説明

無段変速制御装置

【課題】車両を発進させる際に、車両への積載量が多かったり、路面が滑りやすい等の状態であっても、発進クラッチの連結を良好にすることができ、発進クラッチの長寿命化を図ることができる無段変速制御装置を提供する。
【解決手段】車速が所定の車速よりも低い場合に、低車速状態であると判定して信号Sbを出力する低車速判定部202と、スロットルセンサ178からの検知信号Scが示すスロットル開度が所定の開度以上である場合に、信号Sdを出力するスロットル開度判定部204と、信号Sb及び信号Sdの入力が所定の時間以上継続し、且つ、現在の変速モードが低出力モードに設定されている場合に、モード切替信号Seを出力するクラッチ保護制御部206と、モード切替信号Seの入力に基づいて、現在の変速モードを低出力モードから変速比がLOWレシオとなる高出力モードに変更する変速比制御部208とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速制御装置に関し、例えば無段変速機の出力側に遠心式クラッチを備えた車両(自動二輪車等)に用いて好適な無段変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、機関の出力側に無段変速機を接続し、この無段変速機の出力側に発進クラッチ(遠心式クラッチ等)を備えて駆動輪へ動力を伝達するようにした車両用無段変速制御装置が実用化されている。
【0003】
その中で、従来においては、発進時の変速比の情報を走行モード毎に備え、車両発進時のスロットル開度が大きくなった場合に、低い変速比(低トルク)にして発進することで、エンジン回転数のオーバーシュートを低減するようにした装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3194641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両を発進させる際に、車両への積載量が多かったり、路面が滑りやすい等の状態がある。このような状態で、低トルクで発進した場合、発進に時間がかかり、発進クラッチに過大な負荷がかかったり、発進クラッチが滑るなどして、発進クラッチに発熱を引き起こしたり、耐久性が劣化するおそれがある。
【0006】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、車両を発進させる際に、車両への積載量が多かったり、路面が滑りやすい等の状態であっても、発進クラッチの連結を良好にすることができ、発進クラッチの長寿命化を図ることができる無段変速制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、高出力モードで発進できない、あるいは低車速状態の場合に、内燃機関の動力を低下するように制御することで、発進クラッチの連結を解除させることで、発進クラッチを保護することができ、発進クラッチの長寿命化を図ることができる無段変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 本発明の請求項1に記載の無段変速制御装置は、運転者のアクセルの操作に応じて、スロットル弁(166)を開閉することで内燃機関(28)へ供給する空気量を可変とするスロットル駆動手段(176)と、内燃機関(28)の動力が入力される駆動軸(36)に設けられた駆動プーリ(102)と従動軸(104)に設けられた従動プーリ(106)との間にベルト(108)が掛け渡され、車両(12)の運転状態に応じて両プーリ(102、104)の巻きがけ径を可変として変速比を変化させる変速比可変制御手段(200)を備えるベルト式無段変速機(30)と、前記従動軸(104)の回転による遠心力にて連結する乾式遠心式クラッチであって、駆動輪(26)へ動力を伝達する発進クラッチとを有する車両(12)に使用される無段変速制御装置であって、前記変速比可変制御手段(200)は、車速検出手段(188)から所定の低車速状態が検知され、前記スロットル弁(166)の開度が所定の開度以上の状態が所定の時間(Ts)以上継続したことを検知して、前記ベルト式無段変速機(30)の変速モードを変速比がLOWレシオとなる高出力モードに変更させることを特徴とする。
【0009】
[2] 請求項2に記載の発明は、請求項1記載の無段変速制御装置において、前記変速比可変制御手段(200)は、前記車両(12)の車速が前記所定の車速よりも遅い場合に、低車速状態であると判定する低車速判定部(202)と、前記低車速判定部(202)が低車速状態と判定し、且つ、走行モードが低出力モードに設定されているとき、高出力モードに切り替えるためのモード切替信号(Se)を出力するクラッチ保護制御部(206)と、前記高出力モード切替信号の入力に基づいて、変速モードを現在のモードよりも高出力となる高出力モードに変更する変速比制御部(208)とを有することを特徴とする。
【0010】
[3] 請求項3に記載の発明は、請求項1記載の無段変速制御装置において、前記変速比可変制御手段(200)は、前記車両(12)が低車速状態あるいは停車状態であって、前記スロットル弁(166)が所定開度以上の状態が所定時間維持され、且つ、走行モードが高出力モードに設定されているとき、発進クラッチ(126)の保護を指示するクラッチ保護信号(Sf)を出力するクラッチ保護制御部(206)と、前記スロットル駆動手段(176)における前記スロットル弁(166)の開度を、少なくともスロットルグリップ(174)の開度に応じて制御するスロットル制御部(180)とを有し、前記スロットル制御部(180)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、前記スロットル駆動手段(176)により前記スロットル弁(166)を閉じる方向に制御し、前記発進クラッチ(126)は、前記スロットル弁(166)の閉じ動作に基づいて連結が解除されることを特徴とする。
【0011】
