説明

無機EL結晶化発光膜、それを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子、及びその製造方法

【課題】製造容易な青色発光無機EL素子を提供する。
【解決手段】無機EL素子1は、一対の電極3、8と、一対の電極3、8の間に設けられた無機EL結晶化発光膜6とを備えている。無機EL結晶化発光膜6は、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機EL結晶化発光膜、それを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多色表示可能な平面表示素子等として、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「無機EL素子」とする。)が盛んに研究されている(例えば、特許文献1、2等)。多色表示可能な無機EL素子を実現するためには、発光色が相互に異なる複数種類の無機EL発光膜が必要である。
【0003】
現在のところ、無機EL発光膜としては、黄橙色のエレクトロルミネッセンス光(以下、「EL光」とする。)を生じるZnS:Mn(マンガン添加硫化亜鉛)を含むもの、緑色のEL光を生じるZnS:TbOF(酸フッ化テリビウム添加硫化亜鉛)を含むもの、青緑色のEL光を生じるSrS:Ce(セリウム添加硫化ストロンチウム)を含むもの等が提案されている。
【0004】
また、青色のEL光を生じるBaAl24:Eu(ユーロピウム添加バリウムチオアルミネート)を含む無機EL結晶化発光膜も提案されている。
【特許文献1】特開2001−294852号公報
【特許文献2】特開2001−303049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記BaAl24:Eu(ユーロピウム添加バリウムチオアルミネート)は結晶化温度が高く、例えば800℃以上という高温で焼成結晶化しなければ良好な発光特性を有するBaAl24:Eu含有無機EL結晶化発光膜が得られないという問題がある。すなわち、BaAl24:Eu含有無機EL結晶化発光膜は製造が困難であるという問題がある。
【0006】
さらに、膜を形成するための基板も、例えば800℃以上といった高温に耐えうるものである必要がある。このため、膜形成用の基板として安価なガラス基板を用いることができないという問題もある。
【0007】
本発明は係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、製造容易な青色発光無機EL結晶化発光膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無機EL結晶化発光膜は電圧の印加により発光するものである。本発明に係る無機EL結晶化発光膜は、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有する。
【0009】
この構成とすることで、焼成結晶化温度が低く製造容易な青色発光無機EL結晶化発光膜を実現することができる。尚、本明細書において「青色の光」とは、波長が400nm以上470nm以下の光をいう。
【0010】
本発明に係る無機EL結晶化発光膜は酸素イオンを含有するものであってもよい。その場合、その酸素イオンの含有率が10イオン%以下であることが好ましい。無機EL結晶化発光膜の酸素イオン濃度が10%より大きいと発光効率が低下する傾向にある。
【0011】
本発明に係る無機EL結晶化発光膜において、ホスト材料は、その組成式がMSiαSβ:X(0.3≦α≦1、1≦β≦4)であることが好ましい。この構成とすることで、より発光効率の高い無機EL結晶化発光膜を実現することができる。
【0012】
本発明に係る無機EL素子は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられた無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とを備えている。無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜は、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有している。
【0013】
この構成とすることで、焼成結晶化温度が低く製造容易な青色発光無機EL素子を実現することができる。
【0014】
本発明に係る無機EL素子において、無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜は酸素イオンを含有するものであることが好ましい。その場合、その酸素イオンの含有率が10イオン%以下であることが好ましい。無機EL結晶化発光膜の酸素イオン濃度が10%より大きいと発光効率が低下する傾向にある。
【0015】
本発明に係る無機EL素子において、ホスト材料は、その組成式がMSiαSβ:X(0.3≦α≦1、1≦β≦4)であることが好ましい。この構成とすることで、より発光効率の高い無機EL素子を実現することができる。
【0016】
本発明に係る無機EL素子は、各電極と無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜との間のそれぞれに設けられ、無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜よりも高い誘電率を有する誘電層をさらに備えていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る無機EL素子は、一対の電極の一方と無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜との間に設けられ、無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とヘテロ接合した半導体膜をさらに備えていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る無機EL素子の(第1及び第2の)製造方法は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられ、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための方法である。
