説明

無機EL発光装置

【課題】無機EL素子の寿命の低下および消費電力を抑えつつ、輝度を向上する。
【解決手段】無機EL発光装置1は、一対の電極を有する無機EL素子2と、無機EL素子2の一対の電極に交流電圧を印加する駆動部3とを備え、交流電圧の波形は、半周期期間ごとに、第1の矩形波、および第1の矩形波に対して時間的に離間した第1の矩形波と同極性の第2の矩形波を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を有する無機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無機EL素子は、正弦波の交流電圧で駆動される。無機EL素子は、印加される電圧の極性が反転することにより発光する。そして、その電圧の最大値と最小値との間における変化が急であるほど発光の輝度が大きくなる。このため、正弦波の交流電圧において、周波数を大きくすれば、無機EL素子の輝度を大きくすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ただし、印加される交流電圧の周波数が大きいほど、無機EL素子の寿命は短くなる。また、交流電圧の振幅(電圧の大きさ)を大きくすれば、無機EL素子の輝度は大きくなるが、これも寿命の短縮を招く。
【0004】
そこで、図4に示すような矩形波の交流電圧により無機EL素子を駆動する方法が知られている。図4では、半周期T0/2ごとに、すなわち、時刻t2,t3,t4,…において、電圧が最大値と最小値との間で瞬時に変化する。したがって、図4に示す矩形波の交流電圧によれば、周波数および電圧の大きさが同様でも、正弦波の交流電圧よりも無機EL素子の輝度を大きくできる。
【0005】
しかしながら、図4に示す矩形波の交流電圧を無機EL素子に印加する場合、電圧を印加している状態が連続する。このため、消費電力が大きくなる。
【0006】
これに対し、消費電力を低減するため、図5に示すように、図4の波形に対して電圧を印加している時間を短くした波形の電圧が用いられることもある。図5の波形では、時刻t1〜t2間の時刻t11で電圧が最大値からゼロへと変化する。同様に、時刻t12,t13,t14,…において、電圧が最小値または最大値からゼロへと変化する。すなわち、図5の波形は、半周期T0/2ごとに、半周期T0/2より短い時間幅T1の矩形波の電圧を、極性を交互に反転させて無機EL素子に印加するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−76827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図5の波形では、電圧が最大値と最小値との間で変化する際に、移行時間Tsが生じている。すなわち、図4の波形に比べて、電圧が最大値と最小値との間で変化する際の電圧の変化が緩やかになっている。このため、無機EL素子を図5の波形の電圧で駆動した場合、図4の波形の電圧で駆動した場合よりも輝度が低下する。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、無機EL素子の寿命の低下および消費電力を抑えつつ、輝度を向上できる無機EL発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る無機EL発光装置の第1の特徴は、一対の電極を有する無機EL素子と、前記一対の電極に交流電圧を印加する駆動部とを備え、前記交流電圧の波形は、半周期期間ごとに、第1の矩形波、および前記第1の矩形波に対して時間的に離間した前記第1の矩形波と同極性の第2の矩形波を有することにある。
【0011】
本発明に係る無機EL発光装置の第2の特徴は、前記第2の矩形波は、前記第1の矩形波の開始時点から開始する前記半周期期間の終了時点をその終了時点とすることにある。
【0012】
本発明に係る無機EL発光装置の第3の特徴は、前記第2の矩形波の時間幅は、前記第1の矩形波の時間幅以下であることにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無機EL発光装置の第1の特徴によれば、駆動部は、半周期期間ごとに第1の矩形波および第2の矩形波を有する波形の交流電圧を無機EL素子に印加する。第2の矩形波を設けたことで、周波数を上げることなく、無機EL素子に印加される電圧が最大値と最小値との間で変化する際の変化を急にすることができる。これにより、無機EL素子の輝度を向上できる。また、無機EL素子に印加する電圧の大きさを上げることなく、無機EL素子の輝度を向上することも可能となる。したがって、無機EL素子の寿命の低下を抑えつつ、輝度を向上できる。一方、第2の矩形波は第1の矩形波に対して時間的に離間しているため、その間においては、駆動部は無機EL素子に電圧を印加していない状態である。このため、消費電力を抑えることができる。このように、第1の特徴によれば、無機EL素子の寿命の低下および消費電力を抑えつつ、輝度を向上できる。
【0014】
本発明に係る無機EL発光装置の第2の特徴によれば、第2の矩形波は、第1の矩形波の開始時点から開始する半周期期間の終了時点を、その終了時点とするので、第2の矩形波の終了時点と、次の半周期期間の第1の矩形波の開始時点とが一致する。これにより、無機EL素子に印加される電圧が最大値と最小値との間で変化する際の移行時間がほぼゼロとなる。この結果、効率よく無機EL素子の輝度を向上できる。
【0015】
本発明に係る無機EL発光装置の第3の特徴によれば、第2の矩形波の時間幅を、第1の矩形波の時間幅以下とすることで、第2の矩形波を設けることによる消費電力の増大を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る無機EL発光装置の構成図である。