[4] 請求項4に記載の本発明は、請求項3記載の無段変速制御装置において、前記ベルト式無段変速機は、前記駆動軸(36)の回転に伴って作動し、前記発進クラッチ(126)を冷却する冷却手段を備え、前記スロットル制御部(180)は、吸気管(160)のバイパス通路(168)を開閉するアイドル空気量制御弁(170)を制御し、前記冷却手段は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づく前記スロットル制御部(180)による前記アイドル空気量制御弁(170)を開く方向への制御を含むことを特徴とする。
【0012】
[5] 請求項5に記載の本発明は、請求項3又は4記載の無段変速制御装置において、前記スロットル制御部(180)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、前記スロットル弁(166)を漸次閉じる方向に前記スロットル駆動手段(176)を制御することを特徴とする。
【0013】
[6] 請求項6に記載の本発明は、請求項1記載の無段変速制御装置において、前記変速比可変制御手段(200)は、前記車両(12)が低車速状態あるいは停車状態であって、前記スロットル弁(166)が所定開度以上の状態が所定時間維持され、且つ、走行モードが高出力モードに設定されているとき、発進クラッチ(126)の保護を指示するクラッチ保護信号(Sf)を出力するクラッチ保護制御部(206)を有し、前記車両の内燃機関(28)を制御するエンジン制御装置(194)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、点火時期を遅角、又は、燃料噴射量を減らして、前記内燃機関(28)の動力を低下させ、前記発進クラッチ(126)は、前記内燃機関(28)の動力低下に基づいて連結が解除されることを特徴とする。
【0014】
[7] 請求項7に記載の本発明は、請求項2記載の無段変速制御装置において、前記クラッチ保護制御部(206)は、前記車両(12)が低車速状態あるいは停車状態であって、前記スロットル弁(166)が所定開度以上の状態が所定時間維持され、且つ、走行モードが高出力モードに設定されているとき、発進クラッチ(126)の保護を指示するクラッチ保護信号(Sf)を出力し、前記車両の内燃機関(28)を制御するエンジン制御装置(194)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、点火時期を遅角、又は、燃料噴射量を減らして、前記内燃機関(28)の動力を低下させ、前記発進クラッチは、前記内燃機関(28)の動力低下に基づいて連結が解除されることを特徴とする。
【0015】
[8] 請求項8に記載の本発明は、請求項6又は7記載の無段変速制御装置において、前記エンジン制御装置(194)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、内燃機関(28)をストールさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
(1) 請求項1に係る本発明によれば、車両がスロットル開状態で、且つ、低車速状態(あるいは停車状態)である場合に、変速モードを低出力モードから変速比がLOWレシオとなる高出力モードに切り替えるようにしたので、エンジン回転数が高まり、発進クラッチの連結が良好となる。これにより、発進クラッチに過大な負荷がかかったり、発進クラッチが滑る等の現象が生じなくなり、発進クラッチを保護することができる。これは、発進クラッチの長寿命化につながる。
【0017】
(2) 請求項2に係る本発明によれば、車両がスロットル開状態で、且つ、低車速状態(あるいは停車状態)である場合に、変速モードを低出力モードから高出力モードに切り替えるようにしたので、エンジン回転数が高まり、発進クラッチの連結が良好となる。これにより、発進クラッチに過大な負荷がかかったり、発進クラッチが滑る等の現象が生じなくなり、発進クラッチを保護することができる。これは、発進クラッチの長寿命化につながる。
【0018】
(3) 請求項3に係る本発明によれば、高出力モードで発進できない場合には、スロットルグリップが開けられたままであっても、スロットル制御部により、吸気弁を閉じ方向に制御することで、発進クラッチの連結を解除し、発進クラッチを保護することができる。また、ベルト式無段変速機から発する音や内燃機関の出力の変化で、運転者に内燃機関の出力が低下したこと、発進クラッチの連結が解除されたことを知らせることができる。
【0019】
(4) 請求項4に係る本発明によれば、駆動軸が回転中において、吸気弁が全閉のときにバイパス通路を開くことにより、駆動軸の回転に伴う発進クラッチの冷却を促進させることができる。
【0020】
(5) 通常、登坂等で急激に駆動力がなくなると、車両が後退するようになるが、請求項5に係る本発明によれば、クラッチ保護信号の入力に基づいて、スロットル弁を漸次閉じるように制御するようにしたので、急激に駆動力がなくなるということがなく、登坂等での車両の後退を回避することができる。
【0021】
(6) 請求項6に係る本発明によれば、高出力モードで発進できない、あるいは低車速状態の場合に、内燃機関の動力を低下するように制御することで、発進クラッチの連結を解除し、発進クラッチを保護することができる。また、内燃機関から発する音や内燃機関の出力の変化で、運転者に内燃機関の出力が低下したこと、発進クラッチの連結が解除されたことを知らせることができる。
【0022】
(7) 請求項7に係る本発明によれば、高出力モードで発進できない、あるいは低車速状態の場合に、内燃機関の動力を低下するように制御することで、発進クラッチの連結を解除し、発進クラッチを保護することができる。また、内燃機関から発する音や内燃機関の出力の変化で、運転者に内燃機関の出力が低下したこと、発進クラッチの連結が解除されたことを知らせることができる。
【0023】
(8) 請求項8に係る本発明によれば、高出力モードで発進できない、あるいは低車速状態の場合に、内燃機関をストール、すなわち、エンストさせるようにしたので、無駄な内燃機関の出力を回避することができ、燃費を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態に係る無段変速制御装置が設置される自動二輪車の一例を示す斜視図である。