【0019】
本発明に係る第1の無機EL素子の製造方法は、ホスト材料と希土類金属イオンとを含有する膜を酸素を実質的に含まない雰囲気中で焼成結晶化することにより無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜を得ることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第2の無機EL素子の製造方法は、ホスト材料と希土類金属イオンとを含有する膜を硫化水素ガス雰囲気中で焼成結晶化することにより無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る無機EL結晶化発光膜は、青色のエレクトロルミネッセンス光を出射させるものであり、その結晶化温度が低いため、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は本実施形態に係る無機EL素子1の断面図である。
【0024】
本実施形態に係る無機EL素子1は、基板2と、第1の電極3と、第1の誘電体層4と、半導体膜5と、無機EL結晶化発光膜6と、第2の誘電体層7と、第2の電極8とを備えている。
【0025】
基板2は、例えばガラス(具体的にはホウ珪酸ガラス等)により形成することができる。特に、下記に説明するように本実施形態における無機EL結晶化発光膜6は低い結晶化温度を有するものであるため、基板2は比較的ガラス転移温度が低い安価なガラスにより形成されたものであってもよい。比較的ガラス転移温度が高く、高価な石英ガラス等により形成されたものである必要は必ずしもない。尚、無機EL素子1が無機EL結晶化発光膜6の発光を基板2側から出射させるものである場合、基板2は光透過性材料により形成されていることが好ましい。
【0026】
第1の電極3は、基板2上にストライプ状に形成されている。第1の電極3は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明導電性酸化物や、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等により形成することができる。また、第1の電極3の層厚は、それぞれ、例えば200nm程度とすることができる。
【0027】
第1の電極3の上には第1の誘電体層4が形成されている。この第1の誘電体層4は無機EL結晶化発光膜6への電荷供給量を増大させる機能を有するものであり、無機EL結晶化発光膜6の誘電率よりも高い誘電率を有するものであることが好ましい。具体的には、第1の誘電体層4の誘電率が10以上であることが好ましい。
【0028】
第1の誘電体層4の上には半導体膜5が形成されており、さらにその半導体膜5の上には無機EL結晶化発光膜6が形成されている。半導体膜5は、実質的に、ZnS等のn型半導体、又はCu2S等のp型半導体からなるものである。この半導体膜5は、無機EL結晶化発光膜6とヘテロ接合している。この無機EL結晶化発光膜6とヘテロ接合した半導体膜5を設けることにより無機EL結晶化発光膜6への電荷の供給効率を向上することができる。従って、高い発光効率を有する無機EL素子1を実現することができる。
【0029】
尚、半導体膜5の膜厚は、例えば、100nm以上2μm以下とすることができる。また、無機EL結晶化発光膜6の膜厚は、例えば、200nm以上1μm以下とすることができる。好ましくは、400nm以上800nm以下である。
【0030】
無機EL結晶化発光膜6の上には第2の誘電体層7が形成されている。この第2の誘電体層7は無機EL結晶化発光膜6への電荷供給量を増大させる機能を有するものであり、無機EL結晶化発光膜6の誘電率よりも高い誘電率を有するものであることが好ましい。具体的には、第2の誘電体層7の誘電率が10以上であることが好ましい。尚、第1の誘電体層4と第2の誘電体層7とは、例えばSiO2やSi34等により形成することができる。また、第1の誘電体層4と第2の誘電体層7とを、SiO2膜とSi34膜との積層により構成してもよい。第1の誘電体層4と第2の誘電体層7のそれぞれの層厚は、例えば200nm以上300nm以下程度とすることができる。
【0031】
第2の誘電体層7の上には第2の電極8が形成されている。第2の電極8は、第1の電極3の延びる方向と交差するように(典型的には、第1の電極3と直交するように)ストライプ状に形成されている。尚、第2の電極8は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明導電性酸化物や、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等により形成することができる。また、第2の電極8の層厚は、それぞれ、例えば200nm程度とすることができる。
【0032】
本実施形態に係る無機EL素子1では、無機EL結晶化発光膜6は、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有しており、青色のエレクトロルミネッセンス光を出射させるものである。上記化学式で表されるホスト材料を採用することにより、無機EL結晶化発光膜6の結晶化温度を低くすることができる。従って、容易に無機EL結晶化発光膜6を得ることができ、ひいては容易に無機EL素子1を製造することができる。
