説明

無段変速機の制御装置

【課題】簡単な回路構成でエンジン始動時における駆動ベルトの滑りを抑制する。
【解決手段】油圧室P1,P2を備えるプライマリプーリ20と、油圧室S1を備えるセカンダリプーリ21とが設けられる。オイルポンプ50から延びるセカンダリ圧路51には油圧室S1が接続される。セカンダリ圧路51には、油圧室P1に連通するプライマリ圧路61と、油圧室P2に連通するプライマリ圧路62とが接続される。プライマリ圧路62にはセカンダリ圧路51からの油圧に応じて開閉する油路開閉弁68が設けられる。油圧室P1,P2,S1から作動油が流出している状態からエンジンを始動すると、オイルポンプ50の吐出圧が上昇するまでは、油路開閉弁68によってプライマリ圧路62が遮断される。これにより、作動油がプライマリプーリ20に消費されることなくセカンダリプーリ21に案内され、早急にセカンダリプーリ21のクランプ力が引き上げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達要素が巻き掛けられる変速プーリと締付プーリとを備える無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される無段変速機(CVT)は、入力軸に設けられるプライマリプーリと、出力軸に設けられるセカンダリプーリと、これらのプーリに掛け渡される動力伝達要素としての駆動ベルトとを有している。これらのプーリは、それぞれに固定シーブとこれに対面する可動シーブとを備えており、可動シーブを油圧駆動して溝幅を変化させることが可能となっている。このように、溝幅を変化させて駆動ベルトの巻き付け径を変化させることにより、変速比を無段階に制御しながらプライマリプーリからセカンダリプーリに動力を伝達することが可能となっている。この無段変速機においては、一方のプーリ(例えばプライマリプーリ)に対する油圧を調整することによって駆動ベルトの巻き付け径が制御され、他方のプーリ(例えばセカンダリプーリ)に対する油圧を調整することによって駆動ベルトの張力が制御されている。
【0003】
ところで、長時間に渡って車両を停止させた場合には、プライマリプーリやセカンダリプーリの油圧室から作動油が流出するため、エンジン始動直後においてプライマリプーリやセカンダリプーリを適切に制御することが困難となっていた。例えば、エンジンとプライマリプーリとの間にはトルクコンバータやクラッチ機構が設けられており、エンジン始動時にはエンジンとプライマリプーリとを切り離すようにクラッチ機構が解放されている。しかしながら、トルクコンバータに作動油が充満しており、クラッチ機構に張り付きが生じている場合には、トルクコンバータやクラッチ機構を介してエンジントルクがプライマリプーリに入力されることになる。ここで、エンジン始動直後においては、停止する駆動輪に連結されたセカンダリプーリが拘束されているだけでなく、プライマリプーリやセカンダリプーリの油圧が低下していることから、入力されたエンジントルクによって駆動ベルトとプーリとの間に滑りを発生させてしまうおそれがある。特に、駆動ベルトの張力を制御するセカンダリプーリにおいては、駆動ベルトの巻き付け径を制御するプライマリプーリよりもクランプ力が低い傾向にあるため、駆動ベルトがセカンダリプーリに対して滑るおそれがあった。
【0004】
このような油圧不足に伴う不具合を解消するため、エンジン始動直後にプライマリプーリやセカンダリプーリに対して素早く作動油を充填するための制御装置が提案されている。このような制御装置として、プライマリプーリ内の油圧およびセカンダリ圧のうち高い方の油圧を選択してプライマリ圧制御弁に供給するスイッチ弁を備え、早急にプライマリ圧を引き上げて変速制御を適切に実行するようにした制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、エンジンの始動が検出されたときには、プライマリ圧制御弁を全開状態に制御することにより、早急にプライマリ圧を引き上げて変速制御を適切に実行するようにした制御装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、エンジンが始動されて所定時間が経過した後に、プライマリ圧制御弁を全開状態に制御することにより、オイルポンプの吐出圧を安定させてから急速充填を行うようにした制御装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭64−49754号公報
【特許文献2】特開平6−264999号公報