【図2】Vベルト式無段変速機を示す断面図である。
【図3】エンジンの吸気管及び排気管回りの制御系を示すブロック図である。
【図4】本実施の形態に係る無段変速制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】スロットル弁を閉じる方向への制御のパターン例を示すグラフである。
【図6】変速マップの一例を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る無段変速制御装置での変速モードの変更処理を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態に係る無段変速制御装置でのクラッチ保護処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る無段変速制御装置を例えば自動二輪車に適用した実施の形態例を図1〜図8を参照しながら説明する。
【0026】
先ず、本実施の形態に係る無段変速制御装置10を搭載した自動二輪車12について図1を参照しながら説明する。
【0027】
自動二輪車12は、図1に示すように、車体前部14と車体後部16とが低いフロア部18を介して連結されて構成されている。車体前部14は、その上部に、ハンドル20が回転自在に取り付けられ、下部に前輪22が軸支されている。車体後部16は、その上部にシート24が取り付けられ、下部に後輪26が軸支されている。
【0028】
また、自動二輪車12には、図2に示すように、後輪26の前方に配置されるエンジン28(内燃機関)、該エンジン28及び後輪26間に設けられるVベルト式無段変速機30とで構成されるパワーユニット32を有する。パワーユニット32は、自動二輪車12の車体フレーム(図示せず)に搭載されるものであり、パワーユニット32の後部右側に配置される後輪26がパワーユニット32の後部に軸支される。
【0029】
エンジン28のエンジン本体34は、後輪26の回転軸線と平行な回転軸線を有するクランクシャフト36(駆動軸)を回転自在に支承するクランクケース38と、クランクケース38に結合されるシリンダブロック40と、クランクケース38と反対側でシリンダブロック40に結合されるシリンダヘッド42と、シリンダブロック40と反対側でシリンダヘッド42に結合されるヘッドカバー44とを備える。
【0030】
シリンダブロック40は、該シリンダブロック40に設けられるシリンダボア46の軸線、すなわち、シリンダ軸線C1が自動二輪車12の前後方向に沿ってわずかに前上がりとして略水平となるように配置される。また、クランクケース38は、上述のシリンダ軸線C1を含むと共に、該クランクシャフト36の軸線に直交する平面で結合される一対のケース半体38a及び38bからなり、一対のケース半体38a及び38bのうち一方のケース半体38a及びクランクシャフト36間にボールベアリング48が介装され、他方のケース半体38b及びクランクシャフト36間には、ローラベアリング50と、該ローラベアリング50よりも外方に配置される環状のシール部材52とが介装される。
【0031】
シリンダヘッド42と、前記シリンダボア46に摺動自在に嵌合されるピストン54との間には燃焼室56が形成され、この燃焼室56への吸気を制御する吸気弁(図示せず)並びに燃焼室56からの排気を制御する排気弁(図示せず)は、クランクシャフト36の回転軸線に直交する平面への投影図上で略V字状に並ぶようにしてシリンダヘッド42に配設される。また、燃焼室56に臨む点火プラグ58が、自動二輪車12の進行方向前方を向いた状態でシリンダヘッド42の左側側面に取付けられる。
【0032】
シリンダヘッド42及びヘッドカバー44間には、クランクシャフト36の軸線と平行な軸線を有してシリンダヘッド42に回転自在に支承されると共に、吸気用カム60及び排気用カム62を有するカムシャフト64を含む動弁機構66が前記吸気弁及び排気弁を開閉駆動するようにして収容される。
【0033】
カムシャフト64の一端部には被動スプロケット68が固定される。一方、クランクシャフト36においてボールベアリング48よりも外方側で被動スプロケット68に対応する位置には第1駆動スプロケット70が固定されており、第1駆動スプロケット70及び被動スプロケット68には、無端状のカムチェーン72が巻掛けられ、カムチェーン72は、シリンダブロック40、シリンダヘッド42及びヘッドカバー44にわたって形成されたチェーン室74内に走行可能に収納される。このような第1駆動スプロケット70、被動スプロケット68及びカムチェーン72により、クランクシャフト36の回転数の1/2の回転数でカムシャフト64が回転駆動される。
【0034】
第1駆動スプロケット70よりも外方側でクランクシャフト36には第2駆動スプロケット76が固定される。第2駆動スプロケット76よりも外方には、クランクケース38の右側面に取付けられる右カバー78に固定されるステータ80と、該ステータ80を囲繞するようにしてクランクシャフト36に固定されるアウターロータ82とを備える発電機84が配置されている。
【0035】
このVベルト式無段変速機30は、エンジン本体34の一部を側方から覆ってエンジン本体34に連設されると共に、後輪26の左側まで延設される伝動ケース90内の収容室92に収容されるものであり、伝動ケース90は、クランクケース38を構成する一対のケース半体38a及び38bのうち他方のケース半体38bに一体に連なる内側ケース94と、該内側ケース94を外側から覆うようにして内側ケース94に締結される外側ケース96と、外側ケース96内で内側ケース94の後部に締結される減速機ケース98とからなり、内側ケース94及び減速機ケース98と外側ケース96との間に収容室92が形成され、内側ケース94及び減速機ケース98間にはギヤ室100が形成される。
【0036】
Vベルト式無段変速機30は、クランクケース38から収容室92内に突入するクランクシャフト36の他端部に装着される駆動プーリ装置102と、クランクシャフト36と平行な軸線を有して内側ケース94及び減速機ケース98で回転自在に支承される出力軸104(従動軸)に装着される従動プーリ装置106と、駆動プーリ装置102から従動プーリ装置106に動力を伝達する無端状のVベルト108とで構成される。
