説明

無滴ハウス

【目的】 施設園芸用ハウス内に結露する水滴が全く発生しない無滴ハウスを提供する。
【構成】 施設園芸用ハウスにおいて、少なくとも、前記ハウスの屋根部の一部が、互がいに接触することなく、空隙部を有した二重構造からなる被覆資材で被覆されたものであることを特徴とする無滴ハウス。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、無滴ハウスに関し、さらに詳しくは、施設園芸用として使用される、無滴ハウスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、施設園芸用ハウス(以下これを「ハウス」ということがある)として大型鉄骨ハウスやパイプハウス等種々のハウスが使用されている。これらハウス内は、施設園芸作物を栽培している期間中は、高温多湿となるため、ハウス外の冷気により、ハウス内の被覆資材の表面に水分が結露しているのである。
【0003】この結露した水滴が作物に滴下すると、その部分からカビ又は細菌が作物に侵入することにより、作物は羅病していた。さらに、この病気がたちまちのうちにハウス内の全作物に慢延して、作物が全滅してしまうこともしばしば生じていた。
【0004】この結露を防止するために、被覆資材、例えば塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、酢酸ビニル(PVAc)、さらにポリエステル(PET)からなるフイルム中又はフイルム表面に流滴剤を配合もしくは塗布していた。
【0005】しかしながら、これら流滴剤による流滴効果は不充分であった。すなわち、流滴剤を配合したフイルムは、配合量及び相溶性からして、流滴効果は完全なものとはならず、また一時的に効果が得られても、長期間、例えば10年間その効果を保持することは全く不可能であった。
【0006】さらに、流滴剤をフイルム表面に塗布した場合には、その流滴効果は極めて短期間にのみ得られるものであった。
【0007】このように、従来の結露防止対策は、不充分であり、農家からは、結露を完全に防止できるハウスの開発が熱望されていたのである。
【0008】
【発明の解決しようとする課題】本発明の目的は、従来技術が有していた前述の問題点を解決しようとするものであり、従来、全く知られていなかった無滴ハウスを新規に提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述の課題を解決すべくなされたものであり、施設園芸用ハウスにおいて、少なくとも、前記ハウスの屋根部の一部が、互いに接触することなく、空隙部を有した二重構造からなる被覆資材で被覆されたものであることを特徴とする無滴ハウスを提供するものである。以下本発明を構成要因について、さらに詳細に説明する。
【0010】本発明において「施設園芸用ハウス」とは、施設園芸作物を栽培する際に使用するハウスであって、具体的には、鉄骨ハウス、パイプハウス、木造ハウス及び大型トンネルハウス等である。
【0011】また「被覆資材」とは、前記ハウスを被覆する資材であれば、特に制限するものではなく、いずれの被覆資材をも使用することができるが、具体的には、板ガラス、PVC板、ポリカーボネート(PC)板、アクリル板、PVCフイルム、PEフイルム、PETフイルム、含フッ素樹脂系フイルム(以下「F系フイルム」ということがある)及びPVAcフイルム等であり、中でも、PC板、アクリル板、PVCフイルム、PETフイルム及びF系フイルムが好ましく特にF系フイルムが好ましい。
【0012】ここで「含フッ素樹脂」とは、フッ素を含むオレフインの重合によって得られる合成樹脂を総称するものであり、本発明では一般にフッ素含有量が45重量%以上、特に50重量%以上のものが好適に使用される。そのようなフッ素樹脂としては、例えばエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン系共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、パ−フルオロアルキルビニルエ−テル−テトラフルオロエチレン系共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等が挙げられ、本発明では、これらのいずれでも使用可能であるが、中でも、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体が好適である。