【特許文献3】特開2001−330131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載される制御装置にあっては、油圧回路の複雑化を招くものや、制御プログラムの複雑化を招くものであるため、制御装置の低コスト化や信頼性向上を図ることが困難となっていた。
【0006】
本発明の目的は、簡単な油圧回路構成によってエンジン始動直後における動力伝達要素の滑りを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の無段変速機の制御装置は、動力伝達要素が巻き掛けられる変速プーリと締付プーリとを備える無段変速機の制御装置であって、エンジンに駆動されるオイルポンプと、前記オイルポンプと前記締付プーリとの間に設けられ、前記オイルポンプから前記締付プーリの油圧室に作動油を案内する第1作動油路と、前記第1作動油路と前記変速プーリとの間に設けられ、前記第1作動油路から前記変速プーリの油圧室に作動油を案内する第2作動油路と、前記第2作動油路に設けられ、前記第1作動油路から前記第2作動油路に供給される油圧が所定値を上回るまで前記第2作動油路を遮断する油路開閉弁とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の無段変速機の制御装置は、前記油路開閉弁は、前記第2作動油路を遮断する遮断位置と前記第2作動油路を連通する連通位置とに移動自在となる弁体を有し、前記弁体は、前記第1作動油路からの油圧によって連通位置に向けて付勢される一方、バネ力によって遮断位置に向けて付勢され、前記弁体に、遮断位置において前記第1作動油路からの油圧が作用する第1受圧部と、連通位置において前記第1作動油路からの油圧が前記第1受圧部に加えて作用する第2受圧部とを形成し、前記第1作動油路からの油圧が第1圧力値を上回る場合に、前記弁体は遮断位置から連通位置に移動する一方、前記第1作動油路からの油圧が第1圧力値よりも低圧の第2圧力値を下回る場合に、前記弁体は連通位置から遮断位置に移動することを特徴とする。
【0009】
本発明の無段変速機の制御装置は、前記締付プーリが備える油圧室の受圧面積は、前記変速プーリが備える油圧室の受圧面積よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、締付プーリの油圧室に作動油を案内する第1作動油路と、第1作動油路から変速プーリの油圧室に作動油を案内する第2作動油路と、第1作動油路から第2作動油路に供給される油圧が所定値を上回るまで第2作動油路を遮断する油路開閉弁とを設けるようにしたので、エンジン始動直後には、変速プーリに対する作動油の供給を遮断するとともに、締付プーリに対して作動油を供給することが可能となる。これにより、簡単な油圧回路構成を用いてエンジン始動直後における動力伝達要素の滑りを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である無段変速機の制御装置によって制御される無段変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、無段変速機10は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、セカンダリ軸13と駆動輪15との間には減速機構16や差動機構17が設けられている。
【0012】
プライマリ軸12には変速プーリとしてのプライマリプーリ20が設けられている。このプライマリプーリ20は、プライマリ軸12に固定される固定シーブ20aと、プライマリ軸12に軸方向に摺動自在に設けられる可動シーブ20bとを有している。また、セカンダリ軸13には締付プーリとしてのセカンダリプーリ21が設けられている。このセカンダリプーリ21は、セカンダリ軸13に固定される固定シーブ21aと、セカンダリ軸13に軸方向に摺動自在に設けられる可動シーブ21bとを有している。さらに、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ21には、動力伝達要素としての駆動ベルト22が巻き掛けられている。
【0013】