【0037】
駆動プーリ装置102は、クランクシャフト36に固定された駆動側固定プーリ半体109と、該駆動側固定プーリ半体109に対して接近・離間可能な駆動側可動プーリ半体110と、変速指令に応じて駆動側固定プーリ半体109及び駆動側可動プーリ半体110間の距離を変化させるアクチュエータとしての電動モータ111とを備える。電動モータ111は、図4に示すように、本実施の形態に係る無段変速制御装置10の変速比可変制御部200によって駆動される。すなわち、変速比可変制御部200は、エンジン制御装置(ECU194)からの自動二輪車12の運転状態に関する情報に応じて両プーリの巻きがけ径を可変として変速比を変化させる。通常、変速比可変制御部200は、変速モードを低出力モード(例えばDモード)に設定して、自動二輪車12の運転状態に関する情報に応じて変速比を可変する。低出力モードとは、変速域のエンジン回転数を低く抑えて、燃費、排気エミッション、静粛性を向上させたモードである。
【0038】
図2に示すように、従動プーリ装置106は、出力軸104(従動プーリ軸)との間にニードルベアリング及びボールベアリングを介装して該出力軸104を同軸に囲繞する内筒112と、軸線まわりの相対回動並びに軸線方向の相対移動を可能として内筒112を摺動可能に嵌合させる外筒114と、内筒112に固定される従動側固定プーリ半体116と、該従動側固定プーリ半体116に対向して外筒114に固定される従動側可動プーリ半体118と、該従動側可動プーリ半体118及び従動側固定プーリ半体116間の相対回転位相差に応じて、従動側固定プーリ半体116及び従動側可動プーリ半体118間に軸方向の分力を作用させるようにして内筒112及び外筒114間に設けられるトルクカム機構120と、従動側可動プーリ半体118を従動側固定プーリ半体116との間に挟む位置で内筒112に固定されるばね受け部材122と、外筒114を囲繞して従動側可動プーリ半体118及びばね受け部材122間に縮設されるコイルスプリング124と、エンジン回転数が所定回転数を超えるのに伴って動力伝達状態となるようにして内筒112及び出力軸104間に設けられる遠心クラッチ126(発進クラッチ)とを備える。
【0039】
そして、駆動プーリ装置102における駆動側固定プーリ半体109及び駆動側可動プーリ半体110の相対向する円錐面間と、従動プーリ装置106における従動側固定プーリ半体116及び従動側可動プーリ半体118の相対向する円錐面間とにVベルト108が挟まれている。
【0040】
クランクシャフト36には、該クランクシャフト36を囲繞する円筒状のスリーブ128が装着されており、駆動側可動プーリ半体110はスリーブ128に軸方向スライド可能に支承される。また、スリーブ128を囲繞する円筒状のねじ軸130が伝動ケース90の内側ケース94に固定されており、ねじ軸130に螺合されるナット132が、軸方向相対移動を可能とすると共に、軸線回りの相対回転が阻止されるようにしてスリーブ128を同軸に囲繞しつつ駆動側可動プーリ半体110に結合される支持筒134に、軸方向相対移動が阻止されるようにして回転自在に支承される。また、ナット132には被動ギヤ136が設けられており、この被動ギヤ136に、電動モータ111の出力が減速ギヤ機構138を介して伝達される。
【0041】
このような駆動プーリ装置102によれば、電動モータ111の作動に応じてナット132、支持筒134及び駆動側可動プーリ半体110がクランクシャフト36の軸線方向に進退作動し、それにより駆動側固定プーリ半体109及び駆動側可動プーリ半体110間の間隔が調節されることになる。すなわち、電動モータ111の作動により変速制御することで、より精密な変速制御を可能としている。
【0042】
また、減速機ケース98及び内側ケース94には、後輪26の車軸140が回転自在に支承されており、伝動ケース90から突出した車軸140の端部は、エンジン本体34に結合されて後輪26の右側に配置されるアーム142に回転自在に支承される。
【0043】
ギヤ室100内には、出力軸104及び車軸140間に設けられる減速機構144(減速ギヤ列)が収容されており、この減速機構144は、出力軸104に設けられる第1ギヤ146と、出力軸104及び車軸140と平行にして内側ケース94及び減速機ケース98に回転自在に支承される中間軸148に設けられて第1ギヤ146に噛合する第2ギヤ150と、中間軸148に設けられる第3ギヤ152と、第3ギヤ152に噛合して車軸140に設けられる第4ギヤ154とからなる。
【0044】
伝動ケース90における外側ケース96の駆動プーリ装置102に対向する部分の側壁には、収容室92内に冷却空気を取り入れるための外気取り入れ口156が設けられており、駆動プーリ装置102における駆動側固定プーリ半体109の外周には、外気取り入れ口156から取り入れた冷却空気を収容室92内に分散させるための冷却ファン158が一体に設けられる。
【0045】
さらに、自動二輪車12のエンジン28には、図3に模式的に示すように、吸気管160及び排気管162が設けられ、エンジン28とエアクリーナ163間に吸気管160が配管されている。吸気管160に設けられたスロットルボディ164には、スロットル弁166と、該スロットル弁166を迂回してスロットル弁166の両側で吸気管160を連結するバイパス通路168と、バイパス通路168を開閉するアイドル空気量制御弁170とが設けられる。吸気管160上で、エンジン28とスロットルボディ164との間には燃料噴射弁172が設けられる。
【0046】
スロットル弁166は、スロットルグリップ174の回動操作に応じてスロットル駆動機構176(スロットル駆動手段)の駆動によって回動し、その回動量(吸気弁の開度)がスロットルセンサ178で検知される。すなわち、スロットル駆動機構176は、運転者のスロットルグリップ174の操作に応じて、スロットル弁166を開閉することでエンジン28へ供給する空気量を可変とする。スロットル駆動機構176は、電子スロットル制御部180によって制御される。すなわち、電子スロットル制御部180は、スロットル駆動機構176における吸気弁の開度を、少なくともスロットルグリップ174の回動操作に応じて制御する。
