説明

無段変速機用のベルト

【課題】エレメントの摩耗を抑えつつ、伝達効率を改善する。
【解決手段】両側にスリット部7を有する板状のエレメント3を積層して環状に配置し、エレメント3の各々をスリット部7を挿通させた環状のリング2で結束して構成された無段変速機用のベルトにおいて、エレメント3は、ベルトが無段変速機の入力側または出力側のプーリに沿って弧状に湾曲する際に、積層方向における一方の面に設けたロッキングエッジ43を支点として揺動するように構成され、エレメント3の一方の面では、スリット部7とロッキングエッジ43との間の当接部42の前面42aが、積層方向で隣接するエレメント3との当接部となっており、当接部には、隣接するエレメント側に開口する収容部80が形成されており、収容部80内には、ベルトが伝達するトルクが所定値未満であるときに凹部から突出する突出部材85が設けられている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機用のベルトを構成するエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のベルト式無段変速機では、金属製のベルトが、エンジンの回転駆動力が入力される入力側プーリと、出力軸に連結された出力側プーリとの間に巻き掛けられている。
このベルト式無段変速機では、入力側プーリと出力側プーリの溝幅を変えて両プーリにおけるベルトの巻き付け径を変化させることで、エンジンの回転駆動力を、所望の変速比で変速して出力側に伝達するようになっている。
【0003】
ベルト式無段変速機のベルトは、多数のエレメントを環状に積層したものを、2組のリングによって挟み込んで構成される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−8545号公報
【0005】
図5は、従来のベルト100を説明する図である。(a)は、ベルト100の斜視図であり、(b)は、エレメント102の正面図であり、(c)は、プーリに巻き掛けられたベルトにおいてエレメント102が直線状に配置された部分を示す図であり、(d)は、エレメント102がプーリに巻き掛けられて湾曲状に配置された部分を示す図である。
図6は、入力側プーリと出力側プーリにベルト100が巻き掛けられた状態を示す図であり、ベルト100における圧縮側と非圧縮側を説明する図である。ここで、圧縮側とは、入力側プーリから伝達される回転駆動力により、エレメントが、ベルトの長手方向に圧縮されている部分をいう。
【0006】
図5の(a)に示すように、ベルト100は、高張力鋼板からなる薄板のリング101aを層状に重ねて形成した環状のリング101と、リング101の長手方向に多数重ねて配置された板状のエレメント102と、を備える。
【0007】
図5の(b)に示すように、エレメント102は、上面にリング101が摺動するサドル面103aを有する楔部103と、頭部104と、楔部103と頭部104とを接続する接続部105とを備えており、ベルト100においてエレメント102は、接続部105の両側に位置する一対のリング101、101により拘束されている。
【0008】
図6に示すように、ベルト式の無段変速機用のベルト100は、エンジンのトルクが入力される入力側プーリ111と、トルクを出力する出力側プーリ112とに巻き掛けて設けられる。
【0009】
入力側プーリ111と出力側プーリ112は、それぞれ一組の固定シーブおよび可動シーブによって構成され、可動シーブがプーリ(入力側プーリ111と出力側プーリ112)の軸方向に移動することで、入力側プーリ111および出力側プーリ112とベルト100との接触半径が変化して変速比が変化する。
【0010】
なお、この図6では、ベルト100とプーリ(入力側プーリ111と出力側プーリ112)との関係を見やすくするために、紙面上手前のシーブを省略して示している。
【0011】
図6に示すように、入力側プーリ111と出力側プーリ112に巻き掛けられたベルト100には、エレメントの圧縮側と非圧縮側とが存在する。
ベルト100の圧縮側におけるエレメント102が直線状に並んだ部分(例えば、図6の領域A)では、図5の(c)に示すように、各エレメント102が、頭部104と楔部103の当接部106の平面104a、106aを、ベルト100の移動方向で隣接するエレメント102の頭部104と楔部103の後面104b、103bに接触させた状態で圧縮されており、エレメント102の接触面を介してトルクが伝達される。
