説明

無水糖アルコールの精製方法

【課題】簡易な方法で、高純度な製品を高収率で得る、無水糖アルコールの精製方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程を含む無水糖アルコールの精製方法を提供する:
無水糖アルコールに対する溶解度が5〜45(g/100g)である脂肪族アルコールに粗無水糖アルコールを溶解させる工程、
得られた粗無水糖アルコール溶液を0℃〜25℃に冷却し、結晶を析出させる工程、および、
析出した無水糖アルコール結晶を溶液から分離する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水糖アルコールの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水糖アルコール、特にマンニトール、イジトール及びソルビトールの誘導体は、医薬用及び食用として知られている。これらのうち、イソソルバイド、すなわち、1,4:3,6−ジアンヒドロソルビトールは、コーンスターチ及びキャッサバ(タピオカ)を含む種々の天然資源から誘導することができるソルビトールの誘導体であり、ポリマー、特にポリエステル製造用の再生可能な天然資源として検討されている。
【0003】
無水糖アルコールは、種々の脱水触媒、特に強酸触媒の作用で対応する糖アルコールを脱水すること(以下、内部脱水反応という)により生成することが知られている。これらの脱水触媒の例として、種々の鉱酸、例えば硫酸、塩酸、燐酸やスルホン化ポリスチレンが挙げられる。これらの内部脱水反応は、一般には、溶媒の存在下で行われる。例えば、水、およびキシレンやトルエンのような有機溶媒が有用であることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
無水糖アルコールの使用に際し、純度に対する要求レベルは、目的とする用途に応じて異なる。例えば医薬品や食品の用途では、無水糖アルコールを含有する物質に、有機体または個体への害を引き起こす不純物が存在しないことが要求される。また、ポリマー用途、特に光学部材、情報記録部材や包装用材のような光学的透明度が要求される用途では、合成中に生成するポリマーにおいて許容されない程度の発色・着色を引き起こす不純物や、ポリマーの合成時に分子量の増大を阻害する不純物を含有しないことが要求される。
【0005】
食品や医薬用途に用いられる無水糖アルコールにおいては許容できる不純物であっても、ポリマーの合成においては許容できない色レベルの発色を引き起こすために、ポリマー用途では受け入れられないケースもある。したがって、ポリマー用途のためには、非常に高純度の無水糖アルコールが要求される。
【0006】
このような無水糖アルコールの精製法としては、種々の方法が知られている。例えば、水から再結晶する精製法が知られているが、この方法で得られた生成物は純度が低く、さらに無水糖アルコールが吸湿性を有するため、水を溶媒として用いることは好ましくない。
【0007】
また、ソルビトールなどの内部脱水反応で生成した無水糖アルコールを蒸留し、得られた蒸留物を有機溶媒から再結晶する方法も提案されている(特許文献2および3参照)。
【0008】
この方法では、無水糖アルコールの再結晶に際し、有機溶媒としてメタノールやエタノールが使用されている。しかし、これらの溶媒に対するイソソルバイドの溶解度が高いため、溶媒に対して過剰のイソソルバイドを溶解させる必要があるが、原料の多くは結晶として析出せず溶媒中に残存するため、イソソルバイド結晶を高収率で得ることができず、また得られたイソソルバイド結晶の純度も低いものであった。また、再結晶に際しては、−10℃以下まで冷却する必要があるため、フリーザーなどの特別な冷却装置が必要となり、精製工程が煩雑になるという問題もあった。
【0009】
一般に、メタノールやエタノールなどの溶媒から物質を再結晶させる場合、物質のメタノールやエタノールに対する溶解度が高い場合には、溶媒として水を添加して物質の溶解度を調節することが行われるが、イソソルバイドなどの無水糖アルコールの場合、メタノールやエタノールに対してだけでなく、水に対する溶解度も高いため、このような方法により溶解度を調節することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】英国特許613,444号
【特許文献2】特表2002−534486号公報
【特許文献3】特表2003−535866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、簡易な方法で、高純度な製品を高収率で得る、無水糖アルコールの精製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、再結晶による無水糖アルコールの精製方法において用いる溶媒について鋭意検討を重ねた結果、再結晶に際し、無水糖アルコールに対し特定の溶解度を有する脂肪族アルコールを溶媒として使用することによって、簡易な工程にて、高純度の無水糖アルコール結晶が高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の工程を含む無水糖アルコールの精製方法を提供する:
無水糖アルコールに対する溶解度が5〜45(g/100g)である脂肪族アルコールに粗無水糖アルコールを溶解させる工程、
得られた粗無水糖アルコール溶液を0℃〜25℃に冷却し、結晶を析出させる工程、および、