【0047】
エンジン28には、エンジン冷却水温を検知する水温センサ182が設けられ、吸気管160には、吸気負圧を検知するPBセンサ184が設けられる。シリンダヘッド42又は排気管162には、排気中の酸素濃度を検知する酸素センサ186が設けられる。酸素センサ186は、排気管162のエンジン28近傍又はシリンダヘッド42に取り付けることで、ヒータの設置を省略することができる。また、エンジン28には、減速機構144の出力ギヤの回転数から車速を検知する車速センサ188が設けられる。スタータスイッチ190は、イグニッションキーの操作によりエンジン28を始動させるスイッチである。さらに、エアクリーナ163の吸気管160から遠い位置には、大気圧センサ192が設けられる。なお、大気圧センサ192を省いて、PBセンサ184の検知出力に基づいて大気圧を推定するようにしてもよい。
【0048】
マイクロコンピュータ(CPU)を有するエンジン制御装置(エンジン・コントロール・ユニット:ECU194)には、スロットルセンサ178、水温センサ182、PBセンサ184及び酸素センサ186による検知信号と、スタータスイッチ190によるエンジン始動信号及びエンジン停止信号が入力される。ECU194は、入力された検知信号に基づいて、アイドル空気量制御弁170の開度と燃料噴射弁172による燃料噴射量とを算出し、アイドル空気量制御弁170及び燃料噴射弁172にそれぞれ入力する。
【0049】
そして、本実施の形態に係る無段変速制御装置10は、図4に示すように、上述した変速比可変制御部200を有する。
【0050】
変速比可変制御部200は、自動二輪車12が所定の低車速状態であって、スロットル弁166の開度が所定の開度以上の状態が所定時間以上継続したことを検知して、Vベルト式無段変速機30の変速モードを高出力モードに変化させる。
【0051】
具体的には、変速比可変制御部200は、上述した電子スロットル制御部180と、低車速判定部202と、スロットル開度判定部204と、クラッチ保護制御部206と、変速比制御部208とを有する。
【0052】
低車速判定部202は、車速センサ188からの検知信号Saが示す車速が所定の車速よりも低い場合に、低車速状態であると判定して、低車速状態信号Sbを出力する。
【0053】
スロットル開度判定部204は、スロットルセンサ178からの検知信号Scが示すスロットル開度が所定の開度(しきい値Th)以上である場合に、高開度検出信号Sdを出力する。
【0054】
クラッチ保護制御部206は、少なくとも低車速判定部202からの低車速状態信号Sbの入力(低車速状態であることを判定)が所定の監視時間Ts以上継続し、且つ、現在の走行モードが低出力モード(例えばDモード)に設定されている場合に、高出力モード(例えばSモード)に切り替えることを指示するためのモード切替信号Seを出力する。本実施の形態では、低車速判定部202からの低車速状態信号Sbの入力及びスロットル開度判定部204からの高開度検出信号Sdの入力が所定の監視時間Ts以上継続し、且つ、現在の変速モードが低出力モードに設定されている場合に、モード切替信号Seを出力するようにしている。
【0055】
変速比制御部208は、クラッチ保護制御部206からのモード切替信号Seの入力に基づいて、現在の変速モードを低出力モード(Dモード)から高出力モード(Sモード)に変更する。これにより、変速比可変制御部200は、高出力モード下において、車両の運転状態に関する情報に応じて変速比を可変する。
【0056】
Dモードは、上述したように、変速域のエンジン回転数を低く抑えて、燃費、排気エミッション、静粛性を向上させたモードであり、LOWレシオが例えば2.45、ストール回転数が例えば4200rpm、後輪駆動力が例えば1010Nに設定される。
【0057】
Sモードは、変速域のエンジン回転数をDモードよりも高く設定すると共に、LOWレシオをより低速側に設定することにより、動力性能(例えば加速性能、登坂性能)を重視したモードであり、LOWレシオが例えば2.6、ストール回転数が例えば4700rpm、後輪駆動力が例えば1130Nに設定される。
【0058】
また、上述のクラッチ保護制御部206は、現在の変速モードが高出力モードであって、低車速判定部202からの低車速状態信号Sbの入力及びスロットル開度判定部204からの高開度検出信号Sdの入力が所定の監視時間Ts以上継続し、且つ、ブレーキ信号がONである場合(低車速状態又は停車状態)に、クラッチ保護信号Sfを出力する。クラッチ保護信号Sfは電子スロットル制御部180及びECU194に入力される。
【0059】
電子スロットル制御部180は、クラッチ保護信号Sfの入力に基づいて、スロットル駆動機構176によりスロットル弁166を駆動して吸気弁を閉じる方向に制御する。例えば図5に示すように、スロットル開度がしきい値Th(例えば50%)よりも大きい開度で開いている状態が監視時間Ts(例えば5秒)以上継続して、クラッチ保護制御部206からクラッチ保護信号Sfが出力されると、電子スロットル制御部180は、スロットル弁166が図5のパターンP1の特性に従って吸気弁を瞬時に閉じる方向に駆動するようにスロットル駆動機構176を制御する。あるいはスロットル弁166がパターンP2の特性に従って吸気弁を徐々に閉じる(漸次閉じる)方向に駆動するようにスロットル駆動機構176を制御する。
【0060】
さらに、電子スロットル制御部180は、スロットルセンサ178からの検出信号Scに基づいて吸気弁が全閉したことを認識した段階で、アイドル空気量制御弁170を制御してバイパス通路168(図3参照)を開ける。
【0061】
一方、ECU194は、クラッチ保護制御部206からのクラッチ保護信号Sfの入力に基づいて、以下に示す2つの制御(第1制御及び第2制御)のうち、いずれか一方を行う。第1制御は、クラッチ保護信号Sfの入力に基づいて、アイドル運転状態にする。すなわち、点火時期を遅角、又は燃料噴射量を減らして内燃機関の動力を低下させる。第2制御は、クラッチ保護信号Sfの入力に基づいて、エンジン28をエンジンストール(エンスト)させる。なお、第1制御を行うか第2制御を行うかは任意であるが、例えば仕様によって決定することができる。