また、プライマリ軸12には2つのドラム23a,23bを備えた受圧部材23が固定されるとともに、可動シーブ20bにはドラム23a,23bに摺動自在に接触する2つのシリンダ24a,24bが固定されている。これらの受圧部材23と可動シーブ20bとにより、可動シーブ20bの背面側には2つの油圧室P1,P2が区画されている。そして、それぞれの油圧室P1,P2に対して供給される油圧を制御することにより、プライマリプーリ20の溝幅を変化させることが可能となっている。さらに、セカンダリ軸13には受圧部材25が固定されるとともに、可動シーブ21bには受圧部材25に摺動自在に接触するシリンダ26が固定されている。これらの受圧部材25と可動シーブ21bとにより、可動シーブ21bの背面側には油圧室S1が区画されている。そして、油圧室S1に対して供給される油圧を制御することにより、セカンダリプーリ21の溝幅を変化させることが可能となっている。このように、プーリ20,21の溝幅を変化させて駆動ベルト22の巻き付け径を変化させることにより、変速比を無段階に制御しながらプライマリ軸12からセカンダリ軸13に動力を伝達することが可能となっている。
【0014】
このような変速機構14に対してエンジン動力を伝達するため、クランク軸27とプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30は、クランク軸27にフロントカバー32を介して連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンランナ35とを備えている。このトルクコンバータ30内には作動油が供給されており、トルクコンバータ30は作動油を介してポンプインペラ33からタービンランナ35にエンジン動力を伝達する構造を有している。このような滑り要素であるトルクコンバータ30には、エンジン動力の伝達効率を向上させるため、クランク軸27とタービン軸34とを直結するロックアップクラッチ36が設けられている。
【0015】
また、前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列40、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を備えている。これら前進クラッチ41や後退ブレーキ42を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となっている。前進クラッチ41および後退ブレーキ42を共に解放することにより、タービン軸34とプライマリ軸12とを切り離すことが可能となる。また、後退ブレーキ42を開放して前進クラッチ41を締結することにより、タービン軸34の回転をそのままプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。さらに、前進クラッチ41を開放して後退ブレーキ42を締結することにより、タービン軸34の回転を逆転してプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。
【0016】
図2は無段変速機10の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ21に作動油を供給するため、無段変速機10にはエンジン11に駆動されるオイルポンプ50が設けられている。オイルポンプ50に接続されるセカンダリ圧路(第1作動油路)51には、セカンダリプーリ21の油圧室S1が接続されるとともに、分岐油路52を介してセカンダリ圧制御弁53が接続されている。このセカンダリ圧制御弁53によってセカンダリ圧路51内の作動油はセカンダリ圧Psに調圧され、セカンダリプーリ21の油圧室S1にはセカンダリ圧Psが供給されることになる。なお、セカンダリ圧Psを調圧する際にセカンダリ圧制御弁53によって排出される作動油は、潤滑油路54を介して潤滑回路55に案内され、プーリ20,21や駆動ベルト22等の各摺動部に供給された後にオイルパン56に戻されることになる。
【0017】
また、セカンダリ圧路51には、分岐油路60を介して2つのプライマリ圧路61,62が接続されている。プライマリプーリ20の油圧室P1に接続されるプライマリ圧路61は2つの供給油路63,64によって構成されており、分岐油路60に接続される供給油路63と油圧室P1に接続される供給油路64との間にはプライマリ圧制御弁65が設けられている。このプライマリ圧制御弁65によってセカンダリ圧Psからプライマリ圧Ppが調圧され、プライマリプーリ20の油圧室P1にはプライマリ圧Ppが供給されることになる。さらに、プライマリプーリ20の油圧室P2に接続されるプライマリ圧路(第2作動油路)62は2つの供給油路66,67によって構成されており、分岐油路60に接続される供給油路66と油圧室P2に接続される供給油路67との間には油路開閉弁68が設けられている。この油路開閉弁68はセカンダリ圧Psの大きさに応じてプライマリ圧路62を開閉するものであるが、オイルポンプ50からの吐出圧がセカンダリ圧制御弁53の制御下限圧力に到達している状態のもとでは、油路開閉弁68はプライマリ圧路62を連通させる連通状態を保持するように作動している。すなわち、通常の変速制御において、プライマリプーリ20の油圧室P2には、連通状態の油路開閉弁68を介してセカンダリ圧Psがそのまま供給されることになる。
