説明

無細胞タンパク質合成系−バキュロウイルス発現系両用ベクター

【課題】無細胞タンパク質合成系とバキュロウイルス発現系とにおいて共用することができるベクターを提供する。
【解決手段】 上流側から下流側へ、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、及び所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)を含むバキュロウイルストランスファーベクターであって、
前記配列(a)の上流側、又は、前記配列(a)の下流側且つ前記配列(b)の上流側に、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)を含む、バキュロウイルストランスファーベクター。当該バキュロウイルストランスファーベクターに所望の構造遺伝子を挿入した組み換えバキュロウイルストランスファーベクターから、バキュロウイルス発現系及び/又は無細胞タンパク質合成系によりタンパク質を調製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無細胞タンパク質合成系とバキュロウイルス発現系とで両用可能なベクターに関する。また、本発明は、無細胞タンパク質合成系とバキュロウイルス発現系との両方の系において、共通のベクターを用いてタンパク質産生を可能にするタンパク質調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的にタンパク質を合成する場合、目的タンパク質をコードするDNAを細胞に導入して強制発現させる系が用いられる。DNAを導入する細胞としては、大腸菌や哺乳類や昆虫由来の培養細胞がよく用いられる。
特に、複雑なタンパク質を大量に取得する目的では、バキュロウイルス発現系が頻繁に利用されている。バキュロウイルスについてはよく研究されており、Miller, L.K.(1998), Ann. Rev. Microbiol. 42:177-199(非特許文献1)、米国特許第4745051号明細書(特許文献1)、米国特許第4879236号明細書(特許文献2)などに記載されている。また、米国特許第6589783号明細書(特許文献3)では、大腸菌、昆虫細胞(バキュロウイルス)、哺乳類細胞などの異種細胞間で共用可能なベクターが報告されている。
【0003】
バキュロウイルス発現系においては、昆虫ウイルスであるバキュロウイルスのゲノムに目的タンパク質をコードするDNAを挿入し、宿主となる昆虫培養細胞に感染させて大量に得る。しかし、バキュロウイルス発現系は、培養細胞の維持や組換えウイルスを作成する必要があることから技術的に煩雑と言える。
【0004】
一方、簡単な操作でタンパク質合成実験を行う目的では、無細胞タンパク質合成系も利用される。無細胞タンパク質合成系においては、細胞から翻訳に必要な成分を抽出し、必要なアミノ酸やエネルギー源を加え、目的タンパク質をコードするmRNAを添加することにより、試験管内でタンパク質を合成する。しかしながら、無細胞タンパク質合成系は、目的のタンパク質を大量に合成することがコスト的に困難であることが多い。
【0005】
そこで、まず、目的となるタンパク質を無細胞タンパク質合成系にて少量スケールで合成し、必要に応じてバキュロウイルス発現系等の大量生産を行える系で合成を行う手法が行われている。
【0006】
【非特許文献1】Miller, L.K.(1998), Ann. Rev. Microbiol. 42:177-199
【特許文献1】米国特許第4745051号明細書
【特許文献2】米国特許第4879236号明細書
【特許文献3】米国特許第6589783号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、両系で最適な合成を行うためには、それぞれの系に適した発現ベクターを用いる必要がある。無細胞系での発現ベクターとバキュロウイルスに遺伝子をトランスファーするためのベクターとは基本的に異なるためである。
【0008】
具体的には、一般的に無細胞タンパク質合成系で用いられる発現ベクターは、人工的にRNA合成を行うためのプロモーター配列、その下流に翻訳を促進する効果を持つ配列、マルチクローニングサイト、3’非翻訳領域等、DNAより転写されたmRNAがタンパク質合成に必須の機能を持つようにデザインされているに過ぎない。このため、無細胞タンパク質合成系で用いられる発現ベクターそれ自体をバキュロウイルス発現系のトランスファーベクターとしては利用できない。
【0009】
一方、バキュロウイルスのトランスファーベクターには、pTriEx(MERCK)のようにT7プロモーター配列を有したものも存在するが、無細胞タンパク質発現用ベクターとしての使用は想定されておらず、また、一般的に使用されているトランスファーベクターには無細胞タンパク質合成系に必要となるファージ由来のRNAポリメラーゼのプロモーターは配列を含んでいない。このため、バキュロウイルスのトランスファーベクターそれ自体を無細胞タンパク質合成系の発現ベクターとしては利用できない。
【0010】
このため、無細胞系での発現ベクターを作成しても、改めてトランスファーベクターに目的タンパク質をコードする配列を挿入し直さなければならない。このように、両系で最適な合成を行うためには、手間隙がかかる不利益な作業を行わなければならない。
【0011】
そこで本発明は、無細胞タンパク質合成系とバキュロウイルス発現系とにおいて共用することができるベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、無細胞タンパク質合成系での発現ベクターとバキュロウイルス発現系のトランスファーベクターとを機能させる上で必須の配列の融合を試みた。鋭意検討の結果、バキュロウイルスベクターの、後期遺伝子プロモーター配列の上流側又は下流側に、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列を導入することによって、上記本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下の発明を含む。