【0012】
また、ベルトが円弧状に湾曲した部分(例えば、図6の領域B)では、エレメント102が、当該エレメント102の積層方向の片面に設けたロッキングエッジ107を支点にして揺動し、ロッキングエッジ107、そしてエレメント102のフランク部108(図5の(b)参照)とプーリとの間の摩擦力により、トルクが伝達される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
入力側プーリ111と出力側プーリ112に巻き掛けられたベルト100では、図5の(d)に示すように、ベルト100の最内周のリング101aと、エレメント102のロッキングエッジ107との間に周長差がある。
ここで、大径側のプーリ(図6において左側のプーリ)では、周長差があるにもかかわらず、ピッチラインP(隣接するロッキングエッジ107を繋ぐ線分)と最内周のリング101aが同じ角速度で動くため、ベルト100の直線部や小径側の入力側プーリ111に巻き掛けられた部分で、エレメント102とリング101との間でスベリ(相対スベリ)が発生する。そうすると、この相対スベリがフリクションの要因となり、トルクの伝達効率が低下してしまう。
【0014】
ここで、当接部106の高さh(サドル面103aからロッキングエッジ107までの高さ)を小さくして周長差を小さくすると、相対的スベリが少なくなるので、伝達効率が改善される。
しかし、リング101とエレメント102の相対的なスベリを完全になくすことはできないので、当接部106の平面106aの高さhが小さくなった分だけ、当接部106が摩耗しやすくなり、摩耗が発生すると、伝達効率やエレメント102の耐久性に影響が生じてしまう。
【0015】
そこで、伝達効率の低下と、エレメントの摩耗を抑えることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、両側にスリットを有する板状のエレメントを積層して環状に配置し、エレメントの各々をスリットを挿通させた環状リングで結束して構成された無段変速機用のベルトにおいて、
エレメントは、積層方向における一方の面に、スリットから離れるにつれて積層方向の厚みが減少する傾斜面を備え、ベルトが無段変速機の入力側または出力側のプーリに沿って弧状に湾曲する際に、傾斜面の開始位置であるロッキングエッジを支点として揺動するように構成され、
エレメントの一方の面では、スリットとロッキングエッジとの間が、積層方向で隣接するエレメントとの当接部となっており、
当接部には、隣接するエレメント側に開口する凹部が形成されており、
凹部内には、ベルトが伝達するトルクが所定値未満であるときに凹部から突出する突出部材が設けられていることを特徴とする無段変速機用のベルト。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ベルトが伝達するトルクが所定値未満であるときには、突出部材が凹部から突出して、エレメントが突出部材を支点として揺動するので、最内周リングとエレメントが揺動するときの支点との間の周長差を小さくして、ベルトの相対スベリを抑えることができる。これにより、伝達効率を向上させることができる。
また、伝達トルクが所定値以上である場合には、エレメントの当接部の全面を介してトルクが伝達されるので、当接部の摩耗を抑えることができる。
これにより、エレメントの摩耗を抑えることでエレメントの破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態におけるエレメントを説明する図である。
【図2】実施の形態におけるエレメントの要部を説明する図である。
【図3】実施の形態におけるエレメントの動作を説明する図である。
【図4】変形例にかかるエレメントを説明する図である。
【図5】従来例にかかるベルトおよびエレメントを説明する図である。
【図6】従来例にかかるベルトと自動変速機におけるプーリとの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、実施の形態にかかるエレメントを説明する図であり、(a)は、エレメント3の正面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、エレメント3の側面図である。
【0020】