【0033】
尚、アルカリ土類金属(M)としては、具体的には、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)等が挙げられる。希土類金属(X)としては、例えば、セリウム(Ce)やEu(ユーロピウム)等が挙げられる。発光センターとしての希土類金属イオンとしては、例えば、セリウム(Ce)等が挙げられる。
【0034】
化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料は、その組成式がMSiαSβ:X(0.3≦α≦1、1≦β≦4)であることが好ましい。αが0.3未満であれば、M2S化合物が形成されやすくなり、結晶化が阻害される傾向にある。より好ましくは、0.4以上である。αが1より大きいと、蛍光特性が低下する傾向にある。より好ましくは、0.7以下である。また、βが1未満であれば、S欠陥が多く発生し、結晶化が阻害される傾向にある。より好ましくは、1.2以上である。βが4より大きいと、Sが過剰に亜酸化されてしまい、結晶化が阻害される傾向にある。より好ましくは、2.5以下である。
【0035】
また、無機EL結晶化発光膜6は、その酸素イオン含有率が10イオン%以下であることが好ましい。酸素イオン含有率が10イオン%より高いと発光効率が低下する傾向にある。
【0036】
次に、本実施形態に係る無機EL素子1の製造方法について説明する。尚、以下に示す製造方法は単なる例示であり、本発明に係る無機EL素子は以下に示す製造方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0037】
まず、ガラス等からなる基板2の上に、例えば、実質的にインジウムスズ酸化物(ITO)からなるITO膜を形成する。ITO膜の形成は、例えばスパッタ法等により行うことができる。得られたITO膜をフォトリソグラフィー法等を用いて所定の形状にパターニングすることにより第1の電極3を得る。
【0038】
第1の電極3の上に、例えば、SiO2やSi34等からなる第1の誘電体層4をスパッタ法や蒸着法等により形成する。形成した第1の誘電体層4の上に、例えば、ZnS等からなる半導体膜5を形成する。半導体膜5の形成は、例えば、蒸着法(具体的には、例えば、電子ビーム蒸着法)等により行うことができる。
【0039】
半導体膜5の上に、例えば、蒸着法(具体的には、例えば、電子ビーム蒸着法)等により無機EL結晶化発光膜6を形成する。無機EL結晶化発光膜6の成膜時には、その成膜雰囲気の酸素濃度が低いことが好ましい。そうすることによって、酸素イオン含有率が低く、発光効率の高い無機EL結晶化発光膜6を得ることができる。具体的には、成膜雰囲気の酸素分圧を3.99×10-2Pa(3×10-5Torr)以下とすることが好ましい。さらに好ましい酸素分圧は、1.33×10-2Pa(1×10-5Torr)以下である。
【0040】
次に、減圧雰囲気中(6.65×10-2Pa(5×10-5Torr)以下、さらには3.99×10-2Pa(3×10-5Torr)以下)にて焼成することにより無機EL結晶化発光膜6の結晶化を促進させる(焼成結晶化工程)。この焼成結晶化工程は実質的に酸素を含まない雰囲気中において行うことが好ましい。具体的には、酸素分圧が6.65×10-2Pa(5×10-5Torr)以下、さらには3.99×10-2Pa(3×10-5Torr)以下の雰囲気中で行うことが好ましい。そうすることによって、酸素イオン含有率が低く、発光効率の高い無機EL結晶化発光膜6を得ることができる。
【0041】
本実施形態における無機EL結晶化発光膜6は低い焼成結晶化温度を有するものであるため、本実施形態における焼成結晶化工程は比較的容易に、且つ安価な設備で実施可能である。
【0042】
また、同様に、酸素イオン含有率の低い無機EL結晶化発光膜6を得る観点から焼成結晶化工程を硫化水素(H2S)雰囲気中で(例えば、硫化水素を導入した減圧雰囲気中で)行うことがさらに好ましい。そうすることによって、良好な結晶状態の無機EL結晶化発光膜6を得ることができ、発光効率の高い無機EL素子1を実現することができる。
【0043】
焼成結晶化工程後、無機EL結晶化発光膜6の上に第2の誘電体層7をスパッタ法や蒸着法等により形成する。最後に、第2の誘電体層7の上に、蒸着法やスパッタ法等により導電性の膜を形成し、フォトリソグラフィー法等を用いて所望の形状にパターニングすることにより第2の電極8を形成することにより無機EL素子1を完成させることができる。
【0044】
尚、本実施形態では、パッシブマトリクス型の無機EL素子1を例に挙げて本発明の一例を説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の無機EL素子に限定されるものではない。アクティブマトリクス型の無機EL素子、セグメント型の無機EL素子等にも好適に適用されるものである。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
上記実施形態において説明した無機EL素子1と同様の無機EL素子を実際に作製し、実施例1とした。具体的には、以下の工程で実施例1に係る無機EL素子を作製した。
【0046】
まず、ガラス製の基板2の上に、実質的にインジウムスズ酸化物(ITO)からなるITO膜を形成した。ITO膜の形成は、スパッタ法等により行った。得られたITO膜をフォトリソグラフィー法を用いて所定の形状にパターニングすることにより第1の電極3を得た。
【0047】
第1の電極3の上に、スパッタ法を用いて、SiO2膜とSi34膜との積層からなる第1の誘電体層4を形成した。SiO2膜の膜厚は、40nm、Si34膜の膜厚は200nmとした。
【0048】
形成した第1の誘電体層4の上に、実質的にZnSからなる半導体膜5を形成した。半導体膜5の形成は電子ビーム蒸着法により行った。半導体膜5の膜厚は100nmとした。