下記(1)〜(3)は、所望の構造遺伝子を挿入するための配列を含むバキュロウイルストランスファーベクターに関する。
【0014】
(1)
上流側から下流側へ、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、及び所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)を含むバキュロウイルストランスファーベクターであって、
前記バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の上流側、又は、前記バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の下流側且つ前記バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)の上流側に、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)を含む、バキュロウイルストランスファーベクター。
【0015】
本明細書においては、上流側とはDNAの5’側をいい、下流側とは、DNAの3’側をいう。
【0016】
(2)
前記バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)が、ポリヘドリン遺伝子5’非翻訳領域配列及びP10遺伝子5’非翻訳領域配列からなる群から選ばれる、(1)に記載のバキュロウイルストランスファーベクター。
【0017】
(3)
前記ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)が、T7プロモーター配列、T3プロモーター配列、及びSP6プロモーター配列からなる群から選ばれる、(1)又は(2)に記載のバキュロウイルストランスファーベクター。
【0018】
下記(4)〜(7)は、上記バキュロウイルストランスファーベクターに所望の構造遺伝子を挿入した組み換えバキュロウイルストランスファーベクターからタンパク質を調製する方法に関する。
【0019】
(4)
所望の構造遺伝子の配列(x)を含むDNA断片を(1)〜(3)のいずれかに記載のバキュロウイルストランスファーベクターに組み込んだ組み換えバキュロウイルストランスファーベクターを、タンパク質産生工程に供することによって、前記組み換えバキュロウイルストランスファーベクターにおける前記所望の構造遺伝子がコードするタンパク質を得る、タンパク質調製法。
【0020】
上記(4)におけるタンパク質産生工程には、バキュロウイルス発現系及び/又は無細胞タンパク質合成系が含まれる。
【0021】
下記(5)は、組み換えバキュロウイルストランスファーベクターからバキュロウイルス発現系によりタンパク質を調製する方法に関する。
【0022】
(5)
前記タンパク質産生工程が、
前記組み換えバキュロウイルストランスファーベクターとバキュロウイルスDNAをコトランスフェクションした昆虫培養細胞において相同組み換えを起こすことにより組み換えバキュロウイルスを調製し、
前記組み換えバキュロウイルスを宿主としての昆虫又は昆虫培養細胞に感染させることによって行われる、(4)に記載のタンパク質調製法。
【0023】
下記(6)及び(7)は、組み換えバキュロウイルストランスファーベクターから無細胞タンパク質合成系によりタンパク質を調製する方法に関する。
【0024】
(6)
前記タンパク質産生工程が、
前記組み換えバキュロウイルストランスファーベクターにおける、前記バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)と、前記バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)と、前記ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)と、前記所望の構造遺伝子の配列(x)とを含む領域の増幅産物又はその転写物を調製し、
前記増幅産物又はその転写物を鋳型とし、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を用いて前記鋳型から前記所望の構造遺伝子がコードするタンパク質を合成することによって行われる、(4)又は(5)に記載のタンパク質調製法。
【0025】
(7)
前記無細胞タンパク質合成用細胞抽出液が、昆虫細胞由来抽出液である、(6)に記載のタンパク質調製方法。
【0026】
下記(8)〜(10)は、無細胞タンパク質合成系と生細胞発現系との両方の系において、共通のベクターを用いてタンパク質産生を可能にするタンパク質調製キットに関する。
【0027】
(8)
(1)〜(3)のいずれかに記載のバキュロウイルストランスファーベクターを含むタンパク質調製キット。
(9)
無細胞タンパク質合成用抽出液をさらに含む、(8)に記載のタンパク質調製キット。
(10)
バキュロウイルスDNA及び/又はバキュロウイルス発現系に用いられる宿主細胞をさらに含む、(8)又は(9)に記載のタンパク質調製キット。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、無細胞タンパク質合成系での発現ベクターとバキュロウイルス発現系の両方で共用することができるベクターを提供することができる。本発明のベクターは、バキュロウイルス発現系及び無細胞タンパク質合成系のそれぞれにおいて従来用いられていたベクターによる合成量を大きく逸脱することなく使用することができる。このため、本発明によると、単に遺伝子の移し変えという不利益な作業から開放されるだけでなく、同時に多種類のタンパク質を扱えるようになる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[1.バキュロウイルストランスファーベクター]