ベルト式無段変速機の金属製のベルトにおけるエレメント3は、上面にリング2が摺動するサドル面40を有する楔部4と、サドル面40との間にスリット部7を形成する頭部5と、楔部4と頭部5とを接続する接続部6とを備えており、接続部6の両側のスリット部7にリング2を収納することでリング2、2に結束される。
【0021】
エレメント3は、楔部4の左右の傾斜した側面であるフランク面41においてプーリ(入力側プーリ、出力側プーリ)と接触し、プーリとの間の摩擦力によって入力側プーリおよび出力側プーリとの間でトルクを伝達するようになっている。
【0022】
エレメント3の頭部5には一方の面に凸形状のディンプル51が形成され、他方の面には隣接するエレメント3のディンプル51が嵌合する凹形状のホール52が形成されている。なお、以下の説明においてエレメント3のディンプル51が設けられる側を前面とし、その反対側の面を後面とする。
【0023】
エレメント3の楔部4の前面には、サドル面40から下方に離れるにつれて、エレメント3の積層方向における厚みWが減少するテーパ面4aが設けられている。
エレメント3の積層方向における楔部4の厚みWは、テーパ面4aの開始位置であるロッキングエッジ43よりも下方が、先端(下端)に向かうにつれて薄くなっており、断面視において楔部4は、先細り形状を成している。
楔部4においてロッキングエッジ43よりも上方は、隣接するエレメント3との当接部42となっており、断面視において、楔部4のテーパ面4aは、この当接部42の前面42aに対して所定角度で傾斜している。
ここで、ロッキングエッジ43は、エレメント3(楔部4)の厚みが変化する境界線(当接部42の前面42aとテーパ面4aとの境界線)である。
【0024】
図2の(a)は、エレメント3の要部を拡大して示す図であって、図1の(a)における領域Bの拡大図である。図2の(b)は、図2の(a)におけるA−A断面図であり、図2の(c)は、図2の(b)におけるB−B断面であって、楔部4の当接部42とその近傍を拡大して示す図である。
【0025】
図2に示すように、楔部4において、ロッキングエッジ43よりも上方側の当接部42は、サドル面40から所定高さhの範囲に形成されており、図1に示すように、この当接部42の前面42aは、エレメント3の頭部5における前面5aと面一となっている。
実施の形態では、エレメント3は、ベルトの圧縮側における直線状の部分において、当接部42の前面42aを、隣接するエレメント3の背面4bに圧接させるようになっており、直線状の部分においてエレメント3は、当接部42の前面42aを介して、隣接するエレメント3にトルクを伝達するようになっている。
【0026】
図2に示すように、当接部42の前面42aには、突出部材85の収容部80が設けられている。
収容部80は、当接部42の前面42aに、エレメント3の幅方向に沿って形成されており、断面視において矩形形状を有している。
収容部80は、サドル面40の幅W2よりも短い幅W1で形成されており、当接部42(エレメント3)の前面42a側にのみ開口している。
【0027】
収容部80内には、突出部材85と弾性部材81とが収容されている。当接部42における収容部80の位置は、突出部材85の先端部85aを、サドル面40から所定長さh1離間した位置に配置させる位置となっている。
【0028】
実施の形態では、収容部80は、エレメント3の幅方向において、当該エレメント3の中心線X(図1参照)を挟んで対象(接続部6の一方側と他方側)に設けられており、突出部材85もまた、当接部42の前面42aにおいて、中心線X(図1参照)を挟んで対称に設けられている。
実施の形態では、弾性部材81として板バネが採用されており、突出部材85は、弾性部材81により、収容部80の軸方向(当接部42の厚み方向)に進退移動可能とされている。
【0029】
図2の(c)に示すように、突出部材85は、断面視において弾丸形状を有しており、突出部材85は、その後端平面85bが弾性部材81により支持された状態で、その尖状の先端部85aを、当接部42の前面42aから突出させた基準位置に設けられている。
【0030】
ここで、基準位置において突出部材85は、その先端部85aが、テーパ面4aを通る仮想線Imよりも、前面42aから離れる方向に突出するように設けられている。
実施の形態では、ベルトが伝達するトルクが所定値未満であって、ベルトのエレメント3に作用する圧縮力が所定圧力未満である間は、ベルトのプーリに巻き掛けられた湾曲状の部分において、エレメント3が突出部材85の先端部85aを支点として揺動するようになっている。