【図2】無機EL素子の断面構造を模式的に示す図である。
【図3】無機EL発光装置の駆動部が無機EL素子に印加する電圧の波形を示す図である。
【図4】無機EL素子に印加される従来の交流電圧の波形の一例を示す図である。
【図5】無機EL素子に印加される従来の交流電圧の波形の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0018】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る無機EL発光装置の構成図、図2は、無機EL素子の断面構造を模式的に示す図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る無機EL発光装置1は、無機EL素子2と、駆動部3とを備える。
【0021】
無機EL素子2は、図2に示すように、透明電極11と、発光層12と、誘電体層13と、背面電極14とを備える。
【0022】
透明電極11は、背面電極14と一対の電極を構成する。透明電極11は、光透過性を有する。透明電極11は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等からなる透明基材と、この透明基材上に形成された導電性を有する透明導電膜とからなる。透明導電膜は、ITO(インジウム錫酸化物)等からなる。
【0023】
発光層12は、蛍光体を有し、透明電極11と背面電極14との間に交流電圧が印加されると発光する。発光層12は、透明電極11の背面に形成されている。発光層12は、蛍光体ペーストが透明電極11に塗布され乾燥することで形成される。蛍光体ペーストは、蛍光体粒子を高誘電率のバインダに分散させたものである。蛍光体は、母体となる無機組成物に微量の発光中心元素を添加したものである。無機組成物としては、ZnS、CaS等が用いられる。発光中心元素としては、例えば、Cu、Mn等の金属元素が用いられる。無機組成物と発光中心元素との組み合わせにより、発光層12の発光色が決まる。
【0024】
誘電体層13は、発光層12と背面電極14とを絶縁するためのものである。誘電体層13は、発光層12の背面に形成されている。誘電体層13は、誘電体ペーストが発光層12に塗布され乾燥することで形成される。誘電体ペーストは、チタン酸バリウム(BaTiO)等の強誘電体粒子を高誘電率のバインダに分散させたものである。
【0025】
背面電極14は、透明電極11と一対の電極を構成する。背面電極14は、誘電体層13の背面に形成されている。背面電極14は、例えば、Agペースト等の導電性ペーストが誘電体層13に塗布され乾燥することで形成される。
【0026】
駆動部3は、透明電極11と背面電極14とからなる一対の電極に交流電圧を印加して無機EL素子2を発光させる。駆動部3は、交流電源21と、高電圧発生部22と、低電圧発生部23と、タイミング発生部24とを備える。
【0027】
交流電源21は、正弦波の交流電圧を発生する。
【0028】
高電圧発生部22は、交流電源21による正弦波の交流電圧を、図4に示したような矩形波の交流電圧に変換する。さらに、高電圧発生部22は、タイミング発生部24が生成するタイミング信号に応じて電圧を変化させることで、図3に示す波形の交流電圧を無機EL素子2に印加する。
【0029】
図3に示すように、高電圧発生部22が無機EL素子2に印加する電圧は、周期T0の交流電圧である。その波形は、半周期期間C(n)(n=1,2,…)において、第1の矩形波P1(n)と、第1の矩形波P1(n)に対して時間的に離間した第2の矩形波P2(n)とを有する。第1の矩形波P1(n)と第2の矩形波P2(n)とは同極性であり、それぞれ交互に極性が反転する。図3の波形は、図5の波形に対して、第2の矩形波P2(n)を付加したものである。
【0030】
半周期期間C(n)は、第1の矩形波P1(n)の開始時点(立ち上がり時点)から開始する。すなわち、半周期期間C(1),C(2),C(3),…は、第1の矩形波P1(1),P1(2),P1(3),…の開始時点である時刻t1,t2,t3,…を、それぞれ開始時点とする。また、第2の矩形波P2(n)は、半周期期間C(n)の終了時点を、その終了時点とする。すなわち、第2の矩形波P2(1),P2(2),P2(3),…は、それぞれ時刻t2,t3,t4,…を、その終了時点(立ち下がり時点)とする。これにより、時刻t2,t3,t4,…において、電圧の極性が反転する。
【0031】
第1の矩形波P1(n)による電圧の大きさV1と第2の矩形波P2(n)による電圧の大きさV2とは略等しい。ただし、V2がV1より小さくてもよい。V1,V2は、例えば、50V〜700Vに設定される。
【0032】
第1の矩形波P1(n)と第2の矩形波P2(n)とが時間的に離間しているため、第1の矩形波P1(n)の時間幅をT1、第2の矩形波P2(n)の時間幅をT2とすると、T0/2>(T1+T2)となっている。また、T2≦T1であることが好ましい。時間幅T1,T2は、周波数f(=1/T0)に応じて設定される。周波数fは、例えば、数百Hz程度に設定される。この場合、時間幅T1は半周期T0/2の20〜30%、時間幅T2は半周期T0/2の10〜20%に設定される。なお、時間幅T1,T2は、無機EL素子2の静電容量や駆動部3の駆動能力によっても変わる。
【0033】
低電圧発生部23は、交流電源21による交流電圧を、低電圧の直流電圧に変換し、これによりタイミング発生部24を駆動させる。
【0034】
タイミング発生部24は、高電圧発生部22が図4の波形から図3の波形を生成するためのタイミング信号を生成する。タイミング発生部24は、マイクロコンピュータ等からなる。