本発明のバキュロウイルストランスファーベクターは、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、及び所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)と、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)とを含む。
【0030】
バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、及び所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)は、上流側からこの順で含まれ、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)は、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の上流側、又は、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の下流側且つバキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)の上流側に含まれる。
【0031】
バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)と、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)との間の塩基配列は、5塩基以下、好ましくは0塩基とすることができる。
また、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)又はファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)と、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)との間は、5塩基以下、好ましくは0塩基とすることができる。
【0032】
本発明においては、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)が、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーターの上流側に置かれることが好ましく、直上流に置かれることがより好ましい。
【0033】
バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)としては、ポリヘドリンプロモーター配列、P10プロモーター配列などが挙げられる。
【0034】
バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)としては、ポリヘドリン遺伝子5’非翻訳領域配列、P10遺伝子5’非翻訳領域配列などが挙げられる。
【0035】
ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)としては、例えば、T7プロモーター配列、T3プロモーター配列、及びSP6プロモーター配列などが挙げられる。
【0036】
後期遺伝子5’非翻訳領域(5'UTR)配列としては、バキュロウイルスポリヘドリン遺伝子、或はP10遺伝子の5'UTRに由来するものであればどのようなものでも良い。例えば、AcNPV(Autographa californica nucleopolyhedrovirus)、、BmNPV(Bombyx mori nucleopolyhedrovirus)、HcNPV(Hyphantria cunea nucleopolyhedrovirus)、CrNPV(Choristoneura rosaceana nucleopolyhedrovirus)、EoNPV(Ecotropis oblique nucleopolyhedrovirus)、MnNPV(Malacosma neustria nucleopolyhedrovirus)、SfNPV(Spodoptera frugiperda nucleopolyhedrovirus)、WsNPV(Wiseana signata nucleopolyhedrovirus)などのポリヘドリン遺伝子5'UTR、及び機能を損なわない範囲でこれらと均等な配列が挙げられる。
【0037】
所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)としては、従来公知のマルチクローニングサイトや、所望の構造遺伝子を有するDNAと相同組み換え可能な配列などが挙げられる。所望の構造遺伝子を挿入させるための配列は、ポリヘドリン遺伝子5’非翻訳領域下流側に組み込まれる。発現させたタンパク質の精製を容易にするという観点から、当該所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)に、従来公知のヒスチジンタグや、GSTタグをコードする塩基配列などを付加させてもよい。
【0038】
さらに、本発明のバキュロウイルストランスファーベクターは、上記一連の配列(a)〜(d)をはさむように、当該一連の配列の両側に、後述のバキュロウイルスDNAと相同組み換え可能な配列を含む。
【0039】
バキュロウイルスDNAと相同組み換え可能な配列としては、バキュロウイルスDNA上の任意の一部分の塩基配列と同一のものが好ましく、また、当該塩基配列と相同性が高い塩基配列であっても良い。相同性の高さは、相同組み換えの頻度を著しく減少させない限り、特に制限されるものではないが、例えば、90%以上とすることが好ましい。
【0040】
バキュロウイルスDNAと相同組み換え可能な配列の長さも、相同組み換えの頻度を著しく減少させない限り、特に制限されるものではないが、例えば、2〜5kbとすることができる。
【0041】