【0018】
セカンダリ圧Psを調圧するセカンダリ圧制御弁53や、プライマリ圧Ppを調圧するプライマリ圧制御弁65は、CVT制御ユニット70から出力される駆動電流によって制御される電磁圧力制御弁(電磁流量制御弁)となっている。駆動電流を出力制御するCVT制御ユニット70は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納され、RAMにはCPUで演算処理したデータが一時的に格納される。さらに、I/Oポートを介してCPUには各種センサから車両の走行状態を示す検出信号が入力されている。
【0019】
CVT制御ユニット70に検出信号を入力する各種センサとしては、プライマリプーリ20のプライマリ回転数を検出するプライマリ回転数センサ71、セカンダリプーリ21のセカンダリ回転数を検出するセカンダリ回転数センサ72、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ73、車速を検出する車速センサ74、セレクトレバーの操作位置を検出するインヒビタスイッチ75等が設けられている。また、CVT制御ユニット70にはエンジン制御ユニット76が接続されており、このエンジン制御ユニット76からスロットル開度やエンジン回転数などのエンジン制御情報が入力されている。
【0020】
このようなCVT制御ユニット70は、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ21を制御するため、車両状態に基づいて以下のように目標プライマリ圧および目標セカンダリ圧を設定する。CVT制御ユニット70は、車速とスロットル開度に基づいて目標プライマリ回転数を設定した後に、目標プライマリ回転数と実セカンダリ回転数とに基づいて目標変速比を算出する。次いで、CVT制御ユニット70は、目標変速比に対応する目標プライマリ圧と目標セカンダリ圧との油圧比を算出し、この油圧比に目標セカンダリ圧を乗算することにより目標プライマリ圧を算出する。そして、CVT制御ユニット70は、目標変速比と実変速比とを比較して目標プライマリ圧をフィードバック制御しながら、目標プライマリ圧に対応する駆動電流をプライマリ圧調整弁に対して出力し、目標変速比に向けてプライマリプーリ20のクランプ力Fpを制御することになる。
【0021】
また、CVT制御ユニット70は、エンジン回転数とスロットル開度とに基づいて入力トルクを算出し、目標変速比に基づいて単位トルク当りの必要セカンダリ圧を算出する。続いて、CVT制御ユニット70は、単位トルク当りの目標セカンダリ圧に入力トルクを乗算し、セカンダリプーリ21に供給するための目標セカンダリ圧を算出する。そして、CVT制御ユニット70は、目標セカンダリ圧に対応する駆動電流をセカンダリ圧調整弁に対して出力し、駆動ベルト22を滑らせないようにセカンダリプーリ21のクランプ力Fsを制御することになる。このように、CVT制御ユニット70がプライマリプーリ20およびセカンダリプーリ21を制御する際には、プライマリプーリ20を主体的に制御して駆動ベルト22の巻き付け径を制御するとともに、この変速制御に伴って変動する伝達トルク容量に追従させるようにセカンダリプーリ21を制御することになる。
【0022】
なお、プライマリプーリ20の油圧室P1にはプライマリ圧Ppが供給され、プライマリプーリ20の油圧室P2にはセカンダリ圧Psが供給され、セカンダリプーリ21の油圧室S1にはセカンダリ圧Psが供給されている。ここで、油圧室P1の受圧面積をAP1とし、油圧室P2の受圧面積をAP2とし、油圧室S1の受圧面積をAS1とすると、プライマリプーリ20にはクランプ力Fp(Fp=AP1×Pp+AP2×Ps)が発生し、セカンダリプーリ21にはクランプ力Fs(Fs=AS1×Ps)が発生することになる。ところで、プライマリプーリ20を主体的に動作させるためには、プライマリプーリ20のクランプ力Fpをセカンダリプーリ21のクランプ力Fsよりも大きく制御する必要があるが、クランプ力Fpを生成するプライマリ圧Ppは、セカンダリ圧Psを減圧することによって得られる圧力である。しかしながら、プライマリプーリ20の油圧室P1,P2の受圧面積(AP1+AP2)は、セカンダリプーリ21の油圧室S1の受圧面積(AS1)よりも大きく設定されるため、クランプ力Fpをクランプ力Fsよりも大きく設定することが可能となっている。