【0013】エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、エチレン及びテトラフルオロエチレンを主体とし(エチレン/テトラフルオロエチレンのモル比は一般に40/60〜60/40にある)、そして必要により、これに少量(通常10モル%以下)の第3のコモノマ−成分を共重合させたものであり、本発明では殊に、エチレン/テトラフルオロエチレンの含有モル比が40/60〜60/40、好ましくは45/55〜55/45の範囲内にあり、且つ式CH2=CH−Cn2n+1(ここで、nは2〜10の整数である)で示されるパ−フルオロアルキルビニルモノマ−単位(例えば、CH2=CH−C49またはCH2=CH−C613から誘導される単位)の含有量が0.1〜10モル%、好ましくは0.3〜5モル%の範囲内にあるエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体が好適に使用される。このエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体はそれ自体既知のものであり、例えば特公昭59−50163号公報に記載の方法で製造することができ、また、市販品として旭硝子(株)より「アフロン COP)なる商品名で市販されているものを使用することもできる。
【0014】以上に述べたフッ素樹脂からのフイルムの成形はそれ自体公知の方法に従い、例えば押出成形法、インフレ−ション成形法等により行なうことができる。
【0015】また、本発明でいう「二重構造」とは、前記被覆資材が互いに接触することなく、空隙部を形成するように実質的に二重になっている構造をいうものであれば、いずれの構造のものでも使用することができるが、具体的には、2枚の被覆資材をハウスの外及び内側に固定することによる構造(図1)及び二枚の被覆資材を展張したパネルボックス状の構造(図2)等であるが中でもパネルボックス状のもの例えば(図3)が好ましい。
【0016】さらに、二重構造の空隙部内に空気を強制的に流入せしめることにより、より完璧な無滴ハウスとすることができる。流入させる空気は、例えば、ハウス内を加温する暖房機6により、また空気配管9を加熱処理することにより加熱暖房された空気を使用すると、さらに無滴効果が促進されるのである。また、これら空気は、エアーフイルター等で除塵、濾別されたものであることが望ましい。空気を強制的に流入させるために、必要に応じエアーポンプを使用することができる。
【0017】パネルボックス3相互に空気を強制的に流入させるため、パネルボックスを相互に連結する連結パイプ(4,5)を設置しておくと有利である。ハウスの棟(上位方向)に設置されている連結パイプ5とハウスのノキ(下位方向)に設置されている連結パイプ4は、口径が異なることにより、相互に自動的に連結されるものからなっていることが望ましい。この際連結パイプに例えばテーパー加工したり、またO-リングを設置することで、さらに緊密に連結がハウス建設現場で達成することができる。
【0018】さらに、パネルボックスをクルキ等のハウス骨材に固定する際、雨漏り防止等気密性を向上するために、従来から行なわれている防雨機構からなる連結具12を使用することができる。連結具として、具体的には例えばパッキン11等を使用する機構〔図4(1)〕及び物理的に侵入を防ぐ機構〔図4(2)〕等がある。
【0019】また、パネルボックス3の長尺方向からの雨漏りを防止するための機構を有している。具体的には、例えば従来から行なわれている瓦を屋根にふく様にパネルボックスを固定することも、また、パネルボックスにツキ出し部分14を設けて、パネルボックス同志を連結することも可能である。さらに気密性を向上するために、必要に応じ、パッキン状物を使用することができる。
【0020】このような二重構造は、ハウス屋根部及び側面部等ハウス全体に適用することができるが、作物の主に病害防止を目的とする場合には、特に屋根部に使用することが肝要である。
【0021】
【実施例】
実施例1〜3、比較例1〜2、間口20m、高さ4.5m、奥行51mの鉄骨ハウス5棟の屋根部にそれぞれ表1に示した被覆資材を展張した。側面部は、全棟実施例1で使用したETFEを使用した。
【0022】実施例1〜3は、ハウス屋根部のタルキ間隔の7.0cmにフィットする様にアルミサッシュからなる、図4(2)のような、パネルボックスのを工場で予め作製し、次いで、被覆資材を内外面に展張したものを設置した。パネルボックスの寸法は巾75cm、高さ2cm、長さ80cmからなるもので、パネルボックスと被覆資材とが直接々触しないように、厚さ1m/mからなるフッ素ゴムパッキンを使用し、パネルボックス内の気密性を向上させた。さらに、各パネルボックスの連結具は、図4(1)及び図5(1)からなる構造のものを使用し、これらをネジで固定した。
【0023】実施例2においては、O-リングを具備した連結パイプにより緊密に連絡連結した、実施例1と同じ寸法のパネルボックスを使用し、パネル全体にハウス内の暖房空気を100リットル/分強制的に流入させた。