【0031】
また、ベルトが伝達するトルクが所定値以上であって、エレメント3に作用する圧縮力が所定圧力以上になると、突出部材85が収容部80内に押し込まれて、ベルトのプーリに巻き掛けられた湾曲状の部分において、エレメント3が、ロッキングエッジ43を支点として、揺動するようになっている。
すなわち、エレメント3に作用する圧縮力(ベルトを介して伝達されるトルクの大きさ)に応じて、ベルトのプーリに巻き掛けられた湾曲状の部分において、エレメント3が突出部材85の先端部85aを支点として揺動する場合と、ロッキングエッジ43を支点として揺動する場合が生ずるようになっている。
【0032】
実施の形態にかかるエレメント3を備えるベルト1の動作を説明する。
図3は、エレメント3における突出部材85の動作を説明する図である。
図3の(a)は、エレメント3がロッキングエッジ43を支点として揺動する場合における、ベルト1のリング2における各エレメント3の並びを説明する図であり、(b)は、(a)におけるエレメント3の突出部材85の部分を拡大して模式的に示した図である。
図3の(c)は、エレメント3が突出部材85を支点として揺動する場合における、ベルト1における各エレメント3の並びを説明する図であり、(d)は、(c)におけるエレメント3の突出部材85の部分を拡大して模式的に示した図である。
図3の(e)は、ベルト1における各エレメント3が直線状に並んだ部分を説明する図であり、(f)は、(e)におけるエレメント3の突出部材85の部分を拡大して模式的に示した図である。
【0033】
ベルト1が伝達するトルクが大きくて、エレメント3に作用する圧縮力が、弾性部材81の付勢力よりも大きいときには、突出部材85は、伝達するトルクの大きさに応じて、収容部80側に押し込まれることになる。
【0034】
かかる状態では、エレメント3が、ベルト1におけるプーリに巻き掛けられた湾曲状の部分に到達すると、エレメント3は、ロッキングエッジ43を支点として揺動する。
よって、この場合には、エレメント3のピッチラインPとベルト1の最内周のリング2aとの周長差は、当接部42の高さhと同じになる。
【0035】
一方、ベルト1が伝達するトルクが小さくて、エレメント3に作用する圧縮力が、弾性部材81の付勢力よりも小さいときには、突出部材85は、当接部42の前面42aから前面側に突出した状態となる。
【0036】
かかる状態では、エレメント3が、ベルト1におけるプーリに巻き掛けられた湾曲状の部分に到達すると、突出部材85がエレメント3のテーパ面4aの延長線(図2におけるIm)よりも前側に突出しているので、エレメント3は、突出部材85の先端部85aを支点として揺動する。
そうすると、エレメント3のピッチラインPとベルト1の最内周のリング2aとの周長差は、サドル面40から突出部材85の先端部85aまでの高さh1と同じになる。
かかる場合、エレメント3がロッキングエッジ43を支点として揺動する場合よりも周長差が小さくなるので、ベルト1の直線部や小径側のプーリに巻き掛けられた部分における相対スベリが小さくなり、伝達効率が向上する。さらに、相対スベリが小さくなることにより、エレメント3の当接部42の摩耗が抑えられるので、エレメント3の耐久性が向上することになる。
【0037】
なお、ベルト1の圧縮側における直線部では、エレメント3が積層方向で圧縮されるので、突出部材85が収容部80内に押し込まれて、当接部42の前面42aが、隣接するエレメント3の背面4bに全体に亘って接触する。これにより、エレメント3の間でのトルクの伝達が、当接部42の前面42aの全体を用いて行われることになる。
【0038】
このように、ベルトが伝達するトルクの大きさに応じて、ベルトの湾曲した部分でエレメント3が揺動するときの支点が変化し、ベルトが伝達するトルクが所定値よりも小さいときには、突出部材85の先端部85aを支点としてエレメントが揺動し、大きいときにはロッキングエッジ43を支点としてエレメントが揺動するようにしたので、伝達するトルクが所定値よりも小さいときには、周長差を小さくすることができる。これにより、リング2a(ベルト1)とエレメント3の相対スベリを抑えることができるので、伝達効率を向上させることができる。