【0023】
続いて、プライマリ圧路62に設けられる油路開閉弁68について説明する。図3(A)および(B)は油路開閉弁68の作動状態を示す説明図である。図3(A)にはプライマリ圧路62を遮断する遮断状態が示されており、図3(B)にはプライマリ圧路62を連通する連通状態が示されている。
【0024】
図3(A)および(B)に示すように、油路開閉弁68は、2つの油路孔80,81が形成される油路構成材82と、これに対向するとともに弁収容孔83が形成されるハウジング84とを有している。油路構成材82に形成される一方の油路孔80は供給油路66を介してオイルポンプ50に接続され、他方の油路孔81は供給油路67を介してプライマリプーリ20に接続されている。また、油路構成材82とハウジング84との間には仕切板85が設けられており、この仕切板85には2つの貫通孔86,87が形成されている。仕切板85に形成される一方の貫通孔86によって油路孔80と弁収容孔83とが接続され、他方の貫通孔87によって油路孔81と弁収容孔83とが接続されるため、2つの油路孔80,81は弁収容孔83を介して連通した状態となっている。
【0025】
また、ハウジング84の弁収容孔83には、貫通孔86を閉塞する遮断位置と貫通孔86を開放する連通位置とに移動自在となる弁体89が収容されている。この弁体89は、オイルポンプ50から吐出される作動油によって連通位置に向けて付勢される一方、バネ部材90からのバネ力によって遮断位置に向けて付勢される構成となっている。さらに、テーパ状に形成される弁体89の頭頂部には、先端側に第1受圧部89aが形成されており、基端側に第2受圧部89bが形成されている。弁体89が遮断位置に移動したときには、油路孔80側に露出する受圧部89aに対してセカンダリ圧路51からの油圧が作用する一方、弁体89が連通位置に移動したときには、受圧部89aだけでなく受圧部89bに対してもセカンダリ圧路51からの油圧が作用することになる。
【0026】
このように、遮断位置においてセカンダリ圧路51からの油圧が作用する弁体89の受圧面積は、連通位置においてセカンダリ圧路51からの油圧が作用する弁体89の受圧面積よりも狭く設定されている。このため、弁体89が遮断位置から連通位置に移動するために必要な油圧(第1圧力値)Paは、弁体89が連通位置から遮断位置に戻る際の油圧(第2圧力値)Pbよりも高く設定されることになる。なお、弁体89を遮断位置から連通位置に移動させるための油圧Paが、セカンダリ圧制御弁53によって調圧可能なセカンダリ圧Psの最低圧力(以下、最低セカンダリ圧Pslという)となるように、バネ部材90のバネ力や弁体89の受圧面積が設定されている。
【0027】
以下、油路切換弁の機能について説明する。図4(A)〜(C)はプライマリプーリ20とセカンダリプーリ21とに対する作動油の供給状態を示す説明図である。図4(A)にはエンジン始動前の状態が示され、図4(B)にはエンジン始動直後の状態が示され、図4(C)には最低セカンダリ圧Pslに到達した後の状態が示されている。なお、図4(A)〜(C)において、濃く塗られた油路はオイルポンプ50から吐出された作動油が流れる油路を示し、薄く塗られた油路はオイルポンプ50から吐出された作動油が流れていない油路を示している。
【0028】
図4(A)に示すように、オイルポンプ50が停止しているエンジン始動前においては、プライマリプーリ20の油圧室P1,P2やセカンダリプーリ21の油圧室S1から作動油が流出している。このため、油圧室P1,P2,S1の圧力は低下した状態となっており、特にプライマリプーリ20よりも受圧面積の小さなセカンダリプーリ21のクランプ力Fsが低下した状態となっている。ここで、トルクコンバータ30が作動油で満たされるとともに、前進クラッチ41に張り付きが生じている場合を想定すると、エンジン始動に伴って変速機構14にエンジントルクが入力されてしまうため、クランプ力Fsの低下しているセカンダリプーリ21において駆動ベルト22に滑りが生じてしまうおそれがある。そこで、本発明の無段変速機の制御装置においては、プライマリ圧路62に油路開閉弁68を設けるとともに、この油路開閉弁68をセカンダリ圧路51からの油圧に応じて開閉させるようにしている。
【0029】