【0062】
ここで、高出力モード、低出力モード、LOWレシオについて図6に基づいて説明する。
【0063】
図6は、スロットル弁166を全開にしたときの変速マップを示す。低車速V1時に、スロットル弁166を所定開度以上、例えば全開としたとき、低出力モードから高出力モードに変更すると、エンジン回転数NeがNe1からNe2(>Ne1)となり、また、LOWレシオのラインに近づくことになるため、高出力となる。すなわち、低車速V1において、変速モードをよりLOWレシオとすることで、高出力化することになる。なお、図6の変速マップにおいて、LOWレシオの線に近づける操作がLOWレシオ化を示し、TOPレシオの線に近づける操作がHIGHレシオ化を示す。
【0064】
次に、本実施の形態に係る無段変速制御装置10の処理動作を図7及び図8を参照しながら説明する。
【0065】
最初に、変速モードの変更処理について図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0066】
先ず、図7のステップS1において、クラッチ保護制御部206は、現在の変速モードが低出力モード(Dモード)であるか否かを判別する。
【0067】
現在の変速モードが低出力モードであれば、次のステップS2に進み、クラッチ保護制御部206は、車速が所定の車速(例えば10km/h)以下であるか否かを判別する。この判別は、低車速判定部202から低車速検出信号Sbが入力されているかどうかで行われる。
【0068】
低車速検出信号Sbが入力されていれば、次のステップS3に進み、クラッチ保護制御部206は、スロットル開度が所定の開度(しきい値Th:例えば50%)以上であるか否かを判別する。この判別は、スロットル開度判定部204から高開度検出信号Sdが入力されているかどうかで行われる。
【0069】
高開度検出信号Sdが入力されていれば、次のステップS4に進み、クラッチ保護制御部206は、低車速状態信号Sbの入力及び高開度検出信号Sdの入力が初回であるか否かを判別する。この判別は、計時カウンタが0であるかどうかで行われる。初回であれば、次のステップS5に進み、計時カウンタでの計時(基準クロックの計数)を開始する。
【0070】
ステップS6において、低車速状態信号Sbの入力及び高開度検出信号Sdの入力が所定の監視時間Ts継続しているか否かを判別する。この判別は、計時カウンタの値が所定の監視時間Ts(例えば5秒)に相当する値以上であるかどうかで行われる。所定の監視時間Tsを経過していなければ、ステップS2に戻り、該ステップS2以降の処理を繰り返す。所定の監視時間Ts以上継続していれば、ステップS7に進み、クラッチ保護制御部206は、モード切替信号Seを出力する。
【0071】
ステップS8において、変速比制御部208は、クラッチ保護制御部206からのモード切替信号Seの入力に基づいて、現在の変速モードを低出力モード(Dモード)から高出力モード(Sモード)に変更する。これにより、変速比可変制御部200は、高出力モード下において、車両の運転状態に関する情報に応じて変速比を可変する。
【0072】
なお、ステップS1において低出力モードでないと判別された場合、ステップS2において車速が所定の車速以下でないと判別された場合、ステップS3においてスロットル開度がしきい値Th以上でないと判別された場合は、ステップS9において、計時カウンタの値を0にリセットする。
【0073】
上述のステップS8又はステップS9での処理が終了した段階で、一旦、この変速モード変更処理が終了する。
【0074】
この変速モード変更処理は、例えば監視時間Tsを超えた時間単位(例えば20秒や30秒等の時間単位)に行われる。
【0075】
次に、クラッチ保護処理について図8のフローチャートを参照しながら説明する。
【0076】
先ず、図8のステップS101において、クラッチ保護制御部206は、現在の変速モードが高出力モード(Sモード)であるか否かを判別する。
【0077】
現在の変速モードが高出力モードであれば、次のステップS102に進み、クラッチ保護制御部206は、車速が所定の車速(例えば10km/h)以下であるか否かを判別する。この判別は、低車速判定部202から低車速検出信号Sbが入力されているかどうかで行われる。
【0078】
低車速検出信号Sbが入力されていれば、次のステップS103に進み、クラッチ保護制御部206は、スロットル開度が所定の開度(しきい値Th:例えば50%)以上であるか否かを判別する。この判別は、スロットル開度判定部204から高開度検出信号Sdが入力されているかどうかで行われる。
【0079】
高開度検出信号Sdが入力されていれば、次のステップS104に進み、クラッチ保護制御部206は、低車速状態信号Sbの入力及び高開度検出信号Sdの入力が初回であるか否かを判別する。この判別は、計時カウンタが0であるかどうかで行われる。初回であれば、次のステップS105に進み、計時カウンタでの計時(基準クロックの計数)を開始する。
【0080】
ステップS106において、低車速状態信号Sbの入力及び高開度検出信号Sdの入力が所定の監視時間Ts継続しているか否かを判別する。この判別は、計時カウンタの値が監視時間Tsに相当する値以上であるかどうかで行われる。所定の監視時間Tsを経過していなければ、ステップS102に戻り、該ステップS102以降の処理を繰り返す。所定の監視時間Ts以上継続していれば、次のステップS107に進み、クラッチ保護制御部206は、ブレーキ信号がON状態であるか否かを判別する。すなわち、自動二輪車12が低車速状態でブレーキが操作されているのか、あるいは自動二輪車12が停車状態であるのかが判別される。
【0081】
ブレーキ信号がON状態であれば、ステップS108に進み、クラッチ保護制御部206は、クラッチ保護信号Sfを出力する。クラッチ保護信号Sfは電子スロットル制御部180及びECU194に入力される。
【0082】
