説明

無端ベルトとその製造方法、およびこれを備えた電子写真装置

【課題】長期間の使用中、表面抵抗率が大きく変化せず転写ベルトに起因する印字むらが発生し難い無端ベルトとその製造方法、およびこれを備えた電子写真装置の提供。
【解決手段】残留溶媒が0.5質量%以下の導電性付与材含有樹脂組成物からなり、加速試験前後における下式で表される表面抵抗率の比aが0.4〜2.5である電子写真装置用の無端ベルト。
a=R/R
但し、R,Rは、無端ベルトの加速試験前後における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕を表す。また、導電性付与材含有樹脂組成物を遠心成形した後、過熱水蒸気処理する電子写真装置用の無端ベルトの製造方法、およびこれを備えた電子写真装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無端ベルトとその製造方法、およびこれを備えた電子写真装置、詳しくは電子写真装置中で使用中に表面抵抗率が変化せず、印字特性の優れた転写ベルト用の無端ベルトとその製造方法、およびこれを備えた電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザプリンタ、複写機、ファクシミリ装置などには、電子写真方式を利用した各種の画像形成装置(電子写真装置と略称する。)が採用されている。通常の電子写真装置は、感光ドラムに記憶された潜像に現像ローラからトナーを供給して現像し、このトナー像を感光ドラム下部で接する転写ベルトに転写し、さらに転写ベルトから印刷用紙などの記録体に転写し、記録体上に転写されたトナーを定着ローラによって圧着固定して完全な画像や文字として印刷する構造となっている。
ここで用いられる転写ベルトは無端ベルトとなっており、駆動ローラ等により高速で無限走行して、静電力を利用してトナーを連続的に感光ドラムから記録体に移動させる。そして、通常のレーザプリンタ等では10万枚近い印刷用紙等の記録体に印刷する期間中、弛みやずれがないように応力をかけたまま使用できなければならない。そのため、転写ベルトは引張り強度、ヤング率、可撓性、耐折強さ、導電特性などをバランスよく備えていないといけない。そこで、無端ベルトは素材や製造工程などに各種の検討がなされている。例えば、特許文献1では、熱可塑性樹脂組成物を成形して得た表面抵抗率、体積抵抗率の均一性に優れ、耐折性、ヤング率など総合的な物性バランスのよいシームレスベルトを、特許文献2では、導電性フィラーとポリイミド樹脂組成物を成形して得た可撓性と剛性のバランスのよいベルトを、特許文献3では、トナー転写濃度を正確に測定できる無端ベルトを、また特許文献4では、クラックやわれの発生し難いポリイミド製無端ベルトを提案している。
【0003】
【特許文献1】特開平10−6411号公報
【特許文献2】特開2004−99709号公報
【特許文献3】特開2005−10220号公報
【特許文献4】特開2005−31301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように転写ベルト用の無端ベルトは、引張り強度やヤング率、耐折強さなどの機械的特性は当然重要であるが、表面抵抗率の安定性も重要である。表面抵抗率が変化するとトナー転写の際に静電力のバランスが乱れ、印字むらが発生する。長期間の使用中における表面抵抗率の安定性は特に重要である。
本発明では、長期間使用しても表面抵抗率の変化率が一定範囲内であり転写ベルトに起因する印字むらが発生し難い無端ベルトとその製造方法、およびこれを備えた電子写真装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明者らは簡便な加速試験により確実に長期間の使用に耐えて表面抵抗率の変化率が一定範囲内である無端ベルトを見出した。また、無端ベルトの樹脂組成物中の残留溶媒に着目し、この残留溶媒の変化が表面抵抗率の変化に大きく寄与することを見出した。さらに、この結果をもとにして、上記課題を解決するための手段を発明し以下に記した。
(1)導電性付与材含有樹脂組成物からなり、加速試験前後における下式で表される表面抵抗率の比aが0.4〜2.5の範囲である電子写真装置用の無端ベルト。
a=R/R
但し、Rは無端ベルトの加速試験前における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕,Rは無端ベルトの加速試験後における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕を表す。
(2)残留溶媒が0〜0.5質量%である導電性付与材含有樹脂組成物からなる(1)に記載の無端ベルト。
(3)残留溶媒がN−メチル−2−ピロリドンである(2)に記載の無端ベルト。