図4(B)に示すように、エンジン始動直後においては、オイルポンプ50から十分な作動油が供給されていない状況であり、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslを下回る状況(例えば、0.2MPa)であるため、油路開閉弁68はプライマリ圧路62の遮断状態を継続することになる。これにより、オイルポンプ50から吐出される作動油は、プライマリプーリ20によって消費されることなく、セカンダリプーリ21に向けて案内されるため、早急にセカンダリプーリ21のクランプ力Fsを引き上げることができ、セカンダリプーリ21に対する駆動ベルト22のスリップを抑制することが可能となる。
【0030】
そして、図4(C)に示すように、エンジン11が始動されてから所定時間が経過し、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Psl(例えば、0.7MPa)に到達した後には、油路開閉弁68によってプライマリ圧路62が連通状態に切り換えられる。これにより、セカンダリプーリ21だけでなくプライマリプーリ20にも作動油を供給することが可能となり、前述した変速制御を適切に実行することが可能となる。しかも、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslを上回った場合に、油路開閉弁68は遮断状態から連通状態に切り換えられるが、その後、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslまで低下した場合であっても、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslよりも低い油圧Pbを下回るまでは、油路開閉弁68は連通状態を維持するため、油路開閉弁68が変速制御に影響を与えることもない。
【0031】
このように、プライマリ圧路62に油路開閉弁68を設けるとともに、この油路開閉弁68をセカンダリ圧路51内の圧力に応じて開閉させるようにしたので、エンジン11を始動した場合には、セカンダリプーリ21に対して重点的に作動油を供給した後に、プライマリプーリ20に対して作動油を供給することが可能となる。このように、簡単な油圧回路構成を用いてエンジン始動時における駆動ベルト22の滑りを抑制することが可能となる。
【0032】
次いで、本発明の他の実施の形態について説明する。図5は本発明の他の実施の形態である無段変速機の制御装置によって制御される無段変速機91を示すスケルトン図である。なお、図1に示す部材と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図5に示すように、図示する無段変速機91は、シングルシリンダタイプのプライマリプーリ92を備えた無段変速機91である。変速プーリであるプライマリプーリ92は、プライマリ軸12に固定される固定シーブ92aと、プライマリ軸12に軸方向に摺動自在に設けられる可動シーブ92bとを有している。また、プライマリ軸12には受圧部材93が固定されるとともに、可動シーブ92bには受圧部材93に摺動自在に接触するシリンダ94が固定されている。これらの受圧部材93と可動シーブ92bとにより、可動シーブ92bの背面側には油圧室P3が区画されている。そして、油圧室P3に対して供給される油圧を制御することにより、プライマリプーリ92の溝幅を変化させることが可能となっている。なお、前述した無段変速機10と同様に、プライマリプーリ92を主体的に動作させるため、プライマリプーリ92の油圧室P3の受圧面積は、セカンダリプーリ21の油圧室S1の受圧面積よりも大きく設定されている。
【0033】
図6は無段変速機91の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。なお、図2に示す部材と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図6に示すように、セカンダリ圧路51には、セカンダリプーリ21に向けて延びるプライマリ圧路(第2作動油路)95が接続されており、このプライマリ圧路95には油路開閉弁68とプライマリ圧制御弁65とが直列に設けられている。すなわち、プライマリ圧路95は3つの供給油路96〜98によって構成されており、セカンダリ圧路51に接続される供給油路96には油路開閉弁68が接続され、油路開閉弁68から延びる供給油路97にはプライマリ圧制御弁65が接続され、プライマリ圧制御弁65から延びる供給油路98にはプライマリプーリ92の油圧室P3が接続されている。すなわち、セカンダリ圧路51内のセカンダリ圧Psは、油路開閉弁68を介してプライマリ圧制御弁65に供給され、プライマリ圧制御弁65によってプライマリ圧Ppに調圧された後に、プライマリプーリ92の油圧室P3に対して供給されることになる。
