して、乾燥前後での疎水度の値と圧壊強度の値を示した。表面が疎水化されていた。また、圧壊強度の値も表面処理することにより低くなっていた。
【0126】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性触媒の存在下、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応により得られる無機酸化物粒子分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及び、カルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加した後、該分散液の濃縮を行うことを特徴とする無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法。
【請求項2】
濃縮物中の無機酸化物粒子の濃度が50〜80質量%となるまで無機酸化物粒子分散液の濃縮を行う請求項1記載の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法。
【請求項3】
前記無機酸化物粒子分散液の濃縮をろ過により行う請求項1又は2記載の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子分散液中の無機酸化物粒子の一次粒子のメジアン径が0.01〜5μmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法。
【請求項5】
無機酸化物粒子がケイ素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムより選ばれた少なくとも1種の元素で構成される無機酸化物粒子である請求項1〜4のいずれか一項に記載の無機酸化物粒子分散液の濃縮物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により得られる無機酸化物粒子分散液の濃縮物を乾燥することを特徴とする無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の無機酸化物粒子の製造方法により得られた無機酸化物粒子を焼成する無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法で得られた無機酸化物粒子を、更に、シリコーンオイル、シランカップリング剤、シラザンからなる群の少なくとも一つの表面処理剤により表面処理する工程を含むことを特徴とすることを特徴とする表面処理無機酸化物粒子の製造方法。

【公開番号】特開2012−6823(P2012−6823A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32764(P2011−32764)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】