(4)導電性付与材含有樹脂組成物がポリアミドイミドにカーボンブラックを分散させた組成物である(1)〜(3)に記載の無端ベルト。
(5)導電性付与材含有樹脂組成物を遠心成形した後、過熱水蒸気処理をする(1)〜(4)に記載の電子写真装置用無端ベルトの製造方法。
(6)(1)〜(5)に記載の無端ベルトを転写ベルトとして備えた電子写真装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の無端ベルトは、長期間の使用中、表面抵抗率の変化率が一定範囲内であり転写ベルトに起因する印字むらが発生し難い。そして、この無端ベルトの製造においては、従来の製造装置を使用する事ができる為、製造費用の増加を招かないので、容易に本発明の無端ベルトを製造できる。また、この無端ベルトを転写ベルトとして備えた電子写真装置は長期間にわたって、無端ベルトの表面抵抗率の変化に起因する印字むらを起こすことなく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
通常、無端ベルトは図1に示すような形状をしており、本発明の無端ベルトは、導電性付与材含有樹脂組成物からなり、加速試験前後における下式(A)で表される表面抵抗率の比aが0.4〜2.5の範囲である電子写真装置の転写ベルトとして使用される。
式(A) a=R/R
但し、Rは無端ベルトの加速試験前における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕,Rは無端ベルトの加速試験後における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕を表す。
ここで、無端ベルトの加速試験は、無端ベルトの内側に2本の直径30mmのローラを配置し、このローラにより無端ベルトを緊張させて張り、さらにローラに6kgの重りをつけて、無端ベルトには常に引張り応力が掛かるようにする。そして、ローラを300回/分(周速約28m/分)の速度で回転させ、2本のローラ間で無端ベルトを回転させる。無端ベルトの回転が10万回転となったところで加速試験終了とする。この無端ベルトの加速試験前後の表面抵抗率から、上述の表面抵抗率の比aを求める。なお、表面抵抗率は通常の測定法による、例えば市販の表面抵抗率測定機で印加電圧500V、印加時間10秒で測定すればよい。この加速試験は、例えば一周60cm程度の無端ベルトなら35時間弱で終了する。
一般に、無端ベルトの表面抵抗率は10Ω/□〜1015Ω/□、好ましくは10Ω/□〜1014Ω/□とする。表面抵抗率が小さいとトナーの吸着脱離がスムーズに行えなく、大きいと無端ベルトが絶縁体となり、記録体との剥離の際剥離放電を起こすことがある。また、無端ベルトの表面抵抗率は長期使用により増加する傾向にあり、この傾向が強いと使用中に印字むらが起こりやすい。
加速試験前後における無端ベルトの表面抵抗率の比aは、実際の電子写真装置において使用される転写ベルトの使用前後における表面抵抗率の比と相関が強いので、実機でテストをしなくとも無端ベルトの表面抵抗率の変化を想定できる。そして、この加速試験前後の表面抵抗率の比aを0.4〜2.5、好ましくは0.5〜2.0、さらに好ましくは0.7〜1.5に制御すれば、実機での使用中にも転写ベルトに表面抵抗率の問題となるような変化がなく、印字むらなどの印刷不良が起こることがない。なお、この表面抵抗率の比aは、無端ベルトを同じ原料を用いて同じ製法で製造している限り同じ値となるので、大量生産においては抜き取り検査を行う事で十分である。
【0008】
また、本発明の無端ベルトに使用される導電性付与材含有樹脂組成物中の残留溶媒は0〜0.5質量%とする。残留溶媒の多い無端ベルトは、転写ベルトとして使用中に樹脂組成物中の残留溶媒が蒸散して樹脂組成物の組成が変化しやすい。これにより、無端ベルトの表面抵抗率が増加し、印字不良の原因となる。溶媒は樹脂組成物を溶解するため極性溶媒を使用することが多いが、ポリアミドイミド樹脂の溶媒として好適なジメチルアセトアミドやN−メチル−ピロリドンのような揮発性があって、極性の高い溶媒を使用した場合はその傾向が強い。このため、無端ベルトの樹脂組成物中の残留溶媒を0〜0.5質量%、好ましくは0〜0.3質量%、さらに好ましくは0〜0.1質量%とすることが望ましい。
なお、無端ベルトの機械的強度と可撓性を考慮すると、その厚さは0.03〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.2mm、さらに好ましくは0.07〜0.14mm程度が望ましい。薄すぎれば機械的強度が損なわれ、厚すぎれば可撓性が損なわれる。
【0009】