【0035】
次に、無機EL発光装置1の動作について説明する。
【0036】
電源投入を指示されると、高電圧発生部22は、交流電源21による正弦波の交流電圧を、図4に示したような矩形波の交流電圧に変換する。
【0037】
一方、タイミング発生部24は、図3の波形を生成するためのタイミング信号を高電圧発生部22に出力する。具体的には、タイミング発生部24は、時刻t1からT1経過後の時刻t11において、オフ信号を出力する。これにより、高電圧発生部22は、時刻t11において、電圧を最大値(+V1)からゼロへと変化させる。この結果、第1の矩形波P1(1)が生成される。
【0038】
その後、タイミング発生部24は、時刻t11から(T0/2−T1−T2)経過後の時刻t21において、オン信号を出力する。これにより、高電圧発生部22は、時刻t21において、電圧をゼロから最大値(+V2=+V1)へと変化させる。その後、タイミング発生部24は、時刻t21から(T1+T2)経過後の時刻t12において、オフ信号を出力する。これにより、高電圧発生部22は、時刻t12において電圧を最小値(−V1)からゼロへと変化させる。この結果、第2の矩形波P2(1)および第1の矩形波P1(2)が生成される。
【0039】
上記のようにして、高電圧発生部22は、タイミング発生部24から入力されるタイミング信号に応じて図3に示す波形の交流電圧を発生する。高電圧発生部22は、この交流電圧を無機EL素子2の透明電極11と背面電極14との間に印加する。
【0040】
無機EL素子2では、交流電圧が印加されると、透明電極11と背面電極14との間に電界が形成される。この電界により、発光層12では、内部の電子が加速されて発光中心に衝突する。このとき、発光中心が励起され、基底状態に戻る際に発光する。発光層12が発した光は、透明電極11を透過して、外部に放射される。
【0041】
発光層12の発光は、無機EL素子2に印加される電圧が最大値と最小値との間で変化するときに生じる。すなわち、図3の時刻t2,t3,t4,…において、発光層12が発光する。
【0042】
以上説明したように、無機EL発光装置1では、駆動部3により、半周期期間C(n)ごとに第1の矩形波P1(n)および第2の矩形波P2(n)を有する波形の交流電圧を無機EL素子2に印加する。第2の矩形波P2(n)を設けたことで、周波数fを上げることなく、無機EL素子2に印加される電圧が最大値と最小値との間で変化する際の変化を急にすることができる。これにより、無機EL素子2の輝度を向上できる。また、無機EL素子2に印加する電圧の大きさを上げることなく、無機EL素子2の輝度を向上することも可能となる。したがって、無機EL素子2の寿命の低下を抑えつつ、輝度を向上できる。
【0043】
一方、第2の矩形波P2(n)は第1の矩形波P1(n)に対して時間的に離間しているため、その間においては、駆動部3は無機EL素子2に電圧を印加していない状態である。このため、消費電力を抑えることができる。
【0044】
このように、無機EL発光装置1によれば、無機EL素子2の寿命の低下および消費電力を抑えつつ、輝度を向上できる。
【0045】
また、第2の矩形波P2(n)は、半周期期間C(n)の終了時点を、その終了時点とするので、第2の矩形波P2(k)の終了時点と、次の半周期期間C(k+1)の第1の矩形波P1(k+1)の開始時点とが一致する。これにより、無機EL素子2に印加される電圧が最大値と最小値との間で変化する際の移行時間がほぼゼロとなる。この結果、効率よく無機EL素子2の輝度を向上できる。
【0046】
また、第2の矩形波P2(n)の時間幅T2を、第1の矩形波P1(n)の時間幅T1以下とすることで、第2の矩形波P2(n)を設けることによる消費電力の増大を小さく抑えることができる。
【0047】
なお、上記実施の形態では、第2の矩形波P2(n)の終了時点を、半周期期間C(n)の終了時点としたが、第2の矩形波P2(n)の終了時点を半周期期間C(n)の終了時点よりも時間的に前にしてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、無機EL素子2は分散型無機EL素子として説明したが、薄膜型無機EL素子でもよい。
【0049】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 無機EL発光装置
2 無機EL素子
3 駆動部
11 透明電極
12 発光層
13 誘電体層
14 背面電極
21 交流電源
22 高電圧発生部
23 低電圧発生部
24 タイミング発生部
P1(n) 第1の矩形波
P2(n) 第2の矩形波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極を有する無機EL素子と、
前記一対の電極に交流電圧を印加する駆動部とを備え、
前記交流電圧の波形は、半周期期間ごとに、第1の矩形波、および前記第1の矩形波に対して時間的に離間した前記第1の矩形波と同極性の第2の矩形波を有することを特徴とする無機EL発光装置。
【請求項2】
前記第2の矩形波は、前記第1の矩形波の開始時点から開始する半周期期間の終了時点を、その終了時点とすることを特徴とする請求項1に記載の無機EL発光装置。
【請求項3】
前記第2の矩形波の時間幅は、前記第1の矩形波の時間幅以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の無機EL発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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