バキュロウイルストランスファーベクターは、当業者によって容易に調製されるものである。たとえば、従来公知の遺伝子組み換え技術を用いて、以下のように調製される。すなわち、上流から、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、及び所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)を有するバキュロウイルスベクターにおいて、当該バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の上流側、又は、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の下流側且つバキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)の上流側に、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)を有するDNAを導入することによって調製することができる。
【0042】
バキュロウイルスベクターのタイプとしては、例えば、プラスミド、ファージ、ウイルス等が挙げられる。具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pBacPAK8、pBacPAK9(いずれもクローンテック社から入手可能)pEVmXIV2、pAcSG1、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcJP1、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBacIII、pAcUW51、pAcAB3、pAc360、pBlueBacHis、pVT−Bac33、pAcUW1、pAcUW42/43、pAcC4などが挙げられる。BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBK5、pBB30、pBE1、pBE2、pBK3、pBK52、pBKblue、pBKblue2、pBFシリーズ(以上、フナコシ株式会社、藤沢薬品工業株式会社等から入手可能)などが挙げられる。その他のタイプのトランスファーベクターも、当業者が適宜入手し得るものである。
【0043】
図1に、本発明のバキュロウイルストランスファーベクターの例を二例、模式的に示す。図1のバキュロウイルストランスファーベクターにおいては、所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)としてマルチクローニングサイト、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)としてT7プロモーター配列を挙げて示す。
【0044】
[2.組み換えバキュロウイルストランスファーベクター]
組み換えバキュロウイルストランスファーベクターは、上記のバキュロウイルストランスファーベクターに、発現させたい所望の構造遺伝子の配列(x)を挿入したものである。
挿入される所望の構造遺伝子がコードするタンパク質(ペプチドを含む)に特に制限はなく、生細胞で細胞毒となるタンパク質をコードする塩基配列を有するものであってもよいし、糖タンパク質をコードする塩基配列を有するものであってもよいし、融合タンパク質をコードする塩基配列であってもよい。所望の構造遺伝子の配列(x)は、その塩基数に特に制限はない。
【0045】
また発現させたタンパク質の精製を容易にするという観点から、従来公知のヒスチジンタグや、GSTタグをコードする塩基配列などを付加させてもよい。これらのタグ配列は通常目的タンパク質のN末端またはC末端に付加される。
【0046】
組み換えバキュロウイルストランスファーベクターは、当業者によって容易に調製されるものである。たとえば、従来公知の遺伝子組み換え技術を用いて、以下のように調製される。すなわち、所望の構造遺伝子の配列(x)を有するDNAであって、上記のバキュロウイルストランスファーベクターにおける所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)に対応する制限部位を有するDNAを常法に従って調製し、これを上記のバキュロウイルストランスファーベクターの構造遺伝子を挿入するための配列(c)に挿入することにより調製することができる。
【0047】
[3.バキュロウイルス細胞系によるタンパク質産生]
[3−1.組み換えバキュロウイルス発現ベクター]
組み換えバキュロウイルス発現ベクターは、生体細胞中で、前記の組み換えバキュロウイルストランスファーベクターのバキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、所望の構造遺伝子の配列(x)、及びファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)を含む一連の配列がバキュロウイルスDNAに組み込まれたものである。
【0048】
バキュロウイルスDNAとしては、バキュロウイルスのゲノムDNA、当該ゲノムからの塩基配列欠失、当該ゲノムへの他の塩基配列挿入、当該ゲノムDNA中の塩基配列置換などによるDNAが挙げられる。当該ゲノムDNAゲノムからの塩基配列欠失によるDNAにおいて、欠失してよい塩基配列としては、バキュロウイルスの生育に必ずしも必要ではない領域であっても良い。
【0049】
バキュロウイルスDNAの形状としては、環状でも直鎖状でも良い。これらのバキュロウイルスDNAは、バキュロウイルスから直接得られたDNAやそのDNA自体を加工したものであってもよいし、バキュロウイルスからクローニングされ、PCR法等で増幅されたDNAであってもよいし、また、化学合成法で合成されたものであってもよい。
【0050】
組み換えバキュロウイルス発現ベクターは、当業者によって容易に調製されるものである。たとえば、下記のように組み換えバキュロウイルスを構築することによって調製することができる。これらの方法を行う手段としては、市販のキットを用い、添付のプロトコルにしたがって行えばよい。
【0051】