次に、本発明の無端ベルトの主な素材である樹脂組成物、および導電性付与材について説明する。樹脂組成物は、強度があり繰返し変形に耐える可撓性に富んだものがよく、具体的な樹脂としては、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、架橋型ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。その中でも、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく、特にポリアミドイミド系樹脂、さらには芳香族ポリアミドイミド系樹脂が最も好ましい。
【0010】
無端ベルトは、ある程度の導電性が要求され、上記樹脂組成物には導電性付与材が含まれる。このような導電性付与材としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の各種カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛粉末、金属や合金からなる針状、球状、板状、不定形等の粉末、セラミックス粉末、表面が金属メッキされた各種粒子等が挙げられる。この中でもカーボンブラックが、粒径、導電性、樹脂材料との親和性等のバランスが取れた材料であり使用し易い。また、カーボンブラックは樹脂との親和性を増すため、酸化処理してカルボキシル基、ヒドロキシル基などを付加した酸化処理カーボンブラックとして用いることもできる。なお、市販のpH5以下の酸化処理カーボンブラックは好適な導電性付与材である。この導電性付与材の形状は球状あるいは不定形のものが、サイズは0.01〜10μm程度が好ましい。
導電性付与材の添加量は、導電性付与材の導電性や粒径、および無端ベルトの要求する導電性の程度により適宜調整すればよいが、一般には1〜25質量%、好ましくは5〜20質量%の範囲が望ましい。添加量が上記範囲より少ない場合には、導電性物質同士の距離が大きくなり導電性の発現が悪くなる。逆に、添加量が上記範囲より多い場合には、無端ベルトの機械的強度が低下するおそれがある。
その他の添加剤として、必要に応じ、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、補強性フィラー、反応助剤、反応抑制剤等の各種添加剤を樹脂組成物中に添加してもよい。
【0011】
本発明の好適な無端ベルトの製造方法を説明する。まず、好ましい樹脂組成物の製造方法について説明する。上述のようにポリアミドイミド系樹脂、特に芳香族ポリアミドイミド系樹脂は、耐摩耗性、耐薬品性、機械的強度、高温クリープ特性、後述の遠心成形との適合性などから最も好ましい原料樹脂である。そこで、芳香族ポリアミドイミド樹脂の製造方法について詳しく説明する。芳香族ポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸無水物にジイソシアネート化合物を反応させるジイソシアネート法が、原料の入手、反応性、副生成物の少なさ等の面から優れている。重合反応を好適に進められれば、ジイソシアネート化合物に替えてジアミン化合物を用いた芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ヤング率が高く好適な無端ベルト材料となる。また、トリカルボン酸無水物の一部をテトラカルボン酸二無水物に替えて、芳香族ポリアミドイミド樹脂のイミド結合を増加させ耐湿製を向上することもできる。これらの反応は、適当な溶媒中で、常圧、常温または加熱下で容易に進行する。そして、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂に導電性付与材等を添加して、そのまま遠心成形することができる。
トリカルボン酸無水物としては、芳香族トリカルボン酸無水物が好ましく、トリメリット酸無水物およびその誘導体、3,4,4’−ジフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、2,3,5−ピリジントリカルボン酸無水物、ナフタレントリカルボン酸無水物類などが挙げられる。これらの酸無水物は単独でも混合してでも用いることができる。
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0012】
ジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物が好ましく、脂肪族ジイソシアネート化合物や脂環式ジイソシアネート化合物を、またはこられの誘導体であるアミン類を併用してもよい。芳香族ジイソシアネート化合物として、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−ジイソシアネートジフェニルスルホン、4,4’−ジイソシアネートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、2,4−トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。また、これらの化合物の誘導体であるジアミン類も原料として利用できる。脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式としては、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのジイソシアネート化合物の中でも、無端ベルトの耐熱性、機械的特性、溶解性などを考慮すると、全ジイソシアネート成分中の60%以上、好ましくは70%以上が、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、イソホロンジイソシアネート、またはこれらのアミン誘導体とすることが好ましい。さらに、無端ベルトの寸法安定性を考慮するとジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート70%以上とすることが好ましい。
これらの重合反応の溶媒としては、溶解性の点からは極性溶媒が好ましく、重合反応性の点からは非プロトン性極性溶媒が好ましい。具体的には、N,N−ジアルキルアミド類、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミドなどが挙げられる。また、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等も好ましい溶媒となる。これらの溶媒は単独でも混合してでも使用できる。
【0013】
導電性付与材を樹脂材料に分散させる方法としては、樹脂材料の性状に適する公知の分散方法が用いられる。例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダ、押出機、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミル、ピースミル等が用いられる。遠心成形法を利用する場合は、溶媒中に溶解している、または分散している樹脂成分に、直接導電性付与材を添加して撹拌混合して分散してやればよい。
【0014】
次に、本発明の無端ベルトの成形方法を説明する。無端ベルトの樹脂材料として熱可塑性樹脂を選択した場合、遠心成形、押出成形、射出成形等によればよい。また、熱硬化性樹脂を選択した場合、遠心成形やRIM成形等を採用すればよい。これらの方法の中でも、材料を問わずに適用可能であること、厚さ精度に優れていること、そして電気抵抗値のばら付きが小さいこと等から遠心成形法が好適である。
遠心成形で成形する際、準備する流動性の原料溶液は、成形時の粘度が50,000mPa・s以下となるように調整することが好ましい。粘度が50,000mPa・sを超えると、厚さの均一な無端ベルトが作り難くなる。粘度の下限については、特に限定されるものではないが、原料の取り扱い上、10mPa・s以上が好ましい。材料の粘度が上記範囲を外れる場合は、材料に溶媒を加えて溶解、希釈して、粘度を調整して使用すればよい。溶媒としては、上述したポリアミドイミド樹脂の重合溶媒がそのまま好適に用いられる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジンなどが挙げられる。
遠心成形法は、例えば、円筒の金型に流動性の材料溶液を少量注入し、金型を回転させて遠心力でその内周面に材料溶液の層を均一に成形し、溶媒を乾燥除去して無端ベルトを形成する。金型は各種金属管を用いることができ、内周面は鏡面研磨し、フッ素樹脂やシリコーン樹脂等の離型剤により離型処理し、形成した無端ベルトが容易に脱型できるようにするとよい。材料の量と無端ベルトの厚さには相関関係があるので、同じ金型であれば材料の量により厚さを制御できる。
【0015】
樹脂組成物溶液には溶媒を含むので、成形された樹脂組成物溶液を乾燥あるいは加熱して溶媒を除去し円筒状の成形品を金型から脱型すればよい。本発明の無端ベルトはこの溶媒除去工程において、過熱水蒸気処理を行うことが好ましい。金型を回転して遠心成形された樹脂組成物のフィルムは、金型を回転したまま5〜60分間、40〜150℃の熱風を吹き付けて溶媒を除去する。この一次溶媒除去工程をあまり高温で長時間実施すると、樹脂成分の酸化劣化等が起こり出来上がった無端ベルトの性状が劣化することがある。一次溶媒除去工程が終了したら、樹脂フィルムを金型ごと遠心成形機から取り出し、過熱水蒸気炉で110〜350℃の過熱水蒸気で10〜120分間処理し、二次溶媒除去工程とする。この二次溶媒除去工程で樹脂組成物の劣化を抑えながら溶媒除去を完全にする。その後、金型ごと樹脂フィルムを取り出し放冷する。金型と樹脂組成物の熱膨張率の差を利用して樹脂組成物でできたフィルムを脱型し、脱型した円筒状のフィルムの両側端部を除去し、所定幅毎に裁断すれば本発明の無端ベルトが出来上がる。