【0024】また、比較対照用ハウスとして、表1に示した被覆資材を1枚従来通りの工法により、ハウス現場で展張した。ここでフイルム固定治具は東都興業製ビニペットを使用した。
【0025】これら被覆資材の展張結果及び、ここで10月〜4月までキュウリの栽培した際のテスト結果を表1にまとめて示した。
【0026】
【表1】


【0027】各チェック項目の内容及び判定基準を次のとおり行なった。
(1) 無滴性ハウス内面に結露する水滴量を調査した。
◎…結露が全く見られない。
○…極く僅かに見られるが、実用上、問題がない。
×…結露が著しく、実用上、問題である。
【0028】(2)均一展張性展張作業終了後、ハウス外部から被覆資材の均一展張性を目視観察した。
○…屋根全体が均一に展張されている。
△…一部にシワが見られる。
×…屋根部全体にシワが散在し、実用的に問題がある。
【0029】(3)燃料消費度合比較例1のハウスで使用した燃料を100として、各ハウスの消費量を指数で示した。
【0030】(4)長期展張性展張した被覆資材の展張後8年目までの被覆資材の透光性、強度劣化度合等の物性変化、及び均一展張性を調査した。
○…物性変化が全く見られず、均一に展張されている。
△…一部透光性及び強度劣化が見られる。
×…透光性及び強度劣化が著しく、もしくは均一に展張されていない。
【0031】
【発明の効果】このようにして得られたハウスは、ハウス内面の結露防止が可能になるため、作物の水滴下による羅病及びその漫延を未然に防ぐことができることのみならず、ハウス本来の目的である保温性が著しく向上することにより、ハウスの暖熱費が大きく軽減されるのである。特にハウスの上層部には暖房による温暖な空気があるため、ハウス屋根部からの熱の放散が問題となっていたが、本発明ハウスにより、ハウスの保温性が著しく向上したのである。
【0032】さらに、例えば、パネルボックス状物を工場で予め組立て、被覆資材も展張して製造することにより、ハウス建設現場では、単独でも被覆資材を極めて容易に、且均一に展張することが可能になったのである。従来は、多人数で、被覆資材の端々を人手を掛けて引き合い、被覆資材のタルミを除去しつつ被覆資材をハウスに固定していた作業から、完全に解放されるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】ハウスの屋根部が二重構造を有した、無滴ハウスを概略的に示した説明図である。ここで(1)は鉄骨ハウス、(2)はパイプハウスを示している。
【図2】ハウス内の暖房空気を強制的に流入せしめたパネルボックスを展張した無滴ハウスを概略的に示した説明図である。
【図3】パネルボックスを概略的に示した説明図である。
【図4】パネルボックスの横方向への連結状態を概略的に示した説明図である。
【図5】パネルボックスの縦方向への連結状態を概略的に示した説明図である。
【符号の説明】
1 外面被覆資材
2 内面被覆資材
3 パネルボックス
4 連結パイプ
5 連結パイプ
6 暖房機
7 エアーフイルター
8 エアーポンプ
9 空気配管
10 ネジ
11 パッキン
12 連結具
13 タルキ
14 ツキ出し部分
15 ネジ穴
16 空気流出口
17 パネルボックス連結部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 施設園芸用ハウスにおいて、少くとも、前記ハウスの屋根部の一部が、互いに接触することなく、空隙部を有した二重構造からなる被覆資材で被覆されたものであることを特徴とする無滴ハウス。
【請求項2】 該二重構造がパネル構造からなるものである請求項1記載の無滴ハウス。
【請求項3】 該二重構造の空隙部内に強制的に空気を流入せしめたものである請求項1〜2いずれか記載の無滴ハウス。
【請求項4】 該被覆資材が含フッ素樹脂系フイルムである請求項1記載の無滴ハウス。
【請求項5】 該含フッ素樹脂が四フッ化エチレン・エチレン共重合体(ETFE)である請求項4記載の無滴ハウス。
【請求項6】 該空気を流入せしめる装置がエアーポンプである請求項3記載の無滴ハウス。
【請求項7】 該空気が加熱暖房されたものである請求項3及び6いずれか記載の無滴ハウス。
【請求項8】 該空気がエアーフイルターにより除塵されたものである請求項3及び6〜7いずれか記載の無滴ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平6−141688
【公開日】平成6年(1994)5月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−321489
【出願日】平成4年(1992)11月6日
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)