また、ベルトの圧縮側における直線状の部分では、突出部材85が収容部80内に収容されて、エレメント3の間でのトルクの伝達が当接部42の前面42aの全体を用いて行われることになる。この際、当接部42の接触面積を確保することができるので、当接部42(エレメント3)の耐久性を向上させることができる。
【0039】
そのため、当接部42の高さhを、無段変速機の最大入力(最大トルク、最大化移転など)合わせて設定して、当接部42のエレメントの耐久性を向上させたうえで、伝達するトルクが小さいときには周長差を小さくして伝達効率を向上させることができる。よって、伝達効率の向上による燃費の改善と、エレメント(ベルト)耐久性の向上を実現するベルトを提供できることになる。
【0040】
また、突出部材85が収容部80から出没自在であるので、突出部材85を収容部80内に押し込んだ状態でエレメント3を積層してベルトを構成すると、ベルトにおいて各エレメント3を密に配置することができるので、ベルトにおけるエレメントの非圧縮側において、エレメント3同士の隙間(エンドプレー)が過度に増加することを防止できる。
【0041】
以上の通り、実施の形態では、両側にスリット部7を有する板状のエレメント3を積層して環状に配置し、エレメント3の各々をスリット部7を挿通させた環状のリング2で結束して構成された無段変速機用のベルトにおいて、
エレメント3は、当該エレメント3の積層方向における一方の面に、サドル面40から離れるにつれて厚みWが減少するテーパ面4a(傾斜面)を備え、エレメント3は、ベルトが無段変速機の入力側または出力側のプーリに沿って弧状に湾曲する際に、テーパ面4aの開始位置であるロッキングエッジ43を支点として揺動するように構成され、エレメント3の一方の面では、スリット部7とロッキングエッジ43との間の当接部42の前面42aが、積層方向で隣接するエレメント3との当接部となっており、当接部42には、隣接するエレメント側に開口する収容部80が形成されており、収容部80内には、ベルトが伝達するトルクが所定値未満であるときに収容部80から突出する突出部材85が設けられている構成の無段変速機用のベルトとした。
【0042】
このように構成すると、ベルトが伝達するトルクが所定値未満であるときには、当接部42の収容部80から突出する突出部材85を支点としてエレメント3が揺動する。
これにより、最内周のリング2aとエレメント3が揺動するときの支点との間の周長差を小さくして、リング2a(ベルト1)とエレメント3の相対スベリを抑えることができるので、当接部42の摩耗を抑えてエレメント3の耐久性を向上させつつ、伝達効率を向上させることができる。
また、伝達トルクが所定値以上である場合には、突出部材85が収容部80内に収容されて、エレメント3の当接部42が、その全面に亘って隣接するエレメント3の背面に当接する。これにより、トルクの伝達が、エレメント3の当接部42の前面42aを介して行われ、トルクの伝達に際し圧縮力を受ける当接部42(前面42a)の受圧面積を確保できる。よって、当接部42の摩耗を抑えることができるので、エレメント3(当接部42)の耐久性が向上する。
【0043】
また、収容部80は、エレメント3の当接部42の前面42aにおいて、エレメント3の幅方向に沿って形成されている構成とした。
【0044】
このように構成すると、エレメント3が無段変速機の入力側または出力側のプーリに沿って弧状に湾曲する際に、エレメント3に作用する圧縮力を幅広の突出部材85で受けることになる。よって、突出部材85における受圧面積が確保されるので、突出部材85の耐久性を向上させることができる。
【0045】
さらに、突出部材85は、収容部80内で、弾性部材81により収容部80から突出する方向に付勢されている構成とした。
【0046】
このように構成すると、ベルト式無段変速機が伝達するトルクの大きさに応じて、弾性部材81の弾性力を適宜設定することで、エレメント3が、ロッキングエッジ43を支点として揺動する場合と、突出部材85を支点として揺動する場合とを、適切に切り替えることができる。
これにより、伝達されるトルクの大きさが小さいときには、エレメント3が揺動するときの支点と最内周のベルト2aとの周長差を小さくすることができるので、エレメント3とベルト2aとの相対スベリを抑えて、伝達効率を向上させることができる。
さらに、相対スベリが抑えられると、エレメント3の当接部42の摩耗が抑えられるので、エレメント3の耐久性を向上させることができる。
【0047】