本発明において、無端ベルト中の残留溶媒は、試料からエタノール等で残留溶媒を抽出し、GC−MSにより測定すればよい。
【0016】
上述の本発明の無端ベルトは、各種画像形成装置の感光体基体用、現像用、定着用等の用途で使用可能であるが、転写ベルトとして利用すれば、表面抵抗率の変動による印字むらなどの印刷不良のない電子写真方式の画像形成装置とすることができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
反応器中で当量のトリメリット酸無水物とジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとからなる反応原料をN−メチル−2−ピロリドン溶媒に溶解し、30分間かけて20℃から150℃に昇温後、150℃にて5時間反応を継続し、固形分濃度(溶液中の実質的に全閉環のポリアミドイミド樹脂の濃度、以下同じ)28質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。これにN−メチル−2−ピロリドンを加え、固形分濃度15質量%のポリアミドイミド溶液を調製した。これに導電性付与材として酸化処理カーボンブラック(プリンテックス150T,Degussa社製,pH5.8、揮発分10.0%)をポリアミドイミド樹脂固形分に対して10質量%となるように配合し、ポットミルで24時間混合分散し樹脂組成物混合液を得た。この樹脂組成物混合液を1000rpmの速度で回転する温度125℃の金型内周に190g注入した。金型は、内径226mm、外径246mm、長さ400mmの大きさとし、金型内面はポリッシングにより鏡面研磨されている。そして金型両端の開口部にはリング状の蓋(内径170mm、外径250mm)をそれぞれ嵌合して材料漏れを防止する。こうして金型に樹脂組成物溶液を注入したら、1000rpmの速度でレベリングして遠心成形しフィルム状にした。その後30分間回転したまま80℃の熱風をフィルムに吹き付け溶媒を除去した。溶媒除去が終了したら、樹脂フィルムを金型ごと遠心成形機から取り出し、290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理したのち、室温で放冷した。金型と樹脂組成物の熱膨張率の差によりフィルムが剥離してくる。この樹脂組成物でできたフィルムをとりだし、その両端部をそれぞれカットして周長約71cm、幅24cm、厚さ100μmの無端ベルト1を作成した。
(実施例2)
実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で40分間過熱水蒸気処理した以外は、実施例1と同様にして無端ベルト2を作成した。
(実施例3)
実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で30分間過熱水蒸気処理した以外は、実施例1と同様にして無端ベルト3を作成した。
(実施例4)
実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを260℃の過熱水蒸気炉で70分間過熱水蒸気処理した以外は、実施例1と同様にして無端ベルト4を作成した。
(実施例5)
実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを260℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した以外は、実施例1と同様にして無端ベルト5を作成した。
(実施例6)
実施例1において、樹脂を金型に投入するときの金型温度125℃のかわりに110℃とし、60分間回転したまま80℃の熱風をフィルムに吹き付け溶媒を除去した。また実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを220℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理をした以外は、実施例1と同様にして無端ベルト6を作成した。
(実施例7)
実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを220℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理をした以外は、実施例1と同様にして無端ベルト7を作成した。
(比較例1)