次のステップS109において、電子スロットル制御部180は、スロットル駆動機構176により吸気弁を閉じる方向に制御する。例えば図5のパターンP1の特性に従って吸気弁を瞬時に閉じるようにスロットル駆動機構176を制御する、あるいはパターンP2の特性に従って吸気弁を徐々に閉じる(漸次閉じる)ようにスロットル駆動機構176を制御する。この制御によって、エンジン回転数が急激に低下あるいは徐々に低下し、遠心クラッチ126(発進クラッチ)の連結が解除されることとなる。
【0083】
ステップS110において、電子スロットル制御部180は、スロットル開度が0%、すなわち、吸気弁が全閉したか否かを判別する。この判別は、スロットルセンサ178からの検出信号Scに基づいて行われる。
【0084】
吸気弁が全閉した段階で、ECU194は、仕様に応じた制御(第1制御又は第2制御)を行う。
【0085】
すなわち、ECU194が第1制御(アイドル運転状態にする)を行うのであれば、ステップS111において、電子スロットル制御部180は、アイドル空気量制御弁170を制御してバイパス通路168を開ける。
【0086】
その後、ステップS112において、ECU194は、点火時期を遅角、又は燃料噴射量を減らしてエンジン28(内燃機関)の動力を低下させる。これにより、自動二輪車12はアイドル運転状態となる。
【0087】
一方、ECU194が第2制御(エンストにする)を行うのであれば、ステップS113において、ECU194は、エンジン28をエンストさせる。
【0088】
なお、ステップS101において高出力モードでないと判別された場合、ステップS102において車速が所定の車速以下でないと判別された場合、ステップS103においてスロットル開度がしきい値以上でないと判別された場合、ステップS107においてブレーキ信号がON状態でないと判別された場合は、ステップS114において計時カウンタの値を0にリセットする。
【0089】
上述のステップS112、ステップS113又はステップS114での処理が終了した段階で、一旦、このクラッチ保護処理が終了する。
【0090】
このクラッチ保護処理は、例えば監視時間Tsを超えた時間単位(例えば20秒や30秒等の時間単位)に行われる。
【0091】
このように、本実施の形態に係る無段変速制御装置10においては、変速モード変更処理によって、自動二輪車12が低車速状態(あるいは停車状態)であって、且つ、スロットル開度が予め設定されたしきい値Th以上である場合に、変速モードを低出力モードから高出力モードに切り替えるようにしたので、エンジン回転数が高まり、遠心クラッチ126(発進クラッチ)の連結が良好となる。これにより、遠心クラッチ126に過大な負荷がかかったり、遠心クラッチ126が滑る等の現象が生じなくなり、遠心クラッチ126を保護することができる。
【0092】
また、クラッチ保護処理では、変速モードが高出力モードであって、且つ、自動二輪車12が低車速状態(あるいは停車状態)であって、スロットル開度が予め設定されたしきい値Th以上である場合に、スロットル開度を閉じる方向(吸気弁を閉じる方向)に制御するようにしたので、エンジン回転数が低下し、これにより、遠心クラッチ126の連結を解除することができ、遠心クラッチ126を保護することができる。このとき、Vベルト式無段変速機30から発する音やエンジン出力の変化で、運転者にエンジン28の出力が低下したこと、遠心クラッチ126の連結が解除されたことを知らせることができる。
【0093】
クラッチ保護処理において、第1制御を採用した場合は、吸気弁が全閉のときにバイパス通路168を介して空気をエンジン28に流してアイドル運転状態にしたので、駆動軸が回転することで、遠心クラッチ126の冷却を促進させることができる。
【0094】
通常、登坂等で急激に駆動力がなくなると、自動二輪車12が後退するようになるが、この実施の形態では、スロットル開度を閉じる方向(吸気弁を閉じる方向)に制御する際に、図5のパターンP2に示すように、スロットル弁166を漸次閉じるように制御したので、急激に駆動力がなくなるということがなく、登坂での車両の後退を回避することができる。
【0095】
さらに、クラッチ保護処理において、第1制御を採用した場合に、点火時期を遅角、あるいは燃料噴射量を減らしてエンジン28の動力を低下させるようにしたので、エンジン回転数が低下し、これにより、遠心クラッチ126の連結を解除することができ、遠心クラッチ126を保護することができる。このとき、エンジン28から発する音やエンジン出力の変化で、運転者にエンジン28の出力が低下したこと、遠心クラッチ126の連結が解除されたことを知らせることができる。
【0096】
また、クラッチ保護処理において、第2制御を採用した場合に、エンジン28をエンストさせるようにしたので、無駄なエンジン出力を回避することができ、燃費を良好にすることができる。
【0097】
なお、本発明に係る無段変速制御装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0098】
10…無段変速制御装置 12…自動二輪車
26…後輪 28…エンジン
30…Vベルト式無段変速機 102…駆動プーリ装置
104…出力軸 106…従動プーリ装置
108…Vベルト 109…駆動側固定プーリ半体
110…駆動側可動プーリ半体 111…電動モータ
116…従動側固定プーリ半体 118…従動側可動プーリ半体
126…遠心クラッチ 160…吸気管
162…排気管 163…エアクリーナ
166…スロットル弁 168…バイパス通路
170…アイドル空気量制御弁 172…燃料噴射弁
174…スロットルグリップ 176…スロットル駆動機構
178…スロットルセンサ 180…電子スロットル制御部
188…車速センサ 194…ECU
200…変速比可変制御部 202…低車速判定部
204…スロットル開度判定部 206…クラッチ保護制御部
208…変速比制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のアクセルの操作に応じて、スロットル弁(166)を開閉することで内燃機関(28)へ供給する空気量を可変とするスロットル駆動手段(176)と、
内燃機関(28)の動力が入力される駆動軸(36)に設けられた駆動プーリ(102)と従動軸(104)に設けられた従動プーリ(106)との間にベルト(108)が掛け渡され、車両(12)の運転状態に応じて両プーリ(102、104)の巻きがけ径を可変として変速比を変化させる変速比可変制御手段(200)を備えるベルト式無段変速機(30)と、