例えば、上記の組み換えバキュロウイルストランスファーベクターをバキュロウイルスDNAと混合した後、生体細胞に移入し、組み換えバキュロウイルストランスファーベクターとバキュロウイルスDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えバキュロウイルスを構築することができる。
あるいは、予めバキュロウイルスで感染させた生体細胞に上記の組み換えバキュロウイルストランスファーベクターを移入し、組み換えバキュロウイルストランスファーベクターとバキュロウイルスDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えバキュロウイルスを構築することができる。
【0052】
相同組換えを行わせる生体細胞としては、組み換えバキュロウイルストランスファーベクターが安定して複製され、欠落が起こらないものであればよい。例えば、バキュロウイルスの宿主となる昆虫又は昆虫培養細胞が好ましい。一方、酵母細胞や大腸菌細胞を用いることもできるが、この場合は、相同組み換えによって得られる組み換えバキュロウイルス発現ベクターを、昆虫培養細胞に移入しなければならない。
【0053】
[3−2.タンパク質産生]
上記のようにして得られた当該所望の構造遺伝子の配列(x)を有する組み換えバキュロウイルスを、宿主としての昆虫又は昆虫培養細胞に感染させることによって、所望のタンパク質を産生することができる。
【0054】
宿主の具体例としては、Spodoptera frugiperda由来株化細胞であるSf9細胞、Sf21細胞や、Trichoplusia niの卵由来細胞であるHigh FiveTM細胞、Lymantria disper由来細胞、Orgyvia pseudotsugata由来細胞などが挙げられる。Sf9細胞やSf21細胞は静置培養と浮遊培養ができる点で好ましい。これらの細胞は、ウイルスが例えばAcNPVの場合に好ましく用いることができる。
また、宿主の他の具体例としては、Bombyx mori N由来の株化細胞であるBmN細胞、カイコ幼虫個体などが挙げられる。これらの細胞は、ウイルスが例えばBmNPVの場合に好ましく用いることができる。
【0055】
感染方法は、当業者によって容易に選択されうる。例えば、m.o.i.(multiplicity of infection)が所望の値になるように組み換えバキュロウイルスを昆虫細胞の培養液に添加する方法や個体に経皮接種する方法が用いられる。
【0056】
昆虫細胞を培養するための培地は、当業者が用意に決定することができる。Grace培地、IPL-41 培地、Sf900II、TC-100培地、Sf-9細胞用培地、Sf-21 細胞用培地、Express Five培地、EX-400系培地等などが挙げられる。また、培地の添加物としての界面活性剤や抗生物質などをさらに添加してもよい。
培養条件としても、当該所望のタンパク質をコードするDNAの発現が可能な条件を、当業者が容易に決定することができる。
【0057】
上記のようにしてタンパク質を発現させ、目的タンパク質を入手することができる。発現したタンパク質の回収及び精製の方法は、公知の分離・精製法を適宜組み合わせて当業者が容易に決定することができる。
【0058】
[4.無細胞タンパク質合成系によるタンパク質産生]
無細胞系タンパク質合成は、一般に、mRNAの情報を読み取ってタンパク質を合成する無細胞翻訳系のみによるタンパク質合成(翻訳系)、ならびにDNAよりmRNAを転写する転写工程と、該転写工程で得られたmRNAの情報を読み取ってタンパク質を合成する翻訳工程とを含むタンパク質合成(転写/翻訳系)とに大きく分けられるが、本発明は、いずれの系においても使用することができる。
【0059】
転写/翻訳系においては、鋳型核酸として、前記の組み換えバキュロウイルストランスファーベクターにおける、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)と、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)と、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)と、所望の構造遺伝子の配列(x)とを含むDNAを用いることができる。このDNAは、前記の組み換えバキュロウイルストランスファーベクターの、配列(a)、(b)、(d)及び(x)を含む領域を例えばPCRなどの核酸増幅法によって調製するか、トランスファーベクターそのものを大腸菌で増幅して使用することができる。
【0060】
翻訳系においては、鋳型核酸として、上記のDNAの転写物であるmRNAを用いることができる。転写は、インビトロ転写などによって行うことができる。例えば、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)がT7プロモーターである場合、T7 RNAポリメラーゼを用いて転写を行えばよい。
【0061】
無細胞系タンパク質合成用反応液には、翻訳装置としてのリボソームなどを含有する生体由来抽出物が含まれる。生体由来抽出物としては、鋳型DNAにコードされるタンパク質を生成させ得るものであれば如何なるものであってもよく、当業者が適宜選択することができる。例えば、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科植物やホウレンソウなどの植物の種子の胚芽;ウサギ、ヒト、ラット、マウス、サル等の哺乳動物の、血球細胞、生殖巣由来細胞、リンパ腫(リンホーマ)由来細胞、その他の腫瘍細胞、幹細胞等の培養細胞; Trichoplusia niの卵細胞由来の細胞High Five(インヴィトロジェン社製)及びSpodoptera frugiperda卵巣細胞由来の細胞Sf21(インヴィトロジェン社製)等の昆虫培養細胞やカイコ組織などが挙げられる。
【0062】
市販のタンパク質合成用細胞抽出液としては、ウサギ網状赤血球由来ではrabbit reticulocyte lysate systems(プロメガ社製)など、コムギ胚芽由来ではwheat germ extract(プロメガ社製)、PROTEIOS(セルフリーサイエンス社製)など、昆虫細胞由来ではTransdirect insect cell(島津製作所製)などが挙げられる。