実施例1において、樹脂フィルムを290℃の過熱水蒸気炉で50分間過熱水蒸気処理した代わりに、樹脂フィルムを熱風乾燥炉で260℃の70分間加熱処理した以外は、実施例1と同様にして無端ベルト8を作成した。
【0018】
(無端ベルトの残留溶媒測定)
試料の無端ベルトを50mg切り出して、内部標準として1000ppmのジメチルアセトアミドを含むエタノール20ml中に加え、60℃で24時間抽出する。抽出したエタノール溶液中のN−メチル−2−ピロリドン量をGC−MSにより測定した。無端ベルト1〜6についての残留溶媒濃度を表1に示した。
(無端ベルトの表面抵抗率の比aの算出)
無端ベルトの加速試験は、測定用ベルトの内側に2本の直径30mmのローラを配置し、このローラ間にベルトを緊張させて張り、さらにローラに6kgの重りを付けて、ベルトには常に引張り応力が掛かるようにする。そして、ローラを300回/分の速度で回転させ、2本のローラ上でベルトを回転させる。ベルトの回転が10万回転となったところで加速試験終了とする。このベルトの加速試験前後の表面抵抗率を測定し、表面抵抗率の比a(=R/R)を算出する。但し、Rは無端ベルトの加速試験前における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕,Rは無端ベルトの加速試験後における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕を表す。なお、表面抵抗率の測定はハイレスタUP、プローブはUR−100(三菱化学株式会社製)を用い、印加電圧500V、印加時間10秒で実施した。無端ベルト1〜8についての表面抵抗率の比aを表1に示した。
(無端ベルトの実用性評価)
実施例1〜7、および比較例1で作成した無端ベルト1〜8を、それぞれタンデム方式のカラープリンタ(MicroLine9055c 株式会社沖データ製)に装着して実機テストをした。プリント速度は、上記のプリンタの仕様に合わせ、A4用紙を横21枚/分で10万枚以上印刷を目標に無端ベルトの寿命テストを15万枚まで実施した。その印刷状態を観察した結果を表1に示した。
【0019】
【表1】

注)実用性評価基準
◎:15万枚印刷しても印字むら等の印刷不良全くなし。
○:10万枚印刷後は問題にならない程度であるが印字むらがある。
△:10万枚印刷前に問題にならない程度であるが印字むらがある。
×:10万枚印刷前に印字むらが見られ、印刷不良で10万枚印刷不能。
【0020】
表1の結果から、表面抵抗率の比aおよび残留溶媒量が本発明の範囲内にある無端ベルト(実施例1〜7)は、比較例1に較べて印刷不良が起こりにくいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の無端ベルトを転写ベルトとして備えた電子写真装置は、印字むら等の印刷不良のない長寿命の画像形成装置として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の無端ベルトの斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1:無端ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性付与材含有樹脂組成物からなり、加速試験前後における下式で表される表面抵抗率の比aが0.4〜2.5の範囲である電子写真装置用の無端ベルト。
a=R/R
但し、Rは無端ベルトの加速試験前における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕,Rは無端ベルトの加速試験後における表面抵抗率〔単位:Ω/□〕を表す。
【請求項2】
残留溶媒が0〜0.5質量%である前記導電性付与材含有樹脂組成物からなる請求項1に記載の無端ベルト。
【請求項3】
前記残留溶媒がN−メチル−2−ピロリドンである請求項2に記載の無端ベルト。
【請求項4】
前記導電性付与材含有樹脂組成物がポリアミドイミドにカーボンブラックを分散させた組成物である請求項1〜3に記載の無端ベルト。
【請求項5】
前記導電性付与材含有樹脂組成物を遠心成形した後、過熱水蒸気処理をする請求項1〜4に記載の電子写真装置用無端ベルトの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の無端ベルトを転写ベルトとして備えた電子写真装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−163639(P2007−163639A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357465(P2005−357465)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】