【0049】
半導体膜5の上に、電子ビーム蒸着法により、化学式化学式Ba2SiS4:Ceで表される無機EL結晶化発光膜6を形成した。無機EL結晶化発光膜6の形成は、電子ビーム蒸着法により行った。無機EL結晶化発光膜6の成膜は、酸素分圧が1.33×10-2Pa(1×10-5Torr)の減圧雰囲気中で行った。無機EL結晶化発光膜6の膜厚は、600nmとした。
【0050】
次に、減圧雰囲気中(3.99×10-2Pa(3×10-5Torr)、酸素分圧:1.33×10-2Pa(1×10-5Torr))にて焼成することにより無機EL結晶化発光膜6の結晶化を促進させた。焼成結晶化の温度は、600℃とした。
【0051】
焼成結晶化工程後、無機EL結晶化発光膜6の上に、SiO2膜とSi34膜との積層からなる第2の誘電体層7をスパッタ法により形成した。SiO2膜の膜厚は、40nm、Si34膜の膜厚は200nmとした。最後に、第2の誘電体層7の上に、スパッタ法によりアルミニウムの膜を形成し、フォトリソグラフィー法等を用いて所望の形状にパターニングすることにより第2の電極8を形成することにより、本実施例1に係る無機EL素子を完成させた。
【0052】
得られた無機EL素子の無機EL結晶化発光膜6の組成式をEDAX社製Genesis2000により分析した。その結果、本実施例1における無機EL結晶化発光膜6の組成式はBaSi2.62.8であった。
【0053】
得られた無機EL素子の電子線励起(Cathode Luminessence:CL)スペクトルを、日本電子社製JXA−8800Rにより測定した。尚、CLスペクトルの測定は、電子線源加速電圧:20kV、フィラメント電流:350nAとした。
【0054】
図2は本実施例1に係る無機EL素子の電子線励起スペクトルを表すグラフである。
【0055】
図2に示すように、本実施例1に係る無機EL素子は、600℃という非常に低い温度で結晶焼成化したものであるにかかわらず、比較的強い発光強度の青色のルミネッセンス光を出射するものであることがわかった。
【0056】
(実施例2)
無機EL結晶化発光膜6の焼成結晶化工程を除いては上記実施例1と同様の工程で実施例2に係る無機EL素子を形成した。
【0057】
実施例2では、500℃の減圧雰囲気中(6.65×10-2Pa(5×10-5Torr)、酸素分圧:1.33×10-2Pa(1×10-5Torr))にて焼成することにより無機EL結晶化発光膜6の結晶化を促進させた。
【0058】
(実施例3)
無機EL結晶化発光膜6の焼成結晶化工程を除いては上記実施例1と同様の工程で実施例2に係る無機EL素子を形成した。
【0059】
実施例3では、630℃の減圧雰囲気中(3.99×10-2Pa(3×10-5Torr)、酸素分圧:1.33×10-2Pa(1×10-5Torr))にて焼成することにより無機EL結晶化発光膜6の結晶化を促進させた。
【0060】
(実施例4)
無機EL結晶化発光膜6の焼成結晶化工程を除いては上記実施例1と同様の工程で実施例2に係る無機EL素子を形成した。
【0061】
実施例3では、630℃の硫化水素雰囲気中(3.99×10-2Pa(3×10-5Torr)、硫化水素分圧:1.33×10-2Pa(1×10-5Torr))にて焼成することにより無機EL結晶化発光膜6の結晶化を促進させた。
【0062】
実施例2〜4に係る無機EL素子の作製後、各素子のX線回折強度を測定した。X線回折強度の測定は、ブルッカー社製MXP18を用いて行った。実施例2〜4に係る無機EL素子のBa2SiS4:Ceに該当するピークの回折強度(cps)は、それぞれ5400、900、420であった。
【0063】
図3は実施例2〜4に係る無機EL素子のX線回折強度の測定結果を表すグラフである。
【0064】
X線回折強度の測定から、硫化水素雰囲気中で無機EL結晶化発光膜6の焼成結晶化工程を行うことにより、より良好な結晶状態の無機EL結晶化発光膜6が得られることがわかった。
【0065】
続いて、実施例2〜4に係る無機EL素子の電子線励起(Cathode Luminessence:CL)スペクトルを、日本電子社製JXA−8800Rより測定した。尚、CLスペクトルの測定は、電子線源の加速電圧:20kV、フィラメント電流:350nAとした。
【0066】
実施例2〜4に係る無機EL素子の電子線励起(Cathode Luminessence:CL)強度は、それぞれ60000、154、70(相対強度:任意単位)であった。
【0067】
図4は実施例2〜4に係る無機EL素子の電子線励起スペクトルを表すグラフである。
【0068】
このCLスペクトル解析の結果からも、硫化水素雰囲気中で無機EL結晶化発光膜6の焼成結晶化工程を行うことにより、より良好な結晶状態の無機EL結晶化発光膜6が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明に係る無機EL結晶化発光膜は、製造容易であるため、携帯電話、PDA、テレビ、電子ブック、モニター、電子ポスター、時計、電子棚札、非常案内等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】無機EL素子1の断面図である。
【図2】実施例1に係る無機EL素子の電子線励起スペクトルを表すグラフである。
【図3】実施例2〜4に係る無機EL素子のX線回折強度の測定結果を表すグラフである。
【図4】実施例2〜4に係る無機EL素子の電子線励起スペクトルを表すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 無機EL素子
2 基板
3 第1の電極
4 第1の誘電体層
5 半導体膜
6 無機EL結晶化発光膜
7 第2の誘電体層
8 第2の電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により発光する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜であって、
化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、
上記ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、
を含有する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜。
【請求項2】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜において、
上記無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜は、酸素イオンを含有し、その酸素イオンの含有率が10イオン%以下である無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜。
【請求項3】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜において、
上記ホスト材料は、その組成式がMSiαSβ:X(0.3≦α≦1、1≦β≦4)である無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜。
【請求項4】
一対の電極と、該一対の電極の間に設けられた無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子であって、
上記無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜は、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、該ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有している無機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項4に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜は、酸素イオンを含有し、その酸素イオンの含有量が10イオン%以下である無機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項4に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記ホスト材料は、その組成式がMSiαSβ:X(0.3≦α≦1、1≦β≦4)である無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜。
【請求項7】
請求項4に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記各電極と上記無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜との間のそれぞれに設けられ、該無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜よりも高い誘電率を有する誘電層をさらに備えた無機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項4に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記一対の電極の一方と上記無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜との間に設けられ、該無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とヘテロ接合した半導体膜をさらに備えた無機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
一対の電極と、該一対の電極の間に設けられ、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、該ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための方法であって、
上記ホスト材料と上記希土類金属イオンとを含有する膜を酸素を実質的に含まない雰囲気中で焼成結晶化することにより無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜を得ることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
一対の電極と、該一対の電極の間に設けられ、化学式M2SiS4:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、該ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜とを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための方法であって、
上記ホスト材料と上記希土類金属イオンとを含有する膜を硫化水素ガス雰囲気中で焼成結晶化することにより無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜を得ることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−211086(P2007−211086A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30937(P2006−30937)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】