【0034】
このようなシングルシリンダタイプのプライマリプーリ92を備える無段変速機91に対しても本発明を有効に適用することが可能である。図7(A)〜(C)はプライマリプーリ92とセカンダリプーリ21とに対する作動油の供給状態を示す説明図である。図7(A)にはエンジン始動前の状態が示され、図7(B)にはエンジン始動直後の状態が示され、図7(C)には最低セカンダリ圧Pslに到達した後の状態が示されている。なお、図7(A)〜(C)において、濃く塗られた油路はオイルポンプ50から吐出された作動油が流れる油路を示し、薄く塗られた油路はオイルポンプ50から吐出された作動油が流れていない油路を示している。
【0035】
図7(A)に示すように、オイルポンプ50が停止しているエンジン始動前においては、プライマリプーリ92の油圧室P3やセカンダリプーリ21の油圧室S1から作動油が流出している。このため、油圧室P3,S1の圧力は低下した状態となっており、プライマリプーリ92よりも受圧面積の小さなセカンダリプーリ21のクランプ力が低下した状態となっている。ここで、トルクコンバータ30が作動油で満たされるとともに、前進クラッチ41に張り付きが生じている場合を想定すると、エンジン始動に伴って変速機構14にエンジントルクが入力されてしまうため、クランプ力Fsの低下しているセカンダリプーリ21において駆動ベルト22が滑るおそれがある。そこで、本発明の無段変速機の制御装置においては、プライマリ圧路95に油路開閉弁68を設けるとともに、この油路開閉弁68をセカンダリ圧路51内の圧力に応じて開閉させるようにしている。
【0036】
図7(B)に示すように、エンジン始動直後においては、オイルポンプ50から十分な作動油が供給されていない状況であり、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslを下回る状況(例えば、0.2MPa)であるため、油路開閉弁68はプライマリ圧路95の遮断状態を継続することになる。これにより、オイルポンプ50から吐出される作動油は、プライマリプーリ92によって消費されることなく、セカンダリプーリ21に向けて案内されるため、早急にセカンダリプーリ21のクランプ力Fsを引き上げることができ、セカンダリプーリ21に対する駆動ベルト22のスリップを抑制することが可能となる。
【0037】
そして、図7(C)に示すように、エンジン11が始動されてから所定時間が経過し、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Psl(例えば、0.7MPa)に到達した後には、油路開閉弁68によってプライマリ圧路95が連通状態に切り換えられる。これにより、セカンダリプーリ21だけでなくプライマリプーリ20にも作動油を供給することが可能となり、前述した変速制御を適切に実行することが可能となる。しかも、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslを上回った場合に、油路開閉弁68は遮断状態から連通状態に切り換えられるが、その後、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslまで低下した場合であっても、オイルポンプ50の吐出圧が最低セカンダリ圧Pslよりも低い油圧Pbを下回るまでは、油路開閉弁68は連通状態を維持するため、油路開閉弁68が変速制御に影響を与えることもない。
【0038】
このように、プライマリ圧路95に油路開閉弁68を設けるとともに、この油路開閉弁68をセカンダリ圧路51からの油圧に応じて開閉させるようにしたので、エンジン11を始動した場合には、セカンダリプーリ21に対して重点的に作動油を供給した後に、プライマリプーリ92に対して作動油を供給することが可能となる。このように、簡単な油圧回路構成を用いてエンジン始動時における駆動ベルト22の滑りを抑制することが可能となる。
【0039】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、前述の説明では、プライマリプーリ20,92を変速プーリとして機能させ、セカンダリプーリ21を締付プーリとして機能させているが、これに限られることはなく、プライマリプーリ20,92を締付プーリとして機能させ、セカンダリプーリ21を変速プーリとして機能させるようにしても良い。この場合には、プライマリ圧路61,62,95が分岐した後のセカンダリ圧路51に油路開閉弁68が設けられることになる。