析出した無水糖アルコール結晶を溶液から分離する工程。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書および特許請求の範囲において、「無水糖アルコール」とは、糖アルコールを強酸触媒などの脱水触媒によって2分子脱水反応することにより生成する環状脂肪族アルコールをいい、例えば、イソソルバイド、イソマンニド、イソイタイドおよびイソガラクチドからなる群より選択されるイソヘキシド(アンヒドロヘキシトール)が挙げられ、この中でも、イソソルバイドが好適に用いられる。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において、「粗無水糖アルコール」は、不純物の含有量にかかわらず、本発明の方法により精製される前の「無水糖アルコール」をいう。本発明の精製方法に用いられる「粗無水糖アルコール」には、例えば、ソルビタン、タール、その他の糖質などの不純物が含まれる。
【0016】
本明細書および特許請求の範囲において、「脂肪族アルコール」とは、炭素原子数3〜5の飽和一級脂肪族アルコールをいう。脂肪族アルコールの純度は、好ましくは、99%以上である。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲において、「無水糖アルコールに対する溶解度」とは、10℃における、用いる脂肪族アルコールに対する無水糖アルコールの溶解濃度(g/100g)を意味する。
【0018】
本発明の再結晶による無水糖アルコールの精製方法に先だって、まず粗無水糖アルコール中の不純物を蒸留除去するための蒸留工程(前精製工程)を実施するのが好ましい。
【0019】
蒸留は、蒸留装置に、濃度30〜95%程度の、粗無水糖アルコール水溶液を投入し、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの気流下、120〜200℃、好ましくは140〜160℃に加熱し、無水糖アルコール中に存在する全揮発性不純物の蒸留が完了するまで、この温度を保持して行われる。
【0020】
次いで、減圧下で、140〜230℃、好ましくは、180〜220℃に加熱し、内容物の液温が所定温度に達したら蒸留工程を完了する。
【0021】
蒸留工程の後、必要により、着色物質を脱色除去するために活性炭等による脱色処理を行ってもよい。
【0022】
蒸気前精製を終えた粗無水糖アルコールは、次いで、本発明の精製処理が行われる。
【0023】
精製工程において、粗無水糖アルコールは、まず、無水糖アルコールに対する溶解度が5〜45(g/100g)である脂肪族アルコールに溶解させる。無水糖アルコールに対する溶解度はより好ましくは7〜40であり、さらに好ましくは8〜25である。溶解する際の、無水糖アルコールと脂肪族アルコールの量比は、例えば不純物を1〜2重量%程度含む粗無水糖アルコール100重量部に対して、脂肪族アルコール100〜200重量部であるのが好ましい。また、溶解する際の圧力は常圧、温度は40〜80℃、雰囲気は、不活性ガスの気流下で低湿度下であるのが好ましい。
【0024】
溶解度が5を下回る脂肪族アルコールを溶媒として用いた場合、溶媒に溶けにくいため収量が低くなる(生産効率が悪い)という問題があり、溶解度が45を上回る脂肪族アルコールを溶媒として用いた場合、析出量が少なくなるため収率が低くなるという問題がある。
【0025】
また、上記の溶解度特性を有する脂肪族アルコールは、沸点が60〜140℃、好ましくは80〜135℃、より好ましくは90〜120℃であるのが良い。
【0026】
沸点が60℃未満の脂肪族アルコールを再結晶溶媒として使用した場合、無水糖アルコールが溶解し難く、溶解に時間を要するという問題があり、また、沸点が140℃を上回る脂肪族アルコールを使用した場合、乾燥が困難になるという問題がある。
【0027】
さらに、上記の特性を有する脂肪族アルコールは、融点が0℃以下、好ましくは−10℃以下であるのが良い。
【0028】
本願の無水糖アルコールに対する溶解度が5〜45であり、沸点が60〜140℃である脂肪族アルコールの具体例としては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノールが挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
これらの中でも、収量及び収率に優れ、かつ入手が容易であるという点で、1−プロパノール、1−ブタノールおよび2−メチル−1−プロパノールを単独または2種以上を組み合わせて使用するのが好ましい。
【0030】
上述したような特性を有する脂肪族アルコールに溶解された無水糖アルコール溶液は、次いで、0℃〜25℃、好ましくは5℃〜15℃に徐々に冷却され、この温度を0.5〜2時間保持することによって、無水糖アルコールの結晶を析出させる。
【0031】
冷却時の溶媒として、メタノールやエタノールなどを用いた場合、再結晶時の冷却温度を−10℃前後とする必要があるため、フリーザーなどの特別な冷却装置が必要となるが、本発明の方法においては、再結晶時の温度を0℃〜25℃と室温に近い状態で実施できるため、特別な冷却手段が不要であり、簡易かつ安価な手段で晶析することが可能となる。
【0032】
析出された無水糖アルコール結晶は、遠心濾過などの公知の手段によって、溶液から分離され後、必要により乾燥処理が施され製品とされる。
【0033】
本発明の方法によって精製された無水糖アルコールは、純度が少なくとも99.8%と、不純物をほとんど含まない高純度のものであり、ポリマー用途の原料として好適に使用し得るものである。
【0034】
また、本発明の精製方法によって得られた無水糖アルコールは、ポリマー合成時の条件に相当する、260℃で4時間アニーリング(加熱処理)した後でも無色であり、ポリマー合成によって変色しないという利点を有するものである。
【0035】
無水糖アルコールの純度は、ガスクロマトグラフィー(GC)や示差走査熱量測定(DSC)のような通常の手段により測定することができる。
【0036】
また、無水糖アルコールの色測定は、黄色度測定によって行うことができる。黄色度(YI)は標準の光Cにおける三刺激値X、Y、Zからなる関数であり、
YI=100*(1.28X−1.06Z)/Y
で示される。ポリマーに用いる無水糖アルコールの黄色度測定においては、YI値がゼロに近い方が無色であることを意味し、望ましい。