【0063】
無細胞系タンパク質合成反応液においては、上記抽出物が、タンパク質濃度で0.1mg/mL〜160mg/mL、好ましくは3mg/mL〜60mg/mLの濃度で含まれてよい。
上記抽出物を含有する抽出液を用いた無細胞系タンパク質合成反応液は、上記抽出液を除く成分として、上記の鋳型核酸、カリウム塩、マグネシウム塩、DTT、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、アミノ酸成分、緩衝剤(、及び鋳型核酸がDNAの場合はRNAポリメラーゼ)を少なくとも含有することができる。好ましくは、無細胞系タンパク質合成反応液は、RNaseインヒビター、tRNA、カルシウム塩をさらに含有することができる。
【0064】
具体例として、無細胞系タンパク質合成反応液は、上記抽出液を30(v/v)%〜60(v/v)%含有するとともに、20mM〜300mMの酢酸カリウム、0.5mM〜5mMの酢酸マグネシウム、0.5mM〜5mMのDTT、0.1mM〜5mMのATP、0.05mM〜5mMのGTP、10mM〜100mMのクレアチンリン酸、10μg/mL〜500μg/mLのクレアチンキナーゼ、10μM〜200μMのアミノ酸成分、10μg/mL〜500μg/mLの外来mRNA、10mM〜100mMのHEPES−KOH(pH6〜8.5)を含有するように実現されることが好ましい。また、上記に加えてさらに0.5U/μL〜10U/μLのRNaseインヒビター、10μg/mL〜500μg/mLのtRNA、0.1mM〜5mMの塩化カルシウムを含有するように実現されることがより好ましい。
【0065】
上記反応液を用いた無細胞系タンパク質合成反応の条件としては特に限定されず、当業者が容易に決定することができる。例えば低温恒温槽を用いて反応を行うことができる。
mRNAを鋳型とする翻訳系合成反応では、反応温度は、通常、10℃〜40℃、好ましくは20℃〜30℃の範囲内とし、反応時間は、通常、1時間〜72時間、好ましくは3時間〜24時間とすることができる。
DNAを鋳型とする転写/翻訳系合成反応では、転写工程の反応温度を、通常、10℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃の範囲内とし、翻訳工程の温度を、通常、10℃〜40℃、好ましくは20℃〜30℃の範囲内とすることができる。転写及び翻訳工程を連続して実施し得るという観点から、反応温度は両工程に好適な20℃〜30℃の範囲とし、反応時間は、全工程あわせて、通常、1時間〜72時間、好ましくは3時間〜24時間とすることができる。
【0066】
上記翻訳系用反応液、転写/翻訳系用反応液を使用して合成できるタンパク質に特に制限はない。合成されたタンパク質の量は、酵素の活性の測定、SDS−PAGE、免疫検定法などによって測定できる。
【0067】
[5.タンパク質調製キット]
本発明のタンパク質調製キットは、上記のバキュロウイルストランスファーベクターを必須アイテムとして含む。適宜、無細胞タンパク質合成用抽出液や、バキュロウイルス細胞系に用いられるバキュロウイルスDNAや宿主細胞などのアイテムをさらに含ませることができる。それぞれのアイテムについては上述したとおりである。それぞれのアイテムは、適宜容器に収容されて提供されうる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。以下において、%で表される量は、体積を基準として示す。
【0069】
[実験例1:組み換えバキュロウイルストランスファーベクターの構築]
大腸菌β-ガラクトシダーゼが組み込まれたバキュロウイルス、BacPAK6(Clontech、BacPAKTMBaculovirus Expression System)の精製ゲノムDNAを鋳型にし、配列番号1又は2に示すプライマー(LP-T7-5UTR又はT7-LP-5UTR)と配列番号3に示すプライマー(pBP8-gal-rv)とを用いてPCRを行った。これらプライマーにより、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター(ATAAG)の直前、或いは直後にT7プロモーター配列(TAATACGACTCACTATAGG:配列番号9)を挿入させてβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含む領域を増幅した。
具体的には、PCRは、5ngの上記精製ゲノムDNAと各15pmolの上記プライマーのセットとを用いて、KOD -Plus- Ver.2(東洋紡)の取扱説明書に従って行った。
【0070】
LP-T7-5UTR:
ATAAGTAATACGACTCACTATAGGTATTTTACTGTTTTCGTAACAGTTTTGTAATAAAAAAACCTATAAAT(配列番号1)
T7-LP-5UTR:
TAATACGACTCACTATAGGATAAGTATTTTACTGTTTTCGTAACAGTTTTGTAATAAAAAAACCTATAAAT(配列番号2)
pBP8-gal-rv:
CAATTGTACACTAACGAC(配列番号3)
【0071】
一方、pBacPAK8(Clontech、BacPAKTMBaculovirus Expression System)を鋳型にし、配列番号4に示すプライマー(BP8rv)と配列番号5に示すプライマー(BP8fw)とを用い、ベクター部分の増幅を行った。
具体的には、PCRは、5ngの上記DNAと各15pmolの上記プライマーのセットを用いて、KOD -Plus- Ver.2(東洋紡)の取扱説明書に従って行った。
【0072】
BP8rv:
TTATTTGCGAGATGGTTATCATTTTAATTATCTCC(配列番号4)
BP8fw:
GCGGCCGCTTAATTAATGGATCCGGGTTATTAGTACATTTATTAA(配列番号5)
【0073】