【0040】
また、動力伝達要素として、スチールバンドに沿って多数のコマを連ねるようにした駆動ベルト22を用いているが、これに限られることはなく、動力伝達要素としてチェーンを用いるようにしても良い。さらに、図示する場合には、セカンダリ圧制御弁53をライン圧制御弁としても機能させることにより、セカンダリ圧Psを油圧回路の基本油圧となるライン圧としても利用しているが、ライン圧制御弁とセカンダリ圧制御弁53とを別個に設けるようにしても良いことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態である無段変速機の制御装置によって制御される無段変速機を示すスケルトン図である。
【図2】無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【図3】(A)および(B)は油路開閉弁の作動状態を示す説明図である。
【図4】(A)〜(C)はプライマリプーリとセカンダリプーリとに対する作動油の供給状態を示す説明図である。
【図5】本発明の他の実施の形態である無段変速機の制御装置によって制御される無段変速機を示すスケルトン図である。
【図6】無段変速機の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。
【図7】(A)〜(C)はプライマリプーリとセカンダリプーリとに対する作動油の供給状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10 無段変速機
11 エンジン
20 プライマリプーリ(変速プーリ)
21 セカンダリプーリ(締付プーリ)
22 駆動ベルト(動力伝達要素)
50 オイルポンプ
51 セカンダリ圧路(第1作動油路)
62 プライマリ圧路(第2作動油路)
68 油路開閉弁
89 弁体
89a 受圧部(第1受圧部)
89b 受圧部(第2受圧部)
91 無段変速機
92 プライマリプーリ(変速プーリ)
95 プライマリ圧路(第2作動油路)
P1 油圧室
P2 油圧室
S1 油圧室
Pa 油圧(第1圧力値)
Pb 油圧(第2圧力値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達要素が巻き掛けられる変速プーリと締付プーリとを備える無段変速機の制御装置であって、
エンジンに駆動されるオイルポンプと、
前記オイルポンプと前記締付プーリとの間に設けられ、前記オイルポンプから前記締付プーリの油圧室に作動油を案内する第1作動油路と、
前記第1作動油路と前記変速プーリとの間に設けられ、前記第1作動油路から前記変速プーリの油圧室に作動油を案内する第2作動油路と、
前記第2作動油路に設けられ、前記第1作動油路から前記第2作動油路に供給される油圧が所定値を上回るまで前記第2作動油路を遮断する油路開閉弁とを有することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の制御装置において、
前記油路開閉弁は、前記第2作動油路を遮断する遮断位置と前記第2作動油路を連通する連通位置とに移動自在となる弁体を有し、
前記弁体は、前記第1作動油路からの油圧によって連通位置に向けて付勢される一方、バネ力によって遮断位置に向けて付勢され、
前記弁体に、遮断位置において前記第1作動油路からの油圧が作用する第1受圧部と、連通位置において前記第1作動油路からの油圧が前記第1受圧部に加えて作用する第2受圧部とを形成し、
前記第1作動油路からの油圧が第1圧力値を上回る場合に、前記弁体は遮断位置から連通位置に移動する一方、前記第1作動油路からの油圧が第1圧力値よりも低圧の第2圧力値を下回る場合に、前記弁体は連通位置から遮断位置に移動することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の無段変速機の制御装置において、
前記締付プーリが備える油圧室の受圧面積は、前記変速プーリが備える油圧室の受圧面積よりも小さいことを特徴とする無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−236255(P2009−236255A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85186(P2008−85186)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】