【0037】
本発明においては、上述した特性の脂肪族アルコールを溶媒として用いることによって、無水糖アルコールを収量と収率のバランスが最適となるように精製でき、生産効率に優れるものである。また、室温に近い状態で精製できることから簡易な工程で、かつエネルギー的に負担が少ないといった利点を有する。さらに、得られた無水糖アルコールは高純度で粒径の揃った結晶であるとともに、アニーリング性に優れるため、光学的透明度が要求される用途での使用に好適なものであるという効果を奏する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
無水糖アルコールとして、イソソルバイド(1,4:3,6−ジアンヒドロソルビトール)を使用し、以下のようにして精製を行った。
固形分における純度が72%である濃度60%の粗イソソルバイド水溶液(不純物として、9%のソルビタン、19%のタール及びその他の糖質を含有)440gをセパラブルフラスコに入れ、窒素気流下140℃で脱水した後、フラスコを約10torrに減圧し、更に210℃まで加熱してイソソルバイドを蒸留(前精製)した。
【0040】
上記で蒸留したイソソルバイド60gをコルベンに入れ、1−プロパノール90gを加えて50℃で溶解してイソソルバイド溶液とし、10℃まで徐々に冷却し、この温度で1時間保持してイソソルバイド結晶を析出させた。析出した結晶を遠心濾過で溶液から分離し、10torrの圧力下、室温で乾燥した。得られたイソソルバイド結晶は34g(収率57.3%)であった。
【0041】
実施例2〜3および比較例1〜4
1−プロパノールに代えて表1に示す溶媒を使用し、再結晶時の冷却温度(晶析温度)を変更した以外は、実施例1と同様にして、イソソルバイド結晶を得た。
なお、比較例3および4においては、イソソルバイド結晶が析出しなかったため、その後の分離および乾燥を行わなかった。
【0042】
実施例および比較例で得られたイソソルバイド結晶の純度及びアニーリング後の黄色度測定を以下のようにした。
純度測定
ガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 Series GC System)によりイソソルバイド結晶の純度を測定した。
黄色度測定
イソソルバイド結晶10gをナスフラスコに入れて、80℃に加熱して溶融した後、窒素気流下、260℃で4時間加熱した(アニーリング)。次いで、水を加えてイソソルバイドの20%水溶液とし、この水溶液を10mmのセル中で、標準蒸留水を対照物質として日立U−3310 Spectrophotometerにより黄色度を測定した。
【0043】
収率、純度および黄色度の測定果を表1に示す。
溶解度が5〜45(g/100g)である脂肪族アルコールを溶媒として使用した実施例1〜3では、冷却温度10℃において高収率でイソソルバイド結晶を得ることができ、得られたイソソルバイド結晶の純度は99.8%以上と高く、また黄色度も低いものであった。特に溶媒として2−メチル−1−プロパノールを用いた実施例3では、イソソルバイドの純度および収率ともに非常に優れていた。
【0044】
溶媒としてエタノールを用いた場合、冷却温度10℃(比較例1)では収率が12.5%低く、冷却温度を−10℃(比較例2)とすることにより収率は向上するものの純度が低下し、また、冷却のための特別なフリーザーを要するなど工程が煩雑となるものであった。
【0045】
溶媒としてメタノールを用いた場合、冷却温度10℃(比較例3)および冷却温度−10℃(比較例4)のいずれにおいても、イソソルバイド結晶は析出せず、イソソルバイドの精製に適さない溶媒であった。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む無水糖アルコールの精製方法:
無水糖アルコールに対する溶解度が5〜45(g/100g)である脂肪族アルコールに粗無水糖アルコールを溶解させる工程、
得られた粗無水糖アルコール溶液を0℃〜25℃に冷却し、結晶を析出させる工程、および、
析出した無水糖アルコール結晶を溶液から分離する工程。
【請求項2】
脂肪族アルコールの沸点が60℃〜140℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪族アルコールが、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、および3−メチル−2−ブタノールからなる群より選択される1種以上である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
脂肪族アルコールが、1−プロパノール、1−ブタノールおよび2−メチル−1−プロパノールからなる群より選択される1種以上である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
無水糖アルコールが、イソソルバイド、イソマンニド、イソイタイドおよびイソガラクチドからなる群より選択されるイソヘキシドである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
無水糖アルコールがイソソルバイドである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶解させる工程の前に、粗無水糖アルコールを蒸留する前精製工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって精製された、純度が少なくとも99.8%である無水糖アルコール。

【公開番号】特開2011−51905(P2011−51905A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199860(P2009−199860)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】