前記従動軸(104)の回転による遠心力にて連結する乾式遠心式クラッチであって、駆動輪(26)へ動力を伝達する発進クラッチとを有する車両(12)に使用される無段変速制御装置であって、
前記変速比可変制御手段(200)は、車速検出手段(188)から所定の低車速状態が検知され、前記スロットル弁(166)の開度が所定の開度以上の状態が所定の時間(Ts)以上継続したことを検知して、前記ベルト式無段変速機(30)の変速モードを変速比がLOWレシオとなる高出力モードに変更させることを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速制御装置において、
前記変速比可変制御手段(200)は、
前記車両(12)の車速が前記所定の車速よりも遅い場合に、低車速状態であると判定する低車速判定部(202)と、
前記低車速判定部(202)が低車速状態と判定し、且つ、走行モードが低出力モードに設定されているとき、高出力モードに切り替えるためのモード切替信号(Se)を出力するクラッチ保護制御部(206)と、
前記高出力モード切替信号の入力に基づいて、変速モードを現在のモードよりも高出力となる高出力モードに変更する変速比制御部(208)とを有することを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の無段変速制御装置において、
前記変速比可変制御手段(200)は、
前記車両(12)が低車速状態あるいは停車状態であって、前記スロットル弁(166)が所定開度以上の状態が所定時間維持され、且つ、走行モードが高出力モードに設定されているとき、発進クラッチ(126)の保護を指示するクラッチ保護信号(Sf)を出力するクラッチ保護制御部(206)と、
前記スロットル駆動手段(176)における前記スロットル弁(166)の開度を、少なくともスロットルグリップ(174)の開度に応じて制御するスロットル制御部(180)とを有し、
前記スロットル制御部(180)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、前記スロットル駆動手段(176)により前記スロットル弁(166)を閉じる方向に制御し、
前記発進クラッチ(126)は、前記スロットル弁(166)の閉じ動作に基づいて連結が解除されることを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の無段変速制御装置において、
前記ベルト式無段変速機(30)は、前記駆動軸(36)の回転に伴って作動し、前記発進クラッチ(126)を冷却する冷却手段を備え、
前記スロットル制御部(180)は、吸気管(160)のバイパス通路(168)を開閉するアイドル空気量制御弁(170)を制御し、
前記冷却手段は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づく前記スロットル制御部(180)による前記アイドル空気量制御弁(170)を開く方向への制御を含むことを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の無段変速制御装置において、
前記スロットル制御部(180)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、前記スロットル弁(166)を漸次閉じる方向に前記スロットル駆動手段(176)を制御することを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項6】
請求項1記載の無段変速制御装置において、
前記変速比可変制御手段(200)は、前記車両(12)が低車速状態あるいは停車状態であって、前記スロットル弁(166)が所定開度以上の状態が所定時間維持され、且つ、走行モードが高出力モードに設定されているとき、発進クラッチ(126)の保護を指示するクラッチ保護信号(Sf)を出力するクラッチ保護制御部(206)を有し、
前記車両の内燃機関(28)を制御するエンジン制御装置(194)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、点火時期を遅角、又は、燃料噴射量を減らして、前記内燃機関(28)の動力を低下させ、
前記発進クラッチ(126)は、前記内燃機関(28)の動力低下に基づいて連結が解除されることを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項7】
請求項2記載の無段変速制御装置において、
前記クラッチ保護制御部(206)は、前記車両(12)が低車速状態あるいは停車状態であって、前記スロットル弁(166)が所定開度以上の状態が所定時間維持され、且つ、走行モードが高出力モードに設定されているとき、発進クラッチ(126)の保護を指示するクラッチ保護信号(Sf)を出力し、
前記車両の内燃機関(28)を制御するエンジン制御装置(194)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、点火時期を遅角、又は、燃料噴射量を減らして、前記内燃機関(28)の動力を低下させ、
前記発進クラッチは、前記内燃機関(28)の動力低下に基づいて連結が解除されることを特徴とする無段変速制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の無段変速制御装置において、
前記エンジン制御装置(194)は、前記クラッチ保護信号(Sf)の入力に基づいて、内燃機関(28)をストールさせることを特徴とする無段変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−215249(P2012−215249A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81240(P2011−81240)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】