前記した実施の形態では、収容部80内に収容させた突出部材85を、弾性部材81により付勢して、収容部80から突出させた場合を例示した。
例えば、突出部材自体を弾性変形可能に構成しても良い。
【0048】
図4は、変形例にかかる突出部材90を説明する図である。
変形例にかかる突出部材90は、板状部材の中央部を膨出させた弧状に形成されている。
当接部42における収容部80Aには、その両側部から径方向内側に突出する突出部421、421が形成されており、突出部材90は、その高さ方向における両側90a側が、突出部421、421により支持されている。
【0049】
突出部材90は、基準位置において、高さ方向における中央部90bを、当接部42の前面42aよりも突出させており、この状態で収容部80A内に保持されている。
突出部材90の両側90aは、収容部80Aの側壁81Aとの間に間隔を空けて配置されている。
【0050】
収容部80A内において突出部材90は、弾性変形可能に設けられており、突出部材90を備えるエレメントが、所定の圧縮力を受けて隣接するエレメントに当接すると、突出部材90は、隣接するエレメントの背面4b押されて変形させられながら、収容部80内に押し込まれるようになっている。
【0051】
実施の形態では、前記ベルトが伝達するトルクが所定値未満であって、エレメントに作用する圧縮力が所定圧力未満であるときには、突出部材90が収容部80Aから突出するように設けられている。
かかる場合、ベルトのプーリに巻き掛けられた湾曲状の部分において、エレメント3が突出部材90の中央部90bを支点として揺動することになる。
よって、図4に示す突出部材90のようにすることによっても、エレメントがロッキングエッジを支点として揺動する場合よりも周長差が小さくなるので、ベルトの直線部や小径側のプーリに巻き掛けられた部分における相対スベリが小さくなり、トルクの伝達効率が向上すると共に、当接部42の摩耗を抑えることができるようになる。
【符号の説明】
【0052】
1 ベルト
2 リング
2a リング
3 エレメント
4 楔部
4a テーパ面
4b 背面
5 頭部
5a 前面
6 接続部
7 スリット部(スリット)
40 サドル面
41 フランク面
42 当接部
42a 前面
43 ロッキングエッジ
51 ディンプル
52 ホール
80、80A 収容部(凹部)
81 弾性部材
81A 側壁
85 ロッキングエッジ代用部材
85a 先端部
85b 後端平面
90 突出部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側にスリットを有する板状のエレメントを積層して環状に配置し、前記エレメントの各々を前記スリットを挿通させた環状リングで結束して構成された無段変速機用のベルトにおいて、
前記エレメントは、前記積層方向における一方の面に、前記スリットから離れるにつれて前記積層方向の厚みが減少する傾斜面を備え、
前記ベルトが前記無段変速機の入力側または出力側のプーリに沿って弧状に湾曲する際に、前記傾斜面の開始位置であるロッキングエッジを支点として揺動するように構成され、
前記エレメントの一方の面では、前記スリットと前記ロッキングエッジとの間が、前記積層方向で隣接するエレメントとの当接部となっており、
前記当接部には、前記隣接するエレメント側に開口する凹部が形成されており、
前記凹部内には、前記ベルトが伝達するトルクが所定値未満であるときに前記凹部から突出する突出部材が設けられていることを特徴とする無段変速機用のベルト。
【請求項2】
前記凹部は、前記エレメントの幅方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機用のベルト。
【請求項3】
前記突出部材は、前記凹部内で、弾性部材により前記凹部から突出する方向に付勢されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無段変速機用のベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113374(P2013−113374A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260096(P2011−260096)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)