上記PCRにより得られたそれぞれの増幅断片は、MagExtractorTM -PCR & Gel Clean up-(東洋紡)を用いて精製後、制限酵素BamHI(東洋紡)で消化した。消化断片はPhenol/Chloroform/Isoamyl alcohol (25 : 24 : 1)(ニッポンジーン)による処理、及びエタノール沈殿法を行うことにより精製し、さらにリン酸化反応(T4 Polynucleotide Kinase、東洋紡)に供した。
その後、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を含む断片とpBacPAK8由来の断片とを組合せて、T4 DNAポリメラーゼ(Quick Ligation Kit、NEB)を用いて連結した。
【0074】
大腸菌JM109(東洋紡)に形質転換し、それぞれ5個のコロニーをランダムに選択して増殖させ、アルカリSDS法(Gene Elute、SIGMA)によりプラスミドを抽出した。このプラスミドを、配列番号3に示すプライマー(pBP8-gal-rv)及び配列番号6に示すプライマー(BP8_seq)のセット、及びKOD -Plus- Ver.2(東洋紡)を用いて、PCRにより増幅させた。増幅断片は、配列番号3或いは配列番号6のプライマーを用い、Big Dye Terminator Cycle Sequencing FS(Applied Biosystems)によってサンガー反応(96℃10秒、50℃5秒、60℃4分、25サイクル)を行った。この反応液をABI 3730(Applied Biosystems)に供し、クローニングした断片の塩基配列を決定し、目的とするプラスミドであることを確認した。
【0075】
pBP8-gal-rv:
CAATTGTACACTAACGAC(配列番号3)
BP8_seq:
GTCTGCGAGCAGTTGTTTG(配列番号6)
【0076】
上記のようにして得られた組み換えバキュロウイルストランスファーベクターのうち、T7プロモーター配列をバキュロウイルス後期遺伝子プロモーターの直上流に持つベクターをpT7LP-gal、直下流に持つベクターをpLPT7-galと命名した。
【0077】
[実験例2:組換えウイルスの作成]
BacPAKTM Baculovirus Expression System(タカラバイオ)付属のBacPAK6 Viral DNA(Bsu36 I digest)と、pT7LP-gal或いはpLPT7-galとを、キット付属の取扱説明書に従いSf21細胞にコトランスフェクションすることで組換えウイルスを作成した。
【0078】
プラーク形成法により、X-Galを含む培地中で発現したβ-ガラクトシダーゼによって青色となるプラークを回収することで組換えウイルスを純化した。このようにして得られたウイルスを、それぞれvT7LP-gal、及びvLPT7-galと命名した。また、これらのウイルスを力価が約108PFU/mLになるまで増殖させ、以後の実験に供した。
【0079】
[実験例3:バキュロウイルス発現系によるタンパク質調製]
上記のようにして得られた組換えウイルスを用い、バキュロウイルス発現系においてβ-ガラクトシダーゼを発現した。
【0080】
vT7LP-gal、vLPT7-gal、及び陽性対照としてのBacPAK6のそれぞれを、2.0×106個のSf21細胞にmoi 1で感染させ、27℃、96時間培養後に細胞を回収した。回収した細胞は、200μLの1×PBSで2回洗浄した。
1μLの細胞液に、4μLのmilliQ水と、2×SDS Sample Buffer(100mM Tris-HCl(pH6.8)、4% SDS、16% グリセロール、0.1% Bromophenol blue、 4% 2-メルカプトエタノール)とを添加し、98℃、5分間の熱処理を行った。その後、SDS-PAGE(12.5% e・PAGEL、アトー)を行い、CBB染色(Quick-CBB PLUS、和光純薬工業)により分離タンパク質を検出した(図2)。
【0081】
[実験例4:無細胞タンパク質合成系によるタンパク質調製]
上記のようにして得られた組み換えバキュロウイルストランスファーベクターを用い、無細胞タンパク質合成系においてβ-ガラクトシダーゼを発現した。
【0082】
pT7LP-gal、pLPT7-gal、及び陽性対照としてのpTD1-gal(Transdirect insect cell、島津製作所)のそれぞれから、mRNA合成用の鋳型をPCRにより調製した。その際、pT7LP-galとpLPT7-galには配列番号3と配列番号6のプライマーセットを用い、pTD1-galには、配列番号7と配列番号8のプライマーセットを用いた。具体的には、PCRは、10ngのプラスミドDNAと各15pmolのプライマーセットを用いて、KOD -Plus- Ver.2(東洋紡)の取り扱い説明書に従ってそれぞれ行った。
【0083】
GCAGATTGTACTGAGAGTG(配列番号7)
GGAAACAGCTATGACCATG(配列番号8)
【0084】
消化断片はPhenol/Chloroform/Isoamyl alcohol (25 : 24 : 1)(ニッポンジーン)による処理、及びエタノール沈殿法を行うことにより精製し、分光光度計にて濃度を測定した。
【0085】
次に、調製した鋳型DNAを用いてmRNAを合成した。具体的には、mRNAの合成にはT7 RiboMAXTMExpress Large Scale RNA Production System(プロメガ)を用い、取扱説明書に従って、2.5μgの鋳型より50μLのスケールにて合成を行った。反応終了後、ゲルろ過カラムとエタノール沈殿法とによって精製し、分光光度計にて濃度を測定した。
【0086】
次に、調製したmRNAを鋳型として昆虫由来の無細胞タンパク質合成試薬キットTransdirect insect cell (島津製作所)を用い、取扱説明書に従いタンパク質合成を行った。その際、FluoroTect TM GreenLys in vitro Translation Labeling System(プロメガ)を反応液50μLに対して1μL添加し、合成タンパク質の蛍光ラベルを行った。反応終了後、反応液6μLに対して2×SDS Sample Buffer6μLを添加し、98℃、5分間の熱処理を行った後、SDS-PAGE(12.5% e・PAGEL、アトー)に供した。分離後、蛍光イメージアナライザーにて合成タンパク質を検出した(図3)。
【0087】
図2及び図3が示すように、本発明のベクターは、バキュロウイルス発現系及び無細胞タンパク質合成系のそれぞれにおいて従来用いられていたベクターによる合成量を大きく逸脱することなく、両方の系で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明のバキュロウイルストランスファーベクターの例を模式的に示したものである。
【図2】本発明における組み換えバキュロウイルストランスファーベクターから調製した組み換えバキュロウイルスvT7LP-gal、vLPT7-galを用いてバキュロウイルス発現系によりβ−ガラクトシダーゼを合成した結果を、陽性対照BacPAK6(市販のバキュロウイルス発現系用ベクター)の結果とともに示したものである。
【図3】本発明における組み換えバキュロウイルストランスファーベクターpT7LP-gal、pLPT7-galから調製した鋳型mRNAを用いて無細胞タンパク質合成系によりβ−ガラクトシダーゼを合成した結果を、陽性対照pTD1-gal(市販の無細胞タンパク質合成系用ベクター)の結果とともに示したものである。
【配列表フリーテキスト】
【0089】
配列番号1〜8は、PCR用プライマーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側へ、バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)、バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)、及び所望の構造遺伝子を挿入するための配列(c)を含むバキュロウイルストランスファーベクターであって、
前記バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の上流側、又は、前記バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)の下流側且つ前記バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)の上流側に、ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)を含む、バキュロウイルストランスファーベクター。
【請求項2】
前記バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)が、ポリヘドリン5’非翻訳領域遺伝子配列及びP10遺伝子5’非翻訳領域配列からなる群から選ばれる、請求項1に記載のバキュロウイルストランスファーベクター。
【請求項3】
前記ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)が、T7プロモーター配列、T3プロモーター配列、及びSP6プロモーター配列からなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載のバキュロウイルストランスファーベクター。
【請求項4】
所望の構造遺伝子の配列(x)を含むDNA断片を請求項1〜3のいずれか1項に記載のバキュロウイルストランスファーベクターに組み込んだ組み換えバキュロウイルストランスファーベクターを、タンパク質産生工程に供することによって、前記組み換えバキュロウイルストランスファーベクターにおける前記所望の構造遺伝子がコードするタンパク質を得る、タンパク質調製法。
【請求項5】
前記タンパク質産生工程が、
前記組み換えバキュロウイルストランスファーベクターとバキュロウイルスDNAとをコトランスフェクションした昆虫培養細胞において相同組み換えを起こすことにより組み換えバキュロウイルスを調製し、
前記組み換えバキュロウイルスを宿主としての昆虫又は昆虫培養細胞に感染させることによって行われる、請求項4に記載のタンパク質調製法。
【請求項6】
前記タンパク質産生工程が、
前記組み換えバキュロウイルストランスファーベクターにおける、前記バキュロウイルス後期遺伝子プロモーター配列(a)と、前記バキュロウイルス後期遺伝子5’非翻訳領域配列(b)と、前記ファージ由来RNAポリメラーゼ認識配列(d)と、前記所望の構造遺伝子の配列(x)とを含む領域の増幅産物又はその転写物を調製し、
前記増幅産物又はその転写物を鋳型とし、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を用いて前記鋳型から前記所望の構造遺伝子がコードするタンパク質を合成することによって行われる、請求項4又は5に記載のタンパク質調製法。
【請求項7】
前記無細胞タンパク質合成用細胞抽出液が、昆虫細胞由来抽出液である、請求項6に記載のタンパク質調製法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のバキュロウイルストランスファーベクターを含むタンパク質調製キット。
【請求項9】
無細胞タンパク質合成用抽出液をさらに含む、請求項8に記載のタンパク質調製キット。
【請求項10】
バキュロウイルスDNA及び/又はバキュロウイルス発現系に用いられる宿主細胞をさらに含む、請求項8又は9に記載のタンパク質調製キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−63386(P2010−63386A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231368(